No.43
ブラキス版ワンドロ&ワンライ第6回でのお題から『サングリア』『お前はいつもそうだ』を使って書いた話です。
甘いの得意じゃないキースがサングリア作るのって、人に飲ませたいからだよね……。
夕方からちらつき始めた雪はまだしばらく止みそうにない。
仕事がおしてしまった結果、予定していた時刻よりキースの家への到着が遅くなった。
先に仕事を終えたキースにその旨連絡はしてあり、今日の夕食は各自で済ませるよう告げてあるが、当初の予定では夕食も一緒に取るつもりだったから、その点は少し残念だ。
珍しく、キースの方から何か作ってやるよと言ってきたというのに。
アカデミー時代やルーキーだった頃なんかは、よく料理を作っていたが、元来面倒がりなのもあって、年々作る機会は減っている。
キースの自宅近くの駐車場に車をとめて降りると、思っていた以上に雪の勢いは強い。
車のトランクから傘を出そうか迷ったが、キースの家は目と鼻の先だ。
結局、そのまま傘は出さずに歩き出す。
この家の合い鍵は持っているが、キースがいるのはわかっているから、それは使わずにチャイムを鳴らすと直ぐに家の主が玄関のドアを開けた。
「すまない。遅くなった」
「お、お帰り。あー、雪、結構降ってんのな」
「ああ。駐車場からここまでの少しの距離を歩いただけでこれだ」
玄関先で雪を振り払い、コートを脱ごうとすると、それより早くキースが俺の手を引いた。
「おい」
「ここじゃ冷えるだろ。脱ぐの中でいいから。どうせ、元々家ん中散らかってんだし。仕事で夕飯もまともなもん食ってねぇよな? スープとホットサングリアがあるから、それ飲めよ。あり合わせで作ったヤツで悪ぃけど」
「――頂こう」
キースの言ったように、夕食はプロテインバーを少し口にしただけだったし、冷えたことで温かいものが欲しいと思っていたから、キースの申し出を有り難く受ける。
俺がコートを脱ぎ、ハンガーに掛けている間に、テーブルにスープとホットサングリアが並んだ。
ソファに腰掛けると、キースも向かい側の椅子に座り、自分用のホットサングリアだけを手にして飲み始めた。
俺もそれに誘われるように、先にホットサングリアから口をつける。
「……美味い」
かぐわしいワインの香りに加え、林檎とオレンジ、そしてシナモンの香りが、ふわりと優しく交じって鼻腔をくすぐった。
少し冷えた体がじわりと温かくなっていくのを実感する。
「そりゃ、良かった。やっぱり冬は酒も温かいのが良いよなー。今度、日本酒でも何か入れて試すかぁ」
「試す……とは、サングリアのようにフルーツを日本酒に入れるということか?」
熱燗については以前キースに教えたことはあるから、幾度か試しているようだがフルーツを入れるというのは初めて聞いた。
「おう。日本酒でも結構合うらしいぜ。多分、お前が好きな感じになるんじゃねぇの」
「そうか。ならば調べて向いていそうなのを取り寄せてみよう」
「頼むわ。おー、これでまた新しい日本酒が飲める」
確かにキースよりは俺の方の好みに合いそうだ。
あり合わせで作った、とは言ったが、キースはあまり甘い物を好まない。
酒は飲めれば何でもと言いつつ、本人が好んで飲むのはビールだし、ワインや日本酒も嗜むものの辛口の方を好む傾向があるし、サングリアに入れるフルーツの類は普段あまり口にしていないように思う。
何より、タワーを生活の拠点としている今、この自宅を使う機会は限られているから、傷みやすい食材であるフルーツを買い置きしていたとは考えにくい。
今日に限らず、キースがサングリアを作るのは俺に飲ませるためだろう。
だが、コイツはそうして相手を気遣って行動しているのだと、人に悟られることをよしとしない。
人をよく見ているが、そうと思われたくないようだ。
どうも、善意で行動することに気恥ずかしさや抵抗があるらしく、今も自分が新しい日本酒が飲めるのが嬉しいというのを表に出す一方で、俺の好みに合ったものを飲ませたいのだという意図を感じる。
「……お前はいつもそうだ」
俺やディノ、それにジェイなんかもそんなキースの気質をわかっているからいいものの、これがキースの人となりについての誤解を招く一因になっているのはもったいなく思う。
が、そう思うのと同時に、それをわかっているという優越感を手放せずにいるのだから仕方がない。
きっと、俺はこの先も言及できないままだろう。
「ブラッド? 今、何か言ったか?」
「何でもない。ホットサングリアのおかわりはあるか?」
「おう。注いでくるぜ」
空になったカップが、キースの能力で浮いて、ヤツの手元へと落ちる。
キースがホットサングリアをカップに注ぎにキッチンに行く後ろ姿をみながら、優しい味わいのコンソメスープを口にした。
