鬼龍くん誕生日話(一日遅れたけど!)
鬼龍くん二十歳の誕生日に紅敬二人でお酒飲む話。
既につき合っている&夢ノ咲学院卒業直後から紅敬二人が同棲している前提で書いてます。
初出:2016/01/27
文字数:12409文字 裏話知りたい場合はこちら。
[鬼龍Side]
「そういや、旦那が酒飲むのを見るのは初めてだな」
俺の二十歳の誕生日。
父親と妹に実家で祝って貰った後は、今蓮巳と一緒に住んでいるマンションに戻ってきて、今度は蓮巳に祝って貰っているって寸法だ。
お菓子作りの腕をめきめきと上げている妹本人曰く、自信作というホールケーキを食わせて貰ったり、母親の遺影を前にしながら楽しげに、今度親子水入らずで飲みに行こうと誘ってきた親父からの言葉も嬉しかったが、恋人である蓮巳に祝って貰うのは、また別の嬉しさがある。
――せっかく成人を迎える誕生日だから、何か酒でも見繕ってこよう。どんな種類が飲みたいか等希望はあるか?
――特に何がいいかって分かんねぇからなぁ。てめぇに任せるぜ。
俺よりも数ヶ月早く二十歳になっていた蓮巳が、そう言ってきたのが数日前の話だった。
アイドルなんてやっている以上、未成年のうちに酒を飲むことで下手にどっかから突かれないとも限んねぇから、成人するまで酒は一滴たりとも口にしちゃいない。
そこら辺は夢ノ咲学院時代に外部から叩かれるネタになるようなことはするなと、叩き込まれたがゆえの暗黙の了解ってやつだ。年相応に酒に興味はもっても試しちゃいねぇし、一度飲んでみないことには、どの酒が好みかどうかなんて判断しようがねぇ。
だから、酒選びについては蓮巳に任せていたんだが、さっき帰宅してみたら、想像以上に色んな酒とつまみが用意されていて驚いた。
定番のビールやカクテル、チューハイは勿論、ワインや日本酒なんかもある。
つまみもきゅうりとキムチの和え物や、キノコ類のバター炒めみたいに簡単に調理したものだけでなく、ワインに合いそうなチーズや、日本酒のためだろう塩なんかまで数種類ずつ揃っている。
――いいのかよ。揃えるのに結構かかったろ、これ。
――俺も飲み食いするし、残ったら後日飲んでいけばいいだろう。開封しなければ酒は当分もつんだし、三ヶ月もすれば神崎も飲めるようになるからな。
さらっと言い放った旦那に、もしかしてこいつ結構酒に強いのか?と思ったところで、蓮巳が酒を飲んだところを見たことがねぇって気付いた。
旦那の誕生日は九月六日。四ヶ月以上も前だ。
風呂上がりに蓮巳が飲んでいるのは、ミネラルウォーターか茶の類だし、酒を買って来たような覚えもない。
紅月でライブ後に打ち上げがあっても、神崎もまだ未成年で酒がその場で出ることはねぇから、外で飲むのを見てないのは当然としても、家で飲んでいた記憶もない。
「だろうな。俺も酒を飲むのは今日が初めてだから、見たことがなくて当然だ」
「あ?」
グラスにビールを注いでいた蓮巳をまじまじと見たら、旦那が俺の視線を不審に思ったのか、どうしたと問いかけてきた。
「いや、初めてってのに少し驚いた。誕生日の直後とか飲まなかったのか?」
「ああ。初めて酒を酌み交わすのなら、貴様と一緒に飲もうと決めていたからな」
「……天祥院とも飲まなかったのか?」
俺と一緒にと言った言葉に嬉しくなりつつ、さらに尋ねてみる。
正確な日付までは覚えてねぇが、確か天祥院のやつも何日か前に誕生日だったはずだ。
こいつがやつの誕生日パーティーに呼ばれて行ったのは、記憶に新しい。
天祥院の跡取り息子の成人祝いというだけあって、芸能界のお偉方は勿論、政財界の重鎮クラスまでいたらしく、肩が凝ったと帰ってくるなり早々にぼやいていた。
