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おむおこ2での展示作品。
とあるオフの日の朝の一幕。朝チュンブラキス。
<Keith's Side>
けたたましく鳴り響いたアラートの音に続いて、イクリプスが現れたことを告げるジャックの声が聞こえ、ぼんやりしてた意識が一気に覚醒した。
……出現数が多くはなさそうだが、ここからまぁまぁ近ぇ場所だな。
本来、今日はオフだったとはいえ、緊急事態となりゃそんなの関係ねぇのもヒーローだ。
しゃあねぇな、一仕事してから寝直すかと身体をベッドから起こしかけたところで、先に身体を起こしていたブラッドに制止された。
「あ?」
「お前はそのまま寝てろ」
「は? どういうことだよ」
「…………ジャックの報告通りなら、俺一人で十分だ。直ぐに片をつけてくる」
オレから視線を逸らすようにベッドから出ようとしたブラッドの腕を掴む。
「……お前、オレがそんなヤワだと思ってんのかよ」
昨夜オレが単純に飲み明かしての二日酔いとかなら、ブラッドは絶対にこんなこと言わねぇ。
自業自得だ、ヒーローとしての自覚はあるのか貴様、ぐらいの小言を浴びせて、無理矢理にでも現場に引きずっていくとこだろう。
今日に限って、そんならしくねぇことを言うのは。
「思ってはいない。が、昨夜は無茶をさせたという自覚はある」
――お互いのオフが久々に重なって、セックスも久々で、随分盛り上がっちまったからだ。
下手に双方体力がそれなりにあるもんだから、スイッチが入ると中々歯止めがきかなくなるんだよな。
何回イッたか忘れたが、さすがに限界と寝たのは空が白み始めた頃だった。
「『させた』ねぇ……お互い様だろうがよ、あんなん」
本当に無理だと思ったら、こっちだってそもそも応じねぇし、そうなったら無理を通すなんてことは絶対にやらねぇヤツだ。
そりゃ、身体の負担はどうしたって受け入れるこっちの方がデカくなるとはいえ、オレだってそれなりに煽った結果だってのに。
どうも、ブラッドは自分に負い目があると一人で抱えようとする癖があるんだよな。
ディノの時だってそうだった。
ずっとオレには黙って、一人で抱えて、真相を確かめるために動いて。
普段はあんなに暴君だってのに、どうもその辺りは本人の自覚も薄いような気がする。
……不器用にも程があるだろ。
掴んだ腕を支えにオレも身体を起こして、ブラッドの背中をぽんと叩いた。
昨晩ブラッドの背中に散々つけちまった爪痕やら指の痕は大分薄くなっている。オレの身体についてるキスマークなんかも多分そうだろう。
サブスタンスの効力で回復が常人より早いのはこういう時助かる。
まだ寝足りねぇとは思うが、それでも体力もある程度は回復してるから、イクリプス数体相手にするぐらいじゃ、ちょっとした運動ってとこだ。
「一人より二人で片付けた方が効率もいいだろ? とっとと終わらせて寝直そうぜ」
「――そうか。そうだな」
ブラッドの目元が微かに綻んだのを確認しつつ、着替え始めた。
せっかくのオフの邪魔をしてくれたヤツには思い知らせてやらねぇとな。
なぁ、ブラッド。
<Brad's Side>
目が覚め、枕元に置いていたスマートフォンで時間を確認しようとした瞬間に鳴り響いたのは、イクリプスの出現を知らせるアラート。
ついで、3Dホログラムで映し出されたジャックがイクリプスの出現した位置とおよその数を知らせてくる。
多くはないが、現場は昨夜泊まったこのキースの家からは比較的近い。
少なくともタワーに住んでいるヒーロー達よりは早く現場に到着し、対応することが出来るだろう。
直ぐに出動しなければ。
キースも今のアラートで目を覚ましたらしく、起きようとしていたが、反射的にそれを押しとどめた。
「あ?」
「お前はそのまま寝てろ」
「は? どういうことだよ」
「…………ジャックの報告通りなら、俺一人で十分だ。直ぐに片をつけてくる」
昨夜は久し振りのセックスだったせいもあって、箍が外れた。
交わる熱の心地良さに浮かれていたと言っても良い。
引き際を見極められず、眠りについたのは結局早朝だ。
受け入れる側のキースには結構な負担がかかったはずで、もう少し休ませてやりたい。
だが、ベッドから出ようとしたところで、キースが俺の腕を掴んで引き止めた。
「……お前、オレがそんなヤワだと思ってんのかよ」
「思ってはいない。が、昨夜は無茶をさせたという自覚はある」
「『させた』ねぇ……お互い様だろうがよ、あんなん」
「………………」
セックスは一人では成り立たない。
当然、合意の上での行為とはいえ、身体への負担にはどうしたって差がある。
キースの方は本来セックスに使う器官ではない場所を慣らして、身体を重ねているのだから。
…………これでキースが飲み過ぎて酔い潰れた等であれば、キースもこれ幸いにとオレは休んどくわとでも言うだろうし、そんな貴様の都合など知らんと突っぱねて本来のヒーローとしての仕事をさせるだけだが――。
どう返したものかと思案していると、キースが微かに苦笑いを浮かべて身体を起こし、俺の背を軽く叩く。
気にするなとでも言うかのように。
「一人より二人で片付けた方が効率もいいだろ? とっとと終わらせて寝直そうぜ」
「――そうか。そうだな」
言外に一人でやろうとするんじゃねぇよと含められた気がして、引き下がることにした。
キースの言うように二人で対応した方が実際早く片付く。
休ませてやるのはその後でいい。
出来るだけ早く片付けて、残り少ないオフを満喫することとしよう。
Close
#ブラキス
とあるオフの日の朝の一幕。朝チュンブラキス。
<Keith's Side>
