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キスブラ版ワンドロライ第7回でのお題から『食事』『クリスマス』『愛情』を使って書いた話(修正版)です。
※数年後の時間軸で、既に二人とも研修チームのメンターではない&キスブラが一緒に住んでるというのを想定の下に書いてます。
【Brad's Side】
「お、【クリスマス・リーグ】の結果出たみたいだぜ」
キースの言葉に顔を上げれば、街中にある大型ビジョンでは見慣れた光景と、ノースセクターの研修チームメンバーが映し出されていた。
なるほど、今年の勝者はノースセクターか。
「ああ、もうそんな時間か。……ふむ。もう少ししたら、パトロールを終了しても良さそうだな」
「ま、ここらに限らず、今日はどこの地区も異常なさそうだしな。街が平和で何よりっと」
クリスマスとなると、研修チームは毎年恒例の【クリスマス・リーグ】に参戦しているから、その間のパトロールは俺たちのように研修チームに所属していないヒーローの仕事となる。
特にメジャーヒーローともなれば、その実力を買われ、通常よりも少ない人数で組んでパトロールすることも多い。
今日、俺とキースが組む形でこの地区のパトロールに当たっているのもそれを考慮してのことだろう。
他に意図があっての人選ではないはずだ。……多分。
「せっかくのクリスマスなのに、仕事ってのも味気ねぇよなぁ」
「俺たちがヒーローになってから十年以上経つが、休みだったクリスマスなど一度だってあったか?」
「いや、ねぇけどさ。気分の問題だよ」
――クリスマスなぁ……。一回か二回は祝ったことあったけど、ホントに小せぇ頃だわ。母親が家出て行く前だからなぁ。ああ、でもクリスマスに教会行くと食い物貰えたのは有り難かったから、アカデミー入学前はそれで教会行ったりしてたな。
――だから、クリスマスが楽しかった記憶なんて0とまではいかなくても、ほとんどねぇわ。思い入れもねぇよ。
かつては遠い目でそんなことを口にしていた男が、クリスマスに仕事が入っていることをぼやけるようになった境遇の変化を喜ぶべきだろう。
少なくとも、今のキースはクリスマスの楽しみ方を知っている。
クリスマスを楽しいものだと認識しているからこそのぼやきだ。
「仕事が終わって、家に帰ったら、数時間はクリスマス気分を味わえるだろうに」
「そうだけどさ。あ…………こりゃ、雪降ってきたか?」
「雪だと?」
日が傾いて暗くなり始めた空を見上げたら、ややあって、雪が舞い落ちる様が確認出来た。
勢いは弱く、積もるほどではなさそうだが、このまま深夜まで降り続けば、薄ら街が白く染まるくらいにはなるだろうか。
「ホワイトクリスマスだな」
「今夜は雪見酒か。悪くねぇな。例のワイン、帰ったら開けるんだよな?」
例のワインとは、少し前に取り寄せた俺たちの生まれ年のワインだ。
一緒に住むようになった記念も兼ねて、二人で今回のクリスマス用にと購入してみた。
キースは甘い物を好まないから、甘口だというそのワインを購入するか少し迷ったが、今が飲み頃と表記されていたことや、キースも興味があると言ったことで購入に踏み切った。
「ああ。甘口のようだから、お前の口にはもしかしたら合わないかもしれんが」
「でも、お前は好きだろ。どうしても合わなきゃ、日本酒の方でも開ける」
「一応、そっちは新年用にするつもりだったが……うん? 司令部からの通信だな、ちょっと待て」
「げっ、何か起きたか?」
司令からの通信が入って、キースとの会話を一度切る。
何か異常でも発生したのかと思ったが、そうではなく、パトロールが終了次第、タワーに寄らずそのまま帰宅しても構わないとの連絡だった。
特に何かがあったわけではなかったことにほっとする。
「……キース。パトロールの報告書を提出するのは明日でいいそうだ。今日はこのまま帰宅して構わんと」
「マジか。司令いいとこあんな。じゃ、ちょっとディナーの準備する手間を考えても、いつもの時間には家で飯が食えるってことか」
「そうなる。真っ直ぐ帰るが構わんな?」
「おう。どうせ、大体の店もう閉まってんだし。ローストビーフ、どんな風に出来てるか楽しみだな」
