タグ「書きかけ」を含む投稿[15件](2ページ目)
Daybreak(仮題)
第10期生として入所する直前のキスブラ。
サブスタンス接種時の副作用が酷いキースの話。
まだ長くなりそうなので冒頭部分だけ。
体の関係はアカデミー時代からある状態。
サブスタンス接種で体調不良のキースを看病するブラッド→復活後模擬戦でヒーロー能力を試す二人→時間切れで模擬戦中断。燻っている衝動からセックス
って感じになる予定。
[Keith's Side]
気付いた時にはフローリングの床の上。
頭を起こそうとしたが、途端に割れるような痛みが走って、結局少しだけ頭の位置をずらして終わった。
床から伝わる冷たさは火照った顔には心地良いが、固さのせいで体の節々が痛い。
いや、痛いのは熱のせいもあるか。
意識をなくす前の部屋は暗かったが、今はカーテンの隙間から零れた日光から察するに、夜が明けてからそれなりの時間が経っているんだろう。
「うえ……今何時、だ」
手探りで周囲を探ってみるも、触れる範囲にスマホらしきものはない。
腕時計も確かテーブルの上だ。
時間を確認しようにも、頭を上げるしんどさを思うと踏み切れない。
寝る前から酷かった頭痛は、さらに悪化しているように思えた。
「くそ……風邪と大差ねぇって話じゃ……なかったのかよ」
元々、体が頑丈なのが取り柄で、風邪もほとんど引いた覚えはないが、それでもこれは――いや、だからこそか。
体調を崩すなんてことが滅多にねぇからこそ、今の状態がかなりこたえているのかも知れねぇ。
第十期ルーキーの入所式まであと数日。
配属される前にヒーロー能力を得るために、つい先日サブスタンスを接種した。
サブスタンスの接種に伴う副作用からくる体調不良は、大抵は一日か二日、長くても三、四日程で収まると聞いていた。
稀に一週間ほどかかるケースもあるようだが、滅多にあるもんじゃないらしい。
だから、その日数ならどうにか一人で乗り切れるだろうって思っていた。
オレの日にちの感覚が間違っていなきゃ、今日で接種してから四日目。
昨日だか一昨日だかに測った時の熱は39℃を超えていた。
今日はまだ測っちゃいねぇが、この感覚じゃ大して下がってねぇだろう。
初日の夕方までは余裕だった。多少の体の怠さはあっても、体温も微熱程度だったから高を括っていた。
一転したのは夕食にデリバリーで頼んだピザを受け取ったときだ。
デリバリーが到着する前から胃が少しムカムカするとは思っていたが、チーズの匂いで吐くとは思わなかった。
当然、ピザは食ってねぇから、不調はサブスタンスの投与によるものだとはすぐ分かったが、そこからがヤバかった。
坂道を転がり落ちるように体調が悪化して、ベッドとトイレを往復するので精一杯。
挙げ句、冷蔵庫のスポーツドリンクを取ろうとしたはいいものの、スポーツドリンクを取りだし、ベッドに戻ろうとしたところで――力尽きて床に頽れ、今に至る。
スポーツドリンクのペットボトルは手が届く位置にある。
せめて、水分だけでも摂らないとマズいと分かっていても、酷い頭痛で頭を上げる気にならねぇ。
喉は渇いているんだが、その為に動くのがまずしんどい。
せめて、ベッドには戻りたいが、体起こすって段階がまずキツい。
「参ったな……こりゃ」
仮に最長の一週間でこの症状が収まるとしたら、あと三日。
ようやく折り返しを過ぎたとこだとすれば先はまだ長い。
くそ……体力落ちそうだな。
サブスタンスが体に馴染んじまえば、今度は回復が通常よりも早くなるって話だから、回復した後にトレーニング増やして、体力を取り戻すしかねぇだろう。
「…………?」
ふと、玄関の方から何か物音が聞こえた気がした。
続いて、人の気配と足音がこっちに近付いてくる。
おいおい、強盗とか勘弁してくれよ。
普段ならともかく、今の調子じゃまともにやり合えそうにねぇってのに――。
「キース!」
「ん…………」
聞き覚えのある声が近いと思ったところで、うつ伏せだった体をひっくり返されて支えられた。
ぐらりと視界が揺れたのに続いて、額に手が当てられる。
手が避けられ間近にあった顔は、この数年アカデミーで嫌というほど日常的に見ていたそれで。
「っ……ブラッ……ド…………?」
「ああ」
「おま……なん、で、ここ……に」
「お前がメッセージも読まず、電話にも出なかったから、何かあったのかと思って来てみた。玄関の鍵は開いていたからそのまま入らせて貰った」
「あ……あー……デリバリーでピザ、頼んだ、とき……閉め損ねた、か」
ピザを受け取ったものの、漂ってくるチーズの匂いに吐き気がして、デリバリーの配達員が玄関の扉を閉めた途端、トイレに直行して吐いたのを思い出す。
そうだ、あの時は玄関の鍵まで閉める余裕がなかったんだったっけ。
「サブスタンス接種の影響がまだ抜けていないのか。熱は測ったか?」
「昨日……いや、一昨日、か? 測ったけど、その後はわかんねぇ……」
「なぜ、タワーに行かなかった。サブスタンスの投与による副作用が酷い場合は、タワーの医務室に行けと指示があったはずだ」
「……めんど……くさかったんだよ……。どうせ、薬使えねぇし、長くて三、四日で収まるって話、だったろ……」
サブスタンスを接種した直後は、体にヒーロー能力が馴染むまで原則として薬の類を使えない。
状態が安定するまでは、医務室に行ったところで精々栄養剤を点滴して貰う位しか出来ねぇ。
今の状況を考えると、まだその方がマシだっただろうが、正直吐いた時にはタワーまで行こうという気になれなかった。
この家からタワーまではタクシーを使っても二、三十分はかかる。
移動中にまた吐くかもしれねぇと思うと躊躇われた。
「最長で一週間の可能性があるとも聞いてるだろう。……いや、今言っても仕方ないな。食事は」
「……吐いちまってから……食ってねぇ……」
「水分……は、これを摂ろうとしていたのか」
オレの近くに転がってたスポーツドリンクを見つけて、ブラッドが手にしたのが見えた。
「そ……。冷蔵庫から取り出したとこで……しんどくて床に突っ伏しちまったけど、な…………んぐ……」
ブラッドがオレの頭を支えていた腕を少し上げようとしたところで、また頭に激しい痛みが走る。
表情に出ちまったのか、ブラッドがそこからオレの頭の位置を上げるのをやめた。
「開封……はしていないな。なら、常温の方がいいか。キース。口を開けろ」
「ん…………んっ!?」
ブラッドが片腕でオレの頭を支えたまま、空いている方の腕と歯を使って、スポーツドリンクのペットボトルの蓋をこじ開ける。
そのまま飲ませてくれるのかと思ったら、ブラッドがスポーツドリンクを口に含み……それをオレに口移ししてきた。
ブラッドの口内の温度も移した、生温いスポーツドリンクが喉を滑り落ちていく。
流石にブラッドが二口目をオレに飲ませようとしたところで、一旦止める。
「ちょ……お……前、俺、風呂……どころか、歯さえ、まともに磨いて、な……」
吐いた直後に水とお茶で口を濯いだがそれで精一杯だったし、それからも日にちが経っている。
いくら、ブラッドとキスやセックスをするような関係とは言っても、今の状態で口移しなんてのは気が引ける。
ブラッドは結構綺麗好きなのも知っているから尚更だ。
