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姫初め<紅敬編><あんさんぶるスターズ!・紅敬・R-18>

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姫初めという名目の元に、ひたすら紅敬をいちゃいちゃさせたかっただけの話。

既につき合っている&夢ノ咲学院卒業直後から紅敬二人が同棲している前提で書いてます。

初出:2016/01/12 

文字数:19524文字 裏話知りたい場合はこちら

 

[蓮巳Side]

 

実家の寺がこの時期に忙しいのは、今に始まったことじゃない。

大晦日から三が日辺りは、参拝客がひっきりなしに訪れるから、家業を手伝えというのも、予め親から言われていたことだ。

鬼龍も家族と正月を過ごすからと、お互いに三十日の夜から実家に帰省し、今日、三日の夜に今一緒に住んでいるマンションに戻ることになっていた。

夢ノ咲学院を卒業後、俺たちは大学に通いながら、夢ノ咲学院の紅月ではなく、事務所に所属する形で改めて紅月として活動していく形になっている。

本格的な始動は、二ヶ月後に控えた神崎の卒業を待ってからになるが、今は準備期間ということで、お互いに実家にいては色々と不便な面もある為、鬼龍とは卒業直後から、事務所側が用意してくれたマンションで一緒に暮らしていた。

大晦日の夜に、鬼龍が家族揃ってうちの寺に参拝に来ていたから、その時に顔はちらりと見られても、俺の方は手が離せず、ほんの少し話が出来ただけだ。

最初はたかが四日だと思っていたが、いざ離れてみると思いの外長く感じられた日数に自分自身が驚いた。

俺たちが一緒に住み始めてから、十ヶ月近く。

鬼龍は週に何度かは実家に様子を見に行ったりしているが、考えてみれば連泊してくることはあまりない。

学院にいた頃にしてもユニット練習だ何だで、クラスや部活が違う割には、やつの顔を全く見ない日というのは意外に少なかったのだ。

とはいえ、年末年始に俺が忙しいのは、何も今年に限った事ではない。

以前だったら、四日間逢えないぐらいは、特に気に留めることはなかったはずだ。

それなのに、いつの間にか一緒にいることに慣れすぎてしまっていたらしく、顔が見られない、声が聞けないことが寂しくて堪らなかった。

帰省している間は忙しいから、電話だと出られるか分からない、何かあればメッセージで寄越せと言ったことに後悔したし、一度寂しさに気付いてしまうと、離れていることが妙に落ち着かなかった。

駅からマンションまでの徒歩十分足らずの道も、心なしか普段よりも遠くに感じる。

いつもより早足で歩いているのにも関わらずにだ。

家の仕事で当初の予定よりも遅い時間の帰宅になったから、今日もこのまま実家に泊まって行けと家族は言ったが、明日は用事があるからと断り、終電近い電車を使って帰ってきた。

用事があるのは本当だが、時間は夕方以降で慌てて帰る必要はなかった為、少しばかり気は咎めたが、それでも帰る以外の選択肢は選べなかった。

遅くなるなら駅まで迎えに行こうかと鬼龍は言ってくれたのを、女子どもじゃあるまいしと断ったが、迎えに来て貰っていたら、今頃、顔は見られていたのかと思うと、早まった気がする。

オートロックになっている、マンションのエントランスのドアを部屋の鍵を使って開け、ちょうど一階についていたエレベーターに乗り込み、住んでいる階のボタンを押す。

到着するまでの些細な時間さえもどかしかったから、エレベーターのドアが開いた途端、すぐに飛び出し部屋へと走った。

エントランスのドアを開いた時から、手にしていたままだった鍵を玄関のドアノブに差し込んで回し、鍵を抜いたところで、ドアが向こう側から開く。

鍵を開ける音で、鬼龍が俺が帰ってきたことに気付いたんだろう。

 

「よう。お帰り」

「遅くなってすまない。ただい……っ」

 

言い終わらないうちに、部屋の中に引きずり込まれる形で腕を引かれて、玄関のドアが閉まるか閉まらないかの段階で、鬼龍が俺の後頭部と腰に手を回して、キスして来た。

 

「ん……っ!」

 

帰っていきなりそれかと、思わなくもなかったが、数日ぶりになるキスの気持ち良さに文句を言う気は消え失せる。

抗議の為に上げようとした手は下ろし、俺も鬼龍の背と腰に手を回した。

触れ合わせていただけの唇が開いて、舌で開けろと示してきたから、それに応じる形でこっちからも舌を絡める。

後頭部に回されていた手が首へと下ろされて、巻いていたマフラーが緩められる。

直接、首筋に触れてきた鬼龍の手が温かい。

離れていった唇に、物足りなさを覚えて、鬼龍に飢えていたことを自覚した。

 

「旦那の耳冷てぇな」

「結構今夜は冷えていたからな。歩いているうちに冷たくもな……んっ……」

 

鬼龍が俺の左耳を指で軽く弄んでいたかと思うと、口の中に含むように収め、耳殻を甘噛みしてきた。

舌でも耳を探り始めたのと同時に、右耳は手で覆われて、蠢く舌が立てていく水音が妙に頭の中に反響していく。

それが興奮を煽っていって、鬼龍が冷たいと言ったばかりの耳に、熱が集まり始めたのが分かった。

耳だけではなく、下半身もだ。

頭をもたげ始めた欲望が、もっと鬼龍を感じたいと訴えかけて来ている。

 

「……風呂入ってきてるなら、このまま俺の部屋に行ってもいいか?」

「ああ。問題ない」

 

俺の耳元で低く囁いてきた鬼龍の声にも、熱っぽさが含まれている。

こいつが自分の部屋に誘うというのは、セックスしたいという意味だ。

帰省する前日にもセックスはしていたし、一緒に住んでいても双方のタイミングが合わない時には、一週間程度空くのも特に珍しいことでもない。

にも関わらず、今したくて堪らないのは、やはりこいつの顔を見られていなかったってのが大きいんだろうな。

コート越しだと、流石に体温はほとんど伝わってこないから、こうやって抱き合っていてももどかしさを感じてしまう。

 

「なら、早速姫初めといくか。ああ、旦那が眠かったら、ちょっと一眠りしてからでも構わねぇけどよ」

「目も頭も冴えている。寧ろ、しばらく眠れそうにない。……まずは久し振りに触りたい」

「俺もだ。特に今日なんかは、夜になったらてめぇと数日ぶりに逢えるってことしか、頭ん中になかった」

 

再び、唇を重ねながら、姫初めは一月二日にするものらしいとか、男同士での行為だと姫とは称さないんじゃないかとか、思考の片隅に過ぎったが、特に口にして水を差すほどのことでもない。