「ああ」
日本の調味料を使ってローストビーフを作りたいと言ったのは俺だ。
評判の良さそうなレシピだったし、手順通りに昨夜仕込んだから問題はないと思うが。
あとは、予め作って冷凍してあるキッシュを温め、サラダを作ってそれに合わせれば今夜のディナーは完成だ。
以前はホテルでクリスマスディナーというのもやったことはあるが、キースがあまり好まないのと、どうしても人目につくところだと、市民への対応をすることもあり、落ち着かないからと、家で二人きりのディナーを楽しむようになった。
この場所からなら、俺たちの住んでいる家までは歩いて数分。
タワーには今朝の出勤時に使った俺の車を置いたままだが、家にはキースの方の車もあるから、明日出勤するにもさしあたって問題はない。
何となく足早になりながら、キースと並んで家への道を歩いていると、不意にキースが口を開いた。
「今日のパトロールさ、この組み合わせでこの場所って、配慮されたってやつなのかね」
「…………かもしれんな」
俺たちが一緒に暮らしているのは、知っている者も多い。
司令は当然知っている者の一人だ。
もしかしたら、クリスマスだからとキースの言うように配慮してくれたのかもしれない。
だとしたら、粋なクリスマスプレゼントだ。
後日、少しばかり礼の品でも贈っておくかと思いながら、キースと肩が触れ合いそうになる距離まで近付き、家への道を歩いて行った。
【Keith's Side】
「お、【クリスマス・リーグ】の結果出たみたいだぜ」
パトロールの最中、目に付いた大型ビジョンではノースセクターの研修チームのルーキーがガッツポーズをして、マリオンに窘められているところが映っていた。
が、そのマリオンも嬉しそうな目をしてるのはモニター越しでも伝わる。
アイツも何だかんだこの数年ですっかりメンターらしくなったよなぁ。
でもって、あからさまに喜びはしねぇで表向きはこれが当然って装うあたり、やっぱり元メンターであるブラッドにちょっと似てる。
口にした日にゃ、二人から揃って睨まれそうだけど。
「ああ、もうそんな時間か。……ふむ。もう少ししたら、パトロールを終了しても良さそうだな」
「ま、ここらに限らず、今日はどこの地区も異常なさそうだしな。街が平和で何よりっと」
研修チームは【クリスマス・リーグ】に参戦となると、当然パトロールはそれ以外のメンツでやることになる。
どうしてもその分人数が少なくなるから、メジャーヒーローなんかはそれこそ二人で組んで、パトロールするって形だが、今オレとブラッドでパトロールしてるこの地区は、オレたちの家からも比較的近い場所だ。
わざとなのかどうかわかんねぇが、普段は戦力の偏りを抑えるためにもメジャーヒーロー同士になるブラッドと一緒にパトロールすることは稀だし、ブラッドの小言さえなけりゃ一緒にパトロールするのは気も楽だからいいんだが、少し気になるところだ。
「せっかくのクリスマスなのに、仕事ってのも味気ねぇよなぁ」
「俺たちがヒーローになってから十年以上経つが、休みだったクリスマスなど一度だってあったか?」
「いや、ねぇけどさ。気分の問題だよ」
昔はクリスマスなんてもんに思い入れはなかった。
遠い昔、まだ母親が家を出る前に、一度だけ家族でクリスマスらしく祝ったことはあったが、その記憶が苦しくなるぐらいにはその後のクリスマスは散々なものだった。
母親がいなくなったことで、親父が不機嫌になったときの矛先が全部オレに向かうようになって以降、クリスマスはオレにとって、教会に行くと食い物が貰える日であり、街を歩く幸せそうな家族の気が緩んでいる隙を狙える『稼ぎ時』って認識だったのだ。
アカデミーに入って、ブラッドやディノと出会い、さらにはルーキーとして入所した後のジェイによって、クリスマスパーティーなんてもんを経験するまでは。
一緒に騒いで、時にプレゼントを贈り合ったりして、美味いもんを食って。
ヒーローになって以降、確かにブラッドの言ったようにクリスマスが一日休みだったことなんて一度だってない。
けど、それがどうでもよくなるくらいには、今はクリスマスのこのどこか優しい空気が嫌いじゃなかったし、大事なヤツと過ごせるクリスマスってもんに価値を見いだしている。
