避難所 短編・書きかけ置き場

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キスブラ版ワンドロライ第100回は『一番好きなシチュエーション』とのことで、『キースがつまみを作って一緒にお酒を飲むキスブラ』で書きました。
第100回開催おめでとうございます!
そして、100回という長い間、企画の運営を続けて頂き、本当にありがとうございました!!

美味いと評判の日本酒を手に入れたから、その代わりに美味い和食のつまみを用意して欲しいと、ブラッドから言われたのが先週。
で、互いに明日がオフだからとオレの家で飲むことになったのが今日だ。
普段はこっちから飲みに誘っても、滅多に応じちゃくれねぇくせに、交換条件みてぇに日本酒を持ってくるから、オレはつまみを作れという形だと時々向こうから誘ってくるんだよな。
勿論、美味い酒がブラッドと飲めるとくりゃ断る理由はねぇけど。
例によって、オレより仕事が多く、やることが積み上がってるブラッドが仕事を一通り片付けてから、うちに来るまでにはまだ時間がある。
急な飲みだと用意出来るつまみにも限りはあるが、今回みてぇに数日前から予定を立てるなら、出来上がるまでに時間のかかるタイプのつまみも用意出来るから、今日はそんなつまみを幾つか出してやろうと、あらかじめ仕込んでおいた。
ブラッドは和食は一品、二品で構わないと口では言うが、実際数があれば目の輝きが違ってくるもんだから、たまにならいいだろと、こんな機会にはつい作っちまっう。

「お。良い感じじゃねぇか」

数日前に漬けておいた、豆腐の味噌漬けを味見ついでに軽くつまむと、つい冷蔵庫にストックしてあるビール缶を開けたくなったが、そこはどうにか堪えて、ナスとキュウリの漬物も味見する。
使った唐辛子の量がちょうど良かったらしく、これまたビールが飲みたくなる一品に仕上がってた。
日本の漬物ってヤツは何でこう酒に合うように出来てんだ?
いっそ、ブラッドが来る前に一缶だけビール飲んじまおうかなと思った矢先、手元のスマホがブラッドからのメッセージの着信を知らせる。

『仕事が終わった。今からそちらに向かう』

当初、予想していた時間よりは早い。
恐らくは、ブラッドが今日の飲みの為に、仕事を早めに片付けた結果だろう。
もうこっちに向かってるんだったら、温かいつまみを作り始めるにはちょうどいいと、どうにかビールの誘惑をおさえて、だし巻き玉子と揚げ物の用意をする。
ブラッドが持ち込むせいで、どんどん増える日本の調味料はもう結構な種類があるから、食材と時間さえあれば、何だかんだ色々な和食が作れちまうんだよな。……面倒くさいのはなるべく避けてぇけど。
ブラッドが好む味付けのだし巻き玉子も、すっかり作り方を覚えちまったなぁと出来ただし巻き玉子を皿に(これまたブラッドが持ち込んだ日本の食器だ)盛り、温度の様子を見ながら揚げ物をやってたところで、玄関の鍵が開く音がした。
オレがつまみの支度で手を離せないだろうと予想して、最初から合鍵を使うあたり、アイツもすっかり慣れたもんだ。

「おう、お帰り。仕事お疲れさん」
「ただいま。……ほう。お前に作って貰ったことのないものが並んでいる」

テーブルの上を確認したブラッドの声が、期待からか微かに弾んだのがわかる。
チラッと表情も窺うと、ブラッドは目元も綻ばせていた。
……こういうとこ可愛いんだよな。
小言を畳みかけてくるときと同一人物とは思えねぇ。

「あー、日数かけた漬物、試してみたかったからなぁ。味は保証出来るぜ」
「お前が手懸けた料理で味に不満があったものもないがな。何かやることはあるか?」
「お前が持ってきた日本酒の器用意してくれ。まだそっちまで手が回ってねぇ」
「わかった」

ブラッドが酒を注いでいる間に、オレの方も揚げ物が終わり、良い感じに飲む準備は完了ってヤツだ。
二人でテーブルについて、確か江戸切子とかいった、繊細な細工のグラスを軽く合わせ乾杯する。

「……かーっ……美味っ……!」

グラスを口につける手前でわかった薫りから期待はしてたが、口当たりも良い。いくらでも飲めそうな酒だった。
一方でブラッドは一口飲んだ後は、つまみの方に次々と手を出していく。

「……やはり美味いな。お前の作る料理は」
「だったら、良かったぜ。あ、漬物は結構量作ったけど、明日帰るとき持ってくか?」
「貰おう。酒だけでなく米にも合いそうだ」
「あー、じゃ明日の朝は飯炊いて米に合わせて食ってみるか」
「そうしよう。味噌汁も――」
「はいはい。ちゃんと作ってやるっての」

こんな日にブラッドが泊まっていくのは、もう暗黙の了解ってヤツだ。
ただ酒を酌み交わすためだけに泊まるわけじゃないってことも。
……酔いすぎねぇようにしとかねぇとな。
後に控えてる楽しみも頭の隅に置きつつ、まずは二人きりの晩酌を楽しむことにした。
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#キスブラ #ワンライ

キスブラ版ワンドロライ第50回でのお題から『お節介』を使って書いた話です。
ロスゼロ後、微妙に探ってる状態でメジャーヒーローの昇格試験を控えたキスブラ。
第50回の開催おめでとうございます!
 
