2023年の投稿[2件]
2023年5月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
おむおこ2での展示作品。
とあるオフの日の朝の一幕。朝チュンブラキス。
<Keith's Side>
けたたましく鳴り響いたアラートの音に続いて、イクリプスが現れたことを告げるジャックの声が聞こえ、ぼんやりしてた意識が一気に覚醒した。
……出現数が多くはなさそうだが、ここからまぁまぁ近ぇ場所だな。
本来、今日はオフだったとはいえ、緊急事態となりゃそんなの関係ねぇのもヒーローだ。
しゃあねぇな、一仕事してから寝直すかと身体をベッドから起こしかけたところで、先に身体を起こしていたブラッドに制止された。
「あ?」
「お前はそのまま寝てろ」
「は? どういうことだよ」
「…………ジャックの報告通りなら、俺一人で十分だ。直ぐに片をつけてくる」
オレから視線を逸らすようにベッドから出ようとしたブラッドの腕を掴む。
「……お前、オレがそんなヤワだと思ってんのかよ」
昨夜オレが単純に飲み明かしての二日酔いとかなら、ブラッドは絶対にこんなこと言わねぇ。
自業自得だ、ヒーローとしての自覚はあるのか貴様、ぐらいの小言を浴びせて、無理矢理にでも現場に引きずっていくとこだろう。
今日に限って、そんならしくねぇことを言うのは。
「思ってはいない。が、昨夜は無茶をさせたという自覚はある」
――お互いのオフが久々に重なって、セックスも久々で、随分盛り上がっちまったからだ。
下手に双方体力がそれなりにあるもんだから、スイッチが入ると中々歯止めがきかなくなるんだよな。
何回イッたか忘れたが、さすがに限界と寝たのは空が白み始めた頃だった。
「『させた』ねぇ……お互い様だろうがよ、あんなん」
本当に無理だと思ったら、こっちだってそもそも応じねぇし、そうなったら無理を通すなんてことは絶対にやらねぇヤツだ。
そりゃ、身体の負担はどうしたって受け入れるこっちの方がデカくなるとはいえ、オレだってそれなりに煽った結果だってのに。
どうも、ブラッドは自分に負い目があると一人で抱えようとする癖があるんだよな。
ディノの時だってそうだった。
ずっとオレには黙って、一人で抱えて、真相を確かめるために動いて。
普段はあんなに暴君だってのに、どうもその辺りは本人の自覚も薄いような気がする。
……不器用にも程があるだろ。
掴んだ腕を支えにオレも身体を起こして、ブラッドの背中をぽんと叩いた。
昨晩ブラッドの背中に散々つけちまった爪痕やら指の痕は大分薄くなっている。オレの身体についてるキスマークなんかも多分そうだろう。
サブスタンスの効力で回復が常人より早いのはこういう時助かる。
まだ寝足りねぇとは思うが、それでも体力もある程度は回復してるから、イクリプス数体相手にするぐらいじゃ、ちょっとした運動ってとこだ。
「一人より二人で片付けた方が効率もいいだろ? とっとと終わらせて寝直そうぜ」
「――そうか。そうだな」
ブラッドの目元が微かに綻んだのを確認しつつ、着替え始めた。
せっかくのオフの邪魔をしてくれたヤツには思い知らせてやらねぇとな。
なぁ、ブラッド。
<Brad's Side>
目が覚め、枕元に置いていたスマートフォンで時間を確認しようとした瞬間に鳴り響いたのは、イクリプスの出現を知らせるアラート。
ついで、3Dホログラムで映し出されたジャックがイクリプスの出現した位置とおよその数を知らせてくる。
多くはないが、現場は昨夜泊まったこのキースの家からは比較的近い。
少なくともタワーに住んでいるヒーロー達よりは早く現場に到着し、対応することが出来るだろう。
直ぐに出動しなければ。
キースも今のアラートで目を覚ましたらしく、起きようとしていたが、反射的にそれを押しとどめた。
「あ?」
「お前はそのまま寝てろ」
「は? どういうことだよ」
「…………ジャックの報告通りなら、俺一人で十分だ。直ぐに片をつけてくる」
昨夜は久し振りのセックスだったせいもあって、箍が外れた。
交わる熱の心地良さに浮かれていたと言っても良い。
引き際を見極められず、眠りについたのは結局早朝だ。
受け入れる側のキースには結構な負担がかかったはずで、もう少し休ませてやりたい。