「そのぐらいは察している。……今は頭を上げるのも辛いのだろう。構わんから、これでまずは水分を取れ。ほら」
「…………」
反論したかったが、結局それもしんどくてブラッドに言われるがままに、幾度か口移しでスポーツドリンクを飲ませて貰う。
ある程度の量を飲むと、全身の熱っぽさが少し和らぎ、意識もさっきまでに比べてハッキリしてきた。
恐る恐る上半身を起こすと、ブラッドが支えてくれていたのもあってか、動いてもさっきほどの頭痛はなかったことにほっとする。
「……ちょっとマシに……なった。サンキュ……」
「肩を貸そう。ベッドまで動けるか」
「ああ……っと」
「足元に気をつけろ」
「ん……」
ブラッドの肩を借りて、重い足を引きずり、どうにかベッドまで歩く。
十数歩しかないはずの距離がやけに遠く感じ、自分の不調っぷりを嫌でも自覚させられた。
寝かせて貰ったところで、枕元に置いてあった体温計を渡され、脇に突っ込んで測る。
数秒で計測が終わった事を知らせる音が鳴り、取り出そうとしたがブラッドが引き抜く方が早かった。
「……38.8℃」
ブラッドが曇った表情で体温計に表示された温度を読み上げる。
「あー……まだそんなあんの……かよ。どうりで熱い、わけだ……」
「『まだ』? これより熱が高かったのか」
「前測った時は……39℃……超えて、た」
それを考えれば少しは熱が下がったとはいえ、とても改善したとは言い難い。
「……悪いが、勝手に色々使わせて貰うぞ」
「ん? ああ……」
ブラッドがベッドから離れて、冷蔵庫から氷を取り出し、キッチンで何やらごそごそとやり始めた。
かと思えば、そうしないうちに氷の入ったポリ袋いくつかとタオルを抱えて戻ってくる。
ああ、そういや、アカデミーの寮からここに引っ越す時、コイツにも手伝って貰ってたんだった。
多分、その時に物の置き場所を何となく覚えてたりしてたんだろう、妙に記憶力良いよなコイツとぼんやり思っていたら、布団を剥がされる。
「首と脇と鼠蹊部を冷やす。少しは楽になるはずだ」
「あー……頼む」
首の両側、両脇、続いて鼠蹊部へと氷の入ったポリ袋にタオルを巻いたものが置かれていく。
冷やされたそれぞれの場所から、じわじわと冷えた血が流れていくのが分かった。
布団が再び掛けられ、一旦、ブラッドがまた台所に行ったかと思えば、直ぐ戻ってきて、今度は額に濡れたタオルが置かれる。
「うお……気持ち……い……」
「そのまま少し寝てろ。今、食えそうなものを用意する」
「悪ぃ……」
冷やすことで体の灼熱感が和らいだからなのか、急に眠気が襲ってきた。
台所から聞こえてきた物音も不快なものではなく、むしろ安心感さえある。
多分、ブラッドが良いタイミングで起こしてくれるだろうと、眠気に任せて目を閉じた。
Close
#キスブラ #書きかけ
第10期生として入所する直前のキスブラ。
サブスタンス接種時の副作用が酷いキースの話。
まだ長くなりそうなので冒頭部分だけ。
体の関係はアカデミー時代からある状態。
サブスタンス接種で体調不良のキースを看病するブラッド→復活後模擬戦でヒーロー能力を試す二人→時間切れで模擬戦中断。燻っている衝動からセックス
って感じになる予定。
[Keith's Side]
気付いた時にはフローリングの床の上。
頭を起こそうとしたが、途端に割れるような痛みが走って、結局少しだけ頭の位置をずらして終わった。
床から伝わる冷たさは火照った顔には心地良いが、固さのせいで体の節々が痛い。
いや、痛いのは熱のせいもあるか。
意識をなくす前の部屋は暗かったが、今はカーテンの隙間から零れた日光から察するに、夜が明けてからそれなりの時間が経っているんだろう。
「うえ……今何時、だ」
手探りで周囲を探ってみるも、触れる範囲にスマホらしきものはない。
腕時計も確かテーブルの上だ。
時間を確認しようにも、頭を上げるしんどさを思うと踏み切れない。
寝る前から酷かった頭痛は、さらに悪化しているように思えた。
「くそ……風邪と大差ねぇって話じゃ……なかったのかよ」
元々、体が頑丈なのが取り柄で、風邪もほとんど引いた覚えはないが、それでもこれは――いや、だからこそか。
体調を崩すなんてことが滅多にねぇからこそ、今の状態がかなりこたえているのかも知れねぇ。
第十期ルーキーの入所式まであと数日。
配属される前にヒーロー能力を得るために、つい先日サブスタンスを接種した。
サブスタンスの接種に伴う副作用からくる体調不良は、大抵は一日か二日、長くても三、四日程で収まると聞いていた。
稀に一週間ほどかかるケースもあるようだが、滅多にあるもんじゃないらしい。
だから、その日数ならどうにか一人で乗り切れるだろうって思っていた。
オレの日にちの感覚が間違っていなきゃ、今日で接種してから四日目。
昨日だか一昨日だかに測った時の熱は39℃を超えていた。
今日はまだ測っちゃいねぇが、この感覚じゃ大して下がってねぇだろう。
初日の夕方までは余裕だった。多少の体の怠さはあっても、体温も微熱程度だったから高を括っていた。
一転したのは夕食にデリバリーで頼んだピザを受け取ったときだ。
デリバリーが到着する前から胃が少しムカムカするとは思っていたが、チーズの匂いで吐くとは思わなかった。
当然、ピザは食ってねぇから、不調はサブスタンスの投与によるものだとはすぐ分かったが、そこからがヤバかった。
坂道を転がり落ちるように体調が悪化して、ベッドとトイレを往復するので精一杯。
挙げ句、冷蔵庫のスポーツドリンクを取ろうとしたはいいものの、スポーツドリンクを取りだし、ベッドに戻ろうとしたところで――力尽きて床に頽れ、今に至る。
スポーツドリンクのペットボトルは手が届く位置にある。
せめて、水分だけでも摂らないとマズいと分かっていても、酷い頭痛で頭を上げる気にならねぇ。
喉は渇いているんだが、その為に動くのがまずしんどい。
せめて、ベッドには戻りたいが、体起こすって段階がまずキツい。
「参ったな……こりゃ」
仮に最長の一週間でこの症状が収まるとしたら、あと三日。
ようやく折り返しを過ぎたとこだとすれば先はまだ長い。
くそ……体力落ちそうだな。
サブスタンスが体に馴染んじまえば、今度は回復が通常よりも早くなるって話だから、回復した後にトレーニング増やして、体力を取り戻すしかねぇだろう。
「…………?」
ふと、玄関の方から何か物音が聞こえた気がした。
続いて、人の気配と足音がこっちに近付いてくる。
おいおい、強盗とか勘弁してくれよ。
普段ならともかく、今の調子じゃまともにやり合えそうにねぇってのに――。
「キース!」
「ん…………」
聞き覚えのある声が近いと思ったところで、うつ伏せだった体をひっくり返されて支えられた。
ぐらりと視界が揺れたのに続いて、額に手が当てられる。
手が避けられ間近にあった顔は、この数年アカデミーで嫌というほど日常的に見ていたそれで。
「っ……ブラッ……ド…………?」
「ああ」
「おま……なん、で、ここ……に」
「お前がメッセージも読まず、電話にも出なかったから、何かあったのかと思って来てみた。玄関の鍵は開いていたからそのまま入らせて貰った」
