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青は海の色、そして、君の……<花帰葬・黒玄前提鷹花>

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春告げの鳥EDで二人目の玄冬が亡くなった後の話。
一緒に旅をしている黒鷹&花白です。

かつて運営していた企画サイトFlower's Mixでのコラボ作品でした。
H様による原案内容は以下。 

8月ということで、【海辺、休息】です。この要素が入っていれば、他の指定はありません。
海は実際に行かずにただ会話に出るだけでも、「海の様な~」等、比喩として出るのでも構いません。
キャラの指定も特にありません☆過去組から創造主様、玄冬達まで。
ほのぼの~シリアス、CP要素アリもOK。
あの世界でのつかの間の1シーンを再現して頂けると嬉しいです。

明るい夏の海なイメージではなく、少し切ない海のイメージになりましたが、こういうのもありかなと。

初出:2006年初冬

文字数:1852文字 

 

「うわぁ……」 

目の前に広がった空の蒼と海の藍。
地平線で隔たれた二種の青はそれぞれに自分の色を主張しながらも存在を自然と馴染ませている。 
どこまでも続く青の世界は深く、吸い込まれてしまいそうでただ圧倒された。   

「凄いだろう? もしかして、お前は海をよく見たことがないんじゃないかと思ってね」   

タカが遠くを見つめながら、そんなことを口にした。 
確かに彩にも海はあったのだけど、僕はほとんど城の周辺以外の場所に行くことはなかったし、群の玄冬の家に行く途中にちらりと見かけることはあっても、じっくりと景色を眺めることなんて、まずなかった。 

「うん。こんな風に見たの、初めて」 
「なら、連れて来た甲斐はあったな。ここは私のお気に入りの場所だ。連れて来たのはお前が初めてだよ」 
「え。玄冬……は?」 
「あの子は自分が『玄冬』であることを知ってからは、極力人と関わるまいとしていたからな。遠出するのは好まなかったんだ。一度くらい見せてやりたかったんだがね。私達の家の近くには、川はあっても海はなかったし」 
「そ……か」   

何かを思い出しているのか、タカの表情が柔らかくなる。玄冬が関わるといつもそうだ。   

「玄冬が幼い頃に川で溺れたことがあるのはお前も知っているな?」 
「うん、それは玄冬本人から聞いた」 
「あれはまだお前が生まれる前の話だ。当然生命に関わるような何かなんてあるわけもない。なのに、助けて、と必死で叫ぶような思念が飛んできたものだから、私も柄にもなく慌てたね。何とか助けたものの少し手間取ってしまったこともあって、あれであの子は水辺が苦手になってしまったものだから、連れて来損ねた。まだ『玄冬』であることを知らせる前の、あの頃に来ていればな」 
「勿体無いね」 
「ああ」   

こんなに綺麗な景色だったら、きっと玄冬は好きになったと思うのに。 
初夏の風に乗って潮の香りが漂ってくる。
漣の音は近いようで遠く、遠いようで近くに感じる。 
初めて知るはずなのに、何かに似ているような感覚を覚えるのは何故だろう。 
……ああ、そうか。思い出みたいなんだ。 
つい最近の事だったような気がするのに、遠い昔のようだったり、遠い昔の事かと思えば、昨日の事のように思い出せる。玄冬の事は正にそんな感じだ。 
しばらくは互いに何を口にするでもなく、黙ってそこに立ち尽くしていたら、不意にカチャリと小さな物音が聞こえた。 
音の正体を確かめようとタカの方を振り向いて……びっくりした。 
タカが眼鏡を掛けているところなんて、初めてみたからだ。   

「何それ」 
「あの子の遺したものだよ。……こうしたら、私の目を通してあの子にもこの光景が見えないか、とね」   

馬鹿みたいだろう?と小さく呟く、眼鏡の奥から少し哀しい色を映した黄金の目。 
前の僕だったら笑っただろう。けど、今は。そんな気にはなれなかった。 
何となくタカの気持ちもわかる。 
きっと本当は誰よりも玄冬にここを見せたくてたまらなかったはずだ。 
思えば『いいところに連れて行ってやろう』と言い出したタカの表情は優しかった。 
玄冬に海を見せてあげられなかったことを後悔してるのが伝わる。
だから否定はせず、ただ頷いた。   

「……見えてるよ。きっと。玄冬にも」 
「…………そうか」 
「一緒に見たかったね」  
「ああ。そうだな……あの子はもしかしたら、途中で流れ着いた海草を探すのに夢中になってしまうかも知れないがね」 
「違いないや。玄冬は海の緑も無駄にはせん、とか言って拾って歩きそうだもんね」   

ようやく、いつもの笑みが零れたタカに少しほっとした。
いや、笑えたのは僕もか。 
黒鷹も僕も一人で考え込むと、どうしても玄冬の事が頭をよぎっていく。 
最初はそれでよくても、今ここに玄冬がいないという現実には心がまだ軋む。 
二人でいるとほんの少し、それが緩和されることに最近気がついた。 
玄冬の事を思い出しても、痛い思いはしないで済んでいる、かも知れない。   

「……ね、タカ」 
「うん?」 
「来年もまたここに来よう。三人で海を見よう」 
「……ああ、そうだな。三人で、な」   

僕がタカの眼鏡のつるにそっと伸ばした手は拒まれず、タカの手もそっと僕の手に重ねられた。 
眼鏡のレンズに映ったタカの目は海の色を重ねて……玄冬の目みたいだった。   

ねぇ、玄冬。来年また来るよ。
きっと来年、僕達はもう少し笑えている。 
だから、どうか。 
心配しないで、それをどこかで見ていて。

 

ぶっちゃけると黒鷹が玄冬の形見の眼鏡を掛けるというのが書きたかった話。
眼鏡スキーなんで、心躍りました。
そして、結局これの黒玄Ver.も後日書いたのでした……。
『それは何より愛しい色』がそうです。
いつか別途で書こうと思って書きそびれている話ですが、この二人が旅に出てるのは、目的がなくなったことでどこか虚ろな花白に、玄冬が守った世界を見せようという黒鷹の計らいによるもの。
今のところ執筆順がそのままこの世界線の時系列順になってます。

もう1、2本ほどこの世界線でのネタがあるのですが、いつか書けるかなぁ……。
ちなみにネタだけ出しておくと

・黒鷹が花白を旅に連れ出すアレコレ
・年老いた花白が死ぬ間際、久々に彼の元を訪れる黒鷹の話

 

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