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腐れ縁の先にあるもの<エリオスライジングヒーローズ・キスブラ・R-18>

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付き合ってはいないけど、体の関係は長年あるキスブラ。

酔い潰れたキースをブラッドが迎えに行って、ホテルでアレコレする話。

初出:2020/08/25

文字数:23007文字

 

[Keith's Side]

「あ……? どこだ、ここ」

目が覚めて、最初に視界に入ってきたのは知らない部屋の天井だった。
タワーのオレの部屋や自宅じゃねぇし、かといってブラッドやルーキーたちの部屋でもねぇ。
天井は妙に高いし、寝ていたベッドのシーツは真っ白でパリッと糊が効いてて、マットレスも上等なもんを使ってるのがわかる。これじゃまるでホテルみてぇだ――なんて思っていたら。

「目が覚めたか、キース」
「ブラッド」

身体を起こして聞き覚えのある声がした方向を振り向けば、ソファに座っていたのはブラッドだった。
だが、やっぱり部屋全体を見渡してみても記憶にゃない場所だ。

「酔い潰れて動けなくなったから迎えに来いと俺を呼んだのは覚えているか?」
「ん? ああ、言ったな」

よくあることだが、飲み過ぎて動けなくなったときはブラッドに連絡して迎えに来て貰っている。
コイツは車持ってるし、休暇でもない限りは酒をほぼ口にしねぇ。
迎えに来て貰う相手としてうってつけだし、そもそもブラッド本人が醜態を晒すぐらいなら、せめてその前に自分に連絡を寄越せと言ってるのもあって遠慮なく呼んでる。

「では、迎えに行った際にお前がふらついて近くの席に座っていた者のテーブルから酒瓶を落として派手に割ったことは?」
「……あ? 何だ、それ」
「貴様……予想はしていたが、やはりその辺から記憶が曖昧か」

呆れ顔でブラッドが溜め息を吐いてソファから立ち上がった。
オレが酒瓶を落として割った?
そんなこと全然覚えちゃいない。
ブラッドが飲んでた店に迎えに来てくれたのは覚えてる。
眼鏡だったから、今日はもうコンタクト外してんのかって思ったこともだ。
こっちだ、と手を振って……ええと、どうしたんだっけか。いくら探ってみても記憶はそこでプツリと途切れている。

「その時にお前も床にへたりこんで、着ていた服を酒で濡らした。幸い、割れた酒瓶の破片で怪我をした者はお前を含め誰もいなかったが、タワーにそのまま連れ帰るには躊躇われる格好だったから、近くのホテルで部屋を取って、服を纏めてクリーニングサービスに出したところだ」
「うげ……マジか」

マジでここはホテルだったのかよ。
素肌の上にガウン一枚だけなんて格好してんのはそのせいか。
でもって、ブラッドも同じガウン姿ってことは、多分その時にこいつの服も汚したんだろう。
オレの方まで来てベッドの縁に腰掛けたブラッドが、水の入ったグラスを渡してきたから、大人しく受け取って飲み干す。
程良く冷えた水は心地良く、酒の残っていた身体と頭を冷やしていった。
参ったな……酔い潰れて動けなくなるだけならよくあっても、ここまでやらかすことは滅多にねぇんだが。

「悪かった……割った酒瓶やらクリーニング代やら、掛かった費用は後で纏めて請求してくれ」
「無論、そのつもりだ。まったく……酒を飲むのはともかく、人に迷惑をかけない飲み方をしろと何度言わせるつもりだ」
「返す言葉もねぇわ……すんません……」

今の話が本当なら、店や他の客にも迷惑をかけたことになるし、その後始末は潰れていたオレに代わって、全部コイツがやってくれたってことだ。
口ん中の感覚からして吐いちゃいねぇって確信出来るのがせめてもの救いと言える。
これでゲロまで撒き散らしていた日にゃ、目も当てられねぇことになってただろう。

「……そう思うなら、少しは生活態度を改善して貰いたいものだがな。水のお代わりは」
「いや、今はいい。サンキュ~」
「そうか」

ブラッドがオレの手から空になったグラスを取り上げて、テーブルに置きに行き、また戻ってきてオレがいる方のベッドに腰掛ける。
部屋にはもう一つのベッドやソファもあるってのに、なんでわざわざこっち来るかね。
まだ、何かオレに言いたいことでもあんのかと思ったが、言い出す様子はない。
まぁ、それならそれでいいけどさ。
オレに非があるのは重々承知だが、ブラッドの小言をあえて聞きたいわけでもねぇし、無言が続いたからと言って気まずくなるような相手でもねぇ。
ちょっと一服するかと煙草を探すが、オレの私物を纏めて置いてくれてるテーブルの上には、ライターはあっても煙草は見当たらない。

「ブラッド。オレの煙草知らねぇか?」
「尻ポケットに入れてあった分なら、酒に浸ってダメになっていたから捨てたが」
「げ」
「どうせ、タワーの自室には煙草の買い置きがあるんだろう。戻るまでの数時間くらい我慢するんだな」
「へぇへぇ……仕方ねぇな」

ないと思うと口寂しさはあるが、ホテルのサービスを使って煙草を買って来て貰うって程でもない。
酒にしても、流石にこの状況下で頼めるほど面の皮は厚くねぇ。
仮に頼もうとしてもブラッドが止めるか、小言が始まるかのどっちかだ。

「……クリーニングに出した服、どんくらいで戻ってくるんだ?」
「あと三、四時間というところか」
「ってことは、それまではタワーにゃ帰れないってことだよな」
「そうなるな。ホテルに入った時点で、お前のところのルーキーたちには帰りは早朝になると連絡はしてある」
「そりゃ、どうも」

三、四時間か。
寝直してもいいが、何となく目が冴えちまった。
ブラッドの方も寝るつもりがねぇのか、携帯端末を使って何か読んでいる。
時々、何か考え込みながら指が止まっているところから察するに、仕事絡みの報告書かなんかだろうが、こんな時間まで仕事しなくても良さそうなもんだろうに。
相変わらず真面目な男だよ、コイツは。
だからこそ、セックスした時は普段とのギャップが楽しめるって一面もあるんだが。
……そういや、しばらくブラッドとセックスしてねぇな。
前にしたのいつだ? すぐに思い出せねぇ程度には間が空いてるのは確かだ。
ブラッドが今期のメンターリーダーになって忙しかったってのもあるし……まぁ、他にも色々オレには言えないらしい案件に時間を取られているっぽいのもあるが、それらを差し引いてもタワーの中じゃ迂闊に手ぇ出せねぇって事情もある。
メンターの立場は面倒くせぇと心底思っちゃいるが、そんぐらいは弁えているつもりだ。
そう考えたら、今ならするには都合がいいってことに気がついた。
ブラッドがその気になれば、の話だが。
ブラッドとは付き合っているってのとはちょっと違うが、アカデミーで過ごしていた頃に好奇心からセックスを試してみたら、意外に体の相性が良かったのもあって、お互いの気が向いた時にセックスすることがある。

「ブラッド」
「何だ」
「……久し振りにしたいけど、どうだ?」
「酔っ払いを相手にする気はない。寝ろ」
「酒ならもう大体抜けたっての。…………なぁブラッド」

手を伸ばして、ブラッドの手首を指先で軽く擽る。
触れた時に一瞬だけヤツの身体がビクリとしたが、それだけだ。
そのまま指を肘の辺りまで滑らせても撥ね除けないし、文句も言われなかった。
ってことはブラッドも異論はねぇってことだ。
そうでなければ、まずここまで触らせたりしねぇ。
その気が全くない時は、明確に拒否するからな、コイツ。
よくよく顔を見れば、耳と目元がほんのり赤くなっていた。
携帯端末を弄っていた指も動きが止まっている。
いつもこうなら可愛げがあるんだが、他のヤツラには絶対に見せたくねぇ類の顔でもあるのが困ったもんだ。
ブラッドの気が変わらねぇうちにとキスしかけたところで、ストップがかかった。
寄せた顔はブラッドの手のひらで阻まれる。

