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キスブラ版ワンドロライ第13回でのお題から『共有』を使って書いた話です。
ヤッてはいないけど、性描写がちょっと含まれるのでR-15くらいで。
数年後、キスブラが同棲し始めたという前提の元に書いてます。
「キース、準備はいいか」
「おう。いつでも行けるぜ。つうか、借りといてなんだけど、やっぱりこういう服どうも落ち着かねぇな」
「仕方あるまい。明後日には荷物も届くようだし、一、二日くらいは我慢しろ」
「へいへい、わかってるって」
キースが今着ているのは、下着を除く全てが俺の服だ。
キースと俺は服の趣味が全く異なるのもあって、本人は落ち着かないと言うが、良く似合っているし、時々はこうして俺の服を着るキースを見たいくらいだが、それを口にすると反発されるのは目に見えているのでやめておいた。
二人で一緒に住むことを決め、セントラルに新たにマンションを借り、引っ越して来たのが昨日のことだ。
が、キースが引っ越しに利用した業者の方でトラブルが発生し、他の客との荷物が混じってしまい、分別に時間が掛かっているとのことで、本来は今日のうちに届くはずだったキースの荷物は、明後日に届くという連絡が入った。
さすがに下着については、荷物遅延の連絡が入った時点で身近な店から数枚購入したが、他の衣類まではその店だとほとんど置いていなかったこともあって貸した。
俺たちの体格は近く、サイズの問題は全くないのだし、これから買い物に行くことを除けば、明後日までは仕事以外の外出予定もない。
家を出て、地下の駐車場に向かい、車に乗り込んで、ナビにショッピングセンターの情報を入れる。
道の混雑状況から最適なルートを導き出したナビが所要時間を告げ、車を走らせると、助手席に座っていたキースがそういえば、と口を開いた。
「日用品だけどさ。オレたちがそれぞれで使ってたヤツ、使い切った後どうする? 同じヤツ使うようにして纏めちまうか? シャンプーとかはこだわりがあれば分けるとしても、食器用の洗剤なんかは分けるの逆に面倒だろ?」
「そうだな。俺はお前が使っていたボディソープを継続して使うのであれば、他はどちらのものに変えても構わない。統一出来る物はしてしまった方が今後買い物する際にも都合がいいだろう」
「……ん? ボディソープってオレの? お前の、じゃなくて?」
「ああ。……香りが気に入っているからな」
キースの家に泊まった際にずっと使っていたのもあって、俺としても馴染みがある。
キースは喫煙者だから、一緒にいるとどうしても煙草の匂いの方が強く出るが、それでもふとした拍子にボディソープの方の香りを感じることもあったし、何より――セックスの際はシャワーを浴びてすぐ、というのが大半だから、触れ合った際には煙草よりもボディソープの香りの方が強く出る。
別々に住んでいた時はわざわざ同じ物で揃えるのは躊躇われたが、住まいが一緒であれば、同じ物で揃える理由としては十分だろう。
「…………うわ、エロ」
「……何故、そうなる」
キースの使っているボディソープを選んだ理由に下心がなかったわけではないから、微かに動揺はしたが、表情には出さなかったはずだ。
「ええ……考えてなかった、なんて言わせねぇぞ。オレ、普段は酒と煙草の匂いしかしねぇだろ。ボディソープの香りがわかるタイミングなんて限られてるじゃねぇか。それこそ、セックスの前後とか――ああ、あとフェラの時なんか特に分かりやすいよな。毛に匂い絡みつくから」
「…………キース」
車の中とはいえ、外でするような話ではない。
信号で止まった際に睨み付けたが、キースは涼しげな顔だ。
「なんだよ、お前が最初に言ったんじゃねぇか」
「俺はボディソープの話をしただけだが」
「そうだなー。香りが気に入っているって言った割には、自分で買わずに別のを使っていたってボディソープの話な。こっちはずっと同じ物を何年も使っているってのに、お前が買わないまんまで、あえて別のを使っていたって理由をちゃんと教えてくれるなら、ここで話切り上げてやってもいいぜ」
「…………そこまで言うのであれば、理由など察しているんだろう」
「どうだろうなぁ。案外間違ってるかもしれねぇし、お前の口から説明して欲しいとこだな、オレとしちゃ」
俺の耳に触れてきたキースの手を撥ね除けてしまいたいが、そんなタイミングで信号が変わる。
こちらが手が出せないのをいいことに、キースの指は離れていかない。
さすがに運転中だから、本当に危なくなるような動き方はしないが、話していた内容が内容なだけに、ただ触れられているだけでも妙な意識をしてしまう。
諦めて白旗を挙げたのは俺の方だった。
「…………買い物が終わって家に戻ったら説明する。だから、一旦その指を離せ」
「よし、言質は取ったからな。ちゃんと説明しろよ。ああ、買い物するならボディソープも買っていこうな。オレが使っていたヤツ、まだ届いてねぇし」
俺が使っていたボディソープならまだある、と喉元まで出かけたが、結局は口を閉ざす。
こうなると、今、キースが着ているのが俺の服だというのもまずかった。
それこそ脱ぐ前から柔軟剤による同じ香りで、必要以上に意識してしまいそうだ。
せめて、買い物を終わらせる前に何か反撃の糸口を見つけようと考えながら、ショッピングセンターへと向かった。
Close
#キスブラ #ワンライ
ヤッてはいないけど、性描写がちょっと含まれるのでR-15くらいで。
数年後、キスブラが同棲し始めたという前提の元に書いてます。
「キース、準備はいいか」
「おう。いつでも行けるぜ。つうか、借りといてなんだけど、やっぱりこういう服どうも落ち着かねぇな」
「仕方あるまい。明後日には荷物も届くようだし、一、二日くらいは我慢しろ」
「へいへい、わかってるって」
キースが今着ているのは、下着を除く全てが俺の服だ。
キースと俺は服の趣味が全く異なるのもあって、本人は落ち着かないと言うが、良く似合っているし、時々はこうして俺の服を着るキースを見たいくらいだが、それを口にすると反発されるのは目に見えているのでやめておいた。
二人で一緒に住むことを決め、セントラルに新たにマンションを借り、引っ越して来たのが昨日のことだ。
が、キースが引っ越しに利用した業者の方でトラブルが発生し、他の客との荷物が混じってしまい、分別に時間が掛かっているとのことで、本来は今日のうちに届くはずだったキースの荷物は、明後日に届くという連絡が入った。
さすがに下着については、荷物遅延の連絡が入った時点で身近な店から数枚購入したが、他の衣類まではその店だとほとんど置いていなかったこともあって貸した。
俺たちの体格は近く、サイズの問題は全くないのだし、これから買い物に行くことを除けば、明後日までは仕事以外の外出予定もない。
家を出て、地下の駐車場に向かい、車に乗り込んで、ナビにショッピングセンターの情報を入れる。
道の混雑状況から最適なルートを導き出したナビが所要時間を告げ、車を走らせると、助手席に座っていたキースがそういえば、と口を開いた。
「日用品だけどさ。オレたちがそれぞれで使ってたヤツ、使い切った後どうする? 同じヤツ使うようにして纏めちまうか? シャンプーとかはこだわりがあれば分けるとしても、食器用の洗剤なんかは分けるの逆に面倒だろ?」
「そうだな。俺はお前が使っていたボディソープを継続して使うのであれば、他はどちらのものに変えても構わない。統一出来る物はしてしまった方が今後買い物する際にも都合がいいだろう」
「……ん? ボディソープってオレの? お前の、じゃなくて?」
「ああ。……香りが気に入っているからな」
キースの家に泊まった際にずっと使っていたのもあって、俺としても馴染みがある。
キースは喫煙者だから、一緒にいるとどうしても煙草の匂いの方が強く出るが、それでもふとした拍子にボディソープの方の香りを感じることもあったし、何より――セックスの際はシャワーを浴びてすぐ、というのが大半だから、触れ合った際には煙草よりもボディソープの香りの方が強く出る。
別々に住んでいた時はわざわざ同じ物で揃えるのは躊躇われたが、住まいが一緒であれば、同じ物で揃える理由としては十分だろう。
「…………うわ、エロ」
「……何故、そうなる」
キースの使っているボディソープを選んだ理由に下心がなかったわけではないから、微かに動揺はしたが、表情には出さなかったはずだ。
「ええ……考えてなかった、なんて言わせねぇぞ。オレ、普段は酒と煙草の匂いしかしねぇだろ。ボディソープの香りがわかるタイミングなんて限られてるじゃねぇか。それこそ、セックスの前後とか――ああ、あとフェラの時なんか特に分かりやすいよな。毛に匂い絡みつくから」
「…………キース」
車の中とはいえ、外でするような話ではない。
信号で止まった際に睨み付けたが、キースは涼しげな顔だ。
「なんだよ、お前が最初に言ったんじゃねぇか」
「俺はボディソープの話をしただけだが」
「そうだなー。香りが気に入っているって言った割には、自分で買わずに別のを使っていたってボディソープの話な。こっちはずっと同じ物を何年も使っているってのに、お前が買わないまんまで、あえて別のを使っていたって理由をちゃんと教えてくれるなら、ここで話切り上げてやってもいいぜ」
「…………そこまで言うのであれば、理由など察しているんだろう」
「どうだろうなぁ。案外間違ってるかもしれねぇし、お前の口から説明して欲しいとこだな、オレとしちゃ」
俺の耳に触れてきたキースの手を撥ね除けてしまいたいが、そんなタイミングで信号が変わる。
こちらが手が出せないのをいいことに、キースの指は離れていかない。
さすがに運転中だから、本当に危なくなるような動き方はしないが、話していた内容が内容なだけに、ただ触れられているだけでも妙な意識をしてしまう。
諦めて白旗を挙げたのは俺の方だった。
「…………買い物が終わって家に戻ったら説明する。だから、一旦その指を離せ」
「よし、言質は取ったからな。ちゃんと説明しろよ。ああ、買い物するならボディソープも買っていこうな。オレが使っていたヤツ、まだ届いてねぇし」
俺が使っていたボディソープならまだある、と喉元まで出かけたが、結局は口を閉ざす。
こうなると、今、キースが着ているのが俺の服だというのもまずかった。
それこそ脱ぐ前から柔軟剤による同じ香りで、必要以上に意識してしまいそうだ。
せめて、買い物を終わらせる前に何か反撃の糸口を見つけようと考えながら、ショッピングセンターへと向かった。
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#キスブラ #ワンライ
キスブラ版ワンドロライ第12回でのお題から『手料理』『頼み事』『ワイン』を使って書いた話です。
+15分。
頂き物だっていうワインに合う和風のつまみを作って欲しい――とブラッドに言われたのは先週のことだ。
「父が付き合いのある他国の外交官から贈って貰ったワインだそうだが、二本貰ったから一本は俺に譲ると貰い受けてきた」
「贈って貰った……って、これ凄ぇ高いヤツじゃねぇかよ……」
オレが飲むのはビールが多いとはいえ、ワインや日本酒なんかも飲むことがある。
リカーショップに行きゃ、買わない酒も目に入るし、それが飛び抜けた値段だったりなんかしたら、嫌でも記憶に残る。
ブラッドの親父さんが贈って貰ったってワインは、オレの月収半月分は軽く飛ぶような代物だ。
ヒーロー、特にメジャーヒーローともなれば、それなりの金額を貰っているのに。
それを二本も贈って寄越す相手ってどんなんだよ。
「ああ。お前は知っていたか」
「そりゃ、店で目にすることくらいはあるからなー。買おうと思ったことはさすがにねぇけど」
「そうか。俺も金額を聞いて一度は断ったが、酒が好きな者が飲んだ方がワインも本望だろうと言われれば、それも一理あるなと受け取ってきた。両親も酒は嗜むが、特別好むというわけでもないからな」
一瞬、ブラッドの言葉を聞き流しそうになったが、酒が好きな者が飲んだ方が、って内容に引っかかった。
「……待て。酒が好きなヤツってそれ……」
「お前を想定してのことだろうな。両親の中ではお前は酒好き、ディノはピザ好きで覚えられている」
「そうかよ」
まぁ、アカデミーの頃からの付き合いだし、ルーキー時代に呼ばれた何かのパーティーでブラッドの父親に直接会ったこともあるから、知っててもおかしくはねぇんだけど。
「そして、どうせ良いワインを飲むのであれば、美味く飲みたい。お前がワインに合うつまみを作ってくれるなら、ちょうどいいだろう」
「あー、マリアージュってヤツか」
ワインと料理の相性を結婚に例えて、そう呼ばれるって教えてくれたのはジェイだ。
ルーキー時代、オレたち三人が酒が飲めるようになった時に、ヒーローだと今後何かとパーティー等に呼ばれる機会も多くなるからと、酒の楽しみ方を最初に色々と教えてくれた。
マリアージュの話もその時に聞いたし、研修チーム部屋で共同生活をおくっていた当時、部屋でワインを開けて、飲みながらつまみを作ったりしたこともある。
あの時のワインは安物だったが、それでも料理との相性次第で変わるっていうのは実感した。
「美味く飲みたいってのはわかったけど、つまみは和風がいいってのは完全にお前の趣味だよな?」
「…………ダメか?」
「いや、ダメってこたねぇけど……ワインに和風のつまみって合うのか?」
日本酒ならルーツ的にわからなくもねぇけど、ワインと和食という組み合わせは経験がねぇからか、どうもピンと来ない。
「合うものもあるようだ。例えば、こういうのなんかはどうだろう」
ブラッドが手にしていたタブレットを操作し、何かのサイトを表示してからオレに寄越した。
元は日本語で書かれていただろうサイトは翻訳されていて、オレにも内容がわかるようになっていた。
レシピなんかもいくつか掲載されている。
こりゃ、オレに話持ってくる前にガッツリチェックしてたな、ブラッドのヤツ。
ま、ブラッドと飲める機会もそんな多くねぇし、この先飲む機会があるかどうかもわかんねぇような高い酒飲ませて貰うなら、多少面倒なもんでも作ってやるとするか。
「で、お前が食いたいのってどれだよ?」
「……いいのか?」
「どうせ、目星つけてあんだろ。来週のオフでいいよな? 材料なんかも揃えられるか確認しねぇとなんねぇし」
グリーンイーストのリトルトーキョーなら、調味料なんかは結構揃うが、食材によっては季節に左右されるもんも少なからずある。
「ああ。感謝する」
表情こそ大した差はねぇが、ブラッドの声が弾んでるのが伝わってきた。
***
「うわ……美味……。いや、美味いのは想像してたけど、マジで料理と合うな」
ブラッドの頼み事からほぼ一週間後。
事前にチェックしていた食材を昼のうちにブラッドと一緒にグリーンイーストまで買いに行って、オレの家で一緒に作り、夕食として作ったつまみとワインを楽しんでいるが、想像以上のモンだった。
最初、ワインだけ口にしたときは、美味いのは美味いけど、これまでにもパーティーで口にしてきたヤツとそう大差ねぇかも?なんて思ってたぐらいだったが、料理と合わせた瞬間驚いた。
味の世界の広がり方が、これまで経験してきたのとは比較になんねぇレベルだ。
作ったつまみも味見しながらだったから、味はわかっていたつもりだが、こっちもこっちでワインと合わせることによって美味さがより引き立つ。