「あ……あー……デリバリーでピザ、頼んだ、とき……閉め損ねた、か」
ピザを受け取ったものの、漂ってくるチーズの匂いに吐き気がして、デリバリーの配達員が玄関の扉を閉めた途端、トイレに直行して吐いたのを思い出す。
そうだ、あの時は玄関の鍵まで閉める余裕がなかったんだったっけ。
「サブスタンス接種の影響がまだ抜けていないのか。熱は測ったか?」
「昨日……いや、一昨日、か? 測ったけど、その後はわかんねぇ……」
「なぜ、タワーに行かなかった。サブスタンスの投与による副作用が酷い場合は、タワーの医務室に行けと指示があったはずだ」
「……めんど……くさかったんだよ……。どうせ、薬使えねぇし、長くて三、四日で収まるって話、だったろ……」
サブスタンスを接種した直後は、体にヒーロー能力が馴染むまで原則として薬の類を使えない。
状態が安定するまでは、医務室に行ったところで精々栄養剤を点滴して貰う位しか出来ねぇ。
今の状況を考えると、まだその方がマシだっただろうが、正直吐いた時にはタワーまで行こうという気になれなかった。
この家からタワーまではタクシーを使っても二、三十分はかかる。
移動中にまた吐くかもしれねぇと思うと躊躇われた。
「最長で一週間の可能性があるとも聞いてるだろう。……いや、今言っても仕方ないな。食事は」
「……吐いちまってから……食ってねぇ……」
「水分……は、これを摂ろうとしていたのか」
オレの近くに転がってたスポーツドリンクを見つけて、ブラッドが手にしたのが見えた。
「そ……。冷蔵庫から取り出したとこで……しんどくて床に突っ伏しちまったけど、な…………んぐ……」
ブラッドがオレの頭を支えていた腕を少し上げようとしたところで、また頭に激しい痛みが走る。
表情に出ちまったのか、ブラッドがそこからオレの頭の位置を上げるのをやめた。
「開封……はしていないな。なら、常温の方がいいか。キース。口を開けろ」
「ん…………んっ!?」
ブラッドが片腕でオレの頭を支えたまま、空いている方の腕と歯を使って、スポーツドリンクのペットボトルの蓋をこじ開ける。
そのまま飲ませてくれるのかと思ったら、ブラッドがスポーツドリンクを口に含み……それをオレに口移ししてきた。
ブラッドの口内の温度も移した、生温いスポーツドリンクが喉を滑り落ちていく。
流石にブラッドが二口目をオレに飲ませようとしたところで、一旦止める。
「ちょ……お……前、俺、風呂……どころか、歯さえ、まともに磨いて、な……」
吐いた直後に水とお茶で口を濯いだがそれで精一杯だったし、それからも日にちが経っている。
いくら、ブラッドとキスやセックスをするような関係とは言っても、今の状態で口移しなんてのは気が引ける。
ブラッドは結構綺麗好きなのも知っているから尚更だ。
「そのぐらいは察している。……今は頭を上げるのも辛いのだろう。構わんから、これでまずは水分を取れ。ほら」
「…………」
反論したかったが、結局それもしんどくてブラッドに言われるがままに、幾度か口移しでスポーツドリンクを飲ませて貰う。
ある程度の量を飲むと、全身の熱っぽさが少し和らぎ、意識もさっきまでに比べてハッキリしてきた。
恐る恐る上半身を起こすと、ブラッドが支えてくれていたのもあってか、動いてもさっきほどの頭痛はなかったことにほっとする。
「……ちょっとマシに……なった。サンキュ……」
「肩を貸そう。ベッドまで動けるか」
「ああ……っと」
「足元に気をつけろ」
「ん……」
ブラッドの肩を借りて、重い足を引きずり、どうにかベッドまで歩く。
十数歩しかないはずの距離がやけに遠く感じ、自分の不調っぷりを嫌でも自覚させられた。
寝かせて貰ったところで、枕元に置いてあった体温計を渡され、脇に突っ込んで測る。
数秒で計測が終わった事を知らせる音が鳴り、取り出そうとしたがブラッドが引き抜く方が早かった。
「……38.8℃」
ブラッドが曇った表情で体温計に表示された温度を読み上げる。
「あー……まだそんなあんの……かよ。どうりで熱い、わけだ……」
「『まだ』? これより熱が高かったのか」
「前測った時は……39℃……超えて、た」
それを考えれば少しは熱が下がったとはいえ、とても改善したとは言い難い。
「……悪いが、勝手に色々使わせて貰うぞ」
「ん? ああ……」
ブラッドがベッドから離れて、冷蔵庫から氷を取り出し、キッチンで何やらごそごそとやり始めた。
かと思えば、そうしないうちに氷の入ったポリ袋いくつかとタオルを抱えて戻ってくる。
ああ、そういや、アカデミーの寮からここに引っ越す時、コイツにも手伝って貰ってたんだった。
多分、その時に物の置き場所を何となく覚えてたりしてたんだろう、妙に記憶力良いよなコイツとぼんやり思っていたら、布団を剥がされる。
「首と脇と鼠蹊部を冷やす。少しは楽になるはずだ」
「あー……頼む」
首の両側、両脇、続いて鼠蹊部へと氷の入ったポリ袋にタオルを巻いたものが置かれていく。
冷やされたそれぞれの場所から、じわじわと冷えた血が流れていくのが分かった。
布団が再び掛けられ、一旦、ブラッドがまた台所に行ったかと思えば、直ぐ戻ってきて、今度は額に濡れたタオルが置かれる。
「うお……気持ち……い……」
「そのまま少し寝てろ。今、食えそうなものを用意する」
「悪ぃ……」
冷やすことで体の灼熱感が和らいだからなのか、急に眠気が襲ってきた。
台所から聞こえてきた物音も不快なものではなく、むしろ安心感さえある。
多分、ブラッドが良いタイミングで起こしてくれるだろうと、眠気に任せて目を閉じた。
Close
#キスブラ #書きかけ
キスブラで模擬戦
ヒーロー能力を無効にされた場合も考えて、体術面も鍛えておこうという流れになり、南&西での合同演習で、キスブラが模擬戦する話。
バトルシーン難しいので、いつになるのか……。
あと、人数そこそこいるので、三人称で書きたい話。
(ヒーロー能力を無効化された場合のことを考え、トレーニングルームを一時能力を使えないように施した後、体術の手本を見せるという流れ)
「キース」
「ん?」
「出ろ。俺とお前とで模擬戦をやるぞ」
「ええ……お前相手だと手ぇ抜けねぇからめんどくさ……」
「貴様、先程俺が説明した内容を聞いていたか。たまには真っ当にルーキーたちの手本になるんだな」
「オスカーとやりゃいいじゃねぇか」
「何の為の合同演習だと思っている。……お前がそういうつもりなら」
(他の人には聞こえないようにブラッドがキースに耳打ちすると、キースの顔色が変わる)
「やっ、やめろ、それだけは! わかった、やる。やるから勘弁してくれ!」
「わかればいい」
「……ったく、この暴君が。つか、やっぱりフェイスとお前兄弟だな。そっくりだ」
「「は?」」
(ブラッドとフェイスが揃って首を傾げる)
(ダイナーイベでフェイスがキースに伏せ字で何やら言ったあの流れをキースは示しているという想定)
「で? 時間はどうすんだ?」
「そうだな、二十分で行こう。オスカー。時間の計測、あと開始と終了の合図を頼む」
「イエッサー」
(いざ、模擬戦開始。当初はジュニアが五分はもてよ、クソメンター!などと囃していたが途中で状況に無言になる)
「ブラッドが……少し押されてる……?」