一度、触れてしまうと理性なんて呆気ないものだ。

今は一刻も早く、全身で鬼龍の熱を感じたかった。

 

***

 

「まだちゃんと残ってるな」

「貴様のもな。思っていたよりも残るものだ」

 

帰宅して、数分経たないうちに、二人揃って身に着けていたものを全部脱ぎ、ベッドに横になりながら向き合っていた。

鬼龍の内股には、先日俺が残したキスマーク、俺の内股にも、やはり先日鬼龍が残していったキスマークが、まだそれぞれに色濃く残っている。

俺の方は寺の仕事の都合上、年末年始に着物も着るから、首筋や襟元の辺りにはキスマークを残せない状態だった。

数日逢えなくなるならと、自分たち以外は目にしないような場所に残しておこうと決めた結果がこれだ。

皮膚の柔らかい場所だからか、予想していたよりも痕がつきやすく、ついお互いに熱が入って、幾つか痕を残したのを思い出す。

鬼龍に残しておいた痕を指で触ると、鬼龍も俺の内股の痕に触れてきた。

きわどい部分だから、つい先日の流れを思い出してしまう。

 

――旦那、色白いから映えるな。つい、幾つもつけたくなる。

――つけるのは構わんが、同じ数だけ貴様にも残すからな。

 

……あれは熱が入ったと言うよりは、ムキになってしまったと言った方が正しいかも知れない。

 

「風呂場で見ると、ついニヤニヤしちまって、自分でしたくもなったけどよ。やっぱり、年の最初は旦那としたかったから凄ぇ我慢してたんだよな」

「……別にしても構わんだろうに。それで文句を言う気はないぞ?」

「そんなことは分かってるさ。けど、そういうてめぇだって、自分じゃしてねぇんだろうが。違うか?」

 

疑いもしていないような口ぶりでそう言ってのけた鬼龍の手が、内股の痕から俺のモノへと移動する。

程良い力加減で握られ、扱かれていくのに、息が上がり始めた。

 

「なんで、そう……んっ、思う」

「単純に寺の仕事で忙しかったんだろうってのと、あとはまぁ何となくな。おまえ、俺と一緒に住み始めてから自分でしてねぇっぽいし」

「……誰、のせいだと……っ!」

 

確かに、こいつと一緒に住み始めてから自慰行為をしてないが、それについては、鬼龍とのセックスで性欲が満たされるから、わざわざする気になれないのが大きな理由だ。

さらに言うなら、セックスと自慰行為は別物だと分かっていても、こいつの触り加減が絶妙で、あまり自分でしたいと思わなくなってしまっていた。

 

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ、旦那。……最初の頃ならともかく、最近は旦那が凄ぇ気持ち良さそうにしてくれるから、それ見たさに無駄打ちする気になんねぇんだから」

「ふあっ!!」

 

カリの辺りを強めに扱かれて、腰に甘い痺れが走る。

これ以上される前に、俺も鬼龍のモノを触ろうとしたが、触る前に鬼龍の頭が下の方へと移動した。

止める間もなく、ざらついた舌が俺のモノの付け根に触れた感覚に焦る。

 

「待てっ、口、は」

「イカせる前には止めてやるよ。口じゃイキたくねぇんだろ?」

「……んっ、あ」

 

何で分かると聞く前に、ちゅ、と小さなリップ音がして、袋に舌が這わされた。

先端を指先で弄られながら、付け根と袋を舌と唇で弱く触れられているのは確かに刺激としては強くはない。

が、それだけにもどかしさはひとしおだ。

もっと触って欲しくて、腰が動いてしまいそうになる。

 

「……位置を、変え……ろ、きりゅ……っ……俺、も」

「勘弁してくれ。今おまえに口でされたら、こっちがもたねぇ」

「そん、な……んっ!」

 

せめて、こっちからも触れればと、軽く髪を引っ張って訴えたのは流された。

先端を弄っていた指が離れたかと思った次の瞬間、聞こえてきた水音に次の動作を察してしまう。

予想通りにローションで濡らした鬼龍の指が、すぐに孔の方へと触れてきた。

俺に口でされたらもたない、なんて発言したことから考えても、鬼龍の方にも余裕はないんだろうが、それでも、指は性急に動くことはなく、優しく孔の周囲を探っていく。

まだ、冷たさを残していたローションが体温に馴染んだ頃に、指が静かに中へと忍ばされる。

 

「ふ……」

「蓮巳の旦那」

「なん、だ」

 

中を弄られながら、話し掛けられるのはどうにも恥ずかしく、文句を言おうとしたが、目の前に来た鬼龍の顔を見て、言葉を発することが出来なくなった。

情事の最中と思えないような、柔らかい表情をしている癖に、眼差しだけは熱っぽく、何とも言えない色気を漂わせている。

何て顔だ。

こんなのはずるい。

文句を言う前に、甘えさせて、好きにしろと言ってやりたくなってしまう。

 

「……凄ぇ寂しかった。たった四日だったのにな」

「たかが四日、されど四日、だ。……貴様だけが寂しかったと思うなよ、紅郎」

 

何かの拍子に口から出ては関係を勘ぐられかねないからと、普段はあまり言わないようにしている下の名前で呼ぶと、鬼龍の目元が優しく緩む。

……何とも分かりやすい男だ。

いや、きっと俺もこいつからしてみたらそうなのだろう。

何となくではあるが、一緒に住んで共にいる時間が増えてから、以前よりも鬼龍の考えというか、望んでいること、しようとしていることが感覚的に伝わることが多くなった気がする。

理屈じゃないが、不思議なものであまり外れてもいないようだ。

鬼龍が顔を寄せて来て、鼻先だけ触れ合わせた状態で、言おうとしている言葉も何となく想像がつく。

 

「ちゃんと分かってるぜ。敬人も寂しかったってのはな。おまえ、帰ってきたとき、息弾ませてたもんな。駅から早足で急いで帰ってきてくれたんだろ?」

「んうっ!」

 

中にある鬼龍の指が弱い場所を押してきた。

走った甘い刺激につい鬼龍の腕を掴んだが、それ以上は指を動かしては来ない。

おかげでイッたりはせずに済んだが、今度は動かないままの指がもどかしくて仕方がない。

 

「な? ちゃんと分かってるだろ?」

「きさ、ま……」

 

ちゃんと分かってる、は俺が帰ってきた時のことか、それとも今、イク寸前で留めた匙加減についてなのか。

恐らくは両方だろう。

抗議のつもりで掴んだ腕を軽く抓ったら、頬にキスされた。

その間に指が中から抜かれて、頭上で小さな音が鳴る。

視界の端で鬼龍がゴムの包装を二つ手にしていたのが見えたから、反射的にその手を掴んで、鬼龍の手からゴムを奪い取った。

 

