2021年3月29日の投稿[1件]
第二百七十六回紅敬版深夜の創作一本勝負、お題『銭湯』を使って書きました。
今回のコラボに絡んだ話になります。
紅月らしい素敵なコラボをありがとうございます!
紅月が出す新曲の販促として、街中にある銭湯とコラボする――と蓮巳の旦那から聞いた時は予想外のことに驚いた。
銭湯とのコラボというのにも驚いたが、それがいわゆるスーパー銭湯の類じゃないってところも意外だ。
ただ、コラボ先の銭湯は過去にも別のコンテンツとコラボした経験もあって、店のスタッフも常連客も慣れており、営業時間にしてもよくある銭湯よりもずっと長い、という話を聞くとそれも納得したし、何より、銭湯の壁に描かれているペンキ絵を今度出す新曲をイメージして改めて描くって話に、旦那がそこに興味持って、コラボの件を了承したんだなとわかっちまった。
蓮巳の旦那はあれで絵心があって、これまでにもちょっとしたイラストとかを描いたりしてたし、漫画なんかも描いたことがあるらしい。
実際、銭湯が休みになる日を使って、その新曲をイメージしたペンキ絵を描くと聞いて、蓮巳がその様子をぜひ見学させて貰いたいと食い気味に事務所に持ちかけていたと朔間から聞いたときには、その様子が目に浮かんで思わず笑っちまった。
とはいえ、当たり前のようにお前も描くところを見に来るだろう?と言われりゃ、行かねぇって選択肢もねぇ。
ただ、銭湯の休みは平日だったのもあり、生憎と神崎は学院での試験日と被ってるってことで、神崎だけは試験が終わり次第の合流となる。
午後からペンキ絵を描き始め、その作業が終了次第、一部の湯船にお湯を張ってくれるから、新しいペンキ絵を見ながら広い湯船で貸し切り状態の一番風呂に入れるとくりゃ、蓮巳じゃなくても楽しみってもんだ。
そして、ペンキ絵を描く当日。
旦那と一緒に昼飯を食ったその足で銭湯に向かい、作業を始めた職人の邪魔になんねぇように、少し離れて後ろの方から様子を眺めていたが、しばらくは揃って無言だった。
赤富士の形が大まかに描かれた段階で、ずっと黙っていた蓮巳が凄い、と小さく呟いたのが聞こえた。
「……下書きとかねぇんだなぁ、これ」
俺の方もつられて、何となく小声で言葉を返す。
俺に絵心はねぇが、それでもこの広い壁に下書きもなしに赤富士や舞う紅葉、鮮やかに咲く蓮の花なんかが次々と描かれていくのが凄ぇってわかる。
曲やユニットのイメージから選んだ、いくつかのモチーフを取り入れて欲しいっていう話は先方に通してあるようだが、そのモチーフは頭ん中だけで組み合わせてあるらしく、下書きは勿論、参考になるような絵や写真なんかも職人の手元にはない。
黙々と職人がペンキ絵を仕上げていく様はただただ圧巻だ。
基本、どんなペンキ絵も銭湯の休みの日を利用して一日で描ききるってんだから、絵を仕上げるスピードも想像していた以上に早い。
このペースなら神崎が来るまでに、ほとんど仕上がっちまうかもしれねぇ。
「ああ。この広さを下書きなしに描けるとは恐れ入る。銭湯自体の数が昔に比べ減少したのもあってか、今や銭湯のペンキ絵を描ける職人は日本全国でも三人しかいないそうだ」
「全国で三人……ってマジかよ」
だったら、目の前で描いているのはその貴重な三人のうちの一人ってことになる。
こりゃ、思っていた以上に珍しいモンを目にしてんだな。
多分、旦那はそれを知ってたから見学したいって言ったんだろう。
今もそう見る機会のない光景に興奮してんのか、目が輝いてるし、俺と話しながらも視線はずっと壁の方から離れずにいる。
仕上がっていくペンキ絵は勿論見応えがあるが、こんな蓮巳も同じくらい見応えがある。
壁に新たにモチーフが描かれるたびに表情に変化が出て、可愛いったらねぇな。
つい口元が緩みそうになったのを慌てて抑えたが、旦那がずっと壁を見ているのは幸いだった。
多分、後で風呂に入ったときはずっとこの絵の話してんだろうなぁと予想しながら、俺も壁へと視線を戻した。
Close
#紅敬 #ワンライ
今回のコラボに絡んだ話になります。
紅月らしい素敵なコラボをありがとうございます!
