全年全月16日の投稿[3件]
2023年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
世界の果てまで共に
天使×堕天使のキスブラ。
報酬フレームのテキストからイメージしたパロ。
厨二設定しかないので、ポイピクではフォロ限ですが、こっちは見る人自体が少ないのでそのまま置いときます。
ブラッド視点も追加。神(モブ)が出ます。
[Keith's Side]
「……何で逃げねぇの」
オレがブラッドの胸元に突きつけた剣は堕天使を討伐するためだけに作られたもので、僅かでも触れれば存在が消滅するように出来ている。
コイツがそれを知らねぇはずはない。
なのに、抵抗する素振りも見せねぇ。
「…………ここで逃げたところで他の追っ手が来るのだろう。ならば、お前の手に掛かって終わるのも悪くないと思ったまでだ」
そう言葉にしたブラッドの目には迷いがない。
かつて、天界でもっとも神に近い天使と言われていたあの当時となんら変わりのない目だ。
――下界の争いごとにより、人間たちが……幼い子どもたちも含めた命が日々失われている。だが、神はそれは淘汰であり、必要な犠牲だと言う。だから、手出しは不要だと。俺はそれが納得出来ん。
そう言って、ブラッドは神の元へと直談判に出向いたが、直後知らされたのはブラッドが堕天したとの報告だった。
誰もが耳を疑ったし、オレも信じられなかった。
再会して、堕天した証である黒い翼を見るまでは。
だが、それ以外は何も変わっちゃいない。
融通のきかないカタブツ。己の信念のままに突き進む、以前と同じブラッドがいた。
下界で失われる命の数が減ったというのは間違いなくコイツによるものだろう。
「一応、聞くけど後悔は」
「していない」
「だよなぁ」
剣を引いて、そのまま手放す。
地に落ちた剣の衝撃音がやけに甲高く響いた。
ブラッドが失ったのは左の羽根か。
だったら、オレは右だなと手を背の方に回して、勢いに任せて自分の右の羽根をもぎ取った。
「いっ……!」
「なっ、キース!!」
ずっと平然としていたブラッドの目に初めて動揺の色が浮かぶ。
自分だってつい先日同じようなことしただろうがよ。
身体から離れた羽根は白から黒へと色を変え――気付けば視界に映る残った左の羽根も漆黒に染まっていた。
なるほどな、堕天するとこうなんのか。
背の痛みが少し和らいだのはブラッドの力だな。
堕天しても天使として持っていた力は健在ってことか。
「……馬鹿な真似を」
「いや、お前にだけは言われたくないわ、それ。……ったく、一人でさっさと決めやがって。肝心なとこで一人でどうにかしようとするのやめろよな」
普段冷静な癖にブチ切れると見境ねぇよな、全く。
「――共に来てくれるのか」
「一人より二人の方が逃げやすいだろ。オレは左側の羽根残したし、肩組んで呼吸合わせりゃ何とか飛べんじゃねぇの。能力も残ってんだし」
「なるほどな」
ブラッドと肩を組み、幾度か羽根を羽ばたかせ、タイミングを合わせて地を蹴ると呆気ないほど楽に飛び立てた。
悪いな、カミサマ。
オレももうアンタには従えねぇよ。
二度と触れなくなった剣を一瞥し、オレも天界に別れを告げた。
[Brad's Side]
――何故、介入しないのですか。あの地域は今明らかに度を超えた殺戮が行われている。放置していいはずがない。
――人は増えすぎたのだよ、ブラッド。故に世界の生態系全てに弊害を及ぼし始めている。あれは必要な犠牲だ。
――必要…………?
――全てを救い上げることなど出来ない。弱い生命が淘汰されていくのはこれまでの歴史でも繰り返されてきたことだ。浄化だと思えば良い。それでもなお、争いがやまないなら、それは世界の寿命だ。
だから、見捨てるというのか。
祝福され生まれたばかりの赤子も無残に殺されることも珍しくなくなりつつあるあの地を。
浄化、という言葉にこれほど嫌悪感を覚えたことはない。
いつだったか、キースが胡散臭いと評したその言葉の意味が今はわかる。
神が見放すというのであれば。
――せめて、この手で救えるだけでも俺が救う。
――ブラッ……!?