「つけるのくらいやらせろ。両方とも俺がやる」

「……人の楽しみ奪っていくんじゃねぇよ」

 

そうは言いつつも、鬼龍はダメだとは言わず、微かに苦笑いを浮かべた後、そのまま身体を起こした。

俺も身体を起こし、まずは自分の方にゴムを着ける。

俺の方にも着けておけば、達したときに必要以上に汚さずに済むからと着けるようになった。

鬼龍にも着けようともう一つのゴムの包装を破いた。

さっきは内股に触れるだけで終わってしまっていて、鬼龍のモノにまでは触れていなかったのを思い出す。

緩く握るようにして、指で支えると鬼龍のモノが微かに震え、息を飲むような音が聞こえる。

ゴムを着ける前に、付け根から先端の方まで裏筋に沿って、親指でなぞったら、鈴口に辿り着く前に鬼龍に手を掴まれて引き剥がされた。

 

「……っと、旦那。ストップ。本気で余裕ねぇから、変に刺激すんな」

「一度イッてもいいぞ」

「俺だって、口じゃイカせない程度に抑えてやったろ。頼むから、着けるだけにしてくれ」

 

鬼龍が俺の肩に頭を預けながら、溜め息を吐いた。

少しだけ、強引にイカせてやりたい気もしたが、先にこっちの意図を汲み取って、刺激を留めてくれたのも確かだから、大人しく鬼龍のモノにゴムを着けた。

毛を挟まないように気をつけながら、ゴムを付け根まで下ろしたところで、鬼龍が俺の肩に体重を掛けるようにしながら、ベッドに身体を横たわらせた。

すっかり見慣れた部屋の天井を背に、鬼龍が俺を見下ろす。

足を開くと、鬼龍が手のひらで痕の残っている部分の内股を触れてきたから、身体の力を抜く。

大分、身に馴染みつつある、鬼龍の熱が中へと溶け込んできた、その瞬間。

繋がった場所から熱さが一気に広がる。

直感でまずいと思った時には遅かった。

 

「う、あ! まっ、ああ!」

「くあ!!」

 

限界は、鬼龍が俺の中へと挿れてきたそのタイミングだった。

腰から背筋へと馴染んだ快感が駆け抜けて、あっけなく達してしまう。

数日逢えなかったからとはいえ、いくら何でも、だ。

あまりの情けなさに目眩がする。

 

「……俗に三擦り半とは聞くけどよ……」

「っ、うる、さ…………って。…………貴様も、か」

「……ああ。参ったな」

 

鬼龍が俺から目を逸らしてぼやく。

身体は繋がったままだが、キツさはなく、一度達したことが感覚で伝わった。

自分一人じゃないことにほっとしたし、似たようなタイミングで達したことに悪い気分はしない。

何より、余裕がない程、相手に焦がれていたのもお互い様だと思うと愛おしさも増す。

鬼龍の顎に手を伸ばし、俺の方を向かせると苦笑いしたが、それも一瞬で、優しく唇を重ねて来た。

 

「ゴム替えるから、一回抜くぜ。続けていいよな?」

「ああ。こっちも外す」

 

鬼龍が中から抜けていったところで、こっちも柔らかくなったモノから、ゴムを外す。

口の方を縛って、ベッド脇のゴミ箱に捨てると、鬼龍も間髪入れずに捨てた。

枕元から、再びゴムを取り出したが、包装を開けるのは迷った。

一度出したから、興奮は今なら比較的落ち着いている。

このまましても今度は一突きで即終わり、ともならんだろう。

それなら――。

 

「「なぁ、次はこのまま――」」

 

双方の声が同じタイミングで被って、思わず目を見開く。

目の前の鬼龍も呆気にとられた表情になっていたが、やがてどちらからともなく笑い出した。

 

「……凄ぇ被ったな、今の」

「ああ。妙なところで意気投合した」

「新年早々、気が合って何よりだ。……中には出さねぇけど」

 

鬼龍が俺の腹に手のひらを這わせながら言う理由は、俺にも分かっている。

 

「すまない。明日の予定がなければ、中でいいと言ってやりたいとこだが」

 

明日の夜の用事は、本格的な始動を控えた紅月に対して、音楽雑誌から取材の申し入れがあったからだ。

中に出されると、後始末をしても、多少影響が残ってしまう。

 

「分かってる。明日帰ってきた後、身体が平気そうだったらいいか?」

「ああ。それなら一向に構わない。……ふふ」

「ん?」

 

俺がつい笑ってしまったのを訝しんだのか、鬼龍が首を傾げた。

 

「何。正直で何よりだと思っただけだ」

 

前はどうも俺を気遣いすぎる部分があったから、それを思えば随分甘えてくれるようになったのが嬉しい。

 

「てめぇだって、直接した時、凄ぇ良さそうな反応するじゃねぇか」

「俺の方とて、ゴムのあるなしで感覚が違うからな。本心を言えば、ない方が気持ち良いし身体にも馴染む。最中に限ればで、後の処理等についてはまた別の話だが」

「……あんま、そういうこと言うなよ。ゴム使えなくなっちまうだろうが」

「ん……」

 

唇を軽く重ねて、再びベッドに横たわった。

片手だけ繋いで、指を絡めておき、お互いにもう一方の繋いでない方の手で、身体のあちこちに触っていく。

スキンシップによる緩やかな快感でも、数分もすれば激しさを伴う快感が欲しくなる。

腰を寄せていったのはどちらからだっただろう。

触れ合わせたことで、お互いのモノが再び固さを取り戻しているのが伝わると、それこそ興奮を煽られていく。

さっきはまともに受け止める余裕さえなかったが、今度はさっきよりは状況を把握出来る程度には、まだ理性が残っている。

 

「なぁ、もう一回、指で慣らすか?」

「いや、さっき一度、挿れてるから……多分、そのままで平気、だ」

 

鬼龍も多少息は乱しているが、俺の方はもっとだ。

慣らす時間も惜しいと言うのを見抜かれているのか、それとも鬼龍も焦れているのか、やつもそれ以上食い下がってはこなかった。

 

「分かった。力抜いてろ」

「ん……」

 

足を開いたら、今度は深く挿れてくるつもりらしく、足を抱え上げられ、鬼龍の肩に乗せられる。

繋がっていく様子がそのまま見えて、触覚と視覚の両方で訪れた快感に声が震えた。

 

