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遠き日の幻と、手に届く現身 01<刀剣乱舞・くりみつくり>

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当時、書き始めてはみたものの、プロットを再構築しようと思ってそのままになってます……。
いつか、どうにかしたくはありますが、書く優先順位は現状かなり低いです。

最終的にはくりみつくりでの同軸リバ。
シリーズはR-18にしてますが、現時点ではR-18や同軸リバの場面が出て来てないです。
(そもそも大倶利伽羅がまだ出てない……)
諸事情で黒猫の姿をしている設定の審神者(本体は女性)がそこそこ出て来ますが、恋愛的な意味で刀剣男士に絡むことはありません。

光忠の顕現と審神者の事情。

初出:2015/09/14 

文字数:4903文字 

付喪神だった頃は人の態などなく、ただぼんやりとした意識が世界に在るだけだった。
時折、刀としての役を果たした時には高揚感があったけど、それ以外の鮮明な記憶といえば、良いものが一つ、悪いものも一つ。
良い記憶の方は、政宗公の元で大倶利伽羅や太鼓鐘貞宗ら、他の刀と居心地のいい空間で過ごした日々。
悪い記憶の方は――激しい揺れを感じてしばらくの後、蔵に外の光が差し込んだ瞬間に一気に包まれた灼熱感だ。
燃え盛る紅の焔。同じ場所に収められていた他の刀達の声なき悲鳴。
あれで、僕は形こそどうにか残ったものの、刀としての用を成さない状態になってしまった。
世は大正十二年。
後に関東大震災と呼ばれたその出来事がなくとも、刀を振るわれる機会は失われつつあった時代ではあったけど、せめて、あの時あの場所にさえいなければと幾度思っただろう。
かつての主の傍に、政宗公縁の過ごしやすいあの北の地にいるままだったら、こんなことにはならなかったのにという思いを抱えながら、時を過ごして幾年。
ぼんやりとしていたはずの意識は、突如、霧が晴れたように明確なものに変化した。

「……よし。顕現に成功したな。己が名を言えるか?」

随分と近くから少し低めの女性らしき声が聞こえる。
他に人の気配がないことから考慮しても、僕に対して問いかけているのだろうと察したから、それに応じた。

「僕……は、光忠。燭台切光忠」
「誰の元に在ったかは覚えているか?」
「織田信長公。後に太閤秀吉殿下。そして、伊達政宗公から水戸徳川家の頼房公へと伝わった刀。そのまま、ずっと代々、水戸徳川家に――」

待って。この声は聞き覚えがある。
内容は、今、僕が考えた言葉そのものだけど、声には懐かしさを覚える。
まさかという思いで目を開け、身体を起こす。

「えっ……!?」

この時、ようやく自分に『身体』があることに気付いた。
人間の男性と同じような身体だというのにも驚いたが、身体を起こした正面にあった大きな鏡を見てさらに驚いた。

「政宗……公?」

僕が政宗公の元を離れた時よりもずっと若いけど、映し出されていたのは、若き日の政宗公とよく似た姿の男。
手や足を動かしてみると、鏡の中の男はそれに添った動きをして、ようやく鏡に映っているのは、僕自身なのだと認識出来た。
姿だけじゃない、発している声もだ。
遠い記憶にある政宗公の声にかなり近い気がする。
一体、これはどういうことなのか。

「なるほど、おまえは伊達政宗と似た姿なのか。先に顕現した大和守安定は、かつての持ち主である沖田総司に似ているところがあるというし、何かあるのだろうな」

そういえば、人がいたんだったと横を向いたが、今度は別の意味で驚いた。
てっきり、気配と声から女性が話しているものだと思っていたら、そこにいたのは一匹の黒猫だ。
黄金色の目は真っ直ぐにこちらを向いている。
その黒猫と僕の他には誰一人として部屋の中にはいない。
となれば、今の言葉や先程の問いかけは、この猫から発されたってことになるはずだけど。
…………猫って、人の言葉を話せる生き物だったっけ?
僕もそこそこの年月、付喪神として過ごしてきたから、色んな猫を見てきているけど、猫が人の言葉を話せるなんてお伽噺以外には耳にしたこともなければ、目にしたこともない。
疑問がそのまま顔に出ていたのか、黒猫の小さく笑った声が聞こえた。