けど、考えてみればその時にしても、それ以外のタイミングでも、蓮巳から酒の香りがしたことは一度もない。
「誘われたが断った。最初に酌み交わしたいやつは他にいるからとな。どうせ、日々樹が来月誕生日だ。やつとでも飲めと言っておいた」
あいつだと、酒を飲んでいても飲んでいなくても、然程様子に変わりはなさそうだがと続ける旦那に、つい口元が緩んでしまう。俺と最初に酌み交わしたいから、俺の誕生日まで酒を飲まずに待っていたなんて、嬉しいにも程がある。
「……へへへ」
「何だ」
「――可愛いな、旦那」
「その可愛いはどこにかかる言葉だ。……度し難い」
口ではそんなことを言いながら、蓮巳も目が笑っている。
そうやって、二人きりの宴が幕を開けた。
***
「聞いているのか、鬼龍。だから、あの時のライブで貴様が口を挟んで言ったのは」
「聞いてるって。あんときゃ悪かったって思ってる」
「いーや、貴様、適当に聞き流しているだろう。大体貴様は……」
旦那が飲んだら一体どうなるだろうかと、ちょっと楽しみに様子を窺っていたら、どうやらこいつの場合は絡み酒になっちまうみたいだ。
いつも以上に小言が途切れずに、すらすらと口から淀みなく出て来るのにはいっそ感心する。
基本的に蓮巳の小言ってのは正論から出て来るもんがほとんどではあるんだが、たった今話題に上がったものなんざ、俺たちがまだ夢ノ咲学院にいた頃、紅月結成当時くらいのライブの話だ。
まだ、神崎は加入していなくて、俺たち二人のユニットだった時はそれこそ何もかもが試行錯誤って段階だったから、へまをいっぱいやらかしたのは分かってる。
けど、正直三年前のライブ中に言ったことなんて、ろくすっぽ覚えちゃいねぇし、いくら正論でも今更それを蒸し返すのかよって内容だ。
蓮巳とはあちこち思考が似通った部分はあるし、お互いに一緒に過ごしていくうちに通じ合ったと思える面もあるが、こういうとこに出くわすと少しばかり参る。
こいつ、この手の話を始めたらうんざりするほど長ぇんだよなぁ。
小言のやり過ごし方も長くなりつつある付き合いで心得ちゃいるが、それが今の酔った蓮巳相手にどこまで通用するかだ。
その癖、目元や耳が赤くなって、どうにも色っぽい表情なんかみせたりするから、うっかり邪なことを考えてしまう。
さらに言うなら、二人きりなのに加えて酒で気が緩んでいるのか、俺にしなだれかかって、甘えた様子を前面に押し出してるから堪らねぇ。
普段は二人きりでもここまで甘えてくることなんて、そんなにない。
俺たちが恋仲だと外部に悟られると、アイドルとしちゃ色々と不都合があるから、下手に綻びが生じたりしないよう、接する際には一定の線引きをしている。
例外なんて、本当にベッドの上というか、セックスの最中、あるいはその前後ってくらいだ。
こんな絡まれ方されたんじゃ、どうしたってベッドでの蓮巳を思い出してしまう。
俺も酔っているってのを差し引いても、今の旦那は扇情的過ぎる。
……これ、飲む匙加減ってやつを、俺と一緒の時に覚えておいて貰わねぇと、今後、外で飲む機会が出来たときが心配だ。
小言までならともかく、妙に色っぽい蓮巳は他のやつには見せられない。
いや、俺が見せたくねぇ。
ちょうど空になったグラスをテーブルに置いて、蓮巳の手からもグラスを取り上げる。
「あのよ、蓮巳の旦那」
「何だ」
「てめぇが色々言いたいのは分かったけど、そろそろ小言より睦言の方が聞きたいんだけどな、俺としちゃ」
「貴様、俺が真面目な話をしているというのに――」
「酒の席に真面目な話を持ち出すのも、ちょっと大人げなくねぇか? しかも、今日は俺の誕生日だぞ」
「む……」