こりゃ、酒もつまみも進む一方だなと思っていたら、ブラッドも普段よりも酒の進みが早い。
ソファに隣り合って座ってるから、飲み食いするスピードが分かりやすい。
「ああ。最高だな。お前の料理が美味いのは今に始まったことではないが、今まで食ってきた中でも一際美味い」
「酒がめちゃくちゃ良いからなー。……これ、今日で全部空けちまってもいいのか?」
「構わん。料理の方が足りなくなりそうだがな」
「和風じゃなくてもいいなら、あり合わせので何か作ってやるよ」
「それは楽しみだ」
ブラッドの空になったワイングラスにワインを注ぎながら、残ってる食材でこのワインに合いそうなメニューを考えていたら、不意にブラッドが体を寄せて、オレの肩にことんと頭を乗せてくる。
酔ってるせいなのか、食事中にこんな風に甘えてくるのは珍しい。
ワインを注ぎ終わってから、乗っかった頭を撫でてやると微かに笑い声がした。
午後から買い物とつまみ作りにかかりきりだったけど、たまにはこんなオフも悪くないと思いながら、ブラッドの髪にそっとキスをした。
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#キスブラ #ワンライ
+15分。
頂き物だっていうワインに合う和風のつまみを作って欲しい――とブラッドに言われたのは先週のことだ。
「父が付き合いのある他国の外交官から贈って貰ったワインだそうだが、二本貰ったから一本は俺に譲ると貰い受けてきた」
「贈って貰った……って、これ凄ぇ高いヤツじゃねぇかよ……」
オレが飲むのはビールが多いとはいえ、ワインや日本酒なんかも飲むことがある。
リカーショップに行きゃ、買わない酒も目に入るし、それが飛び抜けた値段だったりなんかしたら、嫌でも記憶に残る。
ブラッドの親父さんが贈って貰ったってワインは、オレの月収半月分は軽く飛ぶような代物だ。
ヒーロー、特にメジャーヒーローともなれば、それなりの金額を貰っているのに。
それを二本も贈って寄越す相手ってどんなんだよ。
「ああ。お前は知っていたか」
「そりゃ、店で目にすることくらいはあるからなー。買おうと思ったことはさすがにねぇけど」
「そうか。俺も金額を聞いて一度は断ったが、酒が好きな者が飲んだ方がワインも本望だろうと言われれば、それも一理あるなと受け取ってきた。両親も酒は嗜むが、特別好むというわけでもないからな」
一瞬、ブラッドの言葉を聞き流しそうになったが、酒が好きな者が飲んだ方が、って内容に引っかかった。
「……待て。酒が好きなヤツってそれ……」
「お前を想定してのことだろうな。両親の中ではお前は酒好き、ディノはピザ好きで覚えられている」
「そうかよ」
まぁ、アカデミーの頃からの付き合いだし、ルーキー時代に呼ばれた何かのパーティーでブラッドの父親に直接会ったこともあるから、知っててもおかしくはねぇんだけど。
「そして、どうせ良いワインを飲むのであれば、美味く飲みたい。お前がワインに合うつまみを作ってくれるなら、ちょうどいいだろう」
「あー、マリアージュってヤツか」
ワインと料理の相性を結婚に例えて、そう呼ばれるって教えてくれたのはジェイだ。
ルーキー時代、オレたち三人が酒が飲めるようになった時に、ヒーローだと今後何かとパーティー等に呼ばれる機会も多くなるからと、酒の楽しみ方を最初に色々と教えてくれた。
マリアージュの話もその時に聞いたし、研修チーム部屋で共同生活をおくっていた当時、部屋でワインを開けて、飲みながらつまみを作ったりしたこともある。
あの時のワインは安物だったが、それでも料理との相性次第で変わるっていうのは実感した。
「美味く飲みたいってのはわかったけど、つまみは和風がいいってのは完全にお前の趣味だよな?」
「…………ダメか?」
「いや、ダメってこたねぇけど……ワインに和風のつまみって合うのか?」
日本酒ならルーツ的にわからなくもねぇけど、ワインと和食という組み合わせは経験がねぇからか、どうもピンと来ない。
「合うものもあるようだ。例えば、こういうのなんかはどうだろう」
ブラッドが手にしていたタブレットを操作し、何かのサイトを表示してからオレに寄越した。
元は日本語で書かれていただろうサイトは翻訳されていて、オレにも内容がわかるようになっていた。
レシピなんかもいくつか掲載されている。
こりゃ、オレに話持ってくる前にガッツリチェックしてたな、ブラッドのヤツ。
ま、ブラッドと飲める機会もそんな多くねぇし、この先飲む機会があるかどうかもわかんねぇような高い酒飲ませて貰うなら、多少面倒なもんでも作ってやるとするか。
「で、お前が食いたいのってどれだよ?」
「……いいのか?」
「どうせ、目星つけてあんだろ。来週のオフでいいよな? 材料なんかも揃えられるか確認しねぇとなんねぇし」
グリーンイーストのリトルトーキョーなら、調味料なんかは結構揃うが、食材によっては季節に左右されるもんも少なからずある。
「ああ。感謝する」
表情こそ大した差はねぇが、ブラッドの声が弾んでるのが伝わってきた。
***
「うわ……美味……。いや、美味いのは想像してたけど、マジで料理と合うな」
ブラッドの頼み事からほぼ一週間後。
事前にチェックしていた食材を昼のうちにブラッドと一緒にグリーンイーストまで買いに行って、オレの家で一緒に作り、夕食として作ったつまみとワインを楽しんでいるが、想像以上のモンだった。
最初、ワインだけ口にしたときは、美味いのは美味いけど、これまでにもパーティーで口にしてきたヤツとそう大差ねぇかも?なんて思ってたぐらいだったが、料理と合わせた瞬間驚いた。
味の世界の広がり方が、これまで経験してきたのとは比較になんねぇレベルだ。
作ったつまみも味見しながらだったから、味はわかっていたつもりだが、こっちもこっちでワインと合わせることによって美味さがより引き立つ。
こりゃ、酒もつまみも進む一方だなと思っていたら、ブラッドも普段よりも酒の進みが早い。
ソファに隣り合って座ってるから、飲み食いするスピードが分かりやすい。
「ああ。最高だな。お前の料理が美味いのは今に始まったことではないが、今まで食ってきた中でも一際美味い」
「酒がめちゃくちゃ良いからなー。……これ、今日で全部空けちまってもいいのか?」
「構わん。料理の方が足りなくなりそうだがな」
「和風じゃなくてもいいなら、あり合わせので何か作ってやるよ」
「それは楽しみだ」
ブラッドの空になったワイングラスにワインを注ぎながら、残ってる食材でこのワインに合いそうなメニューを考えていたら、不意にブラッドが体を寄せて、オレの肩にことんと頭を乗せてくる。
酔ってるせいなのか、食事中にこんな風に甘えてくるのは珍しい。
ワインを注ぎ終わってから、乗っかった頭を撫でてやると微かに笑い声がした。
午後から買い物とつまみ作りにかかりきりだったけど、たまにはこんなオフも悪くないと思いながら、ブラッドの髪にそっとキスをした。
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#キスブラ #ワンライ
キスブラ版ワンドロライ第11回でのお題から『おにぎり』を使って書いた話です。
少し、クッキングイベのキース☆3カドストのネタバレを含みます。
アカデミー時代、様々な料理を作れる上に、どれをとっても美味かったキースに、一度和食を作ってみる気はないかと聞いたところ、数秒の沈黙の後、めんどくせぇと一蹴された。
「和食ってやつは、具材の切り方が細かかったり、調味料が多様だったりで、繊細過ぎるっていうか……ちょっと手ぇ出すには面倒なんだよ。大体、お前の好きな寿司に至ってはそれ専門の職人がいるってぐらいだしさ」
今にして思えば、和食を好む俺を考えて、一応ざっくりと調べてくれた上でのことだったのだと理解出来る。
全くその気がなければ、面倒だということもわからないのだから。
「ああ、確かに寿司職人といわゆる和食の板前とはまた違うものらしいな」
「っつーわけだ。悪ぃな、諦めてくれ」
「…………そうか」
残念だが、本人にその気がないのに押し通すことも出来ない。
和食でなくともキースの料理は美味いし、作ってくれる機会があるだけいいかと納得した。
だが、キースの方はそれをずっと気にしていたようだ。
第10期生ルーキーとして、タワーで共同生活を送るようになったある日。
ジェイもディノも不在だったことで箍が外れ、昼間からキースとセックスして――眠ってしまい、目が覚めたら夕食の時間だった。
今日の夕食を作るのは俺だったと慌てて起きたら、キースが部屋まで何かを持ってきた。
「お、目ぇ覚めたか。体大丈夫か? 食えそうなら夕飯にしようぜ。簡単なもんにしちまったけど」
「すまない。今日は俺が作るはずだったのに――これは、おにぎりか?」
キースがトレイに乗せていたのは、おにぎりと味噌汁と卵焼き、それにお茶。
確かに米や味噌、他日本の調味料は俺がキッチンに持ち込んでいた分があるとはいえ、炊飯器が少し前に壊れて、新たに買い直さねばと思っていたところだったから、米を炊く発想はなかった。
「そ。まぁ、簡単なものならって思ってな。お前、和食で使うような調味料色々持ち込んでいたし」
「……炊飯器は壊れていたはずだが」
「んなの、鍋がありゃ炊けるっての。まぁ、炊飯器で炊くみたいに均等にはならなくて、ちょっと焦げ付いた部分とかあるけどな。これはこれでいいだろ」
キースの言うように確かにおにぎりに少し焦げた部分があったが、その焦げが逆に香ばしく食欲をそそってくる。
手を合わせてから、まずは味噌汁、そしておにぎりと手をつける。
味噌汁は揚げた茄子に長ネギ。少し濃いめの味付けだが、今の体にはちょうどいい。
そして、おにぎりも塩加減が絶妙だった。
これなら、卵焼きもと期待をして箸を伸ばせば、やはり美味い。
綺麗に巻かれたそれは色や形だけでなく、だしの味が生かされていて、おにぎりによく合っていた。
「美味い。……やはりお前の作る料理には外れがないな」
キースは簡単なものにしたと言ったが、鍋で米を炊くには火加減に気を配る必要があるし、味噌汁に入っていた茄子も揚げてあった。
何より、味噌汁や卵焼きのだしの味から察するに、インスタントは使っていない。
どれもそれなりに手がかかるはずだ。簡単だったとは言えない。
だからこそ、かつて面倒だと言われたのだが、結局は数年越しでも作ってくれた。
それを思うと、さらに美味しく感じ、あっという間に平らげてしまった。
キースよりも早く食い終わった俺を見て、キースが表情を綻ばせたのを覚えている。
「だったら良かったけどさ」
「……出来れば、また作って欲しい」
「まー、気が向いたらな」
――そんなやりとりをしたのが少し懐かしい。
あれから数年。
ルーキーとしての研修チーム部屋での共同生活を終え、キースの自宅に少しずつ、炊飯器等の調理器具や、日本の調味料を持ちこんだのもあってか、時折キースは和食の類も作ってくれるようになった。
日本酒を持ち込んだときにも、つまみと称して作ってくれるし、あの時のように朝食におにぎりを作ってくれることもある。
「……おい、ブラッド。何か棚ん中に見たことない調味料増えてんだけど」
「グリーンイーストの店に入荷されていたから、試しに買ってみた」
「お前、自分のセクター部屋に持っていく前にここで試すなよなー。……で、これでどんなの作れるんだ?」
「作ってくれるのか?」
「そのために持ってきといてよく言うぜ。ほら、レシピ寄越せ。失敗しても文句言うなよ。あと、お前も手伝え」
「……感謝する」
そうは言いながらも、キースが失敗することはほとんどない。
タブレットであらかじめ開いておいたレシピを端末ごとキースに手渡しながら、俺も手渡されたエプロンを身に着けた。
Close
#キスブラ #ワンライ
少し、クッキングイベのキース☆3カドストのネタバレを含みます。
アカデミー時代、様々な料理を作れる上に、どれをとっても美味かったキースに、一度和食を作ってみる気はないかと聞いたところ、数秒の沈黙の後、めんどくせぇと一蹴された。
「和食ってやつは、具材の切り方が細かかったり、調味料が多様だったりで、繊細過ぎるっていうか……ちょっと手ぇ出すには面倒なんだよ。大体、お前の好きな寿司に至ってはそれ専門の職人がいるってぐらいだしさ」
今にして思えば、和食を好む俺を考えて、一応ざっくりと調べてくれた上でのことだったのだと理解出来る。
全くその気がなければ、面倒だということもわからないのだから。
「ああ、確かに寿司職人といわゆる和食の板前とはまた違うものらしいな」
「っつーわけだ。悪ぃな、諦めてくれ」
「…………そうか」
残念だが、本人にその気がないのに押し通すことも出来ない。
和食でなくともキースの料理は美味いし、作ってくれる機会があるだけいいかと納得した。
だが、キースの方はそれをずっと気にしていたようだ。
第10期生ルーキーとして、タワーで共同生活を送るようになったある日。
ジェイもディノも不在だったことで箍が外れ、昼間からキースとセックスして――眠ってしまい、目が覚めたら夕食の時間だった。
今日の夕食を作るのは俺だったと慌てて起きたら、キースが部屋まで何かを持ってきた。
「お、目ぇ覚めたか。体大丈夫か? 食えそうなら夕飯にしようぜ。簡単なもんにしちまったけど」
「すまない。今日は俺が作るはずだったのに――これは、おにぎりか?」
キースがトレイに乗せていたのは、おにぎりと味噌汁と卵焼き、それにお茶。
確かに米や味噌、他日本の調味料は俺がキッチンに持ち込んでいた分があるとはいえ、炊飯器が少し前に壊れて、新たに買い直さねばと思っていたところだったから、米を炊く発想はなかった。
「そ。まぁ、簡単なものならって思ってな。お前、和食で使うような調味料色々持ち込んでいたし」
「……炊飯器は壊れていたはずだが」
「んなの、鍋がありゃ炊けるっての。まぁ、炊飯器で炊くみたいに均等にはならなくて、ちょっと焦げ付いた部分とかあるけどな。これはこれでいいだろ」
キースの言うように確かにおにぎりに少し焦げた部分があったが、その焦げが逆に香ばしく食欲をそそってくる。
手を合わせてから、まずは味噌汁、そしておにぎりと手をつける。
味噌汁は揚げた茄子に長ネギ。少し濃いめの味付けだが、今の体にはちょうどいい。
そして、おにぎりも塩加減が絶妙だった。
これなら、卵焼きもと期待をして箸を伸ばせば、やはり美味い。
綺麗に巻かれたそれは色や形だけでなく、だしの味が生かされていて、おにぎりによく合っていた。
「美味い。……やはりお前の作る料理には外れがないな」
キースは簡単なものにしたと言ったが、鍋で米を炊くには火加減に気を配る必要があるし、味噌汁に入っていた茄子も揚げてあった。
何より、味噌汁や卵焼きのだしの味から察するに、インスタントは使っていない。
どれもそれなりに手がかかるはずだ。簡単だったとは言えない。
だからこそ、かつて面倒だと言われたのだが、結局は数年越しでも作ってくれた。
それを思うと、さらに美味しく感じ、あっという間に平らげてしまった。
キースよりも早く食い終わった俺を見て、キースが表情を綻ばせたのを覚えている。
「だったら良かったけどさ」
「……出来れば、また作って欲しい」
「まー、気が向いたらな」
――そんなやりとりをしたのが少し懐かしい。
あれから数年。
ルーキーとしての研修チーム部屋での共同生活を終え、キースの自宅に少しずつ、炊飯器等の調理器具や、日本の調味料を持ちこんだのもあってか、時折キースは和食の類も作ってくれるようになった。