だが、ベッドから出ようとしたところで、キースが俺の腕を掴んで引き止めた。
「……お前、オレがそんなヤワだと思ってんのかよ」
「思ってはいない。が、昨夜は無茶をさせたという自覚はある」
「『させた』ねぇ……お互い様だろうがよ、あんなん」
「………………」
セックスは一人では成り立たない。
当然、合意の上での行為とはいえ、身体への負担にはどうしたって差がある。
キースの方は本来セックスに使う器官ではない場所を慣らして、身体を重ねているのだから。
…………これでキースが飲み過ぎて酔い潰れた等であれば、キースもこれ幸いにとオレは休んどくわとでも言うだろうし、そんな貴様の都合など知らんと突っぱねて本来のヒーローとしての仕事をさせるだけだが――。
どう返したものかと思案していると、キースが微かに苦笑いを浮かべて身体を起こし、俺の背を軽く叩く。
気にするなとでも言うかのように。
「一人より二人で片付けた方が効率もいいだろ? とっとと終わらせて寝直そうぜ」
「――そうか。そうだな」
言外に一人でやろうとするんじゃねぇよと含められた気がして、引き下がることにした。
キースの言うように二人で対応した方が実際早く片付く。
休ませてやるのはその後でいい。
出来るだけ早く片付けて、残り少ないオフを満喫することとしよう。
Close
#ブラキス
とあるオフの日の朝の一幕。朝チュンブラキス。
<Keith's Side>
けたたましく鳴り響いたアラートの音に続いて、イクリプスが現れたことを告げるジャックの声が聞こえ、ぼんやりしてた意識が一気に覚醒した。
……出現数が多くはなさそうだが、ここからまぁまぁ近ぇ場所だな。
本来、今日はオフだったとはいえ、緊急事態となりゃそんなの関係ねぇのもヒーローだ。
しゃあねぇな、一仕事してから寝直すかと身体をベッドから起こしかけたところで、先に身体を起こしていたブラッドに制止された。
「あ?」
「お前はそのまま寝てろ」
「は? どういうことだよ」
「…………ジャックの報告通りなら、俺一人で十分だ。直ぐに片をつけてくる」
オレから視線を逸らすようにベッドから出ようとしたブラッドの腕を掴む。
「……お前、オレがそんなヤワだと思ってんのかよ」
昨夜オレが単純に飲み明かしての二日酔いとかなら、ブラッドは絶対にこんなこと言わねぇ。
自業自得だ、ヒーローとしての自覚はあるのか貴様、ぐらいの小言を浴びせて、無理矢理にでも現場に引きずっていくとこだろう。
今日に限って、そんならしくねぇことを言うのは。
「思ってはいない。が、昨夜は無茶をさせたという自覚はある」
――お互いのオフが久々に重なって、セックスも久々で、随分盛り上がっちまったからだ。
下手に双方体力がそれなりにあるもんだから、スイッチが入ると中々歯止めがきかなくなるんだよな。
何回イッたか忘れたが、さすがに限界と寝たのは空が白み始めた頃だった。
「『させた』ねぇ……お互い様だろうがよ、あんなん」
本当に無理だと思ったら、こっちだってそもそも応じねぇし、そうなったら無理を通すなんてことは絶対にやらねぇヤツだ。
そりゃ、身体の負担はどうしたって受け入れるこっちの方がデカくなるとはいえ、オレだってそれなりに煽った結果だってのに。
どうも、ブラッドは自分に負い目があると一人で抱えようとする癖があるんだよな。
ディノの時だってそうだった。
ずっとオレには黙って、一人で抱えて、真相を確かめるために動いて。
普段はあんなに暴君だってのに、どうもその辺りは本人の自覚も薄いような気がする。
……不器用にも程があるだろ。
掴んだ腕を支えにオレも身体を起こして、ブラッドの背中をぽんと叩いた。
昨晩ブラッドの背中に散々つけちまった爪痕やら指の痕は大分薄くなっている。オレの身体についてるキスマークなんかも多分そうだろう。
サブスタンスの効力で回復が常人より早いのはこういう時助かる。
まだ寝足りねぇとは思うが、それでも体力もある程度は回復してるから、イクリプス数体相手にするぐらいじゃ、ちょっとした運動ってとこだ。
「一人より二人で片付けた方が効率もいいだろ? とっとと終わらせて寝直そうぜ」
「――そうか。そうだな」
ブラッドの目元が微かに綻んだのを確認しつつ、着替え始めた。
せっかくのオフの邪魔をしてくれたヤツには思い知らせてやらねぇとな。
