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キスブラ版ワンドロライ第11回でのお題から『おにぎり』を使って書いた話です。
少し、クッキングイベのキース☆3カドストのネタバレを含みます。
アカデミー時代、様々な料理を作れる上に、どれをとっても美味かったキースに、一度和食を作ってみる気はないかと聞いたところ、数秒の沈黙の後、めんどくせぇと一蹴された。
「和食ってやつは、具材の切り方が細かかったり、調味料が多様だったりで、繊細過ぎるっていうか……ちょっと手ぇ出すには面倒なんだよ。大体、お前の好きな寿司に至ってはそれ専門の職人がいるってぐらいだしさ」
今にして思えば、和食を好む俺を考えて、一応ざっくりと調べてくれた上でのことだったのだと理解出来る。
全くその気がなければ、面倒だということもわからないのだから。
「ああ、確かに寿司職人といわゆる和食の板前とはまた違うものらしいな」
「っつーわけだ。悪ぃな、諦めてくれ」
「…………そうか」
残念だが、本人にその気がないのに押し通すことも出来ない。
和食でなくともキースの料理は美味いし、作ってくれる機会があるだけいいかと納得した。
だが、キースの方はそれをずっと気にしていたようだ。
第10期生ルーキーとして、タワーで共同生活を送るようになったある日。
ジェイもディノも不在だったことで箍が外れ、昼間からキースとセックスして――眠ってしまい、目が覚めたら夕食の時間だった。
今日の夕食を作るのは俺だったと慌てて起きたら、キースが部屋まで何かを持ってきた。
「お、目ぇ覚めたか。体大丈夫か? 食えそうなら夕飯にしようぜ。簡単なもんにしちまったけど」
「すまない。今日は俺が作るはずだったのに――これは、おにぎりか?」
キースがトレイに乗せていたのは、おにぎりと味噌汁と卵焼き、それにお茶。
確かに米や味噌、他日本の調味料は俺がキッチンに持ち込んでいた分があるとはいえ、炊飯器が少し前に壊れて、新たに買い直さねばと思っていたところだったから、米を炊く発想はなかった。
「そ。まぁ、簡単なものならって思ってな。お前、和食で使うような調味料色々持ち込んでいたし」
「……炊飯器は壊れていたはずだが」
「んなの、鍋がありゃ炊けるっての。まぁ、炊飯器で炊くみたいに均等にはならなくて、ちょっと焦げ付いた部分とかあるけどな。これはこれでいいだろ」
キースの言うように確かにおにぎりに少し焦げた部分があったが、その焦げが逆に香ばしく食欲をそそってくる。
手を合わせてから、まずは味噌汁、そしておにぎりと手をつける。
味噌汁は揚げた茄子に長ネギ。少し濃いめの味付けだが、今の体にはちょうどいい。
そして、おにぎりも塩加減が絶妙だった。
これなら、卵焼きもと期待をして箸を伸ばせば、やはり美味い。
綺麗に巻かれたそれは色や形だけでなく、だしの味が生かされていて、おにぎりによく合っていた。
「美味い。……やはりお前の作る料理には外れがないな」
キースは簡単なものにしたと言ったが、鍋で米を炊くには火加減に気を配る必要があるし、味噌汁に入っていた茄子も揚げてあった。
何より、味噌汁や卵焼きのだしの味から察するに、インスタントは使っていない。
どれもそれなりに手がかかるはずだ。簡単だったとは言えない。
だからこそ、かつて面倒だと言われたのだが、結局は数年越しでも作ってくれた。
それを思うと、さらに美味しく感じ、あっという間に平らげてしまった。
キースよりも早く食い終わった俺を見て、キースが表情を綻ばせたのを覚えている。
「だったら良かったけどさ」
「……出来れば、また作って欲しい」
「まー、気が向いたらな」
――そんなやりとりをしたのが少し懐かしい。
あれから数年。
ルーキーとしての研修チーム部屋での共同生活を終え、キースの自宅に少しずつ、炊飯器等の調理器具や、日本の調味料を持ちこんだのもあってか、時折キースは和食の類も作ってくれるようになった。
日本酒を持ち込んだときにも、つまみと称して作ってくれるし、あの時のように朝食におにぎりを作ってくれることもある。
「……おい、ブラッド。何か棚ん中に見たことない調味料増えてんだけど」
「グリーンイーストの店に入荷されていたから、試しに買ってみた」
「お前、自分のセクター部屋に持っていく前にここで試すなよなー。……で、これでどんなの作れるんだ?」
「作ってくれるのか?」
「そのために持ってきといてよく言うぜ。ほら、レシピ寄越せ。失敗しても文句言うなよ。あと、お前も手伝え」
「……感謝する」
そうは言いながらも、キースが失敗することはほとんどない。
タブレットであらかじめ開いておいたレシピを端末ごとキースに手渡しながら、俺も手渡されたエプロンを身に着けた。
