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第二百八十四回紅敬版深夜の創作一本勝負、お題『ハグ』『キス』『手を繋ぐ』『撫でる』『ごはん』を全部使ってみました。
星奏館は部屋によって二人から四人で住んでいる。俺の部屋は一応四人部屋なんだが、斎宮も瀬名も拠点は海外だから部屋にいる方が珍しい上に、残った衣更や俺にしても時々実家の様子を見に帰っていたりするから、他の部屋に比べると一人になれる機会は案外多い方だろう。
今日もこの部屋は俺一人になることがわかっていたから、夜までは衣装を作るのに専念出来るなと、ずっと作業をしていた。
夜は蓮巳の旦那が来て、夕飯を一緒に食ってからこっちの部屋に泊まっていくってことになっていたから、それまでに衣装作りをやれるところまでやっちまおうって心積もりだったんだが。
「ん……? ヤベぇ、思ってた以上に寝ちまっ……あ?」
衣装を縫っている途中で眠気が来て、ちょっとだけ休憩するつもりで壁に寄りかかってウトウトしていたら、日差しで明るかった部屋はすっかり暗くなっていた。
一旦裁縫道具は片付けて、夕飯の用意でもと思ったところで、肩に寄りかかっている重さと温もりに気付く。
旦那が俺の肩を枕に寝入っていた。
いつの間に部屋に来ていたのか、いつから寄りかかって寝ていたのかもさっぱり覚えちゃいねぇが、多分、俺を起こすのを躊躇った結果、自分も少しだけ寝ようと思ったんだろうな、こいつ。
眼鏡は外されていて、俺が避けておいた裁縫道具と一緒に置かれている。
蓮巳は特に意識しちゃいねぇのかもしれねぇが、蓮巳曰く『生涯の伴侶』と称している眼鏡を、俺の裁縫道具に預けるように置いているっていうのは何となく気分がいい。
旦那は疲労がピークに達すると外でも寝ちまったりするが、その場合ほとんど眼鏡は外さずにそのままだ。
蓮巳は視力がかなり悪いから、寝るとき以外は極力眼鏡を外したがらねぇし、その寝るときにしたって、ちょっとウトウトするって程度ならまず外さねぇ。
俺の傍だから安心して外して眠りについたんだろうなっていうのは、きっとうぬぼれじゃないはずだ。
そっと旦那の髪を撫でると、微かに身動いだから今ので起こしちまったかと手を止めたが、旦那は相変わらず俺の肩に寄りかかったまま。
起こさずに済んだかと思ったが、蓮巳の指が床についたままの方の俺の手首に絡みつく。寝惚けての行動だと思えなくもないが、これは多分目を覚ましてる。
「……狸寝入りかよ、旦那」
「言っておくが、先程までは本当に寝ていたぞ。……予定より早く用事が済んだから来てみたらおまえが寝ていたから、俺も少しくらいはと」
旦那が頭を俺の肩から起こし、眼鏡に手を伸ばそうとしたところで、その手首を掴んで止める。
そして、蓮巳がこっちを向いたところで唇を重ねた。
眼鏡をかけちまうとキスしにくくなるから、その前にってやつだ。
「……ん」
蓮巳の目が驚きの色を浮かべたのは一瞬だ。直ぐに力を抜いて、目を閉じる。
部屋には他に誰もいねぇし、部屋の外も割と静かだから、キスしても問題ねぇって判断したんだろう。
掴んでいた手首を離すと、旦那の方から俺の手を追って指を絡めて来た。
手を繋いで、指先でお互いの手を弄んでいると、触れているのが唇と手だけじゃ物足りなくなる。
一度唇を離して、蓮巳の身体に腕を回すと、やつの方も身体を寄せてこっちに腕を回してきた。
阿吽の呼吸ってやつなのか、こんなところはもう言葉にしなくても何となく通じるもんがあるってことに嬉しくなっちまう。
あやすようにぽんぽんと背中を叩くと、蓮巳の旦那が笑ったのが伝わった。
「予定より早く用事済んだってんなら、おまえも夕飯作りに手ぇ貸してくれるんだよな?」
当初の予定では、旦那の帰りを待ちがてら俺が二人分の夕飯を作るって流れだったが、その本人がもういるなら話は変わってくる。
「ああ。当然だ。で、何を作る予定だ?」
「デミグラスソースのオムライスとオニオンスープ。椎名に美味いデミグラスソースのレシピ聞いたから、それ一回試してみようと思ってな」
「なるほど。それは楽しみだ。食堂に行くか」
「おう」
身体を離す前に一度、旦那を強く抱きしめてから離れる。
温もりを手放すのはちょっと惜しいが、夕飯後にまた抱き合えばいいだけの話だ。今日はまだこれからだしな。
裁縫道具と作りかけの衣装を片付けてから、二人で食堂に向かった。
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#紅敬 #ワンライ
星奏館は部屋によって二人から四人で住んでいる。俺の部屋は一応四人部屋なんだが、斎宮も瀬名も拠点は海外だから部屋にいる方が珍しい上に、残った衣更や俺にしても時々実家の様子を見に帰っていたりするから、他の部屋に比べると一人になれる機会は案外多い方だろう。
今日もこの部屋は俺一人になることがわかっていたから、夜までは衣装を作るのに専念出来るなと、ずっと作業をしていた。
夜は蓮巳の旦那が来て、夕飯を一緒に食ってからこっちの部屋に泊まっていくってことになっていたから、それまでに衣装作りをやれるところまでやっちまおうって心積もりだったんだが。
「ん……? ヤベぇ、思ってた以上に寝ちまっ……あ?」
衣装を縫っている途中で眠気が来て、ちょっとだけ休憩するつもりで壁に寄りかかってウトウトしていたら、日差しで明るかった部屋はすっかり暗くなっていた。
一旦裁縫道具は片付けて、夕飯の用意でもと思ったところで、肩に寄りかかっている重さと温もりに気付く。
旦那が俺の肩を枕に寝入っていた。
いつの間に部屋に来ていたのか、いつから寄りかかって寝ていたのかもさっぱり覚えちゃいねぇが、多分、俺を起こすのを躊躇った結果、自分も少しだけ寝ようと思ったんだろうな、こいつ。
眼鏡は外されていて、俺が避けておいた裁縫道具と一緒に置かれている。
蓮巳は特に意識しちゃいねぇのかもしれねぇが、蓮巳曰く『生涯の伴侶』と称している眼鏡を、俺の裁縫道具に預けるように置いているっていうのは何となく気分がいい。
旦那は疲労がピークに達すると外でも寝ちまったりするが、その場合ほとんど眼鏡は外さずにそのままだ。
蓮巳は視力がかなり悪いから、寝るとき以外は極力眼鏡を外したがらねぇし、その寝るときにしたって、ちょっとウトウトするって程度ならまず外さねぇ。
俺の傍だから安心して外して眠りについたんだろうなっていうのは、きっとうぬぼれじゃないはずだ。