片翼をむしり取り、それをそのまま目の前の神に叩きつけた。
瞬く間に黒く変化した羽根にこんなに簡単だったのかと苦笑いする。
――貴方にはもう従えない。俺は俺の信じる道を行く。それを堕天と言うのなら好きに言えばいい。
――ブラッド!!
羽根を失った背の痛みを堪え、急いでその場を立ち去る。
キースに別れを告げる間もなかったことだけが心残りだったが、ここで捕らえられては本末転倒だ。
幸い、堕天しても天使の能力は失われなかったから、それを利用し、可能な限り殺戮を食い止めていたが――キリがなかった。
生命を救いつつ、堕天使を討つ天界の追っ手からも身を隠し続けるのは容易ではなく、消耗が激しくなってきたタイミングで俺の前に現れたのはキースだった。
「本当に堕ちたんだな、お前」
「…………キース」
ほんの一瞬だけ泣きそうに見えた表情に動けなくなった。
キースの掲げている剣が天界の最終兵器と謳われる堕天使を消滅させるものだと気付いても、その剣先が胸元に触れそうなところに定められても。
キースの実力は俺が誰より知っている。
そもそも、この剣を扱えるのは天界でも一握りの天使だけだ。
万事休す。
他の者の手に掛かるよりは、キースにならば――。
「……何で逃げねぇの」
「…………ここで逃げたところで他の追っ手が来るのだろう。ならば、お前の手に掛かって終わるのも悪くないと思ったまでだ」
「一応、聞くけど後悔は」
「していない」
俺の命運もここまでか、という悔いはあれど、堕天したことについての後悔は微塵もない。
「だよなぁ」
知っていた、と言わんばかりの口調でキースが剣を引き、そのまま持っていた剣を地面に落とす。
どういうつもりかと問い質そうとした刹那、キースが自らの片翼をもぎ取った。
「いっ……!」
「なっ、キース!!」
もぎ取られ、地に落ちたキースの翼が黒く染まる。
そのまま残っている方の羽根も、あっという間に全て黒くなった。
急いで膝をついたキースに駆け寄り、回復の術を使う。
「……馬鹿な真似を」
「いや、お前にだけは言われたくないわ、それ。……ったく、一人でさっさと決めやがって。肝心なとこで一人でどうにかしようとするのやめろよな」
普段冷静な癖にブチ切れると見境ねぇよなとぼやかれて、一瞬返す言葉に詰まる。
「――共に来てくれるのか」
「一人より二人の方が逃げやすいだろ。オレは左側の羽根残したし、肩組んで呼吸合わせりゃ何とか飛べんじゃねぇの。能力も残ってんだし」
「なるほどな」
キースの飛び方の癖は知っているし、逆も然りだ。
肩を組んで、羽根の動きを合わせ、音が重なったところで地を蹴る。
自分一人で両翼で飛んでいたときとそう変わらずに飛ぶことが出来た。
「お、いけたいけた。よし。あの剣を回収しに来られる前にとりあえずここから離れようぜ」
「ああ」
一人ではなくなったという心強さに口元が緩みそうになりながら、晴れ渡る空を二人で飛び続けた。Close
#キスブラ
天使×堕天使のキスブラ。
報酬フレームのテキストからイメージしたパロ。
厨二設定しかないので、ポイピクではフォロ限ですが、こっちは見る人自体が少ないのでそのまま置いときます。
ブラッド視点も追加。神(モブ)が出ます。
[Keith's Side]
「……何で逃げねぇの」
オレがブラッドの胸元に突きつけた剣は堕天使を討伐するためだけに作られたもので、僅かでも触れれば存在が消滅するように出来ている。
コイツがそれを知らねぇはずはない。
なのに、抵抗する素振りも見せねぇ。