少し拗ねたような表情が可愛いなんて言ったら怒るだろうなと思いつつ、言葉が途切れた隙にキスをする。
唇をこじ開けなくても、アルコールの香りは相当なものだ。
幾度か軽く唇を触れ合わせるだけのキスを続けていたら、旦那の方から、こっちの口の中に舌を差し込んで来た。
が、すぐにその舌が引っ込められる。
「……酒くさい」
「お互い様だ、そりゃ」
二人で飲んだ量は、テーブルに置かれた空き缶と空き瓶の数を考えてみても、相当なものになるはずだ。
引っ込められた舌を追いかけるように、今度はこっちから舌を蓮巳の口内に突っ込む。
「ふ……」
「んっ……」
二人分の酒のにおいは、さらに酔いが進みそうだ。
蓮巳の腰に手を回して、そのままセーターの裾から手を中に入れる。
背中側から触っていくと、汗ばんでる肌がしっとりと手に吸い付いてきた。
そのまま、旦那の身体をソファに倒し、背中に回していた手を、いつの間にかちゃっかりと膨らませていたやつの股間に重ね、幹に沿うように撫でるとびくと反応した身体に、つい口元が緩んだのを自覚する。
酒が入ると人によっちゃ勃ちにくいなんてこともあったりするようだが、どうやら蓮巳も俺もそういうわけではないらしい。
蓮巳が軽く膝を立てて、俺のモノを刺激してくるのが気持ち良い。
つい、ファスナーを下ろしかけたところで、旦那がストップをかけてきた。
「続けるのなら貴様の部屋にしろ」
「おう。酔いが回ってるなら、抱いて部屋まで連れて行ってやろうか?」
「…………酔っているのはおまえもだろう、紅郎」
それでも一瞬の間をおいて、旦那が抱けという意思表示で俺に腕を伸ばしてきたのには驚いた。
いつもだったら、お姫さま抱っこなんてした日にゃ、受け身だからと言って女扱いまでされるいわれはないと、説教コースまっしぐらなのに。
けど、せっかくだから、蓮巳の身体の下に手を入れて抱き上げ、そのまま連れて行くことにした。
――後から思い返せば、多分この時点で蓮巳は相当眠かったんだろう。
俺も酔っていたのと、珍しく旦那が甘えて来たことの嬉しさで状況判断が鈍っていた。
***
どうやら、俺が帰ってくる時間に合わせて、蓮巳が部屋のエアコンのタイマーをセットしていてくれてたらしく、予想していたよりも部屋の中が暖かかった。
こりゃ、こいつも今日はするつもりがはなっからあったんだろうなって察して、旦那の服を脱がしながら顔がにやけちまうのを抑えられない。
「何を笑っている」
「何でもねぇよ。しいて言うなら、旦那が可愛いってくらいだ」
身体全体がほんのりと色づいている様は、今の段階ではほぼ酒の影響だと分かっていても、艶っぽいし堪んねぇ。
蓮巳の服を全部脱がせた後、自分の服も全部脱いで、蓮巳の上に覆い被さると、肌が直接触れ合ってそれだけでも心地良い。
お互いに相手の身体を探っていくのも、もう手慣れたもんだ。
肌を辿っていく唇を少しずつ下の方へとずらしていくと、旦那が艶っぽく喘ぐ。
「うあ……は……っ」
唇を性器に触れさせても制止の声は飛んでこない。
付け根の方から先っぽへと向けて、舌で舐め上げながら腰骨を手で撫でていくと、蓮巳の指が俺の髪を軽く引っ張ってきた。
「あ、も……少し強くっ……して、いい」
酒のせいで感覚でも鈍ってるのか、旦那がもっと強くとねだってくる。
刺激が強いから弱くしろと言ってくることの方が多いから、珍しいもんだと思いつつも言われた通りに強くするために、蓮巳のモノを深く咥えこんで一気に吸いこんだ。
「んっ!」
手でも袋と付け根を弄ってやるも、いつもに比べると少し反応が鈍い気がする。
確かに、旦那のモノは結構な固さにはなってるんだが、普段ならもっと敏感なはずだ。
酒の影響によるものなのか、これ?