けたたましく鳴り響いたアラートの音に続いて、イクリプスが現れたことを告げるジャックの声が聞こえ、ぼんやりしてた意識が一気に覚醒した。
……出現数が多くはなさそうだが、ここからまぁまぁ近ぇ場所だな。
本来、今日はオフだったとはいえ、緊急事態となりゃそんなの関係ねぇのもヒーローだ。
しゃあねぇな、一仕事してから寝直すかと身体をベッドから起こしかけたところで、先に身体を起こしていたブラッドに制止された。
「あ?」
「お前はそのまま寝てろ」
「は? どういうことだよ」
「…………ジャックの報告通りなら、俺一人で十分だ。直ぐに片をつけてくる」
オレから視線を逸らすようにベッドから出ようとしたブラッドの腕を掴む。
「……お前、オレがそんなヤワだと思ってんのかよ」
昨夜オレが単純に飲み明かしての二日酔いとかなら、ブラッドは絶対にこんなこと言わねぇ。
自業自得だ、ヒーローとしての自覚はあるのか貴様、ぐらいの小言を浴びせて、無理矢理にでも現場に引きずっていくとこだろう。
今日に限って、そんならしくねぇことを言うのは。
「思ってはいない。が、昨夜は無茶をさせたという自覚はある」
――お互いのオフが久々に重なって、セックスも久々で、随分盛り上がっちまったからだ。
下手に双方体力がそれなりにあるもんだから、スイッチが入ると中々歯止めがきかなくなるんだよな。
何回イッたか忘れたが、さすがに限界と寝たのは空が白み始めた頃だった。
「『させた』ねぇ……お互い様だろうがよ、あんなん」
本当に無理だと思ったら、こっちだってそもそも応じねぇし、そうなったら無理を通すなんてことは絶対にやらねぇヤツだ。
そりゃ、身体の負担はどうしたって受け入れるこっちの方がデカくなるとはいえ、オレだってそれなりに煽った結果だってのに。
どうも、ブラッドは自分に負い目があると一人で抱えようとする癖があるんだよな。
ディノの時だってそうだった。
ずっとオレには黙って、一人で抱えて、真相を確かめるために動いて。
普段はあんなに暴君だってのに、どうもその辺りは本人の自覚も薄いような気がする。
……不器用にも程があるだろ。
掴んだ腕を支えにオレも身体を起こして、ブラッドの背中をぽんと叩いた。
昨晩ブラッドの背中に散々つけちまった爪痕やら指の痕は大分薄くなっている。オレの身体についてるキスマークなんかも多分そうだろう。
サブスタンスの効力で回復が常人より早いのはこういう時助かる。
まだ寝足りねぇとは思うが、それでも体力もある程度は回復してるから、イクリプス数体相手にするぐらいじゃ、ちょっとした運動ってとこだ。
「一人より二人で片付けた方が効率もいいだろ? とっとと終わらせて寝直そうぜ」
「――そうか。そうだな」
ブラッドの目元が微かに綻んだのを確認しつつ、着替え始めた。
せっかくのオフの邪魔をしてくれたヤツには思い知らせてやらねぇとな。
なぁ、ブラッド。
<Brad's Side>
目が覚め、枕元に置いていたスマートフォンで時間を確認しようとした瞬間に鳴り響いたのは、イクリプスの出現を知らせるアラート。
ついで、3Dホログラムで映し出されたジャックがイクリプスの出現した位置とおよその数を知らせてくる。
多くはないが、現場は昨夜泊まったこのキースの家からは比較的近い。
少なくともタワーに住んでいるヒーロー達よりは早く現場に到着し、対応することが出来るだろう。
直ぐに出動しなければ。
キースも今のアラートで目を覚ましたらしく、起きようとしていたが、反射的にそれを押しとどめた。
「あ?」
「お前はそのまま寝てろ」
「は? どういうことだよ」
「…………ジャックの報告通りなら、俺一人で十分だ。直ぐに片をつけてくる」
昨夜は久し振りのセックスだったせいもあって、箍が外れた。
交わる熱の心地良さに浮かれていたと言っても良い。
引き際を見極められず、眠りについたのは結局早朝だ。
受け入れる側のキースには結構な負担がかかったはずで、もう少し休ませてやりたい。
だが、ベッドから出ようとしたところで、キースが俺の腕を掴んで引き止めた。
「……お前、オレがそんなヤワだと思ってんのかよ」
「思ってはいない。が、昨夜は無茶をさせたという自覚はある」
「『させた』ねぇ……お互い様だろうがよ、あんなん」
「………………」
セックスは一人では成り立たない。
当然、合意の上での行為とはいえ、身体への負担にはどうしたって差がある。
キースの方は本来セックスに使う器官ではない場所を慣らして、身体を重ねているのだから。
…………これでキースが飲み過ぎて酔い潰れた等であれば、キースもこれ幸いにとオレは休んどくわとでも言うだろうし、そんな貴様の都合など知らんと突っぱねて本来のヒーローとしての仕事をさせるだけだが――。
どう返したものかと思案していると、キースが微かに苦笑いを浮かべて身体を起こし、俺の背を軽く叩く。
気にするなとでも言うかのように。
「一人より二人で片付けた方が効率もいいだろ? とっとと終わらせて寝直そうぜ」
「――そうか。そうだな」
言外に一人でやろうとするんじゃねぇよと含められた気がして、引き下がることにした。
キースの言うように二人で対応した方が実際早く片付く。
休ませてやるのはその後でいい。
出来るだけ早く片付けて、残り少ないオフを満喫することとしよう。
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#ブラキス
ブラキス版ワンドロ&ワンライ第12回(最終回)でのお題から『指切り』+第11回のお題の『キス』を使って書いた話です。
ロスト・ゼロ後、ディノがいなくなってから間もなくくらいの頃。+20分ほど。
企画&運営ありがとうございました!
