No.8
Daybreak(仮題)
第10期生として入所する直前のキスブラ。
サブスタンス接種時の副作用が酷いキースの話。
まだ長くなりそうなので冒頭部分だけ。
体の関係はアカデミー時代からある状態。
サブスタンス接種で体調不良のキースを看病するブラッド→復活後模擬戦でヒーロー能力を試す二人→時間切れで模擬戦中断。燻っている衝動からセックス
って感じになる予定。
[Keith's Side]
気付いた時にはフローリングの床の上。
頭を起こそうとしたが、途端に割れるような痛みが走って、結局少しだけ頭の位置をずらして終わった。
床から伝わる冷たさは火照った顔には心地良いが、固さのせいで体の節々が痛い。
いや、痛いのは熱のせいもあるか。
意識をなくす前の部屋は暗かったが、今はカーテンの隙間から零れた日光から察するに、夜が明けてからそれなりの時間が経っているんだろう。
「うえ……今何時、だ」
手探りで周囲を探ってみるも、触れる範囲にスマホらしきものはない。
腕時計も確かテーブルの上だ。
時間を確認しようにも、頭を上げるしんどさを思うと踏み切れない。
寝る前から酷かった頭痛は、さらに悪化しているように思えた。
「くそ……風邪と大差ねぇって話じゃ……なかったのかよ」
元々、体が頑丈なのが取り柄で、風邪もほとんど引いた覚えはないが、それでもこれは――いや、だからこそか。
体調を崩すなんてことが滅多にねぇからこそ、今の状態がかなりこたえているのかも知れねぇ。
第十期ルーキーの入所式まであと数日。
配属される前にヒーロー能力を得るために、つい先日サブスタンスを接種した。
サブスタンスの接種に伴う副作用からくる体調不良は、大抵は一日か二日、長くても三、四日程で収まると聞いていた。
稀に一週間ほどかかるケースもあるようだが、滅多にあるもんじゃないらしい。
だから、その日数ならどうにか一人で乗り切れるだろうって思っていた。
オレの日にちの感覚が間違っていなきゃ、今日で接種してから四日目。
昨日だか一昨日だかに測った時の熱は39℃を超えていた。
今日はまだ測っちゃいねぇが、この感覚じゃ大して下がってねぇだろう。
初日の夕方までは余裕だった。多少の体の怠さはあっても、体温も微熱程度だったから高を括っていた。
一転したのは夕食にデリバリーで頼んだピザを受け取ったときだ。
デリバリーが到着する前から胃が少しムカムカするとは思っていたが、チーズの匂いで吐くとは思わなかった。
当然、ピザは食ってねぇから、不調はサブスタンスの投与によるものだとはすぐ分かったが、そこからがヤバかった。
坂道を転がり落ちるように体調が悪化して、ベッドとトイレを往復するので精一杯。
挙げ句、冷蔵庫のスポーツドリンクを取ろうとしたはいいものの、スポーツドリンクを取りだし、ベッドに戻ろうとしたところで――力尽きて床に頽れ、今に至る。
スポーツドリンクのペットボトルは手が届く位置にある。
せめて、水分だけでも摂らないとマズいと分かっていても、酷い頭痛で頭を上げる気にならねぇ。
喉は渇いているんだが、その為に動くのがまずしんどい。
せめて、ベッドには戻りたいが、体起こすって段階がまずキツい。
「参ったな……こりゃ」
仮に最長の一週間でこの症状が収まるとしたら、あと三日。
ようやく折り返しを過ぎたとこだとすれば先はまだ長い。
くそ……体力落ちそうだな。
サブスタンスが体に馴染んじまえば、今度は回復が通常よりも早くなるって話だから、回復した後にトレーニング増やして、体力を取り戻すしかねぇだろう。
「…………?」
ふと、玄関の方から何か物音が聞こえた気がした。
続いて、人の気配と足音がこっちに近付いてくる。
おいおい、強盗とか勘弁してくれよ。
普段ならともかく、今の調子じゃまともにやり合えそうにねぇってのに――。
「キース!」
「ん…………」
聞き覚えのある声が近いと思ったところで、うつ伏せだった体をひっくり返されて支えられた。
ぐらりと視界が揺れたのに続いて、額に手が当てられる。