「凄ぇ……何だあれ」
「……ねぇ、オスカー。もしかしてヒーロー能力なくてもキースって強いの」
「かなり。体術に関して言えば、現役のヒーローでは一番かもしれません」
「はぁ!? マジかよ」
「アカデミーの頃から右に出るものがいないくらいだったとか。俺は体術でキースさんにまだ勝てたことがありませんし、ブラッドさまも五回に一回勝てるかどうかだと」
「うっそだろ……」
「伊達にメジャーヒーローじゃないってことか……」
(模擬戦終了。結果は引き分け)
「くっそ、結局引き分けかよ」
「……あと、五分長ければ恐らく俺が負けた」
「たらればなんて意味がねぇよ……って、ジュニア? どうし……」
(ジュニアがキースの胸ぐら掴みながら文句を言い始める)
「こ…………っの、クソメンター! お前、あんだけ動けるんならなんで普段からやんねーんだよ!! まともに指導しろっての!!」
「あああ、だからやりたくなかったんだっての……」
※多分、キースは能力ありでもなしでも、本気なら滅茶苦茶強いと思ってる。
Close
#キスブラ #書きかけ
ヒーロー能力を無効にされた場合も考えて、体術面も鍛えておこうという流れになり、南&西での合同演習で、キスブラが模擬戦する話。
バトルシーン難しいので、いつになるのか……。
あと、人数そこそこいるので、三人称で書きたい話。
(ヒーロー能力を無効化された場合のことを考え、トレーニングルームを一時能力を使えないように施した後、体術の手本を見せるという流れ)
「キース」
「ん?」
「出ろ。俺とお前とで模擬戦をやるぞ」
「ええ……お前相手だと手ぇ抜けねぇからめんどくさ……」
「貴様、先程俺が説明した内容を聞いていたか。たまには真っ当にルーキーたちの手本になるんだな」
「オスカーとやりゃいいじゃねぇか」
「何の為の合同演習だと思っている。……お前がそういうつもりなら」
(他の人には聞こえないようにブラッドがキースに耳打ちすると、キースの顔色が変わる)
「やっ、やめろ、それだけは! わかった、やる。やるから勘弁してくれ!」
「わかればいい」
「……ったく、この暴君が。つか、やっぱりフェイスとお前兄弟だな。そっくりだ」
「「は?」」
(ブラッドとフェイスが揃って首を傾げる)
(ダイナーイベでフェイスがキースに伏せ字で何やら言ったあの流れをキースは示しているという想定)
「で? 時間はどうすんだ?」
「そうだな、二十分で行こう。オスカー。時間の計測、あと開始と終了の合図を頼む」
「イエッサー」
(いざ、模擬戦開始。当初はジュニアが五分はもてよ、クソメンター!などと囃していたが途中で状況に無言になる)
「ブラッドが……少し押されてる……?」
「凄ぇ……何だあれ」
「……ねぇ、オスカー。もしかしてヒーロー能力なくてもキースって強いの」
「かなり。体術に関して言えば、現役のヒーローでは一番かもしれません」
「はぁ!? マジかよ」
「アカデミーの頃から右に出るものがいないくらいだったとか。俺は体術でキースさんにまだ勝てたことがありませんし、ブラッドさまも五回に一回勝てるかどうかだと」
「うっそだろ……」
「伊達にメジャーヒーローじゃないってことか……」
(模擬戦終了。結果は引き分け)
「くっそ、結局引き分けかよ」
「……あと、五分長ければ恐らく俺が負けた」
「たらればなんて意味がねぇよ……って、ジュニア? どうし……」
(ジュニアがキースの胸ぐら掴みながら文句を言い始める)
「こ…………っの、クソメンター! お前、あんだけ動けるんならなんで普段からやんねーんだよ!! まともに指導しろっての!!」
「あああ、だからやりたくなかったんだっての……」
※多分、キースは能力ありでもなしでも、本気なら滅茶苦茶強いと思ってる。
Close
#キスブラ #書きかけ
調律師堀×良家の令嬢な鹿島でパロ。Twitterでフォロワーさんがあげていたネタから。
まともにやろうと思ったら、シリーズ化しそうな勢いだったので、とりあえず、冒頭部分とエロシーンだけふらっと書いてみました。
エロシーン中途半端ですみません。
上客だから、絶対に失礼のないようにしろ、とは確かに言われてきた。
裕福な客にも少なからず当たったことはあったし、多少の覚悟はしてきたつもりだったが、予想以上だった。
「個人の家とは思えねぇなぁ……。間違ってないよな、俺」
立派な門構えの奥に佇む依頼人の家は、家というよりお屋敷と言った方がしっくりくる。
音大なんて、それなりに裕福な家の出身者が少なからずいたし、ピアノ科の連中はほぼ自宅にグランドピアノを所有している。
そこそこ広い家なんて、見慣れてたつもりだが、流石に圧倒された。
チャイムを鳴らす手が微かに震えてしまったのが、自分でも分かる。
『はい、どちら様ですか』
「調律師の堀と申します。この時間に調律の手配をご依頼頂いたかと思うのですが」
『お待ちしておりました。ただいま参りますので、少々お待ちを』
淡々と形式ぶった口ぶりからして使用人かな。
これだけでかい家なら有り得そうだ。
ややあって、スーツ姿の初老の男性が玄関先まで出て来た。
「お待たせいたしました。本日はよろしくお願いいたします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いいたします。確か、調律するピアノは二台とお伺いしたのですが……」
「はい、こちらになります」
歩き始めた相手に合わせ、こちらも隣を歩く。
「本宅に練習用のスタインウェイが、そしてあちらに見えます離れの方にベーゼンドルファーを置いてあります」
「どっちもグランドピアノ、ですよね」
「はい」
スタインウェイとベーゼンドルファーの二台持ちかよ。
しかも、スタインウェイが練習用かよ!
こりゃ、スタンダードモデルでもないんじゃねぇの。
スタインウェイは、先日大学で調律する仕事で触ったが、ベーゼンに触るのは結構久しぶりだ。
名器に触れる喜びと幾ばくかの嫉妬が混じり合う。
演奏家――殊にクラシックの分野で演奏家を目指すなら、条件がある。
まず、才能があるというのは大前提。そして、コネ。
これは、音大に入学したり、元々師事していた先生なりで、大抵どうにか足がかりは掴める。
楽器を練習する時間を捻出するのも、まぁどうにかなる。
一番問題なのはぶっちゃけ金だ。
国公立の音大なら、まだ学費等は安く抑えられるが、問題は学費だけじゃない。
そもそも、音大に入る時点で独学でどうにかなるやつなんて、いないと言って良い。
自分の楽器のレッスン費用、ソルフェージュ等のレッスン費用、ピアノ科じゃなければ、自分の楽器に加えて、ピアノも副科で必須になるからピアノのレッスン費用、そして、楽器の購入費用やら、それらのメンテナンスにかかる費用、演奏する楽譜や、練習用の教本などなど。
そんな様々な費用は大学に入っても、ほぼ変わらない。
寧ろ、定期演奏会のメンバーに選ばれたり、門下生でのコンサートに出演することになったり、コンクールに出ることになったりと、人前で演奏する機会が増えるため、衣装代とか、それらのコンサート等での打ち合わせやリハを行うことでの会場費やら、交通費やら。
ハッキリ言って、湯水の如くに金は出て行く。