ディノがいなくなって以降、キースはそれまであまり口にしなかった酒に溺れるようになり、よく酔い潰れるようになった。
今日もキースがよく訪れるバーで酔い潰れたと連絡を貰い、キースを迎えに行き、ヤツの家までこうして連れて帰ってきた。
10期生としてタワーで数年の共同生活を送った後、キースは所属することになったウエストに家を借りて生活するようになったが、ここ数ヶ月は訪れる度に床に転がる酒瓶の数が増えているような気がする。
あれほど、酒に溺れるのはごめんだと、父親のようにはなりたくないと言っていたというのに。
キースの飲み方は酒を楽しむというよりも、自分を傷つけているようにも見える。
微かに胸の奥に感じた痛みを押し込め、ベッドにキースを放り込み、キッチンから水を持ってこようとしたところで、酔い潰れていたはずのキースが俺の腕を掴んだ。
予想していなかった動きに加え、思いの外、力が籠められていたことで、よろめいてキースに覆い被さるような形になる。
とっさに腕をついて、キースを潰さないようにはしたが、キースの方が俺の体に腕を回して体を密着させた。
「おい、キース離せ」
「やだ、行くなって……」
「水を持ってくるだけだ。すぐ戻る」
「行くなよ、ブラッド……お前は……ここ、に……いて」
益々、力の籠められた腕。
強引に腕を振りほどくことも出来ただろうが、行くなと口にしたときの響きが妙にもの悲しく聞こえたせいか、振りほどくことに躊躇いが生じた。
数分もすれば、完全に眠りに落ちて力も入らなくなるだろうと諦め、体の力を抜いて体重をそのままキースに預ける。
自分と大して変わらない体格の男だ。結構な重さを感じているだろうに、キースが笑ったのが伝わった。
――キースの笑い声を聞いたのは久し振りのような気がする。
ただ、やはりどこかその笑う声に悲しい響きが混じっているように思えた。
表情を確認しようと思ったが、頭を上げようとしたところでキースがそれを止める。
今の顔を見られたくないのかと判断して、再び体の力を抜いた。
「…………これでいいか」
「ん……そうそう、これでいい……お前はどこにもいかない……ってやく、そく……」
「キース」
「おいて、いくな……よ……約束した、からな……」
キースの指が俺の小指を握りこんだ。
約束、と言いながらの行動だから、本人はこれで指切りのつもりなのかもしれない。
もっとも、酔っ払っているキースに行動の如何を問いかけたところで無駄だろう。
明日にはきっと何もかも忘れている。
俺がこの家までキースを運んだことも、キースが俺に行くなとねだったことも、一方的に投げつけた約束も。
読み通り、キースが眠りに落ちて、力の緩み始めた指からそっと小指を抜き取り、そのまま指を離す前に少しだけキースの小指に自分の小指を絡めた。
「――置いてなどいくものか」
ディノについて本当のことを告げてやれない後ろめたさはあるが、それでもキースに今言うわけにはいかない。
事実を言ってしまえば、俺を置いていってしまうのはきっとお前だ。
それだけはさせない。させてたまるものか。
「お前を置いてなどいかないから、お前も俺を置いていくな」
「…………ん……」
キースに聞かせるためではなく、自分に言い聞かせるように呟いた言葉にキースが反応した。
まともな返事などではないとわかっているが、それでも少しだけ心が落ち着いたのを自覚する。
置いていくなと、もう一度心の中で呟きながら、すっかり煙草と酒の匂いが纏わり付いたキースの髪を軽く撫でてからそっと口付けた。
Close
#ブラキス #ワンライ
ロスト・ゼロ後、ディノがいなくなってから間もなくくらいの頃。+20分ほど。
企画&運営ありがとうございました!
ディノがいなくなって以降、キースはそれまであまり口にしなかった酒に溺れるようになり、よく酔い潰れるようになった。
今日もキースがよく訪れるバーで酔い潰れたと連絡を貰い、キースを迎えに行き、ヤツの家までこうして連れて帰ってきた。
10期生としてタワーで数年の共同生活を送った後、キースは所属することになったウエストに家を借りて生活するようになったが、ここ数ヶ月は訪れる度に床に転がる酒瓶の数が増えているような気がする。
あれほど、酒に溺れるのはごめんだと、父親のようにはなりたくないと言っていたというのに。
キースの飲み方は酒を楽しむというよりも、自分を傷つけているようにも見える。
微かに胸の奥に感じた痛みを押し込め、ベッドにキースを放り込み、キッチンから水を持ってこようとしたところで、酔い潰れていたはずのキースが俺の腕を掴んだ。
予想していなかった動きに加え、思いの外、力が籠められていたことで、よろめいてキースに覆い被さるような形になる。
とっさに腕をついて、キースを潰さないようにはしたが、キースの方が俺の体に腕を回して体を密着させた。
「おい、キース離せ」
「やだ、行くなって……」
「水を持ってくるだけだ。すぐ戻る」
「行くなよ、ブラッド……お前は……ここ、に……いて」
益々、力の籠められた腕。
強引に腕を振りほどくことも出来ただろうが、行くなと口にしたときの響きが妙にもの悲しく聞こえたせいか、振りほどくことに躊躇いが生じた。
数分もすれば、完全に眠りに落ちて力も入らなくなるだろうと諦め、体の力を抜いて体重をそのままキースに預ける。
自分と大して変わらない体格の男だ。結構な重さを感じているだろうに、キースが笑ったのが伝わった。
――キースの笑い声を聞いたのは久し振りのような気がする。
ただ、やはりどこかその笑う声に悲しい響きが混じっているように思えた。
表情を確認しようと思ったが、頭を上げようとしたところでキースがそれを止める。
今の顔を見られたくないのかと判断して、再び体の力を抜いた。
「…………これでいいか」
「ん……そうそう、これでいい……お前はどこにもいかない……ってやく、そく……」
「キース」
「おいて、いくな……よ……約束した、からな……」
キースの指が俺の小指を握りこんだ。
約束、と言いながらの行動だから、本人はこれで指切りのつもりなのかもしれない。
もっとも、酔っ払っているキースに行動の如何を問いかけたところで無駄だろう。
明日にはきっと何もかも忘れている。
俺がこの家までキースを運んだことも、キースが俺に行くなとねだったことも、一方的に投げつけた約束も。
読み通り、キースが眠りに落ちて、力の緩み始めた指からそっと小指を抜き取り、そのまま指を離す前に少しだけキースの小指に自分の小指を絡めた。
「――置いてなどいくものか」
ディノについて本当のことを告げてやれない後ろめたさはあるが、それでもキースに今言うわけにはいかない。
事実を言ってしまえば、俺を置いていってしまうのはきっとお前だ。
それだけはさせない。させてたまるものか。
「お前を置いてなどいかないから、お前も俺を置いていくな」
「…………ん……」
キースに聞かせるためではなく、自分に言い聞かせるように呟いた言葉にキースが反応した。
まともな返事などではないとわかっているが、それでも少しだけ心が落ち着いたのを自覚する。
置いていくなと、もう一度心の中で呟きながら、すっかり煙草と酒の匂いが纏わり付いたキースの髪を軽く撫でてからそっと口付けた。
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#ブラキス #ワンライ
ブラキス版ワンドロ&ワンライ第7回でのお題から『得意料理』を使って書いた話です。
思い出話もつっこみたかったけど、時間が足りなかった!