「…………ここで逃げたところで他の追っ手が来るのだろう。ならば、お前の手に掛かって終わるのも悪くないと思ったまでだ」
そう言葉にしたブラッドの目には迷いがない。
かつて、天界でもっとも神に近い天使と言われていたあの当時となんら変わりのない目だ。
――下界の争いごとにより、人間たちが……幼い子どもたちも含めた命が日々失われている。だが、神はそれは淘汰であり、必要な犠牲だと言う。だから、手出しは不要だと。俺はそれが納得出来ん。
そう言って、ブラッドは神の元へと直談判に出向いたが、直後知らされたのはブラッドが堕天したとの報告だった。
誰もが耳を疑ったし、オレも信じられなかった。
再会して、堕天した証である黒い翼を見るまでは。
だが、それ以外は何も変わっちゃいない。
融通のきかないカタブツ。己の信念のままに突き進む、以前と同じブラッドがいた。
下界で失われる命の数が減ったというのは間違いなくコイツによるものだろう。
「一応、聞くけど後悔は」
「していない」
「だよなぁ」
剣を引いて、そのまま手放す。
地に落ちた剣の衝撃音がやけに甲高く響いた。
ブラッドが失ったのは左の羽根か。
だったら、オレは右だなと手を背の方に回して、勢いに任せて自分の右の羽根をもぎ取った。
「いっ……!」
「なっ、キース!!」
ずっと平然としていたブラッドの目に初めて動揺の色が浮かぶ。
自分だってつい先日同じようなことしただろうがよ。
身体から離れた羽根は白から黒へと色を変え――気付けば視界に映る残った左の羽根も漆黒に染まっていた。
なるほどな、堕天するとこうなんのか。
背の痛みが少し和らいだのはブラッドの力だな。
堕天しても天使として持っていた力は健在ってことか。
「……馬鹿な真似を」
「いや、お前にだけは言われたくないわ、それ。……ったく、一人でさっさと決めやがって。肝心なとこで一人でどうにかしようとするのやめろよな」
普段冷静な癖にブチ切れると見境ねぇよな、全く。
「――共に来てくれるのか」
「一人より二人の方が逃げやすいだろ。オレは左側の羽根残したし、肩組んで呼吸合わせりゃ何とか飛べんじゃねぇの。能力も残ってんだし」
「なるほどな」
ブラッドと肩を組み、幾度か羽根を羽ばたかせ、タイミングを合わせて地を蹴ると呆気ないほど楽に飛び立てた。
悪いな、カミサマ。
オレももうアンタには従えねぇよ。
二度と触れなくなった剣を一瞥し、オレも天界に別れを告げた。
[Brad's Side]
――何故、介入しないのですか。あの地域は今明らかに度を超えた殺戮が行われている。放置していいはずがない。
――人は増えすぎたのだよ、ブラッド。故に世界の生態系全てに弊害を及ぼし始めている。あれは必要な犠牲だ。
――必要…………?
――全てを救い上げることなど出来ない。弱い生命が淘汰されていくのはこれまでの歴史でも繰り返されてきたことだ。浄化だと思えば良い。それでもなお、争いがやまないなら、それは世界の寿命だ。
だから、見捨てるというのか。
祝福され生まれたばかりの赤子も無残に殺されることも珍しくなくなりつつあるあの地を。
浄化、という言葉にこれほど嫌悪感を覚えたことはない。
いつだったか、キースが胡散臭いと評したその言葉の意味が今はわかる。
神が見放すというのであれば。
――せめて、この手で救えるだけでも俺が救う。
――ブラッ……!?
片翼をむしり取り、それをそのまま目の前の神に叩きつけた。
瞬く間に黒く変化した羽根にこんなに簡単だったのかと苦笑いする。
――貴方にはもう従えない。俺は俺の信じる道を行く。それを堕天と言うのなら好きに言えばいい。
――ブラッド!!