「あんま感じねぇか?」
「気持ちはいい。が」
「が?」
「……気持ち良いから……つい、寝てしまいそうに、なる」「……はぁ?」
予想外の言葉に思わず顔を上げて旦那を見たら、旦那の目がとろんとして、今にも上下の瞼がくっつきそうになっていた。
枕元の目覚まし時計で確認した時間は午前一時過ぎ。
確かに、いつもの旦那ならとっくに夢の中だってのに加えて、酒もかなり入っちまっているから、睡魔に襲われても不思議じゃねぇが、まがりなりにもフェラしてる最中に寝そうになるってどうなんだ。
「ん…………」
「……おい。蓮巳。旦那。敬人。…………嘘だろ」
完全に寝入ってしまったらしく、名前を呼んでも気持ち良さそうな寝息が聞こえてくるだけだ。
「どうしてくれんだよ、これ」
臨戦態勢になりつつあった、自分のモノとすっかり無防備な状態で寝ている蓮巳とを見比べて、つい溜め息が漏れたのは男なら無理もねぇだろう。
生殺しにも程がある。
往生際悪く、旦那の耳を舐めてみても、小さく声は上げたがそれきりだ。
ついさっきまでは、しっかり勃ってた旦那のモノも柔らかくなって来てる。
こっちも軽く撫でても大した反応は返ってこない。
無理矢理するような趣味もねぇし、反応しない相手に続ける気にもなれねぇ。
いっそ、この状態の旦那を見ながら一人でするかと思ったが、それも気が咎めた。
大体、それを実行したらしたで、後で蓮巳がそれを知ったときに良い気分はしねぇだろう。
俺を責めることはしなくとも、その分、コトの最中に寝てしまった自分を責めるくらいは十分に有り得る話だ。
「……あー……仕方ねぇなぁ」
どうにか、昂ぶった気分をねじ伏せて、今夜はただ寄り添って眠るだけにしようと、足元によけてあった布団をひっかぶってから、旦那の身体を引き寄せると、蓮巳の方からも俺の身体にすり寄ってきた。
これ、無意識での行動ってのが嬉しいとこだよな。
蓮巳の眼鏡だけ外して、サイドテーブルに置き、軽く髪を撫でる。
ま、朝起きた後のことは、起きた後で考えればいいかと、俺も目を閉じて寝ることにした。
***
「すまん。鬼龍」
「いいって、別に。酒飲んだの初めてだったんだし。こういうこともあるだろうよ」
翌朝、予想はしていたが俺が目を覚ましたときに真っ先に見えたのは、先に目を覚ましていた旦那の申し訳なさそうな表情だった。
お互いに裸で抱き合って眠ってはいたが、何もしてねぇってのは身体の状態で察したんだろう。
蓮巳の普段の起床時間を考えると、多分目を覚ましてからしばらくは経っていたんだろうが、俺に謝るためにベッドからも出ないままだったようだ。
「しかし、せっかくおまえの誕生日だったというのに、酔い潰れるとは……我ながら不甲斐ない」
まだ沈んだ表情をしている蓮巳の頭をぽんぽんと叩く。
まぁ、気持ちは分からなくもねぇ。
恋人の誕生日の夜、セックスの最中に寝落ちたなんざ、逆の立場だったら俺も凹むだろう。
いくら、蓮巳本人が気にしないとしても別の問題だ。
けど、凹んでいる蓮巳を見るよりは、やっぱり笑っていて欲しい。
いつまでも、気に病んでいて欲しくねぇ。
「だから、俺は気にしてねぇって。そんなに気になるなら、今からでもするか?」
半分は冗談だった。
今日は午前中こそ予定はないが、午後は大学の講義、夜は事務所との打ち合わせってスケジュールになっている。
そんな状態で朝からセックスなんてしたら、俺はともかく、蓮巳の方がキツくなるのは目に見えている。
いくら、今その気になればすぐヤれる状態だとしてもだ。
残り半分はあわよくば、って気分があったのは否定できねぇが。
「そうだな」
「……って、おい、マジか」
その残り半分の方に旦那が乗ってきたのには正直びっくりした。
言いながら、蓮巳が俺の身体の上にのし掛かってくる。
朝立ちのせいで、お互いに固い状態になっているモノが擦れ合うと、流石に平常心ではいられなくなってくる。
朝立ちそのものは生理現象だが、そこに刺激を加えられるとなったら話は別だ。