「……酒臭い。するならするでシャワーくらい浴びてこい。お前が上がったら俺も軽く浴びる」
「はいよ。つーか、お前はもう浴びたんじゃねぇのかよ」

普段とは少し違う石鹸の匂いがすることを考えても、ブラッドはここのバスルームでシャワーを浴びてからそう時間が経ってないはずだ。

「……確かに浴びたが、準備まではしていないからな」
「んなの、オレが前戯と一緒にすりゃ済む話だろ。何なら一緒にシャワー浴びて始めちまってもいいし」
「昔、それでのぼせた挙げ句、途中で使い物にならなくなって中断を余儀なくされたことがあったのにか?」
「あ……あー……あったっけ、そんなこと」

ここ数年はセックスする回数が減っているとはいえ、ブラッドとの付き合い自体はそれなりに長いもんだから、若かった頃は色々試したのを思い出す。
バスルームでやろうとしてのぼせたのは、ルーキーになって間もないくらいだったか。

「よく覚えてんね、お前」
「貴様が忘れやすいだけだろう。そういうことで一緒にシャワーを浴びる件はなしだ」
「ありゃ、湯船に浸かってたせいもあったと思うんだがな――」
「キース」

反論を言わせるつもりはないとばかりに、ブラッドが強い口調でオレの名前を呼ぶ。
ネオンピンクの目も射貫かんばかりの視線。
……こりゃ、大人しく引いといた方がよさそうだ。

「……へいへい。わあったよ。オレがシャワー浴びた後にお前ね、それでいいんだろ。んじゃ、さくっと浴びてくる」
「分かればいい」

触れたままだったブラッドの肘から、指を離して手を引っ込めようとしたところで、ブラッドの指が名残を惜しむように、オレの腕に絡んでから離れる。
指の動きがモノを撫でるときの動きを連想させるように見えたせいか、妙にエロい。
チリ、と触れた部分と身体の奥が熱を持ったような感覚についごくりと喉を鳴らす。
音が聞こえたのか、ブラッドの口元に微かな笑みが浮かんだのが見えた。
くそ、やってくれる。

「どうした?」
「どうしたって……お前ね……」

分かってて煽ったくせにこの野郎。
バスルームに向かおうとブラッドの前を通る際、お返しとばかりに軽く耳を撫でて、ついでに眼鏡も外し、サイコキネシスを使って外した眼鏡とブラッドが持っていた携帯端末をテーブルの上に置く。

「おい。勝手に外すな。それに端末まで」
「どうせ、この後外すんだからいいじゃねぇか。キスするときに邪魔なんだよ、あれ。ディープキスするときゃ尚更だ」

駄目押しとばかりに身を屈めて、わざとブラッドの耳元で声を潜めて続きを告げる。

「すぐシャワー浴びて戻ってくるからいい子にして待ってな。無粋な仕事も今日はもう終わりでいいだろ? 楽しもうぜ」
「っ!」

ブラッドから離れる前に派手に音を立てて耳にキスをする。
背後でブラッドが息を詰めたのがわかって、ちょっとだけ胸がすっきりした。

***

相変わらず均整の取れたブラッドの体は無駄な部分が全くない。
特に背中ときたら彫刻かっつーくらいだ。
体の線の綺麗さや肌の肌理細かさは、男としちゃ有り得なさ過ぎて正直引くレベルでさえある。
だが、そんな背中にキスマークを残していくのは、中々気分がいい。
すました綺麗な顔して、体にはキスマークだらけって様を想像するとたまんねぇんだよな。
投与されたサブスタンスの影響で、ヒーローは怪我の回復が一般人に比べると早い。
ヒーロー能力を得るために、最初にサブスタンスを体に取り込む時こそ、ちとしんどかったりするがそんぐらいだ。
キスマークも残したところで短時間で消えるが、それでも午前中くらいなら残るってのを過去の経験上知っている。
また、ブラッドのヤツが背中敏感なもんだから、ついやっちまうんだよなぁ。
今も背中の肌を吸う度に声を押し殺している。
他の部屋の音やら声やらが全然聞こえてこねぇから、このホテルの防音がしっかりしてるか、部屋の配置に余程ゆとりがあるかだろうから、多少声上げちまうくらいは気にしなくても良さそうなもんなのにな。

「んっ……く、んっ、キー……ス、痕、は」
「心配しなくても見えるとこにはつけてねぇよ。あ、でもタワー戻って着替える時だけ人に見られねぇよう気をつけろ。虫刺されで誤魔化せる範囲は超えてっから」
「なっ、範囲を超えてるって限度を考え……っ、くっ!」

ブラッドの肩口んとこを軽く噛みながら、指を孔に滑り込ませた。
ゴムなら財布に挟み込んでいても、ローションは持ってきてねぇから、ホテルのアメニティグッズとして置いてあったオイルを代わりにしてるが、どうしてもローションと同じようにはいかねぇ。
加えて、セックス自体が久々だ。
慎重に慣らしていかねぇとと、まずはオイルを十分にまぶした指一本だけでブラッドの中を広げていく。
さっき噛んだ場所を舐め上げつつ、指をゆっくりと動かしてみた。
挿れた感触は悪くねぇな。
ブラッドがシャワー浴びた時に準備したからか、思ってたより柔らけぇし、ブラッドの様子を窺っても辛そうじゃない。
歯を食いしばってんのは、単に声を上げたくねぇからだって分かる。

「んっ、く……あっ、ふ……!」
「大丈夫そうか?」
「問題、ない。指を増やしても……大丈夫、だ」
「んじゃ、二本な」
「んん……!」

先に挿れていた指に沿わせるようにして、もう一本指を挿れた。
ブラッドがシーツをキツく掴んで、まだ皺のついてなかった部分が乱れていくのを横目で見ながら、中に挿れた指でコイツが感じる場所を狙って刺激する。
緩めに曲げた指で押したり擦ったりしていくと、ブラッドの体が震えた。

「く、うっ……キー、ス……っ」
「ここだよな。……ちゃんと覚えてるだろ?」
「っ!! 待っ……んんっ!」

一度強めに押してから、一旦指を中から抜く。
ここでイかすのも出来るが、それはしたくねぇし、ブラッドも多分望んでねぇ。
ブラッドが呼吸を整えてから、恨みがましい目で俺を見る。

「は……少しは加減、しろ」
「してるから、指抜いたんだろ。……そろそろいいか」
「…………ああ」
「よ……っと」

枕元に置いといたゴムをサイコキネシスで手元まで引き寄せると、一連の動きを目で追っていたブラッドが小さく溜め息を吐いたのがわかった。

「いいじゃねぇか。楽なんだよ」
「……まだ何も言っていないが」
「言いたそうな顔してただろうがよ、くだらんことにヒーローの能力を使うなって」
「なるほど……くだらんという認識はしているということか」
「オレがオレの能力をどう使おうと自由だろ。これでも使い方は考えてるつもりだよ」