午後のパトロール前、タワーを出ようとしたところでブラッドに呼び止められた。

「キース。今夜、時間は取れるか」
「…………今夜ね。はいよ。夕食も一緒か? それとも夕食後?」
「夕食後だ。ノースチーム内でのミーティングがあるから、その後になる」
「わかった。家で待ってるぜ」
「……待っている間に飲むなよ」
「わあってるっての。じゃあまた夜な」

オレたちが【AAA】のヒーローとなってから二年近く。
メジャーヒーローへの昇格試験が受験可能になるからと、この数ヶ月というもの、ブラッドは時間が出来た傍から試験勉強の為にオレを誘い続けている。
試験なんてもんが昔から大嫌いなオレとしちゃ、試験勉強なんて面倒くさくて仕方ねぇんだが、ブラッドが頑として今回の試験でオレと一緒に昇格すると言って譲らねぇ。
最初は面倒さに試験勉強から逃げていたものの、ブラッドがしつこく逃げた先のバーだったり、ビリヤード場だったりまで来て、試験勉強の誘いを続けるもんだから、結局折れたのはこっちだった。
一旦応じてしまえば、ずっと試験勉強漬けってわけでもなく、時にはビリヤードに付き合ってくれたり、ベッドの中でもいつもよりサービスしてくれたりなんかする辺り、この暴君は飴と鞭の使い方が上手い。
……まぁ、メジャーヒーローになれば給料も上がるし、何よりヒーローとしては最上級の格付けになるから、今度の試験に合格し、メジャーヒーローに昇格したら、以降は昇格試験なんてものはない。
一応、昇格後にメジャーヒーローとしての実力を保持出来ているかどうかのチェックは時折入るが、そっちはほぼサブスタンスによる能力の確認や、実技によるものだから、筆記試験となると確かに合格さえしちまえば次で最後になる。

――メジャーヒーローとしての実力は申し分ない以上、昇格しないままでいると今後ずっと昇格試験があるたびに、上層部から声も掛かるだろう。その方がお前にとっては面倒ではないのか。

ジェイ曰くの『ミラクルトリオ』と称されるオレたちは、上層部からの期待の声が高いらしい。
アカデミー時代から常に優秀で期待されていたブラッドは勿論、早々とイクリプス部隊に配属されたディノ。そして、ディノがいなくなって以降、オーバーフロウなしでも強力なサイコキネシスを使えるオレにも注目が集まっているのだという。

――さっさと昇格してしまった方が、必要以上に干渉されずに済む。……その方がお前にとっても都合がいいと思うが。
――……お前の好きな『効率的』ってヤツ?
――そうだ。

『お前にとっても』という言葉の裏には、ブラッドにとってもという意味が含まれているような気がしたのは、多分間違ってねぇ。
ただでさえ、第十二期研修チームのメンターの一員として、少なくともオレより忙しい立場にあるはずのブラッドが、時間をやりくりしてでもオレと一緒にメジャーヒーローに昇格したがるのは、それだけの理由があるはずだが、それが何かまではわからねぇ。
ディノがいなくなってから、ただでさえわかりにくいコイツの真意はさらにわかりにくくなっている。
単なる怠惰な同期へのお節介なのか、それとも――。

「ま、メジャーヒーローって響きも悪くねぇしな」

昇格しちまえば、多少は何かを隠しているらしいブラッドの真意の欠片が見えてくるかもしれねぇ。
去って行くブラッドの背中を見ながら、今日の夜は試験勉強中に軽くつまめる、ヤツの好きそうなもんでも用意しとくかと決めて、オレもその場を後にした。
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#キスブラ #ワンライ

キスブラ版ワンドロライ第49回(Webオンリーとのコラボ回)でのお題から『キス』を使って書いた話です。
アカデミー時代から体の関係があった前提。R-15くらいで。執筆時間大体1時間(多分)
ただ二人が朝からいちゃいちゃしてるだけの話になったw

…………懐かしい夢を見ていた。
目が覚めた時、真っ先に視界に入った天井でさっきまでのは夢だったと直ぐに認識出来たが、妙にリアリティがあったように思う。
夢の内容はアカデミーの頃のキースと共に夜を過ごしていたもの。
つい先程まで夢にいた相手は、現実ではごく近くで気持ち良さそうに寝息を立てている。
夢を見た理由には心当たりがあった。
昨夜はキースの家に泊まったが、シャワーを借りた際、アカデミー時代にヤツが使用していたボディソープ――いや、体だけではなく髪も顔も洗えるというものだからボディソープというのとは少し違うのだろうが――を久し振りに使ったせいだろう。

――キース、あのボディソープは……。
――ああ、メーカーの何周年だかで復刻したんだってよ。懐かしくてつい買っちまった。そうそう、こんな匂いだったよな。
――んっ…………。

俺より先に風呂から上がっていたキースは、俺を待っていた間に煙草を吸っていなかったらしく、いつもならキスすると一層強く香ってくる煙草の匂いではなく、微かな歯磨き粉の味と共に懐かしいボディソープの匂いが纏わり付いてきた。
安物で嫌いじゃないが、香りが強いんだと当時言ってもいたからか、ヒーローとして【HELIOS】に勤務するようになってからはいつの間にか使わなくなっていたが、久し振りにかいだ匂いは様々な記憶を引き摺り出して、昨夜は気分がいつもより昂ぶってしまった。
キースもそうだったのか、やけに密着するような体位をしたがっていたように思う。
……キースと最初に肌を重ねてから、もう十年以上経つのか。
最初はキス一つでも随分とぎこちなかったはずだが、年月を経た今はもう良くも悪くも慣れたものだ。
寝顔はあの頃とあまり変わらないなと思いながら、少しだけ体を起こして、キースの髪に口付ける。
眠る前に散々かいだ匂いを感じながら、指でもそっと髪に触れた。
あくまでも起こさないように静かに触れたつもりだったが、キースから離れようとした寸前で、ベッドの中でキースの手が俺の腰に回され、閉ざされていた目が開く。

「……っ、すまない、起こしたか」
「んー……まぁ起こされたっていうか、ちょうど目が覚めたって感じだな。もうちょっとだけ寝ようぜ、まだ起き出すにはちぃと早いだろ」
「んっ」

