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旅は道連れ、世は×××<あんさんぶるスターズ!・紅敬・R-18>

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紅敬が二年生だった時の修学旅行の一幕。

既に付き合っている前提で書いてます。

少しずつ過去が判明してきた今となっては、当時恐らく修学旅行どころじゃなかっただろうと思われますが、それはそれとして。

初出:2015/12/07

文字数:23135文字 裏話知りたい場合はこちら

 

[蓮巳Side]

 

慌ただしかった修学旅行も、ようやく明日で終わりだ。

歴史を積み重ねてきた古の都は美しく、見応えが十分にあり、観光として楽しめたという部分はありながらも、旅の終わりが近いことには残念だという感情よりも、ほっとするという感情の方が勝る。

この学年には、どうも癖のあるやつが揃っていて、少し目を離せば、どこかに姿を消したり、女をナンパしたり、必要以上のテンションでうるさいやつがいたりで、注意する都度、神経をすり減らすハメになったからだ。

いくら、旅行には日常とは違った楽しみがあるとはいえ、限度というものを弁えて欲しい。

一体、何度やつらに説教することになったか。

全くもって度し難い。

あれを思うと、ようやく日常生活に戻れるのだという安心感の方が強い。

普段なら学院内だけで収まるはずの問題が、外部にも影響してくることへの心労は思っていた以上だった。

おかげでこの数日は胃薬の世話になってしまっている。

だが、それも明日で終わりだ。

ちょうど、紅月の新曲についての連絡メールが来ていたことも、元の日々に戻れるのだということを実感させる。

その新曲に合わせた衣装の相談を、今のうちに鬼龍としておこうと、風呂に行く前に鬼龍が泊まっている部屋に寄ることにした。

鬼龍と同室なのは、確か仁兎だったな。

大体、二、三人ほどで振り分けた部屋割りは教師が決めたものだったが、正直やっかいな連中が鬼龍と同室でなかったことにほっとする。

説教をするのは苦ではないが、かといって、その為にしたい話も出来なくなるような事態は避けたい。

鬼龍たちの泊まっているはずの部屋をノックすると、中から返ってきたのは鬼龍本人の声だった。

 

「入りな。鍵なら開いてるぜ」

「鬼龍。少しいいか。修学旅行から戻ってからの紅月のスケジュールについてなんだが……今、貴様一人か」

 

部屋に入ったら、そこにいたのは鬼龍一人だった。

 

「ああ。仁兎なら、今風呂に行っている。俺も、もう少ししたら行こうと思っていたところだった。旦那もこれから風呂か?」

 

鬼龍の部屋に寄った後は、そのまま大浴場に行くつもりだったから、俺はタオルと洗面道具を携えている。

鬼龍はそれで察したんだろう。

 

「ああ。行く前に話をと思ってな。ちょうど良かった。明日だと慌ただしくなりそうだから、今のうちに言っておく。依頼してあった新曲が完成したらしい。それで新曲に合わせた衣装についてなんだが」

「あー、そういや、そういう話出てたな。先日、デモテープで聴いたやつか。衣装デザインのラフなら今あるぜ」

「持ってきていたのか」

「何か旅先で、デザインの参考になるようなものが見られたら、と一応な」

 

鬼龍が旅行バッグの中から、一冊のファイルを取り出し、床に数枚のデザイン画を並べていく。

俺も部屋に上がって畳に腰を下ろし、それを手に取って確認してみた。

なるほど、時期がクリスマスに近いのもあって、曲のイメージは勿論、色は赤と緑を基調にして欲しいと伝えてあったから、それに沿った衣装のデザインになっている。

舞台映えする華やかさはありながらも、過度な装飾はなく、動きの点でも問題はなさそうな作りだ。

ふむ、流石だな。悪くない。

 

「あとは、マイクにも何か邪魔にならねぇ程度に飾り付けようと思っているけど、どうだ?」

「いいと思う。制作はこれからか?」

「ああ。そうだ、土産物を見てたついでに良さそうな布があったから、それを衣装に使いたいと思って、領収書出して貰った。今渡した方がいいか?」

「まだ、衣装関連で購入する物があるだろう。後で纏めてでいい」

 

一通りデザイン画に目を通してから、紙を纏めて鬼龍に渡す。

鬼龍がそれを受け取ると、再びそれらをファイルに収めたが、それを旅行バッグにはしまわずに、俺の方に手を伸ばしてきた。

 

「旦那。……大丈夫かよ。目の下にクマ出来てんぞ」

 

鬼龍の指が俺の目元を軽く辿る。

普段の生活時間に比べて、少しずれがあるのと、いつも以上に説教をしている疲れのせいか。

そういえば、ここ数日はアイドルとしての活動がないから、鏡はじっくりと見ていなかったかも知れない。

普段ならクマを作るようなことはしないし、万が一作ってしまった場合には隠すようにしている。

指摘されたのはうかつだが、明日には旅行も終わるから、問題にもなるまい。

 

「ん? ああ、ここ数日少し疲れたからだな。旅行そのものにというよりは、それではしゃいでる馬鹿どものせいだが」

「……蓮巳。責任感が強いのも結構だがよ。あいつらだって、ガキじゃねぇんだから、ちょっとぐらいほっといても平気だし、何かあったって自己責任ってもんだろ」

「そうもいかん。夢ノ咲学院として団体行動しているからには、学院の名を汚すような真似などさせられるか」

 

アイドル養成という目的を持ったアイドル科があることで、学校としては些か特殊な位置にある夢ノ咲学院は、地元以外の人間にもそれなりに知られている。

そうでなくとも、各々が所属するユニットのファンの目にとまる可能性だってあるのだ。

旅行といえど、ハメを外しすぎては、後々取り返しのつかないことにもなりかねない。

鬼龍が眉を寄せ、溜め息を吐いた。

 

「……蓮巳の旦那。ちょっといいか」

「うん? 何だ一体」

 

鬼龍が俺の手を引いて立たせ、押し入れの前まで連れて行く。

意図を掴めずに首を傾げたら、鬼龍がしゃがんで押し入れの襖を開け、ぽんぽんと床を叩く。

 

「だから、何だ」

「いいから。ちょっとそこに入れって」

 

結局、鬼龍の真意は分からず、促されるままに押し入れに入り込む。

既に部屋には布団が敷かれているから、下段はがら空きになっているとはいえ、高校生の男が入るのに余裕がある広さでもない。

こんな場所に入るなど、子どもの頃以来だろうか。

俺に続いて、鬼龍も押し入れに入ってきたことで、ただでさえ狭い場所がさらに窮屈になる。

 

「貴様、一体どういうつも……っ」

 

言いかけたところで、鬼龍が俺の頭を抱えて、唇を重ねてくる。

口を塞がれたことで、言葉が続けられなくなった。

 

「ふ……」

「んっ……」

 

他に誰も部屋にいないとはいえ、どういうつもりだ。

誰かに見つかったら、それこそただじゃ済まないし、周囲に示しもつかないというのに。

情を交わす間柄とは言っても、それを他のやつらに悟らせるようなことはしていない。

同じユニットに所属している神崎にもだ。

曲がりなりにも、アイドルという立場にある俺たちは、色恋沙汰をうかつに表に出すわけにはいかない。

それは、こいつも十分理解しているはずだ。

これで鬼龍は真面目な性質だから、ちょっとした戯れからの行動というのも考えにくい。

だったら……これはどういう意図が含まれている?