オイル塗れの手だと滑って上手くゴムの包装を破けなかったから、歯を使って破き中身を取りだして、張り詰めてるモノに被せる。
久し振りだから、後ろから挿れた方がブラッドの負担が少ねぇだろうと、ブラッドをうつ伏せにしたままで覆い被さり、先っぽで軽く孔の周囲をつついてから、ゆっくりと中へ進めた。
カリんとこさえ通り過ぎれば、あとはスムーズなもんだ、と思っていたが、なんとなくブラッドの中が狭い。
付け根まで収めたが、あんま余裕がねぇ感じだ。

「ん……久々だからか、ちとキツいな。大丈夫か?」
「…………問題、ない。じきに馴染……む」
「なら、いいんだけどさ。動くけど、キツけりゃ言えよ」
「ああ……っ……!」

付け根まで収めていたモノを半ばまで抜いて、浅めのところで強くならねぇように擦っていく。

「ふ、う、くっ……はっ」

律動を繰り返しているうちに、繋がってる場所に少し余裕は出てきたものの、一向にブラッドは声を上げようとしねぇ。
声抑えてるのも悪かねぇし、抑えるしかねぇ状況でしたことも何度もあるが、今はそうじゃない。
せっかく抑える必要がねぇ場所なら、声聞きてぇんだよな。

「おい、ブラッド。声上げても他の部屋とかに聞こえねぇだろ、ここなら」
「お……前が、聞く、だろう……っが」
「は? 今更じゃねぇか。久し振りすぎて声出すの恥ずかしいとか言わねぇよな」
「……………………だ」
「ん?」

よく聞き取れなかったから、一旦動きを止めてブラッドの顔の近くまで耳を寄せると、ブラッドがもう一度言い直した。

「……だとしたら、どうなんだ、と言った。そもそも好きで……っ、声を上げるわけでは、ない」
「いや、好きで声上げねぇってそうだろうけどさ……そう抑えられてると無理矢理してる気分になりそうなんだよな、こっちとしちゃ」

多分、体勢のせいもある。
ブラッドがうつ伏せだから、顔も横向きの状態でしか見えねぇし、それだってシーツの波に紛れてちゃんと見えてるわけじゃない。

「あー……んじゃ、声抑えてても良いからこっち向け。おら、ひっくり返すぞー」
「えっ、あっ、おい! …………うあ!」
「っ…………」

ブラッドの力が抜けてる隙に、片足を抱えて位置を素早く変える。
捻った下半身に続いて、肩と背中を支えるようにして、ちょっとだけサイコキネシスも使って上半身もひっくり返すと、どうにか抜かずに体勢を変えられた。

「お、成功成功。……って、何で顔隠すんだ、お前」

体勢を変えたときの刺激をやり過ごして、ふと気付けばブラッドが自分の両腕で顔の上半分を隠していた。
声の次は顔かよ。なんだってんだ、今日は。

「……別に、いいだろう。気にせず続けろ」
「んなわけいくか。腕退けろって」
「気にするなと、言って……いる……っ」
「痛てて、下にも力入ってるっての!」
「っ……だか、ら、お前が手を離せ、と」

結構、力籠めて腕を剥がそうとしたが、ブラッドも本気で力入れてて腕は動かねぇし、結果繋がってる部分にまで変な力が入ってる。
適度な締め付けはともかく、こんなんじゃ痛ぇし、それはブラッドも同じはずだ。
何の意地を張ってんだか知らねぇが、いい加減にしろってんだ。

「あー、そうかよ。お前がその気なら……っと」
「っ!?」

サイコキネシスを使って、顔を覆っていたブラッドの腕を強引に引き剥がした。
オレが能力を使ってまで腕を引き剥がすとは思ってなかったんだろう。
潤んだブラッドの目に動揺の色が浮かんだ。
ああ、なるほど、この潤んだ目を見せたくなかったってわけか。
普段のコイツを知っていれば知っているほど、中々想像出来ない目。
快感に溺れて、ぞっとするような色気を湛えている。
これはオレしか知らねぇブラッドの目だ。
ブラッドは見せたくなくとも、オレは何度だって見たい。

「キー……んんっ!!」

小言が始まる前に、とっとと口を塞ぐに限る。
ブラッドの口ん中を舐りながら、ヤツのモノを握って緩く扱くと、中がひくついて程良い締め付けがきた。
一筋零れ落ちた涙に、なんでか一瞬昔のブラッドの姿が重なる。
アカデミー時代、初めてコイツを抱いたときに、知らなかった快感に溺れそうで怖いと喘ぎながら目を潤ませていたのを思い出す。
当時は知らなかったとしても、今は十分過ぎるほどに知っているはずだが、久々のセックスで敏感になってて翻弄されてるのか、それとも他に何かあるのか。
間近でブラッドの目を覗き込んでもわからねぇが、ブラッドの舌がオレに応じて動かねぇってことは確かだ。

「ん、ふ……んっ!」
「……何考えてんだか知らねぇけどな、顔隠すくらいなら、その腕こっちに回せってんだよ、お前は」

唇を離した直後にサイコキネシスを解き、間髪入れずにブラッドの腰を掴んで、強く突き上げた。
繋がっている場所の熱さが増して、ぞわりと背筋を快感が突き抜けていく。

「くっ! あっ!!」
「ほら、腕はどこに回せっつった? もう能力で抑えてねぇぞ」
「…………っ」

ブラッドが複雑そうな表情をしながらも、その両腕をオレの背に回す。
肌の触れ合う場所が増えたことで、一気に体温が上がった気がした。

「う……あ、キース、待、て」
「ねぇよ。どっかの誰かさんが変に焦らしたせいで、オレだってもう余裕、ねぇ……って!」
「あ、ああ、んんっ!!」

背中に爪が立てられる感覚とようやく上げられ始めた声が、一層煽り立てていく。
繋がったところでうねる熱も後押しして、快感の頂が見えてきた。

「……っく、ぜ、ブラッド」
「キー…………ふ、うっ!!」
「っ!!」

このタイミングでの強い締め付けに耐えられるわけもなく、一番深いところで出した。
力が抜けて、ブラッドの体の上にそのまま体重を預けると、背に回っていた手の片方が頭を撫でてくる。

「……重い」
「ちっとくらい休ませてくれ。……っと煙草はないんだったな」

セックス終わった後の一服って最高なんだけどな。
ないもんは仕方ねぇ。

「待て。あったらベッドで吸うつもりだったのか、貴様」
「おっと。そんときゃ、ちゃんとベッドから出るっての」
「…………そうだな。またいつぞやのように、ベッドのシーツに焦げ跡をつけるようなことがあってはならないからな」

ブラッドが言ってるのは煙草を吸い始めた頃にやらかした話だ。
よりにもよって、ブラッドのベッドだったんだよな、アレ。

「うげ、忘れとけよ、そういうことは。あー……付き合い長いと覚えてなくていいことまで覚えてやがる」
「お前が色々忘れるから、俺が覚えているんだ。過去の経験から学べ。大体――」
「あー、はいはいっと。抜くぜ」

さっきまでの可愛さはもう跡形もなく、いつものブラッドだ。
放っておくと延々続きそうな小言をどうにか遮って、ブラッドの中から抜いた、が。

「ん? ……あ……あ~」

抜く時の感触が妙にぬるついてると思ったら、カリの辺りでゴムが破れていた。
出したはずの精液はゴムに少し絡みついていただけだから、残りはブラッドの中だ。
ゴムは破れることもあるのは知ってたが、本当に破れたのは今回が初めてだ。
途中で妙に熱くなって気持ち良さが増したのはこのせいかよ。

