PS2版花帰葬、ソフマップでの購入特典だった、ドラマCD『彩の城』のエピソードから思いついたネタです。
そっちを知らなくてもこれはこれで話として読むには困らないと思いますが、知っているとちょっとにやりとするかも……しれない。
初出:2006/07/14
文字数:1238文字
「じゃんけんぽん! あっちむいてホイ!」
「おっ!? いきなり何だい、ちびっこ!」
唐突に言われ、つい勢いに釣られてじゃんけんに応じる。
負けた瞬間に花白が左側に指を差したので、反射的に逆の右側に顔を向けたら、視界の隅にあからさまに不満げな表情が映った。
「……いきなり、でもしっかり顔は背けるんだね。嫌なやつ」
「仕掛けられた方向にそのまま向いたって面白くないじゃないか。で、何だね今のは?」
「まぁ……今やったままの遊びだよ。単純な遊び。二人でじゃんけんをして、勝った方が負けた方に対して、どこかの方向に指を差す。その指した方向に顔を向けたら負け。別の方向に向けたら、勝負続行ってことでまたじゃんけん。それを繰り返して、どっちかがどっちかの指を差した方向に顔を向けてしまった時点でこの遊びは終了ってわけ」
「ほう。じゃあ今の私の対応は正しかったのだな」
「そういうこと。……いっつも僕にやれしっかり勉強しろだの、さぼるなだのっていう五月蝿いヤツがいるんだけどさ。そいつ根が真面目に出来てるもんだからさ、この勝負仕向けて、あいつが負けるとひいてくれるんだよね。っていうか、僕がじゃんけんに勝ちさえすれば十中八九勝てるんだけど。あいつ素直につい指差した方向に顔を向けちゃうから」
真面目、そして素直。
それらの言葉に脳裏に浮かんだのは、正にそれを地でいく我が息子。
玄冬はちょうど夕食の支度中で、会話には加わっていない。
「なるほど、なるほど……。ふむ、野菜を食べさせられそうになった時にでも玄冬とやってみるのも一つの手かな。あの子も根が真面目で素直な子だからね、うん、中々いいかも知れない」
「言っておくけど。これ、まずお前がじゃんけんに勝たないと意味ないよ?」
「ははは、それは心配無用だ! 伊達に疾風の黒鷹と呼ばれているわけじゃない。素早さには自信がある。じゃんけんで玄冬が出しそうな手を見てからこっちの手を出すことくらい造作もないことさ」
「うわ、ずっるー……」
「お前に言われたくはないね。お前だって、大方そのいつもの相手に似たようなことをやっているくちだろう?」
「うー……まぁ、そうなんだけどさ」
「せっかくだから、試しにやらせてもらうさ。まぁ、いきなり本番もあれだから、それとなく、ね。お前だって、これで食卓に野菜があがる機会が減ったのだとしたら嬉しいだろう?」
「……そう、上手くいくかなぁ」
***
「……上手くいくと思ったんだがなぁ……」
玄冬に手渡された箒で玄関先を掃きながら、一人虚しく呟いてみる。
玄冬に遊びを仕掛けて、じゃんけんが出来たまではいい。
が、問題はその先だった。
そもそも玄冬が顔を動かさなければ、この遊びは成立しない。
どうも、真面目に育ちすぎてしまった気がする。
遊び心というのが足りないな、あの子は。
どこでこんな風になってしまったのやら。
これを利用して、色々応用も利かせられるなと思っていたのに甘かった。
策略なんて、そうそう上手くは行かないってことかね。
……やれやれ。
上手く行けば色々応用を利かせられると策略したけれど、玄冬がああなのであっさりダメになったという話。
短いながらも、あのじゃんけんエピソードは和むので大好きです😊