羽根を失った背の痛みを堪え、急いでその場を立ち去る。
キースに別れを告げる間もなかったことだけが心残りだったが、ここで捕らえられては本末転倒だ。
幸い、堕天しても天使の能力は失われなかったから、それを利用し、可能な限り殺戮を食い止めていたが――キリがなかった。
生命を救いつつ、堕天使を討つ天界の追っ手からも身を隠し続けるのは容易ではなく、消耗が激しくなってきたタイミングで俺の前に現れたのはキースだった。
「本当に堕ちたんだな、お前」
「…………キース」
ほんの一瞬だけ泣きそうに見えた表情に動けなくなった。
キースの掲げている剣が天界の最終兵器と謳われる堕天使を消滅させるものだと気付いても、その剣先が胸元に触れそうなところに定められても。
キースの実力は俺が誰より知っている。
そもそも、この剣を扱えるのは天界でも一握りの天使だけだ。
万事休す。
他の者の手に掛かるよりは、キースにならば――。
「……何で逃げねぇの」
「…………ここで逃げたところで他の追っ手が来るのだろう。ならば、お前の手に掛かって終わるのも悪くないと思ったまでだ」
「一応、聞くけど後悔は」
「していない」
俺の命運もここまでか、という悔いはあれど、堕天したことについての後悔は微塵もない。
「だよなぁ」
知っていた、と言わんばかりの口調でキースが剣を引き、そのまま持っていた剣を地面に落とす。
どういうつもりかと問い質そうとした刹那、キースが自らの片翼をもぎ取った。
「いっ……!」
「なっ、キース!!」
もぎ取られ、地に落ちたキースの翼が黒く染まる。
そのまま残っている方の羽根も、あっという間に全て黒くなった。
急いで膝をついたキースに駆け寄り、回復の術を使う。
「……馬鹿な真似を」
「いや、お前にだけは言われたくないわ、それ。……ったく、一人でさっさと決めやがって。肝心なとこで一人でどうにかしようとするのやめろよな」
普段冷静な癖にブチ切れると見境ねぇよなとぼやかれて、一瞬返す言葉に詰まる。
「――共に来てくれるのか」
「一人より二人の方が逃げやすいだろ。オレは左側の羽根残したし、肩組んで呼吸合わせりゃ何とか飛べんじゃねぇの。能力も残ってんだし」
「なるほどな」
キースの飛び方の癖は知っているし、逆も然りだ。
肩を組んで、羽根の動きを合わせ、音が重なったところで地を蹴る。
自分一人で両翼で飛んでいたときとそう変わらずに飛ぶことが出来た。
「お、いけたいけた。よし。あの剣を回収しに来られる前にとりあえずここから離れようぜ」
「ああ」
一人ではなくなったという心強さに口元が緩みそうになりながら、晴れ渡る空を二人で飛び続けた。Close
#キスブラ
2021年1月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
ブラキス版ワンドロ&ワンライ第6回でのお題から『サングリア』『お前はいつもそうだ』を使って書いた話です。
甘いの得意じゃないキースがサングリア作るのって、人に飲ませたいからだよね……。
夕方からちらつき始めた雪はまだしばらく止みそうにない。
仕事がおしてしまった結果、予定していた時刻よりキースの家への到着が遅くなった。
先に仕事を終えたキースにその旨連絡はしてあり、今日の夕食は各自で済ませるよう告げてあるが、当初の予定では夕食も一緒に取るつもりだったから、その点は少し残念だ。
珍しく、キースの方から何か作ってやるよと言ってきたというのに。
アカデミー時代やルーキーだった頃なんかは、よく料理を作っていたが、元来面倒がりなのもあって、年々作る機会は減っている。
キースの自宅近くの駐車場に車をとめて降りると、思っていた以上に雪の勢いは強い。
車のトランクから傘を出そうか迷ったが、キースの家は目と鼻の先だ。
結局、そのまま傘は出さずに歩き出す。
この家の合い鍵は持っているが、キースがいるのはわかっているから、それは使わずにチャイムを鳴らすと直ぐに家の主が玄関のドアを開けた。
「すまない。遅くなった」
「お、お帰り。あー、雪、結構降ってんのな」
「ああ。駐車場からここまでの少しの距離を歩いただけでこれだ」
