『惑楽』で配布されていた『萌えフレーズ100題』よりNo90。
ほぼ一人称で書くようになっていた時に不意に書いた三人称。
初出:2004/10/23
文字数:811文字
「じゃ俺、先に風呂に入ってくるから」
「……うん? 待ちなさい、私も一緒にはい……」
「断る」
黒鷹の言葉を遮って、玄冬が有無を言わさない勢いで答える。
「……人の話は最後まで聞きなさいと、私は教えたと思うんだが」
「話の内容がわかるんだから、必要ない」
「いや……わかってない! 君はわかってないよ、玄冬! せっかく私が親子として裸のおつきあいを提案しているというのに、どうして、そんなつれない答えを返すのかね!」
「お前と一緒に風呂に入ると、五月蝿いから嫌だ」
「ノン! 五月蝿いなんて、心外だよ! 私はただ、我が子の成長振りを確かめたいだけだというのに! そろそろ生えてきてるだろうかとか、むけ……」
バンッ!
言葉を言いかけた黒鷹の顔を目掛けて、玄冬の脱いだ上着が投げつけられた。
「……そういうところが嫌だと……っ!」
「痛いじゃないか。……そういうことなら仕方ない。こちらも譲歩しようじゃないか」
「うん?」
黒鷹が上着を顔から、取り除きながら言う言葉に、玄冬が首を傾げた。
「一緒に入らないまでも、せめて、服を脱がさせてもらうくら……ぶっ!」
その台詞が言い終わらないうちに、玄冬が手に持っていた着替えを容赦なく、黒鷹の顔に押し付けた。
「……いい加減にしろ……っ! もう、知るか!」
「ぶはっ……ちょ、玄冬! 待ちなさい! ……あーあ、行ってしまったか。……いいのかねぇ」
振り返りもせずに、浴室に向かった玄冬の後姿を見て、黒鷹が苦笑した。
そう、彼の着替えはここに置いたままなのだから。
「変なところで、抜けているんだから、君は。……さて、どうしようかな」
苦笑を張り付かせていた顔は、何時の間にやら、心底楽しげな笑顔に変わっていた。
知らぬは玄冬ばかり。
***
玄冬が着替えのことを思い出して、風呂から上がることに躊躇しているところに、着替え持参で、満面の笑みを湛えた彼の養い親が、嬉々として訪れたのは数十分後の話であった。
この時三人称にしたのは、話のテンポというかノリが自分の中でそんな感じだった。
かなり短めな話。
思春期の子どもって、必要以上に構われるのを大抵は嫌がるものですが、黒鷹はお構いなしに色々言ったり、やったりするだろうとw
玄冬の嫌がりようが面白くて、かえって嬉々として構いたがる黒鷹。
とある日のお風呂がテーマだった絵チャで思いついた話の一つ。
タグ:花帰葬, 黒親子, CP要素なし, 500~3000文字, 三人称視点, サイトのみ, 2004年, 萌えフレーズ100題