「どうした?」
「悪ぃ、ブラッド。ゴム途中で破れたみたいで中に残った。すまん。掻き出すのはオレがやるから――」
「……ああ、結局もたなかった、か」
「は?」

加減を考えろとかの小言が飛んでくるかと思いきや、ブラッドの呟いた言葉は予想外のものだった。
今のブラッドの言い方は破れることを予想していたように聞こえる。

「コンドームは油分に弱いからな。オイルを結構使ったことで、もしかしたら、途中で破れるかもしれんとは思っていた。……だから、お前が謝ることはない」
「それ気付いてたのかよ、お前……」
「気付いたところで他にローションの代わりになるものもなかっただろう。唾液だけだとどうしても乾いてしまうしな」

ブラッドは何でもないように言葉を続けたが、それってつまりは。

「…………しねぇっていうのは選択肢になかったのかよ」

最初からどうなるかわかってて、誘いに乗ったって事だ。

「………………久し振りにしたかったのはお前だけではない」

ブラッドがぼそりとそう呟きながら、オレの方に背を向けた。
ほんのり赤く染まっている肌にオレが着けたキスマークの数々が目に入る。
……あ、これヤベぇな。終わったばかりなのにまた興奮してきた。
たまにこういう可愛いとこあるよなぁ、コイツ。
ブラッドの背中側から腕を回して抱きしめ、体をくっつける。
オレが勃ってんのはそれで伝わったはずだが、ブラッドは特に離れようとはしない。

「……だったら、このままもう一回しようぜ。それ終わった後に纏めて掻き出しゃゴムなくても一緒だしさ」
「調子に乗るんじゃない。……最中に俺を押さえ込むためにサイコキネシスを使わないと約束するのなら応じてもいいが」
「お前が顔隠そうとしたり、声抑えようとさえしなきゃ使わねぇよ」
「ん…………あっ」

手を腹の下へと滑らせ、ブラッドのモノを探るとこっちもしっかり勃っていた。
腹についていたブラッドの精液を手のひらで軽く拭ってから扱くと、さらに固さが増したのが伝わってくる。
ブラッドとは根本的に性格が合わねぇと長年思ってるが、妙に感覚というか、タイミングが合うということが時々ある。
ああ、そういや、ジェイがいつだったか言ってたっけ。俺たちは性格は真逆なのに、たまにシンクロするって。
何なんだろうな、こういうの。
ブラッドのモノを探っていた手をケツの方に回して、孔を少し撫でるとさっき俺が出した精液の残りが出て来たから、それを指になすりつけて中に指をいきなり二本挿れる。

「んっ!」
「……もちっと慣らしてからにするか?」

さっきまで突っ込んでいただけあって、慣らさなくても大丈夫そうな気はしたが、一応訊ねてみた。
まぁ、答えは想像がついてる。

「いら、ん。不要……だ」
「だよ、なっ……!」
「うあ! あっ!!」

ブラッドの言葉が言い終わるか終わらねぇかのうちに、また中に突っ込んで――二回戦の開始だ。
さっきと違って、先っぽから付け根まで直接包み込んでくるブラッドの熱に、二回目じゃなかったら直ぐイッてただろうな、なんて思いながら、大量にキスマークが残っている背中に、さらにキスマークを追加していった。

***

「おおー……朝日が眩しい」
「今日も良い天気になりそうだな」

天気が良いのはいいとして、久々に二回続けてセックスなんてしちまったせいか、妙に日差しが突き刺してくる。
歳とっちまったなぁ。しんどいったらねぇ。
セックスが終わってから、仮眠したし、朝飯でエネルギー補給もしたが、やっぱりそんだけじゃおっつかねぇな。
一方でブラッドはと言えば、見たところ普段と変わらねぇ。
二回目は生でしちまったのもあって、コイツの負担は大きかったはずなのにピンシャンしてやがる。
睡眠時間もオレより少ねぇはずなのに、隈一つ残ってねぇってどういうことだよ。
下手に突っ込むと、普段からの生活態度が云々とか始まりそうだから言わねぇけど。
ホテルから少し離れた場所に止めてあったブラッドの車に乗り込み、車が出てからも、ついブラッドの横顔をマジマジと眺めてしまう。
マジでセックスん時とのギャップ激しいよなぁ。

「何だ」
「いーや、何でもねぇ。あ、いや、あった。タワー帰る前に煙草買いたいから、ちょっと適当な店寄ってくれ」
「断る。タワーの自室にはあるんだろう。車の中で吸われるのはごめんだ」
「そういうなよー。一昨日部屋片付けたとき、買い置きの煙草をどこにやったか忘れたから、それ探すとこから始めなきゃなんねぇんだ。頼む、一本だけ吸わせてくれ」
「自室で日常的に必要な物を探すという事態になるのがわからん。だから、ちゃんと日頃から片付けろと言っている。とにかくダメだ」
「ちぇっ、わかったよ……」

気怠さを吹き飛ばすためにも滅茶苦茶吸いたい気分だが、確かに店に寄って買って吸うのとタワーに着いて部屋にあるだろう煙草を探してから吸うのとじゃ、精々数十分程度の差だ。
諦めて車窓から流れる景色を見ていると、不意にブラッドが声を掛けてきた。

「キース、午後からメンターリーダーによるミーティングがあるのは覚えているな」
「ん、そういや今日定時報告だっけ。うっわ、この陽気でミーティングとか寝ろと言わんばかりじゃねぇか」
「寝るなよ。タワーに戻ったら朝のうちか昼の休憩中にはミーティング用の報告書を纏めておけ」
「あー……今日の分は大丈夫だ。昨日のうちに纏めてある」

前に研修報告書を提出するとき、八割以上記入しなければウエストセクター全体にペナルティだ、なんてこいつが抜かしたのもあって、ある程度は余裕を持って纏めるようにしてある。
こいつ暴君だから、報告書の提出が遅れたら本気でペナルティ出してくる。

「……そうか」
「お前が何かとせっつくからな。昨日飲みに行く前に片付けたんだよ」

実際、報告書を纏め終わっていて正解だった。
帰りが朝になるのは予定してなかったしな。

「ん?」

ふと、目の前に過った景色に違和感を覚えた。
タワーに向かう道から少し逸れてんのか、これ。
渋滞を避けて違う道に入ったのか? いや、通勤時間には少し早いからそこまで渋滞してねぇはずだし……なんて考えてたら、車はそのままある二十四時間営業の店の駐車場に止まった。

「ブラッド」
「煙草を買ってくるのなら五分で戻れ。それ以上は待たん」
「……サンキュ。直ぐ戻る」

どうやら、報告書を先に終わらせていたことを評価してくれたらしい。
暴君には違いないし、長い付き合いだからって容赦しねぇのも事実だが、話がわかんねぇわけじゃねぇんだよな、コイツ。
煙草とついでにブラッドに飲み物でも買っていこうと、車を出て店へと向かった。

[Brad's Side]

「では、こちらの衣類を確かにお預かりいたします。明朝、仕上がり次第お部屋まで持って参りますので」
「よろしくお願いします。申し訳ありませんが早めに届けて貰えると助かります」
「かしこまりました」

酒に塗れた二人分の衣類をホテルのクリーニングサービスに預け、ホテルの従業員が部屋から引き上げたところで、ベッドに視線をやり、つい溜め息を零してしまう。
この原因を作った男は呑気にも夢の中の住人だ。

