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夢にまで見た

Immorality of targetシリーズのプロトタイプその3に相当します。

適度に歳取った既婚者堀&独身御子柴・その2の続き。

[御子柴Side]

 

「ん…………」

 

普段よりも何か熱いなと目を覚ますと、手を伸ばせば直ぐ届くような距離に先輩が寝ていて、俺に腕枕してくれていた。

熱かったわけだ。

そういや、結局泊まっていったんだったよな、あの後。

奥さんと話し合いするなら、一度帰った方がいいんじゃないだろうかと思ったけど、既に終電に間に合うかどうかがギリギリの時間だったから、明日の昼に帰るっつってそのまま泊まることになった。

何度かひっそり旅行に行った時には、こうやって一緒に眠ることはあったけど、普段こうして俺の家で会うときはヤることヤッたら、先輩は家に戻っていたから、新鮮と言えば新鮮だ。

 

「…………夢じゃねぇよなぁ」

 

目の前で眠ってる先輩の顔を見ながら、そんな言葉がつい口をついて出る。

色々、問題は山積みだけど、先輩が俺を選んでくれたっていうのが、まだどこかで夢の中にいるような、信じられない思いでいる。

こうして、自分の家でこの人と一晩ずっと一緒にいられるってのは、それこそ夢にまで見た光景だった。

 

――俺はこの先一緒に過ごしていくならおまえがいい。実琴。

――……もう、おまえを手放すことになるのだけはごめんだ。

 

数時間前に先輩が言ってくれた言葉。

……俺だってもう先輩を手放すのは嫌だ。

十数年前に一度別れたあの時、俺は住む場所も、ケータイの番号も、メアドも、連絡手段になりそうなものは何もかも変えた。

全部リセットして、忘れてしまおうって思ったからだ。

なのに、未練からなのか煙草の銘柄だけは変えようとしても、結局変えられずにずるずる同じものを吸っていた。

そのせいか、時々先輩の夢を見ては、朝起きて失望するっていうのも、幾度か経験がある。

いつかはそんな日もなくなるだろうなんて考えていたら、先輩と十数年ぶりに再会し、先輩も煙草の銘柄はそのままだったって知って――動揺を押し殺せないまま、抱かれた。

別れてから十数年、ずっと一人でも平気だなんて思っていたのに、一晩抱かれただけで、それが違っていたことを思い知らされて、苦しかった。

お互いの吐息も体温も、相手の弱いところやちょっとした癖なんかも、身体に染みついていたことに自分でも驚いた。

あれだけ年数経ってんだから忘れたってずっと思っていたのに。

 

「忘れられるわけなかったんだよなぁ……」

 

俺、結局先輩しか知らないし。

人に顔向け出来ない罪悪感や背徳感に塗れてもなお、少しでも一緒にいたいと願ってしまう自分が浅ましくて嫌にもなったけど、少しはこれで許される、なんて思ってもいいんだろうか。

 

「……どうしたよ、どっか痛むのか?」

 

どうやら、起こしてしまっていたのか、声がかかって我に返った。

何となく、心配そうな表情をしている先輩に笑って応じる。

 

「いや、大丈夫っす。人の体温感じて寝るの久々だから、ちょっと違和感で目覚めちまっただけで」

「人の体温っていうか、俺の体温、だろ。おまえ、俺しか知らねぇんだから」

 

そう言われて、先輩の方に身体を引き寄せられる。

どっちも素肌のままだから、ダイレクトに伝わる体温や肌の感触が気持ち良い。

 

「わざわざ、言い直すほどのことっすかね、そこ」

「重要だろ」

「……自分は俺一人しか知らないわけじゃない癖に」

 

ほんの少しだけ皮肉をこめて言うと、先輩が言葉に詰まった。

ちょっとだけ、抱き締められた腕に力が入る。

 

「……そこ言われると流石に痛い。なぁ、実琴」

「はい?」

「流石にもう他を知ってるってのはどうにもなんねぇけど、おまえで最後にしとくから。それで勘弁してくれ」

「…………政行さん」

「この先はおまえだけだから、実琴」

「……そうしてくれると嬉しいっす」

 