クッキングイベのPトークネタが入ってます。
「キース。こちらで受け持っていた食材は一通り切り終わった」
「おー、お疲れさん。じゃ、切ったヤツボウルに入れたら、ちょっと奥のコンロで作ってるヤツの火加減見といてくれ。吹きこぼれそうになったら、差し水で」
「わかった」
今日は一日オフだからと、ブラッドに頼まれて……いや、押し切られてと言うべきだな。久々に夕飯に和食を作っていた。
和食は色々と面倒だから、あんまり作りたくねぇんだが、ブラッドが和食を作って欲しいって言うときは、こっちに打診する時点でレシピと材料、なければ調味料なんかも纏めて持ってきてから言うもんだから、それらを無駄にするのも気が咎めて、結局作る羽目になる。
まぁ、材料費が全部ブラッド持ちな上に、和食の面倒さの一端である食材を切るのも、ブラッドに任せときゃ丁寧にやってくれるから、ヤツも必ず手伝うって条件でたまに作ってやっていた。
アカデミー時代やルーキーの頃なんかはともかく、今は料理する機会が減ってるってこともあって、調味料は期限内にも使い切れるくらいの少なめの量で選ぶし、食材もほぼその時に使い切れるような量にしてるから、かえって店で食うより割高なんじゃねぇかと思うけど、オレの作る料理だから食いたいと言われちまえば、しゃーねーなってなっちまう。
ブラッドに火加減見といて貰ってる間に、こっちでも一品作っていると、ブラッドがふいに話し掛けてきた。
「ウィルに和食は作れないと言ったそうだな」
「ん? あー、そういや言ったかも知れねぇ」
少し前に、俺がレストランを経営してる飲み仲間からの依頼で、最近の経営状況があんまよくねぇからヒーローと協力して店の話題性が欲しいってことで、オスカー、ウィルと一緒にそのレストランの話題作りとして、メニューの考案、そして、初日はヒーローである自分たちの手で料理を作るってことをやった。
その時に、雑談で得意料理を聞かれて、得意料理は意識したことねぇけど、和食はとにかく面倒くさいから作れねぇとは言ったような気がする。
「お前相手にも滅多に作んねぇようなもんは、表向き作れねぇって言っといた方が手っ取り早いからなー。実際、和食の中でも特に面倒そうなもんって作れねぇし」
ブラッドが日本好きってこともあって、話だけならコイツから伝え聞いて知ってるっていうのもあるが、年明けに食うっていうおせち料理だとか、懐石料理だとかは試しに作ってみようっていう気にさえならねぇ。
精々、日常的に一般家庭で食べるだろうっていうメニューならってくらいだ。それでも、ものによっては避けたい。
ブラッドもそこら辺はわかってるらしく、面倒すぎるメニューは持ってこねぇからどうにかなってるけど。
「作ろうと思えば、作れなくもなさそうだがな、お前なら」
「やだよ、面倒くせぇ。手順が特に大変そうなのは、それこそ店に行って食えよ。金はかかるけど席で待ってるだけで出て来る、しかも場合によっちゃ作るより金もかかんねぇんだから、それこそお前が好きな『効率』が良いって話じゃねぇか」
「そうだな。…………だが、お前が表向き他人には作れないと言っている和食を、作れることを知っていて、かつ味も知っているという優越感は効率の話ではどうにもならんものだ」
「……包丁使ってるときにしれっとそういうこと言うのやめろよなー……」
「? 何か問題がある内容だったか?」
「何でもねぇよ」
オレだって、お前だから面倒な和食でもたまに作ってやろうかってなるし、お前相手じゃなきゃいくら材料やら何やら用意されてても最初から作んねぇよと言おうと思ったが、涼しげなブラッドの笑みにとっくに見透かされている気がして口にするのはやめておく。
どうせ、作るなら出来るだけ美味いものを食わせてやろうって思っちまってる時点で、ブラッドに勝てねぇのを自覚しながら、メニュー最後の一品を完成させた。
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#ブラキス #ワンライ
思い出話もつっこみたかったけど、時間が足りなかった!
