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慣れというやつは<あんさんぶるスターズ!・紅敬>

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夢ノ咲卒業後、紅月の活動を続けつつ、付き合っていて同棲しているのが前提の紅敬です。

ある寒い日にコンビニ寄って帰る二人の図。

初出:2016/11/24 

文字数:2480文字 

 

家への最寄り駅を出た直後、狙いすましたかのように強風が吹いてきて思わず身を竦めた。
ついさっきまでは人が多いせいもあって、暖かいを通り越して暑いくらいだった電車の中とは大違いだ。
温度差のせいで、余計に寒さが身に染みる。

「……っと、風が冷てぇ。今日は一段と冷えるな」
「今秋一番の冷え込みになると朝のニュースで言っていた。帰ったらすぐ風呂に入ろう」
「おう。ちゃんと暖まってから寝ようぜ」

歌番組の収録が終わったのは、どうにか終電には間に合うって時間だったから、電車に乗って帰ってきた。
俺はどうも車に酔いやすい性質だから、極力どうにもなんねぇ時以外は近郊の移動には電車を使うことが多いが、一緒に住んでる蓮巳もこういう時は俺に付き合ってくれる。
悪ぃなとは思うが、車よりマシとはいえ電車も気を紛らわしながら乗っていたりするから、一緒に付き合ってくれるのは正直助かっていたし、嬉しくもあった。
一緒に住んでいるし、大学や仕事でも一緒に行動していることは多いが、蓮巳が傍にいるのって落ち着くんだよな。
いや、一緒に住むようになって、共に過ごす時間が増えたからこそか。
もう、こいつが隣にいるのが当たり前みてぇなとこがある。
蓮巳と一緒に家へと歩いて帰る道すがら、明るく光るコンビニの看板と新作の中華まんを宣伝するのぼりが目に入った。
普段なら、そのまま気に留めねぇで通り過ぎるところだが、今日は風が冷たいせいか、温かい中華まんが無性に食いたくなって来た。
家に着くまではまだ数分あるんだし、番組の収録前に食った夕食も結構早い時間だったせいで、腹も減ってる。

「旦那。ちょっとコンビニ寄っていかねぇか? 肉まん食いたくてよ」

蓮巳はコンビニやファーストフードで売ってる、いわゆるジャンクフードの類があんまり好きじゃない。
身体が資本のアイドル稼業なのに、添加物の多い食い物をあえて取らずともというのがこいつの言い分だし分からなくもねぇが、俺としちゃ偶にちょっと食うくらいなら大した影響もねぇだろうってのが本音だ。
頻繁に食うなら確かに問題だろうが、蓮巳が好まないのもあって、俺もこの数年は自然とジャンクフードから遠ざかっていた。
無理をしてた訳じゃねぇが、『偶にちょっと』のタイミングだと言えるくらいにはしばらくこの手の物を食ってない。
ただ、そうは言っても食う物に加えて、普段なら寝てるような時間帯だってことで、多分文句を言われるだろう予想はついた。
案の定、俺の提案に眉を顰めた旦那が溜息交じりに俺を睨み付ける。

「この時間に物を食う気か、貴様。今何時だと思っている」
「肉まん一つぐらいいいだろ。どうせ風呂に入る時間を考えたって、家について即寝るわけでもねぇんだしよ」
「それは……そうだが」
「じゃ、ちょっと寄っていこうぜ。店の中も暖かいだろうし」
「…………度し難い」

それでも寒さが堪えていたのか、蓮巳はコンビニに寄っていくのを反対しなかった。
店内に入って直ぐのレジ近くにあった、温かいお茶のペットボトルを取った後、中華まんが並んだ什器の前に移動して選ぶ。

「俺はやっぱり普通の肉まんにしとく。旦那はどうする?」
「いや、俺は――」

言いかけた蓮巳の視線が什器の中のある一点に注がれる。
……ああ、なるほど。
旦那、結構辛い物好きだしな。
四川風激辛麻婆肉まんなんてあるから気になったとみえる。
温かいお茶のペットボトルをレジに出しながら、店員に什器を指差して告げた。

「すんません、あと肉まん一つと、そっちの四川風激辛麻婆肉まん一つ」
「はい」
「おい、鬼龍!」
「一人で肉まん食うのも寂しいし、偶にはいいだろ。俺が出すから」
「……今回だけだからな。あと、自分の分くらい自分で出すからいい」

レジ前で揉めるのも見苦しいと思ったんだろう。
蓮巳が大人しく引き下がった。
買った物を袋に入れて貰って、会計を済ませ、外に出た瞬間、今日一番の強風が吹く。
さっさと温まろうと袋から肉まんを取り出すと、蓮巳が呆れたようにぼやいた。

「歩きながら食うのは行儀が悪い」
「固ぇこというなって。食いながら歩くといい感じに身体温まるぞ。この時間だし、誰も見ちゃいねぇよ」
「全く……貴様と言うやつは」

ぶつぶつ言いながらも、隣で俺がさっさと自分の分の肉まんを食い始めたから諦めたらしい。
蓮巳も袋から中華まんの包みを取り出した。
少しだけ躊躇した様子だったが、中華まんから上がる湯気と匂いには勝てなかったらしく、結局かぶりついた。

「……美味い。確かにこれは身体が温まるな」
「だろ? こっちも一口食ってみるか?」
「貰おう。貴様にもやる」

俺が食いかけの肉まんの包みを差し出すと、蓮巳も俺に自分が持っていた中華まんを差し出しながら、かぶりついた。
が、その拍子に肉まんの具が少し俺の指に落ちる。

「っと、すまん」
「いや、今拭――」

ハンカチを出そうとするよりも先に、蓮巳が俺の指に舌を伸ばして、落ちた具を舐め取った。
ごく何気ない動作で丁寧に這わされた舌には、ついやましいことを思い出しちまう。
二人きりの家の中ならともかく、この時間とはいえ外で蓮巳がこんなんやってくるとは思わなかったからびっくりしたが、同時に何とも言えない嬉しさで、つい口元が緩みそうになった。
いや、実際緩んじまったんだろう。
旦那が怪訝そうに首をかしげた。

「ん? 何だ、にやけた顔して」
「いや、旦那も中々大胆だなって思ってよ」
「? 大胆って一体何のこ……っ!?」

ようやく自分が今どこで何をしたかに気付いたのか、慌てて周囲を見渡す旦那が可愛い。

「誰もいねぇよ。何だ、眠さに気が緩んだか?」

実際、いつもの旦那なら仕事がなきゃとっくに寝てる時間だし、半分くらい寝惚けてるって線もありそうだ。
ただ、そうだとしても気が緩んだのは俺の前だからだろうって思うとついにやけちまう。
隣にいることが当たり前になっているのは、俺だけじゃねぇってこんなことで実感するんだよな。

「うっかりしていた。忘れろ」

先に歩き出した蓮巳の耳がさっきより赤く染まって見えるのは寒さのせいだけでもねぇはずだ。
俺も蓮巳を追って、再び並んで歩く。
寒さなんて今のでどっか行っちまったなと思いつつ、残りの肉まんを頬張った。

 

 

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