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きょうだい<あんさんぶるスターズ!・紅敬(+蓮巳兄)>

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スカウト!ビブリオで蓮巳兄のエピソードがちらっと出て来たので、つい衝動で書いた紅敬+蓮巳兄。
後日談もいつか書きたいなーと思いつつ、ページ整頓するまで忘れていた……。←

初出:2017/06/16 

文字数:2860文字 

 

「悪ぃ、蓮巳。予定切り上げて帰っていいか? 妹が熱っぽいらしい。父ちゃんが今日帰ってくるの遅いんだ」

今日は次のライブの打ち合わせも兼ねて、泊まりこむ予定で蓮巳の家に来たものの、妹からの電話に出てみたら、具合が悪いと弱った声で言われた。
そんな状態なら、誰もいない家に一人いさせるわけにはいかねぇ。
問いかけはしたが、蓮巳も帰るのをすすめてくれるだろうと踏んで、電車の時刻表をスマホから確認しようとしたが、蓮巳がそれを止める。

「待て。今なら兄が帰っている。車を出して貰うから家まで送ろう」
「いや、でもよ」
「気にするな。それにこの時間なら電車の本数は少なくなってしまっている。電車で帰るより絶対に早い。話をつけてくるから、その間に帰る準備をしてろ」
「……悪ぃ、助かる」

車――バスとかの大型車ならまだしも、自家用車だとちと酔いやすいのが気掛かりだが、この際そうも言ってられねぇ。
蓮巳が部屋を出て行ったところで、床に広げていた次のライブで使う衣装のデザイン案を記した紙を纏めて、クリアファイルに突っ込み、借りていた蓮巳の部屋着を脱いで制服に着替え終わったところで、蓮巳が部屋に戻って来た。

「すぐ車を出してくれるそうだ。もう帰れるか?」
「おう。ホントすまねぇ。埋め合わせは今度するからよ」
「そんなことはいい。こっちだ」

蓮巳が上着を素早く羽織り、離れを出て歩いて行く後についていくと、俺の知らない場所に出た。
何度かここには来ているが、蓮巳の家は敷地が広くて、把握出来てないところが未だに多い。

「何だ、こっちは裏道か?」
「ああ。寺への石段を登るのが難しい場合は、こっちの道から寺に車で来られるようになっている。ただ、少し遠回りになる上、道に灯りがあまりないから、夜歩いてくるには不向きでな」

少し歩くと、シャッターの開いているガレージが見えたが、車が何台もあったことに驚いた。
バイクも見えた範囲じゃ二台はある。
しかも、一台は記憶違いじゃなきゃ、排気量1000ccオーバーのロードスポーツタイプのやつだ。
乗りこなすには結構な力量が必要なはずだし、黒を基調にした車体がめちゃくちゃ格好いい。
凄ぇバイク持ってんなぁ、蓮巳の兄貴。
蓮巳の家はでかい寺だから、仕事で使うものも幾つかはあるんだろうが、それでも家族の人数から考えるとやけに台数が多い。
疑問が顔に出たのか、蓮巳が理由を教えてくれた。

「兄が趣味と実益を兼ねて乗り物を集めていてな。置ける場所には困らないからとつい増やしてしまうようだ。――兄さん」
「お、来たか。乗って、乗って」

既にエンジンがかかっていた小型ワゴン車の運転席から顔を出したのが蓮巳の兄貴なんだろう。
そういや、兄貴がいるとは前に聞いてたが、顔を合わせたのは今回が初めてだ。
思ったより旦那と歳が離れていそうだな。
うちと似たような年齢差か?
少し面差しがこいつと似てるなって思いながら、頭を下げ、蓮巳と一緒に後部座席に乗り込んだ。
もしかして、数台あるうちであえてこの車にしたのは蓮巳の配慮だろうかと様子を窺ってみると、察した蓮巳が小さく頷いた。

「空間に余裕があった方が少しは酔いにくいかも、とな」
「やっぱりか。ありがとよ」
「敬人。で、どこまで行けばいいんだ? ナビに入れる」
「ああ。住所は――」

俺より先に蓮巳の方がうちの住所を告げてくれる。
きっちり覚えてんのが凄ぇなって思っているうちに、ナビが俺の家までの予想所要時間を読み上げ、車が走り出した。
確かにナビ通りに行ければこっちの方がずっと早い。