手が避けられ間近にあった顔は、この数年アカデミーで嫌というほど日常的に見ていたそれで。
「っ……ブラッ……ド…………?」
「ああ」
「おま……なん、で、ここ……に」
「お前がメッセージも読まず、電話にも出なかったから、何かあったのかと思って来てみた。玄関の鍵は開いていたからそのまま入らせて貰った」
「あ……あー……デリバリーでピザ、頼んだ、とき……閉め損ねた、か」
ピザを受け取ったものの、漂ってくるチーズの匂いに吐き気がして、デリバリーの配達員が玄関の扉を閉めた途端、トイレに直行して吐いたのを思い出す。
そうだ、あの時は玄関の鍵まで閉める余裕がなかったんだったっけ。
「サブスタンス接種の影響がまだ抜けていないのか。熱は測ったか?」
「昨日……いや、一昨日、か? 測ったけど、その後はわかんねぇ……」
「なぜ、タワーに行かなかった。サブスタンスの投与による副作用が酷い場合は、タワーの医務室に行けと指示があったはずだ」
「……めんど……くさかったんだよ……。どうせ、薬使えねぇし、長くて三、四日で収まるって話、だったろ……」
サブスタンスを接種した直後は、体にヒーロー能力が馴染むまで原則として薬の類を使えない。
状態が安定するまでは、医務室に行ったところで精々栄養剤を点滴して貰う位しか出来ねぇ。
今の状況を考えると、まだその方がマシだっただろうが、正直吐いた時にはタワーまで行こうという気になれなかった。
この家からタワーまではタクシーを使っても二、三十分はかかる。
移動中にまた吐くかもしれねぇと思うと躊躇われた。
「最長で一週間の可能性があるとも聞いてるだろう。……いや、今言っても仕方ないな。食事は」
「……吐いちまってから……食ってねぇ……」
「水分……は、これを摂ろうとしていたのか」
オレの近くに転がってたスポーツドリンクを見つけて、ブラッドが手にしたのが見えた。
「そ……。冷蔵庫から取り出したとこで……しんどくて床に突っ伏しちまったけど、な…………んぐ……」
ブラッドがオレの頭を支えていた腕を少し上げようとしたところで、また頭に激しい痛みが走る。
表情に出ちまったのか、ブラッドがそこからオレの頭の位置を上げるのをやめた。
「開封……はしていないな。なら、常温の方がいいか。キース。口を開けろ」
「ん…………んっ!?」
ブラッドが片腕でオレの頭を支えたまま、空いている方の腕と歯を使って、スポーツドリンクのペットボトルの蓋をこじ開ける。
そのまま飲ませてくれるのかと思ったら、ブラッドがスポーツドリンクを口に含み……それをオレに口移ししてきた。
ブラッドの口内の温度も移した、生温いスポーツドリンクが喉を滑り落ちていく。
流石にブラッドが二口目をオレに飲ませようとしたところで、一旦止める。
「ちょ……お……前、俺、風呂……どころか、歯さえ、まともに磨いて、な……」
吐いた直後に水とお茶で口を濯いだがそれで精一杯だったし、それからも日にちが経っている。
いくら、ブラッドとキスやセックスをするような関係とは言っても、今の状態で口移しなんてのは気が引ける。
ブラッドは結構綺麗好きなのも知っているから尚更だ。
「そのぐらいは察している。……今は頭を上げるのも辛いのだろう。構わんから、これでまずは水分を取れ。ほら」
「…………」
反論したかったが、結局それもしんどくてブラッドに言われるがままに、幾度か口移しでスポーツドリンクを飲ませて貰う。
ある程度の量を飲むと、全身の熱っぽさが少し和らぎ、意識もさっきまでに比べてハッキリしてきた。
恐る恐る上半身を起こすと、ブラッドが支えてくれていたのもあってか、動いてもさっきほどの頭痛はなかったことにほっとする。
「……ちょっとマシに……なった。サンキュ……」
「肩を貸そう。ベッドまで動けるか」
「ああ……っと」
「足元に気をつけろ」
「ん……」
ブラッドの肩を借りて、重い足を引きずり、どうにかベッドまで歩く。
十数歩しかないはずの距離がやけに遠く感じ、自分の不調っぷりを嫌でも自覚させられた。