仮に奨学金を貰えたとしても、限度があるのだ。
俺なんかもそこでダメになったクチだ。
どうにか、希望の音大に現役で滑り込めたはいいものの、結局大学二年で中退した。
それでも、どうにか音楽に関わる仕事をしたくて選んだのが調律師だった。
昼はバイトに明け暮れ、夜は調律師の学校に通うことで、どうにか調律師という職に就くことが出来た。
給料の面で言えば、決してよくはないものの、好きなものに関わっていけるという嬉しさを考えたらどうでもいい。
ただ、こんな風に――当たり前のように音楽を続けていける金があるんだろうなと容易く想像出来るような人間がいることに、時折嫉妬してしまうのは人として仕方ねぇと思いたい。
屋敷の中に案内されると、隅々までいい調度品を揃えているのが、そういったものに詳しくない俺でも分かる。
神経使いそうな仕事だなーと思っていると、俺たちの方に高校生くらいの少女が歩み寄ってきた。
「お嬢様。ピアノの調律師の方がいらっしゃいました」
「はーい。お待ちしてました! 今日は両親留守なんで、私が案内しますね」
朗らかに受け答える少女は端正な顔立ちをしていた。
金持ちの上に、美形とか勝ち組じゃねぇかと思いつつ、どこかでこの顔が記憶に引っかかっていた。
あれ、この家の名字って確か……。
「申し遅れました。私ここの娘の鹿島遊っていいます」
……記憶に引っかかっていたわけだ。
こいつ、確か先日この近くのホールで行われたピアノコンクールで一位取ってたやつじゃなかったっけか。
偶然、仕事の空きが出来た時間にちょっと寄ったが、確かにこいつの演奏は群を抜いていた。
「あ、あとは私やりますから下がってていいですよー」
「了解いたしました。よろしくお願いいたします、お嬢様」
男がその場を立ち去ると、少女――鹿島遊が馴れ馴れしく俺の手を掴んだ。
「こっちです、どうぞ」
「お、おい」
咎めようにも、相手は上客だというのを思い出して堪える。
鹿島が俺の手を引くままに、二階まで上がり、左に曲がって、突き当たりの部屋まで連れてこられた。
部屋に入ると防音仕様になっている割にはそこそこ広い。
ホント金あるんだな、と溜め息を吐きたくなったのを抑え込んだ。
そして、グランドピアノも案の定スタンダードモデルじゃない。
詳細は忘れたが記念に作られた限定モデルの一つだ。
これが練習用ってとんだお大尽だな。
しかし、こういう機会でもないと触れないような代物だ。
有り難く仕事に入らせて貰うこととしよう。
「じゃ、早速調律しますんで」
「はい、お願いしますね!」
床に調律道具を広げて、早速やろうとしたが、鹿島は俺の方をじっと見たまま動こうとしない。
「……その、何か?」
「あー、調律するところ見ていてもいいですか? 今まで、私調律するところに居合わせたことなくて」
「まぁ、構いませんが……その、お嬢さん」
「敬語いらないですよー。私の方が年下ですし。呼び方も鹿島で構いませんから」
「じゃあ、鹿島。見ているならもう少し離れていて貰ってもいいか。あまり近い場所にいられるとやりずらい」
「はーい」
これが、俺と鹿島の最初の出会いだった。
***
防音室ってのはつくづく便利だと思う。
まぁ、防音とは言っても、完全に音を遮断するわけでなく、ピアノを弾いていれば弾いていることが分かってしまうくらいのものだ。
だから、こうして。
「や……あああっ!」
鹿島が嬌声を上げるのに合わせて、ピアノの音を鳴らす。
如何にも調律を真面目にしています、って風を装って。
こうすれば、まさか防音室の中でセックスに及んでいるなんて思われない。
ピアノの椅子に俺が座った上に鹿島を後ろ向きに乗せ、貫いているなんて、誰が予想出来るだろうか。
俺だって、初めてこの家を訪れたときには予想なんてしていなかった。
「綺麗にピアノ磨き上げてるから、反射して丸見えだな、ここ」
「や、だ……言わな…………でくだ……」
指で繋がった部分に触りながら、ピアノに映っている鹿島に笑いかける。
触れた場所からは温かい蜜が溢れて、俺の指を濡らす。
泣きそうな顔はこいつがめちゃくちゃ感じているからだと、もう知っている。
こいつが大事にしているピアノを調律した指で、こいつの身体の隅々に触れ、もう触っていない場所なんて残っていない。
――ここで練習するたびに思い出すじゃないですか……酷いです。
最初にここで抱いた時にそんなことを言われたが、それこそが目的だ。
何もかも当たり前のように与えられ、それに応じられるだけの才能を持った女。
そんな女をこの手で好きに扱っているという事実が俺を昂ぶらせる。
濡れた指でクリトリスを挟み込むと小さな悲鳴が聞こえた。
もう一方の手で、すかさずピアノを鳴らす。
あ。今の音、心持ち高いな。あとで調整しねぇと。
「良い声で啼くよなぁ、おまえ」
「お……願いしま…………も」
「もう?」
「っ……」
「教えただろ、ちゃんと。こういう時はどう言えば良いかって」
「あ……あっ」
挟み込んだ指で、クリトリスをゆっくりと擦る。
微かに露出した部分には触れないように焦らしながら。
「動いて、下さ……い。奥まで…………来て……っ!」
「…………ちゃんと言えるじゃねぇ、かっ」
「うああああ!!」
鹿島の嬌声と同時に属七の和音を鳴らし、クリトリスを押しつぶしながら、腰を強く突き上げた。
Close
#堀鹿 #R18 #書きかけ
まともにやろうと思ったら、シリーズ化しそうな勢いだったので、とりあえず、冒頭部分とエロシーンだけふらっと書いてみました。
エロシーン中途半端ですみません。
上客だから、絶対に失礼のないようにしろ、とは確かに言われてきた。
裕福な客にも少なからず当たったことはあったし、多少の覚悟はしてきたつもりだったが、予想以上だった。
「個人の家とは思えねぇなぁ……。間違ってないよな、俺」
立派な門構えの奥に佇む依頼人の家は、家というよりお屋敷と言った方がしっくりくる。
音大なんて、それなりに裕福な家の出身者が少なからずいたし、ピアノ科の連中はほぼ自宅にグランドピアノを所有している。
そこそこ広い家なんて、見慣れてたつもりだが、流石に圧倒された。
チャイムを鳴らす手が微かに震えてしまったのが、自分でも分かる。
『はい、どちら様ですか』
「調律師の堀と申します。この時間に調律の手配をご依頼頂いたかと思うのですが」
『お待ちしておりました。ただいま参りますので、少々お待ちを』
淡々と形式ぶった口ぶりからして使用人かな。
これだけでかい家なら有り得そうだ。
ややあって、スーツ姿の初老の男性が玄関先まで出て来た。
「お待たせいたしました。本日はよろしくお願いいたします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いいたします。確か、調律するピアノは二台とお伺いしたのですが……」
「はい、こちらになります」
歩き始めた相手に合わせ、こちらも隣を歩く。
「本宅に練習用のスタインウェイが、そしてあちらに見えます離れの方にベーゼンドルファーを置いてあります」
「どっちもグランドピアノ、ですよね」
「はい」
スタインウェイとベーゼンドルファーの二台持ちかよ。
しかも、スタインウェイが練習用かよ!