「……まったく。手が掛かるにも程があるぞ、キース」
「んー……」

俺の呼びかけには反応したが、まだ起きる様子はない。
しばらくは無理だろうと判断し、今のうちにシャワーを浴びておこうとバスルームに向かう。

事の起こりは一時間ほど前。
例によって、キースが酔い潰れて動けなくなったから迎えに来てくれと連絡を寄越してきた。
今回はまともに居場所がこっちに伝わるよう言えただけでもマシだと思ったが、俺がキースのいる店に入り目的の相手を見つけた直後――酔ったキースがふらついて、足を縺れさせた。
倒れないように体を支えるつもりだったんだろうが、咄嗟に出たのは左手で、支えるために掴もうとしたテーブルは掴めなかった。
キースは左側の視野が欠けている。普段はそうと周囲に気取らせることはないが、酔い潰れて動けないような状態でそこまで注意が回るわけがない。
あの位置は恐らくアイツからは見えていないとキースに駆け寄ったが少し遅く、キースの左腕は隣のテーブルにいた客が飲んでいた酒瓶に当たって、派手に落として割り、キースもそのまま酒瓶の近くに倒れ込んだ。
幸い、割れた酒瓶の破片で誰も怪我することはなく、キースも単純に酔い潰れているだけだったが、酒が零れた場所に倒れ込んだキースの服は酒に塗れていたし、当然そのキースを支えた俺の服も酷い状態になり、このままタワーに帰るにはあまりに気が引けたため、店から近い場所にあったホテルに急遽部屋を取った。
キースの服を全部脱がせて、ホテルにあったガウンを着せてから、ベッドに寝かせるのは骨の折れる作業だった。
酔い潰れたキースを迎えに行くのはよくあることだが、ここまで手間を掛けさせるのはそうあるものではない。
今夜は先日新刊が出たばかりの小説を読み進めるつもりでいたのに、すっかり予定が狂ってしまった。

「反省してくれればいいが……問題はキースがどこまで覚えているかだな」

キースが酔っている時の記憶はかなり怪しい。
最初のうちはとぼけているのかと思っていたが、どうもそうではないようだ。
付き合いが長いのと、隠し事にはあまり向いてない性質だから、今は本当に記憶がないだけだと分かっている。
しかし、それだけに酔っている時にしでかしたことを注意したところで、あまり意味がないというのが虚しい。
日本のことわざにある『馬の耳に念仏』とはこういうことを示すのかと実感もした。
そうなると飲む量に気をつけろと言うくらいしか出来ないが、それもあまり聞き入れては貰えない。
……キースが酒に溺れるようになった切欠を思えば、あまり強く言えないというのもあるのだが。

「キースが起きるまで仕事でもするか」

読み進めるつもりだった小説本は置いてきてしまっている。
何か起きた時のために携帯端末は常に所持しているから、とりあえず今日のうちに片付けられる仕事を終わらせて、その分明日のスケジュールに余裕を待たせることに決めた。

***

「あ……? どこだ、ここ」

ぼそりと聞こえた声にようやくか、と時間を確認する。
ホテルに到着してから二時間弱。随分脳天気に寝入っていたものだ。
その間に俺はシャワーを浴び、明日チェックする分だった報告書を半分近くまで読み終わっていた。

「目が覚めたか、キース」
「ブラッド」
「酔い潰れて動けなくなったから迎えに来いと俺を呼んだのは覚えているか?」
「ん? ああ、言ったな」

ここまでは覚えているか。問題はこの先だ。

「では、迎えに行った際にお前がふらついて近くの席に座っていた者のテーブルから酒瓶を落として派手に割ったことは?」
「……あ? 何だ、それ」

とぼけているというのではなく、単純に知らないといった様子だ。
ああ、やはりそうか。

「貴様……予想はしていたが、やはりその辺から記憶が曖昧か」

察してはいても、つい溜め息を吐いてしまうのは仕方ない。
ソファから立ち上がり、冷蔵庫にあったミネラルウォーターをグラスに注いで、キースのところまで持っていく。

「その時にお前も床にへたりこんで、着ていた服を酒で濡らした。幸い、割れた酒瓶の破片で怪我をした者はお前を含め誰もいなかったが、タワーにそのまま連れ帰るには躊躇われる格好だったから、近くのホテルで部屋を取って、服を纏めてクリーニングサービスに出したところだ」
「うげ……マジか」

キースがいるベッドに座り、水を渡すとヤツが所在なさげな顔をしながら受け取る。
今回こそ反省して欲しいところだが、どうなるやら。

「悪かった……割った酒瓶やらクリーニング代やら、掛かった費用は後で纏めて請求してくれ」
「無論、そのつもりだ。まったく……酒を飲むのはともかく、人に迷惑をかけない飲み方をしろと何度言わせるつもりだ」
「返す言葉もねぇわ……すんません……」
「……そう思うなら、少しは生活態度を改善して貰いたいものだがな。水のお代わりは」

喉が渇いていたらしく、グラスは既に空になっている。

「いや、今はいい。サンキュ~」
「そうか」

空のグラスを受け取り、テーブルへと下げ、またキースのところへと戻る。
キースに状況説明もしたことだし、キースが眠ったのを確認したら俺も眠るとしよう。
再び報告書に目を通し始めたところで、キースが話し掛けてきた。

「ブラッド。オレの煙草知らねぇか?」
「尻ポケットに入れてあった分なら、酒に浸ってダメになっていたから捨てたが」

かろうじて、倒れ込む前にテーブルの上に置いてあった財布とライターは濡れずに済んだが、煙草は酒に浸った上にキースの体重で潰れていたから、クリーニングに出す前に俺の判断で処分していた。

「げ」
「どうせ、タワーの自室には煙草の買い置きがあるんだろう。戻るまでの数時間くらい我慢するんだな」
「へぇへぇ……仕方ねぇな。……クリーニングに出した服、どんくらいで戻ってくるんだ?」
「あと三、四時間というところか」
「ってことは、それまではタワーにゃ帰れないってことだよな」
「そうなるな。ホテルに入った時点で、お前のところのルーキーたちには帰りは早朝になると連絡はしてある」
「そりゃ、どうも」

もし、俺たちがタワーに戻る前に何かあった場合は、ジェイに指示を仰ぐようにも告げておいた。
無論、俺たちとて火急の事態が起きれば駆けつけるが、直ぐに行けなかった場合、ジェイに従っておけば間違いは無い。
ジェイにもその旨を伝えたら、キースのお守りお疲れさんというメッセージが返ってきた。
わざわざ、キースが酔い潰れて迎えに行ったことまでは言わなかったが、俺たちが揃ってタワーに不在となれば想像はつくのだろう。

「ブラッド」
「何だ」
「……久し振りにしたいけど、どうだ?」

それは明日の天気でも訊ねるような、何気ない問いかけだった。

「酔っ払いを相手にする気はない。寝ろ」

『したい』がセックスについて話していることは瞬時に理解したし、しばらくした記憶もないのは確かだが、酔っているキースとするのは避けたい。
キースとセックスすることそのものに異論はないが、酔ってろくに最中のことを覚えていない状態のキース相手にはしたくない。

「酒ならもう大体抜けたっての。…………なぁブラッド」

俺の名前を呼ぶ響きが先程に比べ、低く熱を帯びたものに変わる。
ベッドの中で幾度も聞いた声だと思ってしまったのが拙かった。
手首に触れてきたキースの指は思っていたより熱く、少し触れられただけでセックスを意識してしまい、気付けば触られるがままにしてしまった。
今期に入ってから忙しいのもあって、セックスは勿論、自慰も中々出来ずにいる。
また、次いつセックスの機会があるか分からないのも事実だ。
ならば、今日はこのまま応じるのもありか――と思ったところで近くなった酒と煙草の匂いに我に返る。
酒が抜けているのであればするのは構わんが、この状態で雪崩れ込むことはしたくない。
目の前まで迫っていたキースの顔を抑えた。