腰に置かれていた手が上へと移動し、肩を掴んで起こしていた体をベッドの中に戻せと言わんばかりに力が籠められた。
大人しく従えば、顔が寄せられて、自然と目を閉じる。
当たり前のように触れてきたキースの唇は少し乾いていたが、唇を触れ合わせているうちに気にならなくなってくる。
少しだけ舌で唇の間からつついたら、その舌に吸い付かれて、甘い刺激が体を突き抜けていった。
これ以上は戯れで済まなくなると唇を離そうとしたが、キースにはやめるつもりがないらしく、離しかけた唇は追われ、再び重なって、今度はそのまま舌が口内を撫でていく。擽るように、または突くように、と動きを少しずつ変化させながら。

「…………っ……ふ」

つい零れてしまう声に、笑った気配がし、つられて目を開けて――もう寝直すつもりなど、キースにはないのを悟った。
ペリドットの目は明らかな情欲の色を映している。
いや、キースが口にした『寝よう』という意味が、そもそもそちらを示していたのかもしれない。
ならば、俺の方からもキースの口内を舌で刺激しようと動き始めると、キースの方は舌の動きを止めた。
好きにしろということだろうと解釈して、しばらく舌を動かしていると、キースも微かに吐息を零した。

「ん…………お前、ホント上手くなったよなー、キス」

キースも俺と同じようにボディソープの匂いから、過去を懐かしく思ったのか、そんな言い方をする。

「……誰がそうしたと」
「まぁ、俺しかいねぇよな。……ブラッド。今日オフだし、このまま続けていいだろ? 朝飯、白飯と味噌汁にしてやるからさ」

普段なら朝から作るのは面倒がるメニューを口にしながら、キースの手が俺の背中を滑り落ちていった。
数時間前も散々触れられているのに、それだけでも体の芯が熱くなっていくのを実感する。

「…………卵焼き、もだ」

震えてしまいそうになる声をどうにかおさえて、要求をつけくわえると間近にある目が笑った。

「つけてやるって。だし巻きな。目玉焼きでもいいけど」
「……だし、巻き…………が、いい」
「はいよ。あとは……ほうれんそうのおひたしだっけ? あれも作るか」
「っ……」

再び、唇が重なったのと腰が触れ合ったのは同時。
お互いに張り詰めているのがしっかりと伝わる。
微かに薫ったボディソープの匂いを始まりの合図に本格的に動き始めた。
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#キスブラ #ワンライ

第二百八十四回紅敬版深夜の創作一本勝負、お題『ハグ』『キス』『手を繋ぐ』『撫でる』『ごはん』を全部使ってみました。

星奏館は部屋によって二人から四人で住んでいる。俺の部屋は一応四人部屋なんだが、斎宮も瀬名も拠点は海外だから部屋にいる方が珍しい上に、残った衣更や俺にしても時々実家の様子を見に帰っていたりするから、他の部屋に比べると一人になれる機会は案外多い方だろう。
今日もこの部屋は俺一人になることがわかっていたから、夜までは衣装を作るのに専念出来るなと、ずっと作業をしていた。
夜は蓮巳の旦那が来て、夕飯を一緒に食ってからこっちの部屋に泊まっていくってことになっていたから、それまでに衣装作りをやれるところまでやっちまおうって心積もりだったんだが。

「ん……? ヤベぇ、思ってた以上に寝ちまっ……あ?」

衣装を縫っている途中で眠気が来て、ちょっとだけ休憩するつもりで壁に寄りかかってウトウトしていたら、日差しで明るかった部屋はすっかり暗くなっていた。
一旦裁縫道具は片付けて、夕飯の用意でもと思ったところで、肩に寄りかかっている重さと温もりに気付く。
旦那が俺の肩を枕に寝入っていた。
いつの間に部屋に来ていたのか、いつから寄りかかって寝ていたのかもさっぱり覚えちゃいねぇが、多分、俺を起こすのを躊躇った結果、自分も少しだけ寝ようと思ったんだろうな、こいつ。
眼鏡は外されていて、俺が避けておいた裁縫道具と一緒に置かれている。
蓮巳は特に意識しちゃいねぇのかもしれねぇが、蓮巳曰く『生涯の伴侶』と称している眼鏡を、俺の裁縫道具に預けるように置いているっていうのは何となく気分がいい。
旦那は疲労がピークに達すると外でも寝ちまったりするが、その場合ほとんど眼鏡は外さずにそのままだ。
蓮巳は視力がかなり悪いから、寝るとき以外は極力眼鏡を外したがらねぇし、その寝るときにしたって、ちょっとウトウトするって程度ならまず外さねぇ。
俺の傍だから安心して外して眠りについたんだろうなっていうのは、きっとうぬぼれじゃないはずだ。
そっと旦那の髪を撫でると、微かに身動いだから今ので起こしちまったかと手を止めたが、旦那は相変わらず俺の肩に寄りかかったまま。
起こさずに済んだかと思ったが、蓮巳の指が床についたままの方の俺の手首に絡みつく。寝惚けての行動だと思えなくもないが、これは多分目を覚ましてる。

「……狸寝入りかよ、旦那」
「言っておくが、先程までは本当に寝ていたぞ。……予定より早く用事が済んだから来てみたらおまえが寝ていたから、俺も少しくらいはと」

旦那が頭を俺の肩から起こし、眼鏡に手を伸ばそうとしたところで、その手首を掴んで止める。
そして、蓮巳がこっちを向いたところで唇を重ねた。
眼鏡をかけちまうとキスしにくくなるから、その前にってやつだ。

