2021年1月9日の投稿[1件]
ブラキス版ワンドロ&ワンライ第5回でのお題から『微熱』『わがまま』を使って書いた話です。
キースがちょっと体調崩してます。
脇に挟んでいた体温計が計測終了の音を鳴らす。
抜き出したそれをオレが見るよりも早く、ブラッドが取り上げて、表示されたであろう数字を読み上げた。
「三十八度五分」
「うえ…………マジか」
「……妙に熱いと思ったら、やはりな」
普段ならオレの家に泊まった翌朝は、朝食が出来るまで寝かせておいてくれるブラッドが、どういうわけかオレをさっさと起こして体温を今すぐ測れ、なんて言ってきたから何かと思えば発熱してたらしい。
「食欲は?」
「言われてみりゃあんまりねぇ……かな。食いたくねぇってほどでもねぇけど」
「ならば、軽めのものを用意しよう。寒気とかはどうだ?」
「あー……ちょっとするかも」
二日酔い以外で体調を崩すなんてのは滅多にねぇのもあって、どうも感覚があやふやだ。
ただ、ベッドから体を起こすのは、いつにもまして億劫だっていうのはある。
それこそ、二日酔いの酷いときみてぇな感じだ。
「ブランケットを一枚足そう。上に置いてあるな?」
「ん……ああ、いい、いい、自分で運ぶって」
サイコキネシスを使って、ロフトから端っこが見えてるブランケットを下ろそうとしたところで、ブラッドがオレの手を掴んで首を振った。
「キース、やめろ。不調の時に能力を使うのは消耗する」
「あー、んじゃ能力止めて床に落とすから、拾って」
「ああ」
もうブランケットはロフトからほぼ引っ張り出していたから、能力を止めた途端にブランケットが落ち、それが床につく手前でブラッドが拾う。
布団の上から一枚ブランケットが重なっただけで、暖かさが増したのを実感した。
「投与されているサブスタンスの効果もあるから、しばらく寝ていれば回復するだろう。今日は仕事は休んで大人しくしていろ。届けは俺の方で出しておく」
「んー……そうするわ」
「……朝食を用意してくる。もう少しそのまま寝ていろ」
ブラッドがオレの頭をそっと撫でてから、キッチンに向かう。
朝食を準備する物音を聞きながら、目を閉じたら少しの間寝ちまっていたらしい。
気付いたら、いつの間にか身支度も終わらせていたブラッドが、枕元までトレイに朝食を乗せて持ってきたところだった。
普段ならここまではしねぇから、甘やかしてくれてんだなって伝わる。
「食えるか?」
「おう」
「では、俺は仕事に行く。念の為に言っておくが、酒を飲んで体を温めよう……などとは考えるなよ」
「………………」
ブラッドが仕事に行ったらやろうとしていたことを言い当てられて、つい言葉に詰まる。
そんなオレの反応で察したか、ブラッドの目が細められ、追撃が来る。
「返事は」
「…………ハイ」
「……なるべく早く帰る。昼食もレンジで温めればすむようなものを置いてあるから、それを食え」
「え、仕事終わったらこっち来てくれんの?」
サブスタンスによる回復力を考慮すれば、この程度なら恐らく夜には元通りだ。
ブラッドもそれは知ってるから、今日は普通にタワーの方に戻るかと思っていた。
「念の為に様子を見にくらいはな。では、行ってくる」
二日酔い以外で調子崩すことはほとんどねぇから、回復が早いはずだと知っていても心配してくれてるらしい。
もしかしたら、酒を飲んでないかの確認かもしれねぇけど、悪い気分じゃなかった。
***
額に置かれた手に目を開けると、一瞬だけブラッドの揺らいだ目と合った。
「すまない、起こしたか」
「…………あれ? もうお前帰ってくるような時間……?」
「いや、まだ昼だ。パトロールで近くまで来たついでに寄った。熱はもう微熱程度まで下がったようだが、一応後で測っておけ」
パトロールは確かに予定にあった気はするが、お前の担当ってこの辺だったっけって聞きかけてやめる。
多分、ブラッドが何らかの調整をした結果だと予想出来てしまったからだ。
恐らくはオレが急遽休んだ分の調整もあって、いつもより忙しいはずなのに。
そうとわかっているのに、つい立ち去ろうとしたブラッドの手を掴んで引き止めちまった。
「――どうした?」
「なぁ、ブラッド。あと、ちょっとでいいからここにいてくれよ。オレが寝るまででいいからさ」
そのちょっとの時間でさえ、忙しいブラッドには負担になるはずだと頭のどこかでわかっている。
数時間寝たことで、大分体調も回復しているのも自覚済みだ。
それこそ、今から仕事しろって言われても、まぁ大丈夫だろうってくらいには。
だから、これはただのわがままだって、きっとブラッドには伝わってる。
けど、ブラッドは椅子をオレの枕元に引き寄せて腰掛けると、オレの指先を取って軽く口付けた。
「……お前が眠れなくとも十五分を過ぎたら戻る。それ以上は無理だ」
「十分だよ。サンキュ」
瞼を閉じると、ブラッドの手がオレの髪をそっと撫でてくる。
その心地良さから早くも遠のき始めた意識の片隅で、仕方のないやつだと優しく呟くブラッドの声が聞こえた気がした。
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#ブラキス #ワンライ