日本酒を持ち込んだときにも、つまみと称して作ってくれるし、あの時のように朝食におにぎりを作ってくれることもある。
「……おい、ブラッド。何か棚ん中に見たことない調味料増えてんだけど」
「グリーンイーストの店に入荷されていたから、試しに買ってみた」
「お前、自分のセクター部屋に持っていく前にここで試すなよなー。……で、これでどんなの作れるんだ?」
「作ってくれるのか?」
「そのために持ってきといてよく言うぜ。ほら、レシピ寄越せ。失敗しても文句言うなよ。あと、お前も手伝え」
「……感謝する」
そうは言いながらも、キースが失敗することはほとんどない。
タブレットであらかじめ開いておいたレシピを端末ごとキースに手渡しながら、俺も手渡されたエプロンを身に着けた。
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#キスブラ #ワンライ
キスブラ版ワンドロライ第10回でのお題から『似顔絵』を使って書いた話(修正版)です。
『断捨離』も混ぜようとしたけど、あまり含まれない内容になったので似顔絵だけ。
ED3CDのネタバレを若干含みます。
執筆時間は合計2時間半ちょっとくらい。
【Keith's Side】
期限がとっくに過ぎているのに未提出の報告書があるから出せと、ウエストセクターの研修チーム部屋まで訪れたブラッドに言われて、その提出していない報告書を共有スペースで探していたが、何でか見当たらない。
ディノがウエストセクターのメンターになって以降、ヤツに報告書の作成を手伝って貰うこともあるから、共有スペースの方に置くようにしてんだけどな。
でも、ディノが勝手に報告書の場所を移すってことはしねぇから、ここにねぇならオレが自室に置きっぱなしにしてる可能性が高い。
というか、自宅に報告書を持って帰ることはしねぇし、ほぼ間違いなくそのパターンだ。
「こっちにねぇってことは自室の方か?」
独り言のつもりだったが、ブラッドにもしっかり聞こえていて、呆れたように溜め息を吐かれた。
「貴様……いい加減、書類の管理くらいまともに出来んのか。自室だな。探すぞ」
「はいよ、悪ぃな」
「本気で悪いと思っているなら、何故期限内に提出しない。これで何度目だと思っている」
「………………すんません」
ブラッドの仕事を余計に増やした自覚はあるから、小言が続く前に大人しく引き下がる。
二人でメンター部屋に入り、オレの机の上に重なっている紙の束をブラッドと一緒にチェックしていった。
どうせ、ブラッドに見られて困る書類はねぇし、基本、報告書の類は九割方ブラッドに提出するやつだ。
ついでにブラッドの方が書類の内容をチェックしながら、用途別に分けておいてくれるだろうって期待もある。
目的の書類を探していると、ふとブラッドが動きを止めた。
「…………何だ、これは」
ブラッドが困惑した様子で数枚捲って首を傾げてたから、何の書類かと覗き込んだら、ブラッドが持っていたのは仕事の書類じゃなかった。
「ん? あー、こりゃこの前ノヴァ博士作の似顔絵製造マシーンってヤツで、オレが寝てる間に描かれた似顔絵の数々だ。あ、この一枚だけフェイスを描いたヤツな」
似顔絵製造マシーンってのは、ディノの快気祝いって名目でやったパーティーで、ディノがノヴァ博士が入院中の退屈しのぎに持ってきてくれたのだと、場を盛り上げる為に出したものだ。
オレはそれを使ってる途中で酔い潰れて記憶がねぇが、翌朝ディノがせっかくだから描いたものはやるよと纏めてオレによこしてきた。
人が寝てる間に何やってんだって思ったし、自分の似顔絵なんざ、持っててもしゃーねーなと適当にどっかに置いた記憶はあるが、こんなとこに紛れ込んでいたのか。
「なぜ、それが仕事の書類に交じっている。……まぁ、いい。これは別に避けておくぞ。…………? 何だ?」
あの時、フェイスを見て描かれた似顔絵と、目の前のブラッドの顔を改めて見比べてみる。
…………アイツら、この絵を見てフェイスよりブラッドと似てるなんて言ってたけど、やっぱりブラッドとは違うよなぁ。
ブラッドも顔は整ってるし、フェイスと似てねぇってこともねぇんだが、細面ってわけじゃねぇし、何より纏う空気というか、雰囲気が全く違う。
あえて言うなら、ブラッドが市民に営業スマイルで対応してる時はちょっとこれに近くなるかもしれねぇけど、あの表情は未だに違和感しかねぇんだよな。笑ってるんだけど、笑ってねぇっていうか、作り物って印象が拭えねぇ。
顰め面してる方が余程ブラッドらしい。
「いや、やっぱり違うなって思ってさ」
「何のことだ。――ああ、これだな。記入もろくにしていない。今すぐこの場で書け」
「へいへい」
ブラッドが持っていた紙の束の方に目的の書類があったらしく、机の上に転がっていたペンと一緒に書類を渡されたから、自分が持っていた紙の束を代わりにブラッドに渡す。
一瞬だけ眉を顰められたが、直ぐにオレがこれを書いているのを待つ間に、自分が書類を整頓した方が効率がいいと思ったんだろう。
文句は言わずに紙の束を分類し始めた。
ブラッドが書類を片付ける物音をBGMに書いていたら、ふとその音がやんだ。
ヤベぇ、報告書を書き上げるよりもブラッドが整頓する方が早かったかと様子を窺うと、ブラッドは先程別に避けておいたオレの似顔絵を見ているようだった。
オレには自分の似顔絵をじっくり見る趣味もねぇから、ざっくりとしか見てねぇけど、結構な枚数あったんだよな、アレ。
何でも、色んな画風で描けるとかで、ここぞとばかりに試しまくったらしい。
何となくブラッドに見られてるのが気恥ずかしく、さっさと書類を書き上げてブラッドに渡そうと、心持ち早く筆を進めて最後の署名をしていたら、ブラッドが笑った気配がして思わず顔を上げた。
作り上げた営業スマイルとは全く違う、ふわ、と周りの空気まで緩むような柔らかな笑みに、ついかける言葉を失う。
「…………意外に良く描けているな。これなんかは、お前が寝てるときの様子そのものだ」
「ええ……何か、それ実際の年齢よりガキっぽくみえねぇ?」
ブラッドが取りだした似顔絵の一枚は、中途半端にデフォルメされた絵柄のものだった。
「いや、お前が寝てるときの表情はこんな感じだぞ。この一枚、貰っていってもいいか?」
「え、いるのかよ! いや、別にいいけどさ。ほい、報告書も出来たぜ」
「確認する。――――ふむ。少し記載に甘い点があるが、まぁいい。確かに受け取った。今度からは提出日時をまず一番に確認しろ。とりあえず、ここの書類は提出日が近い順に並べておいたから、後で確認して、出来れば早い内に出せるものは出せ」
「あいよ。片付けサンキュ」
書類の確認であっという間に引っ込んでしまった笑みが惜しい。
オレの似顔絵で浮かべていたはずの笑みが、オレで引っ込むってのもどうなんだ。
今してる表情の方がブラッドらしいといえばらしいけど、何となく悪戯心が湧いた。
隙をついて、部屋を出ようとしたブラッドの頬にキスすると、ブラッドが目を丸くする。
「……何だ」
「いや、似顔絵のオレじゃ、お前にキスは出来ねぇよなって思っただけ」
「…………自分の似顔絵に妬くなど、それこそ子どもでもしないが」
「妬いてるわけじゃねぇよ」
「…………そういうことにしておいてやろう」
再び、浮かんだ柔らかい笑みが近付いて来て、オレの頬に軽く口付けて離れていく。部屋を出ようとした背中に慌てて声を掛けた。
「ブラッド、次のオフ――」
「三日後だ。お前の家に行く。それでいいな?」
「了解」
ブラッドは返事だけしてこっちを振り返らなかったが、部屋からいなくなる寸前、耳が微かに赤くなっていたのを確かに見た。
去り際のブラッドの表情が見られなかったのは惜しいが、これ以上のお楽しみは三日後にとっておくと決めて、ブラッドが片付けてくれた書類を確認する。
せめて、休みの前に出せる報告書は出しておこうと、再びペンを手に取った。
【Brad's Side】
キースをメンターにしたときに多少は覚悟していたものの、ヤツの報告書のミスの多さと、提出期限の守らなさには呆れるばかりだ。
今日も、これ以上は待てない未提出の報告書の催促で、ウエストセクターの研修チーム部屋に足を運んだ。
案の定、キースは言い出すまでその報告書のことを忘れていたらしく、探し始めたが中々見つからないようだ。
ディノのサポートで少しはマシになってきているが、一体いつになったら報告書の不備がなくなるのか。
「こっちにねぇってことは自室の方か?」
ぼそりと呟いたキースに、溜め息が出てしまう。
「貴様……いい加減、書類の管理くらいまともに出来んのか。自室だな。探すぞ」
キース一人に任せるより、俺も一緒に探した方が間違いなく早い。
「はいよ、悪ぃな」
「本気で悪いと思っているなら、何故期限内に提出しない。これで何度目だと思っている」
「………………すんません」
寧ろ、ディノに甘えて書類の提出期限を覚えていない可能性もありそうだ。
ディノには悪いが、その辺りも含めて確認して貰った方がいいだろう。
メンター部屋のキースのスペースに入り、机の上に積まれていた紙の束をチェックしていく。
この際だから、内容を確認しつつ、提出期限の早いものから改めて重ねていくと、ふいに全然仕事とは関係のない――似顔絵と思しきものが数枚連なって出て来た。
「…………何だ、これは」
描かれているのは恐らくほとんどがキースだが、描いているのは一人ではなさそうだ。
様々な画風で描かれているが、共通しているのはどれもキースの寝顔を描きだしているということ。
一枚だけ、恐らくフェイスを描いたものだろうというのはあったが、一体何があったのか。
「ん? あー、こりゃこの前ノヴァ博士作の似顔絵製造マシーンってヤツで、オレが寝てる間に描かれた似顔絵の数々だ。あ、この一枚だけフェイスを描いたヤツな」
「なぜ、それが仕事の書類に交じっている。……まぁ、いい。これは別に避けておくぞ」
せめて、仕事とそうでないものくらいは分けておいて欲しいものだと、似顔絵をざっと確認してそれだけ書類とは別にする。
再び、書類を確認しようとしたら、キースに見られていることに気付いた。
「…………? 何だ?」
「いや、やっぱり違うなって思ってさ」
「何のことだ。――ああ、これだな。記入もろくにしていない。今すぐこの場で書け」
「へいへい」
違うのが何についてかはわからなかったが、今は報告書を書き上げて貰うことが最優先だ。
机の上に無造作に転がっていたペンも一緒に渡すと、当たり前のようにキースが自分の持っていた紙の束を俺に押し付ける。
……まぁ、キースが書類を書き上げる間に俺がこれを整頓しておいた方が、この後キースがやりやすいだろうと、先程チェックした書類と合わせて確認していった。
提出期限、そしておよその内容から並び替えたのを積むと、先程別に避けた似顔絵の方に手を伸ばす。
そういえば、ディノがノヴァ博士の機械を使って、キースが寝ているところを色々描いたようなことを言っていた。
それがこれか。
酒で酔い潰れてしまうと、ちょっとやそっとではキースは起きない。
そんな無防備な様子がこの似顔絵の数々からも伝わる。
何とはなしに見ていき、数枚目に出て来たものに思わず手が止まった。
自分でも幾度となくみてきたキースのあどけない寝顔。
それがよく描き出されていて、つい口元が緩むのを自覚する。
「…………意外に良く描けているな。これなんかは、お前が寝てるときの様子そのものだ」
「ええ……何か、それ実際の年齢よりガキっぽくみえねぇ?」
「いや、お前が寝てるときの表情はこんな感じだぞ。この一枚、貰っていってもいいか?」
仕事の書類と交ぜているくらいなら、似顔絵にさほど執着もないだろうと聞いてみたら、予想通りキースは驚きはしたものの、俺が貰うことには異論がなさそうだった。
「え、いるのかよ! いや、別にいいけどさ。ほい、報告書も出来たぜ」
「確認する。――――ふむ。少し記載に甘い点があるが、まぁいい。確かに受け取った。今度からは提出日時をまず一番に確認しろ。とりあえず、ここの書類は提出日が近い順に並べておいたから、後で確認して、出来れば早い内に出せるものは出せ」
「あいよ。片付けサンキュ」
これで俺も今日の仕事には一区切りついた。
部屋に戻ってから、もう一度この似顔絵をじっくりと見るとするか――と考えていたら、キースが頬に音を立てて口付けてきた。
その表情がどうも拗ねているように見えるのは気のせいだろうか。
「……何だ」
「いや、似顔絵のオレじゃ、お前にキスは出来ねぇよなって思っただけ」
返ってきた言葉は予想外のものだったが、拗ねているように思えたのは間違いではなかったようだ。
似顔絵はキースが良く描かれているから欲しいと思ったが、それでも似顔絵はあくまでも似顔絵でしかない。
「…………自分の似顔絵に妬くなど、それこそ子どもでもしないが」
「妬いてるわけじゃねぇよ」
自覚がないのか、あっても認めたくないのか。
こんなにもわかりやすく、俺がキースの似顔絵に興味を持ったのが面白くないと、その表情が告げているというのに。
仕方のないヤツだ。
「…………そういうことにしておいてやろう」
俺の方からもキースの頬に口付けを返し、部屋を出ようとしたところでキースから声が掛かる。
「ブラッド、次のオフ――」
「三日後だ。お前の家に行く。それでいいな?」
「了解」
休みにキースの家に行くというのは、明確な目的があってのことだ。
それをキースも分かっている。
了解と応じた声には明らかに喜びの感情が含まれていた。
……口付けは頬に留めておいて正解だったな。
それ以上に触れ合うのは後日の楽しみと思えば、その分当日の高揚感が増す。
丸めたキースの似顔絵をどこにしまうかを考えながら、自室へと戻っていった。
Close
#キスブラ #ワンライ
『断捨離』も混ぜようとしたけど、あまり含まれない内容になったので似顔絵だけ。
ED3CDのネタバレを若干含みます。
執筆時間は合計2時間半ちょっとくらい。
【Keith's Side】
期限がとっくに過ぎているのに未提出の報告書があるから出せと、ウエストセクターの研修チーム部屋まで訪れたブラッドに言われて、その提出していない報告書を共有スペースで探していたが、何でか見当たらない。
ディノがウエストセクターのメンターになって以降、ヤツに報告書の作成を手伝って貰うこともあるから、共有スペースの方に置くようにしてんだけどな。
でも、ディノが勝手に報告書の場所を移すってことはしねぇから、ここにねぇならオレが自室に置きっぱなしにしてる可能性が高い。
というか、自宅に報告書を持って帰ることはしねぇし、ほぼ間違いなくそのパターンだ。
「こっちにねぇってことは自室の方か?」
独り言のつもりだったが、ブラッドにもしっかり聞こえていて、呆れたように溜め息を吐かれた。
「貴様……いい加減、書類の管理くらいまともに出来んのか。自室だな。探すぞ」
「はいよ、悪ぃな」
「本気で悪いと思っているなら、何故期限内に提出しない。これで何度目だと思っている」
「………………すんません」
ブラッドの仕事を余計に増やした自覚はあるから、小言が続く前に大人しく引き下がる。
二人でメンター部屋に入り、オレの机の上に重なっている紙の束をブラッドと一緒にチェックしていった。
どうせ、ブラッドに見られて困る書類はねぇし、基本、報告書の類は九割方ブラッドに提出するやつだ。
ついでにブラッドの方が書類の内容をチェックしながら、用途別に分けておいてくれるだろうって期待もある。