「……ん」

蓮巳の目が驚きの色を浮かべたのは一瞬だ。直ぐに力を抜いて、目を閉じる。
部屋には他に誰もいねぇし、部屋の外も割と静かだから、キスしても問題ねぇって判断したんだろう。
掴んでいた手首を離すと、旦那の方から俺の手を追って指を絡めて来た。
手を繋いで、指先でお互いの手を弄んでいると、触れているのが唇と手だけじゃ物足りなくなる。
一度唇を離して、蓮巳の身体に腕を回すと、やつの方も身体を寄せてこっちに腕を回してきた。
阿吽の呼吸ってやつなのか、こんなところはもう言葉にしなくても何となく通じるもんがあるってことに嬉しくなっちまう。
あやすようにぽんぽんと背中を叩くと、蓮巳の旦那が笑ったのが伝わった。

「予定より早く用事済んだってんなら、おまえも夕飯作りに手ぇ貸してくれるんだよな?」

当初の予定では、旦那の帰りを待ちがてら俺が二人分の夕飯を作るって流れだったが、その本人がもういるなら話は変わってくる。

「ああ。当然だ。で、何を作る予定だ?」
「デミグラスソースのオムライスとオニオンスープ。椎名に美味いデミグラスソースのレシピ聞いたから、それ一回試してみようと思ってな」
「なるほど。それは楽しみだ。食堂に行くか」
「おう」

身体を離す前に一度、旦那を強く抱きしめてから離れる。
温もりを手放すのはちょっと惜しいが、夕飯後にまた抱き合えばいいだけの話だ。今日はまだこれからだしな。
裁縫道具と作りかけの衣装を片付けてから、二人で食堂に向かった。
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#紅敬 #ワンライ

第二百七十六回紅敬版深夜の創作一本勝負、お題『銭湯』を使って書きました。
今回のコラボに絡んだ話になります。
紅月らしい素敵なコラボをありがとうございます!

紅月が出す新曲の販促として、街中にある銭湯とコラボする――と蓮巳の旦那から聞いた時は予想外のことに驚いた。
銭湯とのコラボというのにも驚いたが、それがいわゆるスーパー銭湯の類じゃないってところも意外だ。
ただ、コラボ先の銭湯は過去にも別のコンテンツとコラボした経験もあって、店のスタッフも常連客も慣れており、営業時間にしてもよくある銭湯よりもずっと長い、という話を聞くとそれも納得したし、何より、銭湯の壁に描かれているペンキ絵を今度出す新曲をイメージして改めて描くって話に、旦那がそこに興味持って、コラボの件を了承したんだなとわかっちまった。
蓮巳の旦那はあれで絵心があって、これまでにもちょっとしたイラストとかを描いたりしてたし、漫画なんかも描いたことがあるらしい。
実際、銭湯が休みになる日を使って、その新曲をイメージしたペンキ絵を描くと聞いて、蓮巳がその様子をぜひ見学させて貰いたいと食い気味に事務所に持ちかけていたと朔間から聞いたときには、その様子が目に浮かんで思わず笑っちまった。
とはいえ、当たり前のようにお前も描くところを見に来るだろう?と言われりゃ、行かねぇって選択肢もねぇ。
ただ、銭湯の休みは平日だったのもあり、生憎と神崎は学院での試験日と被ってるってことで、神崎だけは試験が終わり次第の合流となる。
午後からペンキ絵を描き始め、その作業が終了次第、一部の湯船にお湯を張ってくれるから、新しいペンキ絵を見ながら広い湯船で貸し切り状態の一番風呂に入れるとくりゃ、蓮巳じゃなくても楽しみってもんだ。
そして、ペンキ絵を描く当日。
旦那と一緒に昼飯を食ったその足で銭湯に向かい、作業を始めた職人の邪魔になんねぇように、少し離れて後ろの方から様子を眺めていたが、しばらくは揃って無言だった。
赤富士の形が大まかに描かれた段階で、ずっと黙っていた蓮巳が凄い、と小さく呟いたのが聞こえた。

「……下書きとかねぇんだなぁ、これ」

俺の方もつられて、何となく小声で言葉を返す。
俺に絵心はねぇが、それでもこの広い壁に下書きもなしに赤富士や舞う紅葉、鮮やかに咲く蓮の花なんかが次々と描かれていくのが凄ぇってわかる。
曲やユニットのイメージから選んだ、いくつかのモチーフを取り入れて欲しいっていう話は先方に通してあるようだが、そのモチーフは頭ん中だけで組み合わせてあるらしく、下書きは勿論、参考になるような絵や写真なんかも職人の手元にはない。
黙々と職人がペンキ絵を仕上げていく様はただただ圧巻だ。
基本、どんなペンキ絵も銭湯の休みの日を利用して一日で描ききるってんだから、絵を仕上げるスピードも想像していた以上に早い。
このペースなら神崎が来るまでに、ほとんど仕上がっちまうかもしれねぇ。

「ああ。この広さを下書きなしに描けるとは恐れ入る。銭湯自体の数が昔に比べ減少したのもあってか、今や銭湯のペンキ絵を描ける職人は日本全国でも三人しかいないそうだ」
「全国で三人……ってマジかよ」

だったら、目の前で描いているのはその貴重な三人のうちの一人ってことになる。
こりゃ、思っていた以上に珍しいモンを目にしてんだな。
多分、旦那はそれを知ってたから見学したいって言ったんだろう。
今もそう見る機会のない光景に興奮してんのか、目が輝いてるし、俺と話しながらも視線はずっと壁の方から離れずにいる。
仕上がっていくペンキ絵は勿論見応えがあるが、こんな蓮巳も同じくらい見応えがある。
壁に新たにモチーフが描かれるたびに表情に変化が出て、可愛いったらねぇな。
つい口元が緩みそうになったのを慌てて抑えたが、旦那がずっと壁を見ているのは幸いだった。
多分、後で風呂に入ったときはずっとこの絵の話してんだろうなぁと予想しながら、俺も壁へと視線を戻した。
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#紅敬 #ワンライ

