STAMP OUTアンソロジー2に寄稿した話です。
久川側から見たデレデレな赤江を書くのが、非常に楽しかった覚えがある。
初出:2006年8月11日(夏コミ発行)
文字数:5151文字
「よう、勲ちゃん。久しぶりだな。この前、頼んでいたものは来てるか?」
「おー、いいタイミングで来たな、武。ほらよ。気をつけて持っていけ」
「おう。サンキュ」
ごとり、と鈍い音と共にカウンターの上に差し出された包み。 中身は調達して貰っていた銃に間違いないだろう。
こいつの仕事は信用しているし、中身を確認するのは家に帰ってからでも十分だ。 慌てて確認しなければならないものでもないし、ここでそのまま出すと誰に見られるかわかったものじゃない。 リスクは極力減らすべきだ。
俺はそれを受け取って懐に仕舞い込んだ。 他についでにいるものはあったっけかと、横にあった棚を眺めていると、そこに置いてあった品のうち、一際目立つものを見つけて目を留めた。
『新商品! マンネリ化した夜のお供に! 今までにない刺激をお二人に!』
「今までにない刺激、ねぇ……」
独り言のつもりだったが、しっかり片山には聞こえていたらしい。
「ん? それが気になんのか? 何だよ、そろそろマー坊とのアレがマンネリ化してきたか?」
にやりと口元を歪めて、下品な手つきをしてきた片山に、お生憎さまとばかりにこっちも口元に笑みを浮かべてやる。
「ばーか。昌行と俺はまだまだラブラブのラブだ。あいつは未だに俺が抱くとこう頬を染めて、恥らってだな。一緒に暮らし始めてから数ヶ月経ってるってのに、いつまで経っても反応が初々しいあたりが、こう可愛くてたまんねーっつーか、さすがは俺のかみさんで……」
「あーはいはい。聞いた俺が馬鹿だった。上手くいってて何よりだよ。お熱いこって。ごちそーさん」
「んだよ、もう少し真面目に聞いてくれてもいいじゃねえかよ」
「独り者に喧嘩売ってんのか。ちょっと聞いてやっただけでも有り難く思え」
「ちっ。ま、いいけどな。で、この新商品ってローションか?」
「ああ」
「……特に何か変わったもんでもなさそうだがな」
棚に置いてあったそれを一瓶手にし、眺めてみたが、普通のローションと何が違うかわかりゃしない。
今までにない刺激、と言うほどのものなのかどうかさっぱりわからん。
「見た目はな。そりゃ媚薬入りだ」
「媚薬入り? いかがわしいなぁ、おい」
「悪いが、ここはいかがわしいものを扱ってる店なんでな、色々と。そうかそうか、試供品が一本残ってるからやろうかと思ったが、やっぱりやめ……」
「いやぁ、お前良いヤツだな、勲ちゃん! 今後も頼むぜ!」
「……調子のいい……」
片山は苦笑いしながらも、試供品分らしい瓶を俺に渡してくれる。 さて、こういうのは出来るだけ早く試すに限るっと。
***
「嫌です」
が、家に帰ってローションの瓶を見せて、説明したときの昌行の第一声がそれだった。
「別に俺、武郎にその……不満とかないから、今のままで構わないし。わざわざそんなのを使わなくたっていいじゃないか……」
「別に不満がどうってわけじゃないんだがなー」
昌行と一緒に暮らし始めてわかったことだが、昌行は結構羞恥心が強い。 とっくに見慣れてるだろうに、家の中で素っ裸でいると顔を赤らめるし、昼間に行為を持ちかけると、いたたまれない表情になる。 きっとローションについても、道具をわざわざ使うなんて、とかそんな意識なんだろう。多分。
まぁ、そんなところも昌行の可愛い部分だが、せっかくだからもうちょっと大胆になってくれると俺としても嬉しいわけで。
「昌行。一度だけ試してみないか? それで本当にお前が嫌だったら二度と使わねぇから」
実際、こいつが本気で嫌がることはするつもりはない。 予想通り、昌行はちょっと困った顔をしていたが、次の瞬間には頷いた。
「武郎が……そう、言うなら。一度だけ」
「お前ならそう言ってくれると思っていたぜ。じゃ、早速……」
「えっ。ちょ……待ってよ、武郎! まだ、明るいのに……わぁっ」
「ばーか、こういうことはすぐ試すものだって相場が決まってるんだよ」
「んっ……」
昌行をソファの上に倒して、その上に圧し掛かり、キスをする。 この不意打ちでやったときの一瞬の身体の硬直から、身を委ねるように弛緩していく状態が伝わるのが結構好きだ。 可愛くて仕方ねぇ。 いつまで経っても何処かでぎこちなさが残っている。