「仕事が終わって、家に帰ったら、数時間はクリスマス気分を味わえるだろうに」
「そうだけどさ。あ…………こりゃ、雪降ってきたか?」
「雪だと?」
微かな違和感に手を出したら、確かに冷たいものが指先に触れた。
やがて、誰の目にもわかるくらいにハッキリと降り始めた雪に、ブラッドが目元を綻ばせる。
「ホワイトクリスマスだな」
「今夜は雪見酒か。悪くねぇな。例のワイン、帰ったら開けるんだよな?」
少し前に、オレたちが生まれた年に出来たワインを見つけて、ブラッドがクリスマスの祝いに、そして一緒に住み始めた記念にと欲しがった結果、一緒に買ったワインだ。
オレはワインよりは断然ビールの方が好きだが、今がちょうど飲み頃だっていうし、ブラッドが酒に対しては珍しいくらいに興味を持っていたのが、妙に可愛かったり嬉しかったりしたもんだから、少し値段はしたけどそれを買うことにした。
そのまま飲んだ後はホットワインにして、ベランダで飲むのもいいかもしれねぇなんて思っていたら、ブラッドが頷きながらも少しだけ表情を曇らせている。
「ああ。甘口のようだから、お前の口にはもしかしたら合わないかもしれんが」
どうも、そこを気にしていたらしい。
確かに甘いのは得意じゃねぇけど、酒の時点で何でも楽しめるから気にしなくていいんだけどな。
「でも、お前は好きだろ。どうしても合わなきゃ、日本酒の方でも開ける」
実際、一緒に買った日本酒の方が味として楽しみなのが正直なところだ。
こっちこそ、こんな日には熱燗にして飲んでみたいってのはある。
「一応、そっちは新年用にするつもりだったが……うん? 司令部からの通信だな、ちょっと待て」
「げっ、何か起きたか?」
仕事なら仕方ねぇけど、平穏なクリスマスの予定が崩れるのは切ねぇな、なんて思っていたが、司令との話を終えたブラッドは口元に笑みを浮かべていた。
「……キース。パトロールの報告書を提出するのは明日でいいそうだ。今日はこのまま帰宅して構わんと」
「マジか。司令いいとこあんな。じゃ、ちょっとディナーの準備する手間を考えても、いつもの時間には家で飯が食えるってことか」
「そうなる。真っ直ぐ帰るが構わんな?」
「おう。どうせ、大体の店もう閉まってんだし。ローストビーフ、どんな風に出来てるか楽しみだな」
「ああ」
ブラッドが日本の調味料を使ったローストビーフが作りたいと言いだしたから、昨夜のうちに仕込んである。
前のオフの時に作って、冷凍しておいたキッシュも温めつつ、サラダを作りゃ立派なディナーの出来上がりだ。
どうも、慣れてねぇからホテルのディナーだと落ち着かねぇし、そもそもオレはともかく、ブラッドはかなりヒーローとして顔が知られているから、どうしても外で食うってなると人目につくのは避けられねぇんだよな。
何より、家でのディナーだと本当に二人きりで楽しめるというのが大きい。
一緒に住む前も仕事が終わった後に料理を持ち寄って、一緒に食ったりしてたけど、一緒に住むことで一から十まで、全部一緒に出来るっていうのがたまんねぇ。
ここからなら、家には数分で着く。
ブラッドの車はタワーに一晩置きっぱなしになるが、オレの車もあるし、明日帰りにそれぞれの車で帰って来りゃいいだけだ。
雪の降る中をブラッドと一緒に歩きながら、つい気になっていたことを口にする。
「今日のパトロールさ、この組み合わせでこの場所って、配慮されたってやつなのかね」
「…………かもしれんな」
勿論、イクリプスが出現したら仕事が優先だが、今日のようにパトロール中に何もなければ、終わった後は二人揃ってそのまま家に帰れる。しかもクリスマスの夜に――なんてのは何も考えずに手配した結果だとは考えにくい。
ブラッドとは長い付き合いだし、今更って思わなくもねぇが、それでも心の中がなんとなく温かくなる。
ほんの少し、体を寄せて来たブラッドの腰に手の一つでも回したくなるが、家に着くまでは我慢だ。
いくらクリスマスの夜でも、本当にやったら小言スイッチが入るのは間違いない。
腰に手を回すのも、抱きしめるのも、キスをするのも、家にさえ着いちまえば、いくらだって出来る。