昨夜、おあずけ食らったのもあって、つい期待に喉が鳴った。
我ながら単純なもので、ベッドから出る気は早くも失せつつある。
「朝からいいのかよ」
「……俺がしたい。貴様が乗り気でないのなら、やめても構わんが……」
そこまで言った蓮巳がちらりと視線を下半身に向ける。
「そういう訳でもなさそうだな」
「おまえの口からしたい、なんて言われて興奮せずにやり過ごせるほど達観してねぇよ」
まして、こんな風に肌を触れ合わせていちゃ尚更だ。
顔を寄せて来た蓮巳とキスを交わしたら、まだ残っていた昨晩のアルコールの香りが纏わり付いてくる。
その香りが興奮を煽るのか、ついキスが激しくなっていく。
お互いの舌が、口の中で踊るように様々な場所をまさぐって、触れ合わせている肌から伝わる体温も徐々に上がっていった。
「……本当にすまない」
それでも、まだ、どこか申し訳なさそうにしている蓮巳の頭をがしがしと撫でる。
「だから、それはもういいって。……なぁ、蓮巳」
「ん?」
「酒の限度、今度ちゃんと確認しようぜ。昨夜のおまえ、凄ぇ可愛かったけど、あんなん表に出された日にはこっちの心臓がもたねぇ」
可愛い旦那を知ってるのは俺一人で十分だからなと、蓮巳の耳元で低く囁くと、ほんのり赤く染まっていた耳がもっと赤くなった。
旦那は可愛いなんて、男に使う言葉じゃないって返してくることもあるが、やっぱりこういうとこは可愛いって思っちまうんだから仕方ねぇよな。
「……わかった」
ようやく、ちょっと笑った蓮巳と額を軽くぶつけ合って、昨日の晩の続きに集中することにした。
[蓮巳Side]
鬼龍が二十歳の誕生日を迎えた今日。
やつが実家で誕生日を祝って貰っている頃、俺はマンションのキッチンで一人、酒とつまみの準備をしていた。
せっかく、成人になるのなら酒を飲もうと俺が誘ったからだ。
――実家で家族に祝って貰ったら、こっち帰ってくるからよ。ちょっと帰りは遅くなっちまうかも知れねぇけど。
――泊まってきても構わんぞ。俺の方は翌日でも……っと、耳を引っ張るな! 何をする!
――こっちの台詞だ、そりゃ。つれねぇこと言うなよ。俺は家族とも一緒に過ごしたいけど、おまえとも一緒に誕生日を過ごしたいんだよ。
――鬼龍。
とはいえ、成人になるまで酒を飲んでなかった鬼龍は勿論、俺もやつより少し早く成人を迎えてはいたが、まだ酒を口にしたことがないから、酒の選択を任されても、どれが鬼龍や自分の好みに合うのかなんて、さっぱり分からない。
だったら、片っ端から試すかとコンビニやスーパーでよく見かけるような酒を色々と買い込んでみた。
つまみも何種類か揃えてテーブルに並べると、それなりに様にはなった……ような気がする。
「このくらいでいいか」
つまみはともかく、酒は余ってしまってもしばらくはもつ。
三ヶ月もすれば、神崎も誕生日を迎えて酒が飲めるようになるから、三人でここで飲むのもいいだろう。
一通り、宴の準備が終わったところで、鬼龍が帰ってくる前に、やつの部屋に行ってエアコンのタイマーを入れておく。
多分、最終的にはここで夜を過ごすことになるだろうから。
「早いものだな」
風通しでもしているのか、クローゼットから出て部屋のポールに掛けられていた紅月のユニット衣装が目に入り、ついそんな独り言が口からついて出た。
紅月を結成し、鬼龍と情を交わすようになってから三年以上経つが、気付けばあっという間に過ぎ去っていた感じもある。
まだまだ、やつとの付き合いは続いていく予定だから、三年後もまた同じように思ったりするのだろうか、なんて考えていたところで玄関の方で音がしたから、帰ってきたのであろう今日の主賓を出迎える為に玄関へと移動した。
***
「そういや、旦那が酒飲むのを見るのは初めてだな」
「だろうな。俺も酒を飲むのは今日が初めてだから、見たことがなくて当然だ」
「あ?」
二人分のグラスにそれぞれビールを注いでいる最中、鬼龍がそう言ってきたのに返すと驚いた様な声を上げた。