 

「……っ、鬼龍。貴様、何を考えて……っ!」

 

唇が離れた途端に文句を言おうとしたところで、押し入れの襖が内側から閉められた。

微かな隙間から、部屋の明かりが差し込んではくるものの、俺の視力では、ほとんど鬼龍の姿は確認出来ない。

ただ、肌に直接掛かった吐息と、浴衣越しの体温が伝わって来たことで、先程より鬼龍が近くなったのは分かる。

すっかり覚えた、鬼龍の使っている整髪料の香りが鼻腔を擽ってきた。

 

「蓮巳よう、三十分でいいから、他のやつらのことは忘れとけよ。でないと、おまえが潰れちまう」

「なん……」

 

首筋を鬼龍の舌らしきものが這っていったことで、ようやくこいつが何をするつもりなのかを理解した。

この場所を選んだのは、他のやつらに見咎められない為か。

だが、いつ、仁兎が帰ってくるか分からんし、他のやつらだって部屋に来ないとは言い切れない状況を思うと、気が気ではない。

……こんな風に、他の誰かに見つかる可能性があるような真似など、今までしたことがなかったのに。

こいつから見て、今の俺がそんなに危うく見えるとでもいうのだろうか。

苛立ちが胸を焦がし、歯噛みするのを抑え切れなかった。

 

「ぬか、せ……! 俺がこの程度で潰れるほど軟弱だとでも言うのか、貴様」

「なら、言い方変えるぜ。三十分、俺だけ見てろ。俺以外のことなんか考えんな」

「っ……!」

「旦那が軟弱だなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇよ。でも、息抜きってのは必要だろ」

 

頭を支えられて、床に横になるような姿勢をとらされる。

こんな場所とタイミングで、冗談ではないと思いながらも、拒むに拒めなかったのは、鬼龍の口調が妙に真剣な響きを含んでいたからだ。

鬼龍の手が俺の身体の上を滑っていって、浴衣の襟元から指を忍ばせ、直接肌に触れてくる。

鬼龍が普段着けているネックレスらしきものが俺の胸元に当って、ちゃり、と小さな金属音を立てた。

胸元と腹を探っていく手から伝わる体温は高い。

聞こえてくる呼吸も乱れ始めている。

こっちまで、鬼龍につられるような形で、息が上がり始めた。

 

「んっ」

 

乳首に指が触れて、走った甘い刺激につい声を上げてしまう。

……くそ、旅行中で抜いてないのと、この数日の疲れからとで、つい身体が反応してしまうのが恨めしい。

鬼龍もそれを悟ったらしく、小さく笑う声が聞こえた。

 

「悪くはねぇって感じだな」

「貴様こそ……っ、少し意外だった、ぞ。こういうことをするタイプだとは……んっ、思わな、かった」

「……せっかく、団体とはいえ、旅行に来てるってのに、ろくに二人きりになる機会もなけりゃ、ようやく二人になったと思いきや、旦那の口から聞くのは、仕事の話と他のやつらの愚痴。そりゃ面白く……っ、ねぇ、だろ」

「面白い、面白……くないの、問題では、ない……っだろ、う」

 

続けてしまってはダメだ。

他のやつらに対しても示しがつかない。

これこそ、事態が発覚したら三奇人連中の奇行や、羽風のナンパどころの問題ではない。

しかし、理性では止めるのであれば今しかないと分かっていても、それを実行する気にはなれなかった。

触れてくる鬼龍の指の動きは優しく丁寧で、快感を引き上げると同時に安らぎも感じる。

まだ触れられていたい、止めたくないというのが本音だ。

……三十分と言ったか。

風呂に入るように指定された時間には、まだ余裕もある。

本気で拒めば鬼龍は止めてくれるだろうが、身体の芯に燻り始めた熱を押しとどめるには、俺の方も厳しくなってきていた。

旅行も明日で終わり、いつもの学院での日常が再び始まる。

新曲の打ち合わせ等も考えれば、少しの間忙しくなるのも目に見えていた。

だったら、束の間、こいつに甘えて身体を預けるぐらいはいいかも知れない。

力を抜いて、身体に当たるペンダントから、およその位置を確認して鬼龍の頭を撫でた。

 

「――蓮巳」

「もう、いい。小言は……っ、後、だ」

「ああ」

「っ、ふ」

 

左手首に今触れたのは唇か。

脈の辺りを軽く吸われ、訪れた刺激につい身体がびくりと跳ねる。

痕は、手首なら対処のしようがあるから、そう問題はない。

今、吸われた辺りは腕時計で隠せる。

首筋は見えやすいし、絶対に痕を残すのはダメだと言ってあるから、鬼龍は痕を残すようなことはしてこない。

その辺りは弁えているやつだ。

分かっているから、こいつに身を委ねられる。

鬼龍は帯から下へと手を進めていき、俺が着ている浴衣の裾を広げつつ、太股に指を滑らせていった。

絶妙な力加減が気持ち良い。

そのまま指が下着越しに股間まで来ると、下着のゴムに手を掛け、そのまま引き摺り下ろされる。

下着が足から抜かれると、直接、モノを握りこまれ、つい一瞬息が止まった。

形を確かめるように緩やかに動く手は、確かな快感を与えてくるから、息は上がる一方だ。

 

「……旦那」

「なん、だ」

「いつもより固ぇな。結構興奮してんのか」

「貴様に……っ、言われる筋合いは、ない」

 

熱を孕んだ声は鬼龍こそだ。

俺も手を下に伸ばして、鬼龍の身体を探る。

浴衣の合わせ目だと思われる場所から手を差し込んで触れると、その場所が下着越しでも十分な固さと熱を持っているのが分かった。

今、こうして触れるまで、俺は鬼龍にほとんど触れていなかったのにも関わらずにだ。

いつもより興奮しているのは鬼龍も同じだろう。

 

「そりゃそうだな。俺も人のことなんて言えねぇ」

 

小さな水音が近くで聞こえたと思ったら、足の間に濡れた指が触れる。

そのまま指が奥へと進んで、孔の周囲を解すように触れてきたことで、唾液で指を濡らして慣らすつもりなのを理解した。

此処に触れられるのは、まだ身構えてしまうが、どうにか力を抜くと、指が中に入り込んできた。

ゆっくりと内側を探っていく動きに、少し足が震える。

 

「ん……っ、く」

「キツイか?」

「平気、だ」

 

キツくはないが、潤滑剤を使ういつもの行為に比べて、鬼龍の指の形が分かりやすくて、触れられていることを強く意識してしまう。

指でこれなら、後が少し怖い。

 

「は……あ、そ、こ……っ」

「ここがいいんだよな」

「……んっ!」

 

内側の弱い箇所を強めに擦られて、背筋を快感が駆け上がっていく。

仰け反った拍子に、眼鏡がずれて外れた。

床に眼鏡が当たった音が、妙に大きく耳元で響く。

その間にも、中の指は二本に増えて、責め続けてくる。

 

「き、りゅ……」

「中、結構柔らけぇな。イケるか?」

「多分……っ」

 

指が中から抜かれ、そのまま先へと進めるかと思いきや、鬼龍が小さく「あ」と声を上げて、俺の肩に頭を乗せた。

 

「…………くそ、しまった」

 

舌打ちとぼやきに続いて、溜め息まで聞こえる。

落胆の色を隠せない様子に、何かあったのかと少し不安が過ぎった。

 

「……? どうした?」

「ゴム持ってきてねぇ」

「…………ああ。だろうな」

 

その事か。

旅行の際には持ち物検査もあることを考えれば当然だ。

そんなものが見つかった日には、ちょっとした騒ぎになるし、間違いなく没収される。

その上で持っていたとしたら、それはそれで問題だろう。

寧ろ、その事について、鬼龍が今の今まで思い当たっていなかったのが、俺としては意外な位だった。

……俺が普段と違う様子を見せていなければ、旅行中に手を出してくるつもりはなかったんだろうな。

 

「仕方ねぇ。とりあえず今日は擦り合わせて……」

 

俺のモノに、鬼龍が自分のモノを触れ合わせてきたところで、鬼龍の浴衣を引っ張った。

 

「ん?」

「……どうせ、この後風呂に行くんだ。そのままで、いい」

「そのまま……って」

 