今日が終わるまでの数時間、ブラッドとのクリスマスを楽しむ想像をしながら、家への道を歩いて行った。
Close
#キスブラ #ワンライ
※数年後の時間軸で、既に二人とも研修チームのメンターではない&キスブラが一緒に住んでるというのを想定の下に書いてます。
【Brad's Side】
「お、【クリスマス・リーグ】の結果出たみたいだぜ」
キースの言葉に顔を上げれば、街中にある大型ビジョンでは見慣れた光景と、ノースセクターの研修チームメンバーが映し出されていた。
なるほど、今年の勝者はノースセクターか。
「ああ、もうそんな時間か。……ふむ。もう少ししたら、パトロールを終了しても良さそうだな」
「ま、ここらに限らず、今日はどこの地区も異常なさそうだしな。街が平和で何よりっと」
クリスマスとなると、研修チームは毎年恒例の【クリスマス・リーグ】に参戦しているから、その間のパトロールは俺たちのように研修チームに所属していないヒーローの仕事となる。
特にメジャーヒーローともなれば、その実力を買われ、通常よりも少ない人数で組んでパトロールすることも多い。
今日、俺とキースが組む形でこの地区のパトロールに当たっているのもそれを考慮してのことだろう。
他に意図があっての人選ではないはずだ。……多分。
「せっかくのクリスマスなのに、仕事ってのも味気ねぇよなぁ」
「俺たちがヒーローになってから十年以上経つが、休みだったクリスマスなど一度だってあったか?」
「いや、ねぇけどさ。気分の問題だよ」
――クリスマスなぁ……。一回か二回は祝ったことあったけど、ホントに小せぇ頃だわ。母親が家出て行く前だからなぁ。ああ、でもクリスマスに教会行くと食い物貰えたのは有り難かったから、アカデミー入学前はそれで教会行ったりしてたな。
――だから、クリスマスが楽しかった記憶なんて0とまではいかなくても、ほとんどねぇわ。思い入れもねぇよ。
かつては遠い目でそんなことを口にしていた男が、クリスマスに仕事が入っていることをぼやけるようになった境遇の変化を喜ぶべきだろう。
少なくとも、今のキースはクリスマスの楽しみ方を知っている。
クリスマスを楽しいものだと認識しているからこそのぼやきだ。
「仕事が終わって、家に帰ったら、数時間はクリスマス気分を味わえるだろうに」
「そうだけどさ。あ…………こりゃ、雪降ってきたか?」
「雪だと?」
日が傾いて暗くなり始めた空を見上げたら、ややあって、雪が舞い落ちる様が確認出来た。
勢いは弱く、積もるほどではなさそうだが、このまま深夜まで降り続けば、薄ら街が白く染まるくらいにはなるだろうか。
「ホワイトクリスマスだな」
「今夜は雪見酒か。悪くねぇな。例のワイン、帰ったら開けるんだよな?」
例のワインとは、少し前に取り寄せた俺たちの生まれ年のワインだ。
一緒に住むようになった記念も兼ねて、二人で今回のクリスマス用にと購入してみた。
キースは甘い物を好まないから、甘口だというそのワインを購入するか少し迷ったが、今が飲み頃と表記されていたことや、キースも興味があると言ったことで購入に踏み切った。
「ああ。甘口のようだから、お前の口にはもしかしたら合わないかもしれんが」
「でも、お前は好きだろ。どうしても合わなきゃ、日本酒の方でも開ける」
「一応、そっちは新年用にするつもりだったが……うん? 司令部からの通信だな、ちょっと待て」
「げっ、何か起きたか?」
司令からの通信が入って、キースとの会話を一度切る。
何か異常でも発生したのかと思ったが、そうではなく、パトロールが終了次第、タワーに寄らずそのまま帰宅しても構わないとの連絡だった。
特に何かがあったわけではなかったことにほっとする。
「……キース。パトロールの報告書を提出するのは明日でいいそうだ。今日はこのまま帰宅して構わんと」
「マジか。司令いいとこあんな。じゃ、ちょっとディナーの準備する手間を考えても、いつもの時間には家で飯が食えるってことか」
「そうなる。真っ直ぐ帰るが構わんな?」
「おう。どうせ、大体の店もう閉まってんだし。ローストビーフ、どんな風に出来てるか楽しみだな」
「ああ」
日本の調味料を使ってローストビーフを作りたいと言ったのは俺だ。