キスブラ版ワンドロライ第21回でのお題から『ヒーロー能力』を使って書いた話です。
ルーキー時代にヒーロー能力を使ってセックスする話。(前戯まで)R-18。
多分、コトが済んだ後は怒濤のお小言タイムw

一度試したが最後、二度目はまず許さねぇだろうなという確信だけはあったから、本来の目的は言葉にせず、ブラッドに目隠しした状態で一度ヤッてみねぇかと話を持ちかけた。
ブラッドとはアカデミー時代から何度かセックスしてきたものの、そう奇をてらったようなことはしなかった。
が、元々は気になることがあれば、すぐに調べたがるヤツのことだ。
まして、若い男ともなればいくらブラッドといえど、普段は試さないやり方に興味が全く無いということもないだろうとの読みは外してなかったらしい。
オレの提案に訝しむ様子は見せたが、即却下とはならなかった。
本気で嫌ならブラッドは一瞬の躊躇いもなしに一刀両断するところだが、それがないのなら、これはチャンスだとここぞとばかりに畳みかけてみる。

「動きが見えねぇことで、次はどこ触ったりするのかっていう予測が出来ねぇってのも悪くねぇだろ? 絶対に体に傷つけるような真似はしねぇからさ」
「当たり前だ。されてたまるか。…………目隠しは最後までしておくのか」
「いーや? お前が嫌だって思ったら、その時点で外していいぜ。ま、外すなら出来るだけ遅い方がいいけどな。どうだ?」
「…………いいだろう。不快だと思ったら、その時点で外す」
「おう。サンキュ」

終わった後がちょっと怖ぇなと内心で思いながらも、アカデミー時代にバイトで必要になって買った安物の黒いネクタイを目隠しに使う。
オレがブラッドの視界を遮るのには、抵抗もせずに大人しいもんだ。

「目のとこキツくねぇか? あと、コレ見えたりしてねぇ?」
「問題ない。見えてもいない」
「よし。じゃ、始めるぞー」
「ん…………っ!?」

ブラッドの顎に指を這わせて、これからキスすると思わせたところで触るのはペニスだ。
バスローブの上から撫でてやると、まだ柔らかかったそこが布地越しにも芯を持っていくのが伝わる。
さりげなく裾を割って、直接指を局部に滑りこませ、タマんとこを擽るようにしてやるとブラッドが吐息をこぼしながらも、オレの位置を手探りで確認しながら触ってくる。
このぐらいはまだ予想の範疇だろう。
ブラッドがオレの首筋に手を這わせているうちに、音を立てねぇよう気をつけながら、こっそり隠して置いたヤツをサイコキネシスを使って手元に引き寄せる。
シリコン製のローターを電源を入れないままでブラッドの乳首近くまで寄せて、乳首に触れさせると同時にスイッチを入れた。
一番弱い振動のはずだが、衝撃からかブラッドの体が跳ねる。

「ひっ! なんっ、あっ……!?」
「お、悪くなさそうだな」
「何を、持ち込ん、だ」
「大人の玩具ってヤツだな。シリコンだし、痛くはねぇだろ?」
「そんなもの使うとは聞いて――」
「言ってねぇけど、使わねぇとも言ってないだろ」
「うあ!」

一段階振動の強度を上げると、首筋に触れてたブラッドの指が離れて、乳首に触れさせてるローターを外そうとしたから、その前にローターを一旦避けて、ブラッドに口付ける。

「っ、キー、ス……」

多分、抗議の声を上げてぇんだろうけど、そうするには少し早いとも思ったのかも知れない。
絡めた舌は拒まれず、少しの躊躇の後にブラッドも舌の動きに応じて動かしてきた。
そんな状態につけこむような真似をするのもちょっとばかり気が咎めたが、多分次は許してくれねぇだろうからと開き直って、先程避けたローターを今度はブラッドのペニスの付け根に触れさせた。
声こそ上げなかったが、舌の動きは完全に止まってる。
再び振動を弱くして、付け根から先っぽへとローターをサイコキネシスで動かしながら、バスローブの腰紐を解いて、乳首を軽く摘まむとブラッドの眉が吊り上がった。

「きさ、ま。ヒーロー能力、をこんな……っ、こと、に使う、など……!」
「あ、やっぱバレたか」

この動きは両手だけじゃ無理だもんな。
ま、小言は後で聞くから、もうしばらくは楽しませてくれと、心の中でだけ呟いて行為をそのまま続けた。
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#キスブラ #ワンライ #R18

ブラキス版ワンドロ&ワンライ第12回(最終回)でのお題から『指切り』+第11回のお題の『キス』を使って書いた話です。
ロスト・ゼロ後、ディノがいなくなってから間もなくくらいの頃。+20分ほど。
企画&運営ありがとうございました!