「どうした?」
「いや、初めてってのに少し驚いた。誕生日の直後とか飲まなかったのか?」
「ああ。初めて酒を酌み交わすのなら、貴様と一緒に飲もうと決めていたからな」
そういえば、自分の中ではそう決めていたが、当の本人には言ってなかったかも知れない。
どうも、鬼龍とは以心伝心の部分があるというか、何となく意図が通じていることも多いからか、たまに言ったつもりで伝えていなかったということがある。
どうやら、今回はそのパターンだったらしい。
「……天祥院とも飲まなかったのか?」
そう尋ねて来た声は、何となく嬉しそうだ。
英知とはあくまでも幼馴染みで、別段関係にやましいことがあるわけでもないが、鬼龍にとっては英知との付き合いは少し面白くないらしい。
こいつはそれを口にはしてこないが、時々言葉の端々や態度にほんの少しだけ出て来る。
妬いているのかと少し嬉しかったりもするが、それは言わずに鬼龍を安心させるように問いかけてきた内容について応じた。
「誘われたが断った。最初に酌み交わしたいやつは他にいるからとな。どうせ、日々樹が来月誕生日だ。やつとでも飲めと言っておいた。あいつだと、酒を飲んでいても飲んでいなくても、然程様子に変わりはなさそうだが」
日々樹は平時であのテンションなのだから、それ以上にハイテンションというのを中々想像出来ないし、わざわざしたくもない。胃痛の元だ。
英知は渉と飲むのは楽しそうだと笑っていたが、俺には理解出来そうになかった。
俺は酒の楽しみというのは、まだ分からないが鬼龍とならば楽しめるだろう。
「……へへへ」
「何だ」
グラスにビールを注ぎ終わったところで、鬼龍が笑いながら俺をじっと見ていたのに気付いて問いかけると、一層やつが頬を緩ませた。
「――可愛いな、旦那」
「その可愛いはどこにかかる言葉だ。……度し難い」
大の男に可愛いという形容もどうなのかと思うが、あながち悪い気分でもない。
ビールを注いだグラスを鬼龍にも渡し、互いのグラスをぶつけて鳴らした音は小さかったが澄んでいて、二人きりの空間に心地良く響いた。
***
「聞いているのか、鬼龍。だから、あの時のライブで貴様が口を挟んで言ったのは」
「聞いてるって。あんときゃ悪かったって思ってる」
「いーや、貴様、適当に聞き流しているだろう。大体貴様は……」
多分、鬼龍が帰ってくる前に紅月の結成当初を思い出したりなんかしていたせいだろう。
酔いが回るにつれて、こいつと過ごしてきた様々なことが思い出され、ついそれらが口をついて出て行く。
まるで記憶の引き出しの鍵が、片っ端から開けられていくような勢いだ。
自分でもどこかで、何故今更こんな話をとは思うのだが、同時にこいつなら聞いてはくれるだろうという甘えもあったと思う。
普段はほとんど話に出ない、紅月結成当初――まだ神崎の加入前で鬼龍と二人だけでのユニットだった頃のことまで、言い始めてしまって止まらなくなった。
鬼龍が呆れたような表情をしているのは分かるが、それがかえって癪に障る。
大体、こいつは物覚えがよくない。
覚えておかねば、反省も出来んし、次への糧にもならんというのに、こいつは感覚で乗り越えてしまう。
俺とはタイプが違うのだと認識はしているし、鬼龍のそんな面に助けられた部分もあるが、時折悔しくもある。
ないものねだりの八つ当たりだと分かっていてもだ。
夢ノ咲学院時代に、学院最強と言われながらも、自己評価が妙に低く、それがまたもどかしい。
こいつは自分自身の価値を、今でも分かっていないところがある。
紅月の頭目としては惜しいと思い、恋人としてはそれを分かっている自分に優越感を覚えている。
こいつの凄さをもっと色んな人間に知って貰いたいと思う一方で、そんなやつに惚れられていることが嬉しく、鬼龍には俺しか知らない一面があるということに気分を良くしていた。
くだらない独占欲と人は笑うだろう。
この場所も、この腕も誰にも渡してたまるものか。