寝かせて貰ったところで、枕元に置いてあった体温計を渡され、脇に突っ込んで測る。
数秒で計測が終わった事を知らせる音が鳴り、取り出そうとしたがブラッドが引き抜く方が早かった。
「……38.8℃」
ブラッドが曇った表情で体温計に表示された温度を読み上げる。
「あー……まだそんなあんの……かよ。どうりで熱い、わけだ……」
「『まだ』? これより熱が高かったのか」
「前測った時は……39℃……超えて、た」
それを考えれば少しは熱が下がったとはいえ、とても改善したとは言い難い。
「……悪いが、勝手に色々使わせて貰うぞ」
「ん? ああ……」
ブラッドがベッドから離れて、冷蔵庫から氷を取り出し、キッチンで何やらごそごそとやり始めた。
かと思えば、そうしないうちに氷の入ったポリ袋いくつかとタオルを抱えて戻ってくる。
ああ、そういや、アカデミーの寮からここに引っ越す時、コイツにも手伝って貰ってたんだった。
多分、その時に物の置き場所を何となく覚えてたりしてたんだろう、妙に記憶力良いよなコイツとぼんやり思っていたら、布団を剥がされる。
「首と脇と鼠蹊部を冷やす。少しは楽になるはずだ」
「あー……頼む」
首の両側、両脇、続いて鼠蹊部へと氷の入ったポリ袋にタオルを巻いたものが置かれていく。
冷やされたそれぞれの場所から、じわじわと冷えた血が流れていくのが分かった。
布団が再び掛けられ、一旦、ブラッドがまた台所に行ったかと思えば、直ぐ戻ってきて、今度は額に濡れたタオルが置かれる。
「うお……気持ち……い……」
「そのまま少し寝てろ。今、食えそうなものを用意する」
「悪ぃ……」
冷やすことで体の灼熱感が和らいだからなのか、急に眠気が襲ってきた。
台所から聞こえてきた物音も不快なものではなく、むしろ安心感さえある。
多分、ブラッドが良いタイミングで起こしてくれるだろうと、眠気に任せて目を閉じた。
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#キスブラ #書きかけ
第10期生として入所する直前のキスブラ。
サブスタンス接種時の副作用が酷いキースの話。
まだ長くなりそうなので冒頭部分だけ。
体の関係はアカデミー時代からある状態。
サブスタンス接種で体調不良のキースを看病するブラッド→復活後模擬戦でヒーロー能力を試す二人→時間切れで模擬戦中断。燻っている衝動からセックス
って感じになる予定。
[Keith's Side]
気付いた時にはフローリングの床の上。
頭を起こそうとしたが、途端に割れるような痛みが走って、結局少しだけ頭の位置をずらして終わった。
床から伝わる冷たさは火照った顔には心地良いが、固さのせいで体の節々が痛い。
いや、痛いのは熱のせいもあるか。
意識をなくす前の部屋は暗かったが、今はカーテンの隙間から零れた日光から察するに、夜が明けてからそれなりの時間が経っているんだろう。
「うえ……今何時、だ」
手探りで周囲を探ってみるも、触れる範囲にスマホらしきものはない。
腕時計も確かテーブルの上だ。
時間を確認しようにも、頭を上げるしんどさを思うと踏み切れない。
寝る前から酷かった頭痛は、さらに悪化しているように思えた。
「くそ……風邪と大差ねぇって話じゃ……なかったのかよ」
元々、体が頑丈なのが取り柄で、風邪もほとんど引いた覚えはないが、それでもこれは――いや、だからこそか。
体調を崩すなんてことが滅多にねぇからこそ、今の状態がかなりこたえているのかも知れねぇ。
第十期ルーキーの入所式まであと数日。
配属される前にヒーロー能力を得るために、つい先日サブスタンスを接種した。
サブスタンスの接種に伴う副作用からくる体調不良は、大抵は一日か二日、長くても三、四日程で収まると聞いていた。
稀に一週間ほどかかるケースもあるようだが、滅多にあるもんじゃないらしい。
だから、その日数ならどうにか一人で乗り切れるだろうって思っていた。
オレの日にちの感覚が間違っていなきゃ、今日で接種してから四日目。
