> Novel > Novel<エリオスライジングヒーローズ> > 電話<エリオスライジングヒーローズ・キスブラ>

電話<エリオスライジングヒーローズ・キスブラ>

いいね送信フォーム (0)

2020/11/29に開催されたキスブラ版ワンドロライ第4回でのお題『電話』を使って書いた話です。

初出:2020/11/29 ※ブラッド視点は2020/11/30

文字数:4329文字

 

[Keith's Side]

アカデミーに入学する少し前に、初めて自分のスマホを手に入れたが、アカデミーに入学して以降、三十も近いという今に至るまで、履歴に圧倒的に残ってる名前はブラッドだ。
ブラッドに次いで多いのは、ディノやジェイ、リリー、うちのルーキーたちって感じだが、ブラッド一人だけ妙に飛び抜けている。
まぁ、ブラッドからの着信だけでなく、オレが電話掛けるって方でもなんだかんだブラッドがダントツで多いけど。
特にここ数年は、酔って動けなくなった時に迎えを頼むってのが定番化していたもんだから、ブラッドの名前が履歴に連なる中に、ポツポツ他のヤツらの名前がまじってくるって感じだ。
それもあって、短縮ダイヤルのトップに設定しているのはブラッドなんだけど。

「ふと、お前はどうなんかなって思ってさ。設定してたりすんの?」
「…………用件がそれだけなら切るが」
「切るなよ! たまにはちょっとした雑談に付き合ってくれてもいいだろ?」

そう、電話越しにブラッドに訴えかけると、隠すつもりもないらしい、いや、寧ろわざわざ聞こえるようにしたのか、盛大な溜め息が聞こえた。

「貴様は明日オフでも、俺はまだ仕事の最中なんだが」
「はぁ? この時間までまだ仕事してんのかよ。相変わらず、メンターリーダーさまはお忙しいことで」

何しろ、現在時刻ときたら22時を回っている。

「そうだな。どこかの誰かが報告書をきちんと毎回仕上げてくれれば、この時間までやらずに済んだかもしれないな。もう少し提出前に確認してくれると俺としても助かるのだが」
「……すんません」

どうやら藪蛇だったようだ。
既にメンター歴が長いジェイは勿論だが、ヴィクターもメンターには興味ねぇって言いつつも報告書はキッチリ仕上げているらしいから、報告書の不備でブラッドの手を煩わせているのは大体オレなんだよな。

「お前が明後日出勤するのを待って、報告書を書き直して貰うつもりだったが、何なら今から部屋に行くか? 今日は自宅ではなくタワーの部屋にいるのだろう?」
「何でわかんの」
「少し、音楽が聞こえる。ルーキーのどちらかしらんが、音を出すならそろそろ時間を考えろと伝えておけ。居住スペースは昔に比べて防音を施してあるとはいえ、ウエストセクターの研修チーム部屋の騒音は少し度を超している」
「あー、電話越しでも聞こえてんのか。悪ぃ。――おい、ジュニア、フェイス。時間遅いから、そろそろ音に気をつけろー」

ちょっとスマホを口元から離して、ルーキー部屋の方に向かっていうと、返事と共に音が小さくなった。

「これでいいか? どうも、慣れちまったせいか、ちょっと音の基準あやふやになってたわ。つうか、昔に比べて防音してあんのかよ」
「ああ。そういえば、お前は研修チーム部屋で生活するのはルーキー時代以来か。12期生が入る前に研修チーム部屋に改修工事が入ったんだ」
「あー、なるほどな。まぁ、前は下手に声出すと他の部屋に聞こえてたみたいだしな。それでタワーの研修チーム部屋じゃヤらなくな――」
「キース」

電話越しなのに、ブラッドの声に圧力を感じて、つい耳元からスマホを離しそうになる。

「…………今のだけじゃ聞かれても何の話かわかんねぇだろ」
「わからんうちにやめておけ。口が滑ってからでは遅い。もうお前も酔い始めているようだしな」
「……オレ、飲んでるって言ったっけ」
「言わずとも想像はつく。まぁ、まだ一缶空けたくらいだろうが」
「お前さ…………ホント、オレに小型の監視カメラとかつけてないよな!?」