そっと旦那の髪を撫でると、微かに身動いだから今ので起こしちまったかと手を止めたが、旦那は相変わらず俺の肩に寄りかかったまま。
起こさずに済んだかと思ったが、蓮巳の指が床についたままの方の俺の手首に絡みつく。寝惚けての行動だと思えなくもないが、これは多分目を覚ましてる。
「……狸寝入りかよ、旦那」
「言っておくが、先程までは本当に寝ていたぞ。……予定より早く用事が済んだから来てみたらおまえが寝ていたから、俺も少しくらいはと」
旦那が頭を俺の肩から起こし、眼鏡に手を伸ばそうとしたところで、その手首を掴んで止める。
そして、蓮巳がこっちを向いたところで唇を重ねた。
眼鏡をかけちまうとキスしにくくなるから、その前にってやつだ。
「……ん」
蓮巳の目が驚きの色を浮かべたのは一瞬だ。直ぐに力を抜いて、目を閉じる。
部屋には他に誰もいねぇし、部屋の外も割と静かだから、キスしても問題ねぇって判断したんだろう。
掴んでいた手首を離すと、旦那の方から俺の手を追って指を絡めて来た。
手を繋いで、指先でお互いの手を弄んでいると、触れているのが唇と手だけじゃ物足りなくなる。
一度唇を離して、蓮巳の身体に腕を回すと、やつの方も身体を寄せてこっちに腕を回してきた。
阿吽の呼吸ってやつなのか、こんなところはもう言葉にしなくても何となく通じるもんがあるってことに嬉しくなっちまう。
あやすようにぽんぽんと背中を叩くと、蓮巳の旦那が笑ったのが伝わった。
「予定より早く用事済んだってんなら、おまえも夕飯作りに手ぇ貸してくれるんだよな?」
当初の予定では、旦那の帰りを待ちがてら俺が二人分の夕飯を作るって流れだったが、その本人がもういるなら話は変わってくる。
「ああ。当然だ。で、何を作る予定だ?」
「デミグラスソースのオムライスとオニオンスープ。椎名に美味いデミグラスソースのレシピ聞いたから、それ一回試してみようと思ってな」
「なるほど。それは楽しみだ。食堂に行くか」
「おう」
身体を離す前に一度、旦那を強く抱きしめてから離れる。
温もりを手放すのはちょっと惜しいが、夕飯後にまた抱き合えばいいだけの話だ。今日はまだこれからだしな。
裁縫道具と作りかけの衣装を片付けてから、二人で食堂に向かった。
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#紅敬 #ワンライ
第二百七十六回紅敬版深夜の創作一本勝負、お題『銭湯』を使って書きました。
今回のコラボに絡んだ話になります。
紅月らしい素敵なコラボをありがとうございます!
紅月が出す新曲の販促として、街中にある銭湯とコラボする――と蓮巳の旦那から聞いた時は予想外のことに驚いた。
銭湯とのコラボというのにも驚いたが、それがいわゆるスーパー銭湯の類じゃないってところも意外だ。
ただ、コラボ先の銭湯は過去にも別のコンテンツとコラボした経験もあって、店のスタッフも常連客も慣れており、営業時間にしてもよくある銭湯よりもずっと長い、という話を聞くとそれも納得したし、何より、銭湯の壁に描かれているペンキ絵を今度出す新曲をイメージして改めて描くって話に、旦那がそこに興味持って、コラボの件を了承したんだなとわかっちまった。
蓮巳の旦那はあれで絵心があって、これまでにもちょっとしたイラストとかを描いたりしてたし、漫画なんかも描いたことがあるらしい。
実際、銭湯が休みになる日を使って、その新曲をイメージしたペンキ絵を描くと聞いて、蓮巳がその様子をぜひ見学させて貰いたいと食い気味に事務所に持ちかけていたと朔間から聞いたときには、その様子が目に浮かんで思わず笑っちまった。
とはいえ、当たり前のようにお前も描くところを見に来るだろう?と言われりゃ、行かねぇって選択肢もねぇ。
ただ、銭湯の休みは平日だったのもあり、生憎と神崎は学院での試験日と被ってるってことで、神崎だけは試験が終わり次第の合流となる。
午後からペンキ絵を描き始め、その作業が終了次第、一部の湯船にお湯を張ってくれるから、新しいペンキ絵を見ながら広い湯船で貸し切り状態の一番風呂に入れるとくりゃ、蓮巳じゃなくても楽しみってもんだ。
そして、ペンキ絵を描く当日。
旦那と一緒に昼飯を食ったその足で銭湯に向かい、作業を始めた職人の邪魔になんねぇように、少し離れて後ろの方から様子を眺めていたが、しばらくは揃って無言だった。
赤富士の形が大まかに描かれた段階で、ずっと黙っていた蓮巳が凄い、と小さく呟いたのが聞こえた。
「……下書きとかねぇんだなぁ、これ」
俺の方もつられて、何となく小声で言葉を返す。
俺に絵心はねぇが、それでもこの広い壁に下書きもなしに赤富士や舞う紅葉、鮮やかに咲く蓮の花なんかが次々と描かれていくのが凄ぇってわかる。
曲やユニットのイメージから選んだ、いくつかのモチーフを取り入れて欲しいっていう話は先方に通してあるようだが、そのモチーフは頭ん中だけで組み合わせてあるらしく、下書きは勿論、参考になるような絵や写真なんかも職人の手元にはない。
黙々と職人がペンキ絵を仕上げていく様はただただ圧巻だ。
基本、どんなペンキ絵も銭湯の休みの日を利用して一日で描ききるってんだから、絵を仕上げるスピードも想像していた以上に早い。
このペースなら神崎が来るまでに、ほとんど仕上がっちまうかもしれねぇ。
「ああ。この広さを下書きなしに描けるとは恐れ入る。銭湯自体の数が昔に比べ減少したのもあってか、今や銭湯のペンキ絵を描ける職人は日本全国でも三人しかいないそうだ」
「全国で三人……ってマジかよ」
だったら、目の前で描いているのはその貴重な三人のうちの一人ってことになる。
こりゃ、思っていた以上に珍しいモンを目にしてんだな。
多分、旦那はそれを知ってたから見学したいって言ったんだろう。
今もそう見る機会のない光景に興奮してんのか、目が輝いてるし、俺と話しながらも視線はずっと壁の方から離れずにいる。
仕上がっていくペンキ絵は勿論見応えがあるが、こんな蓮巳も同じくらい見応えがある。
壁に新たにモチーフが描かれるたびに表情に変化が出て、可愛いったらねぇな。
つい口元が緩みそうになったのを慌てて抑えたが、旦那がずっと壁を見ているのは幸いだった。
多分、後で風呂に入ったときはずっとこの絵の話してんだろうなぁと予想しながら、俺も壁へと視線を戻した。
Close
#紅敬 #ワンライ
今回のコラボに絡んだ話になります。
紅月らしい素敵なコラボをありがとうございます!