「……酒臭い。するならするでシャワーくらい浴びてこい。お前が上がったら俺も軽く浴びる」
「はいよ。つーか、お前はもう浴びたんじゃねぇのかよ」
「……確かに浴びたが、準備まではしていないからな」

ここはごく一般的なシティホテルだし、部屋に入った段階ではキースとセックスすることなど考えていなかったのだから、当然そのための準備は何もしていない。
キースから言いだしたことや過去の経験から考えても、恐らくコンドームはヤツの財布に一つか二つは入っているのだろうが、ローションまでは持ち歩いていないはずだ。
先程、服をクリーニングに出す際にキースの所持品は一通り確認していたが、その時にも見ていない。
それならなおのこと、こちらの準備はちゃんとしておく必要がある。

「んなの、オレが前戯と一緒にすりゃ済む話だろ。何なら一緒にシャワー浴びて始めちまってもいいし」
「昔、それでのぼせた挙げ句、途中で使い物にならなくなって中断を余儀なくされたことがあったのにか?」
「あ……あー……あったっけ、そんなこと」

何しろアカデミーの頃からの十年以上になる関係だ。
最初にキースとセックスしたのが、好奇心から始まったこともあってか、若い時は色々と試した。
件の話はルーキー時代、当時同室で過ごしていたジェイとディノが外出していたタイミングを見計らって、バスルームでしようとしたときの事だ。
今ならどこであろうとタワー内でしようなどとは思えないが。

「よく覚えてんね、お前」
「貴様が忘れやすいだけだろう。そういうことで一緒にシャワーを浴びる件はなしだ」
「ありゃ、湯船に浸かってたせいもあったと思うんだがな――」
「キース」

ただでさえ、ここに連れてくるのも大変だったのに、さらに世話を焼かせるつもりか。
冗談ではない。

「……へいへい。わあったよ。オレがシャワー浴びた後にお前ね、それでいいんだろ。んじゃ、さくっと浴びてくる」
「分かればいい」

不満そうではあったが、納得はしたらしい。
キースが俺に触れていた手を引こうとしたところで、少し悪戯心を起こし、ヤツの腕に指を絡め、わざとこの後の行為を連想させるように動いてから離れた。
喉を鳴らしたキースに、つい口元が緩んだのを自覚する。

「どうした?」
「どうしたって……お前ね……」

してやったと思ったのも束の間、キースが俺の前を通り過ぎる時に耳を撫でられ、かけていた眼鏡を外された。
それだけでなく、手にしていた携帯端末も手元から浮いて、眼鏡と一緒にテーブルの上に置かれる。
サイコキネシスか。
コイツは使い勝手の良さをいいことに、ヒーローの能力を気軽に使いすぎではないだろうか。

「おい。勝手に外すな。それに端末まで」
「どうせ、この後外すんだからいいじゃねぇか。キスするときに邪魔なんだよ、あれ。ディープキスするときゃ尚更だ。――すぐシャワー浴びて戻ってくるからいい子にして待ってな。無粋な仕事も今日はもう終わりでいいだろ? 楽しもうぜ」
「っ!」

身構える余裕もなく、キースがそう俺の耳元で囁いたかと思えば、わざと音を立てて耳に口付けを残していく。
今しばらくは自分のこと以外考えるなと――そう言われたような気がした。
キースがそのままバスルームに入って、シャワーの水音が聞こえ始めても、テーブルの上の眼鏡と端末を取りに行く気にはなれなかった。

「仕方ない、な」

キースの誘いに乗ったのも、煽り返したのも俺だ。
朝、タワーに戻るまでは他の事を考えるのを止めよう。
洗面台に確か保湿用のオイルが置いてあったな。
あれをローションの代用品にするか。
オイルを使うなら、コンドームの強度が気に掛かるが、破れたらそれはその時だ。
先程触れたキースの唇の感触がまだ耳に残っている。
今夜は緊急に呼ばれるような事態が起こらないことを祈りながら、まだ使っていなかった方のベッドのカバーを剥いだ。

***

セックスする間隔を空けてしまうと、こんなにも感覚が鋭敏になってしまうものだったのか。
背中に繰り返されていく口付けとヤツの指の動きにすっかり翻弄されてしまっている。
元々弱いと言えば弱い場所だが、それでもこんなに感じてしまうところだっただろうか。
キースが肌を吸っていく度に、みっともなく声を上げてしまいそうになるのを堪える。

「んっ……く、んっ、キー……ス、痕、は」
「心配しなくても見えるとこにはつけてねぇよ。あ、でもタワー戻って着替える時だけ人に見られねぇよう気をつけろ。虫刺されで誤魔化せる範囲は超えてっから」
「なっ、範囲を超えてるって限度を考え……っ、くっ!」

甘噛みされた肩と不意に入り込んで来た指に、たまらず声が出てしまい、慌てて口元を枕に押し付けた。
中を探っていく指がゆっくりと慣らしていこうとしているのが伝わる。

「んっ、く……あっ、ふ……!」
「大丈夫そうか?」
「問題、ない。指を増やしても大丈夫、だ」
「んじゃ、二本な」
「んん……!」

指一本ならどうにかやり過ごせても、二本だとやはり圧迫感が増す。
勿論、ペニスを挿れた時ほどではないが、指だと細かく動かせるのもあって、思いもよらなかった動きに戸惑うこともある。
ローションを使った時ほどの音はしないものの、オイルでもそれなりの量を使っているからか、動かす度に音が聞こえてくるのがいたたまれない。

「く、うっ……キー、ス……っ」
「ここだよな。……ちゃんと覚えてるだろ?」
「っ!! 待っ……んんっ!」

ぐ、と中の弱い部分を押されて息を飲み込む。
危なかったが、それ以上は刺激されず、キースの指が中から抜けてほっとした。
久し振りの行為がいつもより強く感じる原因かも知れないが、それでも指だけで達してしまうのは正直避けたい。
つい、振り向いてキースを睨み付けてしまった。

「は……少しは加減、しろ」
「してるから、指抜いたんだろ。……そろそろいいか」
「…………ああ」
「よ……っと」

キースがシャワーから上がった後、やはり財布に挟んであったコンドームを枕元に置いていたが、それをサイコキネシスを使って、自分の手元に引き寄せた。
……さっきといい、今といい、ヒーロー能力は使いすぎると、体への負担に繋がるんだがな。
この位置なら少し手を伸ばせば済むものを。
コンドームの包装を破こうとしているキースと目が合うと、眉を顰めた。

「いいじゃねぇか。楽なんだよ」
「……まだ何も言っていないが」
「言いたそうな顔してただろうがよ、くだらんことにヒーローの能力を使うなって」
「なるほど……くだらんという認識はしているということか」
「オレがオレの能力をどう使おうと自由だろ。これでも使い方は考えてるつもりだよ」

考えてるとは言ったが、どこまで考えているのか怪しいものだ。
中身を取りだしたコンドームの包装は無造作にシーツの上に放置される。
これを能力を使ってゴミ箱に捨てる気はないのか、という言葉は流石に飲み込んだ。
視線の先にあるコンドームの包装に意識を集中させて、孔に触れているキースのペニスから極力意識を逸らす。
挿入される瞬間は未だにどうしても身構えてしまう。
一度収めてしまえばそうでもないが、こればかりはあまりにも無防備で落ち着かない。