クッキングイベのPトークネタが入ってます。
「キース。こちらで受け持っていた食材は一通り切り終わった」
「おー、お疲れさん。じゃ、切ったヤツボウルに入れたら、ちょっと奥のコンロで作ってるヤツの火加減見といてくれ。吹きこぼれそうになったら、差し水で」
「わかった」
今日は一日オフだからと、ブラッドに頼まれて……いや、押し切られてと言うべきだな。久々に夕飯に和食を作っていた。
和食は色々と面倒だから、あんまり作りたくねぇんだが、ブラッドが和食を作って欲しいって言うときは、こっちに打診する時点でレシピと材料、なければ調味料なんかも纏めて持ってきてから言うもんだから、それらを無駄にするのも気が咎めて、結局作る羽目になる。
まぁ、材料費が全部ブラッド持ちな上に、和食の面倒さの一端である食材を切るのも、ブラッドに任せときゃ丁寧にやってくれるから、ヤツも必ず手伝うって条件でたまに作ってやっていた。
アカデミー時代やルーキーの頃なんかはともかく、今は料理する機会が減ってるってこともあって、調味料は期限内にも使い切れるくらいの少なめの量で選ぶし、食材もほぼその時に使い切れるような量にしてるから、かえって店で食うより割高なんじゃねぇかと思うけど、オレの作る料理だから食いたいと言われちまえば、しゃーねーなってなっちまう。
ブラッドに火加減見といて貰ってる間に、こっちでも一品作っていると、ブラッドがふいに話し掛けてきた。
「ウィルに和食は作れないと言ったそうだな」
「ん? あー、そういや言ったかも知れねぇ」
少し前に、俺がレストランを経営してる飲み仲間からの依頼で、最近の経営状況があんまよくねぇからヒーローと協力して店の話題性が欲しいってことで、オスカー、ウィルと一緒にそのレストランの話題作りとして、メニューの考案、そして、初日はヒーローである自分たちの手で料理を作るってことをやった。
その時に、雑談で得意料理を聞かれて、得意料理は意識したことねぇけど、和食はとにかく面倒くさいから作れねぇとは言ったような気がする。
「お前相手にも滅多に作んねぇようなもんは、表向き作れねぇって言っといた方が手っ取り早いからなー。実際、和食の中でも特に面倒そうなもんって作れねぇし」
ブラッドが日本好きってこともあって、話だけならコイツから伝え聞いて知ってるっていうのもあるが、年明けに食うっていうおせち料理だとか、懐石料理だとかは試しに作ってみようっていう気にさえならねぇ。
精々、日常的に一般家庭で食べるだろうっていうメニューならってくらいだ。それでも、ものによっては避けたい。
ブラッドもそこら辺はわかってるらしく、面倒すぎるメニューは持ってこねぇからどうにかなってるけど。
「作ろうと思えば、作れなくもなさそうだがな、お前なら」
「やだよ、面倒くせぇ。手順が特に大変そうなのは、それこそ店に行って食えよ。金はかかるけど席で待ってるだけで出て来る、しかも場合によっちゃ作るより金もかかんねぇんだから、それこそお前が好きな『効率』が良いって話じゃねぇか」
「そうだな。…………だが、お前が表向き他人には作れないと言っている和食を、作れることを知っていて、かつ味も知っているという優越感は効率の話ではどうにもならんものだ」
「……包丁使ってるときにしれっとそういうこと言うのやめろよなー……」
「? 何か問題がある内容だったか?」
「何でもねぇよ」
オレだって、お前だから面倒な和食でもたまに作ってやろうかってなるし、お前相手じゃなきゃいくら材料やら何やら用意されてても最初から作んねぇよと言おうと思ったが、涼しげなブラッドの笑みにとっくに見透かされている気がして口にするのはやめておく。
どうせ、作るなら出来るだけ美味いものを食わせてやろうって思っちまってる時点で、ブラッドに勝てねぇのを自覚しながら、メニュー最後の一品を完成させた。
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#ブラキス #ワンライ
ブラキス版ワンドロ&ワンライ第6回でのお題から『サングリア』『お前はいつもそうだ』を使って書いた話です。
甘いの得意じゃないキースがサングリア作るのって、人に飲ませたいからだよね……。
夕方からちらつき始めた雪はまだしばらく止みそうにない。
仕事がおしてしまった結果、予定していた時刻よりキースの家への到着が遅くなった。
先に仕事を終えたキースにその旨連絡はしてあり、今日の夕食は各自で済ませるよう告げてあるが、当初の予定では夕食も一緒に取るつもりだったから、その点は少し残念だ。
珍しく、キースの方から何か作ってやるよと言ってきたというのに。
アカデミー時代やルーキーだった頃なんかは、よく料理を作っていたが、元来面倒がりなのもあって、年々作る機会は減っている。
キースの自宅近くの駐車場に車をとめて降りると、思っていた以上に雪の勢いは強い。
車のトランクから傘を出そうか迷ったが、キースの家は目と鼻の先だ。
結局、そのまま傘は出さずに歩き出す。
この家の合い鍵は持っているが、キースがいるのはわかっているから、それは使わずにチャイムを鳴らすと直ぐに家の主が玄関のドアを開けた。
「すまない。遅くなった」
「お、お帰り。あー、雪、結構降ってんのな」
「ああ。駐車場からここまでの少しの距離を歩いただけでこれだ」
玄関先で雪を振り払い、コートを脱ごうとすると、それより早くキースが俺の手を引いた。
「おい」
「ここじゃ冷えるだろ。脱ぐの中でいいから。どうせ、元々家ん中散らかってんだし。仕事で夕飯もまともなもん食ってねぇよな? スープとホットサングリアがあるから、それ飲めよ。あり合わせで作ったヤツで悪ぃけど」
「――頂こう」
キースの言ったように、夕食はプロテインバーを少し口にしただけだったし、冷えたことで温かいものが欲しいと思っていたから、キースの申し出を有り難く受ける。