「色々、分からないことだらけだろう。順を追って説明しよう。刀であるはずのおまえが、どうしてここに人の姿をして存在しているのかなどをな、燭台切光忠」

黒猫の首に括り付けられていた、瞳と同じ色をした鈴が、チリンと心地良い音を響かせた。

***

「歴史修正主義者、ね……」
「そう。……過去を改竄させてしまうことは、間違いなく弊害を生む。今、こうして在る全てのものは、これまでの過去の積み重ねによって存在しているものだからな。歴史に『もしも』があってはならない。ただ頭の中で思うだけならまだしも、な」

黒猫――いや、僕の現在の主は、本来は刀の身であるはずの僕が、こうして人の姿を取って、この場に出現したことについて説明してくれた。
歴史修正主義者と呼ばれる、歴史を変えようとするものたちの存在。
それを阻止するために審神者と呼ばれる、僕たち刀剣の付喪神を『刀剣男士』として顕現させることが出来る能力を持った者たちが、時の政府によって集められた結果、僕や他の刀たちが人の姿を得て、それぞれの時代で歴史を改変しようとする歴史修正主義者を阻止する。
その為にここに呼ばれたのだと。

「僕としては、自分が身体を得たことも驚いたけど、黒猫が人の言葉を話すってところはもっと驚いたな」
「刀の付喪神が顕現して、人の身体を得たことを思えば、そう大した差はなかろう」
「あー、それを言われるとねぇ」

主の説明は分かりやすかったし、偽りではないことも伝わって来たから、一通り話を聞き終わった後には、素直に事の成り行きに納得出来た。
どうやら、この主も実体は別のところにあり、猫を当座の依り代としている形になるらしい。
そういう意味では、僕たちの在りようとあまり遠くもない気がした。

「納得したか。順応性は高いようだな」
「まぁ、幾人かの主の元を渡り歩いてきた刀だからね。処世術みたいなものは身についているのかも知れないな。とはいえ、自分が人の姿を取るとは思わなかったけど。でも、こうして『刀』として必要とされたからには期待に応えるつもりだよ」

刀身を焼かれてしまったあの時から、『刀』としての僕は、もう誰からも必要とされないものだと思っていた。
人の姿とはいえ、刀を振るい、斬るということを再び出来るようになったのは予想外だったけど、久し振りの戦に対しての高揚感で腕が鳴る。

「ほう、頼もしいな。有り難い。その調子で他の刀剣たちとも仲良くやっていってくれ」
「ああ。任せてくれ」
「何か、他に質問はあるか? 燭台切光忠」
「……無事に歴史修正主義者を殲滅出来た際には、僕たちの存在はどうなるのかな」

多分、主にとってはあまり聞かれたくない類の話なんだろうけど、きっと時間が経つにつれて、余計に聞きにくいことになりそうな気がする。
だから、今のうちに先に尋ねておこうと思ったのだけど。

「残念だが、その質問には応じられない。私にも分からないからな」
「主も聞かされてないってこと?」
「ああ。何しろ、相手はどれほどいるかさえ、まだ把握出来ていない。私のような審神者も随分な数いるらしい。それでも殲滅は容易ではないと聞いた」
「当面は終わりの見えない戦ってことかな?」
「ああ。そう思って貰って差し支えはない」

それなら、しばらくは『刀』としての時間を楽しめそうだ。
依り代とはいえ、猫の姿をした主にあまり威厳は感じられないけれど、それはさておき、存分に活躍させて貰う。
せっかくの与えられた機会なのだから。
まずはこの人の身の感覚を覚え、存分に生かすことから始めるとしよう。

「さて。他の刀にも引き合わせよう。あと、その前に」
「うん?」
「正体のよく分からない相手に従うのも何だろうし、多少世話をして貰う都合もあるから、おまえに私の実体を見せておくとしよう。ついてこい」
「うん」

……まさか、こっちの考えてることが読めるなんて能力は持ち合わせていないだろうけど、一瞬どきっとした。
過去の主たちに比べて、主の正体が分かりにくい、威厳を感じにくいと思っていたのも確かだ。
主が開いていた戸から部屋の外に出たから、僕もその後を追う。
そのまま、主の後をついて歩いていたけど、ある程度進んだところで、主がぴたりと足を止めた。

「……まどろっこしい。肩か腕を貸せ。燭台切光忠」
「はい。これで乗れる?」

意図を察したから、腰を屈めて右腕を差し出すと、主が僕の腕に飛びついて、そのまま肩までよじ登ってきた。
洋服越しに伝わる、小さな温もりが中々気持ち良い。
……ああ、そうか。
人の身体だと、こういう風に体温を感じとれるものなんだ。
身体を動かす感覚には馴染みつつあったけど、他の生き物に触れる時の感覚は今ようやくわかって来た。