玄関先で雪を振り払い、コートを脱ごうとすると、それより早くキースが俺の手を引いた。
「おい」
「ここじゃ冷えるだろ。脱ぐの中でいいから。どうせ、元々家ん中散らかってんだし。仕事で夕飯もまともなもん食ってねぇよな? スープとホットサングリアがあるから、それ飲めよ。あり合わせで作ったヤツで悪ぃけど」
「――頂こう」
キースの言ったように、夕食はプロテインバーを少し口にしただけだったし、冷えたことで温かいものが欲しいと思っていたから、キースの申し出を有り難く受ける。
俺がコートを脱ぎ、ハンガーに掛けている間に、テーブルにスープとホットサングリアが並んだ。
ソファに腰掛けると、キースも向かい側の椅子に座り、自分用のホットサングリアだけを手にして飲み始めた。
俺もそれに誘われるように、先にホットサングリアから口をつける。
「……美味い」
かぐわしいワインの香りに加え、林檎とオレンジ、そしてシナモンの香りが、ふわりと優しく交じって鼻腔をくすぐった。
少し冷えた体がじわりと温かくなっていくのを実感する。
「そりゃ、良かった。やっぱり冬は酒も温かいのが良いよなー。今度、日本酒でも何か入れて試すかぁ」
「試す……とは、サングリアのようにフルーツを日本酒に入れるということか?」
熱燗については以前キースに教えたことはあるから、幾度か試しているようだがフルーツを入れるというのは初めて聞いた。
「おう。日本酒でも結構合うらしいぜ。多分、お前が好きな感じになるんじゃねぇの」
「そうか。ならば調べて向いていそうなのを取り寄せてみよう」
「頼むわ。おー、これでまた新しい日本酒が飲める」
確かにキースよりは俺の方の好みに合いそうだ。
あり合わせで作った、とは言ったが、キースはあまり甘い物を好まない。
酒は飲めれば何でもと言いつつ、本人が好んで飲むのはビールだし、ワインや日本酒も嗜むものの辛口の方を好む傾向があるし、サングリアに入れるフルーツの類は普段あまり口にしていないように思う。
何より、タワーを生活の拠点としている今、この自宅を使う機会は限られているから、傷みやすい食材であるフルーツを買い置きしていたとは考えにくい。
今日に限らず、キースがサングリアを作るのは俺に飲ませるためだろう。
だが、コイツはそうして相手を気遣って行動しているのだと、人に悟られることをよしとしない。
人をよく見ているが、そうと思われたくないようだ。
どうも、善意で行動することに気恥ずかしさや抵抗があるらしく、今も自分が新しい日本酒が飲めるのが嬉しいというのを表に出す一方で、俺の好みに合ったものを飲ませたいのだという意図を感じる。
「……お前はいつもそうだ」
俺やディノ、それにジェイなんかもそんなキースの気質をわかっているからいいものの、これがキースの人となりについての誤解を招く一因になっているのはもったいなく思う。
が、そう思うのと同時に、それをわかっているという優越感を手放せずにいるのだから仕方がない。
きっと、俺はこの先も言及できないままだろう。
「ブラッド? 今、何か言ったか?」
「何でもない。ホットサングリアのおかわりはあるか?」
「おう。注いでくるぜ」
空になったカップが、キースの能力で浮いて、ヤツの手元へと落ちる。
キースがホットサングリアをカップに注ぎにキッチンに行く後ろ姿をみながら、優しい味わいのコンソメスープを口にした。
Close
#ブラキス #ワンライ
甘いの得意じゃないキースがサングリア作るのって、人に飲ませたいからだよね……。
夕方からちらつき始めた雪はまだしばらく止みそうにない。
仕事がおしてしまった結果、予定していた時刻よりキースの家への到着が遅くなった。
先に仕事を終えたキースにその旨連絡はしてあり、今日の夕食は各自で済ませるよう告げてあるが、当初の予定では夕食も一緒に取るつもりだったから、その点は少し残念だ。
珍しく、キースの方から何か作ってやるよと言ってきたというのに。
アカデミー時代やルーキーだった頃なんかは、よく料理を作っていたが、元来面倒がりなのもあって、年々作る機会は減っている。