こりゃ、スタンダードモデルでもないんじゃねぇの。
スタインウェイは、先日大学で調律する仕事で触ったが、ベーゼンに触るのは結構久しぶりだ。
名器に触れる喜びと幾ばくかの嫉妬が混じり合う。
演奏家――殊にクラシックの分野で演奏家を目指すなら、条件がある。
まず、才能があるというのは大前提。そして、コネ。
これは、音大に入学したり、元々師事していた先生なりで、大抵どうにか足がかりは掴める。
楽器を練習する時間を捻出するのも、まぁどうにかなる。
一番問題なのはぶっちゃけ金だ。
国公立の音大なら、まだ学費等は安く抑えられるが、問題は学費だけじゃない。
そもそも、音大に入る時点で独学でどうにかなるやつなんて、いないと言って良い。
自分の楽器のレッスン費用、ソルフェージュ等のレッスン費用、ピアノ科じゃなければ、自分の楽器に加えて、ピアノも副科で必須になるからピアノのレッスン費用、そして、楽器の購入費用やら、それらのメンテナンスにかかる費用、演奏する楽譜や、練習用の教本などなど。
そんな様々な費用は大学に入っても、ほぼ変わらない。
寧ろ、定期演奏会のメンバーに選ばれたり、門下生でのコンサートに出演することになったり、コンクールに出ることになったりと、人前で演奏する機会が増えるため、衣装代とか、それらのコンサート等での打ち合わせやリハを行うことでの会場費やら、交通費やら。
ハッキリ言って、湯水の如くに金は出て行く。
仮に奨学金を貰えたとしても、限度があるのだ。
俺なんかもそこでダメになったクチだ。
どうにか、希望の音大に現役で滑り込めたはいいものの、結局大学二年で中退した。
それでも、どうにか音楽に関わる仕事をしたくて選んだのが調律師だった。
昼はバイトに明け暮れ、夜は調律師の学校に通うことで、どうにか調律師という職に就くことが出来た。
給料の面で言えば、決してよくはないものの、好きなものに関わっていけるという嬉しさを考えたらどうでもいい。
ただ、こんな風に――当たり前のように音楽を続けていける金があるんだろうなと容易く想像出来るような人間がいることに、時折嫉妬してしまうのは人として仕方ねぇと思いたい。
屋敷の中に案内されると、隅々までいい調度品を揃えているのが、そういったものに詳しくない俺でも分かる。
神経使いそうな仕事だなーと思っていると、俺たちの方に高校生くらいの少女が歩み寄ってきた。
「お嬢様。ピアノの調律師の方がいらっしゃいました」
「はーい。お待ちしてました! 今日は両親留守なんで、私が案内しますね」
朗らかに受け答える少女は端正な顔立ちをしていた。
金持ちの上に、美形とか勝ち組じゃねぇかと思いつつ、どこかでこの顔が記憶に引っかかっていた。
あれ、この家の名字って確か……。
「申し遅れました。私ここの娘の鹿島遊っていいます」
……記憶に引っかかっていたわけだ。
こいつ、確か先日この近くのホールで行われたピアノコンクールで一位取ってたやつじゃなかったっけか。
偶然、仕事の空きが出来た時間にちょっと寄ったが、確かにこいつの演奏は群を抜いていた。
「あ、あとは私やりますから下がってていいですよー」
「了解いたしました。よろしくお願いいたします、お嬢様」
男がその場を立ち去ると、少女――鹿島遊が馴れ馴れしく俺の手を掴んだ。
「こっちです、どうぞ」
「お、おい」
咎めようにも、相手は上客だというのを思い出して堪える。
鹿島が俺の手を引くままに、二階まで上がり、左に曲がって、突き当たりの部屋まで連れてこられた。
部屋に入ると防音仕様になっている割にはそこそこ広い。
ホント金あるんだな、と溜め息を吐きたくなったのを抑え込んだ。
そして、グランドピアノも案の定スタンダードモデルじゃない。
詳細は忘れたが記念に作られた限定モデルの一つだ。
これが練習用ってとんだお大尽だな。
しかし、こういう機会でもないと触れないような代物だ。
有り難く仕事に入らせて貰うこととしよう。
「じゃ、早速調律しますんで」
「はい、お願いしますね!」
床に調律道具を広げて、早速やろうとしたが、鹿島は俺の方をじっと見たまま動こうとしない。
「……その、何か?」
「あー、調律するところ見ていてもいいですか? 今まで、私調律するところに居合わせたことなくて」
「まぁ、構いませんが……その、お嬢さん」
「敬語いらないですよー。私の方が年下ですし。呼び方も鹿島で構いませんから」
「じゃあ、鹿島。見ているならもう少し離れていて貰ってもいいか。あまり近い場所にいられるとやりずらい」
「はーい」
これが、俺と鹿島の最初の出会いだった。
***
防音室ってのはつくづく便利だと思う。
まぁ、防音とは言っても、完全に音を遮断するわけでなく、ピアノを弾いていれば弾いていることが分かってしまうくらいのものだ。
だから、こうして。
「や……あああっ!」
鹿島が嬌声を上げるのに合わせて、ピアノの音を鳴らす。
如何にも調律を真面目にしています、って風を装って。
こうすれば、まさか防音室の中でセックスに及んでいるなんて思われない。
ピアノの椅子に俺が座った上に鹿島を後ろ向きに乗せ、貫いているなんて、誰が予想出来るだろうか。
俺だって、初めてこの家を訪れたときには予想なんてしていなかった。
「綺麗にピアノ磨き上げてるから、反射して丸見えだな、ここ」
「や、だ……言わな…………でくだ……」
指で繋がった部分に触りながら、ピアノに映っている鹿島に笑いかける。
触れた場所からは温かい蜜が溢れて、俺の指を濡らす。
泣きそうな顔はこいつがめちゃくちゃ感じているからだと、もう知っている。
こいつが大事にしているピアノを調律した指で、こいつの身体の隅々に触れ、もう触っていない場所なんて残っていない。
――ここで練習するたびに思い出すじゃないですか……酷いです。
最初にここで抱いた時にそんなことを言われたが、それこそが目的だ。
何もかも当たり前のように与えられ、それに応じられるだけの才能を持った女。
そんな女をこの手で好きに扱っているという事実が俺を昂ぶらせる。
濡れた指でクリトリスを挟み込むと小さな悲鳴が聞こえた。
もう一方の手で、すかさずピアノを鳴らす。
あ。今の音、心持ち高いな。あとで調整しねぇと。
「良い声で啼くよなぁ、おまえ」
「お……願いしま…………も」
「もう?」
「っ……」
「教えただろ、ちゃんと。こういう時はどう言えば良いかって」
「あ……あっ」
挟み込んだ指で、クリトリスをゆっくりと擦る。
微かに露出した部分には触れないように焦らしながら。
「動いて、下さ……い。奥まで…………来て……っ!」
「…………ちゃんと言えるじゃねぇ、かっ」
「うああああ!!」
鹿島の嬌声と同時に属七の和音を鳴らし、クリトリスを押しつぶしながら、腰を強く突き上げた。
Close
#堀鹿 #R18 #書きかけ
ZEBELのコミカライズ版花帰葬(第1話)の流れでの黒玄ネタ。
元サイトの拍手から。
ラスト4P目からラストページまでの間を想定しての妄想。
多分、治癒能力は相手の身体に触れてさえいれば発動されるんだろうなと予想されますが、キスして治しているのはただの趣味ですw
コミカライズ版知らない方にはごめんなさい。
空気が弾け、ぷつりと左の頬で皮膚が裂ける様な衝撃。次いで訪れた小さな痛み。
伝っていく血の感触がいつもと違って、即座に止まらないのが少し不思議な気分になった。
――君は怪我をしても、直ぐに治癒する。それが君の能力だから。
いつかの黒鷹の声が脳裏で蘇る。
――一つの例外を除いては、ね。……救世主によってつけられた傷にはその能力は働かない。
人が普通に傷ついたときと何の変わりもないんだ。だから、それが小さな傷であれば日にちが経てば癒える。
しかし、致命傷だった場合ではどうしようもない。
私にも治癒能力は備わっているが、君よりずっと弱い。
何かあったときに出来ることには限度がある。
少し困ったような口調で言っていたな。
それでも、あいつは花白と会うこと自体を止めはしなかった。
