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見える位置に残された痕

「あれ? 御子柴。ここ虫に刺された?」

「あ? 何処だって?」

 

鹿島が指さした場所をイマイチ把握しかねて尋ねると、鹿島がとんとん、と指で突いた。

首の後ろ、襟足にかろうじて隠れるくらいの場所だ。

 

「ん、特に痒くはな…………あ」

 

虫刺されとしての心当たりはないが、別の心当たりに思いついて、思わず顔が赤くなった。

 

「ん?」

「あ、いや、何でもねぇ! そういや、昨晩なんか蚊が部屋ん中に一匹いてさ!」

「ああ、まだちょっと暑い日あるもんねぇ」

 

蚊というには凄ぇでっかい蚊だけどな!

堀政行っていう名前のな!

……とは、勿論鹿島に言えるはずもない。

幸い、鹿島もそれ以上はツッコんで来なかったから、適当に話題を変える。

…………くそ、見える位置に痕残すのやめてくれって前にも言ったのに、先輩は!

多分、セックス終わってうとうとしている時にやられたな。

そういえば、昨日はバックでした後、ついそのままうつ伏せになっていたんだった。

どうせ、明日会う約束してるから、後で問いたださねぇと。

 

***

 

「で。何で前にも言ったのに、俺も気付かないような場所に痕残したのか、聞かせて貰っていいっすかね」

「何だ、思ったより気付くの早かったな。誰かに指摘されでもしたか?」

 

翌日。

会って早々、先輩に問いただしたが、先輩は涼しい顔して受け流す。

 

「鹿島ですよ。こんな場所じゃ何かの折に目につくに決まってるじゃないっすか!」

「ああ、おまえと鹿島だと身長近いもんな。どうせ、虫刺されで誤魔化せたんだろう? なら気にすることねぇだろ」

「気にしますよ! 今は誤魔化されてくれてたって、それがずっと続くなんて限んねぇだろ!? っとに、そんなん言ってると、先輩にも見える場所に痕残しますよ!?」

「俺はいいぜ、別に」

「……は?」

 

さらっと返された言葉に、しばし思考回路が停止した。

 

「あの、先輩。俺が言った意味分かってます?」

「ん? だから、おまえが俺に痕残してくれるって話だろ? 見える場所に」

「……いいんすか、それ」

「キスマークなんて、男の勲章だろ。俺は特に嫌じゃねぇよ」

 

ニヤリと笑って応じるあたりに目眩がする。

恥じらいってもんは無いのかよ、先輩。

曲がりなりにもまだ学生だぞ、俺たち。

 

「先輩には、同じ事しても仕返しになんねぇってのだけは理解しましたよ。……くそ、面白くねぇ」

「何だ、付けないのか?」

「…………どうやったら、痕って残るんすかね」

「そこからかよ」

 

低い笑い声が癪だと思いつつも、どうやら実践で教えてくれるつもりらしいから、シャツの裾を捲られるのは止めずにおく。

見えない場所なら、俺だってそんなに困らない。

……寧ろ、嬉しくもあるが、それを言ったが最後、歯止めもなくなりそうだから、そこはあえて黙っておく。

 

「結局のところ、軽い内出血だからなー、これ。こうして、強めに何度か同じ場所を吸うと…………」

「ん……っ」

 

腹に触れた先輩の唇が、俺の皮膚を吸い上げて、其処からじわりと快感が広がる。

先輩が唇を離したときには、しっかりと痕が残っていた。

 

「ほれ。要領わかったか?」

「ああ……まぁ、何となく」

 

せっかくだから、実践してみようと、俺も先輩の腹に付けようかと思ったが、そういや見えるとこでも構わねぇって言ったなと、首筋に唇を寄せてみる。

耳の少し下の辺りを吸ってみると、少しだけ先輩の肌が震えた。

あー……先輩でもここら辺弱かったりすんのかと、ちょっとばかり良い気分だ。

唇を離してみると、ちゃんと痕が残った。

 

「……先輩、残していいって言いましたもんね」

「ああ、言った。そこは否定しない。ところでな、御子柴」

「ん? 何すか?」

「俺、三倍返しが信条なんだよな。知ってたか?」

「え、ちょ、待っ……」

 

がしっと肩を掴まれて、抱き寄せられて。

あっという間に首筋に先輩の唇が触れて、其処の皮膚が吸い上げられる。

 

「っ!!」

「というわけで、あと二ヶ所。適当な場所に残してやる」

「さっきの腹は!? そっち入れたら、あと一ヶ所で済むんじゃないんすか!?」

「ありゃ、ノーカンだ。おまえに教えるためにつけたんだから」

 

どんな屁理屈だよ!と思いつつも、先輩は腕の力を緩める様子がない。

煽るようなこと言っちまったのが間違いだったかと、後悔しながら諦めた。

Memo
3つの恋のお題にあった中から。
普段は攻が受に対して、積極的につけるキスマークを受が攻に気まぐれでつけて、逆襲されるパターンが好きです。
pixivではShort Stories 04に収録してあります。

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