紅月が出す新曲の販促として、街中にある銭湯とコラボする――と蓮巳の旦那から聞いた時は予想外のことに驚いた。
銭湯とのコラボというのにも驚いたが、それがいわゆるスーパー銭湯の類じゃないってところも意外だ。
ただ、コラボ先の銭湯は過去にも別のコンテンツとコラボした経験もあって、店のスタッフも常連客も慣れており、営業時間にしてもよくある銭湯よりもずっと長い、という話を聞くとそれも納得したし、何より、銭湯の壁に描かれているペンキ絵を今度出す新曲をイメージして改めて描くって話に、旦那がそこに興味持って、コラボの件を了承したんだなとわかっちまった。
蓮巳の旦那はあれで絵心があって、これまでにもちょっとしたイラストとかを描いたりしてたし、漫画なんかも描いたことがあるらしい。
実際、銭湯が休みになる日を使って、その新曲をイメージしたペンキ絵を描くと聞いて、蓮巳がその様子をぜひ見学させて貰いたいと食い気味に事務所に持ちかけていたと朔間から聞いたときには、その様子が目に浮かんで思わず笑っちまった。
とはいえ、当たり前のようにお前も描くところを見に来るだろう?と言われりゃ、行かねぇって選択肢もねぇ。
ただ、銭湯の休みは平日だったのもあり、生憎と神崎は学院での試験日と被ってるってことで、神崎だけは試験が終わり次第の合流となる。
午後からペンキ絵を描き始め、その作業が終了次第、一部の湯船にお湯を張ってくれるから、新しいペンキ絵を見ながら広い湯船で貸し切り状態の一番風呂に入れるとくりゃ、蓮巳じゃなくても楽しみってもんだ。
そして、ペンキ絵を描く当日。
旦那と一緒に昼飯を食ったその足で銭湯に向かい、作業を始めた職人の邪魔になんねぇように、少し離れて後ろの方から様子を眺めていたが、しばらくは揃って無言だった。
赤富士の形が大まかに描かれた段階で、ずっと黙っていた蓮巳が凄い、と小さく呟いたのが聞こえた。
「……下書きとかねぇんだなぁ、これ」
俺の方もつられて、何となく小声で言葉を返す。
俺に絵心はねぇが、それでもこの広い壁に下書きもなしに赤富士や舞う紅葉、鮮やかに咲く蓮の花なんかが次々と描かれていくのが凄ぇってわかる。
曲やユニットのイメージから選んだ、いくつかのモチーフを取り入れて欲しいっていう話は先方に通してあるようだが、そのモチーフは頭ん中だけで組み合わせてあるらしく、下書きは勿論、参考になるような絵や写真なんかも職人の手元にはない。
黙々と職人がペンキ絵を仕上げていく様はただただ圧巻だ。
基本、どんなペンキ絵も銭湯の休みの日を利用して一日で描ききるってんだから、絵を仕上げるスピードも想像していた以上に早い。
このペースなら神崎が来るまでに、ほとんど仕上がっちまうかもしれねぇ。
「ああ。この広さを下書きなしに描けるとは恐れ入る。銭湯自体の数が昔に比べ減少したのもあってか、今や銭湯のペンキ絵を描ける職人は日本全国でも三人しかいないそうだ」
「全国で三人……ってマジかよ」
だったら、目の前で描いているのはその貴重な三人のうちの一人ってことになる。
こりゃ、思っていた以上に珍しいモンを目にしてんだな。
多分、旦那はそれを知ってたから見学したいって言ったんだろう。
今もそう見る機会のない光景に興奮してんのか、目が輝いてるし、俺と話しながらも視線はずっと壁の方から離れずにいる。
仕上がっていくペンキ絵は勿論見応えがあるが、こんな蓮巳も同じくらい見応えがある。
壁に新たにモチーフが描かれるたびに表情に変化が出て、可愛いったらねぇな。
つい口元が緩みそうになったのを慌てて抑えたが、旦那がずっと壁を見ているのは幸いだった。
多分、後で風呂に入ったときはずっとこの絵の話してんだろうなぁと予想しながら、俺も壁へと視線を戻した。
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#紅敬 #ワンライ
かべうちに置いてたとこからの移動分。(加筆修正有)
JINSのポスター撮影を想定したネタによる紅敬。
元ネタを2018年に書いて、2019年の蓮巳敬人WEB誕生日会『Listen to me!』用に電子書籍として纏めた中に『どちらも本心』のタイトルで収録したものです。
完成品ですが、電子書籍に収録済なのでpixivにはUPしません。
(サイトとピクブラには後で置く)※もう少し余裕が出来たらサイトのNovelに移動します。
国内有数の眼鏡メーカーからいくつかのユニットをイメージした眼鏡を発売したい、というオファーがあり、それに伴って各ユニットのリーダーが宣伝用のポスター等に使う写真を撮ることになった。
今回に関してはユニットを問わず、衣装は全て先方が用意してくれるとのことだったが、それを聞いた鬼龍がプロのスタイリストの仕事を見ておきたいから、自分も同席させて欲しいと言ってきた。
今回はステージ衣装とはコンセプトが違う。
鬼龍が見ても、今後生かせる機会があるかわからんだろうと思ったのだが。
「それぞれのユニットイメージやユニットリーダー本人に合わせて、スーツやインナーを選ぶんだろ? 題材がシンプルだからこそ、どんな風になるのかみてぇんだよな」
「なるほど」
紅月の衣装は一部の例外を除けば、鬼龍がほぼ一手に担っている。
衣装だけではなく、小道具やヘアメイクもこいつの手によるものだ。
今はステージ衣装が大半だが、今後メディアの露出が増えるのであれば、確かに今回のような仕事も増えるかもしれん。
そうなったとき、やはり出来るだけ自分で関わりたいというのもあるのだろう。
実際、鬼龍が手掛ける衣装は紅月の大きな武器の一つだ。
そういうことならば、と先方に許可を取って、鬼龍も一緒に撮影現場へ来ることになった。
元々知り合ったときに眼鏡をかけていた守沢はともかく、他の面々の眼鏡姿を見るのは新鮮だったし、それぞれに合わせたスーツは皆似合っていて、制服とはまた違った印象を抱かせたことで、鬼龍が見たいと言った理由が理解できる。
幾人かの撮影が終わって俺の番になり、いざ撮影を開始したものの、数回シャッターを切ったところでカメラマンからストップがかかった。
「ごめん。ちょっとストップ。うーん……蓮巳くん、普段から眼鏡だからかなぁ……どうにもこうしっくりこないというか、決め手に欠けるんだよねぇ。もうちょっと印象が普段と変わるようなのが欲しいんだけど。勿論、紅月や蓮巳くん自身のイメージは保つ感じで」
「普段と変わる、ですか」
そうは言われても、眼鏡は生涯の伴侶と決めているくらい俺の生活になくてはならないものだ。
根本的なイメージはそのままに印象を変えるというのも中々難題のように思える。
どうしたものか――と思案していたら、ずっと黙ってみていた鬼龍が口を挟んできた。
「だったら、逆に眼鏡を外しかけているところを撮るってのはどうっすか。普段から眼鏡してるのって撮影するメンバーだとこいつだけなんで、印象が変わるって意味じゃありだと思うんすけど。完全に外すんじゃなけりゃ、眼鏡もちゃんと一緒に写りますし」
「待て、鬼龍。貴様、俺が眼鏡を外すと全然見えないのを知っているだろう。カメラに目線を合わせられるか分からんぞ」