――あの子どもと付き合いを続けていくつもりなら、それだけは覚えておいてくれないか。……今は覚えておいてくれるだけでいい。
ただ、そう言っただけ。
……実際のところ、あの細腕で俺を本当に殺せるのかと思っていた。
本能的に相手が何か、なんて最初からわかっていたが、それでもどこかで信じ難い部分はあった。
だが、これでわかった。俺に『玄冬』としての力があるように、花白にも『救世主』としての力は確かに備わっているのだと。
ほんの僅かの感情の起伏でこれなら。
「……今のが、お前の力か……」
「…………っ!!」
俺の呟きに、踵を返して走り去った花白の背中を目で追いながら思う。
本気を出したのなら、確実に俺を殺すことが出来るだろう。
そう、これなら……。
「…………さすがに一瞬冷や汗をかいたよ」
「……黒鷹」
ばさり、と大きく羽音がした次の瞬間、目の前に鳥の姿の黒鷹が降り立ち、人の姿に変わった。
恐らく、さっきの花白の力が発動したのを察して来たんだろう。
手袋をはずした指が俺の左頬に軽く触れてくる。
ぴり、と染みるような小さな痛み。
その際に少し俺の表情が変わったのかも知れない。
黒鷹は軽く溜息を吐くと苦笑いを浮かべた。
「……やれやれ。せっかくのいい男が台無しじゃないか。少しは防御したまえよ。何の為に君に護身術を教えたんだか、わからないじゃないか」
「……とっさのことで動けなかったんだ。それに大した傷じゃないだろう、このくらい」
「大した傷じゃなくても、我が子を傷つけられて、はい、そうですかと納得する親なんていないよ。……じっとしていなさい。完全に治すことは出来ないが、傷口を塞いで痛みを抑える位は出来るから」
「放って……」
「おきたくないんだよ。私が。……それにあの子どももきっと気にする」
「っ……」
傷口に黒鷹の唇が触れた瞬間、痛みがすっと引いた。這った舌は血を拭ってくれたんだろう。
黒鷹が離れ、そっと傷に触れてみるとそこはもう瘡蓋になっていた。
「……すまない。有り難う」
「いいよ。……とりあえず、時間も時間だ。家に帰ろうじゃないか」
「待て。花白が……」
灯りも持たない状態で森の中にでも入ってしまったら危険だ。
あいつだと夜目もろくにきかないだろう。
それ以前に、またどこかで足を踏み外して崖下に落ちていないとも限らない。……探しに行かなくては。
「やれやれ。……言うだろうとは思ったけどね。……いいよ、探しに行っておいで。今ならそんなに遠くには行ってないだろうさ。私は一足先に家に戻って、部屋を暖めていよう」
「ああ。頼む」
Close
#黒玄 #書きかけ
元サイトの拍手から。
ラスト4P目からラストページまでの間を想定しての妄想。
多分、治癒能力は相手の身体に触れてさえいれば発動されるんだろうなと予想されますが、キスして治しているのはただの趣味ですw
コミカライズ版知らない方にはごめんなさい。
空気が弾け、ぷつりと左の頬で皮膚が裂ける様な衝撃。次いで訪れた小さな痛み。
伝っていく血の感触がいつもと違って、即座に止まらないのが少し不思議な気分になった。
――君は怪我をしても、直ぐに治癒する。それが君の能力だから。
いつかの黒鷹の声が脳裏で蘇る。
――一つの例外を除いては、ね。……救世主によってつけられた傷にはその能力は働かない。
人が普通に傷ついたときと何の変わりもないんだ。だから、それが小さな傷であれば日にちが経てば癒える。
しかし、致命傷だった場合ではどうしようもない。
私にも治癒能力は備わっているが、君よりずっと弱い。
何かあったときに出来ることには限度がある。
少し困ったような口調で言っていたな。
それでも、あいつは花白と会うこと自体を止めはしなかった。
――あの子どもと付き合いを続けていくつもりなら、それだけは覚えておいてくれないか。……今は覚えておいてくれるだけでいい。
ただ、そう言っただけ。
……実際のところ、あの細腕で俺を本当に殺せるのかと思っていた。
本能的に相手が何か、なんて最初からわかっていたが、それでもどこかで信じ難い部分はあった。
だが、これでわかった。俺に『玄冬』としての力があるように、花白にも『救世主』としての力は確かに備わっているのだと。
ほんの僅かの感情の起伏でこれなら。
「……今のが、お前の力か……」
「…………っ!!」
俺の呟きに、踵を返して走り去った花白の背中を目で追いながら思う。
本気を出したのなら、確実に俺を殺すことが出来るだろう。
そう、これなら……。
「…………さすがに一瞬冷や汗をかいたよ」
「……黒鷹」
ばさり、と大きく羽音がした次の瞬間、目の前に鳥の姿の黒鷹が降り立ち、人の姿に変わった。
恐らく、さっきの花白の力が発動したのを察して来たんだろう。
手袋をはずした指が俺の左頬に軽く触れてくる。
ぴり、と染みるような小さな痛み。
その際に少し俺の表情が変わったのかも知れない。
黒鷹は軽く溜息を吐くと苦笑いを浮かべた。
「……やれやれ。せっかくのいい男が台無しじゃないか。少しは防御したまえよ。何の為に君に護身術を教えたんだか、わからないじゃないか」
「……とっさのことで動けなかったんだ。それに大した傷じゃないだろう、このくらい」
「大した傷じゃなくても、我が子を傷つけられて、はい、そうですかと納得する親なんていないよ。……じっとしていなさい。完全に治すことは出来ないが、傷口を塞いで痛みを抑える位は出来るから」
「放って……」
「おきたくないんだよ。私が。……それにあの子どももきっと気にする」
「っ……」
傷口に黒鷹の唇が触れた瞬間、痛みがすっと引いた。這った舌は血を拭ってくれたんだろう。
黒鷹が離れ、そっと傷に触れてみるとそこはもう瘡蓋になっていた。
「……すまない。有り難う」
「いいよ。……とりあえず、時間も時間だ。家に帰ろうじゃないか」
「待て。花白が……」
灯りも持たない状態で森の中にでも入ってしまったら危険だ。
あいつだと夜目もろくにきかないだろう。
それ以前に、またどこかで足を踏み外して崖下に落ちていないとも限らない。……探しに行かなくては。
「やれやれ。……言うだろうとは思ったけどね。……いいよ、探しに行っておいで。今ならそんなに遠くには行ってないだろうさ。私は一足先に家に戻って、部屋を暖めていよう」
「ああ。頼む」
Close
#黒玄 #書きかけ
Fiamma silenziosaの視点変更版書きかけから。
Fiamma silenziosaの第一話『E affogato liberamente da due notte di persone. ~夜は二人で溺れるままに』の視点変更版、前半のみ。
元サイトの拍手から。
昔、通販&オンリーでのお取り置き&購入先着順に配ったペーパーに記載していた特設ページに載せる予定で書きかけだったものです。
特設ページを上げないまま、放置プレイでした。ごめんなさい。(放置プレイ多すぎる)
「やっぱりこういうのも何かの采配というべきだろうね」
「馬鹿馬鹿しい。唯の偶然だろう」
別に運命論者でも何でもないから、こうなったのは運命だ、などと言うつもりはない。
が、あまりにつれない玄冬の言葉には少しばかり哀しくなった。
「そうかね。私には偶然ではなく必然に思えるよ。 ……うん、美味しいね、これは。やっぱり君の果実酒は最高だな」
「褒めてくれるのは有り難いが、飲みすぎるなよ。お前、酔っている時しつこいから」
玄冬から受け取ったざくろ酒の炭酸割りを口にすると、そんなことまで言われてしまった。
ますます面白くない。
確かに酔いが回ると達きにくいから、ついつい行為がしつこくなってしまうのは事実だが、私としては長く楽しめるのは悪くないと思っているのに。
『玄冬』と『黒の鳥』は互いがあってこその存在。
そんな相手をより深く感じられるのは至福の一時に他ならない。
選択された、というのは何かの意図さえ感じられるように思うのに、それを偶然、だけで片付けられてしまっていいものだろうか。答えは否だ。
「そういう場合は長く楽しめる、と言ってくれないか、情緒の無い」