評判の良さそうなレシピだったし、手順通りに昨夜仕込んだから問題はないと思うが。
あとは、予め作って冷凍してあるキッシュを温め、サラダを作ってそれに合わせれば今夜のディナーは完成だ。
以前はホテルでクリスマスディナーというのもやったことはあるが、キースがあまり好まないのと、どうしても人目につくところだと、市民への対応をすることもあり、落ち着かないからと、家で二人きりのディナーを楽しむようになった。
この場所からなら、俺たちの住んでいる家までは歩いて数分。
タワーには今朝の出勤時に使った俺の車を置いたままだが、家にはキースの方の車もあるから、明日出勤するにもさしあたって問題はない。
何となく足早になりながら、キースと並んで家への道を歩いていると、不意にキースが口を開いた。
「今日のパトロールさ、この組み合わせでこの場所って、配慮されたってやつなのかね」
「…………かもしれんな」
俺たちが一緒に暮らしているのは、知っている者も多い。
司令は当然知っている者の一人だ。
もしかしたら、クリスマスだからとキースの言うように配慮してくれたのかもしれない。
だとしたら、粋なクリスマスプレゼントだ。
後日、少しばかり礼の品でも贈っておくかと思いながら、キースと肩が触れ合いそうになる距離まで近付き、家への道を歩いて行った。
【Keith's Side】
「お、【クリスマス・リーグ】の結果出たみたいだぜ」
パトロールの最中、目に付いた大型ビジョンではノースセクターの研修チームのルーキーがガッツポーズをして、マリオンに窘められているところが映っていた。
が、そのマリオンも嬉しそうな目をしてるのはモニター越しでも伝わる。
アイツも何だかんだこの数年ですっかりメンターらしくなったよなぁ。
でもって、あからさまに喜びはしねぇで表向きはこれが当然って装うあたり、やっぱり元メンターであるブラッドにちょっと似てる。
口にした日にゃ、二人から揃って睨まれそうだけど。
「ああ、もうそんな時間か。……ふむ。もう少ししたら、パトロールを終了しても良さそうだな」
「ま、ここらに限らず、今日はどこの地区も異常なさそうだしな。街が平和で何よりっと」
研修チームは【クリスマス・リーグ】に参戦となると、当然パトロールはそれ以外のメンツでやることになる。
どうしてもその分人数が少なくなるから、メジャーヒーローなんかはそれこそ二人で組んで、パトロールするって形だが、今オレとブラッドでパトロールしてるこの地区は、オレたちの家からも比較的近い場所だ。
わざとなのかどうかわかんねぇが、普段は戦力の偏りを抑えるためにもメジャーヒーロー同士になるブラッドと一緒にパトロールすることは稀だし、ブラッドの小言さえなけりゃ一緒にパトロールするのは気も楽だからいいんだが、少し気になるところだ。
「せっかくのクリスマスなのに、仕事ってのも味気ねぇよなぁ」
「俺たちがヒーローになってから十年以上経つが、休みだったクリスマスなど一度だってあったか?」
「いや、ねぇけどさ。気分の問題だよ」
昔はクリスマスなんてもんに思い入れはなかった。
遠い昔、まだ母親が家を出る前に、一度だけ家族でクリスマスらしく祝ったことはあったが、その記憶が苦しくなるぐらいにはその後のクリスマスは散々なものだった。
母親がいなくなったことで、親父が不機嫌になったときの矛先が全部オレに向かうようになって以降、クリスマスはオレにとって、教会に行くと食い物が貰える日であり、街を歩く幸せそうな家族の気が緩んでいる隙を狙える『稼ぎ時』って認識だったのだ。
アカデミーに入って、ブラッドやディノと出会い、さらにはルーキーとして入所した後のジェイによって、クリスマスパーティーなんてもんを経験するまでは。
一緒に騒いで、時にプレゼントを贈り合ったりして、美味いもんを食って。
ヒーローになって以降、確かにブラッドの言ったようにクリスマスが一日休みだったことなんて一度だってない。
けど、それがどうでもよくなるくらいには、今はクリスマスのこのどこか優しい空気が嫌いじゃなかったし、大事なヤツと過ごせるクリスマスってもんに価値を見いだしている。
「仕事が終わって、家に帰ったら、数時間はクリスマス気分を味わえるだろうに」