「俺がカメラの傍にいて声を掛けるから、声掛けた方向を見りゃいい。旦那耳いいから、声なら方向は正確にわかるだろ」
「ああ、なるほど! じゃ、それでちょっとやってみようか。蓮巳くん、眼鏡をちょっと顔から離す感じで……そうだな、モダンが耳に引っ掛かってるかどうかってくらいの離し方を試して貰えるかい」
せっかくの眼鏡の広告だというのに、肝心の眼鏡を外しかけるなどと――とは思ったが、物は試しだ。
「蓮巳。顔の位置はそのままで視線だけこっち寄越せ」
「こう、か?」
鬼龍の声がした方向に視線を向けるとシャッター音が続けざまにスタジオに鳴り響く。
「あー、これだ、これこれ! ちょっとこんな感じで数枚撮らせて貰うね。うん」
カメラマンの声が明るくなったのが伝わる。
どうやら、これで良かったらしい。そのままシャッターが立て続けにきられて、終了の声が上がった。
「はい、いいよ、お疲れさま! ほら、こんな感じになったけどどうかな?」
「これは……」
「いいじゃねぇか。やっぱり」
眼鏡を元通りに掛け、たった今撮ったばかりのデータを見せて貰ったが、自分の目から見ても先ほどに比べて印象がぐっと良くなっていた。
眼鏡も外しかけているとはいえ、存在感が薄くなっているわけではない。
「うん、どうなるかと思ったけど、こういう手があったね。そういえば、紅月って普段は衣装やヘアメイクは鬼龍くんがやっているんだっけ。紅月のメンバーを見せることを普段から考えているからかな。いい案出してくれてありがとう」
「いえ。お役に立てたならよかったっす」
「じゃ、蓮巳くんは休憩入ってくれるかな。えーっと、次は――」
次に撮影する者が呼ばれたところで、俺と鬼龍はスタジオを出た。
ごく自然に俺に着いてきたものだから、つい問いかける。
「ん? 貴様は撮影を見ていなくていいのか?」
「一番見たかった旦那は終わったし、撮影そのものよりゃ、衣装の合わせ方を見たかったからな。全員分の衣装はもうチェック出来たから俺もちょっと一息入れる。自販機で飲み物買って休憩だ」
「そうか。俺もそうしよう。買ったら控室まで戻るか」
スタジオ内は飲食禁止だし、何か飲むなら控室が無難だ。
控室は何人かで利用していたが、まだ誰も戻ってきてはいなかった。他の場所で休憩していたり、撮影中だったりなのだろう。
控室の椅子にそれぞれ座って、自販機で購入したばかりのお茶を飲んでいると、鬼龍が何かノートに書き付けていた。
「……今回の衣装についてのメモか」
「ああ。それと眼鏡のな。やっぱりプロの仕事だな。全体通して見ても誰かが飛び抜けて目立つわけでもねぇが、ちゃんとそれぞれの個性も引き立てている」
「なるほど、言われてみれば。今後の参考になったようで何よりだ」
鬼龍は紅月の衣装だけではなく、流星隊を始め他ユニットの衣装も作成することもあるし、その点を踏まえても良い経験だったのだろう。
ふと、鬼龍が俺の顔を――正確には目元あたりをじっと見つめている視線を感じた。
「? 何だ?」
「…………ま、個人的な感情としちゃ、蓮巳の旦那が眼鏡外したところは極力人に見せたくなかったけどな。仕事とありゃそうも言ってられねぇ」
「……何だ、妬いているのか」
先ほどの撮影で眼鏡を外すことを提案したのは当の鬼龍だというのに。
「てめぇが眼鏡外すところなんざ、俺だってそんなに見る機会ねぇからな。でも、旦那は眼鏡外すと整った顔してんのがより分かりやすいから、こういう機会に見せびらかしてぇって気もあるんだよ」
「…………度し難い」
つい口元が緩んでしまうのを自覚する。
恋人としては妬くが、同じユニットの仲間としてはせっかくの機会を逃せないということか。
俺が鬼龍の衣装作りの腕前を誇らしく思うのと同時に、それが紅月だけでなく、他ユニットの衣装にも生かされることを、ほんの少しだけ面白くなく思うことと似ているのかも知れない。
他ユニットの衣装も手懸けることで鬼龍の評判、引いては紅月の評判もあがることがわかっていてもだ。
いくら恋仲であっても、アイドルとしての立場上、私情を優先させるなど有り得ない。
有り得ないが。
「撮影終了後、時間があるようならうちの蔵に寄れ。眼鏡を外したところを好きなだけ見せてやろう」
他者に見られることのない場所であれば話は別だ。
自室ではなく、防音を施してある蔵を口にした意味はこいつなら分かるだろう。
対外的に、いや、正確には家族に対して、紅月の誰かと蔵にいる時は、まだ公表出来ないユニットの活動についての話や練習をするときだから絶対に近寄らないよう告げてある。
だから、何をしようと他の誰にもわからない。
そう、何をしようともだ。
鬼龍が目を見開いたのは一瞬で、直ぐに笑みを浮かべた。
「なら、寄らせて貰うぜ。好きなだけっつったのはてめぇだってことを忘れんなよ」
「二言はない」
鬼龍の分の夕食も用意して貰うよう、母にメッセージを打ちながらそう返すと、旦那にゃ敵わねぇなという呟きが聞こえた。
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#紅敬
JINSのポスター撮影を想定したネタによる紅敬。
元ネタを2018年に書いて、2019年の蓮巳敬人WEB誕生日会『Listen to me!』用に電子書籍として纏めた中に『どちらも本心』のタイトルで収録したものです。
完成品ですが、電子書籍に収録済なのでpixivにはUPしません。
(サイトとピクブラには後で置く)※もう少し余裕が出来たらサイトのNovelに移動します。
国内有数の眼鏡メーカーからいくつかのユニットをイメージした眼鏡を発売したい、というオファーがあり、それに伴って各ユニットのリーダーが宣伝用のポスター等に使う写真を撮ることになった。
今回に関してはユニットを問わず、衣装は全て先方が用意してくれるとのことだったが、それを聞いた鬼龍がプロのスタイリストの仕事を見ておきたいから、自分も同席させて欲しいと言ってきた。
今回はステージ衣装とはコンセプトが違う。
鬼龍が見ても、今後生かせる機会があるかわからんだろうと思ったのだが。
「それぞれのユニットイメージやユニットリーダー本人に合わせて、スーツやインナーを選ぶんだろ? 題材がシンプルだからこそ、どんな風になるのかみてぇんだよな」
「なるほど」
紅月の衣装は一部の例外を除けば、鬼龍がほぼ一手に担っている。
衣装だけではなく、小道具やヘアメイクもこいつの手によるものだ。
今はステージ衣装が大半だが、今後メディアの露出が増えるのであれば、確かに今回のような仕事も増えるかもしれん。
そうなったとき、やはり出来るだけ自分で関わりたいというのもあるのだろう。
実際、鬼龍が手掛ける衣装は紅月の大きな武器の一つだ。
そういうことならば、と先方に許可を取って、鬼龍も一緒に撮影現場へ来ることになった。
元々知り合ったときに眼鏡をかけていた守沢はともかく、他の面々の眼鏡姿を見るのは新鮮だったし、それぞれに合わせたスーツは皆似合っていて、制服とはまた違った印象を抱かせたことで、鬼龍が見たいと言った理由が理解できる。
幾人かの撮影が終わって俺の番になり、いざ撮影を開始したものの、数回シャッターを切ったところでカメラマンからストップがかかった。