俺がコートを脱ぎ、ハンガーに掛けている間に、テーブルにスープとホットサングリアが並んだ。
ソファに腰掛けると、キースも向かい側の椅子に座り、自分用のホットサングリアだけを手にして飲み始めた。
俺もそれに誘われるように、先にホットサングリアから口をつける。
「……美味い」
かぐわしいワインの香りに加え、林檎とオレンジ、そしてシナモンの香りが、ふわりと優しく交じって鼻腔をくすぐった。
少し冷えた体がじわりと温かくなっていくのを実感する。
「そりゃ、良かった。やっぱり冬は酒も温かいのが良いよなー。今度、日本酒でも何か入れて試すかぁ」
「試す……とは、サングリアのようにフルーツを日本酒に入れるということか?」
熱燗については以前キースに教えたことはあるから、幾度か試しているようだがフルーツを入れるというのは初めて聞いた。
「おう。日本酒でも結構合うらしいぜ。多分、お前が好きな感じになるんじゃねぇの」
「そうか。ならば調べて向いていそうなのを取り寄せてみよう」
「頼むわ。おー、これでまた新しい日本酒が飲める」
確かにキースよりは俺の方の好みに合いそうだ。
あり合わせで作った、とは言ったが、キースはあまり甘い物を好まない。
酒は飲めれば何でもと言いつつ、本人が好んで飲むのはビールだし、ワインや日本酒も嗜むものの辛口の方を好む傾向があるし、サングリアに入れるフルーツの類は普段あまり口にしていないように思う。
何より、タワーを生活の拠点としている今、この自宅を使う機会は限られているから、傷みやすい食材であるフルーツを買い置きしていたとは考えにくい。
今日に限らず、キースがサングリアを作るのは俺に飲ませるためだろう。
だが、コイツはそうして相手を気遣って行動しているのだと、人に悟られることをよしとしない。
人をよく見ているが、そうと思われたくないようだ。
どうも、善意で行動することに気恥ずかしさや抵抗があるらしく、今も自分が新しい日本酒が飲めるのが嬉しいというのを表に出す一方で、俺の好みに合ったものを飲ませたいのだという意図を感じる。
「……お前はいつもそうだ」
俺やディノ、それにジェイなんかもそんなキースの気質をわかっているからいいものの、これがキースの人となりについての誤解を招く一因になっているのはもったいなく思う。
が、そう思うのと同時に、それをわかっているという優越感を手放せずにいるのだから仕方がない。
きっと、俺はこの先も言及できないままだろう。
「ブラッド? 今、何か言ったか?」
「何でもない。ホットサングリアのおかわりはあるか?」
「おう。注いでくるぜ」
空になったカップが、キースの能力で浮いて、ヤツの手元へと落ちる。
キースがホットサングリアをカップに注ぎにキッチンに行く後ろ姿をみながら、優しい味わいのコンソメスープを口にした。
Close
#ブラキス #ワンライ
甘いの得意じゃないキースがサングリア作るのって、人に飲ませたいからだよね……。
夕方からちらつき始めた雪はまだしばらく止みそうにない。
仕事がおしてしまった結果、予定していた時刻よりキースの家への到着が遅くなった。
先に仕事を終えたキースにその旨連絡はしてあり、今日の夕食は各自で済ませるよう告げてあるが、当初の予定では夕食も一緒に取るつもりだったから、その点は少し残念だ。
珍しく、キースの方から何か作ってやるよと言ってきたというのに。
アカデミー時代やルーキーだった頃なんかは、よく料理を作っていたが、元来面倒がりなのもあって、年々作る機会は減っている。
キースの自宅近くの駐車場に車をとめて降りると、思っていた以上に雪の勢いは強い。
車のトランクから傘を出そうか迷ったが、キースの家は目と鼻の先だ。
結局、そのまま傘は出さずに歩き出す。
この家の合い鍵は持っているが、キースがいるのはわかっているから、それは使わずにチャイムを鳴らすと直ぐに家の主が玄関のドアを開けた。
「すまない。遅くなった」
「お、お帰り。あー、雪、結構降ってんのな」
「ああ。駐車場からここまでの少しの距離を歩いただけでこれだ」
玄関先で雪を振り払い、コートを脱ごうとすると、それより早くキースが俺の手を引いた。
「おい」
「ここじゃ冷えるだろ。脱ぐの中でいいから。どうせ、元々家ん中散らかってんだし。仕事で夕飯もまともなもん食ってねぇよな? スープとホットサングリアがあるから、それ飲めよ。あり合わせで作ったヤツで悪ぃけど」
「――頂こう」
キースの言ったように、夕食はプロテインバーを少し口にしただけだったし、冷えたことで温かいものが欲しいと思っていたから、キースの申し出を有り難く受ける。
俺がコートを脱ぎ、ハンガーに掛けている間に、テーブルにスープとホットサングリアが並んだ。
ソファに腰掛けると、キースも向かい側の椅子に座り、自分用のホットサングリアだけを手にして飲み始めた。
俺もそれに誘われるように、先にホットサングリアから口をつける。
「……美味い」
かぐわしいワインの香りに加え、林檎とオレンジ、そしてシナモンの香りが、ふわりと優しく交じって鼻腔をくすぐった。
少し冷えた体がじわりと温かくなっていくのを実感する。
「そりゃ、良かった。やっぱり冬は酒も温かいのが良いよなー。今度、日本酒でも何か入れて試すかぁ」
「試す……とは、サングリアのようにフルーツを日本酒に入れるということか?」
熱燗については以前キースに教えたことはあるから、幾度か試しているようだがフルーツを入れるというのは初めて聞いた。
「おう。日本酒でも結構合うらしいぜ。多分、お前が好きな感じになるんじゃねぇの」
「そうか。ならば調べて向いていそうなのを取り寄せてみよう」
「頼むわ。おー、これでまた新しい日本酒が飲める」
確かにキースよりは俺の方の好みに合いそうだ。
あり合わせで作った、とは言ったが、キースはあまり甘い物を好まない。