「このまま廊下を真っ直ぐ突き当たりまで行け。突き当たったら左だ」
「はいはい」

主の指示通りに歩いて行くと、やがて人気の少ない静かな感じになってきた。
何だろう、さっきまでの場所とは少し空気が違うような気がする。

「ここだ。戸を開けてみろ」
「……うん」

言われたとおりに、戸に手を掛けて開く。
部屋の中は、それまで歩いてきた場所とは全く作りの違う場所だった。
無機質な白い部屋の中、中央に寝台と思われるものがあり、そこに一人の若い女性が目を閉じて眠っていた。
女性の腕や口から、細い管が、何か小さな音を立てて動いているものに繋がっている。
しかし、横たわっている女性は目を覚ます気配はない。
繋がっている物が何かまでは分からなくとも、これが尋常な人の状態ではないことくらいは伝わってくる。
頬は少しこけているし、顔色も良くない。管に繋がっている腕も、少し力を入れて握れば簡単に折れてしまいそうな細さだ。
病によるものなんだろうかと考えたところで、主が実体を見せておくと言ったのを思い出す。
実体――まさか、この人が。
顔を横に向けたら、主の視線とぶつかった。

「お察しの通りだ。これが私の本体になる。ちょっとした事故で、四肢を始めとした身体のあちこちが動かなくなってしまってな。が、どうやら政府のお偉方の話によれば、その為に審神者としての能力に目覚めたらしい。まぁ、そう考えると私が事故に遭わねば、こうしておまえとも話すことがなかったということだ」

若い女性が事故で動けなくなる。
それまで自在に動かせていた身体の自由を、いきなり奪われることを想像したら胸が軋んだ。
動けないのに、意識はしっかりとあって、他の生き物を依り代にすることで動けない自分自身を認識するというのは、以前の状態と比べてしまったのなら、中々キツイものがあるんじゃないんだろうか。

「……主。その」
「そんな、何を言って良いか分からない、なんて表情をせずともいいぞ、燭台切光忠。この能力に目覚めたおかげで、まともに他人に己の意思一つ伝えられない生ける屍から、以前の身体とは些か異なるとはいえ、自分の意思でこうして動けるようになったのだからな」

ぺしんと主のしっぽが、気にするなと言わんばかりに軽く僕の頬を叩くように動いた。

「とはいえ、私は本体からあまり遠ざかっては活動出来ぬし、本体は本体で死なぬように、多少なりとも世話が必要だ。本来の仕事以外にも手を焼かせる形になってすまないが、既にこの本丸には顕現した刀が他にも何振りかいる。その者たちとも相談して、適度にこっちの世話も頼む、燭台切光忠」

どうやら、あまり必要以上に気を回すのも、この主には失礼に当りそうだ。
本人がそう言い切っている以上、主本体の状態については気にしないでおくのが一番いいんだろう。

「わかった。まかせて、主。……ところで、その、僕の名前なんだけど」

何となく感じた気まずさを一掃するためにも、別の話題を振ることにする。

「ん?」
「名前の由来がどうにも格好つかないものだから、出来れば光忠って呼んで貰えたら嬉しいんだけど」

かつて、伊達にいたときにそれを告げたら、素直に僕をそう呼んでくれた刀と、みっちゃんと愛称で呼んでくれた二振りの刀を思い出す。
彼らは既にここに来ていたりするのだろうか。
もしくは、これから来たりするのだろうか。
どちらにせよ、再会するのが楽しみだ。
伊達にいた時以外の刀にも会えるのは楽しみだけど、僕の楽しかった記憶はやはり伊達にいた時が一番印象に残っている。
僕は政宗公の姿に影響されているけど、みんなはどうなんだろう。
そういえば、伊達では会えなかったけど、鶴丸さんなんかもいるのかな。
かの人だったら、どんな姿で顕現するんだろうか。

「そうか。分かった。覚えておこう。『燭台切光忠』」

意地の悪い響きと共に、主が耳を尻尾で一撫でしていった。
……どうやら、僕の新しい主は少し癖がありそうだ。
このまま、他の刀たちに紹介すると言われ、部屋を退出し、再び主が示す方向へと歩き始めた。

 

 

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