「ふ……っ、あ、んん、あ、あ」

「……く、だん、な」

「ん……っ、何、だ」

「めちゃくちゃ……っ、気持ち良い。今度も、あんま、もたなかったら、悪……いっ」

「構わな……うあ!」

 

半ばまで入ったと思ったら、その後は一気に奥まで突き上げられる。

俺の足を抱えている、鬼龍の指が少し食い込んできた。

さっき、一度イッてるのになと鬼龍がぼやいたのが聞こえて、すぐに律動が開始される。

最初から狙っているのか、さっき指でも押された場所を重点的に擦り上げていく。

鬼龍の首に手を回して、しがみつくのが精一杯だ。

 

「んっ、くろっ、んうっ、そ、こ……っ」

「ここら辺、だよな。旦那、弱ぇのっ」

「うあ、あっ、そ……っ、ああ!」

 

時折来る、深い場所への衝撃は腰が溶けてしまいそうな気持ち良さだ。

繋がっているのか、繋がっていないのかの境界線もあやふやになり始めて、身体中が熱い。

鬼龍が俺の足を肩から下ろし、腰を掴んでゆさぶり始めた。

動きながら、鬼龍の指が腰骨の辺りをゆるく引っ掻くように刺激してくる。

 

「……ふ、あっ」

「敬人、イケそう、か?」

 

頷くと腰を叩きつけてくるスピードが上がった。

灼熱感のある腹に、鬼龍の額から滴った汗が落ちたのが、最後の一押しとなって、背筋を強い快感が駆け上がっていった。

 

「あ、ああ、くろ……うっ……!」

「……っと!」

 

鬼龍が抜けた直後に精を吐き出し、すぐに鬼龍も俺の腹に出したのが見えた。

二人分の精液が俺の胸と腹の上に散って、においが鼻をついてくる。

まだ、呼吸の整っていない鬼龍が、俺の身体の上に乗ってもいいかと目で聞いてきたから、腕を差し出して応えた。

どうせ、寝る前に風呂で洗い流すんだ。

鬼龍が俺の身体に乗って、体重を預けてくる。

この体温と重さに、交わった実感が湧くし、やはり肌を寄せているというのはそれだけでも気持ち良い。

近くなった鬼龍の頭を撫でていると、ふわ、と汗のにおいに混じって、すっかり覚えたシャンプーの香りがし、今在るべき場所に帰ってきたのだと安堵の息を吐いた。

鬼龍と一緒に住み始めてからは、俺も同じシャンプーやボディソープを使うようになっていたが、実家に戻っていた時は実家にあるものを使っていたから、今は恐らく俺の方は全然違う香りがするんだろうな。

鬼龍の方からも俺の頭に手を伸ばして、撫でてきた。

 

「……懐かしい香りがする」

 

ぽつりと零した声は、どこか残念そうな響きを含んでいるようにも聞こえた。

 

「白檀か?」

「ああ。こんなにおまえから強く香ってくるのは久々だ」

「寝食や風呂以外は、ほとんど本堂の方にいたからな。余計、香りが強いかも知れん」

 

寺で生まれ過ごして来たから、俺の身体からは寺で使っていた線香による白檀の香りがしていたらしい。

自分では馴染みすぎていて、イマイチ自覚に乏しいが、そういえば盆に数日帰省していた時にも言われたな。

鬼龍と一緒に住むことで、長年過ごした寺を離れ、最近は鬼龍と似たような香りだったからだろう、どこか残念そうに言うのは。

 

「……香りなどすぐ戻る。それこそ、この後少し休憩したら風呂に入るしな。……たまには一緒に入るか?」

 

何となく気落ちしているような様子が気に掛かって、甘やかしてやろうかとそんなことを口にしたら、鬼龍が驚きの表情を浮かべた。

 

「珍しいな。終わった後、風呂一緒に入るの嫌がること多いのに」

「今日は外で出してて、きっちり後始末するほどの状態じゃないからだ」

 

嫌なのは風呂に一緒に入ることではなく、そこでする後始末を見られることだ。

何度も肌を重ねておいてなんだが、どうもそれとは別の気恥ずかしさがある。

そこに関しては、未だにまだ慣れない。

風呂だと電気を消せず、明るい所為もあるだろうとは思うんだが。

 

「あー……それなんだけどよ、蓮巳」

「ん?」

 

鬼龍の目が少し泳いだのを訝しんだら、鬼龍が軽く溜め息を吐きながら、謝ってきた。

 

「悪い、少し中で出ちまったと思う。抜ける時にもうヤバかったから」

「……そういう、ことか」

 

どうも気落ちした様子を見せていたのは、俺が身に纏ってる香りだけが原因ではなかったらしい。

とはいえ、盛り上がったのは俺の方も同じだ。

仕方ないなと言う代わりに、鬼龍の頭をぽんぽんと叩いた。

 

「このくらいなら平気だ。……気になるなら、貴様が確認すればいいだろう」

「確認……て、旦……っ」

「頭を上げるな! そのままでいろ」

 

頭を上げようとした鬼龍を押さえ込んで、顔を見られないようにした。

今の自分の顔は見られたくない。

顔が熱くなっている自覚くらいはある。

しばらく鬼龍は黙っていたが、やがて嬉しそうな笑い声が聞こえてきた。

 

「ああ。ちゃんと確認してやるよ。仕事に支障出たりしねぇようにな」

「…………ふん」

 

鬼龍が俺の頭に置いていた手で、優しく髪を梳いてくる。

あと、数分くらいはこのままでいいだろうと、目を閉じて温もりに身を委ねた。

 

[鬼龍Side]

 

さっきから、スマホで時間を確認するのは何度目だったか。

自分でも落ち着きがねぇなって自覚はあったが、自覚していてもつい数分もしないうちに見ちまう。

俺も蓮巳も年末年始は実家に帰省していて、三が日最終日の今日、現在俺たちが一緒に住んでいるマンションに戻ってくることになっていた。

紅月で活動を始めた頃から知っていたことだが、蓮巳の実家は大きい寺で、年末年始は参拝客の対応やら、挨拶にくる檀家への対応やらで家族総出の忙しさになる。

大晦日から元旦に掛けて、家族も巻き込むかたちで蓮巳の実家の寺に参拝に訪れたが、やはり蓮巳は忙しかったから、ものの二、三分話しただけで終わった。

今日も本当はもっと早い時間に帰ってくるはずだったが、実家の用事が立て込んでしまって、こっちに戻ってくるのは終電近くになると連絡があった。

蓮巳の実家近くの駅から打ったらしい、これから電車に乗るというメッセージがあってからの時間を考えると、何もなければあと十分もしないうちに家に着くはずだ。

旦那は駅まで迎えに来なくていいと言ったが、これだけスマホで時間を確認するのを繰り返しちまうくらいには気になってんだから、さっさと行っとけば良かったかも知れねぇ。

蓮巳ほど忙しいわけじゃねぇが、俺の方も親戚の家に行ったり、妹と初売りに行ったりで、年明けは慌ただしくなるから、四日経つのなんてすぐだと思っていたが、甘かった。

蓮巳と一緒に住むようになってからは、ほぼ毎日のように顔をつきあわせていたからか、自分で考えていた以上に旦那が傍にいねぇってことが落ち着かなかった。

大晦日に蓮巳の寺でちょっと話した以降は、声さえ聞けてねぇんだよな。

忙しいから、何かあればメッセージにしろって言われて、まぁ旦那は基本的に夜寝るのも早いし、起きてる時間は実際電話に出る暇もねぇだろうと、その時は納得したが、こうしてずっと声を聞かずにいるのは、何とも寂しいもんだった。