目的の書類を探していると、ふとブラッドが動きを止めた。
「…………何だ、これは」
ブラッドが困惑した様子で数枚捲って首を傾げてたから、何の書類かと覗き込んだら、ブラッドが持っていたのは仕事の書類じゃなかった。
「ん? あー、こりゃこの前ノヴァ博士作の似顔絵製造マシーンってヤツで、オレが寝てる間に描かれた似顔絵の数々だ。あ、この一枚だけフェイスを描いたヤツな」
似顔絵製造マシーンってのは、ディノの快気祝いって名目でやったパーティーで、ディノがノヴァ博士が入院中の退屈しのぎに持ってきてくれたのだと、場を盛り上げる為に出したものだ。
オレはそれを使ってる途中で酔い潰れて記憶がねぇが、翌朝ディノがせっかくだから描いたものはやるよと纏めてオレによこしてきた。
人が寝てる間に何やってんだって思ったし、自分の似顔絵なんざ、持っててもしゃーねーなと適当にどっかに置いた記憶はあるが、こんなとこに紛れ込んでいたのか。
「なぜ、それが仕事の書類に交じっている。……まぁ、いい。これは別に避けておくぞ。…………? 何だ?」
あの時、フェイスを見て描かれた似顔絵と、目の前のブラッドの顔を改めて見比べてみる。
…………アイツら、この絵を見てフェイスよりブラッドと似てるなんて言ってたけど、やっぱりブラッドとは違うよなぁ。
ブラッドも顔は整ってるし、フェイスと似てねぇってこともねぇんだが、細面ってわけじゃねぇし、何より纏う空気というか、雰囲気が全く違う。
あえて言うなら、ブラッドが市民に営業スマイルで対応してる時はちょっとこれに近くなるかもしれねぇけど、あの表情は未だに違和感しかねぇんだよな。笑ってるんだけど、笑ってねぇっていうか、作り物って印象が拭えねぇ。
顰め面してる方が余程ブラッドらしい。
「いや、やっぱり違うなって思ってさ」
「何のことだ。――ああ、これだな。記入もろくにしていない。今すぐこの場で書け」
「へいへい」
ブラッドが持っていた紙の束の方に目的の書類があったらしく、机の上に転がっていたペンと一緒に書類を渡されたから、自分が持っていた紙の束を代わりにブラッドに渡す。
一瞬だけ眉を顰められたが、直ぐにオレがこれを書いているのを待つ間に、自分が書類を整頓した方が効率がいいと思ったんだろう。
文句は言わずに紙の束を分類し始めた。
ブラッドが書類を片付ける物音をBGMに書いていたら、ふとその音がやんだ。
ヤベぇ、報告書を書き上げるよりもブラッドが整頓する方が早かったかと様子を窺うと、ブラッドは先程別に避けておいたオレの似顔絵を見ているようだった。
オレには自分の似顔絵をじっくり見る趣味もねぇから、ざっくりとしか見てねぇけど、結構な枚数あったんだよな、アレ。
何でも、色んな画風で描けるとかで、ここぞとばかりに試しまくったらしい。
何となくブラッドに見られてるのが気恥ずかしく、さっさと書類を書き上げてブラッドに渡そうと、心持ち早く筆を進めて最後の署名をしていたら、ブラッドが笑った気配がして思わず顔を上げた。
作り上げた営業スマイルとは全く違う、ふわ、と周りの空気まで緩むような柔らかな笑みに、ついかける言葉を失う。
「…………意外に良く描けているな。これなんかは、お前が寝てるときの様子そのものだ」
「ええ……何か、それ実際の年齢よりガキっぽくみえねぇ?」
ブラッドが取りだした似顔絵の一枚は、中途半端にデフォルメされた絵柄のものだった。
「いや、お前が寝てるときの表情はこんな感じだぞ。この一枚、貰っていってもいいか?」
「え、いるのかよ! いや、別にいいけどさ。ほい、報告書も出来たぜ」
「確認する。――――ふむ。少し記載に甘い点があるが、まぁいい。確かに受け取った。今度からは提出日時をまず一番に確認しろ。とりあえず、ここの書類は提出日が近い順に並べておいたから、後で確認して、出来れば早い内に出せるものは出せ」
「あいよ。片付けサンキュ」
書類の確認であっという間に引っ込んでしまった笑みが惜しい。
オレの似顔絵で浮かべていたはずの笑みが、オレで引っ込むってのもどうなんだ。
今してる表情の方がブラッドらしいといえばらしいけど、何となく悪戯心が湧いた。
隙をついて、部屋を出ようとしたブラッドの頬にキスすると、ブラッドが目を丸くする。
「……何だ」
「いや、似顔絵のオレじゃ、お前にキスは出来ねぇよなって思っただけ」
「…………自分の似顔絵に妬くなど、それこそ子どもでもしないが」
「妬いてるわけじゃねぇよ」
「…………そういうことにしておいてやろう」
再び、浮かんだ柔らかい笑みが近付いて来て、オレの頬に軽く口付けて離れていく。部屋を出ようとした背中に慌てて声を掛けた。
「ブラッド、次のオフ――」
「三日後だ。お前の家に行く。それでいいな?」
「了解」
ブラッドは返事だけしてこっちを振り返らなかったが、部屋からいなくなる寸前、耳が微かに赤くなっていたのを確かに見た。
去り際のブラッドの表情が見られなかったのは惜しいが、これ以上のお楽しみは三日後にとっておくと決めて、ブラッドが片付けてくれた書類を確認する。
せめて、休みの前に出せる報告書は出しておこうと、再びペンを手に取った。
【Brad's Side】
キースをメンターにしたときに多少は覚悟していたものの、ヤツの報告書のミスの多さと、提出期限の守らなさには呆れるばかりだ。
今日も、これ以上は待てない未提出の報告書の催促で、ウエストセクターの研修チーム部屋に足を運んだ。
案の定、キースは言い出すまでその報告書のことを忘れていたらしく、探し始めたが中々見つからないようだ。
ディノのサポートで少しはマシになってきているが、一体いつになったら報告書の不備がなくなるのか。
「こっちにねぇってことは自室の方か?」
ぼそりと呟いたキースに、溜め息が出てしまう。
「貴様……いい加減、書類の管理くらいまともに出来んのか。自室だな。探すぞ」
キース一人に任せるより、俺も一緒に探した方が間違いなく早い。
「はいよ、悪ぃな」
「本気で悪いと思っているなら、何故期限内に提出しない。これで何度目だと思っている」
「………………すんません」
寧ろ、ディノに甘えて書類の提出期限を覚えていない可能性もありそうだ。
ディノには悪いが、その辺りも含めて確認して貰った方がいいだろう。
メンター部屋のキースのスペースに入り、机の上に積まれていた紙の束をチェックしていく。
この際だから、内容を確認しつつ、提出期限の早いものから改めて重ねていくと、ふいに全然仕事とは関係のない――似顔絵と思しきものが数枚連なって出て来た。
「…………何だ、これは」
描かれているのは恐らくほとんどがキースだが、描いているのは一人ではなさそうだ。
様々な画風で描かれているが、共通しているのはどれもキースの寝顔を描きだしているということ。
一枚だけ、恐らくフェイスを描いたものだろうというのはあったが、一体何があったのか。
「ん? あー、こりゃこの前ノヴァ博士作の似顔絵製造マシーンってヤツで、オレが寝てる間に描かれた似顔絵の数々だ。あ、この一枚だけフェイスを描いたヤツな」
「なぜ、それが仕事の書類に交じっている。……まぁ、いい。これは別に避けておくぞ」
せめて、仕事とそうでないものくらいは分けておいて欲しいものだと、似顔絵をざっと確認してそれだけ書類とは別にする。
再び、書類を確認しようとしたら、キースに見られていることに気付いた。
「…………? 何だ?」
「いや、やっぱり違うなって思ってさ」
「何のことだ。――ああ、これだな。記入もろくにしていない。今すぐこの場で書け」
「へいへい」
違うのが何についてかはわからなかったが、今は報告書を書き上げて貰うことが最優先だ。
机の上に無造作に転がっていたペンも一緒に渡すと、当たり前のようにキースが自分の持っていた紙の束を俺に押し付ける。
……まぁ、キースが書類を書き上げる間に俺がこれを整頓しておいた方が、この後キースがやりやすいだろうと、先程チェックした書類と合わせて確認していった。
提出期限、そしておよその内容から並び替えたのを積むと、先程別に避けた似顔絵の方に手を伸ばす。
そういえば、ディノがノヴァ博士の機械を使って、キースが寝ているところを色々描いたようなことを言っていた。
それがこれか。
酒で酔い潰れてしまうと、ちょっとやそっとではキースは起きない。
そんな無防備な様子がこの似顔絵の数々からも伝わる。
何とはなしに見ていき、数枚目に出て来たものに思わず手が止まった。
自分でも幾度となくみてきたキースのあどけない寝顔。
それがよく描き出されていて、つい口元が緩むのを自覚する。
「…………意外に良く描けているな。これなんかは、お前が寝てるときの様子そのものだ」
「ええ……何か、それ実際の年齢よりガキっぽくみえねぇ?」
「いや、お前が寝てるときの表情はこんな感じだぞ。この一枚、貰っていってもいいか?」
仕事の書類と交ぜているくらいなら、似顔絵にさほど執着もないだろうと聞いてみたら、予想通りキースは驚きはしたものの、俺が貰うことには異論がなさそうだった。
「え、いるのかよ! いや、別にいいけどさ。ほい、報告書も出来たぜ」
「確認する。――――ふむ。少し記載に甘い点があるが、まぁいい。確かに受け取った。今度からは提出日時をまず一番に確認しろ。とりあえず、ここの書類は提出日が近い順に並べておいたから、後で確認して、出来れば早い内に出せるものは出せ」
「あいよ。片付けサンキュ」
これで俺も今日の仕事には一区切りついた。
部屋に戻ってから、もう一度この似顔絵をじっくりと見るとするか――と考えていたら、キースが頬に音を立てて口付けてきた。
その表情がどうも拗ねているように見えるのは気のせいだろうか。
「……何だ」
「いや、似顔絵のオレじゃ、お前にキスは出来ねぇよなって思っただけ」
返ってきた言葉は予想外のものだったが、拗ねているように思えたのは間違いではなかったようだ。
似顔絵はキースが良く描かれているから欲しいと思ったが、それでも似顔絵はあくまでも似顔絵でしかない。
「…………自分の似顔絵に妬くなど、それこそ子どもでもしないが」
「妬いてるわけじゃねぇよ」
自覚がないのか、あっても認めたくないのか。
こんなにもわかりやすく、俺がキースの似顔絵に興味を持ったのが面白くないと、その表情が告げているというのに。
仕方のないヤツだ。
「…………そういうことにしておいてやろう」
俺の方からもキースの頬に口付けを返し、部屋を出ようとしたところでキースから声が掛かる。
「ブラッド、次のオフ――」
「三日後だ。お前の家に行く。それでいいな?」
「了解」
休みにキースの家に行くというのは、明確な目的があってのことだ。
それをキースも分かっている。
了解と応じた声には明らかに喜びの感情が含まれていた。
……口付けは頬に留めておいて正解だったな。
それ以上に触れ合うのは後日の楽しみと思えば、その分当日の高揚感が増す。
丸めたキースの似顔絵をどこにしまうかを考えながら、自室へと戻っていった。
Close
#キスブラ #ワンライ
キスブラ版ワンドロライ第10回でのお題から『似顔絵』を使って書いた話です。
『断捨離』も混ぜようとしたけど、そこまででもなくなったw(ので似顔絵だけ)
ED3CDのネタバレ含みます。
修正版はこちら。
期限を過ぎているのに未提出の報告書があるから出せと、ウエストセクターの研修チーム部屋まで訪れたブラッドに言われて、その提出していない報告書を共有スペースで探していたが、何でか見当たらない。
ディノが戻ってきてからはヤツに手伝って貰うこともあるから、共有スペースの方に置くようにしてんだけどな。
でも、ディノが勝手に報告書の場所を移すってことはしねぇから、ここにねぇなら自室に置きっぱなしにしてる可能性が高い。
というか、自宅に報告書を持って帰ることはしねぇし、ほぼ間違いなくそのパターンだ。
「こっちにねぇってことは自室の方か?」
独り言のつもりだったが、ブラッドにもしっかり聞こえていて、呆れたように溜め息を吐かれた。
「貴様……いい加減、書類の管理くらいまともに出来んのか。自室だな。探すぞ」
「はいよ、悪ぃな」
「本気で悪いと思っているなら、何故期限内に提出しない」
「………………すんません」
ブラッドの仕事を余計に増やした自覚はあるから、小言が続く前に大人しく引き下がる。
二人でメンター部屋に入り、机の上に重なっている紙の束をブラッドと一緒にチェックしていった。
どうせ、ブラッドに見られて困る書類はねぇし、基本、報告書の類は九割方ブラッドに提出するやつだ。
ついでにブラッドの方が書類の内容をチェックしながら、用途別に分けておいてくれるだろうって期待もある。
目的の書類を探していると、ふとブラッドが動きを止めた。
「…………何だ、これは」
ブラッドが困惑した様子で数枚捲って首を傾げてたから、何の書類かと覗き込んだら、ブラッドが持っていたのは仕事の書類じゃなかった。
「ん? あー、こりゃこの前ノヴァ博士作の似顔絵製造マシーンってヤツで、オレが寝てる間に描かれた似顔絵の数々だ。あ、この一枚だけフェイスを描いたやつな」
ディノの快気祝いって名目のパーティーで、ディノがノヴァ博士が入院中の退屈しのぎに持ってきてくれたやつだと、場を盛り上げる為に出したやつだ。
「なぜ、それが仕事の書類に交じっている。……まぁ、いい。これは別に避けておくぞ。…………? 何だ?」
あの時、フェイスを見て描かれた似顔絵と、目の前のブラッドの顔を改めて見比べてみる。
…………アイツら、この絵を見てフェイスよりブラッドと似てるなんて言ってたけど、やっぱりブラッドとは違うよなぁ。
ブラッドも顔は整ってるし、フェイスと似てねぇってこともねぇんだが、細面ってわけじゃねぇし、何より纏う空気というか、雰囲気が全く違う。
あえて言うなら、ブラッドが市民に営業スマイルで対応してる時はちょっとこれに近くなるかもしれねぇけど、あの表情は未だに違和感しかねぇんだよな。笑ってるんだけど、笑ってねぇっていうか。
顰め面してる方が余程ブラッドらしい。
「いや、やっぱり違うなって思ってさ」
「何のことだ。――ああ、これだな。記入もろくにしていない。今すぐこの場で書け」
「へいへい」
ブラッドが持っていた紙の束の方に目的の書類があったらしく、机の上に転がっていたペンと一緒に書類を渡されたから、自分が持っていた紙の束を代わりにブラッドに渡す。
一瞬だけ眉を顰められたが、直ぐにオレがこれを書いているのを待つ間に、自分が書類を整頓した方が効率がいいと思ったんだろう。
文句は言わずに紙の束を分類し始めた。
ブラッドが書類を片付ける物音をBGMに書いていたら、ふとその音がやんだ。
ヤベぇ、ブラッドが整頓する方が早かったかと様子を窺うと、ブラッドは先程別に避けておいた似顔絵を見ているようだった。
オレは自分の似顔絵をじっくり見る趣味もねぇから、ざっくりとしか見てねぇけど、結構な枚数あったんだよな、アレ。
何となく気恥ずかしく、さっさと書類を書き上げてブラッドに渡そうと、心持ち早く進めて、最後の署名をしていたら、ブラッドが笑った気配がして思わず顔を上げた。
作り上げた営業スマイルとは全く違う、ふわ、と周りの空気まで緩むような柔らかな笑みに、ついかける言葉を失う。
「…………意外に良く描けているな。これなんかは、お前が寝てるときの様子そのものだ」
「ええ……何か、それ実際の年齢よりガキっぽくみえねぇ?」
ブラッドが取りだした似顔絵の一枚は、中途半端にデフォルメされた絵柄のものだった。