Close
#キスブラ #ワンライ
少し、クッキングイベのキース☆3カドストのネタバレを含みます。
アカデミー時代、様々な料理を作れる上に、どれをとっても美味かったキースに、一度和食を作ってみる気はないかと聞いたところ、数秒の沈黙の後、めんどくせぇと一蹴された。
「和食ってやつは、具材の切り方が細かかったり、調味料が多様だったりで、繊細過ぎるっていうか……ちょっと手ぇ出すには面倒なんだよ。大体、お前の好きな寿司に至ってはそれ専門の職人がいるってぐらいだしさ」
今にして思えば、和食を好む俺を考えて、一応ざっくりと調べてくれた上でのことだったのだと理解出来る。
全くその気がなければ、面倒だということもわからないのだから。
「ああ、確かに寿司職人といわゆる和食の板前とはまた違うものらしいな」
「っつーわけだ。悪ぃな、諦めてくれ」
「…………そうか」
残念だが、本人にその気がないのに押し通すことも出来ない。
和食でなくともキースの料理は美味いし、作ってくれる機会があるだけいいかと納得した。
だが、キースの方はそれをずっと気にしていたようだ。
第10期生ルーキーとして、タワーで共同生活を送るようになったある日。
ジェイもディノも不在だったことで箍が外れ、昼間からキースとセックスして――眠ってしまい、目が覚めたら夕食の時間だった。
今日の夕食を作るのは俺だったと慌てて起きたら、キースが部屋まで何かを持ってきた。
「お、目ぇ覚めたか。体大丈夫か? 食えそうなら夕飯にしようぜ。簡単なもんにしちまったけど」
「すまない。今日は俺が作るはずだったのに――これは、おにぎりか?」
キースがトレイに乗せていたのは、おにぎりと味噌汁と卵焼き、それにお茶。
確かに米や味噌、他日本の調味料は俺がキッチンに持ち込んでいた分があるとはいえ、炊飯器が少し前に壊れて、新たに買い直さねばと思っていたところだったから、米を炊く発想はなかった。
「そ。まぁ、簡単なものならって思ってな。お前、和食で使うような調味料色々持ち込んでいたし」
「……炊飯器は壊れていたはずだが」
「んなの、鍋がありゃ炊けるっての。まぁ、炊飯器で炊くみたいに均等にはならなくて、ちょっと焦げ付いた部分とかあるけどな。これはこれでいいだろ」
キースの言うように確かにおにぎりに少し焦げた部分があったが、その焦げが逆に香ばしく食欲をそそってくる。
手を合わせてから、まずは味噌汁、そしておにぎりと手をつける。
味噌汁は揚げた茄子に長ネギ。少し濃いめの味付けだが、今の体にはちょうどいい。
そして、おにぎりも塩加減が絶妙だった。
これなら、卵焼きもと期待をして箸を伸ばせば、やはり美味い。
綺麗に巻かれたそれは色や形だけでなく、だしの味が生かされていて、おにぎりによく合っていた。
「美味い。……やはりお前の作る料理には外れがないな」
キースは簡単なものにしたと言ったが、鍋で米を炊くには火加減に気を配る必要があるし、味噌汁に入っていた茄子も揚げてあった。
何より、味噌汁や卵焼きのだしの味から察するに、インスタントは使っていない。
どれもそれなりに手がかかるはずだ。簡単だったとは言えない。
だからこそ、かつて面倒だと言われたのだが、結局は数年越しでも作ってくれた。
それを思うと、さらに美味しく感じ、あっという間に平らげてしまった。
キースよりも早く食い終わった俺を見て、キースが表情を綻ばせたのを覚えている。
「だったら良かったけどさ」
「……出来れば、また作って欲しい」
「まー、気が向いたらな」
――そんなやりとりをしたのが少し懐かしい。
あれから数年。
ルーキーとしての研修チーム部屋での共同生活を終え、キースの自宅に少しずつ、炊飯器等の調理器具や、日本の調味料を持ちこんだのもあってか、時折キースは和食の類も作ってくれるようになった。
日本酒を持ち込んだときにも、つまみと称して作ってくれるし、あの時のように朝食におにぎりを作ってくれることもある。
「……おい、ブラッド。何か棚ん中に見たことない調味料増えてんだけど」
「グリーンイーストの店に入荷されていたから、試しに買ってみた」
「お前、自分のセクター部屋に持っていく前にここで試すなよなー。……で、これでどんなの作れるんだ?」
「作ってくれるのか?」
「そのために持ってきといてよく言うぜ。ほら、レシピ寄越せ。失敗しても文句言うなよ。あと、お前も手伝え」
「……感謝する」
そうは言いながらも、キースが失敗することはほとんどない。
タブレットであらかじめ開いておいたレシピを端末ごとキースに手渡しながら、俺も手渡されたエプロンを身に着けた。
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