キースの自宅近くの駐車場に車をとめて降りると、思っていた以上に雪の勢いは強い。
車のトランクから傘を出そうか迷ったが、キースの家は目と鼻の先だ。
結局、そのまま傘は出さずに歩き出す。
この家の合い鍵は持っているが、キースがいるのはわかっているから、それは使わずにチャイムを鳴らすと直ぐに家の主が玄関のドアを開けた。
「すまない。遅くなった」
「お、お帰り。あー、雪、結構降ってんのな」
「ああ。駐車場からここまでの少しの距離を歩いただけでこれだ」
玄関先で雪を振り払い、コートを脱ごうとすると、それより早くキースが俺の手を引いた。
「おい」
「ここじゃ冷えるだろ。脱ぐの中でいいから。どうせ、元々家ん中散らかってんだし。仕事で夕飯もまともなもん食ってねぇよな? スープとホットサングリアがあるから、それ飲めよ。あり合わせで作ったヤツで悪ぃけど」
「――頂こう」
キースの言ったように、夕食はプロテインバーを少し口にしただけだったし、冷えたことで温かいものが欲しいと思っていたから、キースの申し出を有り難く受ける。
俺がコートを脱ぎ、ハンガーに掛けている間に、テーブルにスープとホットサングリアが並んだ。
ソファに腰掛けると、キースも向かい側の椅子に座り、自分用のホットサングリアだけを手にして飲み始めた。
俺もそれに誘われるように、先にホットサングリアから口をつける。
「……美味い」
かぐわしいワインの香りに加え、林檎とオレンジ、そしてシナモンの香りが、ふわりと優しく交じって鼻腔をくすぐった。
少し冷えた体がじわりと温かくなっていくのを実感する。
「そりゃ、良かった。やっぱり冬は酒も温かいのが良いよなー。今度、日本酒でも何か入れて試すかぁ」
「試す……とは、サングリアのようにフルーツを日本酒に入れるということか?」
熱燗については以前キースに教えたことはあるから、幾度か試しているようだがフルーツを入れるというのは初めて聞いた。
「おう。日本酒でも結構合うらしいぜ。多分、お前が好きな感じになるんじゃねぇの」
「そうか。ならば調べて向いていそうなのを取り寄せてみよう」
「頼むわ。おー、これでまた新しい日本酒が飲める」
確かにキースよりは俺の方の好みに合いそうだ。
あり合わせで作った、とは言ったが、キースはあまり甘い物を好まない。
酒は飲めれば何でもと言いつつ、本人が好んで飲むのはビールだし、ワインや日本酒も嗜むものの辛口の方を好む傾向があるし、サングリアに入れるフルーツの類は普段あまり口にしていないように思う。
何より、タワーを生活の拠点としている今、この自宅を使う機会は限られているから、傷みやすい食材であるフルーツを買い置きしていたとは考えにくい。
今日に限らず、キースがサングリアを作るのは俺に飲ませるためだろう。
だが、コイツはそうして相手を気遣って行動しているのだと、人に悟られることをよしとしない。
人をよく見ているが、そうと思われたくないようだ。
どうも、善意で行動することに気恥ずかしさや抵抗があるらしく、今も自分が新しい日本酒が飲めるのが嬉しいというのを表に出す一方で、俺の好みに合ったものを飲ませたいのだという意図を感じる。
「……お前はいつもそうだ」
俺やディノ、それにジェイなんかもそんなキースの気質をわかっているからいいものの、これがキースの人となりについての誤解を招く一因になっているのはもったいなく思う。
が、そう思うのと同時に、それをわかっているという優越感を手放せずにいるのだから仕方がない。
きっと、俺はこの先も言及できないままだろう。
「ブラッド? 今、何か言ったか?」
「何でもない。ホットサングリアのおかわりはあるか?」
「おう。注いでくるぜ」
空になったカップが、キースの能力で浮いて、ヤツの手元へと落ちる。
キースがホットサングリアをカップに注ぎにキッチンに行く後ろ姿をみながら、優しい味わいのコンソメスープを口にした。
Close
#ブラキス #ワンライ
2020年10月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
サイコキネシスの応用範囲の妄想
キースのサイコキネシス万能説。
