書いた当時やっていたとうらぶのイベント『秘境 腕試の里』絡みの妄想ネタ。
カンスト近い部隊がフルボッコになる禍々しい部隊の強さに理不尽さを覚えつつ、ネタが出来たな、と勢いで書いたのでした。
ひいきめのおだて組や新撰組男士が出つつも、CP要素はなし。
あと、審神者は複数人数いて、それぞれに本丸があって、刀剣男士がいるという前提です。
当方の審神者は諸事情で黒猫に憑依していますが、話の本筋にはほぼ関係ないです。
※うちの審神者&本丸設定が知りたい場合はこちらからどうぞ。
初出:2015/09/30
文字数:5306文字
「腕試の里?」
ある日、審神者に刀剣男士全員が呼び出されて告げられた内容は、練度を上げるための新しい鍛錬についての話だった。
ざわつく刀剣男士たちを前に、審神者が淡々と新たな鍛錬について告げる。
「そう。政府からのお達しでな。複数人の審神者の能力を使って結界を作り、その中で各本丸の刀剣男士たちの訓練をし、練度を上げよとのお達しでな。とはいえ、上手くいくかどうかは試してみないと分からんということで、とりあえずは試験的に実施となる」
「普段の演錬や内番の手合せ等では足らぬということですか?」
この本丸の近侍であるへし切長谷部が、微かに眉を顰めながら主に問いかけた。
声からは不満気な様子が伝わる。
言い換えれば、現状では刀剣男子たちが弱いから、もっと強くなれというようにもとれる話だ。
そういう辺りが、日々近侍として熱心に働き続けている彼の癇に障ったのかも知れない。
「演錬では各本丸から一部隊ずつしか出せぬし、何だかんだでその本丸で腕に覚えのあるもの達に限られてきているだろう。少なくともこの本丸はそうなってしまっているから、練度の低いものの鍛錬にはならぬ。手合せも頻繁には出来ぬしな」
「それは……確かにそうかも知れませんが」
「だから、鍛錬の為に難易度は易しいものから、かなり難しいものまで用意してある。どの者でも腕試しが可能なようにな。審神者の能力によって、腕試の里ではどんな傷を負ったところで、おまえたちが折れることもないし、刀装を削られても本丸に戻れば元通りだ」
「元通り?」
「そう。演錬と一緒だな。こちらに実質的な被害はない。そして、腕試の里で得られる玉の数を集めていけば、その数に応じて政府からの報償も貰える。そう思えば悪くはないだろう?」
審神者の話を聞く限りでは、確かに本丸にとって損失はない。
手入れの必要もなければ、刀装を失うこともなく、さらに状況次第で報償まで入手出来るのだから。
だが、逆に損失がなさ過ぎることを穿ってか、納得しない表情の刀剣男子もいる。
「なるほどなぁ。確かに検非違使の出現を考えたら、練度の低いやつらにとってもいいし、それで強くなれんなら悪くねぇとは思うんだけどさ」
「だけど、何だ? 引っかかりがあれば、遠慮なく言え」
審神者が促すと、同田貫正国が溜め息交じりに言葉を続けた。
「……審神者の能力を使って作り上げた空間って言ったな。それって、あんたには相当負担が掛かってるってことなんじゃねぇの。顔色悪いぞ」
同田貫正国が言い放った内容に、場の空気が張り詰める。
黒猫に憑依している体の審神者が、一瞬動揺したのを刀剣男子たちは見逃さなかった。
普段とは違う面で能力を使うというのは、そのしわ寄せがどこかで出ている可能性を示すことでもある。
この試みが何の問題もないものなら、検非違使が出現し始めた頃にでも、早々に実施されていておかしくない。
みんな一斉に審神者の方を見ると、諦めたように座布団に突っ伏した審神者から溜め息が聞こえた。
「やれやれ。おまえは時々妙に鋭くて敵わんな。実戦刀の勘とやらか。黒猫の姿である私の顔色が読めるとは恐れ入る」
「主、それは――」
「だから、これは試験的に一定期間を設けての実施なのだ。空間を制御することは、私に限らずどの審神者にとっても負担が大きい。いくら一人の能力で行っているものではないとはいえ、長くはもたん。が、政府からのお達しとあらば、こちらに拒否権はない。どの本丸でも条件は皆一緒だ。行ってくれるな?」
「けど、大丈夫なのかい? その腕試の里に行くことで、余計に主に負担がかかったりとかは……」
燭台切光忠が心配そうな口調で尋ねた内容に、審神者が佇まいを直して応じる。
「新たな負担が掛かることはない。それは誠だ。おまえたちが里にいようといまいと、使う能力に変わりはない。が、どうせ、能力を使っているのであれば、みすみすこの機会を逃すこともないだろう。どうせ、腕試の里で失うものはない。存分に暴れてこい」