鬼龍が俺の意図を悟って絶句する。

無理もない。

ゴムを使わずに行為をしたことは、これまでに一度もないからだ。

直接となると、受け入れる側の俺に負担が掛かるからと、必ず鬼龍はゴムを用意してくれる。

一方的に用意させるのも気が引けるから、俺が用意している時もあるが、当然、俺も今日は持っていない。

となると、挿入はやめておくか、そのままで身体を繋ぐかという選択になるが、ここまで来てしまうと中断する気にはなれなかったし、擦り合わせるだけというのも物足りないと感じてしまう。

そのぐらいには、後戻り出来ないところまで昂ぶっていた。

中を鬼龍の熱で埋めて欲しいという欲が抑え切れない。

今だって、モノを触れ合わせているだけの状態をもどかしく感じている。

身体を重ねることを知らなかった段階ならともかく、幾度も重ねて来た今は、どうしても貪欲に欲してしまう。

この暗がりでは見えないが、鬼龍が俺を求める時に見せる切羽詰まった様相は、満ち足りた気分にしてくれる。

 

「…………おい、蓮巳。俺、外に出す自信ねぇぞ」

 

やったことねぇし、この状態だとやっても浴衣汚しそうだ、とぼやく頭をそっと撫でてやった。

 

「中で構わん」

「本当に、いいのか?」

「くどい。……何度も言わせるな」

 

あまり確認されると、かえって恥ずかしい。

頭を起こした鬼龍が、僅かな間を置いた後、俺の額に自分の額をこつりとぶつけてきた。

吐息が顔に触れるような距離でも、鬼龍の表情が見えないことが少し口惜しい。

今、俺たちはお互いにどんな顔をしているんだろうか。

 

「……途中でやっぱりダメだってのは勘弁してくれ。言われても止めてやれるか、正直自信ねぇから」

「ああ」

 

鬼龍が身体をずらして、俺の足の間にモノを滑らせてくる。

指で場所を探っているようだったから、心持ち足を開いて、鬼龍のモノを掴み、適切な場所に導くと、鬼龍の喉がごくりと鳴ったのが聞こえた。

俺の右手に鬼龍が左手を重ねて来たから、こっちからも指を絡めると、それを合図にしたかのように、鬼龍がゆっくりと身を沈めてくる。

 

「ん……っ!」

「ふ……」

 

芯を持った熱が身体を割り開いていく。

唾液だけで慣らしたから、キツイかと思ったが、いつもと違って遮るものがないからなのか、予想していたよりは身体に馴染んだのに驚いた。

鬼龍も直接繋がっているということで、感覚がいつもと違うのか、絡めた指に籠められた力が強くなる。

歯を食いしばる音も耳に届いた。

 

「っ、動いても平気、か?」

「ああ……っ、ん、はっ」

 

応じた直後、待ちきれないと言わんばかりに律動が始まる。

俺に覆い被さるような体勢になっているから、鬼龍の腹に俺のモノが擦られ、内側を擦り上げていく動きと相まって、気持ち良さについ声が零れる。

 

「ん、んっ……き、りゅ……」

「こういう時の声、可愛いよな、旦那」

「……っ。うる、さ……あっ」

 

頬に唇を落とされ、派手に音を立てて、繰り返し吸い付いていく。

口付けの音がさらに快感を煽っていく中、ふと一つ気付いた。

今、鬼龍が俺に口付けた時に、位置を迷わなかったのは気のせいか?

いや、そういえば、先程も額をぶつけて来た時に間はあったが、迷ったような様子がなかった。

この暗がりなのに、まるで見えているみたいだ。

……もしかして、こいつには薄らとでも俺の表情が見えているんじゃなかろうか。

だとしたら不公平だ。

俺の方は、元々視力が悪い上に、今は眼鏡も外れているのもあって、全然分からないというのに。

ならば、せめて、耳で細かい音まで拾おうと、意識を耳に集中させる。

鬼龍の浅い吐息と、動く度に微かに鳴っている衣擦れの音。

こんな時でも外さないままの鬼龍のネックレスは、動きに合わせて、通してある指輪と鎖が擦れ合い、微かな音を鳴らしている。

互いに浴衣を着たままだから、肌が触れあっている部分は限られているが、着衣の状態に加え、狭い場所で熱が籠もっているのもあってか、その僅かに触れている部分の肌からは、いつも以上の熱さと汗ばんでいるのが伝わってきた。

興奮している様子が分かるのは、すこぶる気分がいい。

快感を二人で共有しているということが、益々気持ちを昂ぶらせていく。

ライブでの高揚感とも何処か似ていながらも、決定的に違う。

秘めた交わりによる二人きりでの愉しみは何にも代えがたい。

 

「ん、く、あ……っ」

「は……っ」

 

俺の頬に鬼龍の手が触れて、気配で顔が近付いてくるのが分かる。

唇が触れ合いそうになった、その時だった。

耳に飛び込んで来た誰かの足音に、つい身体が竦んだ。

リズミカルな足音は、確実にこの部屋へと近付いている。

 

「……っ、待て、今、音が」

「あれ? 紅郎ちーん、いないのか?」

「…………っ!」

 

部屋の扉が開いた音に続いて、仁兎が鬼龍を呼ぶ声が聞こえてきた。

今の足音は仁兎のものだったか。

どうやら、風呂から戻ってきたらしい。

他に人はいないようだが、かと言ってここで出て行くわけにもいかない。

意外に響いてくる部屋での物音に、ここが襖一枚だけで隔てた場所だということを改めて思い知らされ、動けなくなる。

どうにか、他の部屋にでも行ってくれればいいんだが。

お互いに動くのをやめ、息を殺して、様子を窺っていると、不意に中で鬼龍のモノが大きくなったのが伝わった。

新たに広がった快感で、上げてしまいそうになった声はどうにか理性で抑え込む。

 

「……っ、おい」

 

仁兎には聞こえないよう、ほとんど吐息の状態で呟くと、耳元でやはり、吐息に混ぜた小さな低い囁きが聞こえた。

 

「不可抗力だ。許せ」

 

鬼龍もそれだけ言うと、黙り込んだ。

耳に届く鬼龍の呼吸音は乱れていて、刺激を堪えているようにも思える。

伝い落ちてくる汗を拭おうにも、それも音を立ててしまうだろうかと思うと下手に動けない。

恐らく、仁兎が部屋にいたのは、時間にして五分となかったはずだが、随分と長く感じられた。

 

「うーん…………他の部屋行ってんのかな。一人で待ってんのも寂しいし、俺もどっか行こうっと」

 

そんな声が聞こえ、少しの間、がさごそと何か物を動かしているような音がしていたが、その後は再び扉が閉まる音が聞こえ、部屋の中が静かになった。

廊下を歩いて行く仁兎の足音が遠ざかり、完全に聞こえなくなったところで、一息吐いて鬼龍に文句を言おうとしたら。

 

「うあっ!」

「っ!!」

 

いきなり深く強く穿たれ、声を抑え切れなかった。

そのまま激しさを増す動きに翻弄され、空いていた方の手を鬼龍の背に回してしがみつく。

 

「こ、の……っ、き、りゅ……、きさ、ま」

「俺のせいだけじゃ、ねぇ……っだろ。旦那こそ、凄ぇっ、締め付け……っ、だった、ぜ」

「ん、く、あっ」

 

煽ったのはおまえだ、という呟きと一緒に、耳に歯が立てられ、そこからもまた新たに訪れる悦楽に、こっちも残り少なかった理性が失われていく。

なのに、さらに鬼龍はすっかり張り詰めている俺のモノに手を伸ばしてきた。

カリを辿った指に快感を与えられて、危うく達しそうになる。

 

「やめ……っ、そっち、触……るなっ」

「このまま出したら、浴衣、汚しちまう、だろう……がっ。今でも先走り凄ぇことになってん、のに」

「ひっ!!」

 

指先で鈴口を刺激されて、もう情けない声しか出せない。

自分のモノで汚すことについて考えが及ばなかったほど、俺の方に余裕がなかったというのを、ようやくこの段階で自覚させられた。

中を強く擦り上げられ、暗闇だったはずの視界に白い光が迸る。

 

