かつて運営していた花帰葬企画サイト『Flower's Mix』を開設する際に展示していたサンプル小説。
(企画内容は月に一度、登録してる参加者で都合の合う人の中から線画担当と原案担当を一人ずつ選び、線画と原案を提出して貰って、他の参加者はそれに沿って彩色&小説を書くというものでした)
サンプル原案内容は
黒玄。日常の甘いやりとりの話で。他のキャラは出さない方向で。
(会話の中で出て来る程度までならOK)
「何時までそう言っていられるかな?」
と言う台詞を話の何処かで黒鷹に言わせてください。
というものでした。
初出:2006/04/06
文字数:1192文字
「黒鷹、黒鷹! 寝る前にご本読んで!」
「うん? いいとも。何のお話を読もうか」
「えっとね、これ」
「ほう? どれど……」
見慣れない表紙だな、と渡されて頁を捲って一瞬声が詰まった。
……遥か昔の物語。
今はもう御伽話にさえなっていないはずの……。
「……玄冬、これをどこで?」
「ご飯の時にいつもの人に渡されたの。どうぞって」
「…………そう、か」
「……ダメなの?」
「いや、いいよ。読もう。知りたいんだろう?」
ぽんと玄冬の頭に手を置いて、寝室に促すと無邪気な笑顔が返ってきた。
何も知らないからこそ出来る……昔の君には絶対に出来なかった顔が。
***
「……それで魔王は救世主によって倒され、世界は再び春を迎えたのでした」
結局、玄冬と書いてあるところは伏せて、『魔王』という呼称で話を進めた。
まだこの子が難しい字を読めなかったのが幸いだ。
誤魔化したところで分からずに済む。
「魔王についていた、黒い鳥はどうなったの?」
「さぁ……どうしたんだろうね」
「……俺ね、きっと魔王が死んだ後は哀しくて仕方なかったと思う。だって、俺が黒い鳥でもきっと哀しいもの。折角守っていたのに死んじゃうなんて。守るくらいだったら、絶対魔王のことが好きだっただろうから」
「……じゃあ、もしも。君が魔王だったとしたら。黒い鳥を哀しませないようにするのかい?」
「うん。だって魔王についてるのは黒い鳥だけなんでしょう? だったら、黒い鳥にも魔王しかいないもん。それなのに、魔王を殺して全部おしまいっておかしいよ。俺は嫌だ」
「…………何時までそう言っていられるかな?」
「……黒……鷹?」
つい、皮肉交じりに零れた言葉。
私の顔色を伺う玄冬。
……しまった、そんなことをいうつもりではなかったのに。
「……っと、ごめんごめん。なんでもないよ。……さ、お話は終りだ。もう寝なさい」
「ん…………ねぇ、黒鷹」
「うん?」
「なんでもない。……おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
目を閉じた玄冬の髪をそっと撫でると表情が綻び、やがて小さな寝息が聞こえ始めた。
「……君が望んだくせに」
自分でも私でもなく。
この子は世界の存続を望んだ。
最初の時も、あの時も。
――俺が生まれる限り、殺し続けてくれ。お前にしか頼めないんだ。
そう、私しかいなかった。
そして私にも君しかいなかった。
……なのに、君は。
――不公平じゃん?
つい先日、救世主がそんなことを零した。
――だって、俺もアンタも全部知ってる。……なのにあの子は何も知らない、なんてさ。
本を差し入れたのは彼の仕業だろう。
大方彩王宮の図書館からでも持ってきたのに違いない。
「……それでも、私は約束を守り続けるけどね」
今も昔も滅多に我が儘を言わない、君の数少ない我が儘だから。
叶えてやれるのは、私しかいないのだから。
「おやすみ、玄冬」
だから、どうか安らかに。
時が再び君を奪う、それまでは。
黒鷹とこくろによる春告げの鳥ネタ。(またか)
(思いっきりお題に黒玄ってあげてますが、ボーダーライン的にこんな感じまでオッケーですよという意味合いでこくろで書いた覚えがある。他のキャラは出さない、もここまでならありと示す為に出しました。サンプルなので)
(黒鷹の心情を抜かせば)親子ほのぼのの甘い読み聞かせ。
まぁ、原案もサンプルなので自分の好みにしただけともいうw
タグ:花帰葬, 黒親子, CP要素なし, 500~3000文字, 黒鷹視点, pixivUP済, 2006年, Flower's Mix掲載分, 春告げの鳥