なぁ、ブラッド。
<Brad's Side>
目が覚め、枕元に置いていたスマートフォンで時間を確認しようとした瞬間に鳴り響いたのは、イクリプスの出現を知らせるアラート。
ついで、3Dホログラムで映し出されたジャックがイクリプスの出現した位置とおよその数を知らせてくる。
多くはないが、現場は昨夜泊まったこのキースの家からは比較的近い。
少なくともタワーに住んでいるヒーロー達よりは早く現場に到着し、対応することが出来るだろう。
直ぐに出動しなければ。
キースも今のアラートで目を覚ましたらしく、起きようとしていたが、反射的にそれを押しとどめた。
「あ?」
「お前はそのまま寝てろ」
「は? どういうことだよ」
「…………ジャックの報告通りなら、俺一人で十分だ。直ぐに片をつけてくる」
昨夜は久し振りのセックスだったせいもあって、箍が外れた。
交わる熱の心地良さに浮かれていたと言っても良い。
引き際を見極められず、眠りについたのは結局早朝だ。
受け入れる側のキースには結構な負担がかかったはずで、もう少し休ませてやりたい。
だが、ベッドから出ようとしたところで、キースが俺の腕を掴んで引き止めた。
「……お前、オレがそんなヤワだと思ってんのかよ」
「思ってはいない。が、昨夜は無茶をさせたという自覚はある」
「『させた』ねぇ……お互い様だろうがよ、あんなん」
「………………」
セックスは一人では成り立たない。
当然、合意の上での行為とはいえ、身体への負担にはどうしたって差がある。
キースの方は本来セックスに使う器官ではない場所を慣らして、身体を重ねているのだから。
…………これでキースが飲み過ぎて酔い潰れた等であれば、キースもこれ幸いにとオレは休んどくわとでも言うだろうし、そんな貴様の都合など知らんと突っぱねて本来のヒーローとしての仕事をさせるだけだが――。
どう返したものかと思案していると、キースが微かに苦笑いを浮かべて身体を起こし、俺の背を軽く叩く。
気にするなとでも言うかのように。
「一人より二人で片付けた方が効率もいいだろ? とっとと終わらせて寝直そうぜ」
「――そうか。そうだな」
言外に一人でやろうとするんじゃねぇよと含められた気がして、引き下がることにした。
キースの言うように二人で対応した方が実際早く片付く。
休ませてやるのはその後でいい。
出来るだけ早く片付けて、残り少ないオフを満喫することとしよう。
Close
#ブラキス
2023年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
世界の果てまで共に
天使×堕天使のキスブラ。
報酬フレームのテキストからイメージしたパロ。
厨二設定しかないので、ポイピクではフォロ限ですが、こっちは見る人自体が少ないのでそのまま置いときます。
ブラッド視点も追加。神(モブ)が出ます。
[Keith's Side]
「……何で逃げねぇの」
オレがブラッドの胸元に突きつけた剣は堕天使を討伐するためだけに作られたもので、僅かでも触れれば存在が消滅するように出来ている。
コイツがそれを知らねぇはずはない。
なのに、抵抗する素振りも見せねぇ。
「…………ここで逃げたところで他の追っ手が来るのだろう。ならば、お前の手に掛かって終わるのも悪くないと思ったまでだ」
そう言葉にしたブラッドの目には迷いがない。
かつて、天界でもっとも神に近い天使と言われていたあの当時となんら変わりのない目だ。
――下界の争いごとにより、人間たちが……幼い子どもたちも含めた命が日々失われている。だが、神はそれは淘汰であり、必要な犠牲だと言う。だから、手出しは不要だと。俺はそれが納得出来ん。
そう言って、ブラッドは神の元へと直談判に出向いたが、直後知らされたのはブラッドが堕天したとの報告だった。
誰もが耳を疑ったし、オレも信じられなかった。
再会して、堕天した証である黒い翼を見るまでは。
だが、それ以外は何も変わっちゃいない。
融通のきかないカタブツ。己の信念のままに突き進む、以前と同じブラッドがいた。
下界で失われる命の数が減ったというのは間違いなくコイツによるものだろう。
「一応、聞くけど後悔は」
「していない」
「だよなぁ」
剣を引いて、そのまま手放す。