「いや、お前が寝てるときの表情はこんな感じだぞ。この一枚、貰っていってもいいか?」
「え、いるのかよ! いや、別にいいけどさ。ほい、報告書も出来たぜ」
「確認する。――――ふむ。少し記載に甘い点があるが、まぁいい。確かに受け取った。今度からは提出日時をまず一番に確認しろ。とりあえず、ここの書類は提出日が近い順に並べておいたから、後で確認して、出来れば早い内に出せるものは出せ」
「あいよ。片付けサンキュ」
書類の確認であっという間に引っ込んでしまった笑みが惜しい。
オレの似顔絵で浮かべていたはずの笑みが、オレで引っ込むってのもどうなんだ。
今してる表情の方がブラッドらしいといえばらしいけど、何となく悪戯心が湧いた。
隙をついて、部屋を出ようとしたブラッドの頬にキスすると、ブラッドが目を丸くする。
「……何だ」
「いや、似顔絵のオレじゃ、お前にキスは出来ねぇよなって思っただけ」
「…………自分の似顔絵に妬くとか、それこそ子どもでもしないが」
「妬いてるわけじゃねぇよ」
「…………そういうことにしておいてやろう」
再び、浮かんだ柔らかい笑みが近付いて来て、オレの頬に軽く口付けて離れていく。部屋を出ようとした背中に慌てて声を掛けた。
「ブラッド、次のオフ――」
「三日後だ。お前の家に行く。それでいいな?」
「了解」
ブラッドは返事だけしてこっちを振り返らなかったが、耳が微かに赤くなったのは確認出来た。
これ以上のお楽しみは三日後にとっておくとするか。
Close
#キスブラ #ワンライ
『断捨離』も混ぜようとしたけど、そこまででもなくなったw(ので似顔絵だけ)
ED3CDのネタバレ含みます。
修正版はこちら。
期限を過ぎているのに未提出の報告書があるから出せと、ウエストセクターの研修チーム部屋まで訪れたブラッドに言われて、その提出していない報告書を共有スペースで探していたが、何でか見当たらない。
ディノが戻ってきてからはヤツに手伝って貰うこともあるから、共有スペースの方に置くようにしてんだけどな。
でも、ディノが勝手に報告書の場所を移すってことはしねぇから、ここにねぇなら自室に置きっぱなしにしてる可能性が高い。
というか、自宅に報告書を持って帰ることはしねぇし、ほぼ間違いなくそのパターンだ。
「こっちにねぇってことは自室の方か?」
独り言のつもりだったが、ブラッドにもしっかり聞こえていて、呆れたように溜め息を吐かれた。
「貴様……いい加減、書類の管理くらいまともに出来んのか。自室だな。探すぞ」
「はいよ、悪ぃな」
「本気で悪いと思っているなら、何故期限内に提出しない」
「………………すんません」
ブラッドの仕事を余計に増やした自覚はあるから、小言が続く前に大人しく引き下がる。
二人でメンター部屋に入り、机の上に重なっている紙の束をブラッドと一緒にチェックしていった。
どうせ、ブラッドに見られて困る書類はねぇし、基本、報告書の類は九割方ブラッドに提出するやつだ。
ついでにブラッドの方が書類の内容をチェックしながら、用途別に分けておいてくれるだろうって期待もある。
目的の書類を探していると、ふとブラッドが動きを止めた。
「…………何だ、これは」
ブラッドが困惑した様子で数枚捲って首を傾げてたから、何の書類かと覗き込んだら、ブラッドが持っていたのは仕事の書類じゃなかった。
「ん? あー、こりゃこの前ノヴァ博士作の似顔絵製造マシーンってヤツで、オレが寝てる間に描かれた似顔絵の数々だ。あ、この一枚だけフェイスを描いたやつな」
ディノの快気祝いって名目のパーティーで、ディノがノヴァ博士が入院中の退屈しのぎに持ってきてくれたやつだと、場を盛り上げる為に出したやつだ。
「なぜ、それが仕事の書類に交じっている。……まぁ、いい。これは別に避けておくぞ。…………? 何だ?」
あの時、フェイスを見て描かれた似顔絵と、目の前のブラッドの顔を改めて見比べてみる。
…………アイツら、この絵を見てフェイスよりブラッドと似てるなんて言ってたけど、やっぱりブラッドとは違うよなぁ。
ブラッドも顔は整ってるし、フェイスと似てねぇってこともねぇんだが、細面ってわけじゃねぇし、何より纏う空気というか、雰囲気が全く違う。
あえて言うなら、ブラッドが市民に営業スマイルで対応してる時はちょっとこれに近くなるかもしれねぇけど、あの表情は未だに違和感しかねぇんだよな。笑ってるんだけど、笑ってねぇっていうか。
顰め面してる方が余程ブラッドらしい。
「いや、やっぱり違うなって思ってさ」
「何のことだ。――ああ、これだな。記入もろくにしていない。今すぐこの場で書け」
「へいへい」
ブラッドが持っていた紙の束の方に目的の書類があったらしく、机の上に転がっていたペンと一緒に書類を渡されたから、自分が持っていた紙の束を代わりにブラッドに渡す。
一瞬だけ眉を顰められたが、直ぐにオレがこれを書いているのを待つ間に、自分が書類を整頓した方が効率がいいと思ったんだろう。
文句は言わずに紙の束を分類し始めた。
ブラッドが書類を片付ける物音をBGMに書いていたら、ふとその音がやんだ。
ヤベぇ、ブラッドが整頓する方が早かったかと様子を窺うと、ブラッドは先程別に避けておいた似顔絵を見ているようだった。
オレは自分の似顔絵をじっくり見る趣味もねぇから、ざっくりとしか見てねぇけど、結構な枚数あったんだよな、アレ。
何となく気恥ずかしく、さっさと書類を書き上げてブラッドに渡そうと、心持ち早く進めて、最後の署名をしていたら、ブラッドが笑った気配がして思わず顔を上げた。
作り上げた営業スマイルとは全く違う、ふわ、と周りの空気まで緩むような柔らかな笑みに、ついかける言葉を失う。
「…………意外に良く描けているな。これなんかは、お前が寝てるときの様子そのものだ」
「ええ……何か、それ実際の年齢よりガキっぽくみえねぇ?」
ブラッドが取りだした似顔絵の一枚は、中途半端にデフォルメされた絵柄のものだった。
「いや、お前が寝てるときの表情はこんな感じだぞ。この一枚、貰っていってもいいか?」
「え、いるのかよ! いや、別にいいけどさ。ほい、報告書も出来たぜ」
「確認する。――――ふむ。少し記載に甘い点があるが、まぁいい。確かに受け取った。今度からは提出日時をまず一番に確認しろ。とりあえず、ここの書類は提出日が近い順に並べておいたから、後で確認して、出来れば早い内に出せるものは出せ」
「あいよ。片付けサンキュ」
書類の確認であっという間に引っ込んでしまった笑みが惜しい。
オレの似顔絵で浮かべていたはずの笑みが、オレで引っ込むってのもどうなんだ。
今してる表情の方がブラッドらしいといえばらしいけど、何となく悪戯心が湧いた。
隙をついて、部屋を出ようとしたブラッドの頬にキスすると、ブラッドが目を丸くする。
「……何だ」
「いや、似顔絵のオレじゃ、お前にキスは出来ねぇよなって思っただけ」
「…………自分の似顔絵に妬くとか、それこそ子どもでもしないが」
「妬いてるわけじゃねぇよ」
「…………そういうことにしておいてやろう」
再び、浮かんだ柔らかい笑みが近付いて来て、オレの頬に軽く口付けて離れていく。部屋を出ようとした背中に慌てて声を掛けた。
「ブラッド、次のオフ――」
「三日後だ。お前の家に行く。それでいいな?」
「了解」
ブラッドは返事だけしてこっちを振り返らなかったが、耳が微かに赤くなったのは確認出来た。
これ以上のお楽しみは三日後にとっておくとするか。
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#キスブラ #ワンライ
キスブラ版ワンドロライ第9回でのお題から『体温』を使って書いた話です。
事後かつ事前。
「うっわ……寒……」
夜中に目が覚めて、トイレに行って戻ってくるのに数分って程度だが、その数分ですっかり体が冷えちまった。
面倒だったから、寝る前にシャワー浴びたときに使ったバスローブだけ羽織っていったが、少し湿った状態だったから、かえって冷えたかもしれねぇ。
そういや、今夜はニュースでこの冬一番の冷え込みとか何とか言ってたっけか。
いっそ、一、二杯飲んで軽く体を温めてから寝直すかと思ったが、生憎、今日はブラッドが泊まってる。
このタイミングで飲んだら酒の匂いは絶対残るから、朝一番に小言スイッチが入るのは間違いねぇ。
かと言って、起きてる時ならまだしも、寝てる間にエアコンをつけておくのも躊躇う。
ま、ベッドに入ってりゃそのうち温まるだろと、大人しくベッドに戻って、さっさとバスローブを脱いで、ブラッドの隣に滑り込んだ。
ちょっとだけ体温をお裾分けして貰おうと、ヤツの臑に軽く爪先をくっつけたら、びく、とブラッドが身動いで目を開けた。
「…………キース。冷たい」
「悪ぃ。ちょっとくっつくくらいなら起きねぇかなって思ったんだけど」
マジで起こすつもりはなかったから、ブラッドから少し離れようとしたが、ブラッドの足が、ベッドの中でオレの足を挟み込んだ。
冷たさからか、一瞬だけブラッドが眉を顰めたが、足を離そうとはしない。
「…………温まるつもりなら、もう少し身を寄せろ」
「いや、お前が冷えるだろ」
「触れていれば、数分もしないうちに暖かくなる。ほら、手も寄越せ」
「あ、おい、ブラッド」
ブラッドがさっさとオレの手を探って、掴んだ手を自分の太股に触れさせた。
手も足と変わんねぇくらいに冷えてんのに、今度は眉一つ動かさない。
ここまでされたら、もう全身でくっついても変わんねぇかと、体ごとブラッドに近寄って、くっついた。
冷えていた部分がブラッドの体温でじわじわと温かくなっていくのがわかる。
ブラッドの言った通り、数分もしないうちにオレの体も温まっていった。
「あー……あったけぇ……」
「……少し、煙草の本数を減らしたらどうだ。昔よりお前の手足が冷えやすくなったのは、煙草のせいもあると思うが」
「あー……わかってんだけどなぁ……」
確かに煙草が一因だろうが、こうやって手足が冷えるのは今みたいな真冬くらいで、他の季節だとそんなに冷えることもねぇから、減らすってことに気が乗らねぇ。
「…………まぁ、少し言って減るくらいなら、とっくに本数など減っているか」
軽く溜め息を吐いたブラッドが目を閉じて、太股に触れさせていたオレの手に自分の手を重ねる。
体が温まったから、もうブラッドの手から伝わる体温と、オレの手の体温の差はほとんど感じられない。
オレの指の形でも確かめるかのように動いているブラッドの指の動きが、妙に気になる。
「…………怒んねぇの?」
「何だ、怒られたいのか?」
「そういうわけでもねぇけどさ」
ブラッドにしちゃ、やけにあっさり引き下がったように思えたのが気になる。
それが伝わったのか、ブラッドが微かに口元に笑みを浮かべた。
「お前の手足が冷えるのは今時期くらいだからな。これが一年中なら、どうにかして減らすことも考えるが、お前を温めるのが俺の特権だと思えば悪くはない」
「…………煽んなよ。そんなこと言われたら、もっと温まりたくなっちまうだろ」
温まるを通り越して、熱くなってしまう方法だってある。
つい、さっきだってそれを実践したところだ。
けど、これは……もしかしたら誘われてる?
そう考えると、絡めるように動いているブラッドの指にも納得がいく。
ブラッドの動いている指を捕まえて、指先を辿らせ、手のひらを擽るように動かすと、ブラッドが再び目を開けて、鮮やかなネオンピンクが挑発するように光った気がした。
「構わない、と言ったらどうする?」
「そりゃ……据え膳食わねぇ趣味はねぇからな。お前の中でもう一回温めさせて貰うけど」
何を、とまでは言わずに腰を擦り付けると、下着越しにもブラッドも反応しているのが伝わる。
やっぱり酒は飲まないでおいて正解だったと思いながら、サイコキネシスでエアコンのスイッチを入れ、キスを待ち構えて目を閉じたブラッドに口付けた。
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#キスブラ #ワンライ
事後かつ事前。
「うっわ……寒……」
夜中に目が覚めて、トイレに行って戻ってくるのに数分って程度だが、その数分ですっかり体が冷えちまった。
面倒だったから、寝る前にシャワー浴びたときに使ったバスローブだけ羽織っていったが、少し湿った状態だったから、かえって冷えたかもしれねぇ。
そういや、今夜はニュースでこの冬一番の冷え込みとか何とか言ってたっけか。
いっそ、一、二杯飲んで軽く体を温めてから寝直すかと思ったが、生憎、今日はブラッドが泊まってる。
このタイミングで飲んだら酒の匂いは絶対残るから、朝一番に小言スイッチが入るのは間違いねぇ。
かと言って、起きてる時ならまだしも、寝てる間にエアコンをつけておくのも躊躇う。
ま、ベッドに入ってりゃそのうち温まるだろと、大人しくベッドに戻って、さっさとバスローブを脱いで、ブラッドの隣に滑り込んだ。
ちょっとだけ体温をお裾分けして貰おうと、ヤツの臑に軽く爪先をくっつけたら、びく、とブラッドが身動いで目を開けた。
「…………キース。冷たい」
「悪ぃ。ちょっとくっつくくらいなら起きねぇかなって思ったんだけど」
マジで起こすつもりはなかったから、ブラッドから少し離れようとしたが、ブラッドの足が、ベッドの中でオレの足を挟み込んだ。
冷たさからか、一瞬だけブラッドが眉を顰めたが、足を離そうとはしない。
「…………温まるつもりなら、もう少し身を寄せろ」
「いや、お前が冷えるだろ」
「触れていれば、数分もしないうちに暖かくなる。ほら、手も寄越せ」
「あ、おい、ブラッド」
ブラッドがさっさとオレの手を探って、掴んだ手を自分の太股に触れさせた。
手も足と変わんねぇくらいに冷えてんのに、今度は眉一つ動かさない。
ここまでされたら、もう全身でくっついても変わんねぇかと、体ごとブラッドに近寄って、くっついた。
冷えていた部分がブラッドの体温でじわじわと温かくなっていくのがわかる。
ブラッドの言った通り、数分もしないうちにオレの体も温まっていった。
「あー……あったけぇ……」
「……少し、煙草の本数を減らしたらどうだ。昔よりお前の手足が冷えやすくなったのは、煙草のせいもあると思うが」
「あー……わかってんだけどなぁ……」
確かに煙草が一因だろうが、こうやって手足が冷えるのは今みたいな真冬くらいで、他の季節だとそんなに冷えることもねぇから、減らすってことに気が乗らねぇ。
「…………まぁ、少し言って減るくらいなら、とっくに本数など減っているか」
軽く溜め息を吐いたブラッドが目を閉じて、太股に触れさせていたオレの手に自分の手を重ねる。
体が温まったから、もうブラッドの手から伝わる体温と、オレの手の体温の差はほとんど感じられない。
オレの指の形でも確かめるかのように動いているブラッドの指の動きが、妙に気になる。
「…………怒んねぇの?」
「何だ、怒られたいのか?」
「そういうわけでもねぇけどさ」
ブラッドにしちゃ、やけにあっさり引き下がったように思えたのが気になる。
それが伝わったのか、ブラッドが微かに口元に笑みを浮かべた。
「お前の手足が冷えるのは今時期くらいだからな。これが一年中なら、どうにかして減らすことも考えるが、お前を温めるのが俺の特権だと思えば悪くはない」
「…………煽んなよ。そんなこと言われたら、もっと温まりたくなっちまうだろ」
温まるを通り越して、熱くなってしまう方法だってある。
つい、さっきだってそれを実践したところだ。
けど、これは……もしかしたら誘われてる?