そんなことを考えていたら、微かな溜め息と共に、持っていたグラスを鬼龍に取り上げられた。
「あのよ、蓮巳の旦那」
「何だ」
「てめぇが色々言いたいのは分かったけど、そろそろ小言より睦言の方が聞きたいんだけどな、俺としちゃ」
「貴様、俺が真面目な話をしているというのに――」
「酒の席に真面目な話を持ち出すのも、ちょっと大人げなくねぇか? しかも、今日は俺の誕生日だぞ」
「む……」
そういえば、そうだった――なんて思い出したところで、鬼龍が唇を重ねてくる。
……こいつ、俺の話を遮るには、キスすればいいなんて考えているんじゃあるまいな。
拒まない俺も大概だろうが。
ただ触れ合わせているだけの口付けがもどかしくなり、鬼龍の口の中に舌を入れたら、一気にアルコールの香りが爆発して纏わり付いてきた。
つい、舌を引っ込めてしまうと、鬼龍が苦笑いしたのが見えた。
「……酒くさい」
「お互い様だ、そりゃ」
そして、今度は鬼龍の方から舌を入れてきた。
流石に二度目で先程のような強すぎる香りはしなかったが、その分、キスの気持ち良さがダイレクトにくる。
「ふ……」
「んっ……」
鬼龍が俺のセーターの裾から手を中に入れてきて、背中の方を触られると、もっと興奮の度合いが上がってくる。
ソファに寝かせられた直後、股間を撫でられ、つい身体を跳ねさせてしまった。
鬼龍はそんな俺の反応が楽しいのか、口元に笑みを浮かべたが、鬼龍だってしっかり反応しているのは見ただけでわかる。
軽く膝を立てて鬼龍の股間に当てると、すっかり馴染んだ固い感触が服越しに伝わって来た。
……結局、鬼龍の思うつぼになっているんだろうな。
しかし、スラックスのファスナーが半ばまで下ろされて、流石にここではと鬼龍の肩を軽く押した。
「続けるのなら貴様の部屋にしろ」
「おう。酔いが回ってるなら、抱いて部屋まで連れて行ってやろうか?」
「…………酔っているのはおまえもだろう、紅郎」
とはいえ、酔いで足がふらつきそうだし、見た感じでは鬼龍の方はまだ平気そうではあったのに甘えて、抱いて連れて行けと言う代わりに腕を伸ばした。
やはり、鬼龍は軽々と俺を抱き上げ、つくづくこいつの力はおかしいと思いながら、首に縋り付いた。
――後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
俺は翌朝、その言葉の意味を思い知らされることになる。
多分、この時点で俺は自分で認識していた以上に酔っていたんだろう。
それが最大の敗因だった。
***
「…………どういうことだ、これは」
翌朝、目を覚ました俺は状況を頭の中で整頓しきれなかった。
誕生日祝いと成人祝いを兼ねて、鬼龍と一緒にリビングで飲んでいたのは覚えている。
鬼龍にこの部屋まで抱いて連れてこられたこともだ。
が、俺は裸だし、隣で眠っている鬼龍も多分身に何もつけていないが、セックスをしたという感覚はないし、記憶もない。
セックス――厳密には挿入までした場合の翌朝はどうしても身体がしんどくなるし、違和感もあるから、挿入の有無については経験上すぐ分かる。
この感覚だと、間違いなくしていない。
鬼龍の部屋で眠る場合の定位置に置いてあるはずの眼鏡に手を伸ばし、かけたついでにベッド脇のゴミ箱も見てみたが、ゴムもティッシュも入っておらず、空っぽのままなのも間違いないという感覚を後押しする。
……いや、待てよ。
そういえば、口でして貰った記憶は微かにある。
どうも、酒のせいか普段よりも刺激を弱く感じて、眠気を誘うものだったから、鬼龍にもっと強くしろとねだって――。
「あ……」
そうだ。
部屋を暖かくしていたのと、触れた肌の感触の気持ち良さで、快感よりも眠りに引きずり込まれてしまったんだ。
寝てしまいそうだと、鬼龍に告げたような気はするが、その後からの記憶が無い。
恐らく、そこで完全に寝入ってしまったんだろう。
思い出して、頭を抱えたくなった。
恋人の誕生日の夜、セックスしてる最中にだと?