地に落ちた剣の衝撃音がやけに甲高く響いた。
ブラッドが失ったのは左の羽根か。
だったら、オレは右だなと手を背の方に回して、勢いに任せて自分の右の羽根をもぎ取った。
「いっ……!」
「なっ、キース!!」
ずっと平然としていたブラッドの目に初めて動揺の色が浮かぶ。
自分だってつい先日同じようなことしただろうがよ。
身体から離れた羽根は白から黒へと色を変え――気付けば視界に映る残った左の羽根も漆黒に染まっていた。
なるほどな、堕天するとこうなんのか。
背の痛みが少し和らいだのはブラッドの力だな。
堕天しても天使として持っていた力は健在ってことか。
「……馬鹿な真似を」
「いや、お前にだけは言われたくないわ、それ。……ったく、一人でさっさと決めやがって。肝心なとこで一人でどうにかしようとするのやめろよな」
普段冷静な癖にブチ切れると見境ねぇよな、全く。
「――共に来てくれるのか」
「一人より二人の方が逃げやすいだろ。オレは左側の羽根残したし、肩組んで呼吸合わせりゃ何とか飛べんじゃねぇの。能力も残ってんだし」
「なるほどな」
ブラッドと肩を組み、幾度か羽根を羽ばたかせ、タイミングを合わせて地を蹴ると呆気ないほど楽に飛び立てた。
悪いな、カミサマ。
オレももうアンタには従えねぇよ。
二度と触れなくなった剣を一瞥し、オレも天界に別れを告げた。
[Brad's Side]
――何故、介入しないのですか。あの地域は今明らかに度を超えた殺戮が行われている。放置していいはずがない。
――人は増えすぎたのだよ、ブラッド。故に世界の生態系全てに弊害を及ぼし始めている。あれは必要な犠牲だ。
――必要…………?
――全てを救い上げることなど出来ない。弱い生命が淘汰されていくのはこれまでの歴史でも繰り返されてきたことだ。浄化だと思えば良い。それでもなお、争いがやまないなら、それは世界の寿命だ。
だから、見捨てるというのか。
祝福され生まれたばかりの赤子も無残に殺されることも珍しくなくなりつつあるあの地を。
浄化、という言葉にこれほど嫌悪感を覚えたことはない。
いつだったか、キースが胡散臭いと評したその言葉の意味が今はわかる。
神が見放すというのであれば。
――せめて、この手で救えるだけでも俺が救う。
――ブラッ……!?
片翼をむしり取り、それをそのまま目の前の神に叩きつけた。
瞬く間に黒く変化した羽根にこんなに簡単だったのかと苦笑いする。
――貴方にはもう従えない。俺は俺の信じる道を行く。それを堕天と言うのなら好きに言えばいい。
――ブラッド!!
羽根を失った背の痛みを堪え、急いでその場を立ち去る。
キースに別れを告げる間もなかったことだけが心残りだったが、ここで捕らえられては本末転倒だ。
幸い、堕天しても天使の能力は失われなかったから、それを利用し、可能な限り殺戮を食い止めていたが――キリがなかった。
生命を救いつつ、堕天使を討つ天界の追っ手からも身を隠し続けるのは容易ではなく、消耗が激しくなってきたタイミングで俺の前に現れたのはキースだった。
「本当に堕ちたんだな、お前」
「…………キース」
ほんの一瞬だけ泣きそうに見えた表情に動けなくなった。
キースの掲げている剣が天界の最終兵器と謳われる堕天使を消滅させるものだと気付いても、その剣先が胸元に触れそうなところに定められても。
キースの実力は俺が誰より知っている。
そもそも、この剣を扱えるのは天界でも一握りの天使だけだ。
万事休す。
他の者の手に掛かるよりは、キースにならば――。
「……何で逃げねぇの」
「…………ここで逃げたところで他の追っ手が来るのだろう。ならば、お前の手に掛かって終わるのも悪くないと思ったまでだ」
「一応、聞くけど後悔は」
「していない」
俺の命運もここまでか、という悔いはあれど、堕天したことについての後悔は微塵もない。
「だよなぁ」
知っていた、と言わんばかりの口調でキースが剣を引き、そのまま持っていた剣を地面に落とす。
どういうつもりかと問い質そうとした刹那、キースが自らの片翼をもぎ取った。
「いっ……!」
「なっ、キース!!」
もぎ取られ、地に落ちたキースの翼が黒く染まる。
そのまま残っている方の羽根も、あっという間に全て黒くなった。
急いで膝をついたキースに駆け寄り、回復の術を使う。