ブラッドが言った通り、ちょうどビールを一缶飲みきって、二缶目を開けようとしていたところだ。

「想像がつくと言っただろう。つけていいのなら、酔い潰れた時も迎えに行くのが楽になるが」
「勘弁してくれー。いくらなんでも四六時中監視されたくねぇ」

万が一、ずっとブラッドに見られてるなんてなった日にゃ、オレへの小言は恐らく今の倍どころじゃすまなくなる。
ブラッドからしたら、最初から言わせるなという話だろうが。

「さすがにその予定はない。そもそもずっとお前だけに集中していられるわけもないしな。…………やはり、今からそちらに向かう。報告書で訂正して欲しいのは一ヶ所だけだしな」
「ええ……せっかく良い気分で飲んでるのに、結局仕事かよ。明後日のつもりじゃなかったのか」
「ものの五分で済む。――それで今日の俺の仕事も終わりだ」
「まぁ、いいけどさ。仕事終わるならお前も飲むか?」

普段、ブラッドは翌日がオフじゃない限りはほとんど飲まないから、多分断るだろうと深く考えずに聞いたら。

「一杯だけ付き合おう」
「…………どういう風の吹き回しだよ」

珍しいこともあったもんだ。その一杯だって断る方が大半だってのに。

「――声を聞いていたら、少し顔も見たくなっただけだ。訂正待ちついでに軽く飲むくらいはいいだろう。五分でそちらの部屋に行く。では、またあとで」
「あっ、おい!」

俺の返事を待たずにブラッドが電話を切った。
アイツ、結構電話バッサリとぶった切るんだよな。
ま、でもちょっと顔が見たいと思ってたのは、俺も一緒だしいいか。
確か、貰い物のリキュールがまだ残ってたな。
ブラッドはビールがそんなに好きじゃねぇから、どうせ一杯飲むならカクテル作ってやるかと、共有スペースのキッチンに向かった。

[Brad's Side]

キースが提出した報告書にミスを発見したタイミングで、当の本人から電話が掛かってきた。
自分で報告書のミスに気付いたかと話を聞こうとしたら、キースが切り出してきた話は仕事とは全く関係のないものだった。
キースが短縮ダイヤルのトップに設定しているのは俺らしいが、俺の方はどうなのかと。

「…………用件がそれだけなら切るが」
「切るなよ! たまにはちょっとした雑談に付き合ってくれてもいいだろ?」

普段は後ろめたいことがあると、俺の小言を聞きたくないからと避けることもあるのに、この男は。
電話越しのキースにもわかるようにわざと溜め息を吐く。

「貴様は明日オフでも、俺はまだ仕事の最中なんだが」
「はぁ? この時間までまだ仕事してんのかよ。相変わらず、メンターリーダーさまはお忙しいことで」
「そうだな。どこかの誰かが報告書をきちんと毎回仕上げてくれれば、この時間までやらずに済んだかもしれないな。もう少し提出前に確認してくれると俺としても助かるのだが」

さすがにそれが誰を示しているかわからないキースではない。
沈黙の後に、小さな謝罪が聞こえてきた。

「……すんません」
「お前が明後日出勤するのを待って、報告書を書き直して貰うつもりだったが、何なら今から部屋に行くか? 今日は自宅ではなくタワーの部屋にいるのだろう?」
「何でわかんの」
「少し、音楽が聞こえる。ルーキーのどちらかしらんが、音を出すならそろそろ時間を考えろと伝えておけ。居住スペースは昔に比べて防音を施してあるとはいえ、ウエストセクターの研修チーム部屋の騒音は少し度を超している」

キースの自宅周辺も近くにある繁華街のざわめきが聞こえることがあるが、タワーの部屋で聞こえる音とは全く異なる。
ルーキー二人がいなければ、静かなものだが、一人でもいれば電話越しにも様々な音が聞こえるのだ。