「そうだけどさ。あ…………こりゃ、雪降ってきたか?」
「雪だと?」
微かな違和感に手を出したら、確かに冷たいものが指先に触れた。
やがて、誰の目にもわかるくらいにハッキリと降り始めた雪に、ブラッドが目元を綻ばせる。
「ホワイトクリスマスだな」
「今夜は雪見酒か。悪くねぇな。例のワイン、帰ったら開けるんだよな?」
少し前に、オレたちが生まれた年に出来たワインを見つけて、ブラッドがクリスマスの祝いに、そして一緒に住み始めた記念にと欲しがった結果、一緒に買ったワインだ。
オレはワインよりは断然ビールの方が好きだが、今がちょうど飲み頃だっていうし、ブラッドが酒に対しては珍しいくらいに興味を持っていたのが、妙に可愛かったり嬉しかったりしたもんだから、少し値段はしたけどそれを買うことにした。
そのまま飲んだ後はホットワインにして、ベランダで飲むのもいいかもしれねぇなんて思っていたら、ブラッドが頷きながらも少しだけ表情を曇らせている。
「ああ。甘口のようだから、お前の口にはもしかしたら合わないかもしれんが」
どうも、そこを気にしていたらしい。
確かに甘いのは得意じゃねぇけど、酒の時点で何でも楽しめるから気にしなくていいんだけどな。
「でも、お前は好きだろ。どうしても合わなきゃ、日本酒の方でも開ける」
実際、一緒に買った日本酒の方が味として楽しみなのが正直なところだ。
こっちこそ、こんな日には熱燗にして飲んでみたいってのはある。
「一応、そっちは新年用にするつもりだったが……うん? 司令部からの通信だな、ちょっと待て」
「げっ、何か起きたか?」
仕事なら仕方ねぇけど、平穏なクリスマスの予定が崩れるのは切ねぇな、なんて思っていたが、司令との話を終えたブラッドは口元に笑みを浮かべていた。
「……キース。パトロールの報告書を提出するのは明日でいいそうだ。今日はこのまま帰宅して構わんと」
「マジか。司令いいとこあんな。じゃ、ちょっとディナーの準備する手間を考えても、いつもの時間には家で飯が食えるってことか」
「そうなる。真っ直ぐ帰るが構わんな?」
「おう。どうせ、大体の店もう閉まってんだし。ローストビーフ、どんな風に出来てるか楽しみだな」
「ああ」
ブラッドが日本の調味料を使ったローストビーフが作りたいと言いだしたから、昨夜のうちに仕込んである。
前のオフの時に作って、冷凍しておいたキッシュも温めつつ、サラダを作りゃ立派なディナーの出来上がりだ。
どうも、慣れてねぇからホテルのディナーだと落ち着かねぇし、そもそもオレはともかく、ブラッドはかなりヒーローとして顔が知られているから、どうしても外で食うってなると人目につくのは避けられねぇんだよな。
何より、家でのディナーだと本当に二人きりで楽しめるというのが大きい。
一緒に住む前も仕事が終わった後に料理を持ち寄って、一緒に食ったりしてたけど、一緒に住むことで一から十まで、全部一緒に出来るっていうのがたまんねぇ。
ここからなら、家には数分で着く。
ブラッドの車はタワーに一晩置きっぱなしになるが、オレの車もあるし、明日帰りにそれぞれの車で帰って来りゃいいだけだ。
雪の降る中をブラッドと一緒に歩きながら、つい気になっていたことを口にする。
「今日のパトロールさ、この組み合わせでこの場所って、配慮されたってやつなのかね」
「…………かもしれんな」
勿論、イクリプスが出現したら仕事が優先だが、今日のようにパトロール中に何もなければ、終わった後は二人揃ってそのまま家に帰れる。しかもクリスマスの夜に――なんてのは何も考えずに手配した結果だとは考えにくい。
ブラッドとは長い付き合いだし、今更って思わなくもねぇが、それでも心の中がなんとなく温かくなる。
ほんの少し、体を寄せて来たブラッドの腰に手の一つでも回したくなるが、家に着くまでは我慢だ。
いくらクリスマスの夜でも、本当にやったら小言スイッチが入るのは間違いない。
腰に手を回すのも、抱きしめるのも、キスをするのも、家にさえ着いちまえば、いくらだって出来る。
今日が終わるまでの数時間、ブラッドとのクリスマスを楽しむ想像をしながら、家への道を歩いて行った。
Close
#キスブラ #ワンライ