「ごめん。ちょっとストップ。うーん……蓮巳くん、普段から眼鏡だからかなぁ……どうにもこうしっくりこないというか、決め手に欠けるんだよねぇ。もうちょっと印象が普段と変わるようなのが欲しいんだけど。勿論、紅月や蓮巳くん自身のイメージは保つ感じで」
「普段と変わる、ですか」
そうは言われても、眼鏡は生涯の伴侶と決めているくらい俺の生活になくてはならないものだ。
根本的なイメージはそのままに印象を変えるというのも中々難題のように思える。
どうしたものか――と思案していたら、ずっと黙ってみていた鬼龍が口を挟んできた。
「だったら、逆に眼鏡を外しかけているところを撮るってのはどうっすか。普段から眼鏡してるのって撮影するメンバーだとこいつだけなんで、印象が変わるって意味じゃありだと思うんすけど。完全に外すんじゃなけりゃ、眼鏡もちゃんと一緒に写りますし」
「待て、鬼龍。貴様、俺が眼鏡を外すと全然見えないのを知っているだろう。カメラに目線を合わせられるか分からんぞ」
「俺がカメラの傍にいて声を掛けるから、声掛けた方向を見りゃいい。旦那耳いいから、声なら方向は正確にわかるだろ」
「ああ、なるほど! じゃ、それでちょっとやってみようか。蓮巳くん、眼鏡をちょっと顔から離す感じで……そうだな、モダンが耳に引っ掛かってるかどうかってくらいの離し方を試して貰えるかい」
せっかくの眼鏡の広告だというのに、肝心の眼鏡を外しかけるなどと――とは思ったが、物は試しだ。
「蓮巳。顔の位置はそのままで視線だけこっち寄越せ」
「こう、か?」
鬼龍の声がした方向に視線を向けるとシャッター音が続けざまにスタジオに鳴り響く。
「あー、これだ、これこれ! ちょっとこんな感じで数枚撮らせて貰うね。うん」
カメラマンの声が明るくなったのが伝わる。
どうやら、これで良かったらしい。そのままシャッターが立て続けにきられて、終了の声が上がった。
「はい、いいよ、お疲れさま! ほら、こんな感じになったけどどうかな?」
「これは……」
「いいじゃねぇか。やっぱり」
眼鏡を元通りに掛け、たった今撮ったばかりのデータを見せて貰ったが、自分の目から見ても先ほどに比べて印象がぐっと良くなっていた。
眼鏡も外しかけているとはいえ、存在感が薄くなっているわけではない。
「うん、どうなるかと思ったけど、こういう手があったね。そういえば、紅月って普段は衣装やヘアメイクは鬼龍くんがやっているんだっけ。紅月のメンバーを見せることを普段から考えているからかな。いい案出してくれてありがとう」
「いえ。お役に立てたならよかったっす」
「じゃ、蓮巳くんは休憩入ってくれるかな。えーっと、次は――」
次に撮影する者が呼ばれたところで、俺と鬼龍はスタジオを出た。
ごく自然に俺に着いてきたものだから、つい問いかける。
「ん? 貴様は撮影を見ていなくていいのか?」
「一番見たかった旦那は終わったし、撮影そのものよりゃ、衣装の合わせ方を見たかったからな。全員分の衣装はもうチェック出来たから俺もちょっと一息入れる。自販機で飲み物買って休憩だ」
「そうか。俺もそうしよう。買ったら控室まで戻るか」
スタジオ内は飲食禁止だし、何か飲むなら控室が無難だ。
控室は何人かで利用していたが、まだ誰も戻ってきてはいなかった。他の場所で休憩していたり、撮影中だったりなのだろう。
控室の椅子にそれぞれ座って、自販機で購入したばかりのお茶を飲んでいると、鬼龍が何かノートに書き付けていた。
「……今回の衣装についてのメモか」
「ああ。それと眼鏡のな。やっぱりプロの仕事だな。全体通して見ても誰かが飛び抜けて目立つわけでもねぇが、ちゃんとそれぞれの個性も引き立てている」
「なるほど、言われてみれば。今後の参考になったようで何よりだ」
鬼龍は紅月の衣装だけではなく、流星隊を始め他ユニットの衣装も作成することもあるし、その点を踏まえても良い経験だったのだろう。
ふと、鬼龍が俺の顔を――正確には目元あたりをじっと見つめている視線を感じた。
「? 何だ?」
「…………ま、個人的な感情としちゃ、蓮巳の旦那が眼鏡外したところは極力人に見せたくなかったけどな。仕事とありゃそうも言ってられねぇ」
「……何だ、妬いているのか」
先ほどの撮影で眼鏡を外すことを提案したのは当の鬼龍だというのに。
「てめぇが眼鏡外すところなんざ、俺だってそんなに見る機会ねぇからな。でも、旦那は眼鏡外すと整った顔してんのがより分かりやすいから、こういう機会に見せびらかしてぇって気もあるんだよ」
「…………度し難い」
つい口元が緩んでしまうのを自覚する。
恋人としては妬くが、同じユニットの仲間としてはせっかくの機会を逃せないということか。
俺が鬼龍の衣装作りの腕前を誇らしく思うのと同時に、それが紅月だけでなく、他ユニットの衣装にも生かされることを、ほんの少しだけ面白くなく思うことと似ているのかも知れない。
他ユニットの衣装も手懸けることで鬼龍の評判、引いては紅月の評判もあがることがわかっていてもだ。
いくら恋仲であっても、アイドルとしての立場上、私情を優先させるなど有り得ない。
有り得ないが。
「撮影終了後、時間があるようならうちの蔵に寄れ。眼鏡を外したところを好きなだけ見せてやろう」
他者に見られることのない場所であれば話は別だ。
自室ではなく、防音を施してある蔵を口にした意味はこいつなら分かるだろう。
対外的に、いや、正確には家族に対して、紅月の誰かと蔵にいる時は、まだ公表出来ないユニットの活動についての話や練習をするときだから絶対に近寄らないよう告げてある。
だから、何をしようと他の誰にもわからない。
そう、何をしようともだ。
鬼龍が目を見開いたのは一瞬で、直ぐに笑みを浮かべた。
「なら、寄らせて貰うぜ。好きなだけっつったのはてめぇだってことを忘れんなよ」
「二言はない」
鬼龍の分の夕食も用意して貰うよう、母にメッセージを打ちながらそう返すと、旦那にゃ敵わねぇなという呟きが聞こえた。
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#紅敬
FROM ANOTHER WORLDの蓮巳視点(一部)
紅敬本『FROM ANOTHER WORLD』で載せられなかった蓮巳視点から。
やっぱり両方の視点揃えた上で、紅♀敬♀の百合カップル側もいちゃいちゃさせたのを加えて改めたい……。
手が滑って、落としそうになったファイルを反射的に掴もうとした際にバランスを崩し、足が梯子から外れた。
「……っと、しまっ……」
「蓮巳!」
後ろに倒れ込んだのと、鬼龍が俺を呼んだ声が聞こえたのは同時だ。
床に身体が叩きつけられる前に背後から鬼龍の腕が伸びたのが分かったが、その直後、結局二人一緒に床に転がった。
なぜか、背中に弾力のあるクッションのような感触があったのもあり、怪我らしい怪我はせずに済んだようだ。
だが――この違和感は何だろう。
危機一髪を逃れたからなのか、それとも――。
「……ったく、あっぶねぇな。怪我したらどうすんだよ。普段、アイドルとしての自覚を持って行動しろって言ってるくせ、に……」
妙に鬼龍の声が高いように思えたのは気のせいか?