「武……ろ……。せめて……ベッドにいこ……?」
その癖、瞬く間に目の奥には情熱の炎を映して、声は甘く蕩けるように俺を誘う。
何処の誰だったか知らねぇが、昼は貞淑で、夜は淫らってのが理想の妻だとか、何とか言ってたな。 そういう意味でも昌行は最高だ。
「いいぜ。よ……っと」
「う……わ……っん……」
一声かけて、昌行の身体を担ぎ上げる。 自分の肩に乗せた瞬間に少し触れた昌行の腰。 伝わった硬い感触の正体がわかって、つい嬉しくなる。
「何だ、もう勃ってんじゃねぇか。早いなー」
「……っ……。誰がそんな風になるようにしたんですか」
「おう、俺だな」
そう。全然経験のなかった昌行に色々教え込んだのは俺。最初の頃は担ぐたびにぼやいてた。
「一人で歩けますから」
「……男なのに、あっさり担がれるなんて」
そんな風に。だが、今は家の中ではすっかり諦めて、担ぎ上げた時には大人しくしてる。
少し開いていた寝室のドアを足で蹴って、人が入れるところまで開け、ベッドの上にどさりと昌行の身体をおろして、もう一度唇を重ねた。さっきは触れ合わせただけだったそれを割って、舌を入れて。肌が紅潮してきているのを確認しながら、服を脱がせる。
色の白い肌が、俺のすることでほんのりと赤く染まって行く様は、何度見ても綺麗で飽きやしねぇ。
昌行の服を全部脱がせて、自分の服も脱ぐ。
「ん……」
首筋に舌を這わせながら、ローション入りの瓶を手に取り、蓋を取って直接昌行の中心に落とす。 その拍子に昌行の身体がびくんと跳ねた。
「やっ……冷た……っ!」
「すぐ、温かくなるって。ほら」
「ふ…………っ」
手のひらで幹を包んで、軽くそれを擦る。 ローションの助けを借りて、動きはいつもよりも滑らかだ。
俺と昌行の体温で、冷たかったローションは徐々に温くなっていく。それと同時に、昌行の呼吸が動きに合わせて乱れ始める。
「っ……うあ…………」
「随分張り詰めてきてるみてぇだな」
「だ……め」
「何がダメ、なんだ?」
「何か…………おか……し…………っ……あっ……ああっ!」
「おっ?」
俺の手の中で昌行自身が大きく脈打ったかと思うと、あっけなくイッた。
指にローションと昌行の精液の混じったものが絡みつく。
「凄ぇ。まだちょっとしか、触ってねぇぞ?」
「やっ。言わな…………ん……あ」
「まだ物足りなさそうだな」
「っあ!」
どうやら、媚薬の効果ってのは本当らしい。濡れた指で胸を軽く触った後、後ろの蕾に指を忍ばせるとそこはあっさり俺の指を受け入れた。二本分を抵抗もなく。柔らかくこなれた中が熱い。
「っ…………!」
「声もまともに出せない……ってか?」
「そ……んなことな……。あ、や……ああっ!」
昌行の目の焦点があっていない。もう覚えてしまっている昌行の弱い部分を狙ってそこを擦り上げる。指は挿れたままで、再び張り詰めてきた昌行のモノを右手で軽く撫でた。こっちでは細かい動きは出来ないが、ローションのおかげである程度刺激を与えてやれる。いいもんを手に入れたな。もっと早く試してみれば良かった。
「ちょ……武ろ……やめ……っ。両方は……っ…………きつ……っ」
擦れた声が吐息混じりに訴える。潤んだ目からは今にも涙が零れて来そうだ。……やべぇ、見てるのも限界かもな。
足を開いて挿れようかと思った次の瞬間。今なら、普段はやらないような行為をしてくれるんじゃないかということに思い当たった。
中から指を抜いて、昌行に触れていた右手も離し、自分の手のぬるついたものは自分自身に擦りつけ、期待の目で俺を見ている昌行をよそに、ベッドに横になる。
「武郎……?」
多分、いつものようにそのまま俺が挿れると思っていたんだろう。意図を掴めてないらしく、疑問の表情を浮かべて俺を窺う。小首を傾げた仕草の可愛さに理性をすっとばしちまいそうなのを堪えて、昌行に言った。
「自分で挿れてみろよ」
「え?」
「俺の上に乗っかれ。……もう欲しいだろ?」
「う……」
「俺はここで止めても構わないんだぜ」
「え……っ」
勿論、大嘘に決まってる。とっくに中断できる段階じゃないが、昌行の方が限界は近いはずだ。
「…………挿れる間、見ない、で」
案の定、昌行は困ったような顔になったが、身体を起こして俺の上に跨った。昌行の指が俺のモノを掴む。ごくり、となった喉はどっちの方だったか。
「……っ……んんっ」