「馬鹿か、俺は……」
いくら、普段なら寝ている時間だっただろうとはいえ、よりにもよってそのタイミングで寝てしまうなど有り得ん。
一瞬、起こしてくれるか、いっそ強引にコトを進めてしまえば良かったものをと、鬼龍に八つ当たりしかけたが、こいつがそんなことをする男ではないのは、誰よりも俺が一番良く知っている。それでも、一度盛り上がってしまった欲望を制御するのは厳しかっただろう。
それを思うと、さらに申し訳なくなった。
「ん…………だん、な?」
そんな風に思考を巡らせていたら、不意に聞こえてきた声。
どうやら起こしてしまったらしく、鬼龍が目を擦りながら俺を見ていた。
「すまん。鬼龍」
俺の詫びに、直ぐさま昨夜のことを思い出したんだろう。
苦笑いしながら、鬼龍が俺の背中を慰めるように軽く叩いた。
「いいって、別に。酒飲んだの初めてだったんだし。こういうこともあるだろうよ」
「しかし、せっかくおまえの誕生日だったというのに、酔い潰れるとは……我ながら不甲斐ない」
誕生日の夜だ。
鬼龍だって期待していなかったわけがない。
大体、昨夜は俺だってそのつもりだったのだ。
酒は確かに初めて飲んだが、酔い潰れるなんて考えもしていなかった。
鬼龍の手が背中から頭に移動して、そっちも軽く叩かれた。
昨夜のしんどさをおくびにも出さずに、ただ俺だけが慰められているという状況に益々いたたまれなくなる。
「だから、俺は気にしてねぇって。そんなに気になるなら、今からでもするか?」
今からと言われて、ああ、その手があったかと気付き、今日一日のスケジュールを頭の中で組み立ててみる。
午前中は何も予定が入っていない。
午後は大学の講義、夜には事務所の打ち合わせはあっても、レッスン等の体力が影響してくるようなものは入っていないはずだ。多少、身体はしんどいかも知れんが、このくらいならどうにかなる。
よし。
「そうだな」
「……って、おい、マジか」
俺の返事に、言いだした鬼龍の方が少し動揺していた。
その動揺には気付かないふりで、鬼龍の身体の上に乗っかり、軽く腰を押し付ける。
朝立ちで双方固くなっている性器が擦れ、早くも声を零してしまいそうになったのを、すんでのところで抑えた。
鬼龍も喉を鳴らしたのが聞こえる。
「朝からいいのかよ」
起き抜けのせいだけではなさそうな掠れ声が、俺の耳を心地良く通り抜けていく。
もっと、この声が聞きたい。
「……俺がしたい。貴様が乗り気でないのなら、やめても構わんが……そういう訳でもなさそうだな」
さっき擦れ合わせた時よりも、さらに熱さと固さを増してるのが分かる。
どうやら、昨夜の埋め合わせはしてやれそうだ。
「おまえの口からしたい、なんて言われて興奮せずにやり過ごせるほど達観してねぇよ」
鬼龍に顔を近づけると、鬼龍の手が俺の後頭部に回され、唇を重ねた。
唇を開いて舌を絡め合わせると、昨夜のアルコールの香りが強くしてきて、まだこんなににおうのかと驚いた。
醒めたはずの酔いが、再び身体を支配していくような感覚に興奮が高まっていく。
舌の動きを激しくしていったのは、俺の方か、鬼龍の方か。
……本当は昨晩こうしたかっただろうな。
「……本当にすまない」
「だから、それはもういいって。……なぁ、蓮巳」
「ん?」
「酒の限度、今度ちゃんと確認しようぜ。昨夜のおまえ、凄ぇ可愛かったけど、あんなん表に出された日にはこっちの心臓がもたねぇ。……可愛い旦那を知ってるのは俺一人で十分だからな」
最後の言葉を一際低く囁いてきたのはわざとだろう。
そうと分かっているのに、欲情を煽られてしまった。
この一言で全部許され、身を委ねてしまう気になる、自分のなんと単純なことか。
「……わかった」
酒は飲んでも飲まれるな、というのが身に染みた。
こつりと額を軽くぶつけてから、動き始めた鬼龍に俺も昨晩の分も楽しみを上乗せさせるため、やつが求めるままに応えていった。
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