サガの乱終了直後のカミュ誕生日想定で。ミロカミュ。
久々過ぎて、ミロがカミュに対して言うのが『君』だったか、『お前』だったかすっからかんに忘れていました。
『君』で統一しましたが、『お前』だったらすみません。どっちだっけ……!
日付はpixivに投稿した日にしてますが、元は10年位前にカミュ誕生日辺りのオンリーで発行した個人誌から抜き出して書き直した話なので、色々拙い部分もあります。
初出:2002年か2003年。※書き直してのpixivUPは2014/11/18
文字数:1925文字
君との最初の出会いは今でも覚えている。
第一印象は『何を考えてるのか解らない、得体の知れない奴』だった。
繰り出す氷の技のように冷ややな語り口だった上に、ガキの癖に表情に変化が乏しかったしな。
お前の方はどうだったか知らないが、最初に抱いた印象としては、どう考えたって悪い部類に入るよな。
一度、君が俺に抱いた第一印象はどうだったのかを聞いておけば良かったと。
今になって思う。……カミュ。
***
澄み渡る青い空の下。
遠目には十二宮が見える。
幾つかの宮は主を失ったものの、目に映る景色はかつてお前と一緒に眺めたりした頃とそう変わらない。
聖闘士候補生の頃から、黄金聖闘士になった以降も、よく一緒に眺めては自分たちが守るべきものについて話をしたよな。
心の中でそう語りかけながら、足元にある小さな墓石に視線を移した。
『GoldSaint Aquarius Camus』と彫られただけのシンプルな墓標。
今語りかけた相手が眠っている場所だ。
***
決して良いとは言えなかった第一印象が覆されるのに、そう時間はかからなかった。
君は想像していた以上に激情の持ち主だったな。
顔には出にくいだけで、情に深く、思いやりを持った熱い小宇宙の女神の聖闘士だった。
いつしか、気の合う友人になり、親友になり、肌を重ねる間柄になって。
同じ道を歩んで行けることが嬉しかった、誇らしかった。
同じ時代に生を受けたことを女神に感謝した。
明日はどちらかが死ぬかも知れない。
そんな世界に生きながらも、あの瞬間まで本当にそんなことがあるなんて、考えてもみなかった。
俺はあの時の喪失感を――君の小宇宙が途絶えた瞬間を忘れることはできないだろう。
……なぁ、カミュよ。
昨日、君の家に行ってきた。
少し前まで君が弟子と住んでいたあの家は、まだ君の気配があちこちに残っていて、今にも帰ってきそうな気がしたよ。
今にも「また来たのか」っていう声が聞こえてきそうだった。
分かっているはずなのにな。
先だっての十二宮の戦いで、君の小宇宙が消えていくのを感じて、思わず宝瓶宮に駆けていき、決着のついた戦いの跡を目にした。
まさに命の灯火が消えゆく瞬間を、俺は自分の腕の中で感じたのだし、此処に君を埋めたのも他ならぬ俺だってのに。
ベッドでふと見付けた君の髪の毛を見つけて泣きたくなった。
さらりとした髪の感触も、張りのある白い肌の感触もまだ覚えているのに、君はもういない。
そう思うとたまらなかったよ。
君はずるい男だ、カミュ。
共に同じ道を歩もうと誓い合ったくせに、さっさと一人で逝ってしまうなんてな。
残された者の辛さは君だって知ってるくせに。
***
数年前のある日。
全く前触れ無しにカミュが天蠍宮の俺のところまで訪れた。
「カミュ!? こんな夜中に聖域に来るとはどうした? それにずぶ濡れじゃ……! 何があっ……」
「……がいなくなった」
絞り出すような声は、それまでに聞いたことの無いような動揺を含んでいた。
「……カミュ?」
「アイザック……が。氷河を……助けようと。だけど、あの子が……まだ見つからないんだ」
小宇宙の片鱗さえ解らない、と。
真っ青な顔は、愛弟子を探すために、長時間冷たい水に浸かったからだけではなかったのだろう。
カミュは俺のところに泣きに来たのだ。
残った弟子の前では絶対に見せられない姿を、俺だけに見せに来た。
カミュの涙を見たのは、あの時と、一度は氷河を戦線離脱させようと、氷の柩に納めた時だけ。
自分も残される者の辛さを体験していながら、結局、カミュは氷河を導く道を選んだ。
『すまない』と最期に小宇宙に乗せてきた呟き。
***
左手に巻いてあった包帯をするりと取った。
包帯の下からは塞ぎかけた大きな傷が覗く。
見えるか、カミュ?
これは、氷河の聖衣を甦らせるために、血を与えた跡だ。
君はもういない。
だけど、俺はまだ生きているし、君の愛弟子も生きている。
氷河は君が命懸けで導いたものを、その身に抱えていくだろう。
そして、俺も。
黄金の誇りを胸にお前の分まで背負い、歩き続ける。
聖闘士である以上、命ある限り戦い続ける。
だから、安心して其処で眠っていろ。
俺が君のところに行った時に、恥じない生き方をしてみせよう。
墓石の前に、名前のわからない、だけど小さな可愛い花を一輪だけ添えた。
年を重ねることのなくなった友人へ、せめてもの誕生日の贈り物として。
踵を返して、自分の宮に帰ろうとした瞬間、頬をやさしい風が撫でていった。
まるで、呼び止められたかのような感覚に思わず、振り返ったがやはり誰もいない。
が、かつてカミュによくしたように、その空間に微笑みを投げた。
きっと、其処に君がいるのだと思ったから。
「ああ。言い忘れてたよ。……誕生日おめでとう、カミュ」
タグ:聖闘士星矢, ミロカミュ, pixivUP済, 500~3000文字, 同人誌収録済