No.37
キスブラ版ワンドロライ第8回でのお題から『ぬいぐるみ』を使って書いた話です。
ルーキー時代のキスブラ。ジェイやディノもちょっと出て来ます。
「ヒーローをデフォルメしたぬいぐるみ?」
第10期生ルーキーとして【HELIOS】に入所してから、早数ヶ月。
日々の仕事にも共同生活にも慣れてきた、ある日の夕食後にジェイがそんな話を切り出した。
「そう。ブロマイドやポスターの撮影を少し前にしたかと思うが、今度新たに商品を展開するってことで、子どもを主に対象として各ヒーローのぬいぐるみを作ることになったらしい」
「えええ……そんないい大人をぬいぐるみにしたヤツとか欲しがるもんかぁ?」
「デフォルメの仕方によっては結構人気あったりするみたいだよ。アイドルやアーティストでも出てたりするのあるよね、キースは見たことない?」
「興味ねぇから、知らねぇよ」
入所時にヒーローを使って作成するグッズに関しては、全て商品開発部に一任するという誓約書にサインしてある。
ヒーローとしての仕事の一つだ。
今更それに異議を唱えるつもりもないが、ぬいぐるみが作られようとは予想していなかった。
「何のグッズであろうと問題ない。どんなものに仕上がるかは興味があるが」
「それが、商品開発部の話ではもう試作品は出来ているようでな。そろそろジャックが持ってきてくれるはず……お」
「失礼シマス。商品開発部からぬいぐるみの試作品を持ってきマシタ」
ちょうど、そのタイミングでジャックがぬいぐるみの試作品が入ったカートを引き摺って持ってきた。
が、ぬいぐるみの大きさが予想していたよりも大きく、全員が恐らく同じ理由から一瞬言葉を失った。
「デ……デカくねぇ?」
「俺もクレーンゲームとかでよくあるような大きさだと思ってた……」
「ふむ……小さな子どもくらいの大きさがありそうだな」
カートの中から自分がデフォルメされたと思しきぬいぐるみを取り、持ってみた。
俺がアカデミーに入学する頃のフェイスがこのくらいの大きさだったような気がする。
勿論、ぬいぐるみだからフェイスよりもずっと軽いが。
「ジャック。この試作品はこのまま俺たちが貰うってことで合っているか?」
「ハイ。何か訂正して欲しいところがアレバ、商品開発部にメールを送ってクダサイ。十日後までにメールがなけレバ、問題ないという形で処理サレマス」
「えー、別にいらねぇんだけど。自分のぬいぐるみとかあってもなぁ。こんだけ大きいと置き場にも困るし」
キースがぼやきながら自分のぬいぐるみの頭をポンポンと叩く。
置き場に困るというのはわからなくもない。少なくとも、この研修チーム部屋に置くにはスペースに余裕がないように思える。
「俺はこれ、おじいちゃんとおばあちゃんのところに送ろうっと。俺の代わりだと思ってって言えばきっと喜んでくれるし! ちょっと実家に電話してくる!」
ディノがスマホを手に部屋を出ると、ジェイもぬいぐるみをソファに置いて軽くその頭を叩いた。
「ふむ。家に置けば、息子のおもちゃになってくれるだろう。俺も家に連絡してこよう」
研修チーム部屋は共同生活を送る場ということもあって、各自プライベートな電話をするときは、タワー内の談話スペースの一角を使うことになっている。
あっという間に、部屋の中には俺とキースが残された。
俺も近いうちに実家にこれを送ろうと考えていると、キースが溜め息を吐く。
「いや……マジでこれいらねぇんだけど。とはいえ、発売前の試作品は処分したらさすがにまずい……よなぁ。いや、細かくバラしたらわかんねぇか?」
キースが自分のぬいぐるみを抱きかかえながらそんなことを言うが、細かくバラすというのを想像すると、どうにもいたたまれなくなり、気付けばキースの腕からそのぬいぐるみを取り上げていた。
「ブラッド?」
「そんなことをするぐらいなら、俺がこれを譲り受けよう。いらないというぐらいだ、構わんな?」
「いいけど……マジでいるか? それ?」
「……試作品にしては、お前の特徴をよく捉えている。デフォルメも悪くない」
それに素材がいいのか、抱き心地も良い。
ぬいぐるみの頭を撫でると、キースが複雑そうな表情を見せた。
「お前がいいなら、いいけどさ。……でも、それをこの部屋に置かれるとなんか恥ずかしいから、お前もどっか他のとこに送ってくれよ」
「何だ、妬いてるのか?」
「そうじゃねぇよ。恥ずかしいっつっただろ。…………何で…………だよ」
「? 今、何と言った?」
キースの言葉がよく聞こえなかったから聞き返したが、キースは何でもねぇよと話を打ち切る。
耳が赤くなっていたことには言及しないでおくかわりに、腕の中のぬいぐるみを少し強めに抱きしめた。
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#キスブラ #ワンライ