キースがちょっと体調崩してます。
脇に挟んでいた体温計が計測終了の音を鳴らす。
抜き出したそれをオレが見るよりも早く、ブラッドが取り上げて、表示されたであろう数字を読み上げた。
「三十八度五分」
「うえ…………マジか」
「……妙に熱いと思ったら、やはりな」
普段ならオレの家に泊まった翌朝は、朝食が出来るまで寝かせておいてくれるブラッドが、どういうわけかオレをさっさと起こして体温を今すぐ測れ、なんて言ってきたから何かと思えば発熱してたらしい。
「食欲は?」
「言われてみりゃあんまりねぇ……かな。食いたくねぇってほどでもねぇけど」
「ならば、軽めのものを用意しよう。寒気とかはどうだ?」
「あー……ちょっとするかも」
二日酔い以外で体調を崩すなんてのは滅多にねぇのもあって、どうも感覚があやふやだ。
ただ、ベッドから体を起こすのは、いつにもまして億劫だっていうのはある。
それこそ、二日酔いの酷いときみてぇな感じだ。
「ブランケットを一枚足そう。上に置いてあるな?」
「ん……ああ、いい、いい、自分で運ぶって」
サイコキネシスを使って、ロフトから端っこが見えてるブランケットを下ろそうとしたところで、ブラッドがオレの手を掴んで首を振った。
「キース、やめろ。不調の時に能力を使うのは消耗する」
「あー、んじゃ能力止めて床に落とすから、拾って」
「ああ」
もうブランケットはロフトからほぼ引っ張り出していたから、能力を止めた途端にブランケットが落ち、それが床につく手前でブラッドが拾う。
布団の上から一枚ブランケットが重なっただけで、暖かさが増したのを実感した。
「投与されているサブスタンスの効果もあるから、しばらく寝ていれば回復するだろう。今日は仕事は休んで大人しくしていろ。届けは俺の方で出しておく」
「んー……そうするわ」
「……朝食を用意してくる。もう少しそのまま寝ていろ」
ブラッドがオレの頭をそっと撫でてから、キッチンに向かう。
朝食を準備する物音を聞きながら、目を閉じたら少しの間寝ちまっていたらしい。
気付いたら、いつの間にか身支度も終わらせていたブラッドが、枕元までトレイに朝食を乗せて持ってきたところだった。
普段ならここまではしねぇから、甘やかしてくれてんだなって伝わる。
「食えるか?」
「おう」
「では、俺は仕事に行く。念の為に言っておくが、酒を飲んで体を温めよう……などとは考えるなよ」
「………………」
ブラッドが仕事に行ったらやろうとしていたことを言い当てられて、つい言葉に詰まる。
そんなオレの反応で察したか、ブラッドの目が細められ、追撃が来る。
「返事は」
「…………ハイ」
「……なるべく早く帰る。昼食もレンジで温めればすむようなものを置いてあるから、それを食え」
「え、仕事終わったらこっち来てくれんの?」
サブスタンスによる回復力を考慮すれば、この程度なら恐らく夜には元通りだ。
ブラッドもそれは知ってるから、今日は普通にタワーの方に戻るかと思っていた。
「念の為に様子を見にくらいはな。では、行ってくる」
二日酔い以外で調子崩すことはほとんどねぇから、回復が早いはずだと知っていても心配してくれてるらしい。
もしかしたら、酒を飲んでないかの確認かもしれねぇけど、悪い気分じゃなかった。
***
額に置かれた手に目を開けると、一瞬だけブラッドの揺らいだ目と合った。
「すまない、起こしたか」
「…………あれ? もうお前帰ってくるような時間……?」
「いや、まだ昼だ。パトロールで近くまで来たついでに寄った。熱はもう微熱程度まで下がったようだが、一応後で測っておけ」
パトロールは確かに予定にあった気はするが、お前の担当ってこの辺だったっけって聞きかけてやめる。
多分、ブラッドが何らかの調整をした結果だと予想出来てしまったからだ。
恐らくはオレが急遽休んだ分の調整もあって、いつもより忙しいはずなのに。
そうとわかっているのに、つい立ち去ろうとしたブラッドの手を掴んで引き止めちまった。
「――どうした?」
「なぁ、ブラッド。あと、ちょっとでいいからここにいてくれよ。オレが寝るまででいいからさ」
そのちょっとの時間でさえ、忙しいブラッドには負担になるはずだと頭のどこかでわかっている。
数時間寝たことで、大分体調も回復しているのも自覚済みだ。
それこそ、今から仕事しろって言われても、まぁ大丈夫だろうってくらいには。
だから、これはただのわがままだって、きっとブラッドには伝わってる。
けど、ブラッドは椅子をオレの枕元に引き寄せて腰掛けると、オレの指先を取って軽く口付けた。
「……お前が眠れなくとも十五分を過ぎたら戻る。それ以上は無理だ」
「十分だよ。サンキュ」
瞼を閉じると、ブラッドの手がオレの髪をそっと撫でてくる。
その心地良さから早くも遠のき始めた意識の片隅で、仕方のないやつだと優しく呟くブラッドの声が聞こえた気がした。
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#ブラキス #ワンライ