結局、刀剣男子たちにはそれを飲み込む以外の手立てはなさそうだった。
それぞれに顔を見合わせると、長谷部が彼らを代表して、いつものように審神者に対して返答した。
「主命とあらば」
こうして、刀剣男子たちの新たな鍛錬が決定された。
***
「……騒がしいな。腕試の里に行ってたやつらが戻ってきたか?」
「みたいだね。どうだったのかな」
燭台切光忠と大倶利伽羅が洗濯物を干していたところで、庭先から騒がしい声が聞こえ始めた。
難易度が易しい場所から訪れることになっていたが、まずは様子見ということで、加州清光率いる、この本丸の第二部隊が腕試の里に行き、その様子を聞いてから他の部隊もという話になっている。
間もなく、廊下をばたばたと走る足音が聞こえて、加州清光が二人の前に姿を現わした。
「あ、お帰り、加州くん。どうだっ……」
「第一部隊に交代、交代! あれ、無理。俺たちの手に負える相手じゃない」
「え?」
「……何があった?」
「今、主に報告するから、おまえたちも来て! 何かおかしいよ、あの里」
最初に審神者からの伝達があったように、本丸に帰参すれば元通りの状態に戻る為、加州清光には怪我一つない。
けど、焦りと苛立ちを隠しきれてない表情は、ただ事じゃないのを伝えている。
ちょうど、洗濯物を干し終わった燭台切光忠と大倶利伽羅は目配せしあい、加州清光と一緒に主のところへと向かった。
***
「最初に出て来た敵はさ。すっげー楽勝で、これなら第三部隊や第四部隊の練度上げにも、うってつけだなって思ったんだけど」
「ある程度まで進んだし、そろそろ玉を持ち帰ろうかって段階で、新たに来た敵には全然歯が立たなかったんです。六人がかりで向かっても、たった一人の刀装さえ削りきれなかった上に、全員が相手の一撃でやられました」
加州清光たち、第二部隊の報告は審神者は勿論、本丸に残っていた刀剣男子たちを少なからず驚かせた。
第二部隊と言っても、決して練度が低いわけではない。
「安定、かなりぶち切れてたもんな。玉が全部ぱあになったーって。本丸に帰ってくるまでうるさかったことと言ったら」
「人のこと言えないだろ、清光。おまえだって道すがら、ずっとぶちぶち言ってたじゃない。……僕たちが行ったのは、難易度が易しい場所だったはずですよね?」
「ふむ……難易度は確かに易しいになっているはずなんだがな」
第二部隊の報告を聞きながら、審神者が険しい表情で腕試の里の地図を眺めている。
その審神者の直ぐ横では、やはり難しい顔をしている近侍の長谷部が、部隊表を睨み付けるように見据えていた。
「ただ、能力で空間を作っていても、私たち審神者にはその場所を具体的に確かめる術がなくてな……。仮想敵の調整は政府の方に任せてあるから、何とも言えんというのが正直なところだ。すまんが、第一部隊出てくれるか。それでもおかしいようなら、私から政府に報告を入れる」
「第一部隊、ご指名ってわけだね。オーケー、任せてくれ」
「決まったなら、早速行くぞ。刀装は特上のを持っていく」
「ああ、構わん。どうせ失うことはない。出来る限りの最上の装備をしていけ」
「了解!」
それでも、本丸きっての練度を誇る、第一部隊だったらどうにかなるはずだと、この時点では審神者も刀剣男子たちも信じて疑わなかった。
***
「……ねぇ、焙烙玉とか、毒矢とか使うって聞いてないんだけど」
燭台切光忠を隊長に据え、大倶利伽羅や薬研藤四郎、和泉守兼定、堀川国広、へし切長谷部という面々で構成された第一部隊。
彼らは腕試の里で足を進めるにつれて、第二部隊の報告以上のものを体験する形になっていた。
焙烙玉によって刀装を剥がされたり、落とし穴に引っかかって落ちはせずに済んだものの、集めていた玉の一部を落としてしまったり、果ては飛んできた毒矢によって、へし切長谷部が本丸に強制送還されるような事態に陥っていた。
残った刀剣男子たちの表情も既に疲労の色が濃い。
いくら、本丸に帰参すれば元通りとは言っても、この空間を出るまでは普段の戦闘と何ら変わりはない。
「俺っちだって聞いてねぇよ。大将だって罠については言ってなかったってことは、単純に知らねぇんじゃないかな」
「ですね。安定くんたちも焙烙玉とかについては言ってなかったし、きっと僕たちと違って遭遇しなかったんだろうな」
「これ、終点まで辿りつけんのかぁ? 加州たちが言ってた、半端なく強い敵が出て来たらヤバいんじゃねぇの。一旦戻った方がよくねぇ?」
「仮想敵の状態を把握するのも、僕たちの役目だから、まだ戻るのは――」
「待て。……何か来るぞ」
大倶利伽羅の言葉に、部隊全員が剣を構える。