旦那が帰ってくるのを待っている今も、つい夢ノ咲学院時代に幾度か撮ってあった、紅月のライブ映像を観て、蓮巳の姿と声を追っちまっている。

映像が終わり、もう一曲聴けば頃合いかと思っていたその時。

玄関の方で鍵の鳴る音がして、反射的に腰を浮かした。

玄関に行って、ドアノブに手を掛けたところで鍵が開いたから、こっちからドアを開ける。

 

「よう。お帰り」

 

少し驚いた表情をしたのも束の間、次の瞬間には蓮巳の目元が優しく笑った。

少し息を弾ませて、頬が赤くなっているのを見ると、急いで帰ってきてくれたんだろう。

そう思うと、もう堪らなかった。

 

「遅くなってすまない。ただい……っ」

 

この顔が見たかったし、この声が聞きたかった。

旦那の腕を引いて部屋に入れ、自分の腕の中にその身を収めたところですかさずキスを交わす。

 

「ん……っ!」

 

触れた唇の柔らかい感触が気持ち良いが、温かさだけではなく熱さが欲しい。物足りない。

旦那も一瞬の間はあったものの、俺の背と腰に手を回してくれたところで、舌で蓮巳の唇を突いて開かせた。

絡めた舌の熱さと、さらにそれより熱い口内にキスだけじゃ足りず、旦那が襟元にしていたマフラーを緩め、首筋に手を這わす。

マフラーに包まれていた首筋は温かいが、そのすぐ上にある蓮巳の耳に指を伸ばしてみれば、そっちは随分と冷たい。

 

「旦那の耳冷てぇな」

「結構今夜は冷えていたからな。歩いているうちに冷たくもな……んっ……」

 

指で軽く擦ったくらいじゃ、あまり温度の変わらなかった旦那の左側の耳を、口の中に収める。

軽く噛んだり、舌で弄ってると、少し温かくなってきたから、もう一方の耳も手のひらで覆うようにして、さらに口を使って弄ぶ。

風呂に入ってから帰ってきたらしく、石鹸の香りと白檀の香りが入り混じって、心地良い。

両方の耳を塞いだ状態でディープキス、なんてのもキスしている時の音が頭ん中に反響するから興奮を煽るってどっかで見かけたが、片耳を舌と唇で刺激しつつ、もう片耳を塞いで、音を反響させるってやり方でも多少効果はあったようだ。

唇で触れてる耳も、手で触れてる方の耳も温度が上がってきているし、蓮巳の呼吸も弾んでいるのが聞こえる。

 

「……風呂入ってきてるなら、このまま俺の部屋に行ってもいいか?」

「ああ。問題ない」

 

躊躇いもなく応じた旦那の声は、既に少し掠れている。

蓮巳が帰ってくるまでは、帰ってきたらまずはコーヒーでも淹れて、この数日であったことを話しつつ、少し暖まってから部屋に、なんて思っていたくせに、いざ旦那を目の前にすると欲しいという感情がそれを一気に塗り替えてしまった。

 

「なら、早速姫初めといくか。ああ、旦那が眠かったら、ちょっと一眠りしてからでも構わねぇけどよ」

「目も頭も冴えている。寧ろ、しばらく眠れそうにない。……まずは久し振りに触りたい」

「俺もだ。特に今日なんかは、夜になったらてめぇと数日ぶりに逢えるってことしか、頭ん中になかった」

 

今日、実家で過ごしていた時に、妹に何度も上の空だと言われちまったのを思い出したが、蓮巳も俺と似たようなことを考えていてくれていたのが嬉しい。

一人で気持ちが突っ走ってたんじゃ切ねぇもんがあるけど、どっかで波長みたいなもんが合うのか、あんまりそういうことねぇんだよな。

もう一度唇を重ねると、俺の背と腰に回っていた蓮巳の腕に、力が入ったのが伝わる。

求めてるのは俺だけじゃねぇってことにほっとしながら、俺も旦那を抱き締めた。

 

***

 

そうやって、玄関から俺の部屋に直行して数分後。

お互いに服を脱いで、ベッドに横になっていた。

蓮巳が指を伸ばして、俺の内股に残っているキスマークに触ってきたから、俺も同じように旦那の内股のキスマークを辿っていく。

 

「まだちゃんと残ってるな」

「貴様のもな。思っていたよりも残るものだ」

 

ちらりと蓮巳の表情を窺うと、随分と嬉しそうにしていて、俺までつい口元が緩んじまう。

元々、首筋や襟元なんて分かりやすい場所には、キスマークを残すことはほとんどない。

紅月としてライブ活動をしていないタイミングだと、まだ誤魔化しがきくから、どうにか残せるってくらいだ。

年末年始は、蓮巳は実家の仕事で着物を着るから、やはり首筋や襟元には残せねぇ、でも、何処か別の場所にと考えた末に残したのがこの内股だ。

こんな場所なら、お互い以外には見ることもねぇだろうと、帰省する前夜のセックスでつけ合った。

 

――旦那、色白いから映えるな。つい、幾つもつけたくなる。

――つけるのは構わんが、同じ数だけ貴様にも残すからな。

 

蓮巳がムキになったように、俺が残したキスマークを数えながら、本当に同じ数だけつけていったのには笑ったし、無茶苦茶可愛かった。

冷静沈着な司令塔なんて称されたりもするが、素のこいつは結構子どもっぽいところもある。

 

「風呂場で見ると、ついニヤニヤしちまって、自分でしたくもなったけどよ。やっぱり、年の最初は旦那としたかったから凄ぇ我慢してたんだよな」

「……別にしても構わんだろうに。それで文句を言う気はないぞ?」

「そんなことは分かってるさ。けど、そういうてめぇだって、自分じゃしてねぇんだろうが。違うか?」

 

