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スーツ<エリオスライジングヒーローズ・キスブラ>

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2020/11/15に開催されたキスブラ版ワンドロ・ワンライ第2回でのお題『スーツ』を使って書いた話です。
※pixivUP時にキース視点追加しました。

初出:2020/11/15 ※キース視点は2020/11/30

文字数:4026文字

 

[Brad's Side]

夕食後、日中に各セクターのメンターに提出して貰った報告書を確認していると、キースが提出した分に不備を見つけた。数枚纏めた報告書のうち、最終ページだけ署名が入っていない。

「……またか。アイツはどうしてこう詰めが甘いんだ」
キースが提出する書類は五回に一回くらいの割合で不備がある。アイツをメンターにした際、多少はこうなることを想定していたとはいえ、もう少し、提出前に内容を確認して欲しいところだ。
今日提出された書類全てを一通り確認し、他には不備がないのを確認すると、不備のあった書類を手にウエストセクターの部屋に向かう。
飲みに行っている可能性もあるが、その時は明日の朝までに提出しろとメモを添えておけばいい。それで今日の仕事は終わらせることにする。
訪れたウエストセクターの共同部屋には誰もいなかったが、メンター部屋の方から物音が聞こえた。どうも、部屋のドアを開け放しているらしい。
ならば、問題はないだろうと、そのままメンター部屋に足を踏み入れる。

「キース、入るぞ。昼に提出して貰った報告書だが――」

キースの姿を確認したところで、言葉が続けられなくなる。
キースが見たことのないスーツを着ていたが、それが随分と似合っていて、思わず目を奪われた。
シャドーストライプの入ったネイビーのダブルスーツには、キースの目の色より濃いめのグリーンのネクタイを合わせていて、それが品の良いアクセントとなっている。袖口からちらりと覗いた、黒蝶貝で出来ていると思われるカフスボタンとも、調和が取れていた。

「おい、ブラッド……お前、こっちの部屋入るなら、開ける前に声掛けろって」
「声なら今掛けたし、部屋のドアは開いたままだった。この報告書、最後の一枚だけ署名が抜けている」

キースの声で我に返って、手にしていた報告書を渡す。
キースがテーブルで報告書にサインを入れている間にも、目がキースから離せないでいた。
普段からこうして身だしなみに気を配っていればいいのだが、キースはスーツは窮屈で疲れるからと、必要以上に着ようとはしないのを少し勿体なく思う。
今日着ているのは、恐らく数日後にある【HELIOS】の支援者との会合に向けての試着なのだろう。

「……新しく仕立てたんだな」
「先月ちょっとな。昔に比べて筋肉がついたせいか、手持ちのスーツだと肩の辺りがキツくなってたし」
「よく似合っている。……タイピンはそれを使うのか?」
「おう。そのつもりだけど?」

キースが今着けているタイピンは、数年前に俺が譲り渡した物だ。
グリーンゴールドをベースにペリドットが埋め込まれているデザインで、元は自分用に購入したため、幾度か自分で使ったが、キースの方が似合うと譲ったところ、キースがスーツを着る機会にはこればかり使うようになった。
他にもタイピンは持っているはずだが、【HELIOS】の制服を着ているときに使っているシンプルなタイピンを除けば、大体このタイピンを選んでいるような気がする。

「他のタイピンもあるのだから、いつもそれにしなくても良さそうなものだが」
「いつもこれ選んでるって気付いてんの、多分お前くらいだぞ。ジャケットやベストに隠れてほとんど人から見えねぇんだし。――気にいってんだよ。大体、お前だって【HELIOS】の制服着てるとき、いつも同じタイピン使ってんじゃねぇか」
「あっ、おい」

キースが勝手に俺の制服のベストのボタンを外す。
ベストに隠れていたネクタイピンがあらわれて、キースがそれに触れた。
……ピンクスピネルのついたタイピンは、俺がキースにタイピンを譲った後にくれたものだ。祝い事でもないのにただ貰うのも気になったから、と。
使いやすさもあって、日常的に利用しているが、それをコイツに気付かれているとは思わなかった。
いや、考えてみれば制服姿でキースの家に行ったり、酔い潰れたコイツを送り届ける際には目にしているか。
後者はキースの記憶に残っているか怪しいが、記憶には残らなくても、印象には残っていたのかもしれない。

「お前がこれを使っているほどには、まだ使ってねぇと思うけどな」
「……気にいっているんだ。通常時は見えないし、いつも使っていることに気付くのはお前ぐらいだろう」

結局、先程キースが口にしたのとほぼ同じ内容を返すほかない。
ネクタイピンに触れているキースの手を剥がし、ベストのボタンを留めようとしたら、指を掴まれた。

「キース」
「ブラッド。お前のことだから、ネクタイとかタイピンとか人に贈るときの意味、知らねぇってことなかったよな?」
「……だとしたら、何だ」

キースにタイピンを譲って数年。今更、そんな話をされるとは思わなかったが。

「別に。オレもわかってて、それ贈ったってだけの話だから、使い込んでくれて嬉しいってことだよ」

普段と違う装いの時に、それを口にするのは少しずるいのではなかろうか。
だが、後日、他人も多くいる会合の時に言われるよりはまだマシか。
目元に笑みを浮かべながら近付いて来たキースの顔に意図を悟り、目を閉じた。

[Keith's Side]