「あー、電話越しでも聞こえてんのか。悪ぃ。――おい、ジュニア、フェイス。時間遅いから、そろそろ音に気をつけろー」

電話を保留するのをめんどうがるのがキースらしい。
キースの注意で、音は大分小さいものになった。

「これでいいか? どうも、慣れちまったせいか、ちょっと音の基準あやふやになってたわ。つうか、昔に比べて防音してあんのかよ」
「ああ。そういえば、お前は研修チーム部屋で生活するのはルーキー時代以来か。12期生が入る前に研修チーム部屋に改修工事が入ったんだ」
「あー、なるほどな。まぁ、前は下手に声出すと他の部屋に聞こえてたみたいだしな。それでタワーの研修チーム部屋じゃヤらなくな――」
「キース」

余計なことを言うなとの意味を込めて、言い掛けただろう言葉を制止する。
二人での会話とはいえ、キースがいるのは研修チーム部屋だし、俺がいるのもいつ誰が来てもおかしくないブリーフィングルームだ。
下手に人に聞かれては困る。

「…………今のだけじゃ聞かれても何の話かわかんねぇだろ」
「わからんうちにやめておけ。口が滑ってからでは遅い。もうお前も酔い始めているようだしな」
「……オレ、飲んでるって言ったっけ」

時々飲み物を飲む音が聞こえたし、明日がオフというタイミングでコイツが酒を飲まないわけがない。

「言わずとも想像はつく。まぁ、まだ一缶空けたくらいだろうが」

今はまだ言葉も明瞭だし、酔っているような印象はほとんどないから、そんなところだろうと当たりをつけたら、電話の向こうで一瞬キースが息を飲んだのが聞こえた。

「お前さ…………ホント、オレに小型の監視カメラとかつけてないよな!?」
「想像がつくと言っただろう。つけていいのなら、酔い潰れた時も迎えに行くのが楽になるが」
「勘弁してくれー。いくらなんでも四六時中監視されたくねぇ」
「さすがにその予定はない。そもそもずっとお前だけに集中していられるわけもないしな。…………やはり、今からそちらに向かう。報告書で訂正して欲しいのは一ヶ所だけだしな」

キースと電話しているうちに、一通り報告書の確認が終わった。
結局最初に見つけたミスだけで済んだのは良かった。
これなら、然程訂正する手間もかからないし、まだキースの酔いが回っていない今なら問題ないだろう。

「ええ……せっかく良い気分で飲んでるのに、結局仕事かよ。明後日のつもりじゃなかったのか」
「ものの五分で済む。――それで今日の俺の仕事も終わりだ」
「まぁ、いいけどさ。仕事終わるならお前も飲むか?」
「一杯だけ付き合おう」

俺が酒の誘いに応じると思わなかったのか、キースが絶句したのが伝わった。
まぁ、翌日も仕事がある時に飲むことはあまりしないからだろうが。

「…………どういう風の吹き回しだよ」
「――声を聞いていたら、少し顔も見たくなっただけだ。訂正待ちついでに軽く飲むくらいはいいだろう。五分でそちらの部屋に行く。では、またあとで」
「あっ」

どうせ、すぐに会うのだからとキースの返事は待たずに電話を切り、キースに訂正して貰う報告書をファイルに入れた。
出逢ってから十年以上、少なくともこの期間は家族の声よりも聞いてきた声だし、アイツと同じように俺も短縮ダイヤルのトップにキースを登録してある。
顔だって全く合わせない日の方が珍しいくらいだが、それでもふとした瞬間にキースの顔が見たいと思うときがあるのだ。
出来れば、ビール以外のものが飲みたいと考えながら、ブリーフィングルームを手早く片付け、部屋を後にした。

 

お題が『涙』『ポーカーフェイス』『電話』だったので、『電話』を選択して書きました。
キスブラ版ワンドロライさん、お題ツボに入るのが多いから困るw
だらだら電話するキスブラが書きたかった話でした。
司令室であげる食べ物&飲み物見ると、ブラッドはビール好きではないけど、EDvol.3のCDジャケット絵では飲むようなので、多分人との付き合いぐらいでしか飲まないんだろうなぁと。
そして、ブラッドがビールをそう好きではないのを知ってるキースは、二人で飲むときはビールじゃないのを用意するといいなと。
というか、冬のホームボイス(夜)は熱燗キースに教えたのブラッドなのか、へーとなったから、日本酒も意外に常備してるかもしれないw

 

タグ:エリオスRキスブラpictBLandUP済pixivUP済3000~5000文字キース視点ブラッド視点2020年ワンライ