内股に置いていた手を少し上にずらして、蓮巳のモノを握った。

手の中でびくりと震えたモノをゆっくりと扱いていくと、旦那が呼吸を乱し始めていくのは、何度見ても気分がいい。

俺の内股にある手も動きが止まっていて、俺にされるがままだ。

 

「なんで、そう……んっ、思う」

「単純に寺の仕事で忙しかったんだろうってのと、あとはまぁ何となくな。おまえ、俺と一緒に住み始めてから自分でしてねぇっぽいし」

 

そういう俺も、蓮巳と一緒に住み始めてからは、ほとんどオナニーなんてすることがなくなった。

セックスはお互いの予定やら、体力やらを考えた上で無理のないようにしているとはいえ、それで十分満たされてるからだ。

 

「……誰、のせいだと……っ!」

 

潤み始めた目が少し恨みがましく俺をみるが、そりゃこっちの台詞だ。

 

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ、旦那。……最初の頃ならともかく、最近は旦那が凄ぇ気持ち良さそうにしてくれるから、それ見たさに無駄打ちする気になんねぇんだから」

「ふあっ!!」

 

カリの部分を強く扱くと、旦那の腰が跳ね、甘さを含んだ声が耳に心地良く響いた。

蓮巳と身体の関係を持ち始めた頃は、キツそうな様子を見せることもあったが、特にここ数ヶ月――いや、一緒に住むようになってからだな。

セックスする頻度が高くなった所為か、前よりも快感を得られるようになったらしく、時にこっちが驚く程の反応を返してくれることがある。

さらに言えば、このマンションは契約している事務所が借りてくれた部屋で、俺が使っている部屋は、ばっちり防音仕様になっている。

勿論、セックスの為じゃなく、歌の練習等で活用する為だが、声を抑えずとも済むってことで、蓮巳とセックスする時はいつも俺の部屋を使っていた。

多分、その声を抑えなくていいってのが、箍を外した切欠には繋がった気もする。

触っている蓮巳のモノが先走りを滴らせて、俺の手を濡らしていく。

もっと、こいつを感じさせたいと、頭を下げて、身体の位置をずらし、目の前にきた旦那のモノの付け根を舐めた。

 

「待てっ、口、は」

「イカせる前には止めてやるよ。口じゃイキたくねぇんだろ?」

「……んっ、あ」

 

舐めた場所にキスして、そのまま玉袋の方も舐めていく。

先っぽから少し深いとこまで咥えこんで、啼かせてやりたくもあるが、今の興奮度合いでそれをやると、旦那も俺ももたなくなりそうだし、こっちとしてもちょっと惜しい。

なんで、強い刺激にはならねぇように先っぽは避けて、付け根と袋の方だけを舌と唇を使って、優しく触れていく。

それでも、十分感じてくれているようで、旦那の腰が微かに震え、頭上から呻くのが聞こえた。

髪が引っ張られるのも、痛いってよりは快感の後押しになっている。

 

「……位置を、変え……ろ、きりゅ……っ……俺、も」

「勘弁してくれ。今おまえに口でされたら、こっちがもたねぇ」

 

変なところで研究熱心というか、何というべきか。

元から読書家の一面があるのは知っていたが、蓮巳が色々と本やらネットやらでやり方を調べた結果、今となっては怖いぐらいにフェラするのが上手い。

ただでさえ、好いた相手に挑発するような視線で、上目遣いをされるってだけでもくるものがあるのに、巧みな舌遣いや絶妙な力加減をしてくる唇がプラスされるから、たまったもんじゃねぇ。

あのやり方を思い出すのさえ、ヤバいくらいだ。

蓮巳に口でされるのは気持ち良いが、良すぎるからこそ、こんな余裕のないタイミングでは避けておきたい。

下手に、こいつがそれでもと動いてこねぇうちに、用意してあったローションで指を濡らして、蓮巳の尻の間へと滑り込ませた。

 

「そん、な……んっ!」

 

蓮巳の負担にならねぇように、加減しながら孔の周囲から触っていくと、触れてる場所が誘うようにひくつく。

すぐには挿れずに、指先のローションの温度が馴染んだと判断したところで、中指を蓮巳の内側へと進ませた。

今日触れた旦那のどこよりも熱い場所が、指を包んでくる。

 

「ふ……」

「蓮巳の旦那」

「なん、だ」

 

中の指はそのままに、頭の位置を再び旦那の目の前に戻すと、何とも艶っぽく紅潮した顔が出迎えた。

他の誰も知らねぇ、俺だけが知っている蓮巳の表情。

よく、目は口ほどに物を言う、なんて聞くが、セックスしてる時の旦那の目は正にその状態だ。

うぬぼれじゃなく、おまえじゃなければダメなんだと、全身で求められてるってのが強く伝わって、どうしようもないくらいに愛しい。

俺の方こそ、こいつじゃなきゃダメなんだと、実感する瞬間だ。

 

「……凄ぇ寂しかった。たった四日だったのにな」

「たかが四日、されど四日、だ。……貴様だけが寂しかったと思うなよ、紅郎」

 

拗ねたように俺の下の名前を呼んでくれる声が、甘く身体の隅々まで染み渡っていく。

日常的に下の名前の方を呼ぶことで、二人の関係が何かの拍子にバレてはまずいと、お互い頻繁には口にしないようにしているが、このタイミングで聞きたいって時には、旦那はちゃんと名前で呼んでくれる。

以心伝心ってのはあるもんだよなと、旦那に顔をもっと近づけて、鼻先だけ軽くくっつけた。

 

「ちゃんと分かってるぜ。敬人も寂しかったってのはな。おまえ、帰ってきたとき、息弾ませてたもんな。駅から早足で急いで帰ってきてくれたんだろ?」

「んうっ!」

 

俺も旦那を下の名前で呼びながら、中に挿れたままの指で、蓮巳が感じる場所を押す。

旦那が俺の腕を掴んで来たが、指はそこで止めておいて、刺激しないようにした。

ただ、中から指を抜いてはいないから、焦れるだろう。

蓮巳の足が、もどかしそうにシーツの上で動いたのが見える。

 

「な? ちゃんと分かってるだろ?」

「きさ、ま……」

 

旦那が俺を睨みながら、掴んでいる腕を抓ってきた。

必要以上に焦らすのも逆効果になるし、俺も挿れたくなってきたから、蓮巳の頬に一度キスして、指を中から抜く。

ベッドの枕元にあるスペースに置いてあるゴムを二つ取ったら、蓮巳が俺の手からそのゴムを両方とも奪い取っていった。

 

「つけるのくらいやらせろ。両方とも俺がやる」

「……人の楽しみ奪っていくんじゃねぇよ」

 