落ちた衝撃で一時的に耳でもおかしくなったか?
だが、それはさておき、怪我をせずに済んだのは鬼龍のおかげだ。
まずは礼をと振り向いて。
「ああ、すま……」
言葉が続けられなくなる。
鬼龍の顔には違いないはずだが、髪がかなり伸びており、いわゆるポニーテールという髪型になっていた。
それだけではない。胸には男ではありえない膨らみ、さらにいうならかなりのボリュームのものがある。
一体どういうことだ、これは。
落ちた時に気絶でもして夢でも見ているのかと思ったが、それにしては質感にリアリティがあり過ぎる。
驚きで頭が回らないが、驚いているのは鬼龍もらしい。
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#紅敬 #女体化
紅敬本『FROM ANOTHER WORLD』で載せられなかった蓮巳視点から。
やっぱり両方の視点揃えた上で、紅♀敬♀の百合カップル側もいちゃいちゃさせたのを加えて改めたい……。
手が滑って、落としそうになったファイルを反射的に掴もうとした際にバランスを崩し、足が梯子から外れた。
「……っと、しまっ……」
「蓮巳!」
後ろに倒れ込んだのと、鬼龍が俺を呼んだ声が聞こえたのは同時だ。
床に身体が叩きつけられる前に背後から鬼龍の腕が伸びたのが分かったが、その直後、結局二人一緒に床に転がった。
なぜか、背中に弾力のあるクッションのような感触があったのもあり、怪我らしい怪我はせずに済んだようだ。
だが――この違和感は何だろう。
危機一髪を逃れたからなのか、それとも――。
「……ったく、あっぶねぇな。怪我したらどうすんだよ。普段、アイドルとしての自覚を持って行動しろって言ってるくせ、に……」
妙に鬼龍の声が高いように思えたのは気のせいか?
落ちた衝撃で一時的に耳でもおかしくなったか?
だが、それはさておき、怪我をせずに済んだのは鬼龍のおかげだ。
まずは礼をと振り向いて。
「ああ、すま……」
言葉が続けられなくなる。
鬼龍の顔には違いないはずだが、髪がかなり伸びており、いわゆるポニーテールという髪型になっていた。
それだけではない。胸には男ではありえない膨らみ、さらにいうならかなりのボリュームのものがある。
一体どういうことだ、これは。
落ちた時に気絶でもして夢でも見ているのかと思ったが、それにしては質感にリアリティがあり過ぎる。
驚きで頭が回らないが、驚いているのは鬼龍もらしい。
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#紅敬 #女体化
新婚夫婦な紅敬♀(女体化)
確かTwitterで妊娠したら指輪を外して~ってツイートを見かけた時に走り書きしたネタだったはず。
※蓮巳♀妊娠直後。
鬼龍くんが身に付けている指輪を通したネックレスの指輪は母親の形見で、紅敬♀夫婦が結婚する際に指輪は妹の方に譲っているという妄想の元に。
「何か帰りに買ってきて欲しいもんはねぇか」
「……ああ、そうだ。昔、おまえがしていたようなチェーンネックレスを一つ頼めるか」
「ん? 構わねぇが……どうした」
「妊娠によって指がむくむこともあるし、もし何らかの事情で帝王切開の必要が出てきた場合に指輪をしたままだと、結婚指輪を切断してからの手術となってしまうんだそうだ。電気メスを使うのに感電の怖れがあるからと。だが、ただ外しておくのも心許ないし、せめて身近に置いておければと」
「あぁ、そういうことか。だったら前に俺の使ってたので良けりゃあるぜ? 妹に譲ったのは指輪だけだからよ」
「ああ、まだ持っていたのか。なら、それがいい」
(久し振りにチェーンの状態を確認)
「あー……チェーンがちっと変色しちまってるな。あとおまえ華奢だから、ごついかも知れねぇ」
「いや、やはりこれがいい。俺たち二人を守ってくれそうだからな」
「そうかよ。じゃあ指輪外してこっちに通すぜ」
Close
#紅敬 #女体化
確かTwitterで妊娠したら指輪を外して~ってツイートを見かけた時に走り書きしたネタだったはず。
※蓮巳♀妊娠直後。
鬼龍くんが身に付けている指輪を通したネックレスの指輪は母親の形見で、紅敬♀夫婦が結婚する際に指輪は妹の方に譲っているという妄想の元に。
「何か帰りに買ってきて欲しいもんはねぇか」
「……ああ、そうだ。昔、おまえがしていたようなチェーンネックレスを一つ頼めるか」
「ん? 構わねぇが……どうした」
「妊娠によって指がむくむこともあるし、もし何らかの事情で帝王切開の必要が出てきた場合に指輪をしたままだと、結婚指輪を切断してからの手術となってしまうんだそうだ。電気メスを使うのに感電の怖れがあるからと。だが、ただ外しておくのも心許ないし、せめて身近に置いておければと」
「あぁ、そういうことか。だったら前に俺の使ってたので良けりゃあるぜ? 妹に譲ったのは指輪だけだからよ」
「ああ、まだ持っていたのか。なら、それがいい」
(久し振りにチェーンの状態を確認)
「あー……チェーンがちっと変色しちまってるな。あとおまえ華奢だから、ごついかも知れねぇ」
「いや、やはりこれがいい。俺たち二人を守ってくれそうだからな」
「そうかよ。じゃあ指輪外してこっちに通すぜ」
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#紅敬 #女体化
紅月のアルバム、初回限定生産盤オーディオコメンタリーからの勝手な紅敬妄想。
見えないところで紅敬がこんなんやりとりしてたら楽しいなと(私が)
もうちょっと長くして話にしたいなと思ったけど、これはこれで纏まってる気がしないでもない。
アルバム発売に伴って、初回限定生産盤にはオーディオコメンタリーも収録したいって話だったから、歌の収録終了後に改めてそれを録ることになった。