ディノがいなくなって以降、キースはそれまであまり口にしなかった酒に溺れるようになり、よく酔い潰れるようになった。
今日もキースがよく訪れるバーで酔い潰れたと連絡を貰い、キースを迎えに行き、ヤツの家までこうして連れて帰ってきた。
10期生としてタワーで数年の共同生活を送った後、キースは所属することになったウエストに家を借りて生活するようになったが、ここ数ヶ月は訪れる度に床に転がる酒瓶の数が増えているような気がする。
あれほど、酒に溺れるのはごめんだと、父親のようにはなりたくないと言っていたというのに。
キースの飲み方は酒を楽しむというよりも、自分を傷つけているようにも見える。
微かに胸の奥に感じた痛みを押し込め、ベッドにキースを放り込み、キッチンから水を持ってこようとしたところで、酔い潰れていたはずのキースが俺の腕を掴んだ。
予想していなかった動きに加え、思いの外、力が籠められていたことで、よろめいてキースに覆い被さるような形になる。
とっさに腕をついて、キースを潰さないようにはしたが、キースの方が俺の体に腕を回して体を密着させた。

「おい、キース離せ」
「やだ、行くなって……」
「水を持ってくるだけだ。すぐ戻る」
「行くなよ、ブラッド……お前は……ここ、に……いて」

益々、力の籠められた腕。
強引に腕を振りほどくことも出来ただろうが、行くなと口にしたときの響きが妙にもの悲しく聞こえたせいか、振りほどくことに躊躇いが生じた。
数分もすれば、完全に眠りに落ちて力も入らなくなるだろうと諦め、体の力を抜いて体重をそのままキースに預ける。
自分と大して変わらない体格の男だ。結構な重さを感じているだろうに、キースが笑ったのが伝わった。
――キースの笑い声を聞いたのは久し振りのような気がする。
ただ、やはりどこかその笑う声に悲しい響きが混じっているように思えた。
表情を確認しようと思ったが、頭を上げようとしたところでキースがそれを止める。
今の顔を見られたくないのかと判断して、再び体の力を抜いた。

「…………これでいいか」
「ん……そうそう、これでいい……お前はどこにもいかない……ってやく、そく……」
「キース」
「おいて、いくな……よ……約束した、からな……」

キースの指が俺の小指を握りこんだ。
約束、と言いながらの行動だから、本人はこれで指切りのつもりなのかもしれない。
もっとも、酔っ払っているキースに行動の如何を問いかけたところで無駄だろう。
明日にはきっと何もかも忘れている。
俺がこの家までキースを運んだことも、キースが俺に行くなとねだったことも、一方的に投げつけた約束も。
読み通り、キースが眠りに落ちて、力の緩み始めた指からそっと小指を抜き取り、そのまま指を離す前に少しだけキースの小指に自分の小指を絡めた。

「――置いてなどいくものか」

ディノについて本当のことを告げてやれない後ろめたさはあるが、それでもキースに今言うわけにはいかない。
事実を言ってしまえば、俺を置いていってしまうのはきっとお前だ。
それだけはさせない。させてたまるものか。

「お前を置いてなどいかないから、お前も俺を置いていくな」
「…………ん……」

キースに聞かせるためではなく、自分に言い聞かせるように呟いた言葉にキースが反応した。
まともな返事などではないとわかっているが、それでも少しだけ心が落ち着いたのを自覚する。
置いていくなと、もう一度心の中で呟きながら、すっかり煙草と酒の匂いが纏わり付いたキースの髪を軽く撫でてからそっと口付けた。
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#ブラキス #ワンライ

キスブラ版ワンドロライ第20回でのお題から『きんぴら』を使って書いた話です。
西のドラマCD試聴で、キースが禁ピザをきんぴらに聞き間違えたのって絶対ブラッドの影響ですよね……w

「キンピラ?」

和食はだしをとったり、切り方に拘りがあったりと、何かと手順が面倒くさいから作れねぇ、と前々からブラッドには言ってあったが、ヤツはどうにも諦めきれなかったらしい。
ある日、前触れもなしにこれなら和食でも簡単な方だから、とブラッドが持ってきたレシピがキンピラゴボウって料理だった。
根菜類をメインにし、甘辛く炒めた料理だという。

「これなら、だしは使わずに出来る料理だがどうだ? 切り方も繊細な類のものではない。調味料もゴボウもリトルトーキョーなら購入出来る。ご飯のおかずだけでなく、酒のつまみとしても合う料理だそうだ」

酒のつまみという言葉に興味をひかれ、レシピに目を通すと確かに手順としてはそう面倒なものじゃなかった。
ただ、ゴボウって野菜には馴染みがない上に、画像を見た限りじゃあんまり美味そうに見えねぇ。
泥がこびりついていて、ぱっと見は木の根っこみてぇだ。

「ゴボウ……ってこれちゃんと食えんのか?」
「食材にしているのは日本ぐらいらしいな。だが、食物繊維が豊富でミネラルも含まれるし、リトルトーキョーなら問題なく手に入る。勿論、他にも必要なものはこちらで一通り用意するから――」

作って欲しいと言われちまうと、断るのも気が引ける。
酒のつまみとしても合うとなれば、正直興味もあるし。
何より、ブラッドがどうにかオレが作りそうな和食を探して、こうしてレシピを持ってきたってことを考えると、中々可愛いことすんなって思っちまったのもあった。
今も表情はそう変わってないが、凄ぇ期待した目でこっちを見てる。
しゃーねぇなぁ。

「んー……ま、いいか。今度のオフの時でいいよな? そのレシピのファイル、後でオレのとこに送っといてくれ」
「ああ。感謝する。日本酒も何か調達して行こう」
「お。マジか。そっちが楽しみだわ」

ふわ、と目元を綻ばせたブラッドに、だったら、もう一品ぐらいそのゴボウを使った料理探して作ってみるかとこっそり内心で決めた。

***

オフ当日。
オレは朝から休みだったが、午前中は仕事だったブラッドが、仕事終わりに食材を調達してくれたから、夕食に合わせてブラッドご希望のキンピラゴボウ、そしてそれと一緒に作ったもう一品の和食を出すとブラッドが明らかに目を輝かせた。

「これ、は」
「ゴボウに関してのレシピ探してたら、牛肉の八幡巻きってのがあって、使う調味料もキンピラゴボウとほぼ被ってたから一緒に作ってみた。まぁ、調味料が被ってるだけあって、ベースの味にそう変化があるわけじゃねぇけど、こっちはこっちで赤ワインにも合うとか見かけちまったからさ」