ルーキー時代のキスブラ。ジェイやディノもちょっと出て来ます。
「ヒーローをデフォルメしたぬいぐるみ?」
第10期生ルーキーとして【HELIOS】に入所してから、早数ヶ月。
日々の仕事にも共同生活にも慣れてきた、ある日の夕食後にジェイがそんな話を切り出した。
「そう。ブロマイドやポスターの撮影を少し前にしたかと思うが、今度新たに商品を展開するってことで、子どもを主に対象として各ヒーローのぬいぐるみを作ることになったらしい」
「えええ……そんないい大人をぬいぐるみにしたヤツとか欲しがるもんかぁ?」
「デフォルメの仕方によっては結構人気あったりするみたいだよ。アイドルやアーティストでも出てたりするのあるよね、キースは見たことない?」
「興味ねぇから、知らねぇよ」
入所時にヒーローを使って作成するグッズに関しては、全て商品開発部に一任するという誓約書にサインしてある。
ヒーローとしての仕事の一つだ。
今更それに異議を唱えるつもりもないが、ぬいぐるみが作られようとは予想していなかった。
「何のグッズであろうと問題ない。どんなものに仕上がるかは興味があるが」
「それが、商品開発部の話ではもう試作品は出来ているようでな。そろそろジャックが持ってきてくれるはず……お」
「失礼シマス。商品開発部からぬいぐるみの試作品を持ってきマシタ」
ちょうど、そのタイミングでジャックがぬいぐるみの試作品が入ったカートを引き摺って持ってきた。
が、ぬいぐるみの大きさが予想していたよりも大きく、全員が恐らく同じ理由から一瞬言葉を失った。
「デ……デカくねぇ?」
「俺もクレーンゲームとかでよくあるような大きさだと思ってた……」
「ふむ……小さな子どもくらいの大きさがありそうだな」
カートの中から自分がデフォルメされたと思しきぬいぐるみを取り、持ってみた。
俺がアカデミーに入学する頃のフェイスがこのくらいの大きさだったような気がする。
勿論、ぬいぐるみだからフェイスよりもずっと軽いが。
「ジャック。この試作品はこのまま俺たちが貰うってことで合っているか?」
「ハイ。何か訂正して欲しいところがアレバ、商品開発部にメールを送ってクダサイ。十日後までにメールがなけレバ、問題ないという形で処理サレマス」
「えー、別にいらねぇんだけど。自分のぬいぐるみとかあってもなぁ。こんだけ大きいと置き場にも困るし」
キースがぼやきながら自分のぬいぐるみの頭をポンポンと叩く。
置き場に困るというのはわからなくもない。少なくとも、この研修チーム部屋に置くにはスペースに余裕がないように思える。
「俺はこれ、おじいちゃんとおばあちゃんのところに送ろうっと。俺の代わりだと思ってって言えばきっと喜んでくれるし! ちょっと実家に電話してくる!」
ディノがスマホを手に部屋を出ると、ジェイもぬいぐるみをソファに置いて軽くその頭を叩いた。
「ふむ。家に置けば、息子のおもちゃになってくれるだろう。俺も家に連絡してこよう」
研修チーム部屋は共同生活を送る場ということもあって、各自プライベートな電話をするときは、タワー内の談話スペースの一角を使うことになっている。
あっという間に、部屋の中には俺とキースが残された。
俺も近いうちに実家にこれを送ろうと考えていると、キースが溜め息を吐く。
「いや……マジでこれいらねぇんだけど。とはいえ、発売前の試作品は処分したらさすがにまずい……よなぁ。いや、細かくバラしたらわかんねぇか?」
キースが自分のぬいぐるみを抱きかかえながらそんなことを言うが、細かくバラすというのを想像すると、どうにもいたたまれなくなり、気付けばキースの腕からそのぬいぐるみを取り上げていた。
「ブラッド?」
「そんなことをするぐらいなら、俺がこれを譲り受けよう。いらないというぐらいだ、構わんな?」
「いいけど……マジでいるか? それ?」
「……試作品にしては、お前の特徴をよく捉えている。デフォルメも悪くない」
それに素材がいいのか、抱き心地も良い。
ぬいぐるみの頭を撫でると、キースが複雑そうな表情を見せた。
「お前がいいなら、いいけどさ。……でも、それをこの部屋に置かれるとなんか恥ずかしいから、お前もどっか他のとこに送ってくれよ」
「何だ、妬いてるのか?」
「そうじゃねぇよ。恥ずかしいっつっただろ。…………何で…………だよ」
「? 今、何と言った?」
キースの言葉がよく聞こえなかったから聞き返したが、キースは何でもねぇよと話を打ち切る。
耳が赤くなっていたことには言及しないでおくかわりに、腕の中のぬいぐるみを少し強めに抱きしめた。
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