酒は飲めれば何でもと言いつつ、本人が好んで飲むのはビールだし、ワインや日本酒も嗜むものの辛口の方を好む傾向があるし、サングリアに入れるフルーツの類は普段あまり口にしていないように思う。
何より、タワーを生活の拠点としている今、この自宅を使う機会は限られているから、傷みやすい食材であるフルーツを買い置きしていたとは考えにくい。
今日に限らず、キースがサングリアを作るのは俺に飲ませるためだろう。
だが、コイツはそうして相手を気遣って行動しているのだと、人に悟られることをよしとしない。
人をよく見ているが、そうと思われたくないようだ。
どうも、善意で行動することに気恥ずかしさや抵抗があるらしく、今も自分が新しい日本酒が飲めるのが嬉しいというのを表に出す一方で、俺の好みに合ったものを飲ませたいのだという意図を感じる。
「……お前はいつもそうだ」
俺やディノ、それにジェイなんかもそんなキースの気質をわかっているからいいものの、これがキースの人となりについての誤解を招く一因になっているのはもったいなく思う。
が、そう思うのと同時に、それをわかっているという優越感を手放せずにいるのだから仕方がない。
きっと、俺はこの先も言及できないままだろう。
「ブラッド? 今、何か言ったか?」
「何でもない。ホットサングリアのおかわりはあるか?」
「おう。注いでくるぜ」
空になったカップが、キースの能力で浮いて、ヤツの手元へと落ちる。
キースがホットサングリアをカップに注ぎにキッチンに行く後ろ姿をみながら、優しい味わいのコンソメスープを口にした。
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#ブラキス #ワンライ
ブラキス版ワンドロ&ワンライ第5回でのお題から『微熱』『わがまま』を使って書いた話です。
キースがちょっと体調崩してます。
脇に挟んでいた体温計が計測終了の音を鳴らす。
抜き出したそれをオレが見るよりも早く、ブラッドが取り上げて、表示されたであろう数字を読み上げた。
「三十八度五分」
「うえ…………マジか」
「……妙に熱いと思ったら、やはりな」
普段ならオレの家に泊まった翌朝は、朝食が出来るまで寝かせておいてくれるブラッドが、どういうわけかオレをさっさと起こして体温を今すぐ測れ、なんて言ってきたから何かと思えば発熱してたらしい。
「食欲は?」
「言われてみりゃあんまりねぇ……かな。食いたくねぇってほどでもねぇけど」
「ならば、軽めのものを用意しよう。寒気とかはどうだ?」
「あー……ちょっとするかも」
二日酔い以外で体調を崩すなんてのは滅多にねぇのもあって、どうも感覚があやふやだ。
ただ、ベッドから体を起こすのは、いつにもまして億劫だっていうのはある。
それこそ、二日酔いの酷いときみてぇな感じだ。
「ブランケットを一枚足そう。上に置いてあるな?」
「ん……ああ、いい、いい、自分で運ぶって」
サイコキネシスを使って、ロフトから端っこが見えてるブランケットを下ろそうとしたところで、ブラッドがオレの手を掴んで首を振った。
「キース、やめろ。不調の時に能力を使うのは消耗する」
「あー、んじゃ能力止めて床に落とすから、拾って」
「ああ」
もうブランケットはロフトからほぼ引っ張り出していたから、能力を止めた途端にブランケットが落ち、それが床につく手前でブラッドが拾う。
布団の上から一枚ブランケットが重なっただけで、暖かさが増したのを実感した。
「投与されているサブスタンスの効果もあるから、しばらく寝ていれば回復するだろう。今日は仕事は休んで大人しくしていろ。届けは俺の方で出しておく」
「んー……そうするわ」
「……朝食を用意してくる。もう少しそのまま寝ていろ」
ブラッドがオレの頭をそっと撫でてから、キッチンに向かう。
朝食を準備する物音を聞きながら、目を閉じたら少しの間寝ちまっていたらしい。
気付いたら、いつの間にか身支度も終わらせていたブラッドが、枕元までトレイに朝食を乗せて持ってきたところだった。
普段ならここまではしねぇから、甘やかしてくれてんだなって伝わる。
「食えるか?」
「おう」
「では、俺は仕事に行く。念の為に言っておくが、酒を飲んで体を温めよう……などとは考えるなよ」
「………………」
ブラッドが仕事に行ったらやろうとしていたことを言い当てられて、つい言葉に詰まる。
そんなオレの反応で察したか、ブラッドの目が細められ、追撃が来る。
「返事は」
「…………ハイ」
「……なるべく早く帰る。昼食もレンジで温めればすむようなものを置いてあるから、それを食え」
「え、仕事終わったらこっち来てくれんの?」
サブスタンスによる回復力を考慮すれば、この程度なら恐らく夜には元通りだ。
ブラッドもそれは知ってるから、今日は普通にタワーの方に戻るかと思っていた。
「念の為に様子を見にくらいはな。では、行ってくる」
二日酔い以外で調子崩すことはほとんどねぇから、回復が早いはずだと知っていても心配してくれてるらしい。
もしかしたら、酒を飲んでないかの確認かもしれねぇけど、悪い気分じゃなかった。
***
額に置かれた手に目を開けると、一瞬だけブラッドの揺らいだ目と合った。
「すまない、起こしたか」
「…………あれ? もうお前帰ってくるような時間……?」
「いや、まだ昼だ。パトロールで近くまで来たついでに寄った。熱はもう微熱程度まで下がったようだが、一応後で測っておけ」
パトロールは確かに予定にあった気はするが、お前の担当ってこの辺だったっけって聞きかけてやめる。
多分、ブラッドが何らかの調整をした結果だと予想出来てしまったからだ。
恐らくはオレが急遽休んだ分の調整もあって、いつもより忙しいはずなのに。
そうとわかっているのに、つい立ち去ろうとしたブラッドの手を掴んで引き止めちまった。
「――どうした?」