「あ、あ、も……っ、く、ああ!!」

「っ……ふっ」

 

繋いだままの鬼龍の手に力が入ったところで限界は訪れる。

一際強くぶつかりあった肉の衝撃で熱を吐き出し、また、中にも吐き出されたのが伝わった。

腹の中に広がった熱さに、鬼龍と直接繋がっている実感が湧く。

後でどう思うかは分からんが、少なくとも今は嫌な感覚ではなく、寧ろ、いつもよりも満たされたような心地だ。

俺の身体に体重を預けるように、折り重なってきた鬼龍の呼吸がまだ荒い。

いや、俺の呼吸も似たり寄ったりか。

ようやく少し落ち着きを取り戻した頃に、鬼龍が俺の上から身体を少し浮かせ、襖を開ける音と共に視界の隅が明るくなった。

が、部屋はぼんやりとしか見えない。

そういえば、外れていたままだったんだと、眼鏡を手探りで探したら、鬼龍が俺の指に眼鏡の弦を触れさせてきた。

 

「ほら」

「すまん」

 

眼鏡をかけて、改めて鬼龍の顔を見上げると、先程までの行為の激しさが嘘のように、随分と穏やかな表情をしていた。

絡めていたままだった指を解いて、汗と激しい動きとですっかり落ちてしまっている前髪に手を伸ばすと、鬼龍の汗が指を伝い落ちてくる。

最中のこいつの顔が見られなかったのが、少し残念だな。

そのまま額の汗も軽く拭う為に指を辿らせると、鬼龍の目元が一層優しく緩む。

 

「ゴムなしって、思ったよりヤベぇな」

「同感だが、まだ繋がっている状態でそれを言うな。こっちまで意識するだろう」

「だな。……名残惜しいけど抜くぜ」

「んっ」

 

鬼龍が抜けていく感覚に、甘い痺れが背筋を突き抜けた。

そのまま、這い出るようにして、やつが押し入れから出て行く。

テーブルに置いてあったティッシュ箱から、数枚引きだして手や股間を拭っているようだ。

そういえば、俺の精液はあいつが手で受け止めていたんだったな。

あれだけ動いてたのに、つくづく器用な男だ。

 

「旦那のも拭こうか。出したの俺だし」

「自分で出来る。箱を寄越せ」

「ほらよ」

 

ティッシュ箱が畳の上を滑って、俺の手元に届いた。

押し入れの中で、鬼龍からは下半身までは見えないのを幸いに、細かい部分まで可能な限り拭い取る。

途中、鬼龍の指の動きを思い出しそうになった思考をどうにか追いやって、後始末を済ませ、ようやく人心地がついた。

流石に、これ以上の時間を行為に費やすのは危険だ。

どうにか、浴衣は汚さずに済んだらしいことを触って確認し、俺も押し入れから這い出る。

くそ、最中はほとんど気になっていなかったが、固い床に狭い場所だったせいで擦ってしまっていたのか、身体を伸ばした途端に、肘やら肩やら、妙にあちこち痛む。

痕になってなければいいが。

今は秋だし、紅月の衣装は露出が低いから、首筋や襟元にさえ気を配れば、大抵はどうにかなるとはいえ、今から行く風呂場に極力他人がいないのを祈るばかりだ。

 

「風呂行くか。旦那もこのまま行くだろ?」

「当然だ。が、その前に貴様は少し髪を撫でつけろ。風呂で洗い落とすとはいえ、その髪で出歩いては何かあったと言わんばかりだ」

 

着崩れた浴衣こそ直されていたが、乱れた髪とまだ上気した顔が、情事の名残を色濃く表わしている。

これから風呂に行く以上、風呂上がりという誤魔化しも出来ない。

 

「それを言うなら、蓮巳も髪に櫛入れた方がいい。てめぇも結構な乱れ方してんぞ」

「む」

 

自分で手ぐしで整えようとしたところで、さっさと髪を整えた鬼龍に腕を引っ張られた。

 

「やってやるって。ほら」

「……頼む」

 

なるべく、鬼龍の指の動きを見ないように視線を逸らす。

どうも、行為が終わった直後は、普段よりも意識してしまうな、俺は。

鬼龍の指は見た目の印象よりも、ずっと繊細で優しい動きをする。

それで身体のあちこちを触れられたのだと思うと、どうにも面映ゆい。

櫛で髪を整えられると、鬼龍が俺の肩に腕を回し、抱き締めて来た。

すまねぇ、と小さく聞こえた気がする。

 

「鬼龍?」

「……悪ぃな、旦那。かえって無理させちまった」

「それはいい。俺も拒まなかったからな。お互い様だ。ああ……その、背中、傷になっていたらすまない」

 

浴衣越しだったとはいえ、かなり強くしがみついてしまったから、爪を立てていたはずだ。

実際、俺はこれまでにも何度か、鬼龍の背中に痕を残してしまっている。

自分では目のつく場所に痕を残すなと言いながら、それだ。

 

「構わねぇよ。……俺は最中に旦那が余裕なくなってるのが分かるのって嬉しいしな」

「……っ、煽るようなことを言うなと……っん」

 

……話の最中で遮るように唇を重ねてくるのは、鬼龍の悪い癖だ。

一度、滾々と説教してやらねばなるまいと思いながらも、時間もないから、今日のところは勘弁してやることにした。

俺もまだまだ甘い。

 

***

 

「うむっ! 今日も素晴らしい天気だな! 遠くの山がくっきり見える!! やっほー!」

「……守沢。もう少し、声のトーンを落とせ。うるさい」

 

修学旅行の最終日、学院に帰るバスの車内。

隣の席に座っている守沢の声が頭に響く。

バスの中から、山への掛け声もないだろうに。

しかし、今はそれを指摘してやる程の気力はない。

旅行最終日でこの元気さはいっそ羨ましいが、出来ればもう少し静かに過ごしたかった。

昨夜、鬼龍との行為の後、大浴場でも軽く後始末はしたものの、人目もあって、不十分だったからか、少し腹の調子が悪い。

そのままで構わんと言ったのは俺だし、身体はともかくとしても、気分がどこかすっきりしたのも確かだから、文句を言う気はないが。

しかし、隣がこいつだと、少しうたた寝することも出来なさそうだ。

まぁ、家に帰ってからゆっくり休めばいいかと諦めたところで、斜め後ろの位置から声が掛かった。

 

「よう、守沢。悪ぃが、少し席代わって貰ってもいいか? 蓮巳とユニット絡みの話をしたいんでな」

「おおっ、鬼龍! 勿論いいぞ! まだ旅行は終わってないのに、おまえたちは仕事熱心だな!」

 

守沢が鬼龍の言葉に即答し、直ぐに席を立って後ろへと移動した。

空いた席にそのまま鬼龍が座ると、周囲には聞こえない位のトーンで低く囁いてきた。

 

「……大丈夫か、旦那。しんどそうだな」

「大したことはない。貴様に心配されるようなものでは……っ!?」

 

こっちもぼそりと返すと、頭を鬼龍の肩に引き寄せるような形で軽く押さえつけられた。

 

「肩貸すから、少し寝ろよ。どうせ、もう後は学院に帰るだけだ。てめぇがやることもそんなに残ってねぇだろ」

 

鬼龍の言うことも一理ある。

バスはこのまま学院に着くまではどこにも寄らないし、精々、到着の少し前に点呼するのと、忘れ物の確認等をするぐらいだ。

予定通りなら、二時間もしないうちに学院に到着して、解散の流れになっている。

少し考えた末に、鬼龍の肩に頭を預けたままで眼鏡を外し、ブレザーのポケットに入れ、目を閉じた。

肩を少し借りて眠るくらいなら、変に勘ぐられることもないだろう。

 

「…………一時間だ。きっかり一時間で起こせ」

「おう」

 

返事と一緒に、軽く俺の頭を叩いた鬼龍の手が離れる。

頭を預けた肩から、ブレザー越しに少しだけ伝わってくる鬼龍の体温を感じつつ、訪れた眠気には逆らわずに身を委ねた。

 