「…………っ」

キースがゆっくりと中に挿入ってきたのがわかる。
痛みはないが、オイルのせいなのか、単に久し振りだからか、いつもに比べて密着しているような気がした。
そう思ったのは俺だけではなく、キースもらしい。

「ん……久々だからか、ちとキツいな。大丈夫か?」
「…………問題、ない。じきに馴染……む」
「なら、いいんだけどさ。動くけど、キツけりゃ言えよ」
「ああ……っ……!」

深いところまで挿入っていたキースが少し体を引いたところで動き始める。
そうしないうちに動きに慣れ、キースが馴染んでくると共に快感が引き摺り出されていった。
強い快感に目頭が熱くなるのを自覚する。
顔を伏せているから、キースからは分からないだろうことが救いだ。

「ふ、う、くっ……はっ」

油断すると上げてしまいそうになる声をどうにか抑え込む。
いざ行為を始めてから気付いたが、このホテルは防音がしっかりしているのか、他の客室の音声は勿論、廊下の音声もほとんど聞こえてこない。
そうなると聞こえるのは、この部屋で発生した音声のみと言うことになる。
最中の音が他の雑音に紛れることがないというのは、思っていた以上に羞恥を覚えるものだったようだ。
この部屋の音が他者に聞かれることがないのは幸いだが、テレビをつけて適当な番組でも流しておくべきだったかと思っても遅い。

「おい、ブラッド。声上げても他の部屋とかに聞こえねぇだろ、ここなら」

キースも部屋の防音状況に気付いたようだ。

「お……前が、聞く、だろう……っが」
「は? 今更じゃねぇか。久し振りすぎて声出すの恥ずかしいとか言わねぇよな」
「……だとしたら、どうなんだ」
「ん?」

久し振りという理由だけではないが、羞恥から声を上げたくないという点は変わらない。
が、俺の言葉がよく聞こえなかったのか、キースが顔を近づけてきたから、改めて言い直した。

「……だとしたら、どうなんだ、と言った。そもそも好きで……っ、声を上げるわけでは、ない」
「いや、好きで声上げねぇってそうだろうけどさ……そう抑えられてると無理矢理してる気分になりそうなんだよな、こっちとしちゃ。あー……んじゃ、声抑えてても良いからこっち向け。おら、ひっくり返すぞー」
「えっ、あっ、おい! …………うあ!」
「っ…………」

声こそ掛けてきたものの、ほぼ同時に抱えられた足に事態を把握するのが遅れた。
うつ伏せだった体勢はあっという間に仰向けにされ、咄嗟に腕で目元を覆う。

「お、成功成功。……って、何で顔隠すんだ、お前」
「……別に、いいだろう。気にせず続けろ」
「んなわけいくか。腕退けろって」
「気にするなと、言って……いる……っ」

キースが俺の腕を退けようとしてきたが、今は顔を見られたくない。
全力で抵抗すると、体を繋げている場所にも力が入るのが拙いとは思ったが、それでも見られたくなかった。

「痛てて、下にも力入ってるっての!」
「っ……だか、ら、お前が手を離せ、と」

くだらん意地だと分かっている。
恐らく、俺が気にしていることはキースは然程気にしないだろうことも察しがつく。
だが、あっさりとセックスの誘いに乗った割に、過剰な反応をしてしまう自分がいたたまれない。

「あー、そうかよ。お前がその気なら……っと」
「っ!?」

それまでとは比べものにならない強い力が腕に掛かったと思った瞬間、視界が明るくなる。
サイコキネシス――。
しまった、キースにはこれがあった。

「キー……んんっ!!」

文句を言おうとしたところで口が塞がれる。
生温かい舌が口内で蠢くのに合わせ、性器まで握られてしまうともう上手く抵抗が出来ない。

「ん、ふ……んっ!」
「……何考えてんだか知らねぇけどな、顔隠すくらいなら、その腕こっちに回せってんだよ、お前は」
「くっ! あっ!!」

キースの唇が離れた直後、一際強烈な快感が訪れて、たまらずに背が撓る。
体を繋げた場所が熱い。
快感から逃れようにも、キースの手がしっかりと俺の腰を掴んでいる。

「ほら、腕はどこに回せっつった? もう能力で抑えてねぇぞ」
「…………っ」

キースの背に腕を回した瞬間、目の前の顔が嬉しそうに綻んだ。
これを見てしまうともう文句など言えるわけがない。
結局、俺はこの男に対して甘い、いや、弱いのかも知れない。
思いの外、がっしりとしている背中は昔からだ。
コイツの生活態度はけして褒められたものではないが、ヒーローとして必要なトレーニングを欠かしていないのはこうして触れていれば分かる。
そうでなければ、メジャーヒーローの地位にはいられない。
背に腕を回してからは、突き上げはどんどん激しさを増す。
深い部分から迫り上がってくる快感が体全体を支配していく。

「う……あ、キース、待、て」
「ねぇよ。どっかの誰かさんが変に焦らしたせいで、オレだってもう余裕、ねぇ……って!」
「あ、ああ、んんっ!!」

強すぎる衝撃が体の芯を貫いていった。
一度、箍が外れてしまうと脆い。
もう声を抑えることも、背に回した腕を解くことも出来なかった。
せめて、背に爪を立てるのだけはやめなければと思うのに、力が抜けない。
早く終わって欲しい、まだ終わりたくない。
相反する感情に飲まれる中で確かなのは、この温もりにはまだ触れていたいということ。
ディノがまだいた頃、俺たちの関係を知ったアイツが言ったことがある。

――口出しするのも野暮だろうけど、キースはブラッドの人の良さと真面目さに甘えすぎだと思うよ。偶には突き放してもいいんじゃないの?

違う。ディノ、そうじゃない。

「……っく、ぜ、ブラッド」
「キー…………ふ、うっ!!」
「っ!!」

――キースの情の厚さに甘えて、離れられずにいるのは俺の方だ。
コイツがふらっといなくなってしまわないよう、枷を嵌めて、責任を負わせ。
そうして、酔い潰れたキースが『いつものように』俺を迎えに来いと呼ぶことに、何処かで安堵している。
立場や他者への影響を考えろというのを言い訳に、突き放せないのは俺だ。
達して、俺の体にそのまま覆い被さって来たキースの頭を撫でると、普段とは違うシャンプーを使ったはずなのに、汗を掻いたせいなのか、いつものキースの匂いが微かに感じられる。
生きている実感を強く得られるし、この重さも匂いも熱さも心地良い、が。

「……重い」

興奮が引き始めると、ただでさえ行為で負担の掛かった腰がさらに辛いというのが先立つ。

「ちっとくらい休ませてくれ。……っと煙草はないんだったな」

休むというのはともかく、煙草は聞き逃せなかった。

「待て。あったらベッドで吸うつもりだったのか、貴様」
「おっと。そんときゃ、ちゃんとベッドから出るっての」
「…………そうだな。またいつぞやのように、ベッドのシーツに焦げ跡をつけるようなことがあってはならないからな」

キースが煙草を吸うようになった時に、一度俺のベッドのシーツを焦がしたことがある。
以来、寝煙草は絶対に許してないが、今の口ぶりだと一人のときにやらかしているのではないだろうか。

「うげ、忘れてくれよ、そういうことは。あー……付き合い長いと覚えてなくていいことまで覚えてやがる」
「お前が色々忘れるから、俺が覚えているんだ。過去の経験から学べ。大体――」
「あー、はいはいっと。抜くぜ。ん? ……あ……あ~」