昨日だか一昨日だかに測った時の熱は39℃を超えていた。
今日はまだ測っちゃいねぇが、この感覚じゃ大して下がってねぇだろう。
初日の夕方までは余裕だった。多少の体の怠さはあっても、体温も微熱程度だったから高を括っていた。
一転したのは夕食にデリバリーで頼んだピザを受け取ったときだ。
デリバリーが到着する前から胃が少しムカムカするとは思っていたが、チーズの匂いで吐くとは思わなかった。
当然、ピザは食ってねぇから、不調はサブスタンスの投与によるものだとはすぐ分かったが、そこからがヤバかった。
坂道を転がり落ちるように体調が悪化して、ベッドとトイレを往復するので精一杯。
挙げ句、冷蔵庫のスポーツドリンクを取ろうとしたはいいものの、スポーツドリンクを取りだし、ベッドに戻ろうとしたところで――力尽きて床に頽れ、今に至る。
スポーツドリンクのペットボトルは手が届く位置にある。
せめて、水分だけでも摂らないとマズいと分かっていても、酷い頭痛で頭を上げる気にならねぇ。
喉は渇いているんだが、その為に動くのがまずしんどい。
せめて、ベッドには戻りたいが、体起こすって段階がまずキツい。
「参ったな……こりゃ」
仮に最長の一週間でこの症状が収まるとしたら、あと三日。
ようやく折り返しを過ぎたとこだとすれば先はまだ長い。
くそ……体力落ちそうだな。
サブスタンスが体に馴染んじまえば、今度は回復が通常よりも早くなるって話だから、回復した後にトレーニング増やして、体力を取り戻すしかねぇだろう。
「…………?」
ふと、玄関の方から何か物音が聞こえた気がした。
続いて、人の気配と足音がこっちに近付いてくる。
おいおい、強盗とか勘弁してくれよ。
普段ならともかく、今の調子じゃまともにやり合えそうにねぇってのに――。
「キース!」
「ん…………」
聞き覚えのある声が近いと思ったところで、うつ伏せだった体をひっくり返されて支えられた。
ぐらりと視界が揺れたのに続いて、額に手が当てられる。
手が避けられ間近にあった顔は、この数年アカデミーで嫌というほど日常的に見ていたそれで。
「っ……ブラッ……ド…………?」
「ああ」
「おま……なん、で、ここ……に」
「お前がメッセージも読まず、電話にも出なかったから、何かあったのかと思って来てみた。玄関の鍵は開いていたからそのまま入らせて貰った」
「あ……あー……デリバリーでピザ、頼んだ、とき……閉め損ねた、か」
ピザを受け取ったものの、漂ってくるチーズの匂いに吐き気がして、デリバリーの配達員が玄関の扉を閉めた途端、トイレに直行して吐いたのを思い出す。
そうだ、あの時は玄関の鍵まで閉める余裕がなかったんだったっけ。
「サブスタンス接種の影響がまだ抜けていないのか。熱は測ったか?」
「昨日……いや、一昨日、か? 測ったけど、その後はわかんねぇ……」
「なぜ、タワーに行かなかった。サブスタンスの投与による副作用が酷い場合は、タワーの医務室に行けと指示があったはずだ」
「……めんど……くさかったんだよ……。どうせ、薬使えねぇし、長くて三、四日で収まるって話、だったろ……」
サブスタンスを接種した直後は、体にヒーロー能力が馴染むまで原則として薬の類を使えない。
状態が安定するまでは、医務室に行ったところで精々栄養剤を点滴して貰う位しか出来ねぇ。
今の状況を考えると、まだその方がマシだっただろうが、正直吐いた時にはタワーまで行こうという気になれなかった。
この家からタワーまではタクシーを使っても二、三十分はかかる。
移動中にまた吐くかもしれねぇと思うと躊躇われた。
「最長で一週間の可能性があるとも聞いてるだろう。……いや、今言っても仕方ないな。食事は」
「……吐いちまってから……食ってねぇ……」
「水分……は、これを摂ろうとしていたのか」
オレの近くに転がってたスポーツドリンクを見つけて、ブラッドが手にしたのが見えた。
「そ……。冷蔵庫から取り出したとこで……しんどくて床に突っ伏しちまったけど、な…………んぐ……」