そう考えると、絡めるように動いているブラッドの指にも納得がいく。
ブラッドの動いている指を捕まえて、指先を辿らせ、手のひらを擽るように動かすと、ブラッドが再び目を開けて、鮮やかなネオンピンクが挑発するように光った気がした。
「構わない、と言ったらどうする?」
「そりゃ……据え膳食わねぇ趣味はねぇからな。お前の中でもう一回温めさせて貰うけど」
何を、とまでは言わずに腰を擦り付けると、下着越しにもブラッドも反応しているのが伝わる。
やっぱり酒は飲まないでおいて正解だったと思いながら、サイコキネシスでエアコンのスイッチを入れ、キスを待ち構えて目を閉じたブラッドに口付けた。
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#キスブラ #ワンライ
キスブラ版ワンドロライ第8回でのお題から『ぬいぐるみ』を使って書いた話です。
ルーキー時代のキスブラ。ジェイやディノもちょっと出て来ます。
「ヒーローをデフォルメしたぬいぐるみ?」
第10期生ルーキーとして【HELIOS】に入所してから、早数ヶ月。
日々の仕事にも共同生活にも慣れてきた、ある日の夕食後にジェイがそんな話を切り出した。
「そう。ブロマイドやポスターの撮影を少し前にしたかと思うが、今度新たに商品を展開するってことで、子どもを主に対象として各ヒーローのぬいぐるみを作ることになったらしい」
「えええ……そんないい大人をぬいぐるみにしたヤツとか欲しがるもんかぁ?」
「デフォルメの仕方によっては結構人気あったりするみたいだよ。アイドルやアーティストでも出てたりするのあるよね、キースは見たことない?」
「興味ねぇから、知らねぇよ」
入所時にヒーローを使って作成するグッズに関しては、全て商品開発部に一任するという誓約書にサインしてある。
ヒーローとしての仕事の一つだ。
今更それに異議を唱えるつもりもないが、ぬいぐるみが作られようとは予想していなかった。
「何のグッズであろうと問題ない。どんなものに仕上がるかは興味があるが」
「それが、商品開発部の話ではもう試作品は出来ているようでな。そろそろジャックが持ってきてくれるはず……お」
「失礼シマス。商品開発部からぬいぐるみの試作品を持ってきマシタ」
ちょうど、そのタイミングでジャックがぬいぐるみの試作品が入ったカートを引き摺って持ってきた。
が、ぬいぐるみの大きさが予想していたよりも大きく、全員が恐らく同じ理由から一瞬言葉を失った。
「デ……デカくねぇ?」
「俺もクレーンゲームとかでよくあるような大きさだと思ってた……」
「ふむ……小さな子どもくらいの大きさがありそうだな」
カートの中から自分がデフォルメされたと思しきぬいぐるみを取り、持ってみた。
俺がアカデミーに入学する頃のフェイスがこのくらいの大きさだったような気がする。
勿論、ぬいぐるみだからフェイスよりもずっと軽いが。
「ジャック。この試作品はこのまま俺たちが貰うってことで合っているか?」
「ハイ。何か訂正して欲しいところがアレバ、商品開発部にメールを送ってクダサイ。十日後までにメールがなけレバ、問題ないという形で処理サレマス」
「えー、別にいらねぇんだけど。自分のぬいぐるみとかあってもなぁ。こんだけ大きいと置き場にも困るし」
キースがぼやきながら自分のぬいぐるみの頭をポンポンと叩く。
置き場に困るというのはわからなくもない。少なくとも、この研修チーム部屋に置くにはスペースに余裕がないように思える。
「俺はこれ、おじいちゃんとおばあちゃんのところに送ろうっと。俺の代わりだと思ってって言えばきっと喜んでくれるし! ちょっと実家に電話してくる!」
ディノがスマホを手に部屋を出ると、ジェイもぬいぐるみをソファに置いて軽くその頭を叩いた。
「ふむ。家に置けば、息子のおもちゃになってくれるだろう。俺も家に連絡してこよう」
研修チーム部屋は共同生活を送る場ということもあって、各自プライベートな電話をするときは、タワー内の談話スペースの一角を使うことになっている。
あっという間に、部屋の中には俺とキースが残された。
俺も近いうちに実家にこれを送ろうと考えていると、キースが溜め息を吐く。
「いや……マジでこれいらねぇんだけど。とはいえ、発売前の試作品は処分したらさすがにまずい……よなぁ。いや、細かくバラしたらわかんねぇか?」
キースが自分のぬいぐるみを抱きかかえながらそんなことを言うが、細かくバラすというのを想像すると、どうにもいたたまれなくなり、気付けばキースの腕からそのぬいぐるみを取り上げていた。
「ブラッド?」
「そんなことをするぐらいなら、俺がこれを譲り受けよう。いらないというぐらいだ、構わんな?」
「いいけど……マジでいるか? それ?」
「……試作品にしては、お前の特徴をよく捉えている。デフォルメも悪くない」
それに素材がいいのか、抱き心地も良い。
ぬいぐるみの頭を撫でると、キースが複雑そうな表情を見せた。
「お前がいいなら、いいけどさ。……でも、それをこの部屋に置かれるとなんか恥ずかしいから、お前もどっか他のとこに送ってくれよ」
「何だ、妬いてるのか?」
「そうじゃねぇよ。恥ずかしいっつっただろ。…………何で…………だよ」
「? 今、何と言った?」
キースの言葉がよく聞こえなかったから聞き返したが、キースは何でもねぇよと話を打ち切る。
耳が赤くなっていたことには言及しないでおくかわりに、腕の中のぬいぐるみを少し強めに抱きしめた。
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#キスブラ #ワンライ
ルーキー時代のキスブラ。ジェイやディノもちょっと出て来ます。
「ヒーローをデフォルメしたぬいぐるみ?」
第10期生ルーキーとして【HELIOS】に入所してから、早数ヶ月。
日々の仕事にも共同生活にも慣れてきた、ある日の夕食後にジェイがそんな話を切り出した。
「そう。ブロマイドやポスターの撮影を少し前にしたかと思うが、今度新たに商品を展開するってことで、子どもを主に対象として各ヒーローのぬいぐるみを作ることになったらしい」
「えええ……そんないい大人をぬいぐるみにしたヤツとか欲しがるもんかぁ?」
「デフォルメの仕方によっては結構人気あったりするみたいだよ。アイドルやアーティストでも出てたりするのあるよね、キースは見たことない?」
「興味ねぇから、知らねぇよ」
入所時にヒーローを使って作成するグッズに関しては、全て商品開発部に一任するという誓約書にサインしてある。
ヒーローとしての仕事の一つだ。
今更それに異議を唱えるつもりもないが、ぬいぐるみが作られようとは予想していなかった。
「何のグッズであろうと問題ない。どんなものに仕上がるかは興味があるが」
「それが、商品開発部の話ではもう試作品は出来ているようでな。そろそろジャックが持ってきてくれるはず……お」
「失礼シマス。商品開発部からぬいぐるみの試作品を持ってきマシタ」
ちょうど、そのタイミングでジャックがぬいぐるみの試作品が入ったカートを引き摺って持ってきた。
が、ぬいぐるみの大きさが予想していたよりも大きく、全員が恐らく同じ理由から一瞬言葉を失った。
「デ……デカくねぇ?」
「俺もクレーンゲームとかでよくあるような大きさだと思ってた……」
「ふむ……小さな子どもくらいの大きさがありそうだな」
カートの中から自分がデフォルメされたと思しきぬいぐるみを取り、持ってみた。
俺がアカデミーに入学する頃のフェイスがこのくらいの大きさだったような気がする。
勿論、ぬいぐるみだからフェイスよりもずっと軽いが。
「ジャック。この試作品はこのまま俺たちが貰うってことで合っているか?」
「ハイ。何か訂正して欲しいところがアレバ、商品開発部にメールを送ってクダサイ。十日後までにメールがなけレバ、問題ないという形で処理サレマス」
「えー、別にいらねぇんだけど。自分のぬいぐるみとかあってもなぁ。こんだけ大きいと置き場にも困るし」
キースがぼやきながら自分のぬいぐるみの頭をポンポンと叩く。
置き場に困るというのはわからなくもない。少なくとも、この研修チーム部屋に置くにはスペースに余裕がないように思える。
「俺はこれ、おじいちゃんとおばあちゃんのところに送ろうっと。俺の代わりだと思ってって言えばきっと喜んでくれるし! ちょっと実家に電話してくる!」
ディノがスマホを手に部屋を出ると、ジェイもぬいぐるみをソファに置いて軽くその頭を叩いた。
「ふむ。家に置けば、息子のおもちゃになってくれるだろう。俺も家に連絡してこよう」
研修チーム部屋は共同生活を送る場ということもあって、各自プライベートな電話をするときは、タワー内の談話スペースの一角を使うことになっている。
あっという間に、部屋の中には俺とキースが残された。
俺も近いうちに実家にこれを送ろうと考えていると、キースが溜め息を吐く。
「いや……マジでこれいらねぇんだけど。とはいえ、発売前の試作品は処分したらさすがにまずい……よなぁ。いや、細かくバラしたらわかんねぇか?」
キースが自分のぬいぐるみを抱きかかえながらそんなことを言うが、細かくバラすというのを想像すると、どうにもいたたまれなくなり、気付けばキースの腕からそのぬいぐるみを取り上げていた。
「ブラッド?」
「そんなことをするぐらいなら、俺がこれを譲り受けよう。いらないというぐらいだ、構わんな?」
「いいけど……マジでいるか? それ?」
「……試作品にしては、お前の特徴をよく捉えている。デフォルメも悪くない」
それに素材がいいのか、抱き心地も良い。
ぬいぐるみの頭を撫でると、キースが複雑そうな表情を見せた。
「お前がいいなら、いいけどさ。……でも、それをこの部屋に置かれるとなんか恥ずかしいから、お前もどっか他のとこに送ってくれよ」
「何だ、妬いてるのか?」
「そうじゃねぇよ。恥ずかしいっつっただろ。…………何で…………だよ」
「? 今、何と言った?」
キースの言葉がよく聞こえなかったから聞き返したが、キースは何でもねぇよと話を打ち切る。
耳が赤くなっていたことには言及しないでおくかわりに、腕の中のぬいぐるみを少し強めに抱きしめた。
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#キスブラ #ワンライ
キスブラ版ワンドロライ第7回でのお題から『食事』『クリスマス』『愛情』を使って書いた話(修正版)です。
※数年後の時間軸で、既に二人とも研修チームのメンターではない&キスブラが一緒に住んでるというのを想定の下に書いてます。
【Brad's Side】
「お、【クリスマス・リーグ】の結果出たみたいだぜ」
キースの言葉に顔を上げれば、街中にある大型ビジョンでは見慣れた光景と、ノースセクターの研修チームメンバーが映し出されていた。
なるほど、今年の勝者はノースセクターか。
「ああ、もうそんな時間か。……ふむ。もう少ししたら、パトロールを終了しても良さそうだな」
「ま、ここらに限らず、今日はどこの地区も異常なさそうだしな。街が平和で何よりっと」
クリスマスとなると、研修チームは毎年恒例の【クリスマス・リーグ】に参戦しているから、その間のパトロールは俺たちのように研修チームに所属していないヒーローの仕事となる。
特にメジャーヒーローともなれば、その実力を買われ、通常よりも少ない人数で組んでパトロールすることも多い。
今日、俺とキースが組む形でこの地区のパトロールに当たっているのもそれを考慮してのことだろう。
他に意図があっての人選ではないはずだ。……多分。
「せっかくのクリスマスなのに、仕事ってのも味気ねぇよなぁ」
「俺たちがヒーローになってから十年以上経つが、休みだったクリスマスなど一度だってあったか?」
「いや、ねぇけどさ。気分の問題だよ」
――クリスマスなぁ……。一回か二回は祝ったことあったけど、ホントに小せぇ頃だわ。母親が家出て行く前だからなぁ。ああ、でもクリスマスに教会行くと食い物貰えたのは有り難かったから、アカデミー入学前はそれで教会行ったりしてたな。
――だから、クリスマスが楽しかった記憶なんて0とまではいかなくても、ほとんどねぇわ。思い入れもねぇよ。
かつては遠い目でそんなことを口にしていた男が、クリスマスに仕事が入っていることをぼやけるようになった境遇の変化を喜ぶべきだろう。
少なくとも、今のキースはクリスマスの楽しみ方を知っている。
クリスマスを楽しいものだと認識しているからこそのぼやきだ。
「仕事が終わって、家に帰ったら、数時間はクリスマス気分を味わえるだろうに」
「そうだけどさ。あ…………こりゃ、雪降ってきたか?」
「雪だと?」
日が傾いて暗くなり始めた空を見上げたら、ややあって、雪が舞い落ちる様が確認出来た。
勢いは弱く、積もるほどではなさそうだが、このまま深夜まで降り続けば、薄ら街が白く染まるくらいにはなるだろうか。
「ホワイトクリスマスだな」
「今夜は雪見酒か。悪くねぇな。例のワイン、帰ったら開けるんだよな?」
例のワインとは、少し前に取り寄せた俺たちの生まれ年のワインだ。
一緒に住むようになった記念も兼ねて、二人で今回のクリスマス用にと購入してみた。
キースは甘い物を好まないから、甘口だというそのワインを購入するか少し迷ったが、今が飲み頃と表記されていたことや、キースも興味があると言ったことで購入に踏み切った。
「ああ。甘口のようだから、お前の口にはもしかしたら合わないかもしれんが」
「でも、お前は好きだろ。どうしても合わなきゃ、日本酒の方でも開ける」
「一応、そっちは新年用にするつもりだったが……うん? 司令部からの通信だな、ちょっと待て」
「げっ、何か起きたか?」
司令からの通信が入って、キースとの会話を一度切る。
何か異常でも発生したのかと思ったが、そうではなく、パトロールが終了次第、タワーに寄らずそのまま帰宅しても構わないとの連絡だった。
特に何かがあったわけではなかったことにほっとする。
「……キース。パトロールの報告書を提出するのは明日でいいそうだ。今日はこのまま帰宅して構わんと」
「マジか。司令いいとこあんな。じゃ、ちょっとディナーの準備する手間を考えても、いつもの時間には家で飯が食えるってことか」
「そうなる。真っ直ぐ帰るが構わんな?」
「おう。どうせ、大体の店もう閉まってんだし。ローストビーフ、どんな風に出来てるか楽しみだな」
「ああ」
日本の調味料を使ってローストビーフを作りたいと言ったのは俺だ。
評判の良さそうなレシピだったし、手順通りに昨夜仕込んだから問題はないと思うが。
あとは、予め作って冷凍してあるキッシュを温め、サラダを作ってそれに合わせれば今夜のディナーは完成だ。
以前はホテルでクリスマスディナーというのもやったことはあるが、キースがあまり好まないのと、どうしても人目につくところだと、市民への対応をすることもあり、落ち着かないからと、家で二人きりのディナーを楽しむようになった。
この場所からなら、俺たちの住んでいる家までは歩いて数分。
タワーには今朝の出勤時に使った俺の車を置いたままだが、家にはキースの方の車もあるから、明日出勤するにもさしあたって問題はない。
何となく足早になりながら、キースと並んで家への道を歩いていると、不意にキースが口を開いた。
「今日のパトロールさ、この組み合わせでこの場所って、配慮されたってやつなのかね」
「…………かもしれんな」
俺たちが一緒に暮らしているのは、知っている者も多い。
司令は当然知っている者の一人だ。
もしかしたら、クリスマスだからとキースの言うように配慮してくれたのかもしれない。
だとしたら、粋なクリスマスプレゼントだ。
後日、少しばかり礼の品でも贈っておくかと思いながら、キースと肩が触れ合いそうになる距離まで近付き、家への道を歩いて行った。
【Keith's Side】
「お、【クリスマス・リーグ】の結果出たみたいだぜ」
パトロールの最中、目に付いた大型ビジョンではノースセクターの研修チームのルーキーがガッツポーズをして、マリオンに窘められているところが映っていた。
が、そのマリオンも嬉しそうな目をしてるのはモニター越しでも伝わる。
アイツも何だかんだこの数年ですっかりメンターらしくなったよなぁ。
でもって、あからさまに喜びはしねぇで表向きはこれが当然って装うあたり、やっぱり元メンターであるブラッドにちょっと似てる。
口にした日にゃ、二人から揃って睨まれそうだけど。
「ああ、もうそんな時間か。……ふむ。もう少ししたら、パトロールを終了しても良さそうだな」
「ま、ここらに限らず、今日はどこの地区も異常なさそうだしな。街が平和で何よりっと」
研修チームは【クリスマス・リーグ】に参戦となると、当然パトロールはそれ以外のメンツでやることになる。
どうしてもその分人数が少なくなるから、メジャーヒーローなんかはそれこそ二人で組んで、パトロールするって形だが、今オレとブラッドでパトロールしてるこの地区は、オレたちの家からも比較的近い場所だ。
わざとなのかどうかわかんねぇが、普段は戦力の偏りを抑えるためにもメジャーヒーロー同士になるブラッドと一緒にパトロールすることは稀だし、ブラッドの小言さえなけりゃ一緒にパトロールするのは気も楽だからいいんだが、少し気になるところだ。
「せっかくのクリスマスなのに、仕事ってのも味気ねぇよなぁ」
「俺たちがヒーローになってから十年以上経つが、休みだったクリスマスなど一度だってあったか?」
「いや、ねぇけどさ。気分の問題だよ」
昔はクリスマスなんてもんに思い入れはなかった。
遠い昔、まだ母親が家を出る前に、一度だけ家族でクリスマスらしく祝ったことはあったが、その記憶が苦しくなるぐらいにはその後のクリスマスは散々なものだった。
母親がいなくなったことで、親父が不機嫌になったときの矛先が全部オレに向かうようになって以降、クリスマスはオレにとって、教会に行くと食い物が貰える日であり、街を歩く幸せそうな家族の気が緩んでいる隙を狙える『稼ぎ時』って認識だったのだ。