蓮巳がゴム着けるなんて言いだしたのは、もしかしたら、今の意趣返しなのかも知れねぇ。

あまり、旦那に触られるとヤバそうなんだけどな。

自分で自分のモノにゴムを着けるのはともかく、着けるのが旦那の手でってなると、全然興奮の度合いが違ってくる。

今日はまだ旦那に触らせてねぇし。

けど、相手の性器に触りたいって欲はあるだろうし、今日の場合、俺は触るだけじゃなく口でもやってるから、ダメだって言ったところで旦那も納得しねぇだろう。

諦めて、蓮巳に任せることにし、ゴムを着けやすいように身体を起こした。

旦那も俺に続いて身体を起こして、まず、自分自身にゴムを着ける。

最初のうちは蓮巳の方はそのままでゴムを着けちゃいなかったが、時と場合によっちゃ、意外に出した時に精液が飛ぶこともあるし、汚しちゃまずい時には、イク前に俺が旦那のモノを手で包んで汚さねぇようにしてたが、旦那側にもゴム着けとけばそうする必要もねぇって分かってからはこうしてる。

下手に手で包んで、汚さねぇように気を配るよりも、動きに集中出来るからだ。

蓮巳が二つ目のゴムの包装を破いて、俺のモノに触れてきた。

やっぱり、こいつに触られるとくるもんがあるなって思っていたら、旦那が親指で付け根から先っぽまでをなぞっていった。

普段だったらなんてことないくらいの刺激だが、今日はヤバい。

腰から背筋にかけて走った弱い電流のような快感に、慌てて旦那の手を剥がした。

 

「……っと、旦那。ストップ。本気で余裕ねぇから、変に刺激すんな」

「一度イッてもいいぞ」

「俺だって、口じゃイカせない程度に抑えてやったろ。頼むから、着けるだけにしてくれ」

 

ここまで堪えたのに、あっさりとイキたくなんかねぇ。

疼く腰と動揺を誤魔化すように、旦那の肩に頭を乗せて、顔を見られないようにしながら、溜め息を吐いた。

蓮巳が再び俺のモノに触れてきて、少しだけ身構えたが、俺が言った通りにただゴムを着けるだけにしておいてくれた。

装着されたのが分かったところで、旦那の身体をそっと押し倒す。

その拍子に少し旦那の目元が綻んで、足が開かれる。

無防備に曝け出された場所と、その付近にまだ色濃く残ったままのキスマークが、残り少ない理性をさらに削り落としていく。

キスマークを触ると、蓮巳が身体の力を抜いたのが伝わったから、そのままモノを宛がって挿れ始めた。

が、ゴムを着けているってのに、旦那の中が予想以上に熱かったのと、締め付けがあまりに絶妙で、ヤバいと思う間もなく、腰を強い快感が走って行った。

 

「う、あ! まっ、ああ!」

「くあ!!」

 

多分、全部旦那の中に収めるまではもたなかった。

早漏どころの話じゃねぇ。

 

「……俗に三擦り半とは聞くけどよ……」

「っ、うる、さ…………って。…………貴様も、か」

「……ああ。参ったな」

 

旦那があっさりイクのは気にならねぇし、寧ろ、そんなに俺で興奮してくれたのかと嬉しいくらいだ。

けど、自分はどうかっていうと、やっぱり情けねぇって感情が勝る。

蓮巳は気にしねぇだろうって分かっていてもだ。

何となく、旦那を直視できずにいると、旦那の方から俺の顎に手をかけて、自分の方を向けと示してきた。

案の定、気にするなと言わんばかりに穏やかに笑ってる蓮巳の顔に、これで許される気がしちまうのもなんだなぁと思いながらキスする。

 

「ゴム替えるから、一回抜くぜ。続けていいよな?」

「ああ。こっちも外す」

 

ゴムが外れねぇように押さえつつ、旦那の中から抜けて、着けていたゴムを外した。

旦那がゴミ箱に捨てた横から、俺も口を縛ったゴムを捨てる。

旦那がゴムを手にしたから、また着けるって言い出すかと思ったが、包装を開けずにただじっと手にしたゴムを見ていた。

……迷ってんだったら、ゴムなしで挿れてぇな。

明日、夜に予定が入ってるから、中に出しちまうと旦那の方が大変になるけど、外に出す分にはどうにかなるだろう。

数日、逢わないでいた所為なのか、今は蓮巳の中に直接挿れたい気分が強い。

 

「「なぁ、次はこのまま――」」

 

言いだした言葉が、ピッタリと重なる。

まるで曲でユニゾン部分を歌っている時みてぇに。

蓮巳も驚きからか、表情が固まっていたが、それが何だかおかしくて、笑っちまったら、旦那の笑い声も重なって、それがまた心地良く響いた。

 

「……凄ぇ被ったな、今の」

「ああ。妙なところで意気投合した」

「新年早々、気が合って何よりだ。……中には出さねぇけど」

 

少し名残惜しくはあるが、蓮巳に無理はさせられねぇ。

旦那の腹を手のひらで撫でたら、蓮巳が少しだけ残念そうに応じた。

 

「すまない。予定がなければ、中でいいと言ってやりたいとこだが」

「分かってる。明日帰ってきた後、身体が平気そうだったらいいか?」

「ああ。それなら構わない。……ふふ」

「ん?」

 

旦那が妙に嬉しそうにしてるから、どうしたのかと思えば。

 

「何。正直で何よりだと思っただけだ」

「てめぇだって、直接した時、凄ぇ良さそうな反応するじゃねぇか」

「俺の方とて、ゴムのあるなしで感覚が違うからな。本心を言えば、ない方が気持ち良いし身体にも馴染む。最中に限ればで、後の処理等についてはまた別の話だが」

 

……そんなドキリとするような事を、何でもないことのように言ってのける。

ゴムを使わないことに積極的になりがちなのは、蓮巳の方が多い。

こいつに負担を掛けたくなくて、こっちは理性で抑え込んでいる欲望を、蓮巳本人がその理性をなくすようなことをさらっと口にしやがるから、時々心臓に悪い。

 

「……あんま、そういうこと言うなよ。ゴム使えなくなっちまうだろうが」

「ん……」

 

唇を軽く重ねて、再びベッドに横たわる。

左手を蓮巳の右手と繋いで、指を絡めてから、それぞれにもう片方の手を使って、相手の身体に触っていく。

旦那に触られるのは、どこの場所でも気持ち良い。

多分、旦那もそうだろう。

指を滑らせて、手のひらを触れさせていく度に、蓮巳の熱っぽい吐息が零れていく。

そんな様子を見ていたら、もっと強い刺激を求めてさらに触りたくなるのも当たり前だ。

我慢出来ずに触れ合わせた腰で、お互いのモノが擦れ合って、より固さを増していく。

 