話を誤魔化すかのようにキースが俺から離れたが、どうも様子がおかしい。

「どうした?」
「悪ぃ、ブラッド。ゴム途中で破れたみたいで中に残った。すまん。掻き出すのはオレがやるから――」

キースが抜いた時の感覚に違和感があったと思ったらそれか。

「……ああ、結局もたなかった、か」
「は?」
「コンドームは油分に弱いからな。オイルを結構使ったことで、もしかしたら、途中で破れるかもしれんとは思っていた。……だから、お前が謝ることはない」
「それ気付いてたのかよ、お前……」
「気付いたところで他にローションの代わりになるものもなかっただろう。唾液だけだとどうしても乾いてしまうしな」

コンドーム自体にも摩擦を減らすためのゼリーが薄らと付着しているとはいえ、やはり男同士での性交渉となるとそれだけでは不十分だし、唾液だと直後はまだしも時間が経つにつれて乾く。
そうなると、コンドームが破れる可能性はあってもオイルを使う以外に手はなかった。
実際に破れるかどうかは五分五分と見ていたが。

「…………しねぇっていうのは選択肢になかったのかよ」

キースが完全に酔い潰れていたのであれば、話は違っただろう。
実際、ホテルに入ったときにはセックスするつもりは全くなかった。
だが、キースが素面で、時間も場所も使えるとなれば別だ。

「………………久し振りにしたかったのはお前だけではない」

認めてしまうのは癪だったが、一度触れてしまうとキースを渇望していたのだと気付いてしまった。
あまり、セックスする間を空けてしまうのは考えものかもしれん。
ただ、口にしたことでみるみるうちに表情の緩んでいくキースを見ているのも気恥ずかしく、ヤツの方に背を向けたが、すぐにキースが背中に肌を合わせて、抱きしめてきた。
俺の尻に当たるキースのペニスが再び固さを取り戻している。

「……だったら、このままもう一回しようぜ。それ終わった後に纏めて掻き出しゃゴムなくても一緒だしさ」
「調子に乗るんじゃない。……最中に俺を押さえ込むためにサイコキネシスを使わないと約束するのなら応じてもいいが」

中に先程の精液が残っているのなら、今度はそれが潤滑剤の役割を果たす。
それに――滅多にしないコンドームなしでの行為は背徳的な気分になる一方で、高揚してしまうのも事実だ。
この状態ならキースが言ったようになくても一緒、というのもある。

「お前が顔隠そうとしたり、声抑えようとさえしなきゃ使わねぇよ」
「ん…………あっ」

先程出した精液はまだ拭っておらず、キースはそれを使って俺のペニスを扱き始めた。
俺の状態に興奮し出したのか、耳元で聞こえる呼吸が徐々に荒くなってきている。
ある程度扱いたところでキースが性器から手を離し、尻の方へと移動させた。
軽く孔を撫でてから、指が挿入ってくる。

「んっ!」
「……もちっと慣らしてからにするか?」

挿入られた指は二本だが、違和感は少ない。
つい先程までキースのペニスが収められていたくらいだ。
今なら慣らす必要はない。その時間も惜しいと思うくらいに欲しい。

「いら、ん。不要……だ」
「だよ、なっ……!」
「うあ! あっ!!」

抜けた指と入れ替わりでキースのペニスが再びそこを満たす。
コンドームのない直接伝わる熱のせいか、先程よりも体が熱く感じる。
長くはもたんかもしれんと頭の隅で思いながら、キースの太股を掴んだ。

***

「おおー……朝日が眩しい」
「今日も良い天気になりそうだな」

ホテルのエントランスを抜けた途端、眩い日差しを浴びる。
少し眠気の残っていた体がそれで完全に目覚めた。
これなら、問題ない。
腰はまだ少し怠さが残っているが、それも午前中には消える。
……そういえば、着替える時だけ気をつける必要があったな。
まぁ、こちらもキースの背に爪痕を残してしまっているから、お互い様だが。
ホテルと昨夜の店の中間くらいの場所にあった駐車場に止めて置いた車に乗り込み、タワーへと進路を取る。
数分ほど走らせたところで、助手席に座っていたキースからの視線に気付く。

「何だ」
「いーや、何でもねぇ。あ、いや、あった。タワー帰る前に煙草買いたいから、ちょっと適当な店寄ってくれ」
「断る。タワーの自室にはあるんだろう。車の中で吸われるのはごめんだ」

普段は酔い潰れたコイツを連れ帰るから、車の中でキースに煙草を吸われることはほとんどない。

「そういうなよー。一昨日部屋片付けたとき、買い置きの煙草をどこにやったか忘れたから、それ探すとこから始めなきゃなんねぇんだ。頼む、一本だけ吸わせてくれ」
「自室で日常的に必要な物を探すという事態になるのがわからん。だから、ちゃんと日頃から片付けろと言っている。とにかくダメだ」
「ちぇっ、わかったよ……」

キースも気が引けたのか、それ以上は言ってこなかった。

「キース、午後からメンターリーダーによるミーティングがあるのは覚えているな」
「ん、そういや今日定時報告だっけ。うっわ、この陽気でミーティングとか寝ろと言わんばかりじゃねぇか」
「寝るなよ。タワーに戻ったら朝のうちか昼の休憩中にはミーティング用の報告書を纏めておけ」
「あー……今日の分は大丈夫だ。昨日のうちに纏めてある」

正直少し意外だった。
コイツは報告書はギリギリまで手をつけないことの方が多い。
アカデミーの頃から課題をギリギリまでやらなかったタイプで、泣きつかれる度にまたかと思っていたものだ。

「……そうか」
「お前が何かとせっつくからな。昨日飲みに行く前に片付けたんだよ」

不満そうな口ぶりではあるが、やはりキースはキャパシティのギリギリまで仕事を詰め込んでやった方が必要なことをこなすと実感した。
そうやって、仕事に追われて余計なことを考えてしまわなければいい。
最近、こそこそと影で動いているようだが、今はまだキースにアイツの――ディノの件を知られるわけにはいかない。
……まぁ、今日はキースがやるべき事を終わらせているのなら、急いでタワーに帰る必要もない。
確か、この先の道を少し入ったところに、煙草も置いてある二十四時間営業の店があったはずだ。
予定を少し変えて、店へと向かう。
時間が時間だからか、駐車場に他の車もない。ならばと店の入り口に近い場所に車を止めた。

「ブラッド」
「煙草を買ってくるのなら五分で戻れ。それ以上は待たん」
「……サンキュ。直ぐ戻る」

キースの気怠そうな表情が目に見えて明るくなった。
……やれやれ。本当は煙草自体をやめて貰えると有り難いんだがな。
俺もどうにも甘い。
車を降りて店に向かうキースの背中を見送り、グローブボックスにしまいこんである携帯灰皿を取りだした。

 

いくら理由があっても、ブラッドが毎回酔ったキースを迎えに行くの凄い……。→でもキースに酔ってる時の記憶がろくにないなら、やらかしてる時もあるんだろうなぁということで思いついたネタでした。
(既に道端で転がってる辺りで十分やらかしてる気はしますがw)
シンクロする部分もありつつ、それぞれの視点で微妙に噛み合ってない感じも出したつもりです。
コンドームのくだりとかw
それにしても、キースのサイコキネシスは便利過ぎる……。
ブラッドがグローブボックスに入れている携帯灰皿は勿論(?)キース専用です。
何だかんだ、ブラッドはキースに対して相当甘いと思う。

 

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