ついでとばかりに白飯と吸い物の一つも用意しちまった。
まぁ、白飯はブラッドが家に持ち込んだ炊飯器使ったし、吸い物も白だしって調味料をベースにしていて、わざわざだしをとったやつじゃねぇから、かなり手軽なもんではあるが、結局は完全に和食の献立だ。
ブラッドが持ってきた日本酒と、こっちで用意してあった赤ワインも一緒にテーブルに出して並べると、ブラッドがまだ酒も飲んでねぇのに、微かに頬を染めている。
思ったよりテンション上がったみてぇだな、こりゃ。
こんな反応をされるのは正直悪くない。

「…………ありがとう、キース」
「おう。じゃ早速食おうぜ。初めて作ったヤツだから、出来までは保証しねぇけど」
「そう言って、お前の料理が失敗していた記憶もないがな。いただきます」
「いただきますっと」

すっかりブラッドの影響で覚えちまった日本式のあいさつをしながら、たまには和食もいいかとこっそり思ったりなんかした。
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#キスブラ #ワンライ

キスブラ版ワンドロライ第19回でのお題から『花見酒』『温泉』を使って書いた話です。
※数年後の時間軸で、既に二人とも研修チームのメンターではない&キスブラが一緒に住んでるというのを想定の下に書いてます。
 
オレとブラッド、二人が同時に取れた長期休暇は少し桜の時期には早く、花見酒を楽しむのはちょっとばかり難しいと予想していたが、ここ数日で急に暖かくなったとかで、いざ目的地に訪れてみれば、ちょうど満開のタイミングだったのは運が良かった。
今回泊まる宿は客室に温泉を引いた露天風呂がついていて、しかも一杯だけなら風呂で酒を飲んでもいいとくれば、飲まない手はねぇ。
まだ外は明るいが、日が沈んじまう前にまず一回風呂に入って飲もうって提案はブラッドも断らなかったから、宿に着いて早々に二人で風呂に浸かっている。
露天風呂からは大きめの桜の木が見えて、単純にその桜を眺めるのもいいが、風向きのせいで時折桜の花片がこっちまで飛んできて、湯船に浮かぶのもいい。
こういうのを『風流』とか言うんだっけか?
ブラッドも景色をちゃんと見たいのか、コンタクトは外してるが風呂用の眼鏡を持ち込んで来ている。

「あー……酒は美味いし、風呂からの眺めもいいし最高だなぁ。これで酒がもう一杯飲めりゃ言うことねぇんだけど」
「温泉に浸かりながら飲むのは一度に一杯まで、がこの旅館のルールだ」
「わあってるって。一杯だけだから、こうしてちびちび飲んでんじゃねぇか」

そうは言っても個室だから、こっそり飲めばわかんねぇだろうけど、まぁそういうのをブラッドが許すはずねぇんだよな。
せっかくの旅行でお小言を聞きたくはねぇし、ここは大人しくしとくに限る。
今回みたいに二人揃っての長期休暇なんて、今度いつ取れるかわかんねぇし、ブラッドにしてみりゃ念願の日本旅行だ。
空港降りた時から、どことなく楽しげにしているブラッドの機嫌を損ねるようなことをするのも気が咎める。

「…………ただ、一度に一杯ということは、夜にまた温泉に浸かるのであれば、その時にもう一杯飲む分には構わないということだろう。お前が夕食後にやたらに飲み過ぎなければの話だが」
「お、いいねぇ。夜桜を肴に一杯! せっかくだし、次は何か違う銘柄の酒持ってきて貰って、温泉に入った後は部屋でそのまま飲み明か……」

そこまで言って、ふと気付いた。
日本を旅行するなら、訪れる場所はブラッドの好きにしていいが、美味い日本酒を楽しみたいと言ったのはオレだ。
結果、訪れる場所や宿を決めたのはほぼブラッドだが――。

「……もしかして、お前さ。温泉に入りながら飲める宿、わざわざ探してくれたの?」

普段は家で風呂に入りながら酒を飲むのは極力やめておけとブラッドに言われている。
ブラッドと一緒に住むようになったとき、ブラッドの希望で浴室は日本風のものにしたが、入浴しながらの飲酒はどうしても体への負担もかかるから、せめて自分がいるときに少し飲むだけにしろと。
実際、下手に風呂場で酔っ払って寝たとしたら世話になる相手は間違いなくブラッドだし、そうなったらブラッド側としちゃ面倒だよなと、あんまり家で風呂に入りながら飲むことはしてこなかったんだけど。

「美味い日本酒を楽しみたいと言ったのはお前だろう。今回の旅行は場所にしろ、食事にしろ、ほとんど俺の希望を通したのだし、そのくらいはと思ってな」
「おお……マジか。嬉しいことしてくれるねぇ」

ブラッドの頬が紅く染まってるのは風呂で上気してるだけとも取れるが、微かにオレから視線を逸らしたあたり、多分照れてる。
オレが飲んでいる一方、ブラッドがほとんど酒に手をつけてないのも、恐らくオレの様子を気にしてのことだ。
ホントは旅行先で酔い潰れられるのなんざごめんだろうに。

「サンキュ、ブラッド」
「……そう思うのなら、酒は適度にしておけ。夜は長い」
「へいへい」

その長い夜は夜桜だけを楽しむなってことだろう。適度、ってのはその後に動ける余力を残せって意味だ。
ブラッドは表情がわかりにくいことも多いが、いい加減長い付き合いだ。そんくらいは察する。
わかってると言う代わりに、酒を一度盆の上に置き、ブラッドの眼鏡を外してキスを交わした。
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#キスブラ #ワンライ

