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ファンサービス(旧題:ばきゅ~ん……☆)<あんさんぶるスターズ!・紅敬>

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七夕二周目イベで出て来た蓮巳のばきゅ~ん……☆と、フォロワーさんが誕生日祝い(4日でした)に描いて下さった鬼龍くんとのWばきゅ~ん……☆が可愛くて射貫かれた結果出来た短い紅敬。

初出:2016/07/06 

文字数:2177文字 裏話知りたい場合はこちら

 

「はぁ……どうにか一息つけたか」

七夕祭で俺たち紅月が舞台を降りた後、舞台衣装のままで生徒会の仕事をこなしていた蓮巳の旦那がようやく控室へと戻ってきた。
旦那が溜め息を吐きながら椅子に腰掛けたところで、ミネラルウォーターの入った冷たいペットボトルを渡してやる。

「おう、お疲れさん。着替えるだろ? 手伝ってやるよ」
「すまん。神崎はどうした?」
「クラスメイトに呼ばれて、さっき出て行ったとこだ」

神崎が出て行ったのは、ちょうど蓮巳と入れ替わりぐらいのタイミングだった。
そういう俺も、もう衣装は着替えて制服姿になっている。
もう、紅月の出番もねぇし、後は旦那が着替えるだけだ。
旦那がミネラルウォーターを少し飲んで、ペットボトルをテーブルに置いたところで、蓮巳の背後に回る。
蓮巳の腕部分を止めている紐を解きながら、先程の舞台での一幕を思い出した。

「……ばきゅ~ん……☆」

戸惑いと緊張で少し声が揺れていた旦那を思い出すと、つい口元が緩んじまう。
だが、蓮巳はといえば、眉間に皺を寄せて、不機嫌そうにぼやいた。

「忘れろ。全く度し難い。七夕祭のルールだからやったが、紅月の方向性としても、俺個人のキャラとしてもそぐわんファンサービスだ」
「いやいや、中々楽しめたと思うぜ? 第一、あの願いごとにしたって、言ってきたのは紅月の、そしておまえのファンの女の子だってことには違いねぇんだから、需要は確実にあるってことだろ」
「む……」

紅月は硬派を売りにしているユニットで、他のユニットに比べて派手なファンサービスはやらねぇ方だ。
けど、だからこそ、偶に意外性のあるファンサービスをやるってのは有効なように思う。
実際、蓮巳がやった時には結構場が沸いた。
ギャップ萌えって言葉もあるくらいだし、悪くねぇと思うんだよな。

「な? いっそ、もうちょっと柔軟にああいうのに応じられるよう、練習してみたらどうだ?」

さっきみたいに少し戸惑いを見せながらやるのもいいだろうが、本来の蓮巳みたいに堂々と対応するのも多分ハマる。
不敵な笑みを浮かべながら、冷静に射貫く真似をした日には、黄色い悲鳴が上がること間違いなしだ。

「練習って……まさか、今、ここでか!?」
「俺しかいねぇんだからいいだろ」
「冗談ではない。却下だ」
「何だよ、恥ずかしいのか? 今更だろ。大体、恥ずかしいってことなら、俺はもっと旦那の恥ずかしい面を色々知っ……ってぇ」

たった今、旦那が脱いだばかりの羽織を顔に叩きつけられるような形で言葉を遮られた。
羽織を顔から退けると、少し顔を赤らめた旦那が俺を睨み付けている。

「学院内でその手の話をするなと言っているだろう、貴様」
「悪かったって。なら、俺も一緒にやってやるからちょっとやってみようぜ」
「何故そうなる。理屈が分からん」
「少しは新しい風を入れるのもユニットの武器になるってこった。花燈の恋文だって評判は上々だろ?」
「それは……そうだが」

少し前に発表したばかりの新曲は、俺が蓮巳にアドバイスする形で、それまでの紅月の曲とは少し違った恋愛ソングを組み込んだ。
それが花燈の恋文だ。
俺の意見を元に、蓮巳が歌詞の原案としていくつかのキーワードを含めたものを提出し作詞家に依頼したところ、ロマンチックな、それでいて紅月らしさも失っていない恋愛ソングがあがってきた。
曲の評判は良く、試みは成功だったと言える。

「……俺があれをやった直後、貴様、笑いを堪えていただろう。そんな気配がした」

あれをやったとき、俺は旦那の背後の方に控えていたから、旦那側からは俺が見えてなかった。
だから『気配』なんだろうが。

「ん? あー……多分、それ誤解だ。旦那の可愛さに口元が緩みそうになるのを抑えていたんだよ」
「可愛……」

ネクタイを締めていた旦那の手と口の動きがピタリと止まる。
しばらく何も言えずに、口だけぱくぱく動かしていたが、やがて大きく息を吐いた。

「……本当に度し難い。そんなことを言われたら、やった時の貴様の反応を見るのが躊躇われる」
「ってことは、見えなきゃ問題ねぇってことか。ほれ」
「なっ、何をする、鬼龍!」

間髪入れずに旦那が掛けていた眼鏡を取り上げて、自分のシャツの胸ポケットに放り込んだ。
蓮巳はかなり視力が悪いから、眼鏡を外すとほとんど見えなくなる。
俺に掴みかかろうとした旦那の手を押さえて、身体毎、鏡の方へと向けさせた。

「な? 反応が見えなきゃ、そんな気になんねぇだろ? やってみようぜ」
「くそ……一度だけだぞ」

眉間に寄った皺はそのままに、それでも蓮巳が諦めたらしく、さっき舞台の上でやったみたいに弓を引く真似をしたから、俺も旦那に並んで同じ格好になる。
呼吸を合わせて、同時に言葉を発した。

「「ばきゅ~ん……☆」」

何だかんだ、素直にやってくれる辺り、やっぱり、こいつ可愛いななんて思っていたら、蓮巳が複雑そうな表情になり、俺の胸元を探って、さっと眼鏡を奪い取っていく。
旦那にしちゃ素早い動きで、呆気にとられた。

「あ」
「やはり、俺には合わん! やめだ!」
「蓮巳」
「あとで覚えておけ、貴様! 俺にこんなことをやらせてただで済むと思うな!」

そんな捨て台詞を吐いて、蓮巳が控室から出て行く。
どうやら、機嫌を損ねちまったらしい。

「……忘れるかよ」

あんな蓮巳の姿を忘れるなんて、勿体ねぇことするはずもない。
散らかった衣装を片付けながら、今度ベッドの中、耳元に不意打ちであの台詞を言ってやったら、どうなるかを確認してみようとこっそり決めた。

 

 

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