アカデミーに入って、ブラッドやディノと出会い、さらにはルーキーとして入所した後のジェイによって、クリスマスパーティーなんてもんを経験するまでは。
一緒に騒いで、時にプレゼントを贈り合ったりして、美味いもんを食って。
ヒーローになって以降、確かにブラッドの言ったようにクリスマスが一日休みだったことなんて一度だってない。
けど、それがどうでもよくなるくらいには、今はクリスマスのこのどこか優しい空気が嫌いじゃなかったし、大事なヤツと過ごせるクリスマスってもんに価値を見いだしている。
「仕事が終わって、家に帰ったら、数時間はクリスマス気分を味わえるだろうに」
「そうだけどさ。あ…………こりゃ、雪降ってきたか?」
「雪だと?」
微かな違和感に手を出したら、確かに冷たいものが指先に触れた。
やがて、誰の目にもわかるくらいにハッキリと降り始めた雪に、ブラッドが目元を綻ばせる。
「ホワイトクリスマスだな」
「今夜は雪見酒か。悪くねぇな。例のワイン、帰ったら開けるんだよな?」
少し前に、オレたちが生まれた年に出来たワインを見つけて、ブラッドがクリスマスの祝いに、そして一緒に住み始めた記念にと欲しがった結果、一緒に買ったワインだ。
オレはワインよりは断然ビールの方が好きだが、今がちょうど飲み頃だっていうし、ブラッドが酒に対しては珍しいくらいに興味を持っていたのが、妙に可愛かったり嬉しかったりしたもんだから、少し値段はしたけどそれを買うことにした。
そのまま飲んだ後はホットワインにして、ベランダで飲むのもいいかもしれねぇなんて思っていたら、ブラッドが頷きながらも少しだけ表情を曇らせている。
「ああ。甘口のようだから、お前の口にはもしかしたら合わないかもしれんが」
どうも、そこを気にしていたらしい。
確かに甘いのは得意じゃねぇけど、酒の時点で何でも楽しめるから気にしなくていいんだけどな。
「でも、お前は好きだろ。どうしても合わなきゃ、日本酒の方でも開ける」
実際、一緒に買った日本酒の方が味として楽しみなのが正直なところだ。
こっちこそ、こんな日には熱燗にして飲んでみたいってのはある。
「一応、そっちは新年用にするつもりだったが……うん? 司令部からの通信だな、ちょっと待て」
「げっ、何か起きたか?」
仕事なら仕方ねぇけど、平穏なクリスマスの予定が崩れるのは切ねぇな、なんて思っていたが、司令との話を終えたブラッドは口元に笑みを浮かべていた。
「……キース。パトロールの報告書を提出するのは明日でいいそうだ。今日はこのまま帰宅して構わんと」
「マジか。司令いいとこあんな。じゃ、ちょっとディナーの準備する手間を考えても、いつもの時間には家で飯が食えるってことか」
「そうなる。真っ直ぐ帰るが構わんな?」
「おう。どうせ、大体の店もう閉まってんだし。ローストビーフ、どんな風に出来てるか楽しみだな」
「ああ」
ブラッドが日本の調味料を使ったローストビーフが作りたいと言いだしたから、昨夜のうちに仕込んである。
前のオフの時に作って、冷凍しておいたキッシュも温めつつ、サラダを作りゃ立派なディナーの出来上がりだ。
どうも、慣れてねぇからホテルのディナーだと落ち着かねぇし、そもそもオレはともかく、ブラッドはかなりヒーローとして顔が知られているから、どうしても外で食うってなると人目につくのは避けられねぇんだよな。
何より、家でのディナーだと本当に二人きりで楽しめるというのが大きい。
一緒に住む前も仕事が終わった後に料理を持ち寄って、一緒に食ったりしてたけど、一緒に住むことで一から十まで、全部一緒に出来るっていうのがたまんねぇ。
ここからなら、家には数分で着く。
ブラッドの車はタワーに一晩置きっぱなしになるが、オレの車もあるし、明日帰りにそれぞれの車で帰って来りゃいいだけだ。
雪の降る中をブラッドと一緒に歩きながら、つい気になっていたことを口にする。
「今日のパトロールさ、この組み合わせでこの場所って、配慮されたってやつなのかね」
「…………かもしれんな」
勿論、イクリプスが出現したら仕事が優先だが、今日のようにパトロール中に何もなければ、終わった後は二人揃ってそのまま家に帰れる。しかもクリスマスの夜に――なんてのは何も考えずに手配した結果だとは考えにくい。
ブラッドとは長い付き合いだし、今更って思わなくもねぇが、それでも心の中がなんとなく温かくなる。
ほんの少し、体を寄せて来たブラッドの腰に手の一つでも回したくなるが、家に着くまでは我慢だ。
いくらクリスマスの夜でも、本当にやったら小言スイッチが入るのは間違いない。
腰に手を回すのも、抱きしめるのも、キスをするのも、家にさえ着いちまえば、いくらだって出来る。
今日が終わるまでの数時間、ブラッドとのクリスマスを楽しむ想像をしながら、家への道を歩いて行った。
Close
#キスブラ #ワンライ
※数年後の時間軸で、既に二人とも研修チームのメンターではない&キスブラが一緒に住んでるというのを想定の下に書いてます。
【Brad's Side】
「お、【クリスマス・リーグ】の結果出たみたいだぜ」
キースの言葉に顔を上げれば、街中にある大型ビジョンでは見慣れた光景と、ノースセクターの研修チームメンバーが映し出されていた。
なるほど、今年の勝者はノースセクターか。
「ああ、もうそんな時間か。……ふむ。もう少ししたら、パトロールを終了しても良さそうだな」
「ま、ここらに限らず、今日はどこの地区も異常なさそうだしな。街が平和で何よりっと」
クリスマスとなると、研修チームは毎年恒例の【クリスマス・リーグ】に参戦しているから、その間のパトロールは俺たちのように研修チームに所属していないヒーローの仕事となる。
特にメジャーヒーローともなれば、その実力を買われ、通常よりも少ない人数で組んでパトロールすることも多い。
今日、俺とキースが組む形でこの地区のパトロールに当たっているのもそれを考慮してのことだろう。
他に意図があっての人選ではないはずだ。……多分。
「せっかくのクリスマスなのに、仕事ってのも味気ねぇよなぁ」
「俺たちがヒーローになってから十年以上経つが、休みだったクリスマスなど一度だってあったか?」
「いや、ねぇけどさ。気分の問題だよ」
――クリスマスなぁ……。一回か二回は祝ったことあったけど、ホントに小せぇ頃だわ。母親が家出て行く前だからなぁ。ああ、でもクリスマスに教会行くと食い物貰えたのは有り難かったから、アカデミー入学前はそれで教会行ったりしてたな。
――だから、クリスマスが楽しかった記憶なんて0とまではいかなくても、ほとんどねぇわ。思い入れもねぇよ。
かつては遠い目でそんなことを口にしていた男が、クリスマスに仕事が入っていることをぼやけるようになった境遇の変化を喜ぶべきだろう。
少なくとも、今のキースはクリスマスの楽しみ方を知っている。
クリスマスを楽しいものだと認識しているからこそのぼやきだ。
「仕事が終わって、家に帰ったら、数時間はクリスマス気分を味わえるだろうに」
「そうだけどさ。あ…………こりゃ、雪降ってきたか?」
「雪だと?」
日が傾いて暗くなり始めた空を見上げたら、ややあって、雪が舞い落ちる様が確認出来た。
勢いは弱く、積もるほどではなさそうだが、このまま深夜まで降り続けば、薄ら街が白く染まるくらいにはなるだろうか。
「ホワイトクリスマスだな」
「今夜は雪見酒か。悪くねぇな。例のワイン、帰ったら開けるんだよな?」
例のワインとは、少し前に取り寄せた俺たちの生まれ年のワインだ。
一緒に住むようになった記念も兼ねて、二人で今回のクリスマス用にと購入してみた。
キースは甘い物を好まないから、甘口だというそのワインを購入するか少し迷ったが、今が飲み頃と表記されていたことや、キースも興味があると言ったことで購入に踏み切った。
「ああ。甘口のようだから、お前の口にはもしかしたら合わないかもしれんが」
「でも、お前は好きだろ。どうしても合わなきゃ、日本酒の方でも開ける」
「一応、そっちは新年用にするつもりだったが……うん? 司令部からの通信だな、ちょっと待て」
「げっ、何か起きたか?」
司令からの通信が入って、キースとの会話を一度切る。
何か異常でも発生したのかと思ったが、そうではなく、パトロールが終了次第、タワーに寄らずそのまま帰宅しても構わないとの連絡だった。
特に何かがあったわけではなかったことにほっとする。
「……キース。パトロールの報告書を提出するのは明日でいいそうだ。今日はこのまま帰宅して構わんと」
「マジか。司令いいとこあんな。じゃ、ちょっとディナーの準備する手間を考えても、いつもの時間には家で飯が食えるってことか」
「そうなる。真っ直ぐ帰るが構わんな?」
「おう。どうせ、大体の店もう閉まってんだし。ローストビーフ、どんな風に出来てるか楽しみだな」
「ああ」
日本の調味料を使ってローストビーフを作りたいと言ったのは俺だ。
評判の良さそうなレシピだったし、手順通りに昨夜仕込んだから問題はないと思うが。
あとは、予め作って冷凍してあるキッシュを温め、サラダを作ってそれに合わせれば今夜のディナーは完成だ。
以前はホテルでクリスマスディナーというのもやったことはあるが、キースがあまり好まないのと、どうしても人目につくところだと、市民への対応をすることもあり、落ち着かないからと、家で二人きりのディナーを楽しむようになった。
この場所からなら、俺たちの住んでいる家までは歩いて数分。
タワーには今朝の出勤時に使った俺の車を置いたままだが、家にはキースの方の車もあるから、明日出勤するにもさしあたって問題はない。
何となく足早になりながら、キースと並んで家への道を歩いていると、不意にキースが口を開いた。
「今日のパトロールさ、この組み合わせでこの場所って、配慮されたってやつなのかね」
「…………かもしれんな」
俺たちが一緒に暮らしているのは、知っている者も多い。
司令は当然知っている者の一人だ。
もしかしたら、クリスマスだからとキースの言うように配慮してくれたのかもしれない。
だとしたら、粋なクリスマスプレゼントだ。
後日、少しばかり礼の品でも贈っておくかと思いながら、キースと肩が触れ合いそうになる距離まで近付き、家への道を歩いて行った。
【Keith's Side】
「お、【クリスマス・リーグ】の結果出たみたいだぜ」
パトロールの最中、目に付いた大型ビジョンではノースセクターの研修チームのルーキーがガッツポーズをして、マリオンに窘められているところが映っていた。
が、そのマリオンも嬉しそうな目をしてるのはモニター越しでも伝わる。
アイツも何だかんだこの数年ですっかりメンターらしくなったよなぁ。
でもって、あからさまに喜びはしねぇで表向きはこれが当然って装うあたり、やっぱり元メンターであるブラッドにちょっと似てる。
口にした日にゃ、二人から揃って睨まれそうだけど。
「ああ、もうそんな時間か。……ふむ。もう少ししたら、パトロールを終了しても良さそうだな」
「ま、ここらに限らず、今日はどこの地区も異常なさそうだしな。街が平和で何よりっと」
研修チームは【クリスマス・リーグ】に参戦となると、当然パトロールはそれ以外のメンツでやることになる。
どうしてもその分人数が少なくなるから、メジャーヒーローなんかはそれこそ二人で組んで、パトロールするって形だが、今オレとブラッドでパトロールしてるこの地区は、オレたちの家からも比較的近い場所だ。
わざとなのかどうかわかんねぇが、普段は戦力の偏りを抑えるためにもメジャーヒーロー同士になるブラッドと一緒にパトロールすることは稀だし、ブラッドの小言さえなけりゃ一緒にパトロールするのは気も楽だからいいんだが、少し気になるところだ。
「せっかくのクリスマスなのに、仕事ってのも味気ねぇよなぁ」
「俺たちがヒーローになってから十年以上経つが、休みだったクリスマスなど一度だってあったか?」
「いや、ねぇけどさ。気分の問題だよ」
昔はクリスマスなんてもんに思い入れはなかった。
遠い昔、まだ母親が家を出る前に、一度だけ家族でクリスマスらしく祝ったことはあったが、その記憶が苦しくなるぐらいにはその後のクリスマスは散々なものだった。
母親がいなくなったことで、親父が不機嫌になったときの矛先が全部オレに向かうようになって以降、クリスマスはオレにとって、教会に行くと食い物が貰える日であり、街を歩く幸せそうな家族の気が緩んでいる隙を狙える『稼ぎ時』って認識だったのだ。
アカデミーに入って、ブラッドやディノと出会い、さらにはルーキーとして入所した後のジェイによって、クリスマスパーティーなんてもんを経験するまでは。
一緒に騒いで、時にプレゼントを贈り合ったりして、美味いもんを食って。
ヒーローになって以降、確かにブラッドの言ったようにクリスマスが一日休みだったことなんて一度だってない。
けど、それがどうでもよくなるくらいには、今はクリスマスのこのどこか優しい空気が嫌いじゃなかったし、大事なヤツと過ごせるクリスマスってもんに価値を見いだしている。
「仕事が終わって、家に帰ったら、数時間はクリスマス気分を味わえるだろうに」
「そうだけどさ。あ…………こりゃ、雪降ってきたか?」
「雪だと?」
微かな違和感に手を出したら、確かに冷たいものが指先に触れた。
やがて、誰の目にもわかるくらいにハッキリと降り始めた雪に、ブラッドが目元を綻ばせる。
「ホワイトクリスマスだな」
「今夜は雪見酒か。悪くねぇな。例のワイン、帰ったら開けるんだよな?」
少し前に、オレたちが生まれた年に出来たワインを見つけて、ブラッドがクリスマスの祝いに、そして一緒に住み始めた記念にと欲しがった結果、一緒に買ったワインだ。
オレはワインよりは断然ビールの方が好きだが、今がちょうど飲み頃だっていうし、ブラッドが酒に対しては珍しいくらいに興味を持っていたのが、妙に可愛かったり嬉しかったりしたもんだから、少し値段はしたけどそれを買うことにした。
そのまま飲んだ後はホットワインにして、ベランダで飲むのもいいかもしれねぇなんて思っていたら、ブラッドが頷きながらも少しだけ表情を曇らせている。
「ああ。甘口のようだから、お前の口にはもしかしたら合わないかもしれんが」
どうも、そこを気にしていたらしい。
確かに甘いのは得意じゃねぇけど、酒の時点で何でも楽しめるから気にしなくていいんだけどな。
「でも、お前は好きだろ。どうしても合わなきゃ、日本酒の方でも開ける」
実際、一緒に買った日本酒の方が味として楽しみなのが正直なところだ。
こっちこそ、こんな日には熱燗にして飲んでみたいってのはある。
「一応、そっちは新年用にするつもりだったが……うん? 司令部からの通信だな、ちょっと待て」
「げっ、何か起きたか?」
仕事なら仕方ねぇけど、平穏なクリスマスの予定が崩れるのは切ねぇな、なんて思っていたが、司令との話を終えたブラッドは口元に笑みを浮かべていた。
「……キース。パトロールの報告書を提出するのは明日でいいそうだ。今日はこのまま帰宅して構わんと」
「マジか。司令いいとこあんな。じゃ、ちょっとディナーの準備する手間を考えても、いつもの時間には家で飯が食えるってことか」
「そうなる。真っ直ぐ帰るが構わんな?」
「おう。どうせ、大体の店もう閉まってんだし。ローストビーフ、どんな風に出来てるか楽しみだな」
「ああ」
ブラッドが日本の調味料を使ったローストビーフが作りたいと言いだしたから、昨夜のうちに仕込んである。
前のオフの時に作って、冷凍しておいたキッシュも温めつつ、サラダを作りゃ立派なディナーの出来上がりだ。
どうも、慣れてねぇからホテルのディナーだと落ち着かねぇし、そもそもオレはともかく、ブラッドはかなりヒーローとして顔が知られているから、どうしても外で食うってなると人目につくのは避けられねぇんだよな。
何より、家でのディナーだと本当に二人きりで楽しめるというのが大きい。
一緒に住む前も仕事が終わった後に料理を持ち寄って、一緒に食ったりしてたけど、一緒に住むことで一から十まで、全部一緒に出来るっていうのがたまんねぇ。
ここからなら、家には数分で着く。
ブラッドの車はタワーに一晩置きっぱなしになるが、オレの車もあるし、明日帰りにそれぞれの車で帰って来りゃいいだけだ。
雪の降る中をブラッドと一緒に歩きながら、つい気になっていたことを口にする。
「今日のパトロールさ、この組み合わせでこの場所って、配慮されたってやつなのかね」
「…………かもしれんな」
勿論、イクリプスが出現したら仕事が優先だが、今日のようにパトロール中に何もなければ、終わった後は二人揃ってそのまま家に帰れる。しかもクリスマスの夜に――なんてのは何も考えずに手配した結果だとは考えにくい。
ブラッドとは長い付き合いだし、今更って思わなくもねぇが、それでも心の中がなんとなく温かくなる。
ほんの少し、体を寄せて来たブラッドの腰に手の一つでも回したくなるが、家に着くまでは我慢だ。
いくらクリスマスの夜でも、本当にやったら小言スイッチが入るのは間違いない。
腰に手を回すのも、抱きしめるのも、キスをするのも、家にさえ着いちまえば、いくらだって出来る。
今日が終わるまでの数時間、ブラッドとのクリスマスを楽しむ想像をしながら、家への道を歩いて行った。
Close
#キスブラ #ワンライ
キスブラ版ワンドロライ第7回でのお題から『食事』『クリスマス』『愛情』を使って書いた話です。
※数年後の時間軸で、既に二人とも研修チームのメンターではない&キスブラが一緒に住んでるというのを想定の下に書いてます。
修正版はこちらです。
※pixivに纏める際に消します。
「お、【クリスマス・リーグ】の結果出たみたいだぜ」
街中にある大型ビジョンでは見慣れた光景と、ノースセクターの研修チームメンバーが映し出されていた。
なるほど、今年の勝者はノースセクターか。