ブラッドがオレの頭を支えていた腕を少し上げようとしたところで、また頭に激しい痛みが走る。
表情に出ちまったのか、ブラッドがそこからオレの頭の位置を上げるのをやめた。
「開封……はしていないな。なら、常温の方がいいか。キース。口を開けろ」
「ん…………んっ!?」
ブラッドが片腕でオレの頭を支えたまま、空いている方の腕と歯を使って、スポーツドリンクのペットボトルの蓋をこじ開ける。
そのまま飲ませてくれるのかと思ったら、ブラッドがスポーツドリンクを口に含み……それをオレに口移ししてきた。
ブラッドの口内の温度も移した、生温いスポーツドリンクが喉を滑り落ちていく。
流石にブラッドが二口目をオレに飲ませようとしたところで、一旦止める。
「ちょ……お……前、俺、風呂……どころか、歯さえ、まともに磨いて、な……」
吐いた直後に水とお茶で口を濯いだがそれで精一杯だったし、それからも日にちが経っている。
いくら、ブラッドとキスやセックスをするような関係とは言っても、今の状態で口移しなんてのは気が引ける。
ブラッドは結構綺麗好きなのも知っているから尚更だ。
「そのぐらいは察している。……今は頭を上げるのも辛いのだろう。構わんから、これでまずは水分を取れ。ほら」
「…………」
反論したかったが、結局それもしんどくてブラッドに言われるがままに、幾度か口移しでスポーツドリンクを飲ませて貰う。
ある程度の量を飲むと、全身の熱っぽさが少し和らぎ、意識もさっきまでに比べてハッキリしてきた。
恐る恐る上半身を起こすと、ブラッドが支えてくれていたのもあってか、動いてもさっきほどの頭痛はなかったことにほっとする。
「……ちょっとマシに……なった。サンキュ……」
「肩を貸そう。ベッドまで動けるか」
「ああ……っと」
「足元に気をつけろ」
「ん……」
ブラッドの肩を借りて、重い足を引きずり、どうにかベッドまで歩く。
十数歩しかないはずの距離がやけに遠く感じ、自分の不調っぷりを嫌でも自覚させられた。
寝かせて貰ったところで、枕元に置いてあった体温計を渡され、脇に突っ込んで測る。
数秒で計測が終わった事を知らせる音が鳴り、取り出そうとしたがブラッドが引き抜く方が早かった。
「……38.8℃」
ブラッドが曇った表情で体温計に表示された温度を読み上げる。
「あー……まだそんなあんの……かよ。どうりで熱い、わけだ……」
「『まだ』? これより熱が高かったのか」
「前測った時は……39℃……超えて、た」
それを考えれば少しは熱が下がったとはいえ、とても改善したとは言い難い。
「……悪いが、勝手に色々使わせて貰うぞ」
「ん? ああ……」
ブラッドがベッドから離れて、冷蔵庫から氷を取り出し、キッチンで何やらごそごそとやり始めた。
かと思えば、そうしないうちに氷の入ったポリ袋いくつかとタオルを抱えて戻ってくる。
ああ、そういや、アカデミーの寮からここに引っ越す時、コイツにも手伝って貰ってたんだった。
多分、その時に物の置き場所を何となく覚えてたりしてたんだろう、妙に記憶力良いよなコイツとぼんやり思っていたら、布団を剥がされる。
「首と脇と鼠蹊部を冷やす。少しは楽になるはずだ」
「あー……頼む」
首の両側、両脇、続いて鼠蹊部へと氷の入ったポリ袋にタオルを巻いたものが置かれていく。
冷やされたそれぞれの場所から、じわじわと冷えた血が流れていくのが分かった。
布団が再び掛けられ、一旦、ブラッドがまた台所に行ったかと思えば、直ぐ戻ってきて、今度は額に濡れたタオルが置かれる。
「うお……気持ち……い……」
「そのまま少し寝てろ。今、食えそうなものを用意する」
「悪ぃ……」
冷やすことで体の灼熱感が和らいだからなのか、急に眠気が襲ってきた。
台所から聞こえてきた物音も不快なものではなく、むしろ安心感さえある。
多分、ブラッドが良いタイミングで起こしてくれるだろうと、眠気に任せて目を閉じた。
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