「今更情緒なんてものを求めるのか、お前は」
つれない。
虫の居所が悪いというわけでもなさそうなのに、どうしてか今日の玄冬は対応がつれない。
確かに今夜はその気だったし、今更といえばそれまでかも知れないが……だからこそ、そっけなくなるのはつまらないのに。
少しばかり意地の悪い気分で思いついたことを実行することにした。
「何だか、そんな事を言われてしまうと少し寂しいね。 まぁ、情緒を感じられないというのなら、実力行使で感じさせれば良い話だが」
「……ちょ……おい、黒た……」
玄冬のグラスを持っていなかった方の手を取り、長くて形の良い指先に口付けを落とした。
唇で全体に弱い刺激を与え、表情を探りながら今度は舌を使って指を味わう。
この子が指の間を愛撫されるのに弱いと気付いたのは比較的最近だ。
多分まだ本人にも自覚はないだろうけれど。
目の前の顔がほんのり赤くなってきているのは酒によるものではないのを知っている。
「……っ」
「酒に酔わないなら、私に酔って溺れてしまえばいい。……おお、何か良い事言ったと思わないかね」
「馬鹿。ここ、居間なんだ……ぞ。小さいのがもし起きてきたら、どうする、つもりだっ……言い訳出来ない、のに……っ」
小さいの、とは先日から箱庭のシステムの歪みで現れたいつかの時代の幼い『玄冬』だ。
同じ『玄冬』とはいえ、同一人物というのとも違うからタイムパラドックスというのもないらしい。
便宜上こくろ、と呼んではいるが、一緒に住んでいると玄冬とは色々な面で違うことに気付かされて中々面白い。
息子が二人に増えたのも、まるで玄冬に兄弟が出来たみたいで微笑ましい。
まぁ、それでも抱きたいと思うのは玄冬だけだ。
言い訳は確かに出来ないかも知れないが、そもそも言い訳の必要もないと思っている。
羞恥心の強い玄冬には中々理解できないだろうが。
手首の脈打つ部分を強く吸うと、玄冬が身体を竦めた。
玄冬が手にしていたグラスをテーブルに置いて、私の頭を押さえつけようとしているが、あまり力は入っていない。
もう時間の問題だな、これは。
ちらりと目にした玄冬の身体の中心は布地をせり上げている。
「あの子が起きてきたって、まだ誤魔化せる範囲だと思うがね。 私が触れているのは手だけだしな。……誤魔化せないのは君の方じゃないのかい」
「やっ……触る、な」
そっと服の上からその部分に触れる。
てのひらに感じる固い感触が微かに震えた。
玄冬が羞恥からか身を引いたが、そのまま玄冬に覆い被さった。
染まった目元と潤みかけた青の瞳が私の情欲も引き出す。
まったく、可愛いったらないね。
「ふふ、情緒がどう、とか言うのは私の触れ方次第であっさり昂ぶるからかな」
「……誰の、所為だと……っ」
「私だな。……場所を変えよう。飲み足りないのは些か残念だが、まぁ、いいさ。 君の作ってくれた果実酒は確かに美味しいが、君自身はもっと美味しいからね」
玄冬の手を取って立ち上がらせたときに妙な顔をしていたのは、キスをしなかったからだろう。
違和感を覚えさせるようにしたのは私だ。
だって、何もかも全て。
私が玄冬に教えたのだから。
Close
#黒玄 #書きかけ #R15
Fiamma silenziosaの第一話『E affogato liberamente da due notte di persone. ~夜は二人で溺れるままに』の視点変更版、前半のみ。
元サイトの拍手から。
昔、通販&オンリーでのお取り置き&購入先着順に配ったペーパーに記載していた特設ページに載せる予定で書きかけだったものです。
特設ページを上げないまま、放置プレイでした。ごめんなさい。(放置プレイ多すぎる)
「やっぱりこういうのも何かの采配というべきだろうね」
「馬鹿馬鹿しい。唯の偶然だろう」
別に運命論者でも何でもないから、こうなったのは運命だ、などと言うつもりはない。
が、あまりにつれない玄冬の言葉には少しばかり哀しくなった。
「そうかね。私には偶然ではなく必然に思えるよ。 ……うん、美味しいね、これは。やっぱり君の果実酒は最高だな」
「褒めてくれるのは有り難いが、飲みすぎるなよ。お前、酔っている時しつこいから」
玄冬から受け取ったざくろ酒の炭酸割りを口にすると、そんなことまで言われてしまった。
ますます面白くない。
確かに酔いが回ると達きにくいから、ついつい行為がしつこくなってしまうのは事実だが、私としては長く楽しめるのは悪くないと思っているのに。
『玄冬』と『黒の鳥』は互いがあってこその存在。
そんな相手をより深く感じられるのは至福の一時に他ならない。
選択された、というのは何かの意図さえ感じられるように思うのに、それを偶然、だけで片付けられてしまっていいものだろうか。答えは否だ。
「そういう場合は長く楽しめる、と言ってくれないか、情緒の無い」
「今更情緒なんてものを求めるのか、お前は」
つれない。
虫の居所が悪いというわけでもなさそうなのに、どうしてか今日の玄冬は対応がつれない。
確かに今夜はその気だったし、今更といえばそれまでかも知れないが……だからこそ、そっけなくなるのはつまらないのに。
少しばかり意地の悪い気分で思いついたことを実行することにした。
「何だか、そんな事を言われてしまうと少し寂しいね。 まぁ、情緒を感じられないというのなら、実力行使で感じさせれば良い話だが」
「……ちょ……おい、黒た……」
玄冬のグラスを持っていなかった方の手を取り、長くて形の良い指先に口付けを落とした。
唇で全体に弱い刺激を与え、表情を探りながら今度は舌を使って指を味わう。
この子が指の間を愛撫されるのに弱いと気付いたのは比較的最近だ。
多分まだ本人にも自覚はないだろうけれど。
目の前の顔がほんのり赤くなってきているのは酒によるものではないのを知っている。
「……っ」
「酒に酔わないなら、私に酔って溺れてしまえばいい。……おお、何か良い事言ったと思わないかね」
「馬鹿。ここ、居間なんだ……ぞ。小さいのがもし起きてきたら、どうする、つもりだっ……言い訳出来ない、のに……っ」
小さいの、とは先日から箱庭のシステムの歪みで現れたいつかの時代の幼い『玄冬』だ。
同じ『玄冬』とはいえ、同一人物というのとも違うからタイムパラドックスというのもないらしい。
便宜上こくろ、と呼んではいるが、一緒に住んでいると玄冬とは色々な面で違うことに気付かされて中々面白い。
息子が二人に増えたのも、まるで玄冬に兄弟が出来たみたいで微笑ましい。
まぁ、それでも抱きたいと思うのは玄冬だけだ。
言い訳は確かに出来ないかも知れないが、そもそも言い訳の必要もないと思っている。
羞恥心の強い玄冬には中々理解できないだろうが。
手首の脈打つ部分を強く吸うと、玄冬が身体を竦めた。
玄冬が手にしていたグラスをテーブルに置いて、私の頭を押さえつけようとしているが、あまり力は入っていない。
もう時間の問題だな、これは。
ちらりと目にした玄冬の身体の中心は布地をせり上げている。
「あの子が起きてきたって、まだ誤魔化せる範囲だと思うがね。 私が触れているのは手だけだしな。……誤魔化せないのは君の方じゃないのかい」
「やっ……触る、な」
そっと服の上からその部分に触れる。
てのひらに感じる固い感触が微かに震えた。
玄冬が羞恥からか身を引いたが、そのまま玄冬に覆い被さった。
染まった目元と潤みかけた青の瞳が私の情欲も引き出す。
まったく、可愛いったらないね。
「ふふ、情緒がどう、とか言うのは私の触れ方次第であっさり昂ぶるからかな」
「……誰の、所為だと……っ」
「私だな。……場所を変えよう。飲み足りないのは些か残念だが、まぁ、いいさ。 君の作ってくれた果実酒は確かに美味しいが、君自身はもっと美味しいからね」
玄冬の手を取って立ち上がらせたときに妙な顔をしていたのは、キスをしなかったからだろう。
違和感を覚えさせるようにしたのは私だ。
だって、何もかも全て。
私が玄冬に教えたのだから。
Close
#黒玄 #書きかけ #R15