キスブラ版ワンドロライ第15回でのお題から『本音』『バレンタインデー』を使って書いた話です。
バレンタインデー限定のホームボイスネタが含まれます。

「…………何だ、この有様は」

バレンタインデーから数日後。
お互いのオフに合わせる形でキースの家を訪れたら、そこには解かれた包装と酒瓶で山が出来上がっていた。
元々、整理整頓の得意ではないキースの家やタワーの研修チーム部屋が散らかっているのは日常茶飯事だが、今日は特に酷い状態だ。
足の踏み場もないとはこのことだろう。
雑多に散らばっている包装に使われていた箱や包み紙を軽く纏め、どうにか道を作ってキースの元まで行くと、俺が来るのを待っている間に少し飲んでいたらしいキースが、少し赤みがかった顔でニヤリと笑った。

「バレンタインデーに市民から貰ったヤツだよ。オレなんかに贈って寄越すような市民はちゃんと好み覚えててくれてんだよなー。大体が酒かウイスキーボンボンをくれたんだよ。これでしばらくは飲むのに困らねぇ」
「……そういうことか」

キースは積極的にファンサービスを行うタイプではないが、曲がりなりにもメジャーヒーローだ。
特にルーキー研修終了後からはずっとウエストセクターに所属し、ここ数年はウエストセクターのバーを中心に日々飲み歩いていることもあって、他地域はともかくウエストではそれなりに知名度が高い。
キースが甘い物を好まず、酒を好むことは、特にバーでキースを見かけることがある者なら容易にわかるだろう。
よくよく見れば、確認出来る範疇の酒は大体が良いものだとラベルからわかるし、別途分けて置かれていたメッセージカードも結構な量になっている。
どれもキースのことを考えた上で贈られているのが伝わって来た。
ウエストのセクターランキングが順調なのもあってか、例年よりも多いような気がする。
恐らく、タワーの部屋にもまだプレゼントはあるはずだ。

「今年は随分貰ったようだな」
「はぁ? お前がそれ言うのかよ? アカデミー時代から抱えきれない量のプレゼント貰ってたお前が。今回だってどうせ沢山貰ってるんだろうが」
「否定はしない。少なくはないだろうな」
「だよなー。知ってた。ま、それはそれとしてお前もくれるんだろ?」

当たり前のように手を差し出して来た相手に、つい溜め息を吐きながら、持参していた紙袋ごと渡す。
受け取ったキースが直ぐさま袋から中身を取りだし、包装を取り除く。
箱を開けた途端にキースの目の色が変わった。

「おお、日本酒とチョコの組み合わせか」
「ああ。そのチョコは同梱されている日本酒を使って作られたものだそうだ」

日本酒であれば、他の者からのプレゼントとは恐らく被らないだろうと選んだ一品だ。

「いいねぇ。サンキュ。じゃ、早速……っと。お、チョコの方も甘さ控えめでいいな。こりゃ、日本酒の方も期待出来そうだ。なぁブラッド」
「? 何…………っ!」

手招きされて、キースにもう少し近寄ると頭をおさえられ、唇を重ねられる。
酒とチョコの混じった香りを纏った舌が唇をこじ開け、俺の口の中に溶けかけたチョコを押し込んできた。
ふわ、と甘い香りが一際強くなる。
口の中のチョコを転がすのと同時に、舌で歯茎や上顎も擦られて、チョコが溶けきった頃にはすっかり息が上がってしまい、気付いた時にはいつの間にかベッドの上だった。
どうやら、口付けを交わしている間にサイコキネシスで移動させられていたらしい。
油断のならない男だ。

「……酔っ払いとはしたくないが」
「大して酔ってねぇのくらいわかってんだろ。記憶飛ぶほど飲んじゃいねぇし、勿論、勃たなくなるような状態でもねぇ」
「んっ」

俺に覆い被さったキースが腰を押し付けてくる。
布地越しでも既に固さも熱も持っていると伝わるそれに、こっちもつられて反応してしまう。

「キー、ス」
「プレゼントは有り難いけど、どうしてもこの時期はカロリーオーバーが気になるよなー。ってことで、早速運動して消費するとしようぜ。俺からお前にやる分のチョコはもうちょっと冷蔵庫で冷やしときたいしさ」
「……何か作ってくれたの、か」

早くも体を這い始めた指に翻弄される前に確認したくて問いかけたら、キースが目を細めた。
バレンタインデーに何かを贈りあうことはしても、それが手作りだったことはまだない。
イベントごとは面倒がる傾向もあるし、何かをくれるだけでも十分だと思っていたのだが、どうやら今年は少し勝手が違うようだ。

「まぁな。何かは後のお楽しみってやつだけど。――楽しみだろ?」
「ああ。楽しみ、だ」

キースの作るものに外れはない。
冷蔵庫にあるというチョコが楽しみというのは紛う方ない本音だ。
だが、それ以上にわざわざ手をかけて作ってくれたことが嬉しい。
きっと、俺が他の者とのプレゼントとは被らないようにと選んだのと同じように、キースも他者とは被らないようにとそれを作ってくれたのだろうから。
癖のあるアッシュブロンドを撫でながら、俺からもキスを仕掛け、部屋の惨状には一先ず目を瞑り、束の間の行為に没頭しようと決めた。
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#キスブラ #ワンライ

■Information

@yukiha_hrksの書きかけ&pixivUP前の短編置き場。ジャンルもカプも雑多。
しばらくはエリオス(キスブラ他)が多くなりそう。
完成するかもしれないし、しないかもしれない。
らくがきは適度な頃に消し。
各ワンドロライで書いた分については後日サイト等にも置きます。
※こちらはポイピクが重いときの避難所です。
置いているものは大体一緒です。
Junkや未整頓だったサイトのEntryからも移行作業中。
タイムスタンプはサイトに置いている分はサイトの記録から、置いてない分は元ファイルの作成日。
https://whitealice.xyz/

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