「……馬鹿な真似を」
「いや、お前にだけは言われたくないわ、それ。……ったく、一人でさっさと決めやがって。肝心なとこで一人でどうにかしようとするのやめろよな」
普段冷静な癖にブチ切れると見境ねぇよなとぼやかれて、一瞬返す言葉に詰まる。
「――共に来てくれるのか」
「一人より二人の方が逃げやすいだろ。オレは左側の羽根残したし、肩組んで呼吸合わせりゃ何とか飛べんじゃねぇの。能力も残ってんだし」
「なるほどな」
キースの飛び方の癖は知っているし、逆も然りだ。
肩を組んで、羽根の動きを合わせ、音が重なったところで地を蹴る。
自分一人で両翼で飛んでいたときとそう変わらずに飛ぶことが出来た。
「お、いけたいけた。よし。あの剣を回収しに来られる前にとりあえずここから離れようぜ」
「ああ」
一人ではなくなったという心強さに口元が緩みそうになりながら、晴れ渡る空を二人で飛び続けた。Close
#キスブラ
天使×堕天使のキスブラ。
報酬フレームのテキストからイメージしたパロ。
厨二設定しかないので、ポイピクではフォロ限ですが、こっちは見る人自体が少ないのでそのまま置いときます。
ブラッド視点も追加。神(モブ)が出ます。
[Keith's Side]
「……何で逃げねぇの」
オレがブラッドの胸元に突きつけた剣は堕天使を討伐するためだけに作られたもので、僅かでも触れれば存在が消滅するように出来ている。
コイツがそれを知らねぇはずはない。
なのに、抵抗する素振りも見せねぇ。
「…………ここで逃げたところで他の追っ手が来るのだろう。ならば、お前の手に掛かって終わるのも悪くないと思ったまでだ」
そう言葉にしたブラッドの目には迷いがない。
かつて、天界でもっとも神に近い天使と言われていたあの当時となんら変わりのない目だ。
――下界の争いごとにより、人間たちが……幼い子どもたちも含めた命が日々失われている。だが、神はそれは淘汰であり、必要な犠牲だと言う。だから、手出しは不要だと。俺はそれが納得出来ん。
そう言って、ブラッドは神の元へと直談判に出向いたが、直後知らされたのはブラッドが堕天したとの報告だった。
誰もが耳を疑ったし、オレも信じられなかった。
再会して、堕天した証である黒い翼を見るまでは。
だが、それ以外は何も変わっちゃいない。
融通のきかないカタブツ。己の信念のままに突き進む、以前と同じブラッドがいた。
下界で失われる命の数が減ったというのは間違いなくコイツによるものだろう。
「一応、聞くけど後悔は」
「していない」
「だよなぁ」
剣を引いて、そのまま手放す。
地に落ちた剣の衝撃音がやけに甲高く響いた。
ブラッドが失ったのは左の羽根か。
だったら、オレは右だなと手を背の方に回して、勢いに任せて自分の右の羽根をもぎ取った。
「いっ……!」
「なっ、キース!!」
ずっと平然としていたブラッドの目に初めて動揺の色が浮かぶ。
自分だってつい先日同じようなことしただろうがよ。
身体から離れた羽根は白から黒へと色を変え――気付けば視界に映る残った左の羽根も漆黒に染まっていた。
なるほどな、堕天するとこうなんのか。
背の痛みが少し和らいだのはブラッドの力だな。
堕天しても天使として持っていた力は健在ってことか。
「……馬鹿な真似を」
「いや、お前にだけは言われたくないわ、それ。……ったく、一人でさっさと決めやがって。肝心なとこで一人でどうにかしようとするのやめろよな」
普段冷静な癖にブチ切れると見境ねぇよな、全く。
「――共に来てくれるのか」
「一人より二人の方が逃げやすいだろ。オレは左側の羽根残したし、肩組んで呼吸合わせりゃ何とか飛べんじゃねぇの。能力も残ってんだし」
「なるほどな」
ブラッドと肩を組み、幾度か羽根を羽ばたかせ、タイミングを合わせて地を蹴ると呆気ないほど楽に飛び立てた。
悪いな、カミサマ。
オレももうアンタには従えねぇよ。
二度と触れなくなった剣を一瞥し、オレも天界に別れを告げた。
[Brad's Side]
――何故、介入しないのですか。あの地域は今明らかに度を超えた殺戮が行われている。放置していいはずがない。
――人は増えすぎたのだよ、ブラッド。故に世界の生態系全てに弊害を及ぼし始めている。あれは必要な犠牲だ。
――必要…………?
