2004年父の日企画SS(表)その1。
黒鷹&赤ちゃん玄冬が村に買い物に行って今日が父の日なのを知る、な内容です。
初出:2004/06/20
文字数:946文字
食料を麓の村まで買いに、まだ赤子の玄冬を連れて降りると、今日は何故かいつもより賑わいを見せていた。
心なしか親子連れが多いのは気のせいだろうか?
「ずいぶん今日は賑やかなのだね。何かの祭りでも?」
時折、村中で上がる楽しそうな声がつい気になり、ある店での買い物のときに主に尋ねて見た。
「そりゃ、あんた。今日は父の日だからだろうさ」
「父の日? ……ああ、そうか」
そういえば、人の世界にそんな風習があったような気がする。
命を与え育んでくれる父に、日ごろの感謝を祝う日なのだと。
「それで、今日は親子連れが多いのか」
祝いごとのために。
家族で楽しい一時を過ごすのだろう。
「何、あんたの抱いてるその坊ちゃんだって、大きくなったら祝ってくれるだろうさ。なぁ?」
「あー……」
私の腕の中に収まっている玄冬に、店の主が笑いかけると、玄冬は微かに声を出して応じたようだった。
この子は威勢良く笑うこともないが、人見知りもしないし、ほわっと柔らかい笑みを返す子なので、行く先々でよく人に構われる。
この子が『玄冬』なのだと知ったらどうなるかはわからないが、わざわざ言う必要もないので特に言わない。
買い物を終えて店を出た。
村のあちこちで声が聞こえてくる。
自分の父を呼ぶ声が。
「お父さーん! こっちー」
「パパ~。待ってよー」
自分のことではないのに、どうしてだろうね。
聞いてて少々くすぐったい気分になるのは。
「私はダメかも知れないな」
この子に『パパ』だとか『お父さん』だとか呼ばれることが想像できないでいる。
もしかしたら、君には命を与えた本当の『お父さん』がいるのを知っているから。
君の『お母さん』がどれだけ、君を慈しんでいたかをよく知ってるから。
……自分でも意識せずに抵抗してしまうのかもしれないね。でも。
「……大きくなったら、祝ってくれるのかね。君は」
ほんの少しだけ、その様子を想像して楽しくなった。
「あー」
「おっとと。……痛いよ、玄冬」
髪をぐいっと引っ張られ、ゆっくりと手から髪を離していく。
もう少しで全部の髪が取れるというとき、ふいに指を掴まれ笑いかけられた。
その様子があまりにも可愛くて。
そっと額に口付けた。
「……早く大きくおなり、私の子」
ねぇ、君は私をどんな風に呼んでくれるんだい?
2004年父の日企画SS(表)その1っていうのは、当時予定の入ってなかった日曜日だからと、一日でいくつ話を上げられるか勝手にチャレンジした企画ですねw
(多分、最終的に6つくらい上げた? イラストも込みで)
短い話とはいえ、当時の私のパッション凄いな……。
多分、父の日絡みの話で一番それっぽい内容です。
(うちでの基本的な関係はカプ萌えなので……)