実際、アレめちゃくちゃ便利なだけに余計な勘ぐり入れる人いそうだなっていう妄想から。
書いてる部分だとカプ成分薄い&ほぼウエストセクターでの会話だけど、最終的にはキスブラ。
「なぁ、キース。お前、どんだけの数サイコキネシスで同時に操れるんだ?」
共有スペースに置いてある冷蔵庫から、ビール缶を取りだしていたところで、ソファに座っていたジュニアがそう聞いてきた。
「ん? どんだけ……っつっても、動かすもんが無機物か生き物か、大きさや重さがどんくらいあるかってとこで色々変わってくるけどな。動かすもんが無機物で3キロぐらい、それを単調な動きだけでいいなら……ま、200ってとこか」
「「200!?」」
オレの答えにはフェイスも驚いたらしく、ジュニアと声が重なった。
「何だよ……ロストガーデン行ったときにオレが本気出しちまったとこ見てんだろ、お前ら」
「いや、見たけどさ……オーバーフロウじゃないんだよね、それ?」
「オレはオーバーフロウは使えねぇよ」
「使わねぇでそれって凄ぇんじゃ……」
「ま、こんでもメジャーヒーローだからなぁ。疲れるし、そんな数一気に動かす機会もまずねぇけど」
「なぁ、動かすのって生き物がやっぱり大変なのか?」
「まぁな。オレが抱きかかえたり、背負ったりすりゃ、負担は軽くなるけど、そうでないなら力加減が結構面倒くさかったりすんだよな。あと、複雑な動きな。そうだな、例えば……」
ちょうど手にしていたビール缶を浮かし、ついでにグラスも棚から力を使って取り出す。
触らないままでビール缶のプルタブを開け、飲み口から中のビールをやはり浮かせたままのグラスに放物線を描くようにして注いだ。
「うお」
「へぇ」
「こうなるとちょっと複雑な動きって感じだな。蓋閉めたままなら浮かしときゃ楽なもんだが、一回蓋開けると缶っていう固体とビールっていう液体に分かれちまう感覚になるから、開けた時はちょっと面倒になる。ま、見ての通りコントロール出来ない範囲じゃねぇけどな」
中身を全部注いだビール入りのグラスと空き缶になったビール缶を同時にテーブルに置く。
オレもソファに移動してジュニアの隣に座り、グラスを手にし、いざ飲もうとしたところでフェイスが話し掛けてきた。
「…………これが出来るってことは、キースなら怪我をした人の傷口から血を抜き出して、そのまま絶命させちゃうっていうのも可能ってこと?」
「…………え」
フェイスの目が据わってる。ああ、こういう表情するとやっぱブラッドに結構似てるよな。
つうか、着眼点なんかも似るもんなんかね、兄弟ってやつは。
――キース。無闇にヒーロー能力は使わない方がいい。勤務時間外はなおさらだ。
まだルーキーだった頃、能力がどこまで使えるかを試す意味もあって、普段から気軽にサイコキネシスを使っていたが、ある時ブラッドがそう忠告してきた。
――お前の能力は応用がきくだけに、何かあった際に変に勘ぐられる可能性も出て来る。人目につくところではやめておいた方がいい。能力を使うことによる体への負担もだが、畏怖の対象となりかねん。……証拠を残さずに色々出来ると思われてしまう。
――……やんねーよ、んなめんどくせぇこと。
――わかっている。わかっているからこそ、余計な疑念を人に抱かせることはやめておけという話だ。
そういや、ブラッドは必要な時以外には全く能力を使わねぇってことにその時気付いた。
ブラッドの能力がそもそも戦闘向きで日常で使う類のじゃねぇっていうのも大きいが、金属を自在に操れるということはやりようによっちゃ犯罪にも活用出来てしまう。
オレの能力ならなおさらだ。
勿論、ブラッドの場合は元来の性格上絶対変な事なんてやらかさねぇだろうが、オレの場合はアカデミー入学前を考えると後ろ暗いこともあるから、疑念を抱かせるってのはあるなと自分でも納得したから、以降は知らねぇヤツがいるようなところでは能力を使わねぇようにした。
ブラッドはホントは二人きりの時でもあんま使って欲しくねぇみてぇだけど、一定の線引きはしているのは伝わっているらしく、たまに小言が出るくらいだ。
Close
#キスブラ #書きかけ