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#ブラキス #ワンライ
甘いの得意じゃないキースがサングリア作るのって、人に飲ませたいからだよね……。
夕方からちらつき始めた雪はまだしばらく止みそうにない。
仕事がおしてしまった結果、予定していた時刻よりキースの家への到着が遅くなった。
先に仕事を終えたキースにその旨連絡はしてあり、今日の夕食は各自で済ませるよう告げてあるが、当初の予定では夕食も一緒に取るつもりだったから、その点は少し残念だ。
珍しく、キースの方から何か作ってやるよと言ってきたというのに。
アカデミー時代やルーキーだった頃なんかは、よく料理を作っていたが、元来面倒がりなのもあって、年々作る機会は減っている。
キースの自宅近くの駐車場に車をとめて降りると、思っていた以上に雪の勢いは強い。
車のトランクから傘を出そうか迷ったが、キースの家は目と鼻の先だ。
結局、そのまま傘は出さずに歩き出す。
この家の合い鍵は持っているが、キースがいるのはわかっているから、それは使わずにチャイムを鳴らすと直ぐに家の主が玄関のドアを開けた。
「すまない。遅くなった」
「お、お帰り。あー、雪、結構降ってんのな」
「ああ。駐車場からここまでの少しの距離を歩いただけでこれだ」
玄関先で雪を振り払い、コートを脱ごうとすると、それより早くキースが俺の手を引いた。
「おい」
「ここじゃ冷えるだろ。脱ぐの中でいいから。どうせ、元々家ん中散らかってんだし。仕事で夕飯もまともなもん食ってねぇよな? スープとホットサングリアがあるから、それ飲めよ。あり合わせで作ったヤツで悪ぃけど」
「――頂こう」
キースの言ったように、夕食はプロテインバーを少し口にしただけだったし、冷えたことで温かいものが欲しいと思っていたから、キースの申し出を有り難く受ける。
俺がコートを脱ぎ、ハンガーに掛けている間に、テーブルにスープとホットサングリアが並んだ。
ソファに腰掛けると、キースも向かい側の椅子に座り、自分用のホットサングリアだけを手にして飲み始めた。
俺もそれに誘われるように、先にホットサングリアから口をつける。
「……美味い」
かぐわしいワインの香りに加え、林檎とオレンジ、そしてシナモンの香りが、ふわりと優しく交じって鼻腔をくすぐった。
少し冷えた体がじわりと温かくなっていくのを実感する。
「そりゃ、良かった。やっぱり冬は酒も温かいのが良いよなー。今度、日本酒でも何か入れて試すかぁ」
「試す……とは、サングリアのようにフルーツを日本酒に入れるということか?」
熱燗については以前キースに教えたことはあるから、幾度か試しているようだがフルーツを入れるというのは初めて聞いた。
「おう。日本酒でも結構合うらしいぜ。多分、お前が好きな感じになるんじゃねぇの」
「そうか。ならば調べて向いていそうなのを取り寄せてみよう」
「頼むわ。おー、これでまた新しい日本酒が飲める」
確かにキースよりは俺の方の好みに合いそうだ。
あり合わせで作った、とは言ったが、キースはあまり甘い物を好まない。
酒は飲めれば何でもと言いつつ、本人が好んで飲むのはビールだし、ワインや日本酒も嗜むものの辛口の方を好む傾向があるし、サングリアに入れるフルーツの類は普段あまり口にしていないように思う。
何より、タワーを生活の拠点としている今、この自宅を使う機会は限られているから、傷みやすい食材であるフルーツを買い置きしていたとは考えにくい。
今日に限らず、キースがサングリアを作るのは俺に飲ませるためだろう。
だが、コイツはそうして相手を気遣って行動しているのだと、人に悟られることをよしとしない。
人をよく見ているが、そうと思われたくないようだ。
どうも、善意で行動することに気恥ずかしさや抵抗があるらしく、今も自分が新しい日本酒が飲めるのが嬉しいというのを表に出す一方で、俺の好みに合ったものを飲ませたいのだという意図を感じる。
「……お前はいつもそうだ」
俺やディノ、それにジェイなんかもそんなキースの気質をわかっているからいいものの、これがキースの人となりについての誤解を招く一因になっているのはもったいなく思う。
が、そう思うのと同時に、それをわかっているという優越感を手放せずにいるのだから仕方がない。
きっと、俺はこの先も言及できないままだろう。
「ブラッド? 今、何か言ったか?」
「何でもない。ホットサングリアのおかわりはあるか?」
「おう。注いでくるぜ」
空になったカップが、キースの能力で浮いて、ヤツの手元へと落ちる。
キースがホットサングリアをカップに注ぎにキッチンに行く後ろ姿をみながら、優しい味わいのコンソメスープを口にした。
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