[鬼龍Side]

 

数日かけての修学旅行も、今夜が最後の宿泊だ。

旅行自体は新鮮だったし、十分に楽しめたが、俺たちの学年は一癖あるやつらが揃っているのもあって、学年全体を取り纏める役目の蓮巳の旦那は四苦八苦していた。

特に日々樹のやつなんかは、天祥院がいないのもあってか、わざと蓮巳を煽っていたような節もある。

元々、旦那とは同じアイドル科とはいえ、クラスは違うから別行動になるのはよくあることだが、今日ちらっと見た時には顔色がさえなかったのが気に掛かっていた。

ここ数日は胃薬手放せねぇって言ってたしな。

ちったぁ放っておいたところで、早々大事にもなんねぇだろって思うけど、やつの性格上それが出来ねぇだろうなってのも、いい加減長くなってきた付き合いで、納得はしてなくとも理解はしている。

風呂で蓮巳と会えたら、そこで話しゃいいし、会えなかったら上がった後にでも、部屋に行ってみるかと思ってた矢先に、部屋の扉がノックされた。

わざわざ鳴らしたってことは仁兎じゃねぇな。

 

「入りな。鍵なら開いてるぜ」

「鬼龍。少しいいか。修学旅行から戻ってからの紅月のスケジュールについてなんだが……今、貴様一人か」

「ああ。仁兎なら、今風呂に行っている。俺も、もう少ししたら行こうと思っていたところだった。旦那もこれから風呂か?」

 

噂をすれば影とか言うんだっけか、こういうの。

旦那のことを考えていたタイミングで、当の本人が部屋に来るとはな。

蓮巳は手にタオルと洗面道具を持っているから、多分、この後そのまま風呂に行くつもりだろうと見当がついたが、一応聞いてみる。

 

「ああ。行く前に話をと思ってな。ちょうど良かった。明日だと慌ただしくなりそうだから、今のうちに言っておく。依頼してあった新曲が完成したらしい。それで新曲に合わせた衣装についてなんだが」

「あー、そういや、そういう話出てたな。先日、デモテープで聴いたやつか。衣装デザインのラフなら今あるぜ」

「持ってきていたのか」

「何か旅先で、デザインの参考になるようなものが見られたら、と一応な」

 

蓮巳の声に驚きが少し混じる。

紅月は伝統芸能に基づき、『和』を色濃く出しているユニットだ。

旅行先を考えれば、ヒントになることもあるだろうと、念の為に持参してある。

旅行バッグの中から、デザイン画を収めてあったファイルを取り出して、数枚ほど床に並べてみた。

蓮巳が部屋に上がって来て、並べた紙を確認していく。

様子を窺ってみると、口元には笑みが浮かんでいる。

悪くねぇ反応だ。

蓮巳とユニットを組んで、紅月としての活動を始めてから、衣装についてはデザインも制作も俺が担当していた。

曲のイメージや、その時の季節に合わせたモチーフ等の要望は来るが、基本的に好きにやらせて貰っている。

それでダメ出しをされたことは、ほとんどない。

恐らく、蓮巳の求める紅月の衣装と、俺が紅月でやりたい衣装の方向性が近いんだろう。

最初は衝突から始まった関係だったし、セックスするような間柄になった今でも、こいつとは本気でソリが合わねぇって思う面も確かにある一方で、あれほどの充実感を得られるライブが出来るのは、紅月でだけだとも思っている。

 

「あとは、マイクにも何か邪魔にならねぇ程度に飾り付けようと思っているけど、どうだ?」

「いいと思う。制作はこれからか?」

「ああ。そうだ、土産物を見てたついでに良さそうな布があったから、それを衣装に使いたいと思って、領収書出して貰った。今渡した方がいいか?」

「まだ、衣装関連で購入する物があるだろう。後で纏めてでいい」

 

蓮巳がデザイン画を纏めて、俺に手渡してきたのを受け取る段階で、ふと蓮巳の目元にクマが出来ているのに気付いた。

珍しいこともあったもんだ。

こいつは、自分の立ち位置ってもんを正確に把握している。

ナルシストってわけじゃねぇが、自分に眼鏡が似合うことを自覚しているから、あえてコンタクトにはしてねぇ事とか考えても、どう他人から見られるかってことには、人一倍気を配っている。

普段ならクマなんてもんを、まず作ることさえしねぇ。

他人に対する当たりも厳しいところはあっても、それは正論から出て来るものだし、第一、蓮巳の場合はそれ以上に自分に対して厳しい。

旅行疲れってのを差し引いても、調子悪いんじゃねぇのかって心配になる。

 

「旦那。……大丈夫かよ。目の下にクマ出来てんぞ」

 

つい、蓮巳の目元に指を滑らせながら言うと、ほんの一瞬だけ、目の前の顔が曇った。

……俺が言うまで、旦那に自覚がなかったんだとしたら、なお性質が悪い。

そこまで気を回す余裕が、今のこいつにねぇってことだ。

 

「ん? ああ、ここ数日少し疲れたからだな。旅行そのものにというよりは、それではしゃいでる馬鹿どものせいだが」

「……蓮巳。責任感が強いのも結構だがよ。あいつらだって、ガキじゃねぇんだから、ちょっとぐらいほっといても平気だし、何かあったって自己責任ってもんだろ」

「そうもいかん。夢ノ咲学院として団体行動しているからには、学院の名を汚すような真似などさせられるか」

 

これだ。

旦那の言いたいことは分からねぇでもない。

でも、そこまで振り回されなくてもいいだろうって本音もある。

少し、嫉妬している面もあるかも知れねぇ。

疚しいことはないって分かっているが、この数日、蓮巳と一緒に行動しているのは、大体問題を起こしそうな連中だ。

せっかく……ってのも語弊があるが、天祥院のやつが体調不良で修学旅行は欠席だってのに、他のやつに旦那を取られているような気分だ。

いや、それだけならまだしも、振り回されていることで、蓮巳に負担が掛かっているのが、俺としてはどうにも引っかかる。

さらに肝心の旦那は、そのことに対して、どうも分かってねぇと来た。

俺の気のせいだったら良いんだが、ちょっと拙い気がしてんだよな。

……だったら、ここは荒療治といっとくか。

 

「……蓮巳の旦那。ちょっといいか」

「うん? 何だ一体」

 

蓮巳の手を引いて立たせ、押し入れのところまで連れて行く。

どういうことだ?と首を傾げている旦那は一旦置いといて、押し入れの襖を開け、下段部分に何もないことを確認してから、しゃがんでそこに入れと示す為に、床を叩いた。

が、まだ旦那はよく分かってねぇらしい。

 

「だから、何だ」

「いいから。ちょっとそこに入れって」

 

そこまで言うと、ようやく旦那が動いて、押し入れの中に入っていった。

後はしばらく仁兎が戻って来ねぇことを祈るばかりだ。

仁兎だったら、何か察しても下手に言いふらしたりもしねぇだろうが。

俺も押し入れの中に入ると、かなり手狭になったが、二人で引っ付くくらいのスペースはある。

 

「貴様、一体どういうつも……っ」

 

文句を言い終わる前に、蓮巳の後頭部を押さえて、唇を重ねた。

拒んでは来なかったのを良いことに、存分に蓮巳の唇の感触を味わう。

何かと言えば、説教やら小言やら飛び出してくる口だが、吸うと妙に甘いし柔らかいんだよなぁ。

気持ち良くて、ずっと吸っていたくなる。

 

「ふ……」

「んっ……」

 

気持ち良さに下半身が反応し始めたところで、唇を離した。

 

「……っ、鬼龍。貴様、何を考えて……っ!」

 

案の定、蓮巳が文句を言い始めたところで、押し入れの襖を中から閉めた。

多少出来た隙間から、少し明かりが零れてくるから、少し経つと蓮巳の顔が認識出来るくらいには目が慣れてくる。

まぁ、多分、蓮巳の方は目が悪いから、俺が見えちゃいねぇんだろうけども。

さっきよりも蓮巳に近付いて、首筋に唇を押し当てる。

 