キースのサイコキネシス万能説。
実際、アレめちゃくちゃ便利なだけに余計な勘ぐり入れる人いそうだなっていう妄想から。
書いてる部分だとカプ成分薄い&ほぼウエストセクターでの会話だけど、最終的にはキスブラ。
「なぁ、キース。お前、どんだけの数サイコキネシスで同時に操れるんだ?」
共有スペースに置いてある冷蔵庫から、ビール缶を取りだしていたところで、ソファに座っていたジュニアがそう聞いてきた。
「ん? どんだけ……っつっても、動かすもんが無機物か生き物か、大きさや重さがどんくらいあるかってとこで色々変わってくるけどな。動かすもんが無機物で3キロぐらい、それを単調な動きだけでいいなら……ま、200ってとこか」
「「200!?」」
オレの答えにはフェイスも驚いたらしく、ジュニアと声が重なった。
「何だよ……ロストガーデン行ったときにオレが本気出しちまったとこ見てんだろ、お前ら」
「いや、見たけどさ……オーバーフロウじゃないんだよね、それ?」
「オレはオーバーフロウは使えねぇよ」
「使わねぇでそれって凄ぇんじゃ……」
「ま、こんでもメジャーヒーローだからなぁ。疲れるし、そんな数一気に動かす機会もまずねぇけど」
「なぁ、動かすのって生き物がやっぱり大変なのか?」
「まぁな。オレが抱きかかえたり、背負ったりすりゃ、負担は軽くなるけど、そうでないなら力加減が結構面倒くさかったりすんだよな。あと、複雑な動きな。そうだな、例えば……」
ちょうど手にしていたビール缶を浮かし、ついでにグラスも棚から力を使って取り出す。
触らないままでビール缶のプルタブを開け、飲み口から中のビールをやはり浮かせたままのグラスに放物線を描くようにして注いだ。
「うお」
「へぇ」
「こうなるとちょっと複雑な動きって感じだな。蓋閉めたままなら浮かしときゃ楽なもんだが、一回蓋開けると缶っていう固体とビールっていう液体に分かれちまう感覚になるから、開けた時はちょっと面倒になる。ま、見ての通りコントロール出来ない範囲じゃねぇけどな」
中身を全部注いだビール入りのグラスと空き缶になったビール缶を同時にテーブルに置く。
オレもソファに移動してジュニアの隣に座り、グラスを手にし、いざ飲もうとしたところでフェイスが話し掛けてきた。
「…………これが出来るってことは、キースなら怪我をした人の傷口から血を抜き出して、そのまま絶命させちゃうっていうのも可能ってこと?」
「…………え」
フェイスの目が据わってる。ああ、こういう表情するとやっぱブラッドに結構似てるよな。
つうか、着眼点なんかも似るもんなんかね、兄弟ってやつは。
――キース。無闇にヒーロー能力は使わない方がいい。勤務時間外はなおさらだ。
まだルーキーだった頃、能力がどこまで使えるかを試す意味もあって、普段から気軽にサイコキネシスを使っていたが、ある時ブラッドがそう忠告してきた。
――お前の能力は応用がきくだけに、何かあった際に変に勘ぐられる可能性も出て来る。人目につくところではやめておいた方がいい。能力を使うことによる体への負担もだが、畏怖の対象となりかねん。……証拠を残さずに色々出来ると思われてしまう。
――……やんねーよ、んなめんどくせぇこと。
――わかっている。わかっているからこそ、余計な疑念を人に抱かせることはやめておけという話だ。
そういや、ブラッドは必要な時以外には全く能力を使わねぇってことにその時気付いた。
ブラッドの能力がそもそも戦闘向きで日常で使う類のじゃねぇっていうのも大きいが、金属を自在に操れるということはやりようによっちゃ犯罪にも活用出来てしまう。
オレの能力ならなおさらだ。
勿論、ブラッドの場合は元来の性格上絶対変な事なんてやらかさねぇだろうが、オレの場合はアカデミー入学前を考えると後ろ暗いこともあるから、疑念を抱かせるってのはあるなと自分でも納得したから、以降は知らねぇヤツがいるようなところでは能力を使わねぇようにした。
ブラッドはホントは二人きりの時でもあんま使って欲しくねぇみてぇだけど、一定の線引きはしているのは伝わっているらしく、たまに小言が出るくらいだ。
Close
#キスブラ #書きかけ