「ああ、もうそんな時間か。……ふむ。もう少ししたら、パトロールを終了しても良さそうだな」
「ま、ここらに限らず、どこの地区も異常なさそうだしな。平和で何よりっと」
クリスマスとなると、研修チームは毎年恒例の【クリスマス・リーグ】に参戦しているから、その間のパトロールは俺たちのように研修チームに所属していないヒーローの仕事となる。
特にメジャーヒーローともなれば、その実力を買われ、通常よりも少ない人数でパトロールすることも多い。
今日、俺とキースが組む形でこの地区のパトロールに当たっているのもそれを考慮してのことだろう。
他に意図があっての人選ではないはずだ。……多分。
「せっかくのクリスマスなのに、仕事ってのも味気ねぇよなぁ」
「俺たちがヒーローになってから、休みだったクリスマスなど一度だってあったか?」
「いや、ねぇけどさ。気分の問題だよ」
――クリスマスなぁ……。一回か二回は祝ったことあったけど、ホントに小せぇ頃だわ。母親が家出て行く前だからなぁ。ああ、でもクリスマスに教会行くと食い物貰えたのは有り難かったから、アカデミー入学前はそれで教会行ったりしてたな。
――だから、クリスマスが楽しかった記憶なんて0とまではいかなくても、ほとんどねぇわ。思い入れもねぇよ。
かつてはそんなことを口にしていた男が、クリスマスに仕事が入っていることをぼやけるようになった境遇の変化を喜ぶべきだろう。
少なくとも、今のキースはクリスマスの楽しみ方を知っている。
「仕事が終わって、家に帰ったら、数時間はクリスマス気分を味わえるだろうに」
「そうだけどさ。あ…………こりゃ、雪降ってきたか?」
「雪だと?」
日が傾いて暗くなり始めた空を見上げたら、ややあって、雪が舞い落ちる様が確認出来た。
勢いは弱く、積もるほどではなさそうだが、このまま深夜まで降り続けば、薄ら白くなるくらいにはなるだろうか。
「ホワイトクリスマスだな」
「雪見酒か。悪くねぇな。例のワイン、帰ったら開けるんだよな?」
「ああ。甘口のようだから、お前の口にはもしかしたら合わないかもしれんが」
「でも、お前は好きだろ。どうしても合わなきゃ、日本酒の方でも開ける」
「一応、そっちは新年用にするつもりだったが……うん? ちょっと待て」
司令からの通信が入って、キースとの会話を一度切る。
何か異常でも発生したかと思ったが、そうではなく、パトロールが終了次第、タワーに寄らずそのまま帰宅して構わないとの連絡だった。
「……キース。パトロールの報告書を提出するのは明日でいいそうだ。今日はこのまま帰宅して構わんと」
「マジか。司令いいとこあんな。じゃ、いつもの時間に家で飯が食えるってことか」
「そうなる。真っ直ぐ帰るが構わんな?」
「おう。どうせ、大体の店もう閉まってんだし。ローストビーフ、どんな風に出来てるか楽しみだな」
「ああ」
日本の調味料を使ってローストビーフを作りたいと言ったのは俺だ。
評判の良さそうなレシピだったし、手順通りに昨夜仕込んだから問題はないと思うが。
ここからなら、俺たちの住んでいる家までは歩いて数分。
何となく足早になりながら、キースと並んで家への道を歩いていると、不意にキースが口を開いた。
「今日のパトロールさ、この組み合わせでこの場所って、配慮されたってやつなのかな」
「…………かもしれんな」
俺たちが一緒に暮らしているのは、知っている者も多い。
司令は当然知っている。
もしかしたら、キースの言うように配慮してくれたのかもしれない。
後日、少しばかり礼の品でも贈っておくかと思いながら、キースと肩が触れ合いそうになる距離まで近付き、家への道を歩いて行った。
Close
#キスブラ #ワンライ
※数年後の時間軸で、既に二人とも研修チームのメンターではない&キスブラが一緒に住んでるというのを想定の下に書いてます。
修正版はこちらです。
※pixivに纏める際に消します。
「お、【クリスマス・リーグ】の結果出たみたいだぜ」
街中にある大型ビジョンでは見慣れた光景と、ノースセクターの研修チームメンバーが映し出されていた。
なるほど、今年の勝者はノースセクターか。
「ああ、もうそんな時間か。……ふむ。もう少ししたら、パトロールを終了しても良さそうだな」
「ま、ここらに限らず、どこの地区も異常なさそうだしな。平和で何よりっと」
クリスマスとなると、研修チームは毎年恒例の【クリスマス・リーグ】に参戦しているから、その間のパトロールは俺たちのように研修チームに所属していないヒーローの仕事となる。
特にメジャーヒーローともなれば、その実力を買われ、通常よりも少ない人数でパトロールすることも多い。
今日、俺とキースが組む形でこの地区のパトロールに当たっているのもそれを考慮してのことだろう。
他に意図があっての人選ではないはずだ。……多分。
「せっかくのクリスマスなのに、仕事ってのも味気ねぇよなぁ」
「俺たちがヒーローになってから、休みだったクリスマスなど一度だってあったか?」
「いや、ねぇけどさ。気分の問題だよ」
――クリスマスなぁ……。一回か二回は祝ったことあったけど、ホントに小せぇ頃だわ。母親が家出て行く前だからなぁ。ああ、でもクリスマスに教会行くと食い物貰えたのは有り難かったから、アカデミー入学前はそれで教会行ったりしてたな。
――だから、クリスマスが楽しかった記憶なんて0とまではいかなくても、ほとんどねぇわ。思い入れもねぇよ。
かつてはそんなことを口にしていた男が、クリスマスに仕事が入っていることをぼやけるようになった境遇の変化を喜ぶべきだろう。
少なくとも、今のキースはクリスマスの楽しみ方を知っている。
「仕事が終わって、家に帰ったら、数時間はクリスマス気分を味わえるだろうに」
「そうだけどさ。あ…………こりゃ、雪降ってきたか?」
「雪だと?」
日が傾いて暗くなり始めた空を見上げたら、ややあって、雪が舞い落ちる様が確認出来た。
勢いは弱く、積もるほどではなさそうだが、このまま深夜まで降り続けば、薄ら白くなるくらいにはなるだろうか。
「ホワイトクリスマスだな」
「雪見酒か。悪くねぇな。例のワイン、帰ったら開けるんだよな?」
「ああ。甘口のようだから、お前の口にはもしかしたら合わないかもしれんが」
「でも、お前は好きだろ。どうしても合わなきゃ、日本酒の方でも開ける」
「一応、そっちは新年用にするつもりだったが……うん? ちょっと待て」
司令からの通信が入って、キースとの会話を一度切る。
何か異常でも発生したかと思ったが、そうではなく、パトロールが終了次第、タワーに寄らずそのまま帰宅して構わないとの連絡だった。
「……キース。パトロールの報告書を提出するのは明日でいいそうだ。今日はこのまま帰宅して構わんと」
「マジか。司令いいとこあんな。じゃ、いつもの時間に家で飯が食えるってことか」
「そうなる。真っ直ぐ帰るが構わんな?」
「おう。どうせ、大体の店もう閉まってんだし。ローストビーフ、どんな風に出来てるか楽しみだな」
「ああ」
日本の調味料を使ってローストビーフを作りたいと言ったのは俺だ。
評判の良さそうなレシピだったし、手順通りに昨夜仕込んだから問題はないと思うが。
ここからなら、俺たちの住んでいる家までは歩いて数分。
何となく足早になりながら、キースと並んで家への道を歩いていると、不意にキースが口を開いた。
「今日のパトロールさ、この組み合わせでこの場所って、配慮されたってやつなのかな」
「…………かもしれんな」
俺たちが一緒に暮らしているのは、知っている者も多い。
司令は当然知っている。
もしかしたら、キースの言うように配慮してくれたのかもしれない。
後日、少しばかり礼の品でも贈っておくかと思いながら、キースと肩が触れ合いそうになる距離まで近付き、家への道を歩いて行った。
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#キスブラ #ワンライ
キスブラ版ワンドロライ第6回でのお題から『ハンテン』を使って書いた話です。
何か、ハンテンというよりこたつの話になったw
逆視点追加バージョンNovel にあります。
※pixivにも纏めたら、こことポイピクから削除します。
ブラッドが今日はオフだから、本来は昨日が締め切りだった報告書は明日提出すればいいか、なんて思っていたところ、当のブラッドからサウスの研修チーム部屋まで報告書を持ってこいって連絡が入った。
だったら、昼休みのタイミングで先に報告書を提出しとくかと、サウスの研修チーム部屋に行ったら、数日ここを訪れていなかった間に、見慣れない物が共有スペースの中央に置いてあった。
最初、低めのテーブルかと思ったが、脚があるはずの部分には布団が覆い被さっていて、見えないようになっている。
朧気に記憶に引っかかるが、名称が出て来ない。何ていうんだっけ、これ。
多分、ブラッドに教えて貰った日本の暖房器具だったと思うんだが――。
そう考えていたところで、キッチンの方にいたブラッドがオレのところまで来た。
「ああ、来たのか。ちょうど昼飯にポトフを作っていたところだが、お前も食っていくか?」
「お、食う食う。今日寒いから外出るの億劫だし、昼飯どうしようかと思ってたんだよな。こんな日だとタワー内にある店は絶対混むしさ。で、これ何だっけ? 前に教えて貰った気がするけど、名前出て来ねぇんだよな」
「『こたつ』だ。日本の暖房器具の」
「あ、それだ。お前が48手やってみたいとか言ったときに、日本人の小柄な体格ならともかく、オレたちの体格だと使っても試すのはキツそうだってなったやつな」
日本の性技書?に、48手っていうやつがあって、その中にこのこたつってのを使うのがあったんだよな。
こうして実際に見てみると、オレたちじゃ難しそうだってのは間違ってなかったなと思う。テーブルの脚の低さを考えると、オレたち二人分の足を入れて、かつ動くとなるとスペースに余裕がなさ過ぎる。
「……他に言うことはないのか。昼から出す話題でもないだろう」
「思い出しちまったんだから仕方ねぇだろ。他のヤツラもいねぇんだからそんくらい見逃してくれって。結局買ったのかよ」
「単純に暖房器具としてな。もう少しで出来るから、こたつに入って待ってろ。それと今のうちに報告書にミスがないか確認しておけ。寒ければ、そこに置いてあるハンテンを着るといい」
「ハンテン? これも日本のか?」
こたつのテーブルに乗っかっている、ぱっと見ちっちゃな布団っぽく見えるやつは着るものだったらしい。
「ああ。日本の室内での防寒着だ。アキラに教わって取り寄せた物をオスカーにもやったが、以来この部屋にいる時はずっと着ているな」
「あー、オスカー寒がりだもんなぁ。お、こりゃ確かに暖かいわ」
ハンテンってやつに袖を通し、靴を脱いで足をこたつの中につっこむと全身がポカポカと温まってくる。
「うわー、こりゃいいな……ここから出たくなくなりそうだ。お前、この状態で仕事していて嫌になんねぇ?」
テーブルの上には他にもブラッドが使っていただろうノートパソコンやタブレット、数枚の書類が置かれていて、昼飯作るまでは仕事してたんだろうってのは想像ついた。
「適度に温度の調節はしている。あと、俺が休みの日に仕事をしていた原因の一端は貴様にもあるのだが」
「おっと、悪ぃ。報告書にミスがないか確認、な」
下手に小言が続かねぇよう、報告書を取りだして内容をチェックする。大丈夫なはず、だ。多分。
「確認したぜ、大丈夫なはずだ。これ、ここの書類の上に乗っけて大丈夫か?」
「ああ。それでいい。ポトフが出来たから、自分の分は自分で持って……あ、こら」
多分自分用にブラッドが手にしていた、ポトフとパンの入った皿をサイコキネシスでここまで運び、ついでにもう1セット分もサイコキネシスで運んだ。
呆れた顔でブラッドがフォークとスプーンだけ二人分手にしてこっちに来る。
「軽率に能力を使うなと何度言えば」
「他のヤツがいない時くらいいいだろ。ほらほら冷めねぇうちに食おうぜ」
流石に熱々のポトフを食いながらだと暑くなりそうだと、ハンテンを脱いでこれまた能力でソファに置く。
「…………お前がこたつとハンテンを使うようになったら、その能力との合わせ技でろくにこたつから出て来なくなりそうだな」
「いやー、ちょっとこの温かさは魅力的だろ。自宅用に買うのはありかもな」
ウエストの研修チーム部屋でも勿論いいんだが、あえて自宅と口にした意味をブラッドが気付くかどうか。
表情に変化はなかったが、僅かな沈黙の後に発した言葉は心なしか弾んでいるように聞こえた。
「……もし、本当にお前が自宅に置くつもりなら、三分の二は俺が出してもいい」
「半分で十分だっての。じゃ、買うかー。こたつの脚が長めのやつな」
「探してみよう」
これは意味が伝わったな。次、オフが重なるのっていつだっけ。
それまでにこたつを調達出来るといいなと思いながら、熱々のポトフを堪能した。
Close
#キスブラ #ワンライ
何か、ハンテンというよりこたつの話になったw
逆視点追加バージョンNovel にあります。
※pixivにも纏めたら、こことポイピクから削除します。
ブラッドが今日はオフだから、本来は昨日が締め切りだった報告書は明日提出すればいいか、なんて思っていたところ、当のブラッドからサウスの研修チーム部屋まで報告書を持ってこいって連絡が入った。
だったら、昼休みのタイミングで先に報告書を提出しとくかと、サウスの研修チーム部屋に行ったら、数日ここを訪れていなかった間に、見慣れない物が共有スペースの中央に置いてあった。
最初、低めのテーブルかと思ったが、脚があるはずの部分には布団が覆い被さっていて、見えないようになっている。
朧気に記憶に引っかかるが、名称が出て来ない。何ていうんだっけ、これ。
多分、ブラッドに教えて貰った日本の暖房器具だったと思うんだが――。
そう考えていたところで、キッチンの方にいたブラッドがオレのところまで来た。
「ああ、来たのか。ちょうど昼飯にポトフを作っていたところだが、お前も食っていくか?」
「お、食う食う。今日寒いから外出るの億劫だし、昼飯どうしようかと思ってたんだよな。こんな日だとタワー内にある店は絶対混むしさ。で、これ何だっけ? 前に教えて貰った気がするけど、名前出て来ねぇんだよな」
「『こたつ』だ。日本の暖房器具の」
「あ、それだ。お前が48手やってみたいとか言ったときに、日本人の小柄な体格ならともかく、オレたちの体格だと使っても試すのはキツそうだってなったやつな」
日本の性技書?に、48手っていうやつがあって、その中にこのこたつってのを使うのがあったんだよな。
こうして実際に見てみると、オレたちじゃ難しそうだってのは間違ってなかったなと思う。テーブルの脚の低さを考えると、オレたち二人分の足を入れて、かつ動くとなるとスペースに余裕がなさ過ぎる。
「……他に言うことはないのか。昼から出す話題でもないだろう」
「思い出しちまったんだから仕方ねぇだろ。他のヤツラもいねぇんだからそんくらい見逃してくれって。結局買ったのかよ」
「単純に暖房器具としてな。もう少しで出来るから、こたつに入って待ってろ。それと今のうちに報告書にミスがないか確認しておけ。寒ければ、そこに置いてあるハンテンを着るといい」
「ハンテン? これも日本のか?」
こたつのテーブルに乗っかっている、ぱっと見ちっちゃな布団っぽく見えるやつは着るものだったらしい。
「ああ。日本の室内での防寒着だ。アキラに教わって取り寄せた物をオスカーにもやったが、以来この部屋にいる時はずっと着ているな」
「あー、オスカー寒がりだもんなぁ。お、こりゃ確かに暖かいわ」
ハンテンってやつに袖を通し、靴を脱いで足をこたつの中につっこむと全身がポカポカと温まってくる。
「うわー、こりゃいいな……ここから出たくなくなりそうだ。お前、この状態で仕事していて嫌になんねぇ?」
テーブルの上には他にもブラッドが使っていただろうノートパソコンやタブレット、数枚の書類が置かれていて、昼飯作るまでは仕事してたんだろうってのは想像ついた。
「適度に温度の調節はしている。あと、俺が休みの日に仕事をしていた原因の一端は貴様にもあるのだが」
「おっと、悪ぃ。報告書にミスがないか確認、な」
下手に小言が続かねぇよう、報告書を取りだして内容をチェックする。大丈夫なはず、だ。多分。
「確認したぜ、大丈夫なはずだ。これ、ここの書類の上に乗っけて大丈夫か?」
「ああ。それでいい。ポトフが出来たから、自分の分は自分で持って……あ、こら」
多分自分用にブラッドが手にしていた、ポトフとパンの入った皿をサイコキネシスでここまで運び、ついでにもう1セット分もサイコキネシスで運んだ。
呆れた顔でブラッドがフォークとスプーンだけ二人分手にしてこっちに来る。
「軽率に能力を使うなと何度言えば」
「他のヤツがいない時くらいいいだろ。ほらほら冷めねぇうちに食おうぜ」
流石に熱々のポトフを食いながらだと暑くなりそうだと、ハンテンを脱いでこれまた能力でソファに置く。
「…………お前がこたつとハンテンを使うようになったら、その能力との合わせ技でろくにこたつから出て来なくなりそうだな」
「いやー、ちょっとこの温かさは魅力的だろ。自宅用に買うのはありかもな」
ウエストの研修チーム部屋でも勿論いいんだが、あえて自宅と口にした意味をブラッドが気付くかどうか。
表情に変化はなかったが、僅かな沈黙の後に発した言葉は心なしか弾んでいるように聞こえた。
「……もし、本当にお前が自宅に置くつもりなら、三分の二は俺が出してもいい」
「半分で十分だっての。じゃ、買うかー。こたつの脚が長めのやつな」
「探してみよう」
これは意味が伝わったな。次、オフが重なるのっていつだっけ。
それまでにこたつを調達出来るといいなと思いながら、熱々のポトフを堪能した。
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#キスブラ #ワンライ