「蓮巳よう、三十分でいいから、他のやつらのことは忘れとけよ。でないと、おまえが潰れちまう」

「なん……」

 

言葉を失った蓮巳の首筋に舌を這わせて、その三十分で俺が何をするつもりなのかを悟らせる。

蓮巳だったら、場所を此処にした意味もそれで分かるだろう。

が、蓮巳の自尊心を傷つけたのか、歯がギリと音を立てたのが聞こえた。

 

「ぬか、せ……! 俺がこの程度で潰れるほど軟弱だとでも言うのか、貴様」

 

ああ、そういう風に受け取っちまったか。

違う、そうじゃない。

 

「なら、言い方変えるぜ。三十分、俺だけ見てろ。俺以外のことなんか考えんな」

「っ……!」

「旦那が軟弱だなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇよ。でも、息抜きってのは必要だろ」

 

実際、蓮巳敬人という男は、俺が知っている誰よりも、鋼の精神の持ち主だと思っている。

以前、紅月のファンから、蓮巳が水、神崎が風、俺が火のようだと例えられたことがあったが、俺に言わせりゃ本当に火なのは蓮巳の方だ。

ぱっと見、細身なこともあって、涼しげで頼りなさそうな印象を抱かせることもあるが、内には激しい闘争心を秘めているし、紅月の為であれば何であろうと糧にする。

紅月は蓮巳の火を中核に据えて、成り立っているユニットだと俺個人は思っていた。

その火は、ちょっとやそっとのことで、揺らぐようなやわなもんじゃないし、そんな芯の強いところについていこうってなった。

俺が蓮巳に惚れ込んでいるのも、そういった部分が大きい。

事実、過去に何らかの形でこいつが潰れた試しはないし、想像も出来ない。

必ず、どんな形であれ糧としていく強さで、突き進んできた。

だが、それだけに旦那の限界が俺には読めない。

読めないのが怖い。

実際、身体に不調は出始めているんだし、旅行中だっていうのを含めても、こんな蓮巳は初めて見る。

クマそのものは些細なことでも、それを引き金にどうかなっちまうんじゃないかって不安は、蓮巳本人には絶対に悟らせたくないが、放っておくことも出来ねぇ。

大体、紅月の件で話があるからと部屋に来た旦那にしたって、基本、紅月の用事だったら、紅月で作ってあるグループトークに入れておけば済む話だ。

普段の蓮巳ならそうしてる。

衣装の担当は確かに俺だが、今の紅月は三人揃ってこそのユニットだから、最終的な打ち合わせは神崎にだって話を通す必要が出て来る。

こいつは自覚してねぇんだろうけど、疲れていることで、俺の顔を見たかった、二人になりたかった、くらいはどっかにあったはずだ。

旦那を横に寝かせて、覆い被さり、浴衣の襟元から手を入れて、直接肌を触っていく。

 

「んっ」

 

蓮巳の乳首に触れると同時に、甘ったるい声が上がった。

指先で少し責めてやると、呼吸もさっきより弾んでくる。

蓮巳の足の間に身体を滑り込ませて、軽くのし掛かると、勃ちかけているのが伝わった。

本気で嫌だったら、旦那ならとっくに撥ね除けるくらいはやっている。

それがねぇってことは、満更でもない、続けて構わないって解釈していいんだろう。

可愛いなとつい笑っちまったら、蓮巳が拗ねたような表情を見せた。

くそ、益々可愛いじゃねぇか。

 

「悪くはねぇって感じだな」

「貴様こそ……っ、少し意外だった、ぞ。こういうことをするタイプだとは……んっ、思わな、かった」

「……せっかく、団体とはいえ、旅行に来てるってのに、ろくに二人きりになる機会もなけりゃ、ようやく二人になったと思いきや、旦那の口から聞くのは、仕事の話と他のやつらの愚痴。そりゃ面白く……っ、ねぇ、だろ」

「面白い、面白……くないの、問題では、ない……っだろ、う」

 

実際、そういう問題じゃねぇが、そういうことにしておいた方が都合が良い。

しばらくセックスしてなかったのもあって、旦那に触りたいってのも、二人きりでの会話が色気のない話だけでは面白くないっていうのも嘘じゃない。

状況が状況だから、じっくりってわけにはいかねぇが、少しでも余計なことは頭の中から追いやってしまえたらいい。

完全に観念したらしい蓮巳の身体の力が抜けたのが分かった。

俺のペンダントを伝うことで、位置を把握したらしく、蓮巳が俺の頭を撫でてくる。

仕方のないやつだ、と言われた気がした。

 

「――蓮巳」

「もう、いい。小言は……っ、後、だ」

「ああ」

「っ、ふ」

 

完全に肯定の言葉を聞けたからには遠慮しない。

蓮巳の左手首を取って、ここなら腕時計で誤魔化せるはずだと脈打つ部分を吸い上げる。

これで旦那は結構敏感だから、こんな刺激でも身体が軽く跳ねる。

本当は首筋をがっつり吸って、痕を残してみたいし、反応も見てみたいが、それは無理な相談だ。

人目につくような場所に、あからさまな情交の痕跡を残すなんて、アイドルとしちゃ失格だし、まず蓮巳が絶対に許さないだろう。

蓮巳の腹を探って、帯の下へと手を辿らせ、浴衣の裾を広げる。

流石に、下半身までは隙間からの光も届かないから、よく見えないが、さぞかし扇情的な光景だろうなと考えながら、太股を触っていく。

旦那は細いし、運動自体は得意な方でもねぇが、適度に鍛えてもいるから薄らとではあるが、筋肉はついている。

肌を重ねていく内に覚えた、旦那の好みだろう力加減で撫でていくと、熱っぽい吐息が耳に届く。

足の付け根、そして股間も触ってから、下着のゴム部分に指をかけて、それを引き摺り下ろした。

ちょっとだけ腰を浮かせて、脱がせやすくしてくれているから、そのまま足からも抜かせた。

中心を握ると、蓮巳が呼吸を飲み込む。

既に思っていたよりも固かったことで、結構こいつも興奮してんだなと嬉しさがこみ上げた。

 

「……旦那」

「なん、だ」

「いつもより固ぇな。結構興奮してんのか」

「貴様に……っ、言われる筋合いは、ない」

 

ムキになったように返され、蓮巳の手が俺の下半身を探っていく。

下着越しに触られて、こっちの状態もバレバレだ。

実際、かなり興奮もしてるから仕方ねぇ。

余裕のあるふりで、応じるのが精一杯だ。

 

「そりゃそうだな。俺も人のことなんて言えねぇ」

 

いつもみたいにローションは用意してねぇから、指を自分の口の中に突っ込んで、唾液でがっつり濡らす。

その状態で蓮巳の足の間を触ると、一瞬身体が強張ったが、直ぐに力を抜いてくれたのが分かる。

その隙に、指を中へと進めた。

いつもよりもゆっくりと内を探ってみたが、蓮巳が小さな呻き声を上げた。

足も少し震えている。

 

「ん……っ、く」

「キツイか?」

「平気、だ」

 

平気と言った言葉を信じて、もう少し指を置くに進める。

少し固い部分に指の腹を触れさせ、傷つけないよう気をつけながら、心持ち強めに擦った。

 

「は……あ、そ、こ……っ」

「ここがいいんだよな」

「……んっ!」

 

刺激が強かったのか、蓮巳が指を締め付け、背を仰け反らせる。

動いた拍子に、がちゃりと眼鏡が外れる音がした。

そういや、眼鏡掛けない状態も久々だな。

こいつは眼鏡を外しちまうとほとんど見えやしないからと、こんな時でも外したがらない。

俺には見えていて、自分には見えていないっていう状況が癪なんだそうだ。

変なところで意地を張るっていうか、闘争心を出すってのが、旦那らしいというか、何というか。

少し弛緩した隙に、指をもう一本増やし、解していく。

興奮のせいか、いつもより何となく熱いし、柔らかさもある。

ローションなしでも大丈夫そうだ。

 