各自がファンへの感謝も含みつつ、紅月で一押しの曲について思い入れを語るってテーマで、まずは紅月のリーダーである蓮巳の旦那から話し始めたが、普段から旦那は語り始めると長ぇところがあるから、ちょっと様子を窺っていたが案の定だ。
肝心の一押しの曲を挙げる前に、それまでの曲を懐かしんだり、曲としての味が増すよう育てていけたらなんて話始めちまった。
これはこれで蓮巳らしいコメントだが、生憎とオーディオコメンタリーに使える時間は限られている。後でコメントのバックに流すらしい『薄紅色の約束』に合わせてだから、三人全員でも四分足らず。
俺の声が入んねぇように唇だけで「旦那」と呼んで、巻いてけって意味で指先をくるくる回すと、俺の意図に気付いた旦那が一瞬ハッとしたが、すぐに話を一押しの曲へと戻した。
何だかんだ、最後にゃ予定していた時間に帳尻をきっちりと合わせてきたあたりはさすがだ。
話し終わって、どうだと言わんばかりに得意げな笑みを浮かべた旦那に、俺もちょっとだけ笑ってコメントを引き継いだ。
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#紅敬
見えないところで紅敬がこんなんやりとりしてたら楽しいなと(私が)
もうちょっと長くして話にしたいなと思ったけど、これはこれで纏まってる気がしないでもない。
アルバム発売に伴って、初回限定生産盤にはオーディオコメンタリーも収録したいって話だったから、歌の収録終了後に改めてそれを録ることになった。
各自がファンへの感謝も含みつつ、紅月で一押しの曲について思い入れを語るってテーマで、まずは紅月のリーダーである蓮巳の旦那から話し始めたが、普段から旦那は語り始めると長ぇところがあるから、ちょっと様子を窺っていたが案の定だ。
肝心の一押しの曲を挙げる前に、それまでの曲を懐かしんだり、曲としての味が増すよう育てていけたらなんて話始めちまった。
これはこれで蓮巳らしいコメントだが、生憎とオーディオコメンタリーに使える時間は限られている。後でコメントのバックに流すらしい『薄紅色の約束』に合わせてだから、三人全員でも四分足らず。
俺の声が入んねぇように唇だけで「旦那」と呼んで、巻いてけって意味で指先をくるくる回すと、俺の意図に気付いた旦那が一瞬ハッとしたが、すぐに話を一押しの曲へと戻した。
何だかんだ、最後にゃ予定していた時間に帳尻をきっちりと合わせてきたあたりはさすがだ。
話し終わって、どうだと言わんばかりに得意げな笑みを浮かべた旦那に、俺もちょっとだけ笑ってコメントを引き継いだ。
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#紅敬
ご当地グルメ紅敬(スパカツ)
ご当地グルメ紅敬企画に出し損ねたものだけど、企画元的にも今更出しにくさもあるので、どうしたものか。
台所から聞こえてくる物音で目が覚めた。
まだベッドから出たくない気分とのし掛かる気怠さをどうにか押しやって、ベッドサイドに寄せてあるチェストに手を伸ばし、置いてあった眼鏡を取って掛け、そのまま直ぐ横に置いてあったスマホで時間を確認すると、時間は午前十一時を回ったところ。
想定以上に遅い時間だった現実を受け止めるのにしばし掛かったが、時間を再確認し慌てて身体を起こす。
いくら、久々の休みとはいえど、まさかこんな時間まで自分が眠ってしまっていたとは思わなかった。
ただ、寝坊の理由として心当たりは十分過ぎるほどにある。
紅月は先月末まで、全国をライブツアーで回っていた。
それに伴う後処理やら、ライブ映像等の確認やらでようやく落ち着いたのが昨日。
忙しさが一番の原因だったが、ツアー、そして後処理が一段落するまでは、と性的な接触は控えめにしていたのだが、今日、明日が完全にオフということで昨晩は箍が外れたようにお互いに貪りあった。
意識が沈む前にカーテンの隙間から朝日が覗いていたぐらいだから、眠りについたのは確かに遅かった。
寝坊はそのせいだ。正当化するわけではないが、久し振りの休日なのだしこういうこともあるだろう。
台所の物音は鬼龍が朝食、いやもう時間的に昼食というべきだろうか。
その用意をしているのだろう。
俺も簡単に身支度を調え、台所に向かったところ、直ぐに俺に気付いた鬼龍が声を掛けてきた。
「おう、おはようさん、旦那。身体大丈夫か?」
「ああ、おはよう。大丈夫だ。ん? これから作るところということは、おまえも起きてからそんなに経ってないのか」
鬼龍は冷蔵庫からいくつか食材をとりだしているところで、まだ調理そのものは手付かずだった。
それなら、俺も一緒に作れる。
「俺も起きたのはついさっきだ。ちょうどいい。起きて来たなら、旦那も作るの手伝ってくれ」
「無論そのつもりだ。ん? 随分と色々出しているな。一体何を作るつもりだ?」
食材もだが、調理器具もテーブルに色々と並べられている。
パスタとそれ用の鍋はともかく、揚げ物の準備もしているあたり、俺が知っているレシピからのものではなさそうだ。
「ツアーで北海道行ったときに食ったスパカツ作ってみようと思ってよ。昨日、散々動いた分の回復にも良さそうだし」
「あれか。かえって胃がもたれそうだが……ああ、でも自分たちで作るなら量も調整出来るか」
今回のツアーは紅月にとっては過去最大規模のもので、全部で20近くの都市を回った。
当然、それまでのツアーで訪れたことのない都市もいくつか含まれる。
北海道は道東の主要都市、釧路もその一つだ。
前日入りして、駅周辺に多いという居酒屋をすすめられたものの、翌日にライブを控えている状態であまり飲む気にもなれず、ならばと地元の老舗洋食店を紹介され、そこで食べたのがスパカツだった。
――すぱかつ? すうぱあなさいずのかつということであろうか?
