2015/02/14のフリーワンライ(第37回)から『バレンタインの予行練習』。
堀鹿ですが、堀先輩は出て来ません。鹿島くんと御子柴、親友コンビのやりとり。
『甘ったるいの作り方』とほんのりリンクした話。(読まずとも支障はないです)
※二人が大学生で付き合った後、社会人で同棲してるのが前提の話です。
初出:2015/02/14
文字数:1781文字
「御子柴ー! 今年も試食お願い!」
「またかよ……。もう、手作りだってバラしても問題ないんじゃねぇの。おまえの手作りだったら、先輩普通に食うだろ」
そんな風に、鹿島から堀先輩に渡すという、市販品に見せかけた巧妙な手作りバレンタインチョコの試食をするのは、ここ数年の恒例行事だ。
二人が高校を卒業して、大学に入って付き合うようになってからもそれは変わらない。
今なんか、夕食や朝食も作ってる時があるっていうから、そんな段階で堀先輩が鹿島の作るチョコだけを食わない理由はないはずだ。
鹿島の作るチョコは何だかんだで美味いから、俺としては役得だとも言えなくもないが、そろそろ先輩に事実を知らせて貰いたくもある。
いざ、鹿島のチョコが手作りで、事前に俺が試食していたなんて分かったら、滅茶苦茶嫉妬されそうな気がするんだよな。
試作品とはいえ、鹿島お手製のバレンタインチョコを真っ先に食ってるのは結局俺ってことになるんだし。
「いや、何となく言いそびれちゃってるっていうかさ……。今更、どう切り出したらいいのか、タイミング分かんなくて」
「早いうちに切り出せよ! そんな遠慮する仲でもねぇだろ」
今日は鹿島の方が試験も一段落ついたってのもあって、うちの大学まで来ている。
一緒に昼飯を食いながら、弁当箱に入れてきた試作品のチョコと、その元となった市販品のチョコを見比べているが、相変わらず一見しただけじゃ違いが分からない出来映えだ。
「えーっと……こっちが市販品、か?」
「ぶぶーっ! 逆だよ。市販品はこっち」
「分かんねぇっつの。ホント器用だよなぁ、おまえ」
ただ、見た目では本当に区別がつかないものの、いざ食ってみると鹿島が作ったやつの方が、市販品よりも美味い気はするんだよな。
恐らくは保存料とかの余計なものが入っていない分と新鮮さなんだろうとは思うけど。
昼飯を食い終わると、ミネラルウォーターで口の中を軽くすすいで、今年の試作品を口に放り込む。
最初は鹿島が作った方を。次いで、市販品の方を。
……やっぱり今年も鹿島が作ったやつの方が美味ぇな、これ。
「どう?」
「今年もばっちりじゃねぇか。美味い」
「ありがとう! よし、このままのレシピで作るよ!」
「……ホント、いつになったら先輩に言うんだよ、おまえ」
***
「御子柴。先輩にバレた。っていうか、バラした」
「やっとかよ」
お互い社会人になって一年目。
鹿島と堀先輩は、鹿島の卒業を機に同棲を始めて、一年近く経っていた。
予想はしていたが、流石に同じ家に住んでいる状態で、ひっそりバレンタインチョコを手作りするのは難しかったとみえる。
「うん。何か先輩が私の手作りのチョコ食べてみたいって言いだしたから、実はずっと手作りのものだったんですってバラした」
「へぇ」
「損してた気分だなんて言ってた。結局食べてることに違いないんだけどねぇ」
……ヤバい。これは、事実を知ったら絶対先輩に嫉妬される。
俺としては鹿島はあくまでも親友であって、それ以上でも以下でもないんだが、あれで先輩は結構独占欲が強い人だから、知られたが最後、間違いなく絡まれる。
「……鹿島」
「ん?」
「おまえ、俺に試作品のチョコを毎年先に食わせていたってことは、先輩に言わない方がいいぞ」
「何で?」
「どうしてもだ。墓まで持って行け。いいな」
「墓までって何か大げさだね。まぁいいけど。あ、そうだ。ちょっと早いけど、誕生日プレゼント持ってきたんだ! はい!」
俺の話をちゃんと聞いているのか聞いていないのか。
あっさりと話を切り上げた鹿島は、俺に小さな包みを渡してきた。
何となく高級感の感じられるそれは、これまで貰った誕生日プレゼントとはどことなく違う印象を与える。
「サンキュ。開けてもいいか?」
「うん」
包装を解くと小さなケースに収められた、シンプルな作りだが綺麗な赤いピアス。
ただし、普通のピアスじゃなくよくよくみるとマグネットピアスだった。
「御子柴、会社の方が規則でうるさいからって、ピアスするのやめちゃったでしょ? でも、似合っていて勿体ないなって思ってたから。マグネットのだったら休日とかに付けられるかなって」
「……これ安くねぇだろ。いいのか」
「ずっと試食してくれてたお礼も兼ねてるから。受け取って」
「……ありがとう。使わせて貰う」
毎年の恒例行事はそうして終わりを告げたが、何となく肩の荷が下りた気分だった。
鹿島くんお手製バレンタインチョコの試食係な御子柴。
親友コンビ書くのは楽しい。
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