禍々しい空気が場に訪れ、六体の仮想敵が現われた。
全員が言葉にせずとも、これが『半端なく強い敵』だと瞬時に悟る。
唾液を飲み込んだ音は誰が発したものだったか。
「こりゃ……お出ましのようだな」
「ああ。逆行陣で行くよ! 先手必勝だ。格好良く行こう!」
「おう! えぇい、束まで通っ……!?」
陣形を取るや否や、真っ先に飛び出した薬研藤四郎だが、敵の刀装に阻まれた瞬間に顔色を変えた。
即座に斬り込まれた攻撃には紙一重で避けたが、彼の表情には余裕が全くない。
「気をつけろ! あの刀装、並の固さじゃない!!」
「何だって!?」
「兼さん! そっち!」
「おう! おらぁ、食らいやがれ!!」
堀川国広と和泉守兼定が、薬研藤四郎に斬り込んでいった敵を相手に、同時に刀を振るったが、この攻撃も刀装にあっさり遮られる。
「えっ……」
「おいおい、マジか…………うあ!」
「兼さん!」
そして、隙をつかれ、和泉守兼定が別の敵に背中から斬られた。
肩から脇腹にかけて、大きく切り裂かれ、和泉守兼定は意識を失う。
誰の目から見ても、これ以上の戦闘は不可能な傷に激昂したのは堀川国広だ。
「よくもっ……兼さんをやってくれたな!」
「バカっ、落ち着……!」
あっという間に敵に向かっていった堀川国広と、彼を庇おうとした薬研藤四郎が相手の一薙ぎでやられ、残るは燭台切光忠と大倶利伽羅の二振り。
自然、互いの背を守るように背中合わせになって、仮想敵を見据えるも、勝算は全くなかった。
何しろ、仮想敵の方はほとんど攻撃らしい攻撃を受けていないに等しい。
どうやら、彼ら第一部隊もなす術もなく帰還することになりそうだ。
「……どう思う?」
仮想敵との距離を慎重に取りつつ、燭台切光忠が背中越しに大倶利伽羅へと話し掛ける。
「実戦でなくて良かったという他ないな」
「全くだね。格好つかないったら」
本丸の刀剣男子たちの中では、最高練度に達している二人だからこそ、直感で悟ってしまっていた。
この相手には、自分たちでは敵わないということを。
「手酷くやられても、本丸に戻れば元通りだ。あんたの格好悪いところは見られずに済むんじゃないのか」
「君が見るだろ」
「お互い様だな。……手も足も出ないで敗北とは」
「初めてだよね……っ」
それでも、せめて一矢報いようと同時に踏み出し、刀装の剥がれ掛けている仮想敵へと向かっていった。
二人が意識を失う直前に見たのは、お互いの白刃による閃光。
仮想敵の咆哮で二人の地に倒れる音はかき消されたが、彼らが倒れたのを引き金に、第一部隊は全員本丸に強制的に戻された。
***
第一部隊も本丸に帰参してから数刻。
改めて、全刀剣男子が審神者に呼ばれ、広間に集まった。
「他の本丸からも、今回の腕試の里については同様の報告があったようで、政府側から調整は入った。……のだが」
「言い淀んだ続きは何だ? 楽しくない驚きの報告か?」
場を明るくしようとした鶴丸国永の軽口にも、審神者の表情は渋いままだ。
「残念ながらそうなるな。……強敵の出現率は下がったが、敵の練度そのものについては調整しない、ということだ」
「……待って、主。ってことは」
「…………その、なるべく敵と遭遇しないよう、気をつけろとしか。一度目の敵は弱いから、二度同じ敵に遭わなければ、まぁ」
目を逸らし、言葉尻も小さくなった審神者の言葉に、納得する刀剣男子は勿論いない。
あちこちで、不満の声や諦めの溜め息が聞こえてくる。
「意味ないじゃん! 敵と遭わないようにって、アタシら、練度上げに行くんじゃなかったの!?!? ねぇ、腕試しってそういう意味じゃないの!?」
次郎太刀が一歩前に出て、審神者に詰め寄ったところで、へし切長谷部が審神者との間に入り込んだ。
「落ち着け、次郎。主とて、どうにもならん問題なんだ」
「だってさああ!!」
言い合う次郎太刀とへし切長谷部を尻目に、並んで座っていた伊達縁の刀剣男子たちが苦笑いで会話を交わす。
「これさぁ、僕たちの練度ってほぼ関係ないよね」
「仮想敵に遭わないよう祈るだけの、ひたすら運が頼りってやつだな! いやぁ、参った参った!」
「参ったという割りには楽しそうだな、国永」
「一歩進むごとに次は何が出て来るだろうかっていう驚きも、それはそれで楽しいと思わないか? 焙烙玉だの、落とし穴だの、俺も見てみたかったなぁ」
「うーん、あんまり楽しくは……」
「くだらん」
どうやら、新しい鍛錬は前途多難のようだった。
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