「すんません、ありがとうございます。助かりました」
「いいって、いいって。妹さんが熱出したなら心配だし、少しでも早く帰りたいよな。えっと――」
「あ、鬼龍といいます。蓮巳とは同じユニットで」
「ああ! 君が鬼龍くんか! 顔、見たことあるような気はしたんだ。初めまして、敬人の兄です。弟がいつもお世話になっていまして。話はこいつから色々聞いてるよ」
「色々?」
「兄さん」

蓮巳が遮るように口を挟んだが、その瞬間、蓮巳の兄貴の目元が笑ったのがミラー越しに確認出来た。

「『紅月』にはどうしても君が必要だって、連日連夜しつこく勧誘したんだろ? 俺はしつこすぎるのは逆効果だって言ったんだけど、まぁ結局一緒にユニット組んだならそれが上手くいったってことだよなぁ。凄いやつがいるんだ、その力がどうしても欲しい、必要なんだって目を輝かせて言っ……」

無言で蓮巳がやつの正面にある運転席のシートに向かって、ドカッと蹴りを入れる。
蓮巳の兄貴の言葉はそこで一旦途切れたが。

「で、こうも言ってたな。衣装を作る腕前もピカイチで、デザインセンスもあるから、ライブの衣装がいつもどうなるか楽しみで仕方ないってね。俺も紅月のステージ見せて貰ったことあるけど、衣装は華やかで舞台映えするし、動きが迫力あって確かに素晴らしかった。敬人が君をどうしても欲しいって言ったのに凄く納得したね。英智くん絡みの話だと結構愚痴が多いのに、そういや君については褒める話ばっかり聞くなぁ」

結局、さらに続けられた言葉に、蓮巳が今度は三回続けて蹴りを入れた。
今、兄貴が言ったことは、蓮巳からも面と向かって似たようなことを言われちゃいるが、本人以外から改めて聞くとどうにも面映ゆい。
蓮巳はもっとなんだろう。目元と耳がほんのり赤く染まっている。
普段のこいつなら、手や足より先に口が出て怒濤の説教が始まるのに、兄貴相手だからか勝手が違うのも妙に新鮮だ。
何かこう、兄貴に手のひらで転がされているっていうか、遊ばれているような感じなんだよな。
兄貴の方は涼しげな顔で余裕がありそうだから、そんな印象になるのかも知れねぇが、まだ知らなかった蓮巳の一面を垣間見たようでつい口元が緩んじまう。

「敬人ー、行儀悪いぞ。俺の車に蹴り入れて汚すな」
「余計なことをべらべら話すからだ。兄さんが黙ればこれ以上は汚れない。貴様も何を笑っている、鬼龍」
「悪ぃ、旦那が可愛……面白くてよ、つい」

可愛いって言いそうになって慌てて言い換えたが、蓮巳にも蓮巳の兄貴にもちゃんと聞こえていたらしい。
蓮巳には睨まれ、兄貴の方には笑いながら同意された。

「可愛いよなー、うん。こうやって変にムキになったりするところが、まだまだっていうか」
「うるさい、二人とも。もう黙れ。度し難い」

そんな会話を交わしているうちに、俺の家に着く。
話をしていたせいか、気付いたらあっという間で酔うようなこともなかった。

「ここでいいかい?」
「うっす。ありがとうございました。また今度、蓮巳の話聞かせて下さい」
「おい」
「おおー、いくらでもいいよ! ネタなら山ほどあるからね」
「いい加減にしろ。じゃ、また明日な」
「おう。あ、後でデザイン画修正した画像送っとくか?」
「明日の放課後に会った時でいい。今日は妹についていてやれ」
「ありがとな、じゃ」

家の前で降ろして貰って、蓮巳たちが乗った車が去って行くのを見送りながら、やっぱり歳が離れた下の弟妹が可愛いのはどこも一緒か、なんて思ったりした。

 

 

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