――全てを救い上げることなど出来ない。弱い生命が淘汰されていくのはこれまでの歴史でも繰り返されてきたことだ。浄化だと思えば良い。それでもなお、争いがやまないなら、それは世界の寿命だ。
だから、見捨てるというのか。
祝福され生まれたばかりの赤子も無残に殺されることも珍しくなくなりつつあるあの地を。
浄化、という言葉にこれほど嫌悪感を覚えたことはない。
いつだったか、キースが胡散臭いと評したその言葉の意味が今はわかる。
神が見放すというのであれば。
――せめて、この手で救えるだけでも俺が救う。
――ブラッ……!?
片翼をむしり取り、それをそのまま目の前の神に叩きつけた。
瞬く間に黒く変化した羽根にこんなに簡単だったのかと苦笑いする。
――貴方にはもう従えない。俺は俺の信じる道を行く。それを堕天と言うのなら好きに言えばいい。
――ブラッド!!
羽根を失った背の痛みを堪え、急いでその場を立ち去る。
キースに別れを告げる間もなかったことだけが心残りだったが、ここで捕らえられては本末転倒だ。
幸い、堕天しても天使の能力は失われなかったから、それを利用し、可能な限り殺戮を食い止めていたが――キリがなかった。
生命を救いつつ、堕天使を討つ天界の追っ手からも身を隠し続けるのは容易ではなく、消耗が激しくなってきたタイミングで俺の前に現れたのはキースだった。
「本当に堕ちたんだな、お前」
「…………キース」
ほんの一瞬だけ泣きそうに見えた表情に動けなくなった。
キースの掲げている剣が天界の最終兵器と謳われる堕天使を消滅させるものだと気付いても、その剣先が胸元に触れそうなところに定められても。
キースの実力は俺が誰より知っている。
そもそも、この剣を扱えるのは天界でも一握りの天使だけだ。
万事休す。
他の者の手に掛かるよりは、キースにならば――。
「……何で逃げねぇの」
「…………ここで逃げたところで他の追っ手が来るのだろう。ならば、お前の手に掛かって終わるのも悪くないと思ったまでだ」
「一応、聞くけど後悔は」
「していない」
俺の命運もここまでか、という悔いはあれど、堕天したことについての後悔は微塵もない。
「だよなぁ」
知っていた、と言わんばかりの口調でキースが剣を引き、そのまま持っていた剣を地面に落とす。
どういうつもりかと問い質そうとした刹那、キースが自らの片翼をもぎ取った。
「いっ……!」
「なっ、キース!!」
もぎ取られ、地に落ちたキースの翼が黒く染まる。
そのまま残っている方の羽根も、あっという間に全て黒くなった。
急いで膝をついたキースに駆け寄り、回復の術を使う。
「……馬鹿な真似を」
「いや、お前にだけは言われたくないわ、それ。……ったく、一人でさっさと決めやがって。肝心なとこで一人でどうにかしようとするのやめろよな」
普段冷静な癖にブチ切れると見境ねぇよなとぼやかれて、一瞬返す言葉に詰まる。
「――共に来てくれるのか」
「一人より二人の方が逃げやすいだろ。オレは左側の羽根残したし、肩組んで呼吸合わせりゃ何とか飛べんじゃねぇの。能力も残ってんだし」
「なるほどな」
キースの飛び方の癖は知っているし、逆も然りだ。
肩を組んで、羽根の動きを合わせ、音が重なったところで地を蹴る。
自分一人で両翼で飛んでいたときとそう変わらずに飛ぶことが出来た。
「お、いけたいけた。よし。あの剣を回収しに来られる前にとりあえずここから離れようぜ」
「ああ」
一人ではなくなったという心強さに口元が緩みそうになりながら、晴れ渡る空を二人で飛び続けた。Close
#キスブラ