紅月が出す新曲の販促として、街中にある銭湯とコラボする――と蓮巳の旦那から聞いた時は予想外のことに驚いた。
銭湯とのコラボというのにも驚いたが、それがいわゆるスーパー銭湯の類じゃないってところも意外だ。
ただ、コラボ先の銭湯は過去にも別のコンテンツとコラボした経験もあって、店のスタッフも常連客も慣れており、営業時間にしてもよくある銭湯よりもずっと長い、という話を聞くとそれも納得したし、何より、銭湯の壁に描かれているペンキ絵を今度出す新曲をイメージして改めて描くって話に、旦那がそこに興味持って、コラボの件を了承したんだなとわかっちまった。
蓮巳の旦那はあれで絵心があって、これまでにもちょっとしたイラストとかを描いたりしてたし、漫画なんかも描いたことがあるらしい。
実際、銭湯が休みになる日を使って、その新曲をイメージしたペンキ絵を描くと聞いて、蓮巳がその様子をぜひ見学させて貰いたいと食い気味に事務所に持ちかけていたと朔間から聞いたときには、その様子が目に浮かんで思わず笑っちまった。
とはいえ、当たり前のようにお前も描くところを見に来るだろう?と言われりゃ、行かねぇって選択肢もねぇ。
ただ、銭湯の休みは平日だったのもあり、生憎と神崎は学院での試験日と被ってるってことで、神崎だけは試験が終わり次第の合流となる。
午後からペンキ絵を描き始め、その作業が終了次第、一部の湯船にお湯を張ってくれるから、新しいペンキ絵を見ながら広い湯船で貸し切り状態の一番風呂に入れるとくりゃ、蓮巳じゃなくても楽しみってもんだ。
そして、ペンキ絵を描く当日。
旦那と一緒に昼飯を食ったその足で銭湯に向かい、作業を始めた職人の邪魔になんねぇように、少し離れて後ろの方から様子を眺めていたが、しばらくは揃って無言だった。
赤富士の形が大まかに描かれた段階で、ずっと黙っていた蓮巳が凄い、と小さく呟いたのが聞こえた。
「……下書きとかねぇんだなぁ、これ」
俺の方もつられて、何となく小声で言葉を返す。
俺に絵心はねぇが、それでもこの広い壁に下書きもなしに赤富士や舞う紅葉、鮮やかに咲く蓮の花なんかが次々と描かれていくのが凄ぇってわかる。
曲やユニットのイメージから選んだ、いくつかのモチーフを取り入れて欲しいっていう話は先方に通してあるようだが、そのモチーフは頭ん中だけで組み合わせてあるらしく、下書きは勿論、参考になるような絵や写真なんかも職人の手元にはない。
黙々と職人がペンキ絵を仕上げていく様はただただ圧巻だ。
基本、どんなペンキ絵も銭湯の休みの日を利用して一日で描ききるってんだから、絵を仕上げるスピードも想像していた以上に早い。
このペースなら神崎が来るまでに、ほとんど仕上がっちまうかもしれねぇ。
「ああ。この広さを下書きなしに描けるとは恐れ入る。銭湯自体の数が昔に比べ減少したのもあってか、今や銭湯のペンキ絵を描ける職人は日本全国でも三人しかいないそうだ」
「全国で三人……ってマジかよ」
だったら、目の前で描いているのはその貴重な三人のうちの一人ってことになる。
こりゃ、思っていた以上に珍しいモンを目にしてんだな。
多分、旦那はそれを知ってたから見学したいって言ったんだろう。
今もそう見る機会のない光景に興奮してんのか、目が輝いてるし、俺と話しながらも視線はずっと壁の方から離れずにいる。
仕上がっていくペンキ絵は勿論見応えがあるが、こんな蓮巳も同じくらい見応えがある。
壁に新たにモチーフが描かれるたびに表情に変化が出て、可愛いったらねぇな。
つい口元が緩みそうになったのを慌てて抑えたが、旦那がずっと壁を見ているのは幸いだった。
多分、後で風呂に入ったときはずっとこの絵の話してんだろうなぁと予想しながら、俺も壁へと視線を戻した。
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#紅敬 #ワンライ