「なぁ、ブラッド。あと、ちょっとでいいからここにいてくれよ。オレが寝るまででいいからさ」
そのちょっとの時間でさえ、忙しいブラッドには負担になるはずだと頭のどこかでわかっている。
数時間寝たことで、大分体調も回復しているのも自覚済みだ。
それこそ、今から仕事しろって言われても、まぁ大丈夫だろうってくらいには。
だから、これはただのわがままだって、きっとブラッドには伝わってる。
けど、ブラッドは椅子をオレの枕元に引き寄せて腰掛けると、オレの指先を取って軽く口付けた。
「……お前が眠れなくとも十五分を過ぎたら戻る。それ以上は無理だ」
「十分だよ。サンキュ」
瞼を閉じると、ブラッドの手がオレの髪をそっと撫でてくる。
その心地良さから早くも遠のき始めた意識の片隅で、仕方のないやつだと優しく呟くブラッドの声が聞こえた気がした。
Close
#ブラキス #ワンライ
キースがちょっと体調崩してます。
脇に挟んでいた体温計が計測終了の音を鳴らす。
抜き出したそれをオレが見るよりも早く、ブラッドが取り上げて、表示されたであろう数字を読み上げた。
「三十八度五分」
「うえ…………マジか」
「……妙に熱いと思ったら、やはりな」
普段ならオレの家に泊まった翌朝は、朝食が出来るまで寝かせておいてくれるブラッドが、どういうわけかオレをさっさと起こして体温を今すぐ測れ、なんて言ってきたから何かと思えば発熱してたらしい。
「食欲は?」
「言われてみりゃあんまりねぇ……かな。食いたくねぇってほどでもねぇけど」
「ならば、軽めのものを用意しよう。寒気とかはどうだ?」
「あー……ちょっとするかも」
二日酔い以外で体調を崩すなんてのは滅多にねぇのもあって、どうも感覚があやふやだ。
ただ、ベッドから体を起こすのは、いつにもまして億劫だっていうのはある。
それこそ、二日酔いの酷いときみてぇな感じだ。
「ブランケットを一枚足そう。上に置いてあるな?」
「ん……ああ、いい、いい、自分で運ぶって」
サイコキネシスを使って、ロフトから端っこが見えてるブランケットを下ろそうとしたところで、ブラッドがオレの手を掴んで首を振った。
「キース、やめろ。不調の時に能力を使うのは消耗する」
「あー、んじゃ能力止めて床に落とすから、拾って」
「ああ」
もうブランケットはロフトからほぼ引っ張り出していたから、能力を止めた途端にブランケットが落ち、それが床につく手前でブラッドが拾う。
布団の上から一枚ブランケットが重なっただけで、暖かさが増したのを実感した。
「投与されているサブスタンスの効果もあるから、しばらく寝ていれば回復するだろう。今日は仕事は休んで大人しくしていろ。届けは俺の方で出しておく」
「んー……そうするわ」
「……朝食を用意してくる。もう少しそのまま寝ていろ」
ブラッドがオレの頭をそっと撫でてから、キッチンに向かう。
朝食を準備する物音を聞きながら、目を閉じたら少しの間寝ちまっていたらしい。
気付いたら、いつの間にか身支度も終わらせていたブラッドが、枕元までトレイに朝食を乗せて持ってきたところだった。
普段ならここまではしねぇから、甘やかしてくれてんだなって伝わる。
「食えるか?」
「おう」
「では、俺は仕事に行く。念の為に言っておくが、酒を飲んで体を温めよう……などとは考えるなよ」
「………………」
ブラッドが仕事に行ったらやろうとしていたことを言い当てられて、つい言葉に詰まる。
そんなオレの反応で察したか、ブラッドの目が細められ、追撃が来る。
「返事は」
「…………ハイ」
「……なるべく早く帰る。昼食もレンジで温めればすむようなものを置いてあるから、それを食え」
「え、仕事終わったらこっち来てくれんの?」
サブスタンスによる回復力を考慮すれば、この程度なら恐らく夜には元通りだ。
ブラッドもそれは知ってるから、今日は普通にタワーの方に戻るかと思っていた。
「念の為に様子を見にくらいはな。では、行ってくる」
二日酔い以外で調子崩すことはほとんどねぇから、回復が早いはずだと知っていても心配してくれてるらしい。
もしかしたら、酒を飲んでないかの確認かもしれねぇけど、悪い気分じゃなかった。
***
額に置かれた手に目を開けると、一瞬だけブラッドの揺らいだ目と合った。
「すまない、起こしたか」
「…………あれ? もうお前帰ってくるような時間……?」
「いや、まだ昼だ。パトロールで近くまで来たついでに寄った。熱はもう微熱程度まで下がったようだが、一応後で測っておけ」
パトロールは確かに予定にあった気はするが、お前の担当ってこの辺だったっけって聞きかけてやめる。
多分、ブラッドが何らかの調整をした結果だと予想出来てしまったからだ。
恐らくはオレが急遽休んだ分の調整もあって、いつもより忙しいはずなのに。
そうとわかっているのに、つい立ち去ろうとしたブラッドの手を掴んで引き止めちまった。
「――どうした?」
「なぁ、ブラッド。あと、ちょっとでいいからここにいてくれよ。オレが寝るまででいいからさ」
そのちょっとの時間でさえ、忙しいブラッドには負担になるはずだと頭のどこかでわかっている。
数時間寝たことで、大分体調も回復しているのも自覚済みだ。
それこそ、今から仕事しろって言われても、まぁ大丈夫だろうってくらいには。
だから、これはただのわがままだって、きっとブラッドには伝わってる。
けど、ブラッドは椅子をオレの枕元に引き寄せて腰掛けると、オレの指先を取って軽く口付けた。
「……お前が眠れなくとも十五分を過ぎたら戻る。それ以上は無理だ」
「十分だよ。サンキュ」
瞼を閉じると、ブラッドの手がオレの髪をそっと撫でてくる。
その心地良さから早くも遠のき始めた意識の片隅で、仕方のないやつだと優しく呟くブラッドの声が聞こえた気がした。
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#ブラキス #ワンライ