それを口に出来る幸福を今は噛みしめて、もう一度眠りにつくため瞼を閉じた。

 

[堀Side]

 

女房とはレスだし、寝室も分けているから、こうやって誰かに腕枕をしながら眠りにつくなんてのは、ここ数年、旅行を除けばほとんどなかった。

御子柴と会うのは平日だったし、この家にはほとんど泊まらずにいたからだ。

夏は暑くてしんどいが、寒くなり始めた時期にはこうして素肌を触れ合わせて寝るのは気持ち良い。

女房と離婚することを決めたからには、早くこうして御子柴と過ごしていきたいけど、本当の問題はここからなんだよなぁ。

 

――別れないわよ!? ずっと上手くやってきたじゃない! 今更レスを楯にするなんて!!

 

ヒステリックに叫んだ女房の声は思い出すと頭が痛い。

けど、それより痛いのは息子の軽蔑したような目だ。

そりゃ、俺のしてることは、あいつらにしてみれば、裏切り行為以外の何でもねぇのは分かってるけど。

 

――俺も……巻き込んじまって下さい。

――一人で背負おうとかしないで……。俺も一緒に背負いたいから……、

 

眠る間際に御子柴はそう言ってくれたけど、出来れば今でも巻き込みたくはない。

一緒に背負おうとしてくれてることは単純に嬉しい。

けど、御子柴を俺の勝手な都合でこれ以上振り回したくはない。

こいつがそうすることを拒んだりしないのが分かっているから、なおさらだ。

快感で泣かせたり、嬉し涙を零してくれるのは大歓迎だが、傷つけて泣かせたくはない。

元はといえば、俺が招いてしまったことだ。

俺が御子柴を――。

 

「忘れられるわけなかったんだよなぁ……」

 

うとうとしていた意識は、御子柴がそうぼそりと呟いたところで覚醒した。

自分の脳裏に浮かんでいた言葉と重なった呟きに驚く。

起きてたのか。

さっき、激しく求めすぎた自覚はあるから、身体がしんどくて眠れずにいたんだろうか。

 

「……どうしたよ、どっか痛むのか?」

 

俺が掛けた声に御子柴が一瞬だけ目を丸く顔をしたが、直ぐに笑った。

 

「いや、大丈夫っす。人の体温感じて寝るの久々だから、ちょっと違和感で目覚めちまっただけで」

「人の体温っていうか、俺の体温、だろ。おまえ、俺しか知らねぇんだから」

 

起きたついでにと、さっきよりも御子柴の身体を引き寄せて密着させる。

こいつ、凄ぇ肌触りいいんだよなぁ。

昔よりも再会してからの方が、馴染む感じがするのは何でだろう。

 

「わざわざ、言い直すほどのことっすかね、そこ」

「重要だろ」

「……自分は俺一人しか知らないわけじゃない癖に」

 

決して責めてる口調ではなかったが、寂しげにも聞こえた声に咄嗟に返事が出来なかった。

気にしないわけはないんだよな。

俺だって逆の立場だったら、過去のことだって分かっていても嫉妬する。

抱き締める腕に力を籠めながら、御子柴の顔を真っ直ぐに見る。

 

「……そこ言われると流石に痛い。なぁ、実琴」

「はい?」

「流石にもう他を知ってるってのはどうにもなんねぇけど、おまえで最後にしとくから。それで勘弁してくれ」

 

こいつさえ、ずっと傍にいてくれるなら、もう他には望まない。

俺は二度と御子柴を――実琴を手放したりなんかしない。

 

「…………政行さん」

「この先はおまえだけだから、実琴」

「……そうしてくれると嬉しいっす」

 

穏やかに微笑んで、目を閉じた実琴の瞼にキスを落とす。

俺ももう一度眠るために目を閉じた。

Memo
2015/01/16のワンライから『夢にまで見た』。
ワンライでやったのは御子柴Sideで堀SideはpixivUP時に追加。
pixivではImmorality of target another1に収録してます。

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