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約束<花帰葬・黒親子>

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雪花亭で配布されていた『花帰葬好きさんに22のお題』よりNo21。

ここから全てが始まった、私の初書き花帰葬SS。

初出:2004/05/28

文字数:1605文字

 

(……参ったねぇ)

かなり色々なものが散らかった状態の部屋のベッドに腰掛けて、黒鷹は左腕の包帯を巻きなおそうと先ほどから懸命に取り組んでいた。
が、いかんせん、元来器用な方ではない彼には、かなり難儀な状況になっている。

事の起こりは1週間ほど前。
人里に連れていった玄冬に「自分の親はどこにいるのか」と問われて、はぐらかすつもりでうっかり「熊が親だ」と言ってしまったのがまずかった。
まさか、その親……つまりは熊を探しに1人で森に出ていくとは予想外の出来事で。
玄冬を見つけたときには、どこでやったものやら、既に足に傷を負っていて、身動きができず、まさに頭上から熊の爪が下ろされようとしていた。
『玄冬』が死ぬのは、ただ1つの例外のみ。
放っておいても、彼が死ぬことは絶対にない。
傷は通常の人間よりも数倍の速度で治癒するのだから。
だが、痛みを感じるのは他の人間と変わらない。
何かを考える前に黒鷹は鳥の姿になって、玄冬と熊の間に割って入った。
黒鷹も左腕に傷を負ったが、なんとか玄冬から熊を遠ざけて、その隙をぬって、転移装置で逃げた。
そこまではよかったが、熊が親ではないと知った玄冬はこの一週間、まったく口をきいてくれてない。

(まさか、あんなことまで本気で信じこんでしまうとは思わなかったからねぇ……。言葉には気をつけないといけないな。)

怪我をした痛みより、なにより。
全く口をきいてもらえないというのが予想以上に堪えた。 

「……つ……しまった、傷口が開いたか」

包帯を変に傷に引っ掛けてしまうような形になり、黒鷹が痛みに眉を顰めた。
かなり塞がってはいるが、大きな傷だったので完全にはまだ塞がっていない。
傷薬を取ろうと手を伸ばしたとき、カチャリとドアノブが開く音がした。

「……玄冬」
「へたくそ」

ぼそりとそれだけ呟くと、玄冬は床に散らかっている様々なものを器用によけて、黒鷹のベッドの上にあがり、薬を手にとって、黒鷹の手当てをしていく。
ほどなく、綺麗に包帯が巻き上げられた。

「ありがとう。助かったよ。玄冬は手当てをするのが上手だね」
「……お前がへたくそなだけだ」

呆れたように言う玄冬に、つい苦笑がもれた。
否定の言葉は思いつかなかったし、1週間ぶりにきけた声に嬉しかったせいもあって、とっさに何も言えなかった。 

「……どうして」
「うん?」
「どうして、黒鷹の怪我はまだ治らないんだ? 俺はとっくになんともないのに……」

玄冬の怪我は翌日には傷跡もなく、怪我をしたのが幻だったかのようだった。
何故、ほぼ同時に怪我を負ったのに、黒鷹だけが……いや、自分だけがすぐに治癒したのか。
他の人は知らない。
だが、森の動物や家畜をみる限り、すぐに治癒するほうがおかしいらしいと、幼いながらも玄冬は気付いていた。

「玄冬……」
「なぁ、俺は何なんだ? 黒鷹は知ってるんだろう?」
「玄冬」
「もう、嘘はいらない。ごまかしは聞きたくない。……もう……こんなことになるなんて、絶対に嫌だ……」

黒鷹の怪我をしていない方の腕に縋りつくようにして、玄冬は顔を伏せた。
自分が怖い目にあったことよりも、黒鷹に怪我をさせたということが堪えたのだろう。
玄冬はそういう子だから。……前の玄冬のときとそんなところは変わらない。
黒鷹は軽く吐息をつくと、手当てをしてもらったばかりの腕で、
そっと傷に障らないように玄冬の頭を優しくなでた。

「……わかったよ。もうごまかしたりしない。私は君が尋ねて来た事は、どんな内容であっても必ず答えてあげよう」
「本当か?」
「ああ」

……もしかしたら、言葉にできないことはあるかも知れないけど。
それでもこの子には自分が何かを知る権利はある。
いや、知らなければならない。
もしもそれで傷ついたとしても、私が君をずっとずっと守っていってあげるから。

「……黒鷹。俺は……何だ?」
「君はね、玄冬……」

それは遠い日に交された、二人だけの約束。

 

待って、これ移動させたの2022年初夏だけど、書いたの18年前とかマジで!?
ひええ……。月日の流れが怖い。
最近は滅多にやらなくなった三人称で書いていますね。
親子仲良しが書きたかったというか、もう最初から黒親子を選択した辺りに片鱗が見えるw
傷を手当てする玄冬が書きたかったので、強引に一週間かかっても、傷が塞がってないとかにした記憶あり。
黒鷹には治癒能力があるので、本来は大丈夫そうですが。
(例の熊のエピソードで一週間口を聞いてくれなかった~というくだりがあったので)

 

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