「お……っ」
昌行が自分で俺を中に導いていく。先端から、包まれていく熱の気持ちよさについ声が出た。ローションのせいでぬるりと俺のモノは違和感もなく収まっていく。
見ないで、と言われてたのはわかっていたが、見ずにはいられねぇ。繋がっていく状態を凝視していたら、根元まで入る直前で堪えきれなくなり、ベッドのスプリングを使って腰を突き上げた。
「ひあっ!」
「っ……気持ちいいか? 昌行」
繋がってる部分は熱いのに、昌行の玉袋が当たっている部分はほんのりと冷たい。手を伸ばしてそれを優しく捏ねると、昌行が歯を食いしばって感覚を堪えているのが伝わってくる。
「武……郎。だめ……動け……なっ」
「大丈夫だ。じゃあ、身体押さえててやっから、小さくでいい。動いてみろ」
「こ……う?」
昌行の玉袋から手を離し、それでそのまま腰を軽く押さえていてやると、少しの間の後、ごく控えめにだが、昌行が腰を上下させる。そのたびに水音が大きく鳴って、背筋をゾクゾクしたもんが走っていく。
「いいぜ……その調子だ」
「っつ…………武ろ……」
目が合った。濡れた黒の瞳が、次の瞬間には羞恥のせいか逸らされる。
「見ろよ、昌行。ちゃんと俺の方を見て動け」
「……う」
その言葉に一層真っ赤になっちまった顔。ある種、犯罪だ。
……やばいよなぁ。どうして、こいつはこんな可愛い顔見せんだろうな。もう、たまんねぇ。
「わりぃ、昌行」
「な……に?」
「も、限界だ。突き上げるぜ……っ」
「え、ちょ、待っ…………ああっ!」
布団でなくて、ベッドにしておいて良かった、と思うのはこういうときだ。スプリングがあるかないかで、やり方が大分違ってくる。遠慮なく腰を使って、昌行の中を突き上げる。柔らかく蠢いて絡みついてくる部分が震えてきていた。
「も、そろそろ……だな。一緒にイけそう、か?」
「ん……出来れば、体勢、変え……て」
「なんだよ、いつものがいいのか?」
「だって……力、抜ける。……崩れそ……だ」
「……ったく。しゃあねぇな」
「ご……め」
「いいってことよ。気にすんな。ほら、肩に掴まれ。変えるぜ」
「ん……」
身体を起こして、昌行が肩に縋りついたのを確認してから、昌行の身体を倒す。それに連動して、繋げてる部分が少し締め付けたのには何とか意識をやり過ごし、昌行の足を抱えて、何も言わずに動き出した。
「……あっ! 武郎……っ、武……ろ……!」
「いく……ぜ、そらっ」
「うああっ!」
数回激しく突き入れて、衝動が腰にキた。何度繰り返しても最高の瞬間。俺が昌行の一番深い部分で吐き出したのに続けて、昌行も腹の上に熱を散らせる。
しばし、互いの激しい呼吸音だけが部屋に響く。ようやく波が引いて、目を閉じていた昌行の髪をそっと撫でたら、薄っすらと目が開いた。
「……どうだ? ローションも思ってたよりは悪くねぇだろ?」
「…………悪くない、です」
「おう、それは良かった。じゃ、今度から……」
「ダメ。こんなのしょっちゅう使われたら、俺の身がもたないよ。……頼むから、偶に使うだけにして」
拗ねて甘えるような口調。 ……ダメだ、俺ぁ、昌行のこの口調にどうも弱い。
「わぁったよ。俺は出来た旦那だからな。可愛いかみさんの願いはちゃんと聞いてやる」
「……約束だよ」
「おう。じゃ、約束のキスだ」
まだ繋げたままの身体で口付けを交わしながらも、さてどう言いくるめたものかと思った俺は、別に不誠実ではないと思う。……多分。
愛するかみさんに出来る限り感じさせたいっていう旦那がいないわけないんだぜ? なぁ、昌行。
久赤話で唯一の久川視点。
基本、攻視点の方が書きやすい傾向あるので、数作書いて攻視点一本だけというのは、私にしては珍しい。
(あと、両方の視点で書いたのもないね、そういえば)
原作が赤江中心に動いていく話だったからかな。
片山絡めようと思ったはいいものの、久川→片山の呼び方があやふやで、原稿提出後に校正入れて貰った際に修正したはずなのですが、手元のファイルが修正後か修正前のかわからず、どうだっけ……となった末に地の文は片山、台詞は勲ちゃんになりました。(すみません)
久々に確認も兼ねてゲームリプレイしたい気もするけど、中々その余裕が……。
(というか、Win10で動くのかな、あのゲーム)
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