「き、りゅ……」

「中、結構柔らけぇな。イケるか?」

「多分……っ」

 

蓮巳も応じたところで、いざ挿れようとして――しくじったことに気がついた。

旅先だからと、ゴムなんて持ってきてねぇ。

自分のうかつさが恨めしく、蓮巳の肩に頭を乗せて、ついぼやいた。

 

「…………くそ、しまった」

「……? どうした?」

「ゴム持ってきてねぇ」

「…………ああ。だろうな」

 

予想していたのか、蓮巳の返事は淡々としたものだ。

持ち物検査あるし、流石に団体行動の最中にセックスするなんて考えてはいなかったから、すっかり忘れてた。

流石にゴム無しでの挿入じゃ、蓮巳の旦那に負担が掛かりすぎる。

 

「仕方ねぇ。とりあえず今日は擦り合わせて……」

 

兜合わせでもそれなりに気持ち良いしと、気分を切り替えてしようとしたところで、蓮巳が俺の浴衣を引っ張ってきた。

 

「ん?」

「……どうせ、この後風呂に行くんだ。そのままで、いい」

「そのまま……って」

 

……待て。今、そのままって言ったか?

まさか、ナマで突っ込んでいいってことか!?

男同士じゃ妊娠しないとは言っても、そのままでしたんじゃ後始末が大変だし、受け入れる側は腹も下しやすいって聞いたから、ゴムなしでなんてしないようにしていた。

ナマでしてみたいと思ったことがないって言ったら嘘になるが、それは蓮巳に負担を強いてまでしたいものでもない。

動揺を隠せないまま、正直に少しばかり情けない申告をする。

 

「…………おい、蓮巳。俺、外に出す自信ねぇぞ。やったことねぇし、この状態だとやっても浴衣汚しそうだ」

 

暗がりだからってのもあるが、遮るものなしに繋がった快感がどうなのかを想像すると、加減出来る気が全くしない。

なのに、蓮巳は俺の頭を撫でた上で、さらに追い打ちを掛けてくる。

 

「中で構わん」

「本当に、いいのか?」

「くどい。……何度も言わせるな」

 

頭を上げて、蓮巳の顔を見る。

視線が合わねぇから、旦那には俺の顔は見えてないだろうが、向けられた目には全く迷いがない。

揺らぎない信頼を見せつけられ、望まれて。

後々面倒になるだろうことを分かっていながら、そんな風に請われて、なお拒否できるような精神の持ち主なんて、果たしてどれだけいるってんだ。

額をこつんと合わせて、最後の念押しをする。

 

「……途中でやっぱりダメだってのは勘弁してくれ。言われても止めてやれるか、正直自信ねぇから」

「ああ」

 

やっぱり淡々とした返事に覚悟を決めた。

身体をずらし、蓮巳の足の間にモノを滑らせる。

見えねぇから、指で場所を探っていたら、旦那の方から足を少し開き、俺のモノに手を伸ばして、挿れる場所に導いてくれた。

……これ、見えていたら、そんだけでもイケそうなぐらいの光景だろうな。

つい鳴っちまった喉を誤魔化すように、蓮巳の右手に自分の左手を重ねると、指が絡められた。

慌てるなと自分に言い聞かせながら、体重をかけて、蓮巳の中へと身体を進めた。

 

「ん……っ!」

「ふ……」

 

先っぽから包んでいく熱さは、予想以上に気持ち良い。

ゴム着けていても十分熱いって思っていたが、こうして直接繋がってみると、全然比べものになんかなんねぇ。

慣らすのに唾液しか使ってねぇってのに、キツすぎるってこともなく、溶け合うように馴染んでいく。

どうにか付け根まで挿れたものの、これはヤベぇ。

長くはもたなさそうだ。

 

「っ、動いても平気、か?」

「ああ……っ、ん、はっ」

 

蓮巳の返事を待てずに、動き始めてしまう。

互いの腹に蓮巳のモノが挟まるような形になっているから、動く都度に蓮巳の先走りが腹を濡らしていく。

浴衣を汚さねぇようにさりげなく開いて、擦り上げていくと旦那が艶っぽい声で俺を呼んだ。

 

「ん、んっ……き、りゅ……」

「こういう時の声、可愛いよな、旦那」

「……っ。うる、さ……あっ」

 

とろんと見上げてくる視線がまた可愛くて、つい頬に音を立てるキスを繰り返す。

音を鳴らす度に、旦那の中がびくびくと震えるのに、どこまで理性がもつのやら、だ。

秋だし、ここ数日は薄ら寒いってくらいの気温だってのに、今はめちゃくちゃ暑い。

浴衣が汗で湿ってるのが分かるくらいに、全身汗ばんでいるし、肌が直接触れ合っている部分はもっと熱い。

 

「ん、く、あ……っ」

「は……っ」

 

唇もさぞ熱いだろうと思うと、堪らなくキスしたくなった。益々艶っぽい表情になっていた蓮巳の顔に近付いて、キスしようとした、まさにその瞬間。

蓮巳が強く締め付けてきた。

 

「……っ、待て、今、音が」

「あれ? 紅郎ちーん、いないのか?」

「…………っ!」

 

よりにもよって、のタイミングだ。

仁兎が帰ってきたらしく、俺を呼ぶ声が聞こえる。

どたどたと響く足音に、こりゃ下手に動けねぇなとどうにか理性をフル稼働させて、気配を殺す。

なのに、旦那が物音がするたびに中をびくびくさせるから、堪ったもんじゃねぇ。

動けないのがキツイ。

滅茶苦茶に擦り上げてしまいたい。

 

「……っ、おい」

 

どうも、旦那は旦那で刺激が来てるのか、抗議の声を潜めた声で上げてきた。

くそ、こっちだってどうにもなんねぇんだよ。

 

「不可抗力だ。許せ」

 

それだけ言うのがやっとだ。

頼むから、早く部屋を出て欲しい。ほんの数分でいい。

どうにかそんな願いが通じたのか、仁兎が溜め息と共に独り言を言ったのが耳に届いた。

 

「うーん…………他の部屋行ってんのかな。一人で待ってんのも寂しいし、俺もどっか行こうっと」

 

少し、がさごそと何か物音がしていたが、そうしないうちに扉が閉まった音が聞こえる。

仁兎の足音が徐々に遠くなっていき、聞こえなくなったと認識したのが我慢の限界だった。

 

「うあっ!」

「っ!!」

 

腰を叩きつけるようにして、旦那の奥深くを突き上げる。

悲鳴は聞こえたが、もう止まれず、ひたすら熱い中を擦り上げていく。

 

「こ、の……っ、き、りゅ……、きさ、ま」

 

背にしがみつかれたが、止まれない。

 

「俺のせいだけじゃ、ねぇ……っだろ。旦那こそ、凄ぇっ、締め付け……っ、だった、ぜ」

「ん、く、あっ」

「煽ったのはおまえだっ……」

「…………っ!!」

 

つい、近くにあった耳に歯を立ててから、しまったとは思ったが、その衝撃でまた旦那の中がキツくなって、こりゃ、もうもたねぇなと腹の間にあった旦那のモノを握る。

 

「やめ……っ、そっち、触……るなっ」

「このまま出したら、浴衣、汚しちまう、だろう……がっ。今でも先走り凄ぇことになってん、のに」

「ひっ!!」

 

指先でカリや鈴口を刺激すると、蓮巳が泣きそうな顔になって、悲鳴を上げた。

ああ、これは知ってる。

イク寸前の顔だ。

どうにか汚さねぇように、蓮巳のモノの先っぽを包むようにしてから、終わりに向けて動き出した。

蓮巳の中の熱さと震えに、どんどん追い上げられていくのが分かる。

 

