未来捏造みこかし夫婦の十周年話。
初出:2015/02/24
文字数:1345文字 裏話知りたい場合はこちら。
「ゆ、ゆ、遊……っ」
「何、実琴?」
遊と結婚してから、ちょうど十回目の結婚記念日。
子どもたちを親に預けて、ちょっと良いレストランで食事をし、ホテルに泊まって一息吐いたら、例年通りにお互いが相手に結婚記念日のプレゼントを渡したところで、意外な爆弾発言が来た。
「……プロポーズの音声保存していたなんて聞いてねぇぞ!?」
「だから、今言ったじゃん。わざとじゃなくて、何かの弾みでポケットの中に入れてたスマホの録画ボタンが押されちゃってたから、音声だけ保存されてたんだって」
さらっと笑顔で返す遊が、何気なくスマホを弄ると俺の声が流れ出した。
『そ、その……っ、おまえ大抵のことは一人で出来ちまうようなやつだし、俺頼りないところもいっぱいあるだろうけど……っ、一緒にしあわ』
「わー!! やめろって、今、再生すんじゃねぇよ!!」
慌てて、遊からスマホを取り上げて、プレイヤーアプリで再生されていた音声を止める。
そのまま、ファイルを消そうかとも思ったが、これがそもそも当時使っていたスマホじゃない以上、どうせ他のところにも保存されてるんだろうなと諦めて、せめて今は再生させないようにとスマホを返さずにおく。
顔が熱くなっていくのを自覚するが、そんな俺の様子を遊は嬉しそうに眺めてる。
「ふふふ、実琴ってば顔真っ赤」
「うるせぇよ! 大体、なんで十年も経った今、それを暴露すんだよ!?」
「いやぁ、何度か言おう言おうとは思ったんだけどね? 何かタイミングを逃したって言うか、言いそびれちゃってたっていうかさぁ。だから、十回目の区切りがいいところで言ってみた」
遊へのプロポーズは、未だに人生の中で一番緊張したんじゃねぇかって思える出来事だ。
散々、事前に頭ん中でシミュレーションしていったっていうのに、いざとなるとプロポーズの台詞を口ごもったり、取り出した指輪の箱を落としたり、挙げ句、箱を落とした拍子に中身の指輪が転がって、二人で探し出すハメになったなんてことは、思い出すと無性に恥ずかしい。
そんな当時の音声が残っていたなんて、それこそ穴があったら入りたい気分だ。
「……いっそ、墓まで持って行ってくれよ。恥ずかしいだろ。っていうか消せよ」
「やだ。……実琴はさ、プロポーズの時、俺がおまえを幸せにしてやる、じゃなくて、一緒に幸せになりたいから、結婚しようって言ってくれたでしょ? 私、あれが凄く嬉しかったんだよね」
「遊」
「ちょっと喧嘩したときとか、腹が立つことあったりしたときに、これ聞くと何か怒ってたのがどうでもよくなっちゃったりしてさ。……ね、私は今すっごく幸せだけど、実琴は?」
「……幸せなのに、決まってんだろ」
相変わらず笑顔のままの遊に手を伸ばして抱き締めると、遊の方もぎゅっと抱き締め返してくる。
十年間、色んなことがあった。
嬉しいことも、哀しいことも、全部こいつと二人で分け合って。
この先もずっとそうやって一緒に過ごしていきたいって思いは、今も変わらない。
「……っとに、こういうタイミングで煽りやがって。知らねぇぞ」
「いいよ。子どもたちもいないし、二人きりなのは本当に久しぶりだもん」
一杯、サービスしてあげる。なんて言われて、やっぱりこいつには敵わねぇなと思いながら、目を閉じた遊にキスをした。