――いや、スパカツのスパはスーパーじゃなくて、スパゲッティのスパらしい。ボリュームが結構あるという話だ。
――スパゲッティの上にカツが乗っかってるらしいな。で、さらにミートソースがたっぷり掛かってる。でもって、ポイントは鉄板の上にそれらが乗ってるってとこにあるみたいだぜ。
(中略)
「料理の構成としちゃオーソドックスなもんの組み合わせだったから、それっぽいのを作りやすいんじゃねぇかってな。ただ、問題がある。皿がなぁ……」
「うん? 鉄板を使ったステーキ皿なら一応あるだろう?」
「ああ、それは分かってる。ただ、コンロが足りねぇんだよ。カツを揚げる、ソースを作る、パスタを茹でる、まではともかく、鉄板を温めるまでは足りねぇんだよな」
「あ」
このマンションのコンロは三口だ。
普段ならそれで十分な数だが、確かに全て出来たてでやろうと思うと足りなくなる。
構成はシンプルだが、なるほど。手間は予想以上に掛かりそうだ。
鬼龍が作りたくなったのも休みの日だからというのもあるだろう。
「ならば、大雑把になってしまうがステーキ皿代わりにホットプレートを使うのはどうだ? パスタが茹で上がる少し前から電源を入れておいて温め、出来たものを投入していけば熱々の状態で楽しめるんじゃないか」
「なるほどな。二人で食うんだしそんでもいいか。蓮巳、パスタとミートソース作り任せていいか?」
「ああ。揚げ物は集中した方が無難だろう。ミートソースはいつものレシピでいいのか?」
うちで使っているミートソースは鬼龍が元々実家にいた頃に使っていたレシピをそのまま流用していた。
料理本に載っていたレシピで、作る時は何度か使えるように大量に作っている。
ツアーで家を空けがちだったのもあって、今はミートソースのストックもない。
「んー、いつものウスターソースをとんかつソースに変更してみてくれねぇか? あと、おろし生姜とデミグラスソースもちょっと足す。多分その方が近い味になりそうだ」
「ということは、味見してデミグラスの量を調整する感じか」
「おう、それで頼む」
パスタを茹でるための湯を深鍋で沸かしながら、ミートソースの準備も始める。
鬼龍の家のレシピだったが、俺も何度か作ったことはあるから、もう作り方は頭の中に入っている。
問題は味の調整だ。
(以下略。いつか完成させたいとは思っている)
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#紅敬
ご当地グルメ紅敬企画に出し損ねたものだけど、企画元的にも今更出しにくさもあるので、どうしたものか。
台所から聞こえてくる物音で目が覚めた。
まだベッドから出たくない気分とのし掛かる気怠さをどうにか押しやって、ベッドサイドに寄せてあるチェストに手を伸ばし、置いてあった眼鏡を取って掛け、そのまま直ぐ横に置いてあったスマホで時間を確認すると、時間は午前十一時を回ったところ。
想定以上に遅い時間だった現実を受け止めるのにしばし掛かったが、時間を再確認し慌てて身体を起こす。
いくら、久々の休みとはいえど、まさかこんな時間まで自分が眠ってしまっていたとは思わなかった。
ただ、寝坊の理由として心当たりは十分過ぎるほどにある。
紅月は先月末まで、全国をライブツアーで回っていた。
それに伴う後処理やら、ライブ映像等の確認やらでようやく落ち着いたのが昨日。
忙しさが一番の原因だったが、ツアー、そして後処理が一段落するまでは、と性的な接触は控えめにしていたのだが、今日、明日が完全にオフということで昨晩は箍が外れたようにお互いに貪りあった。
意識が沈む前にカーテンの隙間から朝日が覗いていたぐらいだから、眠りについたのは確かに遅かった。
寝坊はそのせいだ。正当化するわけではないが、久し振りの休日なのだしこういうこともあるだろう。
台所の物音は鬼龍が朝食、いやもう時間的に昼食というべきだろうか。
その用意をしているのだろう。
俺も簡単に身支度を調え、台所に向かったところ、直ぐに俺に気付いた鬼龍が声を掛けてきた。
「おう、おはようさん、旦那。身体大丈夫か?」
「ああ、おはよう。大丈夫だ。ん? これから作るところということは、おまえも起きてからそんなに経ってないのか」
鬼龍は冷蔵庫からいくつか食材をとりだしているところで、まだ調理そのものは手付かずだった。
それなら、俺も一緒に作れる。
「俺も起きたのはついさっきだ。ちょうどいい。起きて来たなら、旦那も作るの手伝ってくれ」
「無論そのつもりだ。ん? 随分と色々出しているな。一体何を作るつもりだ?」
食材もだが、調理器具もテーブルに色々と並べられている。
パスタとそれ用の鍋はともかく、揚げ物の準備もしているあたり、俺が知っているレシピからのものではなさそうだ。
「ツアーで北海道行ったときに食ったスパカツ作ってみようと思ってよ。昨日、散々動いた分の回復にも良さそうだし」
「あれか。かえって胃がもたれそうだが……ああ、でも自分たちで作るなら量も調整出来るか」
今回のツアーは紅月にとっては過去最大規模のもので、全部で20近くの都市を回った。
当然、それまでのツアーで訪れたことのない都市もいくつか含まれる。
北海道は道東の主要都市、釧路もその一つだ。
前日入りして、駅周辺に多いという居酒屋をすすめられたものの、翌日にライブを控えている状態であまり飲む気にもなれず、ならばと地元の老舗洋食店を紹介され、そこで食べたのがスパカツだった。
――すぱかつ? すうぱあなさいずのかつということであろうか?
――いや、スパカツのスパはスーパーじゃなくて、スパゲッティのスパらしい。ボリュームが結構あるという話だ。
――スパゲッティの上にカツが乗っかってるらしいな。で、さらにミートソースがたっぷり掛かってる。でもって、ポイントは鉄板の上にそれらが乗ってるってとこにあるみたいだぜ。
(中略)
「料理の構成としちゃオーソドックスなもんの組み合わせだったから、それっぽいのを作りやすいんじゃねぇかってな。ただ、問題がある。皿がなぁ……」
「うん? 鉄板を使ったステーキ皿なら一応あるだろう?」
「ああ、それは分かってる。ただ、コンロが足りねぇんだよ。カツを揚げる、ソースを作る、パスタを茹でる、まではともかく、鉄板を温めるまでは足りねぇんだよな」
「あ」
このマンションのコンロは三口だ。
普段ならそれで十分な数だが、確かに全て出来たてでやろうと思うと足りなくなる。
構成はシンプルだが、なるほど。手間は予想以上に掛かりそうだ。
鬼龍が作りたくなったのも休みの日だからというのもあるだろう。
「ならば、大雑把になってしまうがステーキ皿代わりにホットプレートを使うのはどうだ? パスタが茹で上がる少し前から電源を入れておいて温め、出来たものを投入していけば熱々の状態で楽しめるんじゃないか」
「なるほどな。二人で食うんだしそんでもいいか。蓮巳、パスタとミートソース作り任せていいか?」
「ああ。揚げ物は集中した方が無難だろう。ミートソースはいつものレシピでいいのか?」
うちで使っているミートソースは鬼龍が元々実家にいた頃に使っていたレシピをそのまま流用していた。
料理本に載っていたレシピで、作る時は何度か使えるように大量に作っている。
ツアーで家を空けがちだったのもあって、今はミートソースのストックもない。
「んー、いつものウスターソースをとんかつソースに変更してみてくれねぇか? あと、おろし生姜とデミグラスソースもちょっと足す。多分その方が近い味になりそうだ」
「ということは、味見してデミグラスの量を調整する感じか」
「おう、それで頼む」
パスタを茹でるための湯を深鍋で沸かしながら、ミートソースの準備も始める。
鬼龍の家のレシピだったが、俺も何度か作ったことはあるから、もう作り方は頭の中に入っている。
問題は味の調整だ。
(以下略。いつか完成させたいとは思っている)
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#紅敬