「なぁ、もう一回、指で慣らすか?」

「いや、さっき一度、挿れてるから……多分、そのままで平気、だ」

 

蓮巳がそう言うなら、大丈夫なんだろう。

実際、触れている身体も熱いし、多分、中も柔らかい状態だろうと予想がつく。

俺としても、時間を掛けて慣らしてやるまでの余裕はない。

 

「分かった。力抜いてろ」

「ん……」

 

蓮巳が足を開いたところで、肩に抱え上げて乗せる。

ほんのり赤く興奮で染まってる白い肌の、内股周辺にはさらに色濃く染まったキスマークに、つい息を飲んだ。

微かにひくついた場所にモノを宛がって、そのまま体重を掛けると、平気だと蓮巳が言ったように難なく入っていけた。

 

「ふ……っ、あ、んん、あ、あ」

「……く、だん、な」

「ん……っ、何、だ」

「めちゃくちゃ……っ、気持ち良い。今度も、あんま、もたなかったら、悪……いっ」

 

さっきよりは興奮度合いがましだと思っていたが、直接中の熱を感じちまうと、やっぱり勝手が違う。

ちゃんと蓮巳を感じさせてやりてぇのに。

 

「構わな……うあ!」

 

旦那が言葉を言い終わらないうちに、残りを一気に突っ込んだ。

付け根まで旦那の中に収めると、それだけでもうヤベぇ。

さっき、一度イッてるのにな。

せめて、旦那を俺より先にイカせてやろうと、弱い場所を狙って擦り始める。

快感に顔を歪めた蓮巳が、俺の首にしがみついてきたのが、たまらねぇ。

 

「んっ、くろっ、んうっ、そ、こ……っ」

「ここら辺、だよな。旦那、弱ぇのっ」

「うあ、あっ、そ……っ、ああ!」

 

旦那の上げる声と、中の震えと熱の気持ち良さに、こっちもろくすっぽ声を上げられねぇ。

ひたすら、黙って腰を動かし、強い快感を求める。

どうにか、頭の片隅から外で出さねぇダメだってのを意識の表層に引っ張り出して、蓮巳の足を肩から下ろし、今度は腰を掴んでゆさぶる。

掴みながら、指で浮いた腰骨をゆるく引っ掻くと、旦那の中がびくびくと細かく動きに合わせて震えた。

 

「……ふ、あっ」

「敬人、イケそう、か?」

 

声にはならなかったが、蓮巳が確かに頷いたのを確認して、動く勢いを強くした。

こっちも限界が近い。

 

「あ、ああ、くろ……うっ……!」

「……っと!」

 

旦那が達した直後の締め付けでヤバいと、すぐに中から抜けたが、抜けてる最中から出してしまっていて、蓮巳の腹だけでなく、孔と袋、毛にもある程度精液が掛かった。

……くそ、どうも外に出すってのはやりづれぇな。

中に出して、蓮巳が受け止めてくれることでの快感を知っちまってるのもまずいんだろうけども。

出したことで脱力感が一気に身体に襲いかかってきたから、旦那に乗っかっても良いかと目で尋ねたら、少し震えが残っている腕が差し出された。

このまま乗っちまうと、こっちの身体も精液がべったり着くが、どうせ後で洗い流すと思えば気にもならねぇ。

蓮巳の身体に体重を預けて、触れている体温の心地良さに目を閉じたら、頭を撫でられた。

俺からも同じように手を伸ばして、蓮巳の頭を撫でたら、最近はそんなに香っていなかった白檀の香りが、汗や精液のにおいに混じって鼻に届いた。

 

「……懐かしい香りがする」

 

白檀の香りは出逢った時の旦那を思い出すし、香りとしても思い入れがあるから、これはこれで好きなんだが、せっかく、最近は旦那と似たような香りだったことを思うと、少し残念な気分だ。

元々、寺で過ごしていた年数の方が圧倒的に長いんだから、仕方ねぇんだけど。

 

「白檀か?」

「ああ。こんなにおまえから強く香ってくるのは久々だ」

「寝食や風呂以外は、ほとんど本堂の方にいたからな。余計、香りが強いかも知れん。……香りなどすぐ戻る。それこそ、この後少し休憩したら風呂に入るしな。……たまには一緒に入るか?」

 

一緒にという誘いは珍しい。

旦那は一緒に風呂に入るのを――特にセックスが終わった後に入るのは嫌がる傾向があるからだ。

風呂場が明るいのと、後始末を見られるのが苦手らしい。

とっくに触ってない場所なんて、身体のどこにも残ってねぇだろっていうのを考えると、今更何をって感じもしないでもないが。

 

「珍しいな。終わった後、風呂一緒に入るの嫌がること多いのに」

「今日は外で出してて、きっちり後始末するほどの状態じゃないからだ」

 

ああ、だからか。

でも、それはちょっと俺がしくじっちまったんだよなと、少し申し訳ないが、正直に申告しておく。

 

「あー……それなんだけどよ、蓮巳」

「ん?」

「悪い、少し中で出ちまったと思う。抜ける時にもうヤバかったから」

「……そういう、ことか」

 

呆れられるかと思ったが、そういう様子はない。

寧ろ、少し笑った気配さえした。

撫でられていた頭を、今度はぽんぽんと軽く叩かれる。

 

「このくらいなら平気だ。……気になるなら、貴様が確認すればいいだろう」

「確認……て、旦……っ」

「頭を上げるな! そのままでいろ」

 

確認ってことは、普段見られるのも嫌がる後始末を、俺にさせてくれるってことでいいのかと、つい、頭を上げて確認しようとしたところで、蓮巳に押さえられ、顔は上げられなくなった。

いや、強引に上げようと思えば出来なくもねぇが、蓮巳の機嫌を損ねちまいそうだ。

蓮巳が照れているのは、何となく上がった体温と、早くなった鼓動から伝わる。

……本当に、こんなとこ堪んねぇよなぁ、こいつ。

嬉しくて笑いが零れちまうのは、もう仕方ねぇ。

 

「ああ。ちゃんと確認してやるよ。仕事に支障出たりしねぇようにな」

「…………ふん」

 

旦那の頭に置いたままだった手で、髪を梳くと少しだけ俺の頭を押さえていた力が弱くなった。

後で、風呂で髪や身体も洗わせてくれると嬉しいんだけどな。

とりあえず、あとちょっとだけ、旦那の温もりを感じてから動こうと目をつぶった。

 

 

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