滅多に袖を通さねぇのと、ジャックの方がちゃんと管理してくれるのは間違いねぇのとで、ウエストセクターのメンターになる前、さらに言うならルーキー時代からスーツや礼服なんかは基本ジャックに預けっぱなしにしているが、さすがに近日中に使う予定がありゃ事前に出して貰って、こうして一度着て確認するぐらいはする。
というか、しとかねぇと何かあった時にブラッドがうるさい。

「ん、さすがに問題ねぇか」

今着ているスーツはつい先月仕立てて貰ったばかりだ。
ルーキーの頃にブラッドに教えて貰った店をずっと使ってるが、仕事が丁寧で隙がねぇ。
カフスボタンもテーラーのアドバイスで買った物だが、こうしてスーツと実際に合わせてみると正解だったとしみじみ思う。
とはいえ、何度着てもスーツは窮屈な感じがするから、あんま好きじゃねぇんだけど、これもヒーローの仕事の一つと思えば仕方ねぇ。
ブラッドなんかは、窮屈と思うのは鎧を着こなせていないだけだとかなんとか言ってたが、人には向き不向きってもんが――。

「キース、入るぞ。昼に提出して貰った報告書だが――」

ブラッドを思い出していたところで当の本人が部屋に来た。

「おい、ブラッド……お前、こっちの部屋入るなら、開ける前に声掛けろって」
「声なら今掛けたし、部屋のドアは開いたままだった。この報告書、最後の一枚だけ署名が抜けている」
「あ、マジか悪ぃ。今書くわ」

どうも、何回かに一回は報告書にミスが出ちまうな。
まぁ、最終的にブラッドが目を通すから、何かやらかしても絶対確認してくれるって安心感があるからかもしんねぇけど。
妙にブラッドから視線を感じるな、なんて思っていたらブラッドが口を開いた。

「……新しく仕立てたんだな」
「先月ちょっとな。昔に比べて筋肉がついたせいか、手持ちのスーツだと肩の辺りがキツくなってたし」
「よく似合っている。……タイピンはそれを使うのか?」
「おう。そのつもりだけど?」

今着けているタイピンは、数年前にブラッドから貰った物だ。
お前の方が似合うからと着けてみたら、確かにオレの目や髪の色と合っているからか、どんなネクタイやスーツを選んでもしっくりくるんで、ついこればかり選んじまってる。
【HELIOS】の制服着てる時のタイピンはごくシンプルなもんにしてるけども、そうでない時は結構これを使ってるかもしれねぇ。

「他のタイピンもあるのだから、いつもそれにしなくても良さそうなものだが」
「いつもこれ選んでるって気付いてんの、多分お前くらいだぞ。ジャケットやベストに隠れてほとんど人から見えねぇんだし。――気にいってんだよ。大体、お前だって【HELIOS】の制服着てるとき、いつも同じタイピン使ってんじゃねぇか」
「あっ、おい」

ブラッドの制服のベストのボタンを外すと、隠れていたタイピンが顔をのぞかせる。
これはオレがブラッドにやったものだ。
このタイピンを貰ったとき、特に誕生日とかクリスマスとかの祝い事でもなかったし、安くもなさそうなものをただ貰うだけってのがどうにも気になったから、ブラッドの目の色に近い色の石がついたこれを選んでやったら、以来ブラッドは日常的に使っているようだった。
普段はベストで隠れてるけど、ふとした拍子に見える時、決まって目に入るのはこれだ。

「お前がこれを使っているほどには、まだ使ってねぇと思うけどな」

数年使い込んでる割には状態が綺麗で、こうして触っていても日頃から丁寧に扱ってくれてんだなってのがわかる。

「……気にいっているんだ。通常時は見えないし、いつも使っていることに気付くのはお前ぐらいだろう」

ついさっき、オレが言ったのと似たような言葉を口にしながら、ブラッドがネクタイピンから俺の手を剥がして、ベストのボタンを閉めようとしたところでストップをかける。

「キース」
「ブラッド。お前のことだから、ネクタイとかタイピンとか人に贈るときの意味、知らねぇってことなかったよな?」

頭も切れて、物も知ってるコイツがしらねぇってことはまずないはずだ。
……だから、貰った当時はちょっとだけ動揺もした。
オレも過去に経験したバイトで贈る意味を知っていたし、このタイピンはそもそもブラッドの本来の趣味や似合う色とは少し違った――オレを最初から想定して買ったようなものにも思えたからだ。

「……だとしたら、何だ」

一瞬の沈黙の後に続いた言葉は肯定をしめす。
ほんの少しだけ揺らいだブラッドの目が何故今更?と問いかけているようで、つい口元が緩んじまう。

「別に。オレもわかってて、それ贈ったってだけの話だから、使い込んでくれて嬉しいってことだよ」

お前は自分のものだと、そして支えていくからと主張する意味を込めたそれを、ここぞというとっておきで使うのと、毎日使うのと、どちらの想いが強いのか。
少なくとも、もうそれで動揺するような関係でないのは確かだ。
結局、どっちもどっちってやつかと思いながら、ブラッドにキスをした。

 

お題が『スーツ』『青空』『約束』『公認』だったので、『スーツ』を選択して書きました。
スーツと眼鏡に逆らえないので、結局第二回も参加しましたw
(留守にする予定あったので、どうしようか迷って予約投稿。Twitterの予約投稿機能初めてつかった)
途中でスーツというよりネクタイピンの話になってるな?とは気付きましたが、修正するほどの時間はなかったのでそのままです。
これはこれで!
なお、最初キース視点で書き始めましたが、前回キース視点だったしと、途中でブラッド視点に切り替えました。
で、pixivにあげたときにキース視点もUP。

 

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