「あ、あ、も……っ、く、ああ!!」

「っ……ふっ」

 

付け根まで余すことなく、蓮巳に強く突き上げたところで、俺の手の中に蓮巳が熱を吐き出したのが分かり、俺もほぼ同時に旦那の中に吐き出した。

まるで吸い取るように、細かな動きを繰り返す蓮巳の中が、とんでもなく気持ち良い。

身体を支えてられねぇ脱力感が襲ってきて、かろうじて旦那を潰さねぇようにしながら、蓮巳の身体にのし掛かった。

……ゴム無しでなんてヤるもんじゃねぇな。

こんなの癖になったら、どうしようもねぇ。

理性なんか綺麗さっぱり吹き飛んじまう。

しばらく、二人分の荒い呼吸音を聞いていると、ようやく快感がピークを下がっていって、どうにか動けるくらいになった。

その隙に、少し身体を浮かせて、精液で汚れていない小指の方を使って、押し入れの襖を開ける。

一気に明るくなった視界に目がくらんだが、蓮巳が眼鏡を探しているのに気付いて、弦の部分を触らせてやった。

 

「ほら」

「すまん」

 

……やっぱり眼鏡が似合うな、蓮巳。

事後の艶っぽさを残しつつも、柔らかい表情を見せる、この時の顔が凄ぇ好きだ。

気付けばずっと絡めたままだった指は、一旦離れたかと思うと、そのまま俺の前髪を梳いてきた。

汗で汚れちまうってのに。

 

「ゴムなしって、思ったよりヤベぇな」

「同感だが、まだ繋がっている状態でそれを言うな。こっちまで意識するだろう」

「だな。……名残惜しいけど抜くぜ」

「んっ」

 

中から抜ける際に、零れそうになった精液も指に絡めて拭う。

いつもより温かい精液に、つい先程までの行為を思い出しそうになって慌てる。

うっかり汚さねぇように気をつけながら、押し入れから這い出た。

そのままテーブルに置いてあったティッシュ箱から、数枚ティッシュを引きだして手を拭った後は、股間も拭う。

……さっきまで、直接蓮巳の中に突っ込んでたんだよな、これ。

いや、思い出すな、ヤベぇ。

それこそ、収まりがつかなくなる。

どうにか拭えたところで、旦那にも声を掛けた。

 

「旦那のも拭こうか。出したの俺だし」

「自分で出来る。箱を寄越せ」

「ほらよ」

 

自分でやると言った旦那に少しだけほっとした。

これで旦那のを拭いてたら、絶対もう一度したくなるのが目に見えている。

畳の上を滑らせるようにして、旦那の方にティッシュ箱を渡すと、蓮巳が押し入れから出ないままで処理を始めた。

その間に、俺は着崩れていた浴衣を直し、どうにか体裁を整える。

直し終わった辺りで、旦那も押し入れから出て来た。

身体を伸ばした時に、微かに眉を顰めたから、もしかしたら、どこか擦ったとかしたのかも知れねぇ。

俺も身体を支えていた肘の辺りが赤くなっているし、膝なんかも少し擦っている。

けど、多分蓮巳はそれを言わねぇだろうし、俺も黙っておくことにした。

 

「風呂行くか。旦那もこのまま行くだろ?」

「当然だ。が、その前に貴様は少し髪を撫でつけろ。風呂で洗い落とすとはいえ、その髪で出歩いては何かあったと言わんばかりだ」

 

しまった、髪のことをすっかり忘れていた。

けど、指摘した当の本人も見事な乱れ髪だ。

 

「それを言うなら、蓮巳も髪に櫛入れた方がいい。てめぇも結構な乱れ方してんぞ」

「む」

 

手早く自分の髪に櫛を入れて整えてから、手ぐしで直そうとした蓮巳を止めて、引き寄せる。

 

「やってやるって。ほら」

「……頼む」

 

照れているのか、少し憮然と応じた蓮巳は俺から視線をそらす。

蓮巳の髪を梳いていると、まだ乱れたままの浴衣の襟元から、肩が赤くなっているのが見えた。

……やっぱり、床に擦っちまってたんだな。

仁兎がいなくなった後は我慢がきかずに、ガンガン動いちまったし。

蓮巳の肩を抱いて、小さく詫びた。

 

「すまねぇ」

「鬼龍?」

 

詫びの意味が伝わっていないのか、蓮巳が首を傾げる。

 

「……悪ぃな、旦那。かえって無理させちまった」

 

蓮巳の表情はすっきりしていたが、多分、身体には後々影響が出て来るだろう。

かなり気持ち良かったが、やっぱりちょっと浅はかだったかも知れねぇ。

 

「それはいい。俺も拒まなかったからな。お互い様だ。ああ……その、背中、傷になっていたらすまない」

「構わねぇよ。……俺は最中に旦那が余裕なくなってるのが分かるのって嬉しいしな」

 

旦那は申し訳なさそうに言うが、俺は本当にこれは嬉しいんだよな。

背中なら衣装に隠れて見えることはまずない。

体育の着替えとかで、ちょっと見られるかも知れねぇってのはあるけど。

普段は冷静沈着で、乱れるなんて、多分、誰もが予想出来ないような蓮巳の旦那。

そんなやつが、俺にだけは余裕のないところを見せ、その痕跡も残していく。

最高だろ、そんなの。

 

「……っ、煽るようなことを言うなと……っん」

 

ま、ちょっとした小言くらいはご愛敬ってやつだ。

こうして、口を塞いじまえばいい。

多分、時間に余裕があったら、今頃うるせぇんだろうなと思いながら、明るい場所での蓮巳を存分に味わった。

 

***

 

「うむっ! 今日も素晴らしい天気だな! 遠くの山がくっきり見える!! やっほー!」

 

予定していた行程を終え、あとは学院に帰るだけというバスの車内。

俺の席とは数列離れているってのに、守沢の声がここまで届く。

隣に座っている深海はのんきに、きょうもちあきはげんきですね~と言ったが、あれじゃ、隣にいる旦那は堪んねぇだろう。

 

「深海。ちょっと蓮巳と話あるから、守沢と席代わってくる。構わねぇか?」

「はい、いいですよ~」

 

どうせ、後は帰るだけなんだ。

ちょっと席を交代するぐらいはいいだろう。

一応、ユニットの話をするという言い訳も用意しておいて、席を立ち、蓮巳と守沢が並んで座っている前の席へと行く。

 

「よう、守沢。悪ぃが、少し席代わって貰ってもいいか? 蓮巳とユニット絡みの話をしたいんでな」

「おおっ、鬼龍! 勿論いいぞ! まだ旅行は終わってないのに、おまえたちは仕事熱心だな!」

 

こっちの申し出を快諾してくれた守沢が、直ぐ席を立って、俺の座っていた場所へと移る。

空いたところに俺が座ったら、蓮巳がほっとした表情を垣間見せた。

やっぱり、ちょっとしんどかったんだろうな。

 

「……大丈夫か、旦那。しんどそうだな」

「大したことはない。貴様に心配されるようなものでは……っ!?」

 

蓮巳の返事は待たずに、やつの頭を肩に強引に乗せた。

こういう時は、有無を言わさず実行するに限る。

 

「肩貸すから、少し寝ろよ。どうせ、もう後は学院に帰るだけだ。てめぇがやることもそんなに残ってねぇだろ」

 

元気の有り余っている守沢は別としても、みんな旅行で疲れて、比較的バスの車内は静かだし、あとは学院に着くのを待つだけだ。

到着の時間にも余裕はある。

だったら、少しでも休めば違うだろう。

旦那はちょっと迷ったみたいだが、大人しく俺の提案に乗ってくることにしたようだ。

眼鏡を外して、ブレザーのポケットにそれを突っ込むと、目を閉じる。

 

「…………一時間だ。きっかり一時間で起こせ」

「おう」

 

時間を確認しながら、蓮巳の頭を